Category Archives: 学生

実感できない

5月30日(火)

上級クラスのNさんは、美術系の大学進学を目指す学生です。第一志望校はA大学で、今度の日曜日に体験授業に参加します。A大学は体験授業参加型の入試がありますから、このまま順調にいけば合格の可能性は高いです。また、中間テストではどの科目もクラス平均以上の成績を挙げました。授業中はおとなしいですが、どんな課題にも真剣に取り組む様子がうかがわれます。

そんなNさんの面接をしました。授業後、毎日、図書室で6時まで予復習をすると言いますから、学業に対する姿勢には問題ありません。EJUが終わったらアルバイトを始めると言っていますが、Nさんならアルバイトにのめりこんで勉強がおろそかになることはないでしょう。

私が聞きたい話はだいたい聞き出せたので、最後に「ほかに何か質問はありますか」と聞きました。すると、「最近、自分の日本語力が伸びているか心配になります」と言い出しました。確かに、Nさんは地味なタイプの学生ですが、授業中の発言はいつも的確です。私が受け持っている中級クラスの一番優秀な学生と比べても、はっきり力の差を感じます。だからこそ、A大学の合格可能性が高いと言えるのです。

でも、実力の伸びが実感できないという気持ちも理解できます。レベル1や2の頃は、授業前にはできなかったことが、授業後にはできるようになっているということの繰り返しです。それゆえ、力が付いたことは学生自身にもよくわかるはずです。これが中級以上になると、そういう劇的な違いを感じる機会が非常に少なくなります。Nさんもそういう段階に至っているので、不安なのです。

もちろん、Nさんのようにまじめに勉強している学生の力が伸びていないなどということはありません。今学期だって、ディベートの授業を通して話す力をつけています。それを実感させられないのは、私たちの力不足です。励ますだけではなく、話せたとか読めたとか、具体的な形で学生に体感させたいものです。

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備えてますか

5月27日(土)

昨晩は帰り支度を始めたころに地震がありました。職員室にいた教職員全員が「あ、地震」となりましたが、誰の電話にも緊急地震速報が入らず、大した規模ではないということもすぐわかりました。

ネットを見てみると、千葉や茨城では震度5強だったと報じられていました。この地域では、半月ほど前にも同じような規模の地震がありました。群発地震というほどではないのでしょうが、少々気になる動きです。

学校を出ると、街の中は異常なしでしたが、丸ノ内線・銀座線はところどころ徐行運転でした。千葉方面に向かう鉄道は、運転見合わせだったようです。

家の中も、本棚の本が飛び出したなどということもなく、異常なし。いつものようにお風呂に入ったりネットを見たりして寝ました。夜中に余震もなかったのでしょう。今朝も、いつもの時間に目を覚ましました。

学生はどうだったんでしょうね。土曜日は学生が来ませんから直接話は聞けませんでしたが、「困った」という電話もかかってきませんでしたから、おそらく何事もなかったのだと思います。

でも、1階であれだけ揺れを感じたのですから、教室はもっと揺れたのではないでしょうか。授業中だったら、学生たちは大騒ぎだったに違いありません。

「地震雷火事親父」と言われます。地震は人がよって立つ地面そのものが揺らぐのだから、怖いものの第1位なのだと何かで読んだことがあります。確かにそうですね。地震は突然襲ってきて逃げようがありません。

とすると、地震慣れした東京の人間よりも、地震のたびにビクついている学生たちの方が、人間として、生物として、まっとうなのかもしれません。私なんかはいつも大笑いしていますが。

でも、怖がるくせに備えはしないんですよね、学生たちは。来週は、授業でそんなあたりをつついてみましょうか。これから長い日本での留学生活では、地震と共存ですからね。

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宿題を見ると

5月26日(金)

今学期は中級クラスの読解を担当しています。授業では教科書の文を追いかけるだけではなく、そこに書かれていることについて考えてもらったり、教科書の周辺事項まで話を広げたりしています。学生たちも、自分の思いをうまく表現できないもどかしさを感じつつも、そういったことを楽しんでいるようでした。

ところが、中間テストの出来は芳しいものではありませんでした。私のクラスだけでなく、他のクラスでも似たようなものでした。そこで、学期の後半は、読解の1つの課が終わるごとに、宿題として数問の確認問題をしてもらうことにしました。家で教科書やノートを見ながらなら十分解けるはずの問題です。

その宿題を回収し、チェックしたのですが、残念な結果に終わりました。まず、問題をよく読んでいない学生がおおぜいいました。意味を聞いているのに理由を答えてしまったとか、答え方を指定してあるのにそれに従わなかったなど、解いた後で書いた答えを読み返していないと思われるパターンです。中間テストでも目立ちました。

それから、教科書の文を長々と抜き出した答えも多かったです。それを要領よくまとめてもらいたかったのに、何かを省くと減点されると思ったのでしょうか。「要点をまとめられるかどうかが、中級の力があるかどうかの分かれ目だよ」と言っているんですがねえ。これも中間テストそのものでした。

来週の読解は、こういう点を踏まえて、学生たちをしっかり追い込みます。きちんとはっきり正確に答えられるようになることを第一に、授業を組み立てます。

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5月24日(水)

中間テストの結果をもとに中国出身のSさんの面接をしていたら、「先生、“的”の使い方がわかりません。教えてくださいませんか」と聞かれました。

中国語と日本語では、“的”の使い方に違いがあります。「美国“的”大統領」は「アメリカ“の”大統領」であって、現在はバイデンさんです名詞が名詞を修飾するときの“の”です。ところが、日本語で「アメリカ“的”大統領」といったら、バイデンさんは指さないでしょう。「アメリカの大統領と同じような権力を持った大統領」「アメリカ人のような発想をする、アメリカではない国の大統領」といったところではないでしょうか。

日本語での“的”は、「積極的」とか「具体的」とかというように、な形容詞を作る際に使うのが典型例ではないでしょうか。「実力“的”に十分合格可能」などというと、「実力の面から考えると」と、普通のな形容詞とは違った意味を担っています。

詳しく見ていくと“的”の意味はまだまだ出てくるでしょう。あんまりあれこれ教えるとSさんの頭がオーバーフローしてしまいかねませんから、このほかに日本語は形容詞に“的”をくっつけないという違いを取り上げただけにしました。「白“的”紙」ではなく、「白い紙」です。

はっきりいって、中級になってからこんな質問をするなんて、遅いです。こういう疑問は初級のうちに解決しておいてほしいです。とはいえ、聞くは一時の恥で、面接の場ですから他の学生もいないこともあり、長年の(?)疑問をすっきりさせようとしたSさんの姿勢はほめてあげたいです。今学期の進級は無理かなと思っていましたが、少し目が出てきた感じもしてきました。

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自宅勉強時間

5月23日(火)

火曜日のクラスは、今週もディベートに挑戦しました。「予習と復習ではどちらが大事か」という、先週に引き続きしょうもないテーマですが、主張や反論はいくらでも思い浮かべられるでしょうから、ディベートのネタとしました。作戦立案中の学生たちを見ると、予習が大事にしても復習が大事にしても、予想通りいろいろな意見を出し合っていました。

さて、本番になると、その主張を訴えてはいるのですが、どうも迫力がありません。チームで考えた通りに主張を読み上げるチームもあり、相手の目を見て話すという基本ができていませんでした。逆に、相手の目を見て主張を述べたチームは、審査員の受けが良かったですね。

相手チームの話を聞くことに関しては、先週よりもメモを取っている学生が多かったですが、それでも相手の主張に応じてとなると、できる学生は限られていました。相手の主張もすぐに想像がつくテーマを選んだつもりなんですがね。私から見ると不満な点は多々ありましたが、主張や反論はどうにかこうにか形になっていました。

授業後、学生面接をしました。Cさんは自宅学習が毎日1時間と言います。さらに話を聞くと、日本語の動画を視聴した時間も含めての1時間でした。さっきのディベートでは、予習の重要性をあんなに語っていたのに…。今年はN1を取ると言っていましたが、そのための勉強はしているのでしょうか。

Aさんも事情は似たようなものです。美術系大学院進学希望ですから、今は作品制作に忙しいです。毎日4時間ぐらいそれに時間をかけています。でも、勉強時間ゼロはひどすぎますよ。Aさんの熱弁した復習の大切さが今一つ心に響かなかったのは、こんな事情があったからなんですね。

2人とも、中間テストはどの科目も合格点前後でした。予習復習、せめてどちらか1つはしっかりやっておかないと、日本語力が伸びませんよ。

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新しい道

5月22日(月)

Qさんは、あることを除いて、クラスでは目立たない学生です。その“あること”とは、遅刻です。今朝も、出席を取り、漢字テストの問題用紙を配り終わってふと振り返ると、教室のドアに一番近い席にQさんがいるではありませんか。すぐに問題用紙を渡し、ロスタイム1分ぐらいでテストを受けさせました。

そのQさんとの面接が、授業後にありました。遅刻が多い理由を聞いてみると、後遺症でした。去年8月に感染したQさんは、規定の日数で熱も下がり、PCR検査が陰性にもなり、登校を再開しました。しかし、どうも体調がしっくりきませんでした。Qさんの話をまとめると、寝ようとしても寝付けない日が続いているようです。ゲームなどをしながら夜更かしをしたため朝起きられないという、遅刻者のお決まりのパターンとは違うようです。

また、集中力も落ちて、勉強も長時間続けられません。20分頭を使ったら10分休むという感じでしか勉強できません。勉強の効率が著しく落ちています。予習の宿題だって、ほとんどしてきません。そのため、成績もパッとしません。だから、授業中も目立たない学生に甘んじているのです。大学院進学を考えていましたが、こんな体調では研究計画書の執筆など、受検準備すらできないだろうということで、あきらめました。

目標を専門学校進学としたQさんは、積極的にオープンキャンパスに参加しています。めぼしいところの資料も取り寄せて、着実に準備を進めています。進学の話から逃げているとしか思えない学生が大勢いる中、立派な心掛けです。「今から準備を始めれば、秋ぐらいには合格しているよ」と励ましてあげたら、少し笑顔を見せてくれました。

後遺症に悩まされ、進路変更も余儀なくされた実例を見せつけられて愕然とした反面、それにもめげずに自分で自分の道を切り開こうとしているQさんのけなげな姿に、心を動かされました。

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あと1か月

5月18日(木)

昨日から急に暑くなりましたね。中間テストの翌日、16日から、スーツ・ネクタイなしのクールビズにしています。これぐらい暑いと、その甲斐があったというものです。お昼前に外に出たら、やっぱり気温の高さを感じました。でも、肌にまとわりつくような、ねっとりした暑さではありませんでした。湿度は30%前後だったようですから、さわやかな暑さだったと言っていいでしょう。

5月の暑さは日中だけですから救われます。昨日も日が沈むのと同時くらいに気温は25度を割り、今朝の最低気温は18.7度でした。7月や8月は、夜になっても暑いです。最低気温が28.7度なんていう日もざらにあります。そうなると朝から体力消耗で、ぐったりしている学生が目立ってきます。

物理の授業の直前に質問に来たPさんも、軽装でマスクもしていませんでした。おとといの化学の時間は、2月ごろにも着ていたフリースみたいなのを羽織っていました。それと比べるとえらい違いです。おとといは、朝はひんやりしていましたからね。

その物理ですが、Pさんを含めて、みんな宿題をしてきませんでした。「来週の授業は問題の解説をするから、必ずうちで問題をやってこい」と繰り返し言ったつもりでしたが、通じていませんでした。やっていない問題の解説をしてもしょうがないので、時間を与えて問題を解かせました。おかげで、ごく限られた問題しか解説ができませんでした。学生たちは、これでは時間の無駄だと感じてくれたでしょう。そう信じて、来週分の問題を宿題として渡しました。

EJUまで、ちょうど1か月です。

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津波でサーフィンはできません

5月17日(水)

中級で使っている読解の教科書に、津波てんでんこの話が載っていました。津波てんでんこは東日本大震災の後で広く知られるようになりました。日本人にとっては常識に近くなってきましたが、留学生にとっては必ずしもそうではありません。ですから、読解の時間にこういう話題を取り上げる意義もあります。

しかし、その教科書のその課に載っている挿絵がいけません。サーフィンができそうな波から逃げる親子と見られる人たちが描かれています。津波は、台風の波や、北西の季節風が吹きすさぶ日本海沿岸に押し寄せる高波とは違います。それらに比べて波長がはるかに長い、海面が盛り上がるような波です。確かに、そういう波は絵にしにくいです。でも、だからと言って、サーファーが涙を流して喜びそうな波を、さも津波であるかのように見せてはいけません。

学生たちが教科書の挿絵を津波だと誤解をしないように、東日本大震災の津波の動画を見せました。車も家も大木も港に停泊していた船さえも流されていく動画に、普段の読解の授業には興味も示さない学生まで真剣に見入っていました。SさんやLさんなどは顔を引きつらせながら、でも目はそらしませんでした。

この動画は、見せた後に特別な活動をしたわけでもなく、読解の授業の本筋からは脱線しています。しかし、理系人間、地学マニアとしては、挿絵のいい加減さを見逃すわけにはいきません。せっかく地震大国に留学しているのですから、地震に関する正しい知識を身に付けてもらいたいです。

この授業、学生の頭にどれだけ残ったでしょうか。

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ディベート第一歩

5月16日(火)

私のクラスでディベートに挑戦しました。上級の入口のクラスですから、本格的なディベートにはならないだろうと思っていましたが、私の想像よりはよくできました。敢闘賞はあげていいと思います。

自分の意見の主張は、まあまあできていました。チームで相談して内容をまとめますから、当然と言えば当然でしょう。テーマも、「中間・期末テストを廃止することに賛成/反対」という、昨日受けたばかりの中間テストがかかわっていましたから、自分事としてとらえられたのではないかと思います。でも、チームで話し合って決めた主張をそのままぼそっと言っただけというのは、いただけませんでした。

相手チームの主張に対する質問・反論は、各チームのエース級が登場してきましたから、結構厳しい意見も出てきました。ただし、エース級の学生だからこそできたという面は見逃せません。自分の担当ではないと思っていた学生の中には、ボーッとして相手の主張を聞いていたやつもいました。また、その反論に対する反論、質問への解答が貧弱だった点が残念でした。

要するに、相手の話をよく聞いたうえで、それに対応して自分が何か発言するというところがまだまだなのです。話すことはできても、相手の意見をしっかりと受け止める聞き方ができていません。これが、このクラスの学生の課題だということが非常に明瞭になりました。確かに、上級だからこのくらいの日本語は通じるだろうと思って話しても、うなずく割にはさっぱりわかっていないということがよくあります。

来週も、また挑戦してみます。どうやったら、「聴く」ことができるようになるか、私にとっても大きな課題です。

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久しぶりのご対面

5月15日(月)

中間テストの試験監督のクラスには、先学期受け持っていた学生が何名かいました。1つ下のレベルから、順調にというか年功序列式にというか、まあ、とりあえず進級した(させた)学生と、もう1つ下のレベルから飛び級的に進級した学生が在籍しています。正直に言うと、飛び級組の学生の方がよくできます。先学期のクラスでの様子で言うと、勉強に対する意欲が違いました。

さて、テストが始まると、やっぱり飛び級組のほうがスラスラと問題を解きます。とりあえず組は、頭を抱えて動かなくなってしまったり、さっさとあきらめて提出したりと、採点するまでもなく、担任のK先生の頭痛の種となることは明らかです。飛び級組は、スラスラ解くばかりではなく、じっくり考えるべきところは時間をたっぷりかけて、結局試験時間いっぱいまで粘っていました。これも意欲の違いでしょう。

このクラス、自分が送り込んだのが“???”な学生たちでしたから、果たしてクラスが成り立っているか心配でした。でも、試験監督としてクラスに入ってみると、飛び級組のほかに奨学金面接で好印象だった学生や、新入生のオリエンテーションで光っていた学生や、よくできると噂の学生もちらほらいて、教え甲斐のありそうなクラスだなと感じました。となると、“???”な学生たちはどうなのでしょう。

担当しているK先生やA先生に聞くと、案の定、クラスのお荷物になっているようです。この学生たちは、進学するつもりはあるのですが、それが学習意欲に結びついていません。適当に勉強していればどうにかなるだろうという考えがあるようです。そんな考えじゃ進学できないと先学期さんざん言って聞かせたのですが、新年度になったら時間に余裕ができたと思っちゃったのでしょうかね。1月期にまた受け持つのは、いやですよ。

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