Category Archives: 学生

柴又ワンデーワンダーランド

10月27日(金)

目的地の柴又は、私の家からは比較的近く、隅田川沿いをしばらく歩いて京成関屋駅に出てしまえば、電車の乗車時間より京成高砂駅での待ち時間の方が長かったくらいです。

柴又は狭い街ですから、KCPの学生が勢ぞろいして歩き回ったらどこもかしこも大混雑になりかねません。そんなわけで、私が引率したクラスは、まず、江戸川沿いにある柴又公園へと向かいました。公園には何もなく、草地が広がっているだけですから、どうやって過ごそうかと頭を悩ませていました。ところが、公園に待機していたO先生が縄跳び用の縄を見せるや、学生たちはそれに飛びつきました。

大縄跳びが特に好評で、「4人で30回跳べたら草団子をおごる」と言うと、腕(足?)に覚えのある学生が次々と挑戦しました。私はもっぱら縄を回す方でしたが、学生が跳びやすいように回すとなると、腕を大きく回さなければならなくて、思いがけずいい運動をすることになりました。そろそろ出発時間かなという頃に、32回まで記録を伸ばしましたから、あとで跳んだ学生とそれまでに何回も挑戦していた学生に草団子をご馳走しました。

次は柴又のメイン、帝釈天です。ここではおみくじが大人気でした。「あそこにおみくじがありますよ」と案内しただけで多くの学生がおみくじを引き、でもおみくじに書かれていることがわからず、私はおみくじの解説係になりました。帝釈天のおみくじには「凶」がわりと多く含まれているようで、そちらのフォローもしました。

学生たちには柴又の取材という課題が出されていましたから、帝釈天の拝観が終わったところで、学生たちを参道に解き放ちました。どんな取材をしたかは月曜日のお楽しみですが、みんな集合時間ぎりぎりまで参道のにぎわいを楽しんだようです。

出席を取って解散し、チーム縄跳びと一緒に草団子をいただきました。程よい草の香りがおいしさを引き立てていました。その後、午後のクラスの誘導も兼ねて、私も参道をうろつきました。解散してからだいぶ時間が経っても柴又を楽しんでいる学生が少なくありませんでした。そして、概して、そういう学生は成績のいい学生でした。遊ぶときは徹底して遊ぶという具合に、時間の使い方にメリハリをつけているのでしょう。そういう意味で、明らかにうその理由でずる休みを決め込んだ私のクラスのWさん、あなたの今後は暗いですよ。

学生の話によると、柴又は学生の母国ではあまり紹介されていないようです。穴場を訪れたといった感じだったのでしょうか。寅さん抜きでも結構楽しめたことは確かです。次の課外授業はどこにしましょうかね。

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これも作文?

10月26日(木)

遅ればせながら、今週の月曜日に書いてもらった上級クラスの作文を読みました。先週の金曜に課題を与え、週末に何についてどんな構成で書くか考えておくようにと宿題を出しておきました。しかし、作文を見る限り、その宿題に全く手を付けてこなかったと思われる原稿用紙が何枚か紛れていました。

文章そのものが稚拙ならば、まだ救いようがあります。鍛えれば伸びる可能性があります。添削のし甲斐もあるというものです。しかし、明らかにどこかの文章を丸写しというのは、あーあと嘆くほかありません。その学生が考え出したとは思えない論理展開なのですが、ところどころにいかにもといった感じの間違いがあります。一生懸命写したのでしょうが、内容を理解していませんから誤字脱字初歩的な文法ミスが浮かび上がってきます。

さらに困ったことに、そういった学生の多くがこれから入試などで作文・小論文などを書くことになっているのです。彼らの頭には想像力・創造力というものがないのでしょうか。また、文章を書いた(写した)後で読み返すという基本的な習慣も持ち合わせていないに違いありません。もっとも、すぐスマホに頼る学生たちですから、こういう心の働きなど思い浮かびもしないのです。

クラスのみんながこういう作文だったら、課題設定が悪いとか授業の進め方が学生のやる気を誘うものになっていないとか、こちらの反省材料もあります。しかし、すばらしい作文を書いた学生も、しょうもない作文を書いた学生と同じくらいいましたから、やっぱり丸写し組は何かが欠けているのです。

来週の月曜日、どうやって返却しましょうかねえ。

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不親切な大学

10月25日(水)

授業後、JさんがO大学への出願に関して相談に来ました。自分はプリンターがないので、学校で留学生入試の志願票、志願理由書をプリントアウトしたいと言います。私のパソコンからプリントアウトしようと思ってO大学のサイトに入りましたが、志願票も志願理由書も見つかりません。それどころか、留学生入試の要項すら見つかりません。別のサイトによるとO大学の出願締め切りはあさっての消印有効です。今すぐ用紙を取り出して必要書類を作成すれば、どうにか間に合います。しかし、プリントアウトの元になるものがないのですから、どうしようもありません。

それらしき様式が見当たらないとJさんに伝えると、JさんはO大学に電話を掛けました。隣でやり取りを聞いていると、Jさんは自分の住所や電話番号を伝えていました。電話を切ったJさんに聞くと、留学生入試の要項は電話申し込みで、これからJさんあてに郵送するとのことでした。となると、27日の消印有効に間に合わせることは絶対無理です。O大学には年明けに第2期入試がありますから、そちらに使うことになるでしょう。

それにしても不親切な大学です。ネットで見られる要項には「在留カードの更新」というページがありますから、留学生を受け入れていることは確かです。しかし、その留学生入試の出願や試験日程などが全く書かれていないのです。私が見た限り、電話で連絡せよとも書かれていませんでした。

「そんな留学生に冷たい大学になんか行くな」と言ってやりたいところですが、JさんはO大学のカリキュラムに魅力を感じていますから、どうしても行きたいのです。とはいえ、とても心配になってきました。出願する前に実地検分をしてくることを勧めようと思っています。

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症状悪化

10月24日(火)

ある時、授業の初めに口慣らしとして行う3分会話で、「命の次に大事な物」というテーマを取り上げました。2人1組で3分話して、その内容をかいつまんで発表してもらいました。そこでCさんは「スマホ」と答えました。自分はスマホがなければ生きていけないスマホ中毒だとまで言い切りました。Fさんもそれにうなずき、「私もスマホ中毒です」と名乗りを挙げました。もしかすると…と思い、「2人のほかに、自分はスマホ中毒だと思う人」と聞くと、さらに2、3人が手を挙げました。その後、スマホ中毒自慢大会みたいになり、中にはスマホを握ったまま寝るという剛の者までいました。

数年経った現在、スマホ依存症は勢いを増しているようです。Yさん、Pさん、Bさん、Eさん、Jさんあたりは、上述のCさん並みかそれ以上でしょう。スマホなしで何かを考えることができないのではないかと思えるほどです。依存どころか、脳みその一部になっています。おそらくスマホを握ったまま寝ていることでしょう。

本人はスマホを使いこなしているつもりなのかもしれませんが、はたで見ているとスマホに浸りきっている、振り回されているように思えてなりません。わからないことがあるとスマホで調べるばかりですから、人に聞くということもなく、だからコミュニケーション力も伸びません。しかも、周りの状況を顧みずスマホを使いますから、まじめに授業を受けようとしている学生は鼻白んでしまいます。もちろん、教師が注意したくらいではやめません。Yさんに至っては、あまりにひどい授業態度なのでT先生がスマホを取り上げようとしたところ、無言で奪い返したそうです。その瞬間の教室に漂った気まずい雰囲気、想像するだけで寒気を催します。

今週の木曜は課外授業ですが、1日中スマホを見ながら街を歩くんじゃないでしょうね。

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悲しい再会

10月23日(月)

代講で中級クラスに入りました。教室に入ると、SさんとHさんがいました。この2名は、4月期にこのレベルで教えた学生です。つまり、半年間同じレベルで足踏みしているのです。いや、12月まで同じレベルですから、9か月間同じ勉強を続けることになっています。

授業に入ると、Sさんは平気で国の言葉で周りの学生に話しかけるし、Hさんは指名されるとどこをやっているかわからずに隣の学生に聞くし、という半年前と同じ状況が再現されました。これでは進級できないのも当然です。勉強しようという気持ちが感じられませんでした。

半年前に同じクラスだったYさんは、飛び級をして今学期は最上級レベルです。Lさんはその次のレベルです。多くの学生が上級の上位ないしは超級のクラスに在籍しています。みんな、大きく力を伸ばしました。進学しても、日本語の面では十分やっていけるでしょう。しかし、SさんとHさんは、進歩が見られません。2人がどういう進路を思い描いているかわかりませんが、今の日本語力では、進学にしろ就職にしろ、先行きは暗いでしょう。

その一方で、Kさん、Sさん、Aさん、Tさんなどは、どんどん質問してきました。中には的外れな質問もありましたが、その前向きな姿勢は評価できます。クラスのみんながその質問に対する私の回答に耳を傾けていましたが、Sさんは片手を机の中に突っ込んでいましたから、スマホで何かしていたに違いありません。Hさんは聞いているのかいないのかわからないような顔をしていました。

こういう学生でも、年度末には世話を焼いて、どこかに進学させなければならないんですよね…。

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浮かれる

10月20日(金)

後半は選択授業でした。上級クラスの学生を希望に応じて分けてクラスを作り、その1つを受け持ちました。そのクラスにはJさんがいるはずでしたが、欠席でした。担任のM先生によると、昨日も欠席だったそうです

JさんはすでにE大学に受かっています。4月ごろはとんでもなくレベルの高い大学を志望校に挙げていましたが、M先生などがなだめすかして受けさせたE大学がえらく気に入ってしまい、もうこれ以上受験はせず、E大学に進むと決めています。それ自体は問題ありませんが、かなり浮かれている点が大問題です。

欠席理由を確認すると、午前中はE大学近くの物件の内見だったとのことです。内見なら午後にもできるし、不動産屋なら土日も営業しています。そもそも、4月に入学するE大学に通うための部屋を、半年も前から押さえますかねえ。KCPまで30分ほどのところに住んでいてもよく遅刻する学生が、E大学の近くというと小1時間かかるところに移ったら、毎日遅刻じゃありませんか。

だいぶ昔ですが、早々に八王子の大学に受かって、すぐに八王子に引っ越しした学生がいました。こちらが危惧した通り、9時に教室にいるのが週に1日ほどになってしまいました。ビザはもらえたみたいですが、KCPの卒業証書はもらえませんでした。Jさんもその道をまっしぐらに突き進むのでしょうか。

志望校に受かっても浮かれることなく日本語の上達習得に努める学生もいます。Jさんは確かに上級の学生ですが、まだまだ日本語を勉強してもらわないと、E大学で“学問成就”とはなりません。来週月曜日は、通常授業でJさんのクラスに入ります。その時たっぷり説教しておきましょう。

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切れる前に

10月19日(木)

中級クラスの代講をしました。授業内容そのものは、教科書や教材がそろっていましたから、決められたところまで進めさえすればいいだけでした。しかし、担任のO先生からは、「学生の集中力がちょっと…」と懸念材料を示されていました。テンポよく、目先を変えて、学生を波に乗せる必要があるようでした。

前半はうまくいきましたが、授業開始後1時間足らずで、さっきまで元気いっぱいだったSさんが机に伏せてしまいました。Dさんも元気がなくなってきました。逆に、最初は線がつながっているのか切れているのかわからない雰囲気だったEさんが発言するようになりました。授業の最後の方は聴解問題だったので、QさんやWさんは飽きてしまったようでした。

O先生たちこのクラスの先生方のご苦労がよくわかりました。集中力の切れ方が予測不能で、雑談で息抜きをして集中力を復活させるべきか、集中しているうちに進むだけ進んでおくべきか、そのあたりの学生との駆け引きが難しかったです。何回もクラスに入れば勘所もつかめるのでしょうが、そもそもこの集中力のなさ加減では、これから先が思いやられます。

まず、EJUやJLPTでしかるべき成績を挙げるのが難しいでしょう。それゆえ、学生たちが思い描いている進学ができるかどうかも疑問です。出願書類を作成するときだって、細心の注意を払い続けなければなりません。私の観察では、それすら危ういですね。面接はどうなのかなあ。集中力が途切れた瞬間にあらぬことを口走ったりはしないかと、心配になってきました。

文法や聴解よりも、集中力をつける訓練をしたくなってきました。

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指名されても

10月18日(水)

「Pさん、次のところを読んでください」「…」。「Hさん、次のところを読んでください」「…」。「Aさん、次のところを読んでください」「…」。

この3人は授業に集中していない様子がうかがえましたから突然指名したところ、案の定でした。慌てて隣の学生にどこから読めばいいか教えてもらったり、適当に見当をつけて読み始めたり、ささやかな抵抗を試みましたが、クラス中に恥をさらすことになりました。

PさんもHさんもAさんも、受験を控えていますから、読解の教科書など読んでいるどころではないと思っているのでしょう。授業そっちのけで何をしていたか知りませんが、Aさんは今までもよくスマホでどこかのサイトを見ていることが多かったですから、大方そんなところでしょう。下を向いていましたしね。Hさんは昨日面接練習でボコボコにされていましたから、その立て直しでもしていたのでしょう。でも、それは授業中にするべきことではありません。そんな余裕のない学生は、だいたい落ちるものなんですがね。

読解力なくして日本の高等教育機関で勉強を続けることなどできません。こちらもそのつもりで上級のカリキュラムを組み立て、進学してから日本語で困ることのないようにしようと思っています。読解力がないまま進学したら、結局困るのはその学生自身です。しかし、Pさんたちには目の前の愉楽や試験などしか映らないのでしょう。1年先の自分自身の像すら思い描けないのです。

上級クラスでは常々「進学してから必要な日本語力」を意識させようとしています。でも、この3人を見る限り、私もまだまだ力不足です。

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上手なコミュニケーション拒否法

10月17日(火)

町を歩いていると、至る所から「大丈夫」が聞こえます。「大丈夫ですか」「大丈夫です」のように、ちょっとしたやり取りの中に大丈夫が満ち満ちています。日本人も実に頻繁に使っています。学生も、初級から上級まで、どこのクラスからも「大丈夫」が聞こえてきます。

先週、朝日新聞に留学生の投書が載りました。コンビニなどで何か聞かれた時、聞かれた内容がわからなくても「大丈夫です」と答えておけば切り抜けられるけれども、いつか「大丈夫です」ではない答えができるようになりたいと書かれていました。この投書をネタに、どんな時に「大丈夫」を使っているか、「大丈夫」に誤解したりされたりしたことはないか、日本語会話を上達させるためにどんなことをしているか、といったことを作文にしてもらいました。

その中で、2人の学生が、誤解の例として「レジ袋は5円ですが、大丈夫ですか」を挙げていました。学生は、この「大丈夫ですか」を「レジ袋は要りますか」という意味にとり、不要だという意味で「大丈夫です」と答えたら、コンビニの店員にレジ袋を追加されたという経験です。店員は「5円払ってもレジ袋が欲しいですか」という意味で「大丈夫ですか」と言ったのだと、学生は分析していました。この分析は、正しいです。

私もコンビニなどでこう聞かれることがありますが、「大丈夫です」とは絶対に答えません。首を振ります。こうすると、レジ袋をもらわされることは絶対にありません。店員がどちらの意味で「大丈夫ですか」と言っても、首を横に振れば「レジ袋は不要だ」という意思が伝わります。「大丈夫です」という言葉よりも正確なコミュニケーションができるのです。

投書をよく読むと、この留学生は「大丈夫です」と答えることによって、それ以上のコミュニケーションを拒絶したかったのではないかとも思えました。「大丈夫です」と言われてしまえば、店員はそれ以上何か声をかけることはないでしょう。ですから、「大丈夫です」は「日本語がわからないから声をかけてくれるな」というサインにもなり得るのです。

もし、KCPの学生たちも同じ意味で「大丈夫です」を連発しているとしたら、いつまでたっても日本語は上達しません。「大丈夫です」からの脱却こそが、日本語上達の第一歩なのです。

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テクニシャン

10月14日(土)

今学期の日本語プラス初授業は、EJU(日本語)でした。本番が1か月足らずに迫っていますから、過去問をやりました。と言っても、私自身が養成講座の授業やら新学期開始に伴う諸々の雑用やらで、ろくな準備ができませんでした。かろうじて、今朝、聴読解と聴解の問題を聞いて解いて、学生に説明するポイントをまとめたという状態でした。読解には手が回りませんでした。しかし、授業では読解の問題もしなければなりません。そこで、思いっきり受験のテクニックを使ってみることにしました。

今までは問題文を1行目から読み、問題にガチンコでぶつかり、がっぷり四つに組み、正攻法で寄り切ったり上手投げで仕留めたりしてきました。しかし、今回は、立ち合い一瞬のけたぐりとか、八艘飛びで後ろに回ったり、潜って足取りに行ったりとか、けれん味たっぷりの技を繰り出しました。受験のテクニックを使うことにどことなく後ろめたさを感じていましたが、そんなのはすべて忘れて、思う存分駆使しました。

学生に問題を解かせている最中に、私はそういった手練手管を使って答えを出しました。すると、テクニックが通用せずまともに読む羽目に陥ったのはわずかに1問で、15分で25問を解いてしまいました。所定の試験時間は40分ですから、半分以下しか使わなかったのです。問題文は1/3も読んでいないでしょう。結果は、自信がない答えもありましたが、全問正解でした。解説の時間に、学生に私の解き方を教えると、驚きとか感心とかを通り過ぎて、笑っていました。

授業としてはこれでよかったかもしれませんが、受験のテクニックでいともたやすく解けてしまう問題を連ねているEJUは、本当にこれで物の役に立っているのでしょうか。この試験だけで選抜された留学生に日本人学生に伍して大学で学問や研究を進めていく力が備わっているとは思えません。だから、大学独自試験で小論文が課されたり、面接が重視されたりしているのだと、妙に納得できました。

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