Category Archives: 学生

怪しい学生

11月14日(火)

朝6時半、「金原先生、おはようございます」と、ロビーから呼びかけられました。真っ暗な中から顔を出したのはEさんでした。「勉強したいです」「2階のラウンジ、開いてなかった?」「はい、閉まってました」ということなので、鍵を持って一緒に2階へ。ドアに鍵を差し込んで回すと、なんとなく開いてるっぽい感じがしました。逆向きに回すとカチャッといって、レバーを押してもドアはびくともせず、鍵がかかってしまいました。何のことはない、Eさんはドアが閉まっているのを見て、鍵もかかっていると思い込んでしまったのです。

中間テストや期末テストの日には、こういうふうに朝非常に早く出てくる学生がいます。ラウンジで勉強する学生もいますが、中には夜更かししてそのまま登校し、ラウンジでひと眠りという輩もいます。昨日昼まで寝ていて欠席したEさんは、そういう疑いが濃厚です。

試験監督に入った中級クラスは、成績停滞気味の学生が多いと知らされていました。最初の試験科目・作文の原稿用紙を配り、課題を提示すると、学生たちは一斉に書き始めました。ここまではいつもの試験監督と同じですが、このクラスは試験特有の良い意味で張り詰めた空気に欠けています。その原因は、貧乏ゆすりでした。教室のあちこちで膝が揺れています。教室内を見て回ると、小刻みに上下にだったり、左右に大きくだったり、机の下でうごめく生物が目についてなりませんでした。

「貧乏」ゆすりと呼ぶくらいですから、日本人はこれをみっともないものとみなしています。しかし、学生たちの生まれ育った社会では、必ずしもそうでもないようです。面接練習でもよく見かけます。でも、しっかりした学生は、きちんと座っているものです。体を動かさずにはいられないという落ち着きのなさが、このクラスの停滞の一因ではないかと思いました。

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前日の合格発表

11月11日(土)

明日のEJU本番を控え、日本語プラスのEJUの最終授業が行われました。急に冬が襲ってきたような寒さでしたが、来るべき人はちゃんと来て、授業を受けていました。

授業後、AさんとCさんが「来週からJLPTのクラスに出てもいいですか」と許可を求めてきました。拒否する理由などありません。こういう学生は、応援したくなりますね。Cさんはこれからあちこち受験するようですが、Aさんは昨日M大学の合格が決まりました。でも、いや、だからこそ、日本語学校にいるうちに日本語のレベルを高められるだけ高めておきたいのでしょう。進学したら、日本語にじっくり向き合う時間など、なかなか取れるものではありません。

2人と入れ替わりぐらいに、Oさんが教室から下りてきました。Oさんは、先月、K大学の指定校推薦入試を受けました。実は、午前中、その結果が速達で届いたのです。結果通知を受け取り、「合格」の文字を見つけたOさんは、いかにもホッとしたという顔つきになりました。周りの先生方から「おめでとう」と言われ、ようやく笑顔を見せました。

K大学は難関大学の1つですから、指定校推薦入試と言っても、願書を出して「はい、終わり」というわけではありません。H先生にしごかれながら課題の小論文を書いていました。でも、その甲斐があって、Oさんの日本語力は明らかに伸びました。授業中に指名すると、先学期までは「わかりません」とごまかすこともありましたが、今は的を射た気の利いたことを言うようになりました。作文は、もちろん、長足の進歩です。

Aさんも、M大学を受けたことで、考えに筋が通ってきたような気がします。こういうように、入試を通して成長する学生こそ、大学が求める学生なのでしょう。だとすると、頭を抱えたくなるような学生が多くて…。

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朝の数学

11月10日(金)

このところ毎朝Kさんが数学の勉強に来ます。日本語プラスも受けていますが、それに加えて練習問題をしに来るのです。あさってのEJUで好成績を挙げたいのでしょう。Kさんは文科系志望の学生ですから、数学が絶対必要というわけではありません。それでも勉強したいというのですから、立派な心掛けです。

今朝は確率の問題をしました。昨日の朝宿題として出しておいた問題を家でやってきて、その答え合わせです。ある問題は、答えを導き出す筋道に怪しいところがあるものの、最終的には正解にたどり着きましたから、EJUレベルなら点がごっそり稼げます。別の問題は、問題の捉え方を間違えていましたから、再挑戦。こちらも正解を得られたものの、計算の要領があまりに悪かったので、その点を注意しました。

毎日こんな調子です。先週は整数の性質、今週は場合の数と確率を集中的に取り上げています。急激に力が伸びたとは言えませんが、あてずっぽうに近いやり方からは脱却し、論理性のある解き方ができるようになってきました。こういう考え方ができれば、2次関数や三角比などの問題も光明が見えてきます。

数学の勉強を通して身に付けるべきことは、2次方程式の解の公式や平面図形の定理などではありません。何より論理的な考え方です。Kさんは、国の高校で数学ができる生徒ではなかったでしょう。でも、今、数学の根幹を少しずつ身に付けつつあります。たとえEJUの数学で素晴らしい成績が得られなくても、数学的思考法はKさんの財産として残ります。

Kさんは、来週月曜日までの宿題を手に、教室に向かいました。

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おとなしいクラス

11月9日(木)

初級のクラスは、どこのクラスでも、「会話」となると喜んで話し始めます。習った文法や語彙を使っての会話ですから、話せることは限られています。それでも、こんな時はどう話せばいいかと、自分の話したいことを身振り手振りも交えて私に訴えかけ、応用範囲を少しでも広げようと目を輝かせます。

中級あたりになると、ある課題に関しての意見を言い合うようなことが中心になってきます。意見のない学生は黙り込んでしまいますが、他の学生の意見を聞いているうちになにがしか語りたくなり、いつの間にか口を開いているものです。

「うちのクラスの学生はおとなしいですよ」と脅されて代講に入った上級クラス、本当におとなしい学生たちばかりでした。指名されれば何か答えてくれましたが、クラス全体に聞くとなしのつぶてでした。不吉な予感を抑えつつ作文の時間に入りました。課題について話し合わせたうえで作文を書かせてくれという指示を受けていましたから、クラスを数名ずつの数グループに分けて、話し合いを始めました。

私が作文を担当しているクラスなら、各グループが口角泡を飛ばして議論をします。しゃべり疲れて書けなくなるのではと心配したくなるほどです。グループを回っていると、「先生はどう思いますか」「こんな場合、日本人はどうしますか」など、議論に巻き込まれそうになります。

ところがこのクラスは、グループに分かれても静かなままです。近くまで寄ると、やっと話し声が拾えるという程度です。かといって、スマホに夢中になっているわけでもありません。最後に各グループでどんな話が出たか発表してもらいましたが、案の定、ありきたりの内容でした。

そして、作文を書いてもらったのですが、出来はどうだったのでしょう。提出された作文は、そのまま担当のS先生に渡しました。S先生が呻吟なさることのないよう祈るばかりです。

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なんとなく

11月8日(水)

最近出席率が思わしくないKさんに話を聞きました。Kさんは専門学校への進学という目標がありますが、その目標に向けての行動ができません。突き詰めて言うと、なんとなく夜更かしをして、朝起きられなくて、学校を休み、その結果出席率が下がり続けているのです。この“なんとなく”というのが、一番困ります。原因が不明確ですから、原因をつぶして問題を解決するという手が使えません。Kさん自身も「11時には寝るようにする」と言いますが、具体的にどのようにして11時に寝るのかと追及すると、答えが返ってきません。

Cさんも出席率が下がり気味なので話を聞きました。ゲームをして寝るのが遅くなり、朝しかるべき時間に起きられないと言います。ゲームという原因がはっきりしているだけ、Kさんよりましかもしれません。しかし、どのようにしてゲームをせずに寝る習慣をつけるのかとなると、これまた答えが返ってきません。おそらく、受験勉強から一時でも逃れたいからゲームをしているのでしょう。この先入試が続くCさんは、まだまだ受験勉強から逃れられず、それはゲームからも逃れられないことを意味します。事情聴取の際は神妙な顔をしていましたが、もしかすると、今頃もうゲームにのめりこんでいるかもしれません。

日本での留学を続けるなら、ビザ更新が必要です。その際、今のKさんやCさんのような出席率では、新しいビザが出ない恐れがかなり強いです。そういうことを説いて聞かせても、どこまで心に響いているのか、私自身も手ごたえがありません。毎年必ず現れるこういう学生への対処法には、マニュアルはありません。

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作文テストの前に

11月6日(月)

午前中の授業の後半は、来週の火曜日に控えている中間テストの作文の課題について説明しました。先学期から、私のクラスでは、中間・期末テストは、事前に課題を発表し、それについて調べたり学生同士で話し合ったりする時間を設けています。その結果、質の高い作文が増えました。和文和訳が必要な意味不明の文字列や、原稿用紙の1枚目と2枚目で話が食い違っている大作や、突き詰めてみると実にありきたりの結論だったり、「~かもしれない」を連発して批判を避けようとしていたり、そんな読むに堪えない、あるいは解読・読解不能の文章が絶滅しました。

もちろん、誤字や文法ミス、表現の拙さや誤解を招きかねない書き方などは随所に見られます。しかし、たった原稿用紙2枚足らずの文章を理解するのに半日を要するなどということはなくなりました。主張はそれなりに伝わってくるようになりました。

上級とはいえ、いや、上級だからこそ、課題を見て思うことをまとめるのには時間を要するのです。日本語で考えられる幅が広がるからこそ、あれこれ書きたくなり、短い試験時間内には起承転結をつけられないのでしょう。1週間ほどの時間と、クラスメートと話し合うチャンスと、多角的な物の見方につながるヒントを与えれば、少なくともまあまあレベルの文章が書けるのです。

さて、問題は欠席した学生どもです。授業でこういう刺激を受けなければ何もしそうにないやつらです。出席した学生たちが盛り上がっていたグループ討議を経ずに中間テストを受けるとなると、採点する立場として大いに不安を感じずにはいられません。

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ワンツーフィニッシュ

11月2日(木)

みなさんはJPETをご存じでしょうか。Japanese Proficiency Evaluation Testの略で、JLPTほど有名ではありませんが、外国人の日本語能力を測定するテストの1つです。JPETは、合否方式のJLPTとは違って、結果がスコアで表されます。そんなこともあり、KCPではここ数年、自分の日本語能力を知るために、その能力を証明するために、学生にJPETの受験を勧めています。

今年の夏に実施されたJPETで、KCPのCさんとSさんが、全受験生の中で得点の1位と2位になりました。しかも、JPETの実施団体からは、3位に大きな差をつけての抜群の成績だったと聞いています。また、そこからいただいたデータによると、Cさんは上級レベルの問題の正答率がほぼ100%で、Sさんは初級中級の問題がほぼパーフェクトでした。どちらにせよ、誤答が数えるほどしかないすばらしいスコアでした。どういう見方をしても、外国語レベルの国際的な評価で言えば最高ランクのC2になります。

午前中の授業の後、2人の表彰式をしました。実施団体から届いていた賞状と記念品を渡しました。本当は全校学生を集めて行いたいところでしたが、なかなかそういう機会は作れないので、クラスの学生の前でささやかな晴れ舞台を設けました。

CさんとSさんに晴れがましい思いをしてもらいたいことはもちろんですが、それ以上に、そういう優秀な学生と一緒に勉強しているんだということを、クラスの他の学生にも感じてもらいたいです。自分だってCさんやSさんに勝るとも劣らぬ日本語力を持っていると思った学生もいたことでしょう。次は、それを目に見える形に表してほしいところです。さしあたり、12月のJLPTのN1で180点満点を取ることを目指してもらいたいです。

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聞き取れない

11月1日(水)

今学期は、選択授業でビジネス日本語を担当しています。KCPから直接就職しようと考えている学生もいれば、大学院や専門学校に進学するけど、2年後に就職する時に備えて勉強してみようと考えている学生もいます。あるいはもっと先のことだけど、ちょっと興味があるからこの授業を選んだという学生もいます。そんな上級の学生たちを相手に、BJT(ビジネス日本語能力テスト)の練習問題をやっています。

先週までの2回は聴解問題に挑戦しました。わりと調子よく進みました。今週は聴読解に取り組むことにしました。BJTの聴読解はEJUの聴読解と毛色が違い、頭の中に蓄えられているビジネスに関する知識を呼び起こしておくことが必要です。いきなりやらせたら、かなり優秀なRさんから「もう1回」という声があがりました。どこを、何を読み取らなければならないのか、ポイントがつかめないうちに問題が終わってしまったというような顔をしていました。

2回目は、スクリプトには出てこない部分を私が補いながら聞いてもらいました。これまた優秀なSさんからも質問があれこれ出てきましたが、そういうのに答えていくうちに、他の学生たちも理解が進んだようです。

みんな、アルバイトを除いて、日本で仕事をした経験がありませんから、ビジネスの場面が具体的にイメージできなかったのでしょう。それゆえ答えにたどり着けなかったのだとしたら、来週以降はそのあたりを強化する授業をしていかなければなりません。新たな目標ができました。

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再マスク

10月31日(火)

この3年余りの間は風邪らしい風邪をひきませんでした。言うまでもなく、マスクのおかげです。愛用の龍角散も減ることなくタンスの中に納まっていました。ところが、先週の半ばごろからのどの調子がおかしくなり、実は先週の柴又は咳をこらえつつ歩き回っていました。龍角散も出動しました。

昨日あたりからは、鼻水とたんも加わってきました。たんは、龍角散を飲んでいるから出やすくなっているのかもしれません。咳と鼻水とたんでいかにも風邪ですが、熱は全然出ません。家でわきの下で測っても、学校で額で測っても平熱です。だからこうして出勤してきているわけです。

とはいえ、席と鼻水とたんですから、声が思うように出せません。午前中はN先生の代講でしたが、しょっちゅう声が裏返りそうになり、なんだか落ち着きませんでした。学生もおかしくて笑いたいのをこらえてくれていたのかもしれません。さすが、最上級クラス、こういうあたりはよくわきまえています。

それにしても、マスクの威力は大したものだと思います。風邪も感染症のうちですから、ついでに完璧に抑えてくれていたんですね。今年の春、マスクを外すとき、風邪の心配もしたのですが、マスクを外す爽快感に負けて、風邪のことはひとまず忘れることにしました。その結果が、これです。

どこで拾ってきたのかわかりませんが、今はこれを学生にうつさないように気を付けるだけです。どのクラスにも受験生がいますから、当分の間はまたマスクのお世話になります。インフルエンザが流行っていると言いますから、予防のためにしばらく続けた方がいいのかもしれません。

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イトウマイ

10月30日(月)

月曜日は2週連続して代講に入ってもらいましたから、10月最終週にしてやっと初授業です。しかし、水曜日にも教えているクラスですから、学生の顔と名前がわからないということはありません。

先学期に引き続きニュースの小見出しをやると、包囲網、公取委、一等米などという言葉が壊滅状態でした。上級とはいえ、ちょっと聞き慣れない言葉となると、意味の想像もできなくなってしまうようです。公取委は漢字を示してもぽかんとしていました。経済経営系の大学院進学志望の学生には反応してほしかったのですが、そんな学生も含めてみんなスマホで調べ始めるというありさまでした。

一等米がきちんと書けたPさんは、クラスで唯一、その文の聞き取りが完璧でした。他の学生のノートをのぞき込むと、「イトウマイ」とか「いっと毎」とか、思い思いの表現で自分の聴き取った言葉を書いていました。学生にとって「米」の字は、米国、欧米などの「ベイ」ではあっても「マイ」ではないのです。米の話だとわからなければ、その小見出しについては皆目見当が付かないでしょう。

逆にほとんどの学生ができたのが、日本のGDPがドイツに抜かれる見通しだという小見出しです。こちらは、円安とか下回るとか聞き覚えのある言葉ばかりですから、それを組み合わせればそれっぽい文ができます。つまり、ニュースを聞き取るには理解語彙を増やさなければならないという、聴解の基礎法則が実地に確認できたということです。

こういう積み重ねをするつもりで始めたニュースの小見出しですから、今後も地味に地道にやっていきます。

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