Category Archives: 学生

期待していいのかな

12月6日(金)

昨日のこの稿に登場した初欠席のJさんは、朝からちゃんと出席しました。それどころか、授業後、担当のS先生に昨日の授業内容を全部聞いて帰ったそうです。期末タスクの準備も、グループの中心になって進めていたと言います。この調子なら、大崩れすることなく卒業式まで行くでしょう。

さて、その期末タスクですが、社会問題について調べて、グループで発表するというものです。そのグループは教師が決めます。成績≒日本語力、リーダーシップの有無、国籍、人間関係、テーマに関する知識量、まじめに毎日出席するかなどといった事柄を勘案し、学生を割り振ります。

このように書くと、教師は何でも知っていて、最適なグループを瞬時に作っているようにも見えますが、実は違います。あれこれ考えて、シミュレーションを重ねて、自信など全くないのに、このグループ分けなら絶対うまくいくよという顔をしながら発表するのです。

今回は成績があまりよくない学生を集めたグループがありました。グループ内の力の差がありすぎると、できる学生がこの課題を通して伸びていかないおそれがあるのです。それを避けるために、勝負に出たといったところです。社会問題について日本語で話し合えるだろうかと一抹の不安を抱いていましたが、全くの杞憂でした。むしろ、このグループが一番楽しそうにやっているように見受けられました。

もちろん、発表を見なければ最終判断はできませんが、果敢にかつ笑いを絶やさずテーマに取り組んでいる姿には、大いに期待が持てました。この発表がうまくいけば、このグループの面々も、自分の日本語に自信が持てるようになるのではないかと、秘かな期待を抱いています。

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初欠席

12月5日(木)

毎朝、メールの受信トレイをあけると、前日帰り際にチェックしたにもかかわらず、夜中のうちにまとまった量のメールが届いています。多くがニュースメールであり、そのほとんどはそのままゴミ箱行きとなります。全部を開封して丁寧に目を通していたら、あっという間に授業が始まる時間になってしまいます。

時々、送信時刻が真夜中の、KCPの先生からのメールが届いていることがあります。夜遅くまでご自宅で仕事をなさって、送信されたのでしょう。頭が下がります。私は、うちでは仕事をしない主義ですから。

その後も、朝は授業が始まる直前まで、何回もメールチェックします。なぜかというと、学生から欠席連絡が届くことがあるからです。メールの件名がブランクだったり、名前だったり、「おはようございます」なんて書いてあったりしたら、まず間違いなく欠席メールです。つい先日は、「今日の授業は病気のせいでお休みさせていただきます」という、メールの本文そのものみたいな件名もありましたが、これを出したのは新入生のNさん。生真面目な性格がよく出ています。

今朝、8時半ごろ、受信トレイを見てみると、「おはようございます」があるではありませんか。送信者はJさんとなっていました。Jさんは、今学期どころか、入学以来無欠席です。「まさか」と思いつつ中を見てみると、「体調が悪くなってしまって、今日は休みたいと思います」と書いてありました。皆勤が消えるのに立ち会ってしまいました。

Jさんは、毎日きちんと予習をしてきて授業を受けていました。もちろん、宿題を忘れるようなこともありません。入学以来そういう姿勢で勉強を続けてきたので、今や、クラスはもちろん、レベル全体でも1番かそれに近い成績です。テストができるだけではなく、会話力も素晴らしいです。

こういう学生は、初めて休んだ次の日が山です。翌日も休むようだと、緊張の糸が切れてしまったのかもしれません。そうなると、あっという間にブラックリストにまで転落していきます。ここで踏ん張って1週間持ちこたえてくれれば、来年3月の卒業までペースを崩さずにいけるでしょう。

明日の朝も、気が抜けません。

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おはようございます?

12月4日(水)

朝から、来学期の新入生へのオンラインインタビューをしました。プレースメントテストの結果、中級以上と判定された新入生のレベル決定をするための面接です。アメリカ本土にいる学生もいるため、朝8時から始めました。

「日本は“おはようございます”ですが、Pさんのところは、今、何時ですか」「あ、今、夕方の6時です」「じゃあ、“こんばんは”がいいのかな?」なんていう調子で、緊張をほぐしながら始めました。

それが効いたからかどうかわかりませんが、Pさんは実にのびのびと話してくれました。私は覚えていなかったのですが、10年近く前にもKCPで勉強したどうです。その後大学に行って、卒業して、アメリカで働いて、でも日本で働きたくてまたKCPで勉強しようと思ったそうです。

同じアメリカのAさんも、日本で就職したいと言っていました。来年7月のJLPTでN2を取り、仕事を見つけたいのだそうです。こういうふうに明確な目標を持っていると、崩れにくいんですよね。しかも、大学を卒業していますから、大人の分別も持ち合わせています。こんな学生がクラスに1人いると、クラスが引き締まるものなのです。

もう1人のSさんはアメリカの人ではありませんが、大学で歴史や文学を勉強したいと言っていました。国で入った大学は自分の勉強したいことが勉強できないので、退学して、日本で大学に入り直すのだそうです。歴史や文学なら、K大学がいいと薦めておきました。

面接した3人とも、発音がよかったのが印象的でした。もちろん、外国人特有のイントネーションはありましたが、発音そのものに変な癖がなく、聞き取りやすかったです。

あと1か月少々で、この3人に会えます。今から、とても楽しみです。

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地力

12月3日(火)

日本語プラスの授業の後で、受講していたGさんが研究計画書を見てほしいと言って、A4用紙4枚ほどを取り出しました。私がかつて専門にしていた分野なら、多少は意見が言えるかもしれませんが、それ以外の話だったら畑違いですから、見当違いの意見を吐いてしまうでしょう。それでもいいから読んでくれというので、目を通してみました。

残念ながら私の専門外の内容でしたが、興味を持っている分野ではありましたから、おもしろく読ませてもらいました。Gさんの狙いは、内容についての意見を求める点にあるのではなく、研究計画書の体裁が整っているかどうかを確認する点にありましたから、そんなに難しく考えずに読むことができました。

最低限の形式は整っており、論理的な矛盾もありませんでした。翻訳ソフトかAIかを使ったんでしょう、日本語も立派なものでした。一つ気になったのが、大学院の先生と日本語で話をするのかという点でした。もしそうだとすると、Gさんの日本語では心もとないこと極まりありません。

その辺を確かめると、質疑応答は英語でするとのことでした。「そりゃあ、理科系は英語だよ」なんて、日本語教師としてあるまじき発言をしてしまいましたが、Gさんが狙っているM大学なら、修論の発表はきっと英語でしょう。Gさんにとっての日本語は生活用語であって、学問のための言葉ではありません。研究の場こそ日本ですが、研究を進める頭脳は英語で回転しているのです。

何となく寂しいですが、これがに現在の日本語の地力です。

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11時に起きました

12月2日(月)

朝、教室に入ると、Gさん、Sさんの姿が見えませんでした。授業の直前にメールをチェックしましたが、2人からの連絡メールはありませんでした。Sさんは先週の金曜日も無断で休んでいますから、その理由を聞こうと思っていました。しかし、休まれてしまったらどうしようもありません。

前半の授業が終わり、職員室に戻り、メールを見てみましたが、やはりメールは届いていませんでした。めったに休む学生たちではありませんから、なおさら気になりました。

授業後はZさんとの面接、Uさんの再試の採点・フィードナック、日本語プラスの授業と、3時まで休む間もなく仕事が続きました。欠席者への連絡が遅くなってしまうことは気になっていましたが、面接などの方が優先順位が高いですから、後回しにせざるを得ませんでした。

そういうのがすべて終わって、まず、無断欠席が続いたSさんに電話をかけました。なかなか出ないので切ろうとした頃になってやっと「もしもし」。欠席理由を聞くと、「昨日JLPTの後で飲みすぎてしまいました」とのこと。金曜日は、うちでJLPTの勉強をしていたと言っていました。「明日から休まずに学校へ行きます」と言いますから、軽く叱って終わりにしました。

次はGさん。こちらはすぐに出ました。理由を聞くと寝坊だと言いますから、何時に起きたか聞きました。11時という答えが返ってきましたから、JLPTの打ち上げかと聞くと、少し小声で「はい」。11時まで目が覚めなかったということは、下手をすると、私が起きた時間ぐらいまで飲んでいたのかもしれません。また、GさんとSさんは同国人ですから、確かめるまでもなく一緒だったに違いありません。

2人とも、受験したレベルに合格したら、これは笑い話として聞き流してあげましょう。

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あと1か月

11月30日(土)

毎学期、新入生のプレースメントテストを行い、中級以上と判定された学生にはインタビューをしています。KCP卒業後の進路を確認したり、今までの日本語学習状況を聞いたり、KCPでどんな勉強をしたいかなどということも聞いてみたりします。かつては新入生来日後にこういったことを大急ぎでやっていたのですが、最近はもっぱらオンラインで、学生がまだ国にいるうちに済ませてしまいます。

私がインタビュー担当のKさんに案内のメールを送ったところ、インタビューを予定していた日は入院中だという返信が来ました。そこで、急遽、30分後にzoomでインタビューという運びになりました。最近、たまにzoomを使おうとすると、バージョンを更新しないと使えないぞという案内が現れます。これが出てくるとややこしいので、zoomの設定は時間に余裕を持ってやらなければなりません。

zoomを立ち上げようとしたところ、案の定、それが出てしまい、30分の余裕時間があっという間に消えていきました。それでもどうにか約束の時間に間に合い、Kさんと初対面となりました。

国で教科書を使って独学で日本語を勉強したというKさんですが、会話の練習はあまりしていないと言っていました。その通り、日本語を話し慣れていない感じがしました。多少言葉や表現を選びながら慎重にしゃべっていたようで、語彙や文法で致命的な間違いは犯しませんでした。最後の方は、「入院の時、漢字の教科書も持って行って、ちゃんと勉強していてくださいね。そうじゃないとM大学やR大学はなかなか入れてくれませんよ」なんていう軽口にも反応できるようになりました。

明日から12月。Kさんの来日も、1か月ちょっと先に過ぎません。

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スマホ対作文

11月29日(金)

今週も作文の日が来ました。おとといのこの稿に載せたように、上手すぎる作文を書いたLさんに事情聴取しようと手ぐすね引いて待ち構えていたのですが、何と欠席でした。思いっきり肩透かしを食らいました。授業後に電話をかけてみましたが応答せず、いったい何をしているのでしょう。

気を取り直して先週の作文を返却し、話し言葉が混じっているとか、文の最初と最後が合っていないとか、自分の主張を強化する構成を教えたのにそれができていないとか、フィードバックとも採点者としての愚痴ともつかない感想を並べ立てました。そして、新しいテーマを与え、もう一度こういう構成で書けと指示を出し、教科書やノートは参考にしていいけれどもスマホは禁止だと改めて確認し、書いてもらいました。

しばらくはおとなしくしているだろうと思い、出欠状況を入力し、また教室を見渡すと、RさんとJさんがスマホを手にしているではありませんか。注意すると、「単語を調べました」とJさんが少し不満そうに答えました。スマホで調べなければわからないような単語を使ってほしくないからスマホ禁止にしているのです。そういう単語を使うと、ほぼ間違いなく、その単語だけが浮き上がった不細工な文になります。

しばらく経つと、黙々と書いていたSさんがスマホに手を伸ばしました。「先生、できました」と言います。一応、原稿用紙は埋まっています。私が読んでみると、2行目に間違いがありました。それを指摘し、ほかにも同じような間違いがないかどうか、自分で読み直せと指示しました。他の学生の様子を見て、フッと振り返ると、Sさんはまたスマホを見ていました。すぐにSさんのところに戻り、原稿用紙を見ると、私が指摘したところは直してありましたが、数行下のそれと同じ間違いは手付かずでした。それを指さし、「こういうのがいくつもあるはずだから、最初から最後まで全部読み直しなさい」と言い、今度はその場を離れませんでした。Sさんは渋々読み直しました。

今度は最後まで読みましたが、一緒に目を動かした私が見つけた間違いはすべてスルーして、“読み終わったからもういいでしょ”と言わんばかりの目つきで私を見上げました。こことこことここが間違っていると言われたSさんは、直し始めました。

そんなやり取りをしている間に、Dさんがスマホを見始めていました。Rさんもいつの間にかスマホをいじっていました。振り返ればMさんも。学生にとって、作文の時間は1秒でも早く書き上げてスマホを楽しむ時間に過ぎないのでしょう。そうして提出された作文に間違いが1つもなければまだしも、誤字脱字ねじれ文、何でもありなんですから、添削する側はたまったものではありません。

私なんか、1日全くスマホを見なくても平気なんですがねえ。

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上手すぎます」

11月27日(水)

先週の作文の採点をしました。中級クラスですから、習ったばかりの表現を使おうとして失敗したり、主張の訴え方が弱かったり、それどころか最初と最後で主張が変わってしまったりなど、未熟な点が目立ちました。その程度は計算済みですから、驚きはしません。そんな中で、Lさんの作文が目を引きました。漢字の誤字と末表現の抜けが各1か所あっただけで、文章としてはほぼ完璧でした。

しかし、作文を書く前にクラス全体に示した論理展開の見本をまるっきり無視していました。こういう構成を身に付けてもらいたいと思って、どういう意見であってもこれに従うよう指示したのですが、それには全くお構いなしでした。他の学生は多少なりともモニターに映し出された構成を参考にして書いていたのに、Lさんだけ“我が道を行く”でした。

それだけではありません。語彙レベルがやたら高いのです。「日々の生活」「住居を確保する」「経済発展を目指す」「雇用創出」「生活水準が向上する」「環境保護に重点を置く」「貧困を脱却する」など、私が普段見ているLさんなら絶対に使わない(使えない)単語が続々と書かれていました。

作文の時間に参考にしてもいいのは、教科書と自分のノートだけです。スマホをはじめ、電子機器は使用禁止です。しかし、Lさんの作文の内容を見るに、AIの影を感じずにはいられません。そういえば、Lさんは机に突っ伏すようにして書いていました。スマホを隠すためだったのかもしれません。

Lさんは2校の大学に合格して、余裕綽々である反面、学習意欲が低下しているところもいられます。作文なんて言う面倒くさいことになど、まじめに取り組む気がしなくなったのでしょうか。いずれにせよ、今週の作文の時間に事情聴取です。

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長期計画

11月26日(火)

大学の留学生入試には面接がつきものです。最近は日本人の大学受験生も、多くが総合選抜などの試験方式の一科目として面接試験を受けるようになりましたが、全体で見れば、留学生入試ほどの割合にはなっていないでしょう。大学側は、自分の大学で学ぶ留学生を慎重に選んでいます。

それは結構なことです。留学生は、中途退学すると、留学ビザが無効になりますから、直ちに帰国しなければなりません。覚悟の上での退学ならともかく、夢見たような学生生活が送れずに退学・帰国となると、精神的な打撃も計り知れません。そういうことが起きないように、自分の大学のカラーに合った留学生を選んでくれるのであれば、面接大歓迎です。

何の対策もせずに面接試験を受けたら、学生たちは答える要領がわからず、自分の力を発揮できないまま、不合格の通知を受け取らざるを得なくなります。そうならないために、先週から面接対策の授業を始めました。25年4月進学予定者はもちろん、26年4月を予定している学生も参加しています。

26年組は、まだ具体的な志望校はありません。漠然とした憧れレベルの志望校はあるでしょうが、大学研究も済んでいませんから、まだ夢物語の域です。でも、面接の質問は志望理由などの大学がらみばかりではありません。面接官が受験生を知ろうとする質問や、社会性を見る問いかけをすることもあります。そういう質問への準備は、今から始めておいても決して早すぎることはありません。

つまり、自分自身を見つめ直してほしいのです。自分にはどんな特徴があるのか、進学することでどんな道が開けてくるか、その道を自分はどのように歩むのか、そういったことを考えておけば、進学後の学びも主体的なものになるに違いありません。入学するや燃え尽き症候群を患ってしまったら、留学で広がるはずだった将来が、幻になってしまいます。

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うれしさも中くらい

11月26日(月)

授業で、漫画家になりたいという息子と、普通に就職しろという父親の会話を取り上げました。それについて話し合わせましたが、なんとなく盛り上がりませんでした。グループで意見交換させたものの、こちらの予定した時間よりも早く静かになってしまい、グループを組み換えても同様でした。

本当はペアで話し合わせることになっていましたが、Aさんが「ペアの相手の話す力が低いと、相手が何を言っているかよくわからないことがあります。また、自分の発言が相手に伝わったか手ごたえがなくて困ります」と、先週の面接の時に言っていましたから、2人ではなく3人にしました。それでもなんだか話が弾まないようなので、さらに組み替えました。前より少しは良くなりましたが、盛り上がった話題での話しっぷりに比べるとおとなしいものでした。

そこで、やむを得ず、自分の意見を書かせてみました。すると、みんな黙々と取り組み、声をかけるのもはばかられるほどでした。何人かに書いた意見を読んでもらいましたが、なかなか立派なものでした。息子に味方する学生も、父親を支持する学生も、論旨が明確でよくわかりました。こういうことを、会話の時に言い合ってもらいたかったんですがね。

回収して読んでみると、他の学生もよく書けていました。作文の時間ほど身構えなかったのがよかったのかもしれません。原稿用紙を前にすると緊張して書けなくなってしまうのだとすると、白衣高血圧みたいなものなのでしょうか。添削は楽に終わったものの、複雑な気持ちでした。

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