Category Archives: 学生

聞く力

5月14日(火)

留学生の大学入試には、必ずと言っていいほど面接があります。受験生の日本語力を確かめることはもちろん、勉学に対する意欲や、4年あるいはそれ以上に及ぶ留学生活に耐えられるかどうかも見ていることでしょう。そして、各大学のアドミッションポリシーに合致した留学生を選抜していることと思われます。

いろいろな大学の先生方の話を総合すると、面接試験はコミュニケーション能力の試験でもあるようです。日本語でコミュニケーションが取れない学生は、指導のしようがないので入学させないという考えの大学もあります。志望理由や将来の計画など王道的な質問だけでは、暗記してきた模範解答でかわされてしまいます。それ以外に、受験生の人となりや社会性を見る質問もなされます。

さて、コミュニケーションとは何でしょうか。自分の気持ちや考えを相手に伝えられればコミュニケーションは完了でしょうか。いいえ、相手の気持ちや考えを理解することも含まれます。受験生はとかく前者に力を入れがちですが、後者がなければそれは自分の思いの押し付けに過ぎません。

そうならないためには、相手の話をきちんと聞いて受け止める力が重要です。しかし、この力は上級になれば身に付くといったものではありません。日頃からスマホではなく人間に向き合わなければ、この力は伸びません。翻訳ソフトの助けを借りてばかりでは、うわべだけの理解しかできません。その言葉に込められた重層的な意味など、想像の埒外でしょう。

日本語プラスの進学授業で、面接試験の大学側にとっての意義を訴えました。今のうちからそういう意識で準備していってもらえば、文字通り実りの秋が迎えられるはずです。天皇陛下も田植えをされたとのことです。今から秋を楽しみにしていましょう。

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5月13日(月)

Sさんは理科系の日本語プラスを取っています。Sさんのいいところは、わからないことをすぐ質問するところです。「ここまで、質問ありませんか」とこちらから誘いかけても質問しようとしない学生が多い中、Sさんは私が何もしなくても「先生、…」と聞いてきます。そして、その質問が的外れだったことはありません。「さっき説明したのに」とか、「それって、今までの話と全然関係ないじゃないか」などということはなく、他の学生にとってもためになることばかりです。宿題をきちんとやり、予習も怠りなくやっていることがよくわかります。勉強しているからこそ、疑問点も浮かび上がり、私の話で満足できないところも出てくるのです。

6月のEJUも大いに期待したいところですが、Sさんにとっては初めてのEJU受験です。日本語・読解の過去問では問題を解くスピードが全然足りません。解いた問題の正答率は非常に高いのですが、制限時間内では7、8問残してしまいます。すると、平均点は確保できますが、Sさんが考えている大学には手が届かない点数にしかなりません。理系科目にしても、「じっくり考えたらできる」では思い通りの成績は挙げられません。そう思って、いつもの学期より“ずるい解き方”を教えています。例えば素早く概算して答えを選ぶとか、化学式を見ただけで答えを絞り込むとか、まじめなSさんにとっては許しがたいと思われる考えを伝授しています。

いずれにしても、Sさんは2024年のKCPの期待のホープです。上手に育てていかねばと思っています。

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教えやすい

5月10日(金)

F先生の代講で入ったクラスには、先学期レベル2で教えた学生が数名いました。また、日本語プラスで顔見知りになっている学生もいましたから、クラスの半分ぐらいは知っている学生でした。ですから、授業の終わりごろにはだいたい顔と名前が一致してきました。

そうすると、当然、顔と名前とできる・できないが紐づけられます。だから、この問題はこの学生に答えさせてみようとか、ここはあの学生の意見を聞いてみようとか、逆に、この学生からはろくな答えが返ってこないだろうから指名するのはやめておこうとか、授業を組み立てる面白さが感じられるようになってきます。

Qさんは、最初に指名した時に全然答えられず、その後こっそりスマホをいじっているのを見つけましたから、私の心の中では最低レベルにランク付けされました。Yさんは、発音はイマイチですが、前向きな姿勢が感じられ、上級でまた会いたいなと思いました。Nさんは先学期も教えた学生ですが、順調に伸びているのが感じられ、このまま力を付けていってほしいと思いました。Gさんも、相変わらずよくしゃべり、このクラスでも中心的存在のようで、安心しました。

何より、このクラスは学生たちの仲がいいので教えやすかったです。冷たい雰囲気のクラスだと、学生同士が名前を覚えません。このクラスは「じゃあ、次は◎△さん」なんて、学生が言い合っていましたから、学期が始まって1か月ほどでよくなじんでいるんだなと思いました。

こういうクラスの代講なら、もう一回ぐらい入ってもいいですね。

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明るくなりました

5月8日(水)

Dさんは日本語プラスの理科系の科目に出ています。しかし、数学も理科も難しいと言います。確かに、物理や化学の授業中の様子を見ても、わかっているような顔はしていません。数学のS先生も、Dさんは苦しそうだとおっしゃっていました。そのDさんが、暗い顔をして、重い足取りで進学相談に来ました。

Dさんは大学で建築か機械を勉強したいという希望を持っています。建築と機械では分野がだいぶ違います。まだはっきり決められないというのが本音なのだと思います。とはいえ、6月のEJUで運命が決まってしまうケースが多いのが留学生入試です。その運命の6月16日まで39日。のんびり迷っている暇はありません。

機械工学を専攻するなら、数学や物理はかなり力を入れなければなりません。AIを搭載したロボットが作れたらいいなあといった夢や憧れだけでは勉強できません。一方、建築は、耐震構造とかという方面は数学や物理をハードに駆使します。しかし、デザインに重きを置いた建築なら、そこまでのハードさは求められません。その代わり、多少なりとも絵の素養は必要でしょうが。

Dさんに聞いたところ、デザイン系の建築も大いに考えているとのことでした。それなら、A大学はEJUの指定科目は日本語だけです。S大学は数学コース1(文科系)で受験できます。K大学は体験入学に参加すればEJU不要で合格証を手にすることができるかもしれません。K大学には、3月までKCPにいたDさんの国の先輩が進学していますから、その先輩から情報やアドバイスが得られるでしょう。

そんな話をすると、Dさんは先月からずっと感じていたストレスが消えたと、笑顔を見せてくれました。自分でも調べてみると言って、雨の中を帰っていきました。こうして早いうちから騒いでいる学生が、結局受験に勝つものです。Dさん、一歩前進かな。

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初欠席

5月2日(木)

プライベートレッスンを受けているHさんは、小学校入学以来、学校を休んだことがありません。体調が悪くても親が休ませてくれず、お腹が痛いとか言いながらも学校に出ました。ですから、小学校、中学、高校と皆勤賞をもらいました。その時は誇らしく思い、ひそかに優越感に浸りました。

そのHさん、なぜプライベートレッスンを受けているかというと、会社の仕事で日本語が必要だからです。通常のクラス授業に加えて、会話練習やJLPTの問題などに取り組んでいます。仕事に直結するとなると気合が入るものです。話し方の間違いを指摘するとすぐに言い直したり別のシチュエーションで使ってみたりしようとします。

ところが、連休明けに出張が入ってしまいました。そのため、どうしてもKCPを休まざるを得なくなりました。小学校から続けてきた皆勤が途切れると思うと、Hさんは残念でなりません。二日酔いの朝も、文字通り這うようにして登校してきたのです。私にまでその残念が乗り移り、「仕事だからしょうがないよ。Hさんはほかの学生みたいにいい加減な気持ちで休むんじゃないんだから」などと慰め役に回りました。

Hさんの爪の垢を煎じて飲ませたい学生がおおぜいいます。Dさんはまた日本語プラスを休みました。数学のS先生から才能があるとお墨付きをいただいているのに、このままでは宝の持ち腐れに終わってしまいそうです。RさんはA先生にたっぷり油を絞られていました。こちらも光るものを持っているんですがね。

明日からの連休、Hさんは出張の資料作りをするそうです。私は、例によって関西遠征です。

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悩み

4月26日(金)

文部科学省からの奨学金をもらう学生を決める面接をしました。正確には、KCPが奨学金をもらう学生として文科省に推薦する人を決める面接です。書類審査などで落とされる可能性がありますから。とはいえ、こちらから推薦した学生は例外なくもらえると考えていいくらいですから、事実上「奨学金をもらう学生を決める面接」なのです。

まず、奨学金が欲しい人を募集しました。出席率で制限を加えましたから、誰でもというわけにはいきません。毎日口を酸っぱくして休むなと言っているのですが、こういうところで残念な思いをする学生が後を絶ちません。また、日本で進学する留学生対象ですから、就職希望や帰国予定の学生は対象外です。

こちらの希望としては、お金に困っている学生にあげたいです。出席率や成績がよくても、裕福ない家庭の学生には、遠慮してもらいたいところです。お金の出所は私たちの税金ですから、奨学金を遊ぶ金や貯金の積み増しに使ってほしくはないです。ですから、面接の際には経済状況も聞きます。

Sさんは学業優秀で、出席率も問題なく、しっかりしたビジョンを持って進学しようとしていますから、当選確実です。残りの数名が横一線で、甲乙つけがたい状況です。Kさんはお金に困っていますが、成績が心配です。でも非常な努力家です。やはりお金の心配が絶えないCさんは、アルバイトがなかなか決まらないと言っていました。意外だったのがYさんで、あっさり落ちるだろうなと思っていたら、自分の将来に対してとても深い考えを持っていることがわかりました。好感度急上昇です。

…などなど、結局だれを選べばいいか決めかねて、継続審議ということになりました。各方面から情報を集め、最終決定します。もう少し受給者枠が多ければみんな推薦できるのにね。

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連帯感

4月25日(木)

今学期の日本語プラス理科の各科目は、毎回宿題を出し、その答え合わせをしながらEJUの範囲を復習していくという形で進めています。EJUの直前までに全体をカバーし、最後の1、2回は過去問を通しでやってみようと考えています。

木曜日は物理です。Oさんはきっちり宿題をしてきました。時間はかかったけど最後までやったと言って、宿題用紙を見せてくれました。Sさんも、学校でもらったもの何でも突っ込んでいるのではと思われるファイルから、しわくちゃになった宿題用紙を引っ張り出しました。Mさんは真っ白に近い宿題用紙を机の上に置いて、私を見つめました。Kさんはやけに硬い表情でした。できなかったのかもしれません。

答え合わせは、全部についてやっていると時間が足りませんから、今回のテーマである力学の要点を解説するのにちょうどいい問題や、学生が知らないと思われる解き方がある問題や、学生がつまずきそうな問題や、先週教えたテクニックを使う問題や、要するに教えるのに都合のいい問題に絞りました。

宿題をきっちりやって来たOさんは質問します。しかし、発音が悪くてその質問の意図がなかなかつかめませんでした。質問内容は急所を突いており、Oさんの質問を起点に授業を広げられました。MさんやKさんにも良い影響を与えたことは確かです。それだけに、発音の悪さが気になります。口頭試問で苦労しそうな気がしました。

Sさんはくちゃくちゃの紙を出したわりには鋭い質問をしてきました。私が説明を省略しようとした問題について質問し、やはりクラス全体に盛り上げました。思ったより理解が進んでいる感じがしました。

出席したメンバー間には無言のうちに同じ道を進む者同士の絆みたいなものが生まれたように見受けました。今年のメンバーは、思ったより期待が持てそうです。

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聴解のメモ

4月23日(火)

聴解問題をするときに学生にメモを取らせ、終了後にそのメモを提出してもらいました。

Sさんは実に丁寧にメモを取り、スクリプトの要点を余さずとらえていました。スクリプトを見ながら書いたのではないかというくらい完璧でした。思わず五重丸をあげてしまいました。Aさん、Hさん、Gさんなども、必要なことは書かれていました。このくらいのメモが取れるなら、JLPTやEJUの問題も恐れることなどありません。

その一方で、Kさん、Cさん、Jさんあたりは、本人がこのメモを見ても、何もわからないのではないかという代物でした。まるっきり聞き取れていないわけではないのでしょうが、このメモを基に何かするのは不可能でしょう。どこまで問題が解けるのか、心もとない限りです。

日常生活で聞いたことをその場でメモすることはあまりないでしょう。紙にメモしなくても、頭にメモできれば聴解問題ぐらいなら何とかなるかもしれません。でも、頭にメモできる内容は、思っているよりも少ないものです。10~11桁の電話番号はどうでしょう。私は自信がありません。相手の言わんとしていることを少しでも深く理解するには、誤解を減らすには、メモは不可欠だと思います。

つまり、日常生活をより充実したものにするには、聞いたことをメモすることが大きな役割を果たします。その延長線上にテスト問題があると考えてもいいと思います。そう考えると、Kさんたちは日本で生活を続けていくという観点からも心配です。他のクラスにもこういう学生がいるでしょう。そういう学生たちを、卒業するまでにどのように鍛えていけばいいでしょうか。

それ以上に、岸田さん、あなたは森さんに会ったときに、メモを取らなかったんですか。それで事情聴取したつもりなんですか。

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目標に向けて

4月22日(月)

昼休み、Dさんが日本語プラスについて相談に来ました。先週1週間理科系の科目に出席して、理科の選択科目を物理と化学にしたいと言います。Dさんは機械工学に進みたいと言っていましたから、妥当な選択です。さらに、その機械工学よりも、建築に進みたいとも言ってきました。

建築には、大きく分けて、デザイン系と構造系があります。デザイン系は、その名の通り、外観や内装などのデザインを専門とします。構造系は耐震建築など、建物の建て方の根本を学びます。そのどちらかと聞くと、Dさんはデザインをやりたいと言います。デザインと言っても、ただ絵を描けばいいというわけではありません。使いやすい建物、住みやすい家を設計することが主たる仕事です。そのためには、人間工学、建築物の素材、地質や気象に至るまで、幅広い勉強が必要です。おそらくDさんはそこまで考えていないでしょう。

志望校を聞いてみました。すぐにT大学の名を挙げました。超有名校ではありませんが、手堅い感じがします。誰かから教えてもらったのかもしれませんが、Dさんにとっては手の届きそうな目標になるでしょう。今後、もう1校か2校付け加えておいた方がいいです。Dさんは出席率がいいですから、指定校推薦という目もあります。そのあたりは、私も相談に乗るつもりです。

Dさんのほかにも、進学先をどうするか、いい意味で悩み始めている学生が出てきました。学校全体が6月のEJU、さらにその先の入学試験に向けて動いているのだとしたら、今年の学生たちには期待が持てそうです。

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実力の偏り

4月19日(金)

今学期の日本語プラスEJUは、6月の本番を目指して実力をつけていくことに集中します。そのため、プレースメントテストを行い、その結果を見てクラス分けをします。受講希望者が最上級クラスからレベル3まで広がっているということもあります。しかし、レベルで機械的に分けると、下のレベルなのにテクニックで点を稼いでしまう学生や、その逆に上のレベルなのに要領が悪くて点が取れない学生などがいて、学生の実力を引き上げられないおそれがあります。そんな意味からも、プレースメントテストで様子を見ていきます。

さて、そのプレースメントテスト。最初にやった聴解・聴読解の時点で怪しい雰囲気が。几帳面にメモを取る学生がいる一方で、ボーッとしている学生もいました。全くメモを取らないのに成績がよかった学生は、数年前に卒業したKさんだけです。Kさんは聴解の天才だったかもしれません。問題にじっと耳を傾け、正解が流れるや迷わずチェックを入れました。それでいて間違いがほとんどないのです。どうしてそんなによくできるのかと聞いてみましたが、笑ってごまかされてしまいました。

残念ながら、目の前の学生たちは、Kさんの足もとにも及ばないようでした。メモを取らない学生は、メモを取る必要がないのではなく、メモを取る能力がなかったのです。解答用紙を見たら、1つの解答欄に2つも3つもマークしてありました。どの選択肢も正しいように聞こえてしまったのだとしたら、重症です。

読解は時間切れが数名。Sさんは最後の7問が空白でしたが、答えた問題で間違えたのは1つだけでした。速読の訓練をすれば、大いに期待できます。一方、Dさんは、読解の解答欄は真っ白でした。Nさんは最後まで答えましたが、正解は数えるほど。2人とも、漢字が読めなくて正解が選べなかったのでしょうか。

採点してみると、予想通り受講生間にかなりの差がありました。しかも、聴解ができない学生、読解ができない学生、入り乱れています。どんなクラスを設定すればいいか決めるのは、大仕事になりそうです。

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