Category Archives: 日本語

通訳

12月13日(水)

今学期、毎週水曜日の夕方は、初級の学生向けに大学進学そのものについての授業をしてきました。日本の大学の特徴とか、大学の留学生入試の仕組みとか、面接や志望理由書についてとか、大学進学の準備を始めたばかりの学生が知らないことを話してきました。

初級の学生が相手ですから、私が普通にしゃべったのでは話が通じませんから、毎週上級の学生に通訳を頼みました。自分も経験者ですから、パワーポイントを見ただけで話の内容がだいたい見当がつきます。だから、通訳の長さからすると、おそらく私の言葉になにがしか付け加えてくれていたものと思われます。

私の日本語を国の言葉にしてくれるだけにとどまらず、初級の学生からの質問を日本語にして私に伝えてくれます。そういう形で初級の学生たちと私とをつないでくれます。実に心強い援軍です。初級で入った学生が、通訳する側に立っている姿を見ると、立派になったなあと思わずにはいられません。

上級の学生は午前授業ですから、夕方まで学校にいるというのは、授業後図書室などで勉強している学生か、ラウンジあたりで友達とおしゃべりしたりタブレットかパソコンを見たりしている学生か、そんなあたりです。そういう学生を捕まえて通訳を頼むと、結構快く引き受けてくれます。

上級の学生にとても、通訳ができるということは、自分の日本語力に自信を持つきっかけになるのではないでしょうか。頼む立場としても、授業中ろくにしゃべらず、スマホばかりいじっている学生は敬遠します。話せても、こちらの話を聞こうとしない学生も、ご遠慮申し上げます。通訳に選ばれた時点で、コミュニケーション力が保証されたのです。

今学期話を聞いていた学生たちが、来年のこの学期、通訳する側に回っていてもらいたいですね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

12月12日(火)

今年の漢字は「税」に決まりました。日本漢字検定協会のコメントによると、1年を通して増税の議論が行われたこと、インボイス制度導入、ふるさと納税のルール厳格化など、税にまつわる話題が絶えなかったから選ばれたのだそうです。私の感覚だと「税」よりも「暑」ですがね。

今年の漢字を募集しているころにはあまり騒がれていなかったかもしれませんが、パーティー券の売り上げキックバックによる裏金は、安倍派だけで5億円にも上るそうです。自民党全体では一体いくらになるのでしょう。この裏金も、広い意味では脱「税」でしょう。

安倍派の5億円、自民党の?億円は、「裏」金と言われるくらいですから、何に使われたかは全然わかりませんし、今後明らかになるとも思えません。どうせ世の中の役には全く立たない、ろくでもないことに使ったのでしょう。裏金作りに励んだとされる面々の写真は、顔つきが悪いですね。わざとそういう写真を選んでいるかのようです。中でも、2000万円を受け取ったとされる橋本聖子参議院議員は、スピードスケートや自転車でオリンピックに出ていたころのさわやかさのかけらも感じられない顔になっていました。

何億円か、あるいはもう1桁上のお金があれば、貧困家庭を何世帯救えるでしょう。給料が低くて人手不足に陥っている介護施設に回せば、多くの介護する人される人が幸せになれるでしょう。こんなこと、あの顔つきのみなさんの脳裏は一瞬たりともかすめなかったのです(法律的に難しいのかもしれませんが)。

もうかっている企業が自民党のパーティー券を買い、自民党がふるさと納税的な発想で集めたお金を上述のようなところに配り、返礼品は自民党のパーティーでも岸田さんのありがたいお話…というのはいかがでしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

上手です

12月11日(月)

学期末が近づくと、アメリカのプログラムできている学生の面接(発話力テスト)があります。午前の授業後、2人の学生の面接をしました。

Rさんは日本で就職しようと考えています。だから、選択授業も私のクラス、ビジネス日本語を取っています。ビジネス場面で使われる日本語は特殊な表現が少なくなく、言外のニュアンスまで汲み取らなければならないところが難しいようです。リップサービスかもしれませんが、私の授業も役に立っているとのことでした。

Cさんは専門学校に進学し、そこを卒業後、やはり日本で就職ということも考えています。専門学校のプログラミングの模擬授業に参加したら、やっていることが簡単すぎたので、コンピューターグラフィックスに専攻を変えたそうです。相当できるのでしょうか。

2人とも最上級レベルの学生ですから、私が無茶苦茶な語順で話しかけてもきちんと内容を把握し、しかるべき返答をしてくれました。さすがと思いました。うっかりすると、日本人の友だちを相手にしているような感じでしゃべってしまいます。誤用が全くないとは言いませんが、日本語教師でなければ気づかないと思われる軽微なものしかありませんでした。TOEFLのスピーキングでも、多少の間違いがあっても満点が取れるそうですから、この2人の私の評価は満点にしました。Rさんなんかは、満点以上の点数をあげてもいいくらいでした。

2人に共通している点は日本への好奇心の強さです。単に日本の文化が好きだというにとどまらず、自ら動いてその“好きだ”という気持ちを満たそうとしています。それも、ネット検索で満足するのではなく。こういう点を、レベルの下の学生たちに残していってもらいたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

「ば」考

12月9日(土)

夜になると随所でイルミネーションがきらめき輝き、それにスマホを向ける人たちは、美しさに酔うというよりは、獲物get!といった顔をしています。そんな人たちを包むように、街にはクリスマスソングが流れています。

毎年繰り返される光景ですが、毎年気になることがあります。それは、「ば」です。

クリスマスソングの定番「恋人がサンタクロース」の歌詞には「ば」がたくさん出てきます。“今夜8時になればサンタがうちにやってくる”“大人になればあなたもわかる”“明日になれば私もきっとわかるはず”…という具合です。

日本語文法では、一般に、確定条件においては、前件を「ば」ではなく「たら」で表すとされています。「ば」は仮定条件で使うと、どの文法書にも書かれています。「駅に着いたら連絡します」は〇だけど、「駅に着けば連絡します」だと、駅にたどり着けるかどうかわからないような感じがしませんか。

「恋人がサンタクロース」の歌詞はいかがでしょう。“大人になればあなたもわかる”は、わかるための条件が大人になることだとも受け取れるので、ぎりぎりセーフかもしれません。でも、“今夜8時になればサンタがうちにやってくる” “明日になれば私もきっとわかるはず”はそういう見方もできません。とはいうものの、聞き慣れてしまったからなのでしょうが、さほど強い違和感もまたないのです。みなさんはいかがでしょうか。

養成講座の初級文法では、確定条件には「ば」は使えないと言い切っていますし、レジメにも明記してあります。「恋人がサンタクロース」は偉大なる反例なのですが、なぜ変な感じがしないのか、そこが気になっているのです。

うちの前のショッピングモールは、今夜も「恋人がサンタクロース」を流していることでしょう。それを聞きながら、「ば」に違和感がないことに違和感を抱きつつ、足早に通り過ぎるのでしょう。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

隠れた有名人

11月30日(木)

半月ぶりぐらいに養成講座の講義をしました。クラス授業や日本語プラスと違って不定期ですから、連続する時もあれば間が空くこともあります。次回は12月半ば、また半月ぐらい間隔があります。

今回もいろいろなことをしゃべりましたが、can-do statementsについても触れました。これは、日本語教師にとってはタン塩とかスパナとかと同じくらい当たり前の言葉ですが、受講生はじめ一般の方々にとってはなじみの薄い言葉です。この稿をお読みのみなさんも、おそらくそうでしょう。

can-do statementsとは、「学習者がこのレベルまで勉強したら、こういうことができる」というのをまとめたものです。「中級まで勉強したら日本語のニュースが聞き取れます」なんていう感じで書かれています。英語をはじめ、外国語を勉強している方は、通っている学校などで見たことがあるかもしれません。

can-do statementsは、一見日常生活と直結しているとは言い難いのですが、実はその精神は私たちの生活の中に隠れています。例えば、「1歳ならもう歩けますね」「5年生か。じゃあ1人で旅行できるね」「この契約が取れたら、山田君を課長にしよう」なんていうのも、can-do statementsの応用と言えるのではないでしょうか。

「3割で50本打てたら、大谷は来年もMVPだろう」などとスポーツ選手やタレントや作家などを評価したり期待をかけたりするのもこのグループでしょう。ここまで考えると、can-do statementsはタン塩やスパナどころか、みそ汁やドライバーぐらいありふれているのかもしれません。

そんな話も交えながら、講義を進めました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

みどりの窓口閉鎖

11月25日(土)

先日、所用があり、JRの有楽町駅を通りがかりました。すると、「有楽町駅にはみどりの窓口はございません」という大きな張り紙が目に留まりました。大阪まで新幹線などといった指定席券は券売機で買える、割引切符も券売機で対応可能、どうしても窓口で買いたい人は東京駅か新橋駅へ行ってくれ、という意味のことが書かれていました。

感染症対策の在宅勤務で、都心の駅は乗降客数が減りました。それでも有楽町駅は20万人を数えます。そういった多くの利用客がいる駅からも、みどりの窓口は消えているのです。もっとも、今はスマホやパソコンから指定券の予約・購入ができ、一部はチケットレスで改札を通過できます。ですから、みどりの窓口の需要が減っていることもまた確かです。

そうはいっても、有楽町駅は銀座の最寄り駅であり、最近激増している外国人観光客も数多く利用しているはずです。そういった人たちは、券売機を操作して指定券などが買えるのでしょうか。

夏休みに四国へ行ったとき、JR松山駅のみどりの窓口で、わずか30秒足らずの用事のために、20分以上も待たされました。窓口は2つ開いていましたが、1つは日本人が複雑な切符を作ってもらっていて、もう1つは外国人が窓口の係員と相談しながら指定席の予約をしてもらっているようでした。銀座あたりを歩いている外国人観光客で駅員と相談したい人は、みんなJTBみたいな旅行代理店か東京駅に回るのかな。

10年ぐらい前は、松山駅のみどりの窓口は2つではなかったように思います。JR四国もJR東日本も、最近の経営状況はよろしくないという噂ですから、人減らしに励んでいるのでしょうか。単なる人減らしなら、経営が回復したら元に戻る可能性もあります。しかし、人手不足のためだったら、有楽町にみどりの窓口が復活する目はなく、松山駅だって窓口が1つに減らされるかもしれません。

駅員さんに限らず、近ごろ至る所で働き手がいないという話を聞きます。運転士がいないからバスが減便されたとか、医師不足で地方の中核病院の診療科が閉鎖されたとか、80歳を超えた介護士が在宅介護に回っているとか、大阪万博だって建設業界の人手不足のために開催が危ぶまれています。働き方改革で働き手がさらに必要なのに、募集してもさっぱり集まらないという現象が、全国的に見られます。

日本語教育業界も人が足りません。ご興味のある方、ぜひどうぞ。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

役者と俳優

11月24日(金)

金曜日のクラスでは、語彙の授業を担当しています。教科書があり、進度表も公開していますから、学生が予習してくることを前提に授業を進めます。学生にもそう伝えています。

予習が前提ですから、私が出てくる単語を一つ一つ説明することはしません。予習してもわからなかったことを質問してもらいます。私がそれに答え、必要に応じて周辺事項を補足説明するという形で授業を進めます。

「大晦日は何の日ですか」「式典と儀式は何が違いますか」「当て字はどういう字ですか」「共通語と標準語は同じですか」「役者と俳優は同じですか、違いますか」「腹芸はどんな芸ですか」「俳句と川柳の違いは何ですか」…などというような質問が、毎回次から次へと出てきます。みなさん、これらの質問に答えられますか。

学生からの質問が出尽くしたら、こちらから逆襲です。質問が出なかったことを学生に聞きます。「暦の上では春ってどういうことですか」「意訳はどんな訳ですか」「将棋は指すですが、碁は何と言いますか」などというのを聞くとだいたい答えられませんから、追加説明をしていきます。

こういう進め方をすると、予習をしてきた学生は、「そうそう、そこは私もわからなかったところ」とか「私が調べたのとちょっと違うぞ」とかといった反応を示します。私の説明に誘発されて新たな質問が出てくることもあります。上述の“大晦日”は知っている学生も多いでしょうから、“晦日”とは何かという話を付け加えると、知っている学生もふむふむということになります。

しかし、予習してこなかった学生は、ぽかんとしているほかありません。学生と私のやり取りが頭の上を飛び交うだけで、ツッコミを入れるすき間がありません。みんな笑っているのに、何がおかしいかわからないということだってあり得ます。練習問題の答えを機械的に書き込むだけでは、大した勉強にはならないに違いありません。たとえそうだとしても、それは自己責任ですから、特別なフォローなどしません。

タスクの例文すら書かずに居眠りしていたLさん、あんたのことですよ、この話。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

指示詞につまずく

11月22日(水)

国語のテストで、よく指示詞の指示対象を問う問題に出くわしたと思います。「“その学生”とは誰ですか」などという類です。KCPの読解のテストでも、初級から超級まで、この手の問題が出されます。

こういった問題は、答えとなる指示対象を本文からそのまま抜き出してくればいい場合もあれば、なにがしか加工しなければならない場合もあります。当然、後者の方が難しいです。そのまま抜き出しても答えとなる場合でも、字数制限を設けてあえて加工を加えさせることもあります。要点がきちんと把握できているかどうか見ようというのが、問題を作る側の心です。

超級クラスの読解テキストに、一筋縄では答えられない、テスト問題にするには絶好の指示詞を見つけました。早速授業で聞いてみると、勘のいいKさんも、本文の言葉をそのまま答えようとしました。私がダメ出しを繰り返すと、それらしきところを次々と引っ張り出してきました。こういうことができますから、Kさんは決してできない学生ではないのです。むしろ能力が高いと言えます。

Kさんの答えはどれもいい線を行っているのですが、5点の問題なら3点か4点といったところでした。そこで、Kさんの答えを板書しておきましたから、「はい、みなさん、Kさんの答えをもとにして、きちんとした説明になる答えを考えてください」ということにしました。

さすがに、ここまでヒントを出せば、正解と言える答えが出てきました。でも、ここまで10分ほどですから、時間のかかりすぎです。ことあるごとに鍛えていかねばなりません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

前日の合格発表

11月11日(土)

明日のEJU本番を控え、日本語プラスのEJUの最終授業が行われました。急に冬が襲ってきたような寒さでしたが、来るべき人はちゃんと来て、授業を受けていました。

授業後、AさんとCさんが「来週からJLPTのクラスに出てもいいですか」と許可を求めてきました。拒否する理由などありません。こういう学生は、応援したくなりますね。Cさんはこれからあちこち受験するようですが、Aさんは昨日M大学の合格が決まりました。でも、いや、だからこそ、日本語学校にいるうちに日本語のレベルを高められるだけ高めておきたいのでしょう。進学したら、日本語にじっくり向き合う時間など、なかなか取れるものではありません。

2人と入れ替わりぐらいに、Oさんが教室から下りてきました。Oさんは、先月、K大学の指定校推薦入試を受けました。実は、午前中、その結果が速達で届いたのです。結果通知を受け取り、「合格」の文字を見つけたOさんは、いかにもホッとしたという顔つきになりました。周りの先生方から「おめでとう」と言われ、ようやく笑顔を見せました。

K大学は難関大学の1つですから、指定校推薦入試と言っても、願書を出して「はい、終わり」というわけではありません。H先生にしごかれながら課題の小論文を書いていました。でも、その甲斐があって、Oさんの日本語力は明らかに伸びました。授業中に指名すると、先学期までは「わかりません」とごまかすこともありましたが、今は的を射た気の利いたことを言うようになりました。作文は、もちろん、長足の進歩です。

Aさんも、M大学を受けたことで、考えに筋が通ってきたような気がします。こういうように、入試を通して成長する学生こそ、大学が求める学生なのでしょう。だとすると、頭を抱えたくなるような学生が多くて…。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

ワンツーフィニッシュ

11月2日(木)

みなさんはJPETをご存じでしょうか。Japanese Proficiency Evaluation Testの略で、JLPTほど有名ではありませんが、外国人の日本語能力を測定するテストの1つです。JPETは、合否方式のJLPTとは違って、結果がスコアで表されます。そんなこともあり、KCPではここ数年、自分の日本語能力を知るために、その能力を証明するために、学生にJPETの受験を勧めています。

今年の夏に実施されたJPETで、KCPのCさんとSさんが、全受験生の中で得点の1位と2位になりました。しかも、JPETの実施団体からは、3位に大きな差をつけての抜群の成績だったと聞いています。また、そこからいただいたデータによると、Cさんは上級レベルの問題の正答率がほぼ100%で、Sさんは初級中級の問題がほぼパーフェクトでした。どちらにせよ、誤答が数えるほどしかないすばらしいスコアでした。どういう見方をしても、外国語レベルの国際的な評価で言えば最高ランクのC2になります。

午前中の授業の後、2人の表彰式をしました。実施団体から届いていた賞状と記念品を渡しました。本当は全校学生を集めて行いたいところでしたが、なかなかそういう機会は作れないので、クラスの学生の前でささやかな晴れ舞台を設けました。

CさんとSさんに晴れがましい思いをしてもらいたいことはもちろんですが、それ以上に、そういう優秀な学生と一緒に勉強しているんだということを、クラスの他の学生にも感じてもらいたいです。自分だってCさんやSさんに勝るとも劣らぬ日本語力を持っていると思った学生もいたことでしょう。次は、それを目に見える形に表してほしいところです。さしあたり、12月のJLPTのN1で180点満点を取ることを目指してもらいたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ