Category Archives: 日本語

まとめと次の目標

12月20日(月)

あさってが期末テストですから、今週は今学期のまとめの授業みたいなものです。この3か月間に勉強したことのおさらいとともに、来学期以降に目指すべき到達点も示します。

私のクラスは、文法が大乱戦でした。以前のテストを持ち出して、「君たちはここがよくできなかったから…」という話をしたら、あちこちから質問が出てきました。そのどれもが、授業で触れているはずのことなのですが、わからないと言われたら、解説するほかありません。私たちの最初の説明が悪かったか、授業や宿題などでの練習が不十分だったかなのですから。

でも、ただ同じ話を繰り返すようなまねはしません。その文法を勉強してから関連表現を勉強していますから、それと絡めて説明を再構築します。類似表現を勉強したとあれば、それとの異同を比較検討します。こういうことを通して、単なる暗記では得られない力を付けさせていきます。

以上を踏まえて、来学期以降どんな勉強をしていけばいいかという話になります。中級レベルだと、語彙なんですよね。中級と上級を分かつ最大のものは、語彙力です。上級の学生は、知っている単語、使える単語の数が違います。そういう力をもとにして、見聞きした日本語に、中級の学生よりずっと素早くかつ的確に反応できるようになるのです。「ここで笑えるかどうかが、中級と上級の差なんだよ」なんてことまで言っちゃいます。

そんなこんなで予定の授業が消化できず、一部を明日の先生に回してしまいました。まあ、明日はそんなにぎっしり予定が詰まっていませんでしたから、あんまり心は痛まないのですが…。

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日本語力+感性

12月17日(金)

最上級のクラスに呼ばれました。学生たちがKCPのキャッチコピーを考え、その発表会が行われました。審査員というか、コメンテーターというか、要するに、授業担当ではない教師に講評してもらいたいということで、私が入ったというわけです。

キャッチコピーは、印象に残る短い言葉で対象物を端的に表現することが求められます。作り手には、単なる語彙力ではなく、感性も必要です。対象物を知っていればいいというわけではなく、ありきたりではない観点から見据える頭脳的機動力を発揮しなければなりません。今回の例で言えば、KCPで過ごした日々を振り返ってそれを一言にまとめるだけではなく、それをフレッシュな切り口でとらえ直さなければなりません。

どんな作品が出てくるかとワクワクしながら教室に入ると、程なく発表が始まりました。期待以上の作品が続きました。寸鉄人を刺すようなコピーが次々と出てきて、感心するやら驚くやら、パワーポイントを見ながらうなずくばかりでした。

学生たちは学校のことをよく観察してもいますし、それを効果的な言葉に落とし込むだけの力も持ち合わせていました。欲を言えば、プレゼンテーションをもう少し堂々とやってほしかったですね。マスクをしているせいか、消え入るような声の発表が多かったのが惜しかったなあ。

さて、私がこの学校のキャッチコピーを頼まれたら、どんなのを作ったでしょう。20年余りも同じところにいると、外の人に訴える価値のある物が、かえって見えなくなってしまいます。学生たちの発表をまぶしい思いで聞いていました。

そして、何より、今私が受け持っている中級クラスの学生との実力差を強く感じました。最上級クラスですから、中級クラスとなんか比較してはいけないのですが、私のクラスの学生が半年後にこの高みまで登れるだろうかと思ってしまいました。この学生たちが卒業していったら、誰がKCPの屋台骨を支えるのでしょう。作品が素晴らしかっただけに、危機感も深まりました。

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雑談こそ命

12月14日(火)

代講で久しぶりに上級のクラスに入りました。今学期初めてじゃないかな。中間テストの試験監督も上級クラスでしたが、授業をしたわけじゃありませんから。

今私が受け持っているクラスと、レベルは1つしか違わないんですが、雑談に対する反応が全然違います。気楽な話なのか本気で聞かなければならない内容なのか、ほんのちょっとしたやり取りの中からしっかりつかみ取るのです。話の流れが見えていると言ってもいいでしょう。

このクラスの学生の一部を初級で教えた時は、もちろんこうじゃありませんでした。オンラインだったこともあり、ゆっくり話す私の言葉を聞き取るので精一杯で、指示が伝わらないこともまれではありませんでした。その学生たちが、日本語の冗談に日本語の冗談で応えられるまでに成長したのです。まあ、「雨がありました」なんていう、そのまま午後の初級クラスにご移動いただいてもよろしいような発話もありましたが…。

肝心の授業ですが、学生たちが提出した例文を見る限り、理解できたようです。上級の文法ですから、言葉の裏側の意味も感じらなければなりません。同時に、その裏側の意味を上手に利用して、自分の気持ちや考えを表すことができるようにというのが授業の目標です。完璧とまでは言いませんが、概ねそこまで到達できたんじゃないかと思います。

どんな言語でも、雑談が一番難しいと言います。当意即妙に切り返すには、語学力のみならず頭脳の明晰さも必要です。そういう点では、このクラスの学生はかなりイケてるんじゃないでしょうか。これから受験を控えている学生もかなりいるクラスですが、自信を持って臨み、満足のいく結果を残してもらいたいです。

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ゆとりの時間

12月11日(土)

今学期私が担当しているレベルの読解の教科書で使われている文章のうち、2つは私が書いたものです。理科系的な内容を、専門性も損なわず、中級の学生でも理解できる日本語で表すというのは、決して楽な仕事ではありませんでした。

同じ内容を理科系の受験講座を受けている学生に話すのなら、ある程度のところまでは暗黙の了解みたいな共通認識に基づいて進められます。むしろ、多少の専門用語を織り込んだり、数式で表現したりした方が、聞き手の学生の勉強になります。しかし、文科系や芸術系の学生も相手だとなると、いや、そちらの方が主力だとなると、専門用語や数式を振り回すのは慎まなければなりません。それでいて、専門的技術的な事柄を、可能な限りはしょらずに、中級の日本語で伝えていくのです。私自身、ずいぶん勉強し直しました。

最近、「文系のためのめっちゃやさしい○○」というシリーズの本を読んでいます。“○○”には、化学、物理、微分積分、人体などの項目が入ります。新しい知識を得るというよりは、知識の表現のしかたを勉強しています。その“表現”は文章に限らず、視覚への訴え方も含まれます。つまり、どんな図を見せればこちらの思いが伝わりやすいかも勉強させてもらっています。

このシリーズであれこれ勉強したら、次は何を書きましょうかねえ。受験講座の資料もいくらか見直したくなりました。かみ砕いて説明するという点においては、日本語教師養成講座にも通底するものがあります。先月EJUが終わってから、私が担当する受験講座が激減しました。その時間的余裕を、こういう面に振り向けています。

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望まれて

12月1日(水)

午前中は、初級の学生向けに数学の受験講座をしました。全員オンラインの学生で、来年6月のEJUを目指しています。

授業が終わったところで、ZさんがY大学に合格したと報告してくれました。海外での直接募集に応募し、見事に試験に通ったのです。「おめでとうございます」なんですが、そうすると、来年の4月にはY大学に行ってしまいますから、もしかすると生のZさんには会えずじまいになってしまうかもしれません。

岸田首相の決断で、昨日から外国人の新規入国が全面的に認められなくなりました。Zさんもうまくすると来年2月ごろに入って来られることになっていたのですが、全外国人の入国が最低1か月差し止めで、しかも長期間待っている順番に入国ですから、Zさんが日本へ来るのは早くて来年3月ではないでしょうか。すると、進学先の決まっているZさんは、KCPで対面授業をほとんど受けることなく卒業してしまいます。何かの事情で予定が送れたら、オンライン授業だけで卒業ということになるかもしれません。

Zさんは、大学進学後にもらえる奨学金について質問してきました。Zさんのような場合どうなるかよくわかりませんでしたから、調べてから答えることにしました。職員室に戻ってからすぐ調べてメールを送ると、私からのメールを待っていたのか、すぐに返信が来ました。Zさんにとっては色よい回答ではなかったのに、きちんとお礼の言葉が書かれていました。それも、正しい日本語で。

こういうちょっとしたやり取りをおろそかにしないあたりに、Zさんの人間性を垣間見ました。こんなちょっとしたことがさらっとできるなら、ZさんはY大学で将来の財産になる人脈を築いていけるでしょう。それは、Zさんの周りの日本人学生に大いに刺激を与えるに違いありません。Y大学が欲しがるわけです。合格は、当然の結果です。

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背伸びのさせ方

11月27日(土)

来週の日曜日が12月のJLPTです。土曜日は、それを受けようという学生たちに向けての受験講座が開かれています。私もN2クラスの教師に駆り出されました。

このクラスは初級の学生ばかりですが、練習問題で取り組む文法は、私が通常授業で教えている中級クラス並みかそれ以上です。すでに何名か脱落していますが、ここまで食らいついて残っている学生は、みんな授業を受ける態度も真剣です。

一般に、中級や上級で習う文法は、ピンポイントで使うと効果的なものが多く、それゆえ適用範囲が狭いです。そういう用法を、初級の学生にもわかる日本語で説明したり、初級の学生もピンとくるような例文を提示したりというのが、こういう授業の難しさです。抽象概念を扱うときに威力を発揮する文法に初級の語彙を当てはめてみても、学生に覚えてもらいたいような例文はできません。文法には習うべき時期があるのだと痛感させられます。

こういう時には、中級以降でもう一度勉強し直してもらうことを前提に、大胆に割り切って教えます。中級上級を担当する教師としては一言も二言も付け加えたくなる説明でも、心の中で「半年待って」とかってつぶやきながら、それを押し通してしまいます。

国でN1を取ったという新入生が、時々KCPのプレースメントテストで初級に判定されます。クレームをつけて無理やり中級に入り込んでも、結局伸びません。N1やN2の文法は、国の言葉で説明してもらい理解しても、その文法が漂わせているニュアンスまでは嗅ぎ取れません。

さて、このクラスの学生たちは、どこまで理解が進んだでしょう。いくつかあった「ほど」や「によって」の違いがわかったかな。

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終わりは始まり

11月13日(土)

明日が11月のEJU本番ですから、私が担当している受験講座の大半は今週までです。来週から暇になるかと言えば、決してそんなことはありません。今年は先学期から超過密スケジュールでしたから、仕事の積み残しや先送りがたくさんあります。まず、それをどうにかしなければなりません。そして、気が付けば11月中旬、受験シーズンたけなわですから、面接練習などが待ち構えています。

来週は、受験講座の資料の補修をします。不都合な箇所は見つけ次第直してきましたが、そろそろ全体調整をしなければなりません。科目によっては、資料そのもののリバイスも必要です。受講生にわかりやすい資料をと心掛けていますが、盛りだくさんになり過ぎている面もあります。また、EJUの模範解答も、スマートな解き方を見つけた問題がありますから、手を入れていきます。

進学資料の改訂も、今年は遅れてしまいました。必要最低限の資料やデータは揃えてありますが、学生を志望校に押し込むには、もうひと頑張り必要です。

日本語教師養成講座の教材作成も急がなければなりません。私が担当する諸々の科目間の調整を進めて、有機的に関連付けていきます。私は、養成講座の最大の役割は、日本語教師としての思考回路を形成することだと思っています。受講生の脳みその中に、普通の日本人とは違う、日本語教師特有の語彙や文法や発音などのネットワークを構築するお手伝いをするのが養成講座なのだという考えで講義をしています。そういうポリシーに照らし合わせて、講義や資料を見直します。

要するに、年末まで暇にならないということです。

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作文はきれいな字で

11月10日(水)

中級の作文ともなると、日本語の文章が書ければいいという問題ではありません。主張が明確かどうかが採点のポイントとなります。ここで言っている主張とは、“消費税増税に賛成か反対か”といった賛否を問うものばかりでなく、“来年挑戦してみたいこと”などという事柄を答える場合もあります。いずれにしても、テーマに対してきちんとした結論を出しているかが重要です。主張が明確な文章は構成がしっかりしていますから、書かせるときにその点を強調し、採点もそこを見ます。

同じ説明を聞いたはずなのに、提出された作文にはかなりの差が生じます。訴えたいことがすっと頭に入ってくる作文もあれば、何回読んでも“何が言いたいの?”と聞き返したくなる作文もあります。いや、作文などと言ってはいけません。日本語の文字の羅列です。文法や語彙の誤用が主張をぼやかすことはよくありますが、慣れてくるとそういうファクターを取り除いて、主張の明確さを見ることができるようになります。

ところが、私の採点には1つの傾向があります。それは、字のきれいな作文の点数が高いことです。見た目で作文を評価しているわけではありませんが、字がきれいだと一読して主張が理解できた気になってしまうようです。逆に、字が汚いと嫌悪感が先立ってしまいます。原稿用紙から無言の圧力を感じて心を閉ざしてしまい、主張を感じ取りにくくなっているのかもしれません。

これでは公平な評価とは言えません。そうはいっても、きれいな字を見て和んでしまう私の心を抑えることは、容易ではありません。入試の小論文を採点する先生方はどうなのでしょう。私ほどではないにしても、多少はそういう面があるのでしょうか。だからAIに採点を任せるという動きにつながっているんじゃないかな。

いまさら手遅れかもしれませんが、学生にはそんなことも伝えたいです。

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Doppler効果

11月8日(月)

理科系の大学の口頭試問では、大学で勉強する専門に関連した理科や数学の事柄が聞かれたり、優しい問題を解かせられたりします。もちろん、出題も日本語だし、回答も日本語です。

中級のCさんは、そんな入試がある大学を狙っています。受験講座の後で、その口頭試問の練習をしました。残念ながら、合格には程遠い回答内容でした。正確に言うと、専門知識はしかるべきレベルのものを持っています。しかし、それを日本語で表現できないのです。

“エチレン”という私の言葉に反応して、膝の上に置いた手の指を2本立てて何事か表そうとしています。しかし、Cさんの口から“二重結合”という、有機化学のごく基礎的な用語は発せられませんでした。“ドップラー効果”と聞いても全然わかりませんでした。「“ドップラー”は英語ですか」と聞いてきました。「はい」と答えると、「英語で言ってください」ときました。“Doppler”と英語の発音をすると、「ああ、わかりました」と腑に落ちた様子でした。でも、口頭試問では、日本語の“ドップラー”がわからないと、どうしようもありません。

Cさんは、日本へ来てからも、ずっと国の言葉で理科や数学を勉強してきました。EJUでは目標としていた点数が取れましたが、口頭試問の練習でこのざまですから、先は決して明るくありません。口頭試問がない大学に合格し進学したとしても、こんな程度の専門日本語力では、授業についていけないでしょう。少なくとも、1年生の最初の学期は大いに苦労するに違いありません。

だから、受験講座を受けてほしいのです。中級では、まだ、日本語で物理や化学や数学を勉強するのはかなりの負担です。しかし、それに耐える訓練をしておけば、口頭試問にも進学後の授業にも対応できるようになります。受験講座は、EJUの先を見越した勉強をしているのです。

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違いがわかる?

11月1日(月)

月曜日に私が担当している中級クラスには、初級文法の復習の時間があります。初級の教科書から取ってきた例文や、語彙だけ少し中級っぽくした文から作った問題を宿題にして、その答え合わせをしています。

初級クラスでこの問題をしたら、習った文法はできる、未習はできない、難しい語彙はわからないとなるでしょう。中級となると、その文法を習った後にいろいろな文法を習っています。その中には似たような形や意味のものも含まれています。すると、初級の学生は間違えないような問題を間違えたり、初級とは違った間違え方をするようになったりします。知恵熱みないなもんでしょうかね。

そうなることは織り込み済みというか、それを整理するのがこの授業の意義です。たとえば、「て形+あります、います、おきます」などの補助動詞の意味や使い方とか、「と、ば、たら、なら」の違いとか、あるいは初級の学生は思いつかないような場面で使えるかとか、1ランク上の質問が出てきます。それも、週を追って高度になりつつあります。学生たちも、この授業の活用法が見えてきたのでしょう。

この授業は、ドリルや会話といった練習が主眼ではなく、学生に文法項目の再確認・再認識をしてもらうことが目的です。ですから、「東京(  )暮らしています」に「で」を入れるか「に」を入れるかで生じる微妙な意味の違いを通して、助詞の「で」と「に」の意味・用法を見つめ直すなどということもします。

上級になったら、この授業で扱っているような小技をピシッと決めて、引き締まった日本語を書いたり話したりしてほしいです。それが、進学してから役に立つ日本語なのです。

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