Category Archives: 日本語

コトバデー

9月5日(月)

7月に予定されていましたが、感染拡大のため延期していたコトバデーを開催しました。スピーチコンテストがクラス代表のスピーカー1名で競っていたのに対し、このコトバデーはクラスの学生全員が出場します。ですから、今学期はどのクラスも密かに練習に励んでいたのです。

残念だったのは、立派な会場を使う予定だったのが、延期したために6階講堂になってしまったことです。ステージも狭ければ音響設備も貧弱で、しかもzoom配信で発表を聞くことになり、当初の計画とはだいぶ違うものになってしまいました。しかし、現在の感染状況に鑑みると、このあたりが精一杯かもしれません。

そんな悪条件にもめげず、学生たちは練習の成果をステージ上で見せ聞かせてくれました。結果として練習期間が延びたおかげで、朗読など、教室で指名されて読解の教科書を読むときより数倍上手でした。まず、つっかえないし、イントネーションもかなり改善されているし、学生によっては感情も込めていたし、この経験を“やればできるんだ”という自信につなげてほしいと思いました。

スピーチコンテスト部門に参加した学生たちは、みんな自ら立候補しただけあって、主張も明確だったし、相当練習したんだなと思わせられる話しっぷりでした。他人とは違った視点で物事を捕らえた発表もあれば、自分の偽らざる気持ち・決意を表明したスピーチもあり、以前のスピーチコンテストに勝るとも劣らぬレベルだったことは確かです。

学生たちには、これを機に話すことに目を向けてもらいたいと思います。話すことはコミュニケーションの基本です。入学試験でも進学後も就職してからも、コミュ力は必要不可欠です。このコトバデーが、そんなことに気付くきっかけになってくれればと思います。

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力を伸ばすには

9月2日(金)

A先生の代講で、中級クラスに入りました。まずは漢字テスト。漢字の読み書きだけではなく、漢字の時間に出てきた語彙を使って例文を作る問題もあります。学生の力を見るには好適な問題です。

授業後、採点してみると、漢字の読みができていませんでした。濁音か清音か、長音になるかならないか、促音の有無など、引っ掛かりやすいところでみんなつまずいているようでした。日本語の音が完全に入っていないのかもしれません。このクラスの学生は日本語力が今一つだと聞いていましたが、こんなところにその一因があるような気もしました。

例文は、上述のようなミスには目をつぶると、語彙の意味が全然わかっていないようなものはありませんでした。しかし、初級で勉強してきたはずの小技が使えないんですねえ。「お酒を飲んで泥酔しました」じゃ、〇はあげられません。せめて、「お酒を飲みすぎて泥酔してしまいました」としてもらいたいところです。まあ、これはこのクラスの学生に限ったことではなく、中級の学習者全般に当てはまりますが。

音がきちんとつかめていないと、正確な発音ができません。すると自分の発話力に自信が持てなくなり、黙ってしまいます。相手の発話も聞き取れないとなると、コミュニケーション力などゼロですよ。小技なしの文を並べ立てられたら、日本語教師以外の日本人は違和感にさいなまれて頭痛がしてくるでしょう。自分の心のひだを伝えられなかったとしたら、これまたコミュニケーション力に“?”を付けざるを得ません。

どちらも、学生独りでは力を伸ばしきれないでしょう。教師が、腕を引くのかお尻を押すのかわかりませんが、学生のお手伝いをすることが必要です。

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調べても

8月30日(火)

「『個』と『つ』はどう違いますか」とK先生に聞かれました。K先生は初級のサポートクラスを担当しています。そのクラスのPさんからの質問だと言います。

Pさんは物を数える時の“1つ、2つ、…”と“1個、2個…”を授業で習いました。「りんごを2個買います」「りんごを2つ買います」はどちらも正しいけれども、本当にこの両者に違いはないのかと疑問に思いました。自分なりに調べてみたところ、『個』は比較的小さい物、『つ』はそれよりもいくらか大きい物に対し使うという解説を見つけました。それをK先生に確かめようとしたのです。みなさんはどうお考えになりますか。

私は、『個』と『つ』の違いは対象物の大小ではないと思います。すいかとみかんは明らかに“すいか>みかん”ですが、「すいかを1個買います」「みかんを1使います」どちらも成り立ちます。むしろ、「山を2つ越えると海です(×2個)」「濃尾平野には大きな川が3つながれています(×個、◎本)」のように、大きな自然物には『つ』を使うことはありますが、『個』は使いません。

特別な助数詞がない物体に対しては、『つ』の方が使用範囲が広いと言えます。また、「条件が2つあります」「自分の長所を3つ挙げてください」のように、抽象的な概念には『つ』です。最近とみに勢いを増している、年齢に関して“1個上”とか“2個下”とかは、誤用ないしは、一歩譲って例外でしょう。

Pさんの場合に問題なのは、『個』と『つ』は対象物の大小で使い分けるという解説がどこかに載っているという点です。Pさんは初級ですから、母語で書かれたサイトを検索したのでしょう。そういう日本語文法解説や辞書は、日本語を母語としない人が書いていることがよくあります。「先生、私の辞書にはこう書いてあります」と学生に主張されることが時たまあります。そういう時はそれを見せてもらい、著者・筆者の名前が日本人っぽくなかったら、堂々と「その辞書が間違っています」と答えます。

日本で日本語母語話者から教わっているのですから、学生にはその感覚を身につけてもらいたいです。生きた言葉がつかえるようになってほしいです。

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出願準備の季節

8月23日(火)

授業後、Tさんが来て、Y大学に書類を送る封筒に貼る宛名シートをカラー印刷してほしいとのこと。Y大学は書類選考のみで合否判定をします。面接試験すらありません。出願書類に志望理由書などもなく、EJUとTOEFLの成績、国の高校での学業状況で選抜するようです。日本語を話すのが苦手なTさんとっては、実に都合のいい入試方式です。10月早々に結果が出ます。

Tさんは、ほかにM大学にも出願しようと準備を進めています。こちらは志望理由書も書かなければならないし、面接試験もあります。その志望理由書、夏休みの最中にメールで送られてきました。ホテルで風呂上がりに読みましたが、妙に日本語がうまいものの、内容的には見るべきものがありませんでした。自動翻訳を使ったのではないかと思われる部分が何か所かありました。Tさんのメールには文法を直してくれと書いてありましたが、文法を直したところでM大学の先生はTさんの志望理由書を全く評価しないでしょう。根本がなっていないのですから、外観を整えても全く無意味です。

そういう返信メールを送ったところ、Tさんは不満だったようで、昨日志望理由書について相談に来ました。どこが悪いか1時間ぐらいかけて説明したら、ようやく理解できたようでした。M大学は締め切りまで少し間がありますから、もう2、3回こうしたやり取りがあることでしょう。それが終わったら、面接練習です。これも一筋縄ではいかないことは、火を見るより明らかです。

Tさんのほかにも、Jさん、Cさん、Kさん、Gさんなどが控えています。暑さが和らぎつつありますが、うなされるような日々が続くのでしょうね。

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親切な説明

8月22日(月)

夏休みは名古屋近辺を歩き回りました。名古屋へ行くのは毎年年末でしたから、博物館などが年末年始休館のため、あまり見学していませんでした。今年のKCPの夏休みは世間一般のお盆と重なり、遠くへ行く足が確保できそうにないと踏んで、この際名古屋をじっくり見てみようじゃないかということになったのです。

最初は名古屋市内をくまなく歩くつもりでしたが、計画を練っているうちにだんだん欲が出てきて、結局名古屋を見たのは1日半ほどでした。その代わり、以前行ったときは駅しか開いていなかった関ヶ原や、ずっと気になっていた刃物の町関や、地理マニアとしては見逃せない木曽三川合流部など、雨の予報を巧みにかわしながら思う存分歩いてきました。

今回は結構多くの博物館に入りました。その中で、展示品の説明がいちばんしっかりしていたのが、カミソリのフェザーのPR施設も兼ねていて無料で入れたフェザーミュージアムでした。私のくだらない質問に、受付の方が工場の方まで呼んできて答えてくれました。おかげで、長年の疑問が氷解しました。

その一方で、展示物の説明がよくわからないので聞こうと思っても誰もいなかったり、いてもろくに答えられなかったりといった博物館が多かったです。説明板の漢字にフリガナを付ければ誰でも理解できると思っているのでしょうか。説明板の文章を読む人などほとんどいないと思って、専門家向けの説明文をそのまま載せているんじゃないかと思えるのもありました。名古屋城の本丸御殿は、説明板ではさっぱりわからず、音声ガイドを聞いてようやく装飾や造りの立派さ、その立派さの背景などが理解できました。割引券の割引額と音声ガイドの使用料とがぴったり同じというのは、計算ずくなのかな。

旅行そのものはとても満足のいくもので、収穫も多かったです。でも、小牧山城とか、志段味古墳とか、まわり切れなかったところに再挑戦したいですね。来年の夏休みもお盆と重なるのなら、また名古屋かな。

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灯台

8月10日(水)

漢字の読みの教材に「灯台」という言葉がありました。上級クラスなのでこれくらいは読めて当然です。だから、「灯台がどこにありますか」と聞きました。学生たちが知らないであろう「岬」を導入しようという伏線です。「港」ぐらいは当然出てきてほしいところでしたが、「海」と言われるくらいは覚悟していました。最初に出てきた答えは何だと思いますか。「机の上」です。

「えっ、机の上に灯台がありますか」「はい、本を読むときに使います」。私が渋い顔をしていると、「夜、部屋を明るくします」と追い討ちがかかりました。時代劇などで見かける、油をしみこませた燈心に火をつけてうすぼんやりと明るくする照明器具を差していることは明らかです。中国語の「灯台」は、日本語では「燭台」です。日本語の「灯台」は、中国語では「灯塔」です。

でも、「灯台下暗し」の「灯台」は、学生たちが言っていたこの灯台です。油と燈心が載っているお皿の真下は、灯台から離れたところよりもかえって暗いということから来ています。したがって、学生たちの答えも決して間違いとは言えません。そうは言っても、2022年現在、「灯台」から油を燃やす明かりを思い浮かべる日本人はいないでしょう。「灯台」と言えば犬吠埼や潮岬、宗谷岬でしょう。

予定通り、「灯台」の関連語彙として「岬」を導入し、「みなさんが考えていた『灯台』は、せいぜい明治時代までですよ」として、次の問題に移りました。学生たちは、少し不思議そうな顔をしながら、ノートを取っていました。

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上級らしくない?

8月3日(水)

上級ともなると、新しい文法を習うというよりは、初級から中級にかけて勉強してきた文法を臨機応変に使いこなす練習が多くなります。JLPTのN1に出てくる(というか、N1ぐらいにしか活躍の場がない)、日本人でもなじみが薄い文法を暗記するよりは、今までに頭に詰め込んだ文法を、使うべき場面で使えるように訓練しておくことが大切です。

外国出身力士をはじめ、日本語が上手だと感じる外国人は、みんなの日本語か、せいぜいもう少し上ぐらいの文法を、正確かつ適材適所に使っています。N1の点数だけなら私のクラスの学生が上回るかもしれませんが、普通の日本人が会話の相手をしたら、逸ノ城のほうをずっと高く評価するでしょう。

そんなわけで、今週から私の文法の時間は、勉強したことがある文法を正確に使えるかどうか見ていく授業となりました。その初回ですが、ひどかったですねえ。これは難しいだろうなと思っていた問題は、ものの見事に全員つまずき、これなら全員正解だろうとみていた問題も、答えを聞くやこっそり直している学生がいました。

「寒いでした」「寒くなかったでした」などという答えに対しては、「午後のクラスに行ったら?」と言ってしまいました。すべて丁寧体で答えさせたので、普通体に慣れてしまった学生にとっては難しかったのかもしれません。

ペアで近況報告という形で、少しまとまった話もさせました。全員のを事細かに聞いたわけではありませんが、ペアの相手がどんな話をしたか報告させたら、多くの学生が筋の通った話ができました。その点は、学生を誉めました。「文法問題がひどかった割には」という言葉を飲みこんで…。

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事情はわかりますが

7月27日(水)

6月のEJUの成績が公開されました。超級クラスのAさんは、日本語はパーフェクトゲームだったようです。聴解・聴読解、読解、記述のどれも最高点でした。Bさんもすばらしい成績でしたが、担任のZ先生によると、EJUが終わってから参考書や問題集は全く開いていないそうです。「気が緩んでいる」と厳しい一言もいただきました。Cさんは全然成績が伸びていません。進学に関しては危ない状況です。Dさんは信じられないくらいひどい点数でした。担任のY先生によると、EJUのあたりは体調が最低最悪で、その影響もあるのではとのことです。

Eさんは、早速進学相談の予約をしてきました。夕方、自分の志望校をまとめた資料を送ってきました。日本語の伸びが今一つで、理科は成績が上がったものの、数学は下がってしまいました。悩ましいところです。明日、Eさんのリストを見ながら、じっくり相談に乗ります。

Fさんは薬学部を目指します。もともと留学生の募集が少ないか日本人受験生と同一基準で合否判定というところが多いですから、これまたしっかり作戦を練らなければなりません。

中級のGさんは、上級の学生を上回る点数でした。しかし、日本語しか受けていませんから、この好成績を生かすには、これまた頭を働かさねばなりません。11月の成績に期待をかけるべきかどうか、悩ましいところです。

今回のEJUは、国でオンライン授業を受けていたものの、来日して生活が落ち着く前に受験したという学生が多かったです。そのため実力が十分に発揮できなかった学生もいたことでしょう。しかし、それは日本中の日本語学校の学生共通の事情ですから、ハンデキャップにはなりません。

明日から、進路指導モードです。

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変身

7月26日(火)

数学のS先生によると、今学期の理科系数学のホープはCさんだそうです。Cさんは、本来だったらこの4月に進学していなければならなかった学生です。入管の特例措置でKCPに残って勉強しています。去年も受験講座を受けていますから、できて当然と言えばその通りです。他の学生よりも1ランク上の実力のようです。

Cさんの場合、進学できなかった最大の要因は、日本語を話す力が足りなかったことです。志望校の入試の直前に集中的に特訓を受けたのですが、熱い思いを志望校の面接の先生に伝えられなかったようです。オンライン授業の時は、それをいいことに、授業中の好き勝手なことをやっていたようです。日本語の勉強や練習より、数学や理科の問題を解くことが好きで、日々内職に励んでいました。その挙句が、日本語教師にすら伝わらない発話力であり、相手の言葉を聞き取る力の欠如であり、理科や数学の問題文の理解すらままならない読解力でした。

先学期は受験講座を受けませんでしたが、今学期から復活しました。数学ではS先生に力を見せつけているようですし、理科でも鋭い質問を発しています。他の学生の質問に対する私の回答にも、耳を傾けています。暗記から脱して、“なぜ”を追求し始めている気がします。

そして、コミュニケーション力も伸びてきたのではないでしょうか。1人で黙々と問題を解くのではなく、疑問点を質問して解消するという勉強法を取るようになったのだとしたら、大きな進歩です。日本語でそういうやり取りができようになったら、理数系の基礎学力やセンスはあるのですから、鬼に金棒です。大事に育てていきたいものです。

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太‥‥

7月22日(金)

「太る、やせる」は子供でも知っている単語であり、若者にとっては重大な意味を持っている単語でもあります。しかし、どうも「太る」の定着が悪いのです。聞いたり読んだりしたらわかりますから理解語彙ではあります。しかし、話したり書いたりしようとすると、上級の学生でも「太くなる」となってしまいますから、使用語彙のレベルには達していません。

確かに、太ると腕やウェストや脚が太くなりますが、でも、「太る」と「太くなる」は違います。「太る」は重さ、すなわちkgの世界の言葉であり、「太くなる」は直径、すなわちcmの世界の言葉です。「軽い」と「短い」が違うのと同じぐらい違うのです。にもかかわらず、「日本の食べ物はおいしいですから、1年で10kg太くなりました」なんてやっちゃうんですね。

「太る」も「太くなる」も、「太い」から生まれています。一方、「やせる」に対しては「細くなる」で、語形が全然違いますから、混乱が起きないのでしょう。「身も細る思い」という表現もありますから、「太る」の反対語は「細る」かもしれません。「やせ細る」とも言いますが、「やせる」という意味で「細る」を使うことはありません。そもそも、超級の学生だって「細る」などという単語は知りません。要するに「やせる」には語形の似た言葉がないのに、「太る」にはあぶない言葉がありますから、学生が間違えやすいのです。

そんな理屈はともかく、学生たちにちゃんと「太る」を使わせるにはどうすればいいでしょう。いきり立って力説したって無駄なことは証明されています。細く長く言い続けるほかないのでしょう。

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