Category Archives: 試験

どこで影を見るのやら

12月2日(金)

お昼に学校の近くを歩いていると、「本日は冬至です」というアナウンスが繰り返し聞こえてきました。そうかと思って振り返ると、ずいぶん長い影がアスファルトに伸びていました。杜氏の日の南中高度30.9°から計算すると、身長の1.7倍ほどの長さだったはずです。稚内は南中高度が21.9°なので、影の長さは身長の2.5倍近くに及びます。夕方の雰囲気ですね。

以前、夏至近くの沖縄へ行ったことがあります。影なんかほとんど見えませんでした。計算すると、私の身長で影の長さは5センチほど。見えるはずがありません。というか、影が見えない体験をしたくて、わざわざ日を選んで行ったのです。沖縄の梅雨明けは夏至の前後ですからお天気が心配でしたが、頭の真上からの日差しを味わえました。

さて、期末テストが終わると学校は静かになりますが、今朝はちょっとだけにぎわいました。おとといの期末テストの追試が行われたからです。にぎわったと言っても1クラス分の人数にも及ばないほどですがね。でも、残念ながら、その中に私のクラスのKさんの姿はありませんでした。噂によると、Kさんは、おとといの朝、布団の中で「あと3分だけ」と思っていたら、3時間寝てしまって、テストが受けられなかったそうです。追試が始まる時間になっても姿を現さなかったので、担任のM先生がメールや電話で連絡を取ろうとしましたが、応答はありませんでした。

Kさんは、来週、受験校のオンライン面接があるのに、一時帰国を計画していました。「オンラインですから国からでもできます」と言って、私たちが止めるのも聞こうとしませんでした。上述のように時間にルーズなKさんのことですから、時差を忘れて面接が受けられないということだってあり得ます。連絡がつかなかったということは、学校に提出した届よりも早く一時帰国してしまったのかもしれません。

Kさんの出身地は、鹿児島と同じくらいの緯度です。とすると、影の長さは身長の1.4倍程度。東京より多少短い影を引きずって街の中を闊歩しているのでしょうか。それとも家の中でゲームでもしているのでしょうか。面接の準備をしているような気は、全くしません。

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教師の敵

12月21日(木)

先週から今週にかけて、日本語教師養成講座で「評価・テスト」というタイトルで講義をしています。日本語に限らず、教えたらテストをし、その結果を評価するのが教師の仕事ですからね。

一口にテストと言っても、JLPTみたいな何十万人もの受験生がいるものから、KCPのクラスで行う20人ばかりのもの、あるいはアメリカのプログラムできている学生に実施しているオーラルテストなら1対1という小規模なものまで、種々雑多です。また、入学試験のように合格不合格を判定するテストもあれば、KCPの漢字復習テストのように満点が当然というテストもあります。しかし、どのテストも受験者の日本語力(読解力、語彙力、スピーキング力、…)を正確に把握することを目的としている点は変わりません。

私もそう考えて、できる学生しかできない問題から、できない学生でもできる問題まで組み合わせて、1つのテストを作ってきました。また、学生が勘違いや誤解を起こさないように質問文を考えたり、こちらの意図する答えが出るように問題文や解答欄を工夫したりしてきました。

ところが、ここに受験テクニックというものが立ちはだかります。これを使えば、読解本文の内容を理解しなくても答えが導き出せたり、選択肢を見ただけで答えが浮かび上がったりしてきます。これでは本当の日本語力を測定したことにはなりません。読解力がなくても読解テストでいい点が取れたら、その瞬間の学生はうれしいでしょう。しかし、そんな読み方ばかりしていったら真の読解力がつかないので、進学してから苦労することになります。N1やN2に合格しても、EJUで高得点をあげても、日本語がさっぱりわからない学生がいるのは、こんなところにその原因の一端があると思います。

私もそんな受験テクニックを教えることがありますから、被害者面ばかりはできません。いずれはこんなテクニックなしでも日本語を受け止められる人になってもらいたいです。

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必死に聞く

12月19日(火)

午前中は養成講座の授業でした。落ち着いた雰囲気の中で、日本語教育の歴史を語りました。歴史となると脱線ネタがたくさんあります。しかし、午後の予定を考えると力をセーブしておく必要があったので、ほどほどのところで抑えておきました。

午後は、代講で初級クラスに入りました。会話のテストをしました。普段受け持っていないクラスですから、学生の顔と名前が一致しません。ですから、ロールプレイをしている様子は録画しておき、本来の授業担当のY先生に見ていただくことにしました。そう伝えると、学生も安心したようでした。

その場でペアを発表し、課題を与え、セリフを書き、それを練習し、そして発表という段取りです。ペアと各ペアの課題を発表すると、教室中が喧騒に包まれました。会話”テスト“ですから、教師を利用するのはご法度です。私は教室中をうろちょろ歩き回って、母語で相談していないか監視します。喧騒の中でも日本語以外の言葉は耳に違和感が残りますから、案外わかるものです。“Aさん、国の言葉が上手になりますよ”というと、学生は恥ずかしそうに下を向いて、再び顔を上げた時から日本語に切り替えます。

さて、発表です。自然な発話をしてもらうため、ノートやメモを読み上げるのは禁止です。そうすると、文法がまだそんなに複雑ではないこともありますが、多くの学生が自然な発話に近づきます。このクラスも、自分たちが作ったストーリーを、情感を込めて演技してくれました。観客側の学生も、友達の演技を少しでも理解しようと、真剣に耳を傾けていました。

発表は時間を10分オーバーしました。それだけ長く会話を続けられるようになったと評価したいです。学生たちには、その点は褒め、今のうちから日本語を日本語で聞き、日本語で考え、日本語で反応するように、要するに、母語を介在させるなとアドバイスしました。今のうちからそういう訓練を積んでいけば、上級になるころには素晴らしい日本語話者になっているはずだと励ましました。

授業が終わったら、やっぱりexhausted状態でした。

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12月18日(月)

9時のチャイムが鳴り終わり、「おはようございます。では、出席を取ります」と宣言した時には、Jさんの姿はありませんでした。全員の名前を呼び終わる少し前に教室に入ってきたので、かろうじて遅刻は免れました。やけにさわやかな顔をしていたので、週末の入試面接はうまくいったんだろうなと思いました。

JさんはR大学の面接で痛い目に遭っています。機先を制されたというのか、調子を狂わされたというのか、とにかく緊張させられっぱなしで、まるで実力が破棄できずに面接が終わってしまいました。話すことにかけては相当な自信を持っていたJさんですが、天狗の鼻を折られた感じでした。

ですから、その次のO大学の面接は、同じ轍を踏まないようにと、慎重に準備を進めていました。先週の金曜日に、面接の最終チェックということで、こういう場合はどう答えたらいいかなど、私にあれこれと質問してきました。私は、JさんのR大学でのことを考え、面接官のペースに乗せられるなとアドバイスしました。

その甲斐があったのかどうかはわかりませんが、私に向かって親指を立てて、「先生、今度は手ごたえがありました」とにこやかに報告してくれました。もっとも、授業が始まっていましたから、Jさんばかりをかまっているわけにはいきませんでしたが。

これから先も、G大学やK大学を受けると言っています。年が明けたらそれらの大学の出願があります。もう慣れていることでしょうから、私が世話を焼く必要はないと思います。こちらも、試験本番直前に面接練習の相手をするくらいでよさそうです。

O大学の合否は、年内ギリギリにわかります。

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志望理由書と学習計画書

12月14日(木)

MさんはK大学への出願準備を進めています。午前の授業後、志望理由書と学習計画書を見てほしいと、私のところへ来ました。志望理由書と学習計画書は、A4・1枚の願書の一部分に設けられたあまり広くない空白に記入することになっていました。

Mさんは、志望理由書は思うところがたくさんあるようで、私の老眼にはかなり厳しい細かい文字ですき間なく書かれていました。国で働いた経験からこういう学問が必要だと痛感し、それが勉強できるK大学を志望するに至ったということがよくわかりました。

一方、学習計画書は、私にも読めるサイズの字でしたが、講義名をそのまま書いたようで、志望理由書ほどの熱意は感じられませんでした。“計画”という言葉に惑わされて、何年生で何の授業を取るという羅列に終わってしまったようでした。

全体として、志望理由にある、Mさんが必要としている学問と、それをどのように勉強していくかという学習計画とが結びついていない感じがしました。志望理由書はMさんにしか書けない内容でしたが、学習計画書は誰にでも書けるものでしかありませんでした。

Mさんが語りたいことは、志望理由にあります。しかし、このままこの願書を提出すると、面接での質問が学習計画に集中するおそれがあります。それはMさんにとっては不本意でしょうから、志望理由書と学習計画書を有機的に関連付けるよう指導しました。

K大学にしたら、学習計画書には、講義名ではなく、こんなことを学びたいと書いてもらった方が、Mさんをどう育てるかという道筋が立てやすいでしょう。大学は、何を教えたらいいかわからない学生ではなく、自分たちの教育によって成長した姿の見える学生を合格者として選ぶものではないでしょうか。

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上の空

12月8日(金)

9時5分前ぐらいに教室に入り、タブレットのwi-fi接続確認など諸々の準備をし、9字のチャイムが鳴り終わると出席を取ります。クラス全員の名前を呼び、顔を見て出欠を記録していくと、9時2分か3分ぐらいまでかかります。全員の出席を取り終わるか終わらないかのタイミングで、Lさんが駆け込んできました。ギリギリセーフということにしました。

連絡事項を伝え、授業を始めると、Lさんはいつになく落ち着きがありません。クラスの議論には加わらないし、教科書も見ているのかいないのかよくわからないし、時々スマホをいじっているみたいだし、明らかに心ここにあらずでした。授業の最後に、授業で扱った単語や表現を使って例文を書いてもらいました。Lさんも出しましたが、休憩時間にチェックすると、こちらの指示をまるっきり聞いていないようでした。

後半は選択授業で、Lさんは私のクラスにはいませんでした。しかし、授業後、忘れ物を取りに来たLさんを捕まえました。そして、「あんた、私の話、全然聞いてなかったでしょう」と追及すると、「先生、ごめんなさい。△▼X〇◆☆…」と訳のわからないことを言って、脱兎のごとく帰ってしまいました。

Lさんの周りの人の話を総合すると、どうやら入試の発表があったのか、午後からあるのかだったようです。受験シーズンには時折みられるパターンです。もし、発表があったのだとしたら結果が気になるところですが、現在まで何の連絡もありません。入試発表の場合、“便りがないのは悪い証拠”ですから、どうやら期待はできないようです。

月曜日は、慰めの言葉をかけるところから始まるのかな…。

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ただでは起き上がるな

12月4日(月)

SさんがA大学に落ちたと、担任のT先生に泣きついていました。本人は受かるつもりでいたようですが、現実は甘くなかったようでした。これから受験可能な大学を探し出して、大急ぎで準備しなければなりません。

学生にも楽天家と悲観主義者がいます。Sさんは前者だったようで、受けただけで受かった気になっていたみたいです。しかし、何かが足りなくて、落とされたのです。おそらく、Sさん自身が思っているよりも、Sさんに日本語力は高くなかったのでしょう。筆記試験が悪かったのか、面接でうまく答えられなかったのか、そこまではわかりませんが、楽勝と思っていた大学に落とされてしまったわけです。それを知った瞬間、楽天家Sさんは悲観論者となり、何をどうしていいのかわからなくなってしまったように見えました。

「受験ぐらい何とかなるよ」というぐらいの気持ちでいないと、受験生の精神は持たないでしょう。しかし、それが許されるのは、勉強してきた学生です。しかし、Sさんは根拠のない楽天家でした。勉強不足がたたって、この結果を生んだのです。「もっと勉強しろ」とは、入学以来ずっと言われ続けてきているはずです。「そんなに頑張らなくてもA大学ぐらい受かるよ」という希望的観測が、見事に打ち砕かれました。

Sさんに限らず、人間はだれしも痛い目に遭わないと教訓が得られない生き物です。教訓を次に生かせるかどうかで、その人の真価が見えてきます。T先生に泣きついたSさん、あなたの人間力が測られるのは、これからの受験ですよ。

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鉄の団結

11月20日(月)

私は、先週の中間テストで、月曜日のクラスの文法と作文の採点を担当しました。文法の結果はかなり悲惨なもので、クラス平均がかろうじて合格点を上回ったという程度でした。満点に近い学生がいる一方で、合格基準点に遠く及ばなき学生も何名かいました。

答案用紙を返却し、まず、ノートや教科書を見てもいいから、間違えたところを自力で直せという指示を出しました。そうはいっても隣の友だちと相談したくなるのが人情で、クラス内あちこちから「ここはこういう答えだったのか」といった声が聞こえてきました。しかし、教室のある一角からはそんな声も上がらず、学生たちは黙って自分の答案用紙を見て言いました。まじめな学生たちかと言ったら、さにあらず。その一角に点の悪い学生が集まっており、お互いを参考にしようにも全く参考にならないという、お恥ずかしい一団だったのです。

頃合を見計らって、全体の答え合わせをしました。やる気のある学生からは、自分のこの答えはなぜ×なのかといった質問が飛んできましたが、“一団”はスマホいじりに余念がありませんでした。答え合わせが終わったところで、「じゃあ、答えを直した答案用紙を回収します」というと、“一団”は青くなって一団外の学生の答案用紙をどうにか手に入れて、必死に写していました。こんないい加減なことをしているから点が取れないのであり、実力も伸びないのです。

何より、“一団”で行き先が決まっているのはわずかに1名。類は友を呼ぶとはよく言ったものです。でも、のん気に構えている暇はありません。今学期中に目鼻を付けなければならないのですから。

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最悪から這い上がれ

11月16日(木)

Kさんは、先週金曜日、滑って落ちるという、受験生にあるまじき行為で足にけがをしました。重ねて今週月曜日にも、足をかばったのでしょうか、同様の状況でけがをひどくしました。そんなわけで、火曜日の中間テストも欠席でした。しかし、今週末、志望校の面接試験があります。Kさんにとっては初めての入試面接です。もとはと言えば金曜日に面接練習をする予定でした。それを火曜日の中間テスト後に変更し、それもできなくなってしまいました。昨日の夜、「明日、学校に行って、授業後に面接練習します」というメールが届きました。状況を確認すると、歩いて登校できるとは到底思えませんでした。案の定、今朝も登校できず、その代わり、「午後、オンラインで面接できませんか」というメールが来ました。

午前の授業が終わった空き教室を借りて、オンライン面接練習をしました。私は、zoomを使うのも久しぶりでしたから、こっそり復習をして、面接練習に臨みました。

画面に映るKさんは上半身だけですから、けがの様子はわかりません。そうしたら、けがをしたばかりの、内出血して腫れた足の写真をわざわざ見えてくれました。証拠写真のつもりだったのでしょうか。

肝心の面接練習は、弁が立つKさんですから、サクサク進みました。でも、「貴校のキャンパスはすごく素敵だと思いました」といった感じで、志望理由などの内容が薄かったです。初めてでしたから、しかたがないのかな。

そういった点を指摘すると、Kさんはいつもとは打って変わって、神妙な顔つきで聞いていました。そして、明日も面接練習をすることにしました。Kさんなら、軌道修正をしてくれるでしょう。

そして、今週末の本番ですが、無理してスーツを着ていくよりも、ジャージに松葉杖ぐらいの方が、同情を誘っていい結果につながるでしょうか。難しいところですね。

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打ち上げ

11月15日(水)

昨日の作文、読解、文法、漢字に引き続き、選択授業の聴解の中間テストをしました。私が担当しているのはビジネス日本語で、ビジネス日本語能力テスト(BJT)の問題を中心に授業をしています。ですから、その中でやさしそうな問題を選んで、中間テストにしました。

テストが終わり、解答用紙を回収してすぐに、今聞いたばかりの問題を再び聞いて、答え合わせをしました。「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、“わからなかった”“間違えた”“これでいいんだろうか”などといった意識が残っているうちに、どこが悪かったか気づいてもらおうという計算です。

やさしそうな問題にしたつもりだったのですが、今までの授業でやっていない問題ばかりでしたから、学生たちには手ごたえがありすぎたようです。ビジネスの世界で使われる日本語となると学生にはなじみが薄く、2回目を聞いても顔をゆがめている学生が多かったです。

学生たちは、音声そのものは聞き取れているのですが、耳慣れぬ語彙や表現があちこちに現れたことが、苦戦の原因でした。「社員食堂で打ち上げをしています」と言われても、何をしているのかわからなかったというようなところです。学生にとって、“打ち上げ”と言えば、ロケットでしょう。

KCPの学生は多くが進学しますが、就職を考えている学生も、少ないながらいます。この選択授業も、興味本位ではなく、近い将来に役立つだろうと考えて取っている学生もいます。そういう学生の力になれるよう、期末に向けて特訓メニューを考えていきましょう。

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