Category Archives: 成績

はようけんかい

12月15日(木)

期末テスト1週間前ですから、テスト範囲を発表しました。期末テストが近づいてきたということは、再試や追試も早く受けなければならないということです。身に覚えのある学生は、今まで目を背けてきた現実に正対しなければなりません。各クラスの教師は声をからして早く受けろと叫び続けていますが、学生たちの動きは鈍いままです。

私が受け持っているクラスは、今週から声をかけていますが、月曜日から木曜日までで受けた学生はわずかに2名。不合格のテストをいくつも抱えている学生が何名かいますが、彼らは動く気配すらありません。上級ともなれば、受けるべきテストを受けなかったらどうなるかわかっているはずです。それでも何とか逃げ切れればという淡い期待を抱いているようです。

テストは逃れることができても、その範囲の文法や語彙や漢字などが覚えずじまいで終わってしまったら、いずれはそのツケを払わなければなりません。学生は、というか、若者は一般に、テストみたいな、追い立てられるような強制力がないと勉強しないものです。そのきっかけを与えているのが学校なのです。そこのところを理解できず、後悔するのが中年過ぎです。

いいや、中年まで至らずとも、進学してすぐに後悔の念にさいなまれる卒業生は枚挙に暇がありません。A大学に受かったBさん、あんた今のままじゃ授業が始まって1週間で、漢字が読めなくて落ちこぼれちゃうよ。5月病のはるか以前に引きこもりになっちゃいますよ。昨日T専門学校から合格通知をもらったJさん、その専門学校は授業が厳しいことで有名なんですよ。今のままじゃ教科書すら読めずに2年間終わっちゃうよ。

…何はともあれ、尻をたたき続けねばなりません。

どんな受験

9月8日(木)

7月のJLPTの成績を見てみると、N1は、初級は玉砕と言ってもいい状況です。N2にしておけば愛かったかもしれないのにという学生も少なくありません。中には、志望校の受験資格が「N1」だから討ち死に覚悟で受けた学生もいます。でも、大部分はN1に対する憧れか自分の実力に対するうぬぼれです。

憧れで受けた人は、自分はN1を受けたという実績がほしかったのです。健闘むなしく敗れ去ったという悲劇にヒーローになって、自分を美化したいのかもしれません。「お前の力じゃ西から日が昇っても絶対無理だ」と言っても有名大学を受けようとする学生に通じるものがあります。受験したことで満足できるのなら、N1で70点取った自分を可愛いと思えるのなら、受験料がちょっともったいないと思いますが、それでいいと思います。

うぬぼれ組は、落ちたことで目が覚めてくれれば受けた甲斐があります。自分の真の実力を知り、本気で勉強し始めるきっかけになれば、この受験も有意義だったと言えます。しかし、そうはならない大天狗様がいるんですよね、毎回。基礎に戻って復習し、土台に開いている穴をふさがなきゃならないのに、やたら難しい単語ばかり覚えようとします。この手のやからは、決して読解をしようとはしません。「わからない」を突きつけられるのが怖いからです。わかった気になれる語彙や文法の暗記に走るのです。授業でも、わかったつもりばかりで、成績が低迷していることが多いです。でも、自分の実力のなさを認めようとしないんですね。

初級は確かにボロボロでしたが、中級になると、とたんに合格率が上がります。メンバーを見ると、中には初級同様の憧れかうぬぼれの学生もいるようですが、大半は自分の実力を知ろうとして試験に臨んだ学生たちであるようで、その多くが合格しました。ぴったり100点(合格最低点)とか、かろうじて数点上回っただけとかという学生もいますから、合格者が多いからといって手放しで喜ぶわけにもいきません。

12月のJLPTの出願受け付けをしました。やっぱり、「何考えてんだ、こいつ」って言いたくなるレベルに出願した学生もいます。どの学生にも、次につながる受験をしてもらいたいです。

9月2日(金)

Lさんは漢字のない国から来て、初級から順調に進級してきて、上級に手が届くレベルにまで達しました。しかし、今学期はピンチです。中間テストは、読解が不合格で文法もやっと合格という成績でした。漢字・語彙は、かなり勉強したのか、漢字の読み書きはパーフェクトに近い成績でした。しかし、文意に合う語彙を選ぶ問題はたくさん間違えていました。つまり、伸び悩みの原因は語彙力不足だったのです。

漢字は、ひたすら何回も書けば手が覚えてくれます。書いた漢字の上に振り仮名をつければ、読みも覚えられるでしょう。しかし、そうやって覚えた漢字の言葉をどこでどのように使うのかは、そう簡単に身に付きません。また、漢字が読めるのと、その漢字が使われている文の意味が理解できるのとは違いますし、ましてや漢字の言葉がたくさん出てくる文章全体の内容の把握となると、読み書きの力が直結するわけではありません。

Lさんは、今、そういうことを痛いほど感じています。私がLさんに語彙不足を指摘すると、Lさんは涙を流しました。悔し涙でしょう。自分に対する無力感、自分の目の前にある壁の高さに対する絶望感を抱いているのかもしれません。ここからもう一段高いところへ上るには、この壁を打ち破らなければなりません。

中級は、多くの卒業生が一番辛かった時期として挙げるレベルです。勉強疲れと伸び悩みとゴールの遠さと、そういった諸々が一気に押しかぶさってきます。Lさんは、その一番辛い時期にさしかかっているのです。中間テストの間違い直しをした後に見せてくれた笑顔に、望みをかけたいです。

主体性

7月27日(水)

6月のEJUの結果が届いてから、いろんな進路相談を受けています。「どこに出願したらいいでしょうか」は、学生たちの本心からの相談でしょうが、ちょっと主体性に欠ける質問だと思います。

思惑よりも成績が上がらなかった学生も、うろたえて弱気になって逃げを打つようなことでは、退却先からも再度退却する羽目に陥るでしょう。EJUが悪かった分を大学独自試験で取り戻したいが、そのためにはどうしたらいいかというくらい、前向きになってもらいたいです。二の矢をどこに向けて射るべきか、すぐに頭を切り替えて立て直しを図るべきです。

もちろん、強気ばかりではいけません。引くべきところは引かなければ、卒業式のころになっても無所属新人ということになりかねません。理想や夢は持ち続けなければなりませんが、私たちはおとぎの国に生きているのではありません。現実を冷静に分析する力もまた、最終的に夢を実現するためには必要です。

逆に、高得点で欲が出てきた学生もいます。それはいいことなのですが、自分の持ち点で受かりそうな大学で、一番偏差値の高いところはどこかというのも、いかがなものかと思います。そこには自分は何のために進学するのか、なぜ日本で勉強するのかという、留学の根本をなす発想、自分の人生に対する問題意識が忘れ去られています。こんな学生は面接で落とされるでしょうし、受かったとしても、大学生活は長続きしないでしょう。

微妙な点数の学生は、11月のEJUを受けたほうがいいかと聞いてきます。余裕で志望校に受かる点ではないけど、11月までEJUの勉強を続けるのも気が進まないのです。11月のほうが点が伸びる保証はありませんが、だからと言って受ける権利も確保しておかないのは、得策ではありません。権利はいつでも捨てられるけど、持っていなかったら捨てることすらできません。

迷える子羊の道案内で、バザーの品物を見る暇もありませんでした。

復活

7月26日(火)

Hさんは6月のEJUの結果が思わしくありませんでした。去年の11月よりは上がりましたが、ほんの数点でした。数十点上げて、余裕を持って第一志望のG大学に出願するという目論見は、もろくも崩れ去ってしまいました。第二志望のM大学に対しても、自信を失ってしまったようです。G大学やM大学よりもランクを落としたところには進みたくなく、それだったら国へ帰ると言い始めました。

「帰国したらどうするの?」「前に勤めていたところにまた勤めます」「そもそもHさんは、どうして日本に留学しようと思ったんですか」「前の仕事がおもしろくなかったから…」「それじゃあ、前の職場に戻ったら全然意味がないんじゃない?」「はい、そうですねえ」「何かをつかむために、変えるために日本へ来たんだったら、G大学やM大学じゃなくても、Hさんが勉強したいことができる大学を探すべきなんじゃないかな」

こんな会話を交わした後で、過去のG大学合格者のデータを見てみました。すると、Hさんと同じような成績で受かった人もいることがわかりました。もちろん、Hさんよりずっといい成績でも落ちた例もありました。ということは、G大学はEJUの成績が絶対ではないのです。自分のところでする試験や面接のほうを重視するのでしょう。M大学も、可能性がないわけではありません。Hさんは面接で点が稼げるタイプの学生ですから。

今にも国へ帰りかねない様子のHさんでしたが、どうにか11月のEJUの願書を買うまでに気持ちが前向きになりました。

低度

7月21日(木)

私のクラスのTさんは、今学期、初級の同じレベルをもう一度勉強することになった学生です。全然できないわけではなく、Tさんの最大の問題は、よく休むことです。よく休むから受けなかったテストもあり、それが足を引っ張って進級できる成績が取れなかったのです。

Tさんも、新入生だった先学期、自分では思ってもみなかった低いレベルに入れられ、勉強がつまらなくなってしまいました。授業中に新しい発見ができなかったのです。じゃあレベル判定が間違っていたのかというと、決してそんなことはありません。Tさんの話し方を聞いていると、今のレベルで勉強する内容の抜け落ちが随所にあります。つまり、授業中に新しい発見はいくらでもできたのに、自分の手で自分の耳目をふさいでしまったため、全く進歩ができなかったのです。

残念ながら、今学期のTさんもその点は変わっていないようです。自分はできると根拠もなく信じているので、正確さが欠けたままです。指摘してもケアレスミスだからと軽く流されてしまいます。でも、Tさんの実力はそのケアができない「低度」なのです。日本語教師なら理解できますが、Tさんの志望校の面接官は、Tさんの日本語でTさんの熱き思いを感じ取ることはできないでしょう。

そして、今日も14分の遅刻。授業中もみんなが口を開いて練習しているのに、やる気のなさそうな視線を下に向けているだけ。この調子が続けば、来学期も同じレベルかもしれません。

Tさんもやっぱり一度痛い目に遭わないと、自分の実力を正面から見つめることはしないのでしょう。

いい人生

7月1日(金)

Sさんは、初級にしては読ませる文章を書く学生です。作文の採点はしんどいですが、毎週の課題に対してSさんがどんな切り口でどんなツッコミをしてくるかを読むのが、今学期の密かな楽しみでした。期末テストの作文も、十分に楽しませてもらいました。ところが、最後の最後に来て、「自分らしい人生はいいと思う」という、それこそどうでもいいようなまとめの文に出会ってしまいました。そこまでの文章に引き付けられていただけに、半端な落胆ではありませんでした。

初級の教師として、他の学生とも公平に採点するなら、「自分らしい人生はいいと思う」で十分でしょう。でも、それまで男らしいとか女らしいとかは何かという深い議論を繰り広げていましたから、結論で「いい」などという、意味が広くて便利で使い勝手がよすぎる、初級の入口で勉強する言葉を使ってほしくなかったです。ちょっと辛口だと思いつつ、そういう意味のことをSさんの作文のコメントに書きました。

私は上級の作文を見ることもありますが、Sさんの作文は内容的にはそれらに伍していけます。語彙や文法が難しすぎない分だけ、妙に議論をこねくり回すことがなく、素直で心に響きます。ですから、Sさんには中級以降で「いい」に代わる、ピンポイントで自分の心や頭の中を表すことばの使い方を覚えて、その文章にさらに磨きをかけてもらいたいと思っています。

次にSさんと会えるのは、上級の教室でしょうか。そのときまでにどんな成長を遂げているでしょうか。初級でまいた種を上級で刈り取る楽しみは、こんなところにあるのです。

休んでる場合じゃないよ

6月28日(火)

期末テストの成績が順調に集まってきています。明らかに力が劣っていたEさん、Rさん、期末テスト直前に全然学校へ来ていなかったLさん、自ら観念してテストを受けなかったPさんたちは、来学期も同じレベルで勉強してもらうことになります。しかし、今月に入ってから病欠が続いたSさんとFさんは、かろうじてですが合格点を取りました。そのほか、かなり危ないと思っていたDさんもJさんも、進級できる成績を挙げていました。

Sさんたちは、今、進級できるかどうか非常に心配しているに違いありません。明日かあさってか、学校に問い合わせてくることでしょう。聞かれたら正直に答えますが、進級できるからといって、あまり喜んでもらいたくはありません。自分たちはボーダーラインのほんのちょっと上でしかないんだということを、いっときたりとも忘れないでもらいたいです。新しいクラスでは、最下位を争うグループの一員です。いや、中心メンバーと言うべきでしょうか。

「進級できるけれども、うちで今学期の復習をしっかりしておかないと、次の学期は大変なことになるよ」と問い合わせの際に付け加えますが、学生はそんな言葉はどこかに置いていってしまいます。先学期末、RさんやJさんはそういうことを言われて進級したはずなのですが、授業初日にはしっかり退歩しており、マイナスからのスタートでした。それが最後まで挽回できず、差が開く一方で、来学期は進級できなくなってしまいました。これと同じことを、Sさんたちにはしてほしくないのです。

この時期、授業こそありませんが、学生の日本語との戦いは続いているのです。油断は禁物です。

もう忘れたの?

5月27日(金)

初級クラスのYさんは、中間テストで全科目不合格でした。Yさん自身も自分はできないと気づいていて、授業は午後からですから、毎日午前中学校へ来て、K先生の出した課題をやっています。課題をしに来たKさんを捕まえて、自身の現状をどう考えているか面接しました。

Yさんは国立大学に進学したいと言いました。6月のEJUは出願したものの、今の力では高得点は無理だろうと思っています。ここまでの認識は正しいのですが、11月については楽観視しているようなのが気にかかりました。初級のテストで赤点を取っているようじゃ、国立大学は絶望的です。

1日の勉強時間が3時間、その3時間でK先生からの課題や宿題をやるそうです。アルバイトはしていないそうですが、していなかったらもっとたくさん勉強時間が取れるはずです。Yさんははっきり言いませんでしたが、遊んでしまっているのでしょう。「3時間」という勉強時間だって、怪しいものです。

面接後、中間テストの答案を見せて、間違えたところを直させました。漢字はどうにか正解にたどり着きましたが、文法は、教科書やノートを見てもいいと言ったのに、いつまでたっても直せませんでした。その問題が教科書の何課を対象にした問題かがわからないのです。それに加え、下のレベルで習ったことが身に付いていません。ですから、教科書のどこを見れば間違いが直せるかがわかりません。

Yさんは下のレベルで勉強したことを忘れてしまったと言います。間違い直しに必要な文法が出ている教科書のページを示しても、それをどう応用すればいいか見当がつかないようでした。それを1つ1つ解きほぐしていったら、あっという間に1時間が過ぎてしまいました。ろくな復習をしてこなかったんだなと思いました。

午後の授業中、Yさんはスマホを見ていました。あーあ…。

正道に

5月26日(木)

中間テストの成績が出揃い、頑張った学生と頑張りが足りなかった学生とが見えてきました。

頑張った学生はDさんでしょう。学期が始まったばかりの頃はおどおどしているかニコニコしているかで、授業がわかっているようには見えませんでした。出された宿題を見ると、問題文すら十分に理解しているとは思えませんでした。案の定、テストの成績は思わしくなく、毎回再テストを受けていました。しかし、中間テスト直前になると、線がつながって電流が流れ始めたみたいに、Dさんの書く文や話す言葉のレベルが上がりました。もしかすると…とほのかな期待を抱いていたら、中間テストでは見事に合格点を取りました。

Kさんは油断大敵組です。学期の初めは「こんなの余裕でわかるもんね」っていう顔をして授業にも身を入れていませんでした。授業がちょっと進むと、わからないところが出てきたのか、教師の言葉に耳を傾けるようになりました。それでも、どこかで自分はできるんだという過信があり、妙に凝った答えを言ったり書いたりしては自滅していました。中間テストではDさんより下になり、かろうじて合格という成績でした。ここで気を引き締め、謙虚な気持ちになってくれれば、元がそんなに悪くないのですから、復活可能です。

Kさんを見ていて、去年のZさんを思い出しました。ZさんもKさんと同じレベルの新入生で、自分はこんな下のレベルで勉強するような学生ではないという大天狗様でした。難しい言葉や文法を振り回そうとしていましたが、基礎部分に抜け落ちがありましたから、それが空振りに終わり、とうとう進級できませんでした。これでKCPに嫌気が差したのか、Zさんが言っていた志望校には遠く及ばないレベルの大学に、最終回の募集で滑り込みました。Kさんにはこんな道を歩んでほしくないです。

努力不足はEさんです。宿題の提出率が悪く、授業に集中している様子もなく、本人は「勉強しています」と言っていましたが、とてもそうは思えないような間違いを犯していました。中間テストは、合格点に20点近く足りない成績でした。このままでは、進級が難しいです。早く穴を埋めさせなければなりません。

来週から、この中間テストの結果をもとに、各学生と面接をします。頑張った学生にも頑張らなかった学生にも、道を過たないように指導していきます。