Category Archives: 卒業生

学園祭で休み

11月1日(木)

午後、職員室で受験講座の準備をしていると、2人の学生がもじもじしながら声をかけてきました。そのちょっと前から職員室内のテーブルで何か書いていましたから、どこかのクラスの再試の学生かもしれません。私のクラスの学生ではありません。でも、私のそばに何人かの先生がいらしたにもかかわらず私に声をかけてきたということは、時節柄、進学相談かもしれません。「えっ、私?」と聞きながら2人の顔をよく見てみると、今年の3月に卒業したRさんとSさんではありませんか。さっきまで取り組んでいたのは、近況報告の用紙でした。

聞いてみると、学園祭で休みだからKCPまで顔を出しに来たそうです。週末まで、Rさんの大学は5連休、Sさんの大学は4連休です。

「そんなに休んじゃったら、高い授業料、もったいないじゃない」「あ、そういえばそうですね」「学園祭は何もしないの?」「はい、やる気になっているのはごく一部の学生で…」「RさんもSさんも一部じゃないほうなんだ」「ええ、まあ」

…というような会話を交わしながら2人の近況報告を読むと、理系のRさんはけっこう忙しそうですが、文系のSさんは“遊びと両立”なんて書いてあるくらいですから、そんなに忙しくもないようです。学生たちは、入試の面接練習の時には「勉強のほかにサークル活動もして…」などと言っていますが、実際には無所属が多いみたいです。日本人と交わるにしても、限られた範囲なのでしょう。

明日はKCPの学園祭みたいなBBQ大会です。各クラスでそれぞれ準備が進んでいます。お天気は心配ありませんが、料理の味はどうでしょうか…。

ヘアスタイル

10月15日(月)

久しぶりにRさんに会ったら、髪が短くなっていました。「ずいぶんすっきりしたねえ」と声をかけると、「はい。自分で切りました」と、はさみでチョキチョキするしぐさをしました。「自分で?」「はい。日本の(髪を切る)お見せには行ったことがありません」。

Rさんの実家は、髪を切るお金を節約しなければならないほど貧しいなんてことはありません。Rさんの口っぷりからすると、お金はあるけれども日本語でどう切るかを指示するのが難しくて、床屋や美容院へは足が向かないようです。Rさんは上級ですから、それぐらいのやり取りはできてほしいんですがねえ。

そこで思い出したのがOさんです。KCPにいたころは、自分で髪を切っていたかは聞いていませんが、Rさんと同じようにパッとしない風体でした。しかし、M大学に入ってしばらくしてから遊びに来た時には、ちょっとチャラい感じの“大学生”になっていました。間違いなく美容院で自分のしてもらいたい髪形を説明し、美容師とあれこれやり取りしてカットしてもらっていることが見て取れました。在学中はどちらかというと鈍重な雰囲気でしたが、会ったときは身のこなしも軽やかで、すっかり垢抜けていました。

Rさんも、2年後ぐらいにはそうなっているのかなあと思いました。なんだか信じられないような気もしますが、進学先で周りの日本人にもまれると、その影響を受けてごく普通の日本の大学生になるのでしょう。それは、日本語力の面では正しく「成長」でしょうが、人間的にはどうなのかな。でも、Rさんの第一志望校はM大学より田舎にありますから、今のRさんのいい意味での朴訥さは変わらないんじゃないかな…。あれこれ想像を膨らませました。

SSSSSSS

9月26日(水)

久しぶりというか、初めてかもしれませんね、あんなにいい成績表を見たのは。だって、Aがたった2つですよ、残りの10科目ぐらいが全部Sで。Aが2科目であとがBとCというのは何回も見てきましたが、Sがずらずらっと並んだのを見せ付けられると、圧倒されて言葉を失ってしまいます。こういうのを眼福というのでしょうか。

今年、R大学に進んだYさんが、成績表を見せに来てくれました。R大学は、Yさんにとっては余裕のある大学で、事実、留学生の中では絶対1番だと胸を張っていました。日本人にはかなりできる学生もいるけど、学年全体で上位にいることは確かだと言います。これだけ成績がよかったら来年の奨学金は堅いねと言うと、まんざらでもなさそうに笑っていました。それでも、レポートを始めとする課題は大変だとのことでした。留学生向けの日本語は楽勝だと言っていましたが、KCPの最上級クラスで卒業ですから当然ですね。

卒業したら、大学で入学したかったK大学あたりの大学院に進もうと思っているそうです。R大学にもK大学出身の先生がいらっしゃるそうですから、そういう先生に渡りをつけていただくことも考えておいたらいいでしょう。

鶏口となるとも牛後となるなかれと言います。無理してK大学に入って超低空飛行を続けるよりもR大学でトップを争うほうが、Yさんの人生を長い目で見た場合、よい結果をもたらすかもしれません。いい大学に入っても、ドベを争ううちに負け犬根性が染み付いてしまったら、何の意味もありません。たとえそのいい大学の卒業証書を手にしたとしても、そんな学生をほしいと思う会社はないでしょう。リーダー経験もさせてもらえないでしょうから、起業だってあやしいものです。入学から卒業まで好成績を続けると、プライドも風格も身についてきます。周りから頼りにされることが当たり前となり、リーダーシップも自然に身につきます。

YさんがR大学しか受けないと言ってきた時には少々がっかりもしましたが、こうしてSばかりの成績表を見せられると、これでよかったんだねと思えてきました。

懐かしい顔

8月10日(金)

「卒業生のDさんが来ています」と声をかけられても、そのDという名前に記憶がありませんでした。8月、大学が夏休みになると、春にKCPを卒業した学生が顔を見せてくれることがよくあります。今年の1月期は上級クラスを受け持ち、多くの卒業生を送り出しましたが、Dという名前には心当たりがありません。でも、呼ばれているとなったら出て行かざるを得ず、ロビーのカウンターまで行きました。

すると、そこに立っているのは、今春の卒業生ではなく、何年か前の卒業生のDさんではありませんか。メガネをかけるようになっていくらか顔つきが変わりましたが、それでも卒業時の面影が十分に残っていました。思わず目を見開き口を押さえ、最大限のビックリの表情をしてしまいました。「先生、4年生になりました」といいますから、さらにもっとビックリ。毎度のことですが、卒業生に会うと8時間軸がぐちゃぐちゃになります。

Dさんはレベル1で入学し、最上級クラスで卒業しました。在学中は努力を欠かさないまじめな学生でした。私は入学の学期と卒業の学期を受け持ちましたから、より一層思い出深い学生です。その努力が実り、ある豊かな歴史を誇る街の国立大学に進学しました。入学以来3年余り、東京の喧騒を懐かしむことなく勉学に打ち込み、大学院も推薦で進学できることがほぼ決定しているそうです。その大学のパンフレットに出ていると言いますから、後でインターネットで確かめたら、Dさんの後輩に向けた一言が、写真付きで載っていました。

アルバイトの時給が安いといいながらも、充実した学生生活を送っていることがよくわかりました。東京からは遠いけれども是非KCPの学生にも来てほしいと言っていました。大学のおすすめリストが、また1つ増えました。

卒業生の声

8月6日(月)

今朝、メールを開くと、おととい進学相談に来たJさんから、A大学に出す学習計画の下書きが届いていました。大筋の内容はできているのですが、ストーリーの持って行き方が拙く、読んだ後の印象が薄いです。やる気が湧(沸?)いているうちにどんどん準備を進めるべきですから、私もすぐに上述のような意見を書いて返信しました。

ところが、教室に入ると、Jさんの姿がないではありませんか。メールの受信日時が昨日の夜になっていましたから、精根尽き果てて休んでしまったのでしょうか。でも、それでは本末転倒です。出てきたら、厳重注意です。

授業後はYさんから進学相談を受けました。Yさんは、留学生にしてはちょっと珍しい法学部志望です。C大学とH大学を本命としているのですが、両大学とも法学部は看板学部ですから、そう簡単に入れてくれません。滑り止めというか、現実的に勝ち目がありそうなところはどこでしょうかというのが、相談の趣旨です。

こういうときに私が薦めるのは、進学した学生が満足している大学です。すべての大学の教育システムややカリキュラムやキャンパスの雰囲気や留学生支援体制などに精通できるわけがなく、パンフレットやホームページも目を通すことができるのはごく一部に過ぎず、ということで、頼りになるのは卒業生が遊びに来た時の声、実際に進学した学生たちからの生の情報です。

私が耳にしている声では、M大学、F大学、S大学あたりは、進学した卒業生がみんないい大学だと言っています。G大学も、進学した学生が愛着を持っています。逆に悪い評判を聞いているのは……こちらはイニシャルだけでもやめておきましょう。

わが道を行く

7月28日(土)

T専門学校が、KCPを卒業してそこに進学し、そこを卒業した学生の進路を報告してきてくれました。その報告には、2年前の卒業生・Cさんの名前もありました。Cさんの欄には帰国と記されていました。

Cさんは、KCPに入学したときは、大学院進学希望でした。弁も立ち、文章も書け、読解力もありましたから、学力・能力の面では大学院進学に関して問題はありませんでした。しかし、Cさんは、自分が本当にやりたいことは大学院に進学したら実現できないのではないかと当初の計画を考え直し始めました。さんざん悩んだ末に出した結論が、T専門学校への進学でした。国の両親ともだいぶ議論を戦わせたようでした。

T専門学校に進学した後、何回かKCPに顔を出してくれたようですが、私が会えたのは1度だけでした。そのときは、T専門学校での勉強はとてもおもしろく、進路を変更してよかったと生き生きとした顔で語ってくれました。しかし、Cさんが選んだ専門は日本での就職は非常に難しく、送られてきた報告によると、やはり日本には残らなかったようです。

やりたいことは趣味としておき、大学院に進学していれば、Cさんの優秀さからすると、日本で就職できたに違いありません。私はそう考えて今まで生きてきています。でも、Cさんはそういう生き方を潔しとしなかったのでしょう。やりたいことを徹底的に追及するのも若さの特権だと判断したのかもしれません。

Cさんが国で就職できたかどうかはわかりません。楽しい思い出だけでは食べていけないことも事実です。でも、尾羽うち枯らしたCさんの姿は想像したくはありません。自分のやりたいことをやりとおしたのだと自信を持って歩んでいてもらいたいです。

差をつける

7月11日(水)

夕方、3月にKCPを卒業してM大学に進学したLさんが遊びに来ました。大学は楽しく、日本人の友達もできたけど、日本語の授業は簡単すぎると言っていました。Lさんは最上級レベルまで進みましたから、大学の留学生向けの日本語授業では、物足りないに決まっています。留学生の中では自分の日本語が1番だという自信があるとも、誇らしげに語っていました。

それどころか、日本人の学生よりも日本語のテストの成績がいいこともあるそうです。つい先日、敬語のテストがあり、そのテストでは合格点が取れなかったおおぜいの日本人学生を尻目に、Lさんは余裕の合格点だったとか。日本人の大学生は、大学に入ると受験勉強で身に付けた知識を忘れ、敬語は就活の直前に覚え直しますから、KCPでがっちり訓練していたLさんの敵ではなかったようです。

KCPの超級では、普通の社会人が読む文章を教材に使っています。新聞記事や小説や新書やエッセイや対談など、広範なジャンルを扱っています。うっかりすると、読書時間ゼロなどとのたまっている大学生などより、よっぽど日本語の活字に触れています。ですから、LさんがM大学の日本人学生よりもいい点数を取ったとしても、全く驚くには当たりません。このままいけば、卒業生代表も夢じゃないね‥‥なんて、からかってしまいました。

今学期から、上級では授業の進め方をガラッと変えました。考えて議論して発表してと、寝ぼけてぼんやりしている暇など1秒たりともありません。こんな授業をしていたら、日本人学生との間にますます差がついてしまいますね。大学から抗議されてしまうかもしれません。

いい大学とは

7月9日(月)

R大学の留学生担当の方がいらっしゃって、大学生活や大学・大学院の入試について説明してくださいました。あいにく始業日前でしたからあまり学生が集まりませんでしたが、参加した学生たちは非常に有意義な話が聞け、耳寄りな情報が手に入ったと思います。私も学生に交じって話を聞かせていただきました。私ですら行きたくなったのですが、現役の学生はなおのこと興味が引かれたのではないでしょうか。

R大学は伝統のある大学ですが、最近とみに勢いが増してきた大学だとも思います。社会の変化に対応して新しい学部を次々につくってきました。既存の学部に学科を設けるより、新たな学部を創設するほうが、大学そのものがその学問・研究に真正面から対峙しようとする意気込みを感じます。対官公庁の書類作成や折衝にもかなりのエネルギーを要したことでしょう。それを乗り越えて新時代を担う若者を育てようという心意気に拍手を送りたいです。

何より、R大学は、KCPから進学した学生たちが異口同音にいい大学だから是非後輩にも勧めてくれと言っています。有名大学でも進学した学生の口からよからぬうわさを聞くことが多い中、R大学とS大学はそういう話を全く耳にしません。これだけ学生を満足させるには教職員の皆さんのご努力がいかほどのものなのか、多少は想像がつきますが、私などうかがい知れぬものがきっとあるものと推察します。

今年はどんな学生がR大学を志望するでしょうか。どんな学生を送り込もうかなあと、R大学の方がお帰りになってから、あれこれ考えてみました。

進学先

7月3日(火)

昨日休んだら、机の上に書類が山のように積みあがっていました。多くが専門学校や大学から送られてきた学校案内や募集要項、オープンキャンパスのポスターなどで、何となく去年より出足が早いような気がします。日本人の18歳人口が減り続けているにもかかわらず、高等教育機関は増え続け、各校は留学生の確保に走っているというのがもっぱらの噂です。

私は、日本人学生がいないからといって、その代わりを安易に留学生に求めるのは間違っていると思います。サポートの体制が整わないうちに留学生を受け入れると、留学生の人生をつぶしてしまいかねません。いわゆる出口の問題を大学・専門学校と国が力を合わせてどうにかしなければなりません。現状では高等教育機関が留学生につけさせた実力を日本の国が全体として有効に活用しているかといえば、決してそうとはいえません。サブカルを楽しむにはいい国だけど、自分の一生を捧げるには疑問を覚える国なんじゃないでしょうか、留学生にとって日本は。

そんな中、M大学の方が入試の説明に来てくださいました。M大学には何年か前にGさんが入学しました。その後しばらく経って、悩んだ顔をしてKCPへ来ました。みんなでよってたかって励まして、どうやら大学を続け、もうすぐ卒業というところまでたどり着きました。M大学の方の話によると、Gさんが悩んでいたことは前向きな形で解決し、着実に専門性をつけているようです。

そして、M大学は入学のときから出口も考えて指導していることがわかりました。誰もが、華々しい一流有名企業に就職できるわけではありませんが、本人の希望に沿ってやりたいことができる会社に送ってくれているようです。M大学では総合的な人間力を養うとおっしゃっていましたが、これは学生にとって一生の財産です。

学生を幸せにする大学

5月29日(火)

Yさんは今の校舎を建てている時の、仮校舎時代の卒業生です。J大学とS大学に合格し、母国でも名の通っているJ大学に進学しろという親と大喧嘩した末、自分の勉強したいことが勉強できるS大学に進学しました。S大学で大学院まで進み、就職戦線も勝ち抜き、大手のK社から内定を取りました。生まれて初めて親に逆らってまでS大学に入ったことが、日本人学生も羨むような会社への就職に結び付いたのです。

YさんがJ大学を受けたのも、やっぱり有名大学の学生になりたかったからです。しかし、面接練習の受け答えには鋭さが欠けていました。Yさんの本心を知っていたからかもしれませんが、いかにも作り物の答えというにおいがぷんぷんしていました。それでもJ大学に受かってしまったのですから、優秀な頭脳を持っていたのだと思います。

S大学のときは、包み隠さず本心を吐露すればそれが面接の答えになりますから、実にのびのびとこちらの質問に答えていました。パンフレットを読み、現地を見て、どうしてもこの大学で学びたいという気持ちが募り、それも面接本番に表情やことばのはしばしからほとばしり出たのでしょう。

世間的には本命のJ大学、滑り止めのS大学ですが、Yさんにとっては世間体のJ大学、本命のS大学でした。YさんがS大学で大いに努力したことは確かですが、それを苦しいとか辛いとか思っていませんでした。勉強したいことを勉強している喜びのほうがはるかに大きく、KCPへ来た時はいつも生き生きとした顔をしていました。その延長線上に、K社への就職内定があるのです。

やっぱり大学は名前よりも学問の中身です。明日は校内進学フェアですが、そこまで考えて大学担当者の話を聞いてもらいたいです。