Category Archives: 授業

フライング

8月15日(木)

朝、教室に入ったら、昨日学校を無断欠席したという引継ぎがあったZさんがいました。このクラスは、毎朝、前日に習った漢字の復習テストがありますから、普通の学生は、教室に入ると漢字の教科書を広げて、漢字の勉強をします。しかし、今朝のZさんは、机に突っ伏した状態で、勉強していた気配は感じられませんでした。出席を取った後、テストを始めると、Zさんも答えを書いていました。全くやる気なしのYさんよりはましな感じでした。

朝寝ていたからなのか、授業中のZさんは線がつながっていました。指名すると、それなりのことを答えました。最後の会話の時間も、相手の学生と議論を交わしていました。

欠席の理由を聞こうと、授業後Zさんを残しました。お腹が痛かったとか寝坊したとか、しょうもない言い訳を聞かされるのだろうと思いながら、一応聞いてみました。すると、「昨日授業があると思いませんでした」という、想像に輪をかけた救いようのない答えが返ってきました。おとといの中間テストで学校は終わりで、昨日から夏休みになったと思っていたのです。そうじゃないんだと、試験監督の先生が強調しまくったはずなのですが…。

さらに、「学校を休んで何をしていたんですか」と追及すると、「Oさんと海へ行きました」という何とも能天気な行動が発覚しました。「じゃあ、Oさんも昨日休んだんですか」「いいえ、Oさんは出席しました。午後から海へ行きました」。Oさんから夏休みはまだだと聞かされて、今朝は慌てて登校したのでしょう。

半分呆れていると、「海でA大学の女子学生に声を掛けました。会話の勉強、楽しかったです。連絡先を交換しました」と自慢げに付け加えるではありませんか。「その“A大学”は絶対ウソだよ」と目を覚まさせる気も失せました。もはや、心ははるか遠くの世界にまで飛んで行ってしまっているのです。

授業後、Zさんのテストを採点すると、かろうじて合格点はキープしていました。帳尻合わせだけはうまいんだよね、こいつ。

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傘を刺す?

8月2日(金)

「漢字は、みなさん、予習してきましたね。調べてもよくわからなかったことがあったら質問してください」と漢字の授業の最初に声をかけると、何人かの手が挙がりました。「泥棒すると盗むは同じですか」「泥酔すると酔っぱらうは同じですか」「刺すは傘にも使いますか」「殺人的は激しいですか」「棒読みはどんな読み方ですか」「足が棒のようになるはどうなるんですか」「殺菌作用の作用と機能は何が違いますか」「日本は1年に何人ぐらい自殺者がいますか」…といった具合に湧き上がってきました。みなさんはいくつ答えられますか。

このクラスでは、質問したら答えるけれども、質問がなかったことには答えないということにしています。質問しなかったことがテストに出て答えられなかったら自業自得になってしまいますから、学生たちも本気にならざるを得ないのでしょう。少なくとも、知りたいという気持ちのある学生には、手応えを感じてもらっているのではないでしょうか。そういう学生にこそ、伸びてもらいたいですからね。

もちろん、学生が質問しなかったことは全く教えないというわけではありません。学生が気付かなかったこと、知っておいた方がいいことには、こちらから触れます。「泥を塗る」「棒グラフ」「盗難はあうと一緒に使う」「強盗はごうとうであり、きょうとうではない」などということを付け加えました。

このやり方は、毎回想定外の質問が出てきますから、教師も緊張を求められます。上述の質問だと、作用と機能の違いがその例でしょうか。このスリルを味わうのが授業の醍醐味だとも思います。

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教師の天国

8月1日(木)

最上級クラスの代講に入りました。最上級クラスともなれば有名人ぞろいで、以前受け持ったことのある学生は数名もいませんでしたが、ほとんどの学生は顔と名前が一致しました。そういった学生が一堂に集うとどんな様相を示すのか、そちらの方に興味がありました。

今学期教えている中級クラスとは違って、語彙コントロールなしで日本語がバリバリ通じます。授業がサクサク進む感じでした。応用編と思って聞いた質問にもたちどころに正解が返ってくるあたりは、さすがと言うほかありませんでした。課題を与えると、余計なことはせずに黙々と取り組んでいました。これだけの集中力があれば、日本語力も伸びるわけです。

自分で調べたことの発表もしました。そんなに長くかからないという引継ぎだったのですが、いい加減な発表は1つもなく、質問がけっこう出て、気が付いたら後半の授業を全部使ってしまいました。各学生に知識欲があるからきちんと調べてくるのであり、だから発表の質も高く、それゆえ耳を傾けたくなり、本気で聞くから興味を感じ、質問も出てくるという、正のスパイラルが生じたのでしょう。

このクラスの学生たちは語学の才に恵まれ、それに加えて勉強自体も好きなのです。隙あらばスマホに逃げようとするどこかのクラスの学生とは、頭脳の質が違うのです。日本語の習得、もっと言ってしまえば、学問に向いた脳みそを持っているのです。

結局、私は出席を取るぐらいで、学生たちがどんどん進めていったような授業でした。理想的と言えば、実にその通りです。これからも相乗効果を発揮して、高みに上り詰めてもらいたいと思いました。

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今度こそ

7月18日(木)

午前の授業後、Kさんが職員室に姿を現しました。日本語プラスの授業に登録していないけれども、授業を受けたいと言います。Kさんは入学以来先学期まで、6月のEJUに照準を定め、日本語プラスの授業も受けてきました。しかし、体調を崩し、精神的にも落ち込んで、どうやら不本意な受験に終わってしまったようです。

さらに話を聞くと、Kさんは、自分に残されたチャンスは11月だけだから、それに向けて最善の努力をしていくと、今までになく神妙な顔つきで決意を語りました。その表情は、先学期のような目に力のないどよ~んとしたものではなく、明るく前向きな力強さが感じられました。

これなら立ち直ってくれるだろうと、数学のS先生に私も一緒に頭を下げ、午後の授業から出させてもらうことにしました。S先生は、最初の学期からKさんの頭脳明晰さを高く評価されていました。先学期は欠席続きだったKさんのことを気にかけてくださっていたようで、逆に元気づけてくださいました。

Kさんは、数学の後、私の物理の授業にも出ました。今学期は6月のEJUの後ですから、基礎から始めます。Kさんの再スタートにはちょうどよかったかもしれません。Kさんにとっては2度目の授業ですが、以前よりもよくわかるのか、疑問点がはっきりしてきたのか、質問が多かったです。やる気に満ちている証拠だとも言えます。

始まったばかりですから予断は禁物ですが、この勢いを保ってくれさえすれば、受験に関しては十分に逆転可能です。受験校選びも含めて総合的に指導していけるのがKCPの強みですから、これからしっかりフォローしていきます。

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貴重な戦力

7月12日(金)

教室に入ると、Gさんがいませんでした。遅刻かなと思いましたが、いつまでたっても来ませんでした。Gさんは先々学期教えた学生で、その後も何かというと声をかけてきました。また今学期受け持つことになったのですが、水曜日は養成講座の講義をしたため会うことができず、週の終わりになってようやく教室で相まみえることになるかと思ったら、結局空振りでした。担任の先生のところに病欠の連絡があったそうです。

さて、このGさんのクラスです。コトバデーでだれが何をするかを決めようとしたのですが、だれもうんともすんとも言いません。小さい声で呟いているのかとも思いましたが、どうやらそうでもなさそうでした。初めて入るクラスで、顔と名前が一致する学生が少なく、しかもそのうち1名が欠席、しかもこちらはおとといから声が満足に出ないという、四重苦みたいな状況に陥ってしまいました。

こういう時Gさんがいたら、「私、声優をします」とかって口火を切ってくれたことでしょう。それでもみんなが黙っていたら「Aさん、いっしょに声優しようよ」などと勝手に周りの友達を誘って、教室の雰囲気を盛り上げてくれたんじゃないかと思います。別にAさんが声優をしなくてもいいんです。「声優はちょっと…。でも音読なら…」という流れができれば、こういうものは案外とんとん拍子に決まるものなのです。

結局、来週もう一度聞くから、その時までに決めておくことを連休の宿題としました。Gさん、火曜日は病気を治して出てきてくださいね。

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ちょっと意地悪

7月9日(火)

今学期の火曜日のクラスは、週1回だけの担当です。こういうクラスは、学生の顔と名前がなかなか覚えられないものです。年寄りは、覚えるそばからガンガン忘れていきますから。

でも、クラスの学生の顔ぶれをよく見てみると、1/3ぐらいが先々学期初級で受け持った学生たちで、もう1/3ぐらいが日本語プラスなどで教えたことのある学生たちでした。ということは、数名の顔と名前を覚えれば、このクラスは征服できることになります。

だから、最初のうちは、顔と名前が一致しない学生ばかりを指名しました。ごめんなさいね、散々指された学生のみなさん。以前教えた学生は実力がだいたいわかりますから、ここぞという場面で指名します。応用的な問題はよくできるGさんやJさんに答えてもらい。私はそれに一言二言付け加えて、他の学生を納得させるという計算です。努力家のYさんも指名して、努力の成果を確かめました。

このクラス、中級の入口です。初級では、板書も可能な限り丁寧な字で書きました。でも、中級ともなれば、私がごく普通に書く字を読んでもらわなければなりません。どこの国でもそうですが、手書きの文字は読みにくいものです。普通の日本人の手書きが読めなければ、日本語が読めるとは言えません。そんなことを言うと、学生たちはちょっとビビっていました。

会話の時間もありました。友達をイベントに誘うというシチュエーションだったのですが、みんな丁寧体の堅苦しい会話をしていました。「友達同士だから普通体だよ」と声をかけて、普通体に導きました。ところが、「参加費はいくらだ」「300円必要だ」なんていうやり取りが、できるはずの学生の口から出てくると、うーん、がっかりですね。「集合時間は何時だ?」「午前9時に大学正門前に集合だ」も、ロールカードを読み上げただけの、日本人離れしたやりとりですね。「集合時間は?」「朝9時に大学の正門前」ぐらい、言えるようになってもらいたいところです。

9月末には、私の汚い字をものともせず、また、流れるような普通体の会話ができるように育てていきたいです。

新学期初日から、恐ろしいことになってきました。

まだ見ぬ受講生へ

6月28日(金)

学生たちは学期休み、先生方は今学期の成績不良者の対応と新学期の準備にいそしんでいます。私は毎日のように養成講座の授業があり、私の周りだけ別の時間が流れているかのようです。

私が担当している養成講座の授業は多岐にわたり、なおかつ半年に1回のペースですから、授業の前に資料を読み込んでおかないと立ち往生しかねません。しかも、コース名で「少人数」とうたっていますから、受講生のペースに合わせて講義の中身も多少調整します。

現在の受講生の方々は優秀ですから、ちょっと難しめの話題を盛り込んだり、あるテーマについて深掘りしたりして、受講生に押し負けないようにしています。そのためには、結果的に没になることも覚悟のうえで手持ちの資料を膨らませておきます。これは、頭を悩ませられることではありますが、やっていて楽しいことでもあります。今朝も2時間ばかりあれこれ考え、一応この線で行こうと、以前の資料を手直ししました。

授業は順調に進みましたが、優秀なだけに質問も多く、その方面の議論が盛んになりました。その議論は考えさせられるところが多く、私自身も勉強になりました。そのかわり、今朝の2時間は、出番がありませんでした。

午後は、通信で養成講座を受講している方の試験問題を作りました。申し訳ありませんが、通信の方には実際にお会いしたことがありません。どんな方がどんなふうに、私が作ったオンライン教材を使っているのか見えません。私がカメラの前で力を込めたことが、パソコンの向こう側の受講生に伝わっているのでしょうか。そんな心配をしながら、キーボードをたたきました。

このテストは、来週行われるそうです。採点が、ちょっと怖いです。

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時間との闘い

6月11日(火)

先週から、日本語プラスの理科は、EJUと同じ試験時間、80分で過去問2科目を解き、マークシートまできっちり塗る練習をしています。EJUの理科の問題は、時間さえあれば必ず解けます。1題1題は決して難しくないのですが、受験生は問題数で圧倒されてしまうのです。科目間の時間配分と、それを守るためのスピード感を実地に体験して、本番に備えてもらおうという趣旨です。

授業では計算のスピードを上げる方法を伝授しています。問題を解いている最中にそれを思い出せうるかどうか、思い出してその方法で答えを出すに至ったか、そういったことも確かめてもらいたいです。先週はこの点があまりうまくいかなかったようでした。まじめな学生たちですから、みんな真正面から計算してしまいます。そうすると、80分で2科目は厳しくなります。果たして、今週はどうだったのでしょう。

80分で2科目、40問弱を解かなければなりません。マークシートを塗りつぶす時間を含めて、1問2分ほどです。計算問題が多い物理に少し長めに時間をかけるとすると、化学にかけられる時間はおのずと限られてきます。また、ある問題を10分かけて正解を得たとしても、その時間で他の問題4~5問解いた方が、いい点数が取れるでしょう。5分かけても解けなかったら、スパッとあきらめることだって必要です。

ほとんどの学生が80分をフルに使いました。解答用紙を集めてから、正解+解説を配りました。毎期、正解の番号しか見ない学生が多い中、今学期はみんな解説まで読んでいましたから、希望が持てそうな気がします。

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みもの

6月7日(金)

新任のT先生の授業見学をしました。今学期はもうすぐ終わりですが、新学期に向けてどんなことに力を入れて研究していただくか、そんなアドバイスができればというわけです。

上級クラスですから、JLPTのN1を意識した授業でした。T先生はきちんと教案を立て、学生に示す例文も考えてきていました。不正解の選択肢についても説明が加えられるよう、例文が作ってありました。私なんかの数倍、いや、数十倍も計画的に授業を組み立ててきていました。

けれども、授業の進行が硬いんですねえ。教案通りに授業が一歩ずつ前へ前へと進みます。でも、そこまでです。教科書はどんどん先へ行くんですが、ゆとりがありません。

Sさんが、教科書の例文中の“見物客”を“みものきゃく”と読みました。T先生は「“けんぶつきゃく”と読んでください」と注意して、問題の答えの解説を始めました。私だったらここぞとばかりに脱線します。“みもの”と“けんぶつ”の違いを、これでもかというほど、でもSさんいじめにならない程度に語るでしょうね。

私の場合、隙あらば脱線するという根性で授業していますから、T先生が“みもの”をスルーしたのがもったいなくてたまりませんでした。脱線と言いますが、学生に印象付けようと思っているのです。学生の1人でも2人でも、“みもの”と一緒にその文に出てきた文法を覚えてもらえたらそれでいいのです。

T先生の教案はきっちり設計されていますから、“みもの”が入り込む余地がありません。それが、授業の硬さとして表れているように感じました。でも、川越でのT先生は、このクラスの学生たちに慕われているようでした。きちんと教えてくれるという誠実な姿が、学生たちに信頼感を与えているのでしょう。

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トラブル

5月29日(水)

W先生がご病気なので、代講をしました。

いつもそうなのですが、代講で教室に入ると、学生の表情が一瞬引きつります。変な奴が来たと思われているのでしょうか。以前教えた学生がいると、その学生だけは、微笑みかけてきたり手を振ったり、なにがしか懐かしげな仕草や表情を見せてくれます。今朝はCさんが目を輝かせてくれました。そんな学生の顔を見ると、こちらも緊張が解けます。アウェイであることは確かですが、少しでもホーム感があると、気持ちが落ち着きます。

ところが今朝は、出席を取ろうとタブレットを開いたところ、画面が固まって動かないではありませんか。知っている限りのリカバリー法を試しましたが、解決には至りませんでした。5分前に教室に入ったのに、9時になって学生はそろっているのに、こちらの準備は整っていませんでした。

タブレットはあきらめて、紙の名簿で出席を取りました。出席はそれで済みましたが、聴解の授業などで使う予定をしていましたから、「このタブレット、死んでますねえ」とかって言いながら、授業を組み立て直しました。作動しないという意味の“死んでいる”は、このレベルの学生たちは知らない用法なので、一瞬ではありますが、学生を引き付けられます。そんな姑息な手も使って、態勢を立て直します。漢字の時間にもタブレットを使いたかったのですが、それもあきらめて普通に教科書を使うだけにしました。その他、ディクテーションや発音練習といった、タブレット不要のメニューを並べて、どうにか前半を切り抜けました。

かろうじて前半を無事に終わらせ、職員室に戻りました。タブレットを交換し、また教室へ。教室で動作チェックをし、授業に臨みました。今度は普通に動きました。前半にできなかった授業を次々に行い、進度の帳尻を合わせました。W先生ほどの授業はできなかったでしょうが、必要最低限のラインは確保したつもりです。質疑応答がけっこう盛んにできましたから、学生たちもそこそこ満足してくれたんじゃないかなと思っています。

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