Category Archives: 授業

バイデンさんの知名度

2月24日(水)

漢字の教科書に「アメリカ大統領の任期は4年だ」という例文がありました。これに関連して、ごく軽い気持ちで「Aさん、アメリカ大統領は誰ですか」と聞きました。すると「……、わかりません」。オンラインですから、こちらの声が聞き取りにくかったのかと思い、「じゃあ、Bさん、今のアメリカ大統領は誰ですか」と別の学生を指名しましたが、これまた「わかりません」でした。“バイデン”が出てくるまでに5人指名しました。答えられた5人目は、他の学生が答えられないでいるうちにネットで調べたのかもしれません。

確かに、このクラスの学生たちは優秀だとは言いかねます。バイデンさんはトランプさんに比べたら個性的ではありません。でも、選挙戦があんなに大騒ぎになったじゃありませんか。就任したのはつい先月のことですよ。その際にもひと悶着あったでしょうに。いや、悶着の原因はトランプさんですから、バイデンさんの印象を薄めてしまったのかな。

最近の留学生はテレビを持っていません。ニュースはスマホで知るようですが、自分の興味と一致するニュースばかり選んでアクセスしているとすると、アメリカ大統領の名前なんか、簡単に落ちちゃうんですね。面接練習で「最近の気になるニュースは何ですか」と聞いても、考え込んでしまったり、最近とは言い難いニュースを挙げたり、超マイナーな個人的興味の域を出ないニュースを語ったりする例が相次ぎます。

これは、留学生に限らず、日本人の受験生・就活生も同様だそうです。5人目で正解が出たこのクラス、まだ救いようがあるのかもしれません。

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雑談好き

2月19日(金)

午前中は、仕事で日本へ来ているPさんのプライベートレッスン。一応教科書はありますが、それにとらわれず、会話(雑談?)をしながら日本語を身につけていくというスタイルです。Pさんはビジネスパーソンですから、動詞や形容詞などの活用をドリルしながら覚えるというのではなく、公私を問わず興味のある話題について何かを語るのに必要な文法や語彙を覚えていこうとしています。JLPTなどの日本語力を測る試験も受験する予定がないそうなので、カリカリした雰囲気はありません。

どんな話題が出てくるかわからないという面はありますが、Pさんのような学習者は、私にとって一番やりやすい相手です。また、Pさんは日本の文物に大いに関心を持っていますから、私としては雑談のしがいがあります。雑談を通して多様な日本を見せていこうとすると、いくらでも話がはずみます。

日本語教師になって最初に教えた人たちが、ビジネスパーソンでした。銀行員、個人経営者、技術者など、多様な職種のさまざまな国籍の老若男女を教えました。語学の学習ですから「若」に偏ってはいましたが。ですから、Pさんのレッスンをしていると、どこか懐かしさが湧いてきました。20年ぐらい前のことですから、社会情勢も大きく変わりましたし、私も経験を積んで気持ちに余裕が持てるようになりました。ビデオを撮って学習者への対し方を比べたら、ずいぶん違っていることでしょう。

Pさんは、先週末の地震のとき、仙台にいたそうです。大きな揺れに非常に驚いたと、熱弁してくれました。新幹線が動いているところまで車で送ってもらい、日曜日にどうにか東京へ帰りついたとのことでした。こういうビビッドな話ができるところが、ビジネスパーソン相手のプライベートレッスンの醍醐味です。

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WiFi不調

2月15日(月)

いつもは真面目なCさんが、オンライン授業で怪しい動きをしていました。WiFiの調子が悪いと言って抜けること2回。何も言わずにいつの間にか消えている学生に比べればはるかに良心的ですが、いままでWiFiがどうにかなって一時的にせよ授業から出ることはありませんでしたから、どうしたんだろうと思いたくもなります。

ところが、2回目に抜けてまた戻ってきてからは、今までになく積極的になりました。私が指名した学生が答えに詰まっているとチャットで反応するし、Cさんを指名すると妙に意気込んで答えます。本当にWiFiが不調だったのかもしれません。そう思いながら授業を終えました。

授業後、学生からの質問に答え、要指導の学生を残して注意を与え、職員室に戻ってきました。メールをチェックするとCさんからメールが届いていました。H大学に合格したと、Webの画面が貼りつけてありました。どうやら、授業を抜けて合格発表を見ていたようです。

授業が終わってから確認しろと言いたいところですが、教師の目が直接届かない自室で授業を受けるとなると、合格発表を観たい気持ちを抑えるのは不可能でしょう。対面授業でも教師の目を盗んでスマホで発表を見て喜んだり落ち込んだりする学生が毎年いましたから。

Cさんは、唯一の受験機会だった11月のEJUで失敗しました。信じられないような低得点でした。今シーズンの大学進学は無理だと思って、専門学校をキープした上でH大学に挑戦しました。面接練習にも熱が入っていましたが、EJUの失敗を挽回できるか、本人も私も確信が持てませんでした。

それだけに、授業終了後まで合格発表を待てなかったのでしょう。うれしさもひとしおだと思います。H大学からの入学手続きの書類が学校に届きました。明日は雨が上がりますから、授業が終わったら取りに来るんじゃないでしょうか。そうしたら、「おめでとう」と言ってあげましょう。

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いい陽気ですね

2月2日(火)

初級クラスの漢字の時間に、「陽」の字を教えました。「陽」を使う熟語として「陽気」が挙げられていました。「陽気」には形容詞の用法と名詞の用法があります。形容詞の方は、教科書に出ている英語訳が“cheerful”、中国語訳が“快活的”となっており、「トムさんは陽気な人です」という例文も、まあ問題ないでしょう。

もう一方の名詞の「陽気」の英語訳は“weather”、中国語訳は“天気”となっていました。「天」の字を勉強した時に日本語の「天気」を勉強しており、その英語訳、中国語訳も“weather” “天気”でした。これだと、陽気=天気になってしまいます。

例文として出ている「いい陽気になりましたね」は、日本人の感覚では、絶対に「いい天気になりましたね」と同じではありません。後者は「晴れました」「青空が広がりました」に近い意味ですが、前者はそういう意味ではありません。2月の初旬に「いい陽気になりましたね」と言ったら、「暖かくなりましたね」でしょう。

じゃあ、天気と陽気は何が違うのでしょう。「東京は、5月が1年でいちばん陽気がいい」と言ったら、過ごしやすいという意味です。そもそも、「悪い陽気」とか「陽気が悪い」とかって、あまり言わないんじゃないでしょうか。「じめじめした陽気」ということもありますが、一般には「快適」というのが暗黙の了解になっていると思います。

お天気マニアとしてはいい加減に済ますことができませんから、無理を承知で初級の学生にそういう話をしました。しかもオンラインですから、こちらの気持ちがどれだけ伝わったかはなはだ心もとない限りです。初級担当のT先生がご覧になっていたら、即刻授業停止命令が出たことでしょう。

朝はけっこうな雨が降ってどうなることかと思いましたが、午後からはいい陽気になりました。124年ぶりの節分にふさわしい2月2日でした。

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画面の向こう側

2月1日(月)

オンライン授業の悩みの1つが、学生がどこまで本気かわかりにくいことです。すぐに顔を隠す学生が怪しいのは言うまでもありません。ですから、顔が出ていない学生はどんどん指名します。顔を出している学生も、部屋でぼんやりしているだけかもしれません。油断できませんから、顔が出ていても動きが少なかったら「はい、〇〇さん」と抜き打ちをかけます。

指名されても何をしたらいいかわからなかった学生は、1回は見逃してやります。しかし、2日目からは「はい、授業を聞いていませんでしたね。欠席です」と冷たく言い放ちます。指名に対して返答がなかったら、「××さん、いませんね。欠席ですね」と言って、欠席にします。何も言わずに欠席にしてもいいのですが、授業を聞いている学生に向けて、「授業に参加しないと欠席になるんだよ」と警告を発する意味も込めています。

そして、文法などの例文をチェックすると、授業を聞いていたかどうかは如実にわかります。特に上級は、単にどこかの例文集から引っ張ってきただけではうまくいきません。私の例文は要求度が高いですから、状況説明が足りないとか動作主がはっきりしないとか、理屈と膏薬はどこへでも付くさながら、ビシバシ文句を付けます。そういうろくでもない例文ばかりだったら、やはり授業を聞いていないと見なします。

これだけ学生を痛めつけても、zoomに名を連ねるだけの学生は少なくなりません。私たちも楽しい授業をと思っています。しかし、そういう流れをせき止めるような態度を取られると、強硬手段に出ざるを得ません。

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余力があり過ぎます

1月25日(月)

レベル1のクラスの代講に入りました。レベル1の授業そのものは面白いと思いますが、オンラインだとどうもリズムに乗れません。指名して、学生がマイクをオンにして答えがこちらに届くまでのわずかなタイムラグが、その原因です。0.5秒にも満たないくらいの短い時間でしょうが、そのためにペースがなかなかつかめないのです。

私の場合、初級は、何はともあれ、口を開けさせるという考えで授業を組み立てます。上級なら、多少教師が語っても授業は成り立ちますが、初級は、特に一番下のレベルは、一言でも多く話させることが授業の肝です。それが、わずかなタイムラグのせいでつまずいてばかりというのが、私の授業の現状です。

ブレークアウトセッションを多用するというのも一つの解決手段です。しかし、学生が見えないところへ行ってしまうのが、どうも怖いのです。初級のクラスは話したくてたまらない学生たちばかりですから、ブレークアウトセッションでだんまりを決め込むことはないでしょう。でも、こっそり母国語で話しているのではないかという疑心暗鬼を抑えきることはできません。

コーラスをさせても、「はい、今、4人“っ”を言いませんでした。もう一度!」などということができません。個々の学生の発音をいかにチェックしていくかも、大きな課題です。初級なら、助詞の抜け落ちや誤用にも厳しく目を光らせ、間違いを見つけ次第直ちに指摘して訂正させなければ、悪い癖がついてしまいます。それがなかなかできないもどかしさもあります。

オンラインだと、授業後の疲れ具合が対面に比べて、半分どころか一桁違う感じがします。養分を吸い取られたという感じがしないんですねえ。逆の見方をすると、学生たちにこちらが持っているものを与え切っていないんでしょうね。

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朝から受験講座

1月22日(金)

今学期は、受験講座が午前中です。受講生が全員午後クラスなので、受験講座を午前に持って行ったのです。KCPが受験講座を始めたころ、9時からの日本語授業の前に受験講座をやったことがありましたが、9時から理科の授業をするなんて、それ以来です。東日本大震災のはるか前ですから、15年ぐらい前の話です。

さて、2021年理科の受験講座の初回は、オリエンテーションをしました。EJUの理科の出題傾向、平均点の推移、時間配分など試験の心得、勉強のしかたなどを説きました。実際に過去問を解いてもらって、どんなところが難しいか実感してもらいました。毎年つまずく学生が出る、化学物質名などのカタカナ言葉に対しても、覚えるしかないと覚悟を決めてもらいました。

今まだ動き回っている、この4月に進学するつもりの学生たちが何に苦労しているかも、実況中継のごとく伝えました。面接練習などを指導する立場から、早いうちに訓練を始めておいてほしいことを言っておきました。受験講座も大切だけど、それ以上に日本語授業でコミュニケーション力を磨くことが必要だと訴えました。

最後に、日本へ来たばかりの学生はほんとうに日本の大学を知りませんから、大学紹介をしました。東大、早慶、MARCHしか知らなくても平均以上というのが毎年の例ですから、学生の目をそれ以外の大学に向けさせました。資料を出すと、身を乗り出して画面を見ている学生の姿が、zoomの小さなモニターに映し出されていました。例年より少ない受講生を丁寧に育てていきたいです。

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話そうぜ

1月19日(火)

オンライン授業の難しい点は、学生の発話をいかに多くするかです。種々の小道具や小技、手練手管を駆使しても、談論風発とまではなかなか至りません。上級や超級ならそれでも少しは得るものがあるかもしれませんが、初級はそれじゃ意味がありません。習った文法を応用して話をすることに、コミュニケーションを取ることに、授業の意義があるのです。そこで、学生の発話練習を促進するために、初級クラスのオンライン授業のサポートに入りました。

文法の導入はS先生が全体をまとめて行い、その後の練習からクラスの半分を私が受け持ちました。日本語を始めたばかりの学生たちのクラスですから、日本語の音に慣れさせ、口を開かせることが私の使命です。少人数になったのですから、名簿と画面を見ながら次々と指名し、怪しい発音を訂正し、無理を承知の上でzoomを通してコーラスさせました。

2020年度は、それまでに比べて、学生の発話力を十分に伸ばせなかったという反省があります。受験期になって面接練習する段に及んで、“おやっ?”“あれっ?”というパターンが少なくありませんでした。それでもどうにか合格を手にしている学生がいるところを見ると、留学生全体の発話力が低下しているおそれもあります。これを結果オーライとしてしまうのではなく、19年度までの水準に少しでも近づける算段を立てなければなりません。

明日の晩から首都圏や関西圏では終電が早まります。まだまだ戦いが続き、授業を従前の形に戻せるようになるには、時間を要しそうな形勢です。オンライン授業の研究開発の余地は、大いにあります。

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授業初め

1月5日(火)

今年の授業初めは養成講座でした。今年に限らず、ここのところ毎年、KCPのどの先生よりも早く授業を始め、その授業が養成講座です。私は学期が始まるとクラス授業を受け持ちますから、学期休みのうちにできるだけ養成講座の授業を済ませておく必要があるのです。

養成講座の文法の授業をするのは、学生に文法の授業をするより面白いです。でも、その養成講座の授業は、学生への授業が元になっています。初級から上級まで各レベルで教えた経験から、ここはよく間違えるとか、こうすれば文法が比較的すんなり入っていくとかということが言えるのです。学生のおかげで(学生をネタにして?)養成の授業をさせてもらっていると言っても過言ではありません。

午後は、Aさんの面接練習をしました。オンラインの面接だそうです。そうだったら、自分の意欲や夢を画面越しに力一杯語らなければなりません。でも、Aさんの言葉にはそういった思いが感じられませんでした。何とか熱意を掘り起こそうと質問すると、かえってそちらから遠ざかってしまいます。しかたがないので、“面接練習”という形式を打ち切って、Aさんが気軽に答えられるように雑談っぽく勉強の目的や将来構想を聞きました。そうやって、Aさんの頭を少しずつ整理していきました。明日、再挑戦です。

本当のことを言うと、Aさんにはもう1つ課題があります。細かい文法ミスが非常に多いのです。面接官に誤解を与えるほどの致命的な間違え方ではありませんが、ミスが重なると「下手」という印象が刻まれてしまいます。養成講座の受講生のみなさんに聞かせたいなあと思いながら、Aさんの受け答えを聞いていました。

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覚悟はよろしいか

12月16日(水)

進学コースの新入生に対して、来学期の受験講座のオリエンテーションをしました。今学期は新入生が来たおかげで、久しぶりに午後の教室がにぎやかになりました。来日し授業を受け始めた時期がばらばらだったため、今までは受験講座がありませんでしたが、来学期は早々に再開する予定です。そのためのオリエンテーションを行ったというわけです。

今学期まで受験講座を受けていた学生たちは、みんな卒業・進学しますから、来学期からの受験講座はメンバーが完全に新しくなります。先輩がいない状態で講座が始まります。新しい学生たちは、先輩の体験談を聞いたり、奮闘ぶりを間近に見たりするチャンスがないので、その点はちょっと気の毒です。

でも、何より気の毒なのは、新入生たちは時間がないことです。全員22年3月に卒業ですから、それまでに進学先を確保しなければなりません。今、レベル1の学生は、来年6月のEJUの時にせいぜいレベル3です。その日本語力で高得点を挙げるのは、至難の業です。それでも夏以降の入試に立ち向かうことが求めなれるのです。入試の際の面接では、日本語で面接官とコミュニケーションを取らなければなりません。

私が担当する理科を取りたいという学生も数名いました。1月から6月までのわずかな期間で実力を付けさせるにはどうしたらいいでしょう。私の目の前でオリエンテーションを聞いている学生たちの顔を見ながら、そんなことも考えていました。こちらも腹をくくりますが、学生たちにも相当な覚悟を求めることになりそうです。

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