Category Archives: 授業

鉄槌

9月7日(火)

火曜日のクラスは読解があります。毎週、テキストを読んで、予習問題をやってくることになっています。テキストを読んでということは、当然、漢字の読み方や意味は調べてくるということです。学生たちがここまでやってきてくれたら、教師は非常に楽です。それと同時に、テキストの内容を起点に、発展的な学習にも踏み込めます。

ところが、現実はそう甘くはありません。きちんと予習してくる学生は半数ほどでしょうか。残りは本文を音読させようとしても、満足に読めません。それどころか、「Aさん、次の段落を読んでください」と指示を出しても、その「次の段落」がどこなのかわからないという例が後を絶ちません。教室での対面授業なら、隣の学生にこっそり教えてもらうこともできましょうが、オンライン授業ではそうはいきません。自分の部屋で何か違うことに精を出していた学生は、話がどこまで進んでいるか、全くついてこられません。

指示詞の「それ」は直前の内容を指すという鉄則通りの問いを出しても、意味不明の答えが返ってくることがしばしばです。たとえ授業時間になってから初めて読んだにしたって、ちゃんと授業を聞いていれば、ストーリーを追うことができていれば容易に答えられる問いかけに対しても、あさっての方を向いた答えを平気で言ってしまいます。指名されて何も返事をしないと、私は「Bさん、いませんね」と言って欠席にしてしまいますから、とりあえず声は上げます。しかし、授業に集中していなかったのですから、答えられるわけがありません。

「来週から、予習してきた学生だけに授業をします。予習してこなくて読解がわからなくて期末テストで点が取れなくて来学期進級できなくても、それは私のせいじゃありません。予習しなかった、授業を聞いていなかった自分自身の責任です」と、宣言してしまいました。こんな授業では、まじめに予習してきている学生がかわいそうです。勉強する意欲のある学生を大事にする授業をしていきます。

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目の前じゃないから

8月30日(月)

理科系の数学の受験講座は、微分と積分を扱っています。7月、対面授業をしている頃は、微分積分の前段階をやり、さあこれからが山場だというところでオンラインになってしまいました。オンラインだと、受講生に問題を送ることはできても、その問題をどのように解いているか、答えが出るまできちんと計算しているか、解けない場合はどこでつまずいているか、そういうことが見えません。解いている手元を映せというのも難しいですし、答案用紙を送ってもらって添削というのでは、効果半減です。今、目の前で解かせて、悪いやり方を現行犯で見つけて直させたいのです。

理科系の学部学科は、数学がわからなかったら勉強ができません。入試はうまいことする抜けたとしても、入学してから進級できません。数学の単位が取れないのみならず、物理や化学も不合格となるでしょう。その数学の根幹をなすのが、微分積分です。物理など、教科書が微積語で書かれていると言っても過言ではありませんから、微分積分ができなかったら専門の勉強に進めません。受験講座理科系数学は、その基礎部分を築く授業なのです。だから、「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、間違いの芽を確実に摘み取りたいのです。

それから、KCPの学生は、問題を最後まで解ききらないきらいがあります。途中まで解いて答えまでの道筋が見えたらそこでやめてしまう学生が目立ちます。EJUの成績を見ると、詰めが甘くて失点につながったんじゃないだろうかという点数が随所にありました。今年K大学に進学したWさんには、答案用紙に指差してそういうところを徹底的に指導しました。

数学を受けている皆さんに、私の声と危機感はどこまで響いているでしょうか。

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さんななめよん

8月25日(水)

我が社は3:1の割合で、パート社員が多い――これは中級の漢字の教科書に載っている例文です。3:15は読めても、3:1は読めないだろうと思い、「さんたいいち」と教えてあげました。ZOOMの画面は、全学生がメモを取っている様子を映し出していました。ここまで準備すれば、この文は誰でも読めるはずです。現に、私が指名したLさんはすらすら読んでくれました。

「じゃあ、Lさん、3:1の割合ということは、この会社はパートの社員がどのくらいいるんですか」と聞いてみました。75%という答えが返って来ればいいことにしていましたが、Lさんの答えは「さん、ななめ、よん」。教室のホワイトボードに大きく「3/4」と書いたら、Lさんは盛んにうなずいていました。

その「3/4」を指さして、「誰か、これ、読める人」と聞いても反応なし。「Wさん、あなたは理科系だから読めるでしょう」と、6月のEJUでも優秀な成績を収めたWさんを指名しました。しかし、「読めません」と一言。しょうがないので、「よんぶんのさん」と大きく板書しました。そして、「これは小学生でも読めます。大学や大学院に進学して“さんななめよん”なんて言ってたら恥ずかしいですよ。というか、話が通じません」などと脅している間に、こちらもみんなノートに書き写しているようでした。

中級ともなれば、けっこう小難しい表現も勉強し、それを作文などで応用する学生も出てきます。しかし、分数が読めなかったり、足の裏がわからなかったりというように、意外な落とし穴をかなり抱えています。これをお読みの日本人のみなさん、「さんななめよん」などと言っている外国人を見かけたら、優しく接してあげてください。学校の授業ではなかなかそこまで手が回らないのです。

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声が出ない

8月11日(水)

朝、出席を取ると、JさんはZOOMに顔を出すや否や、チャットで「扁桃腺炎で声が出ません」と訴えてきました。自室内で授業を受けていることは明らかだったので、「はい」という声の返事はなくても出席としました。声が出ないと言っているのですから指名するわけにもいかず、かと言って野放しにもできませんから、いつもよりJさんの画面を頻繁にのぞき込むことで、ずっと出席していることの確認を取りました。

Jさんは最後まで画面から消え去ることなく、課題もきちんとこなしましたから、授業態度に関しては問題ありませんでした。しかし、担任のO先生に届いたメールによると、ゆうべエアコンをつけっぱなしで寝たため、のどを傷めたとのことでした。確かに、昨日は今年最高の暑さでした。その熱気が残り、当然のごとく熱帯夜でした。だからエアコンをつけて寝たというのは理解できますが、こういう時期にのどを傷めてはいけませんよ。今、世界を震撼させているのは呼吸器系の伝染病なのですから。

毎年、この時期になるとエアコンが原因で風邪をひく学生が目立ちます。しかし、今は「ああ、またか」で済ませられる状況ではありません。医者にかかるのも一苦労だし、余計な病気で体力を消耗したところに真打が襲い掛かってくることだって十分考えられます。そういうことも考えて健康管理をしてもらいたいなあ。

でも、Jさんはオンラインだから授業に参加できたのです。対面授業だったら、きっと欠席したことでしょう。熱はなかったそうですが、声も満足に出せないような体調で、外には出たくないでしょう。こういう学生も救える点が、オンラインの真骨頂だとも言えます。

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特徴をつかむ

8月10日(火)

全面オンラインになり、1週間が過ぎました。学生たちのマスクの顔にいくらか慣れてきて、多少は顔の区別がつくようになったころにオンラインが始まりましたから、当初は、マスクを着けていない学生たちの顔がとても新鮮でした。マスクの顔から想像がつく顔もあれば、「えっ、あんた、こんな顔してたの?」って言いたくなるような顔もありました。学生たち同士はどうだったんでしょうね。

今学期は2つの同じレベルのクラスを受け持っています。オンライン授業になってから、どちらのクラスで何を教えたか、ごちゃごちゃになっています。作文と読解は教えるクラスが決まっていますから問題ないのですが、文法や漢字や聴解は両方のクラスで教えますから、混乱がはなはだしいです。対面授業の時は、マスクの顔は特徴がないとはいえ、この聴解はこちらのクラスでやったとか、文法でこの練習をしたのはあっちのクラスだとか、どうにか区分けができました。しかし、オンラインになって、学生の顔の特徴がよりはっきりしたにもかかわらず、わけが分からなくなってきているのです。

こうしてみると、実際に会うということのインパクトを改めて感じずにはいられません。オンラインで何でも仕事が進むようになっても、最後の決め手は対面だと言っている人が結構いるのもよくわかります。私たちは知らず知らずのうちに、何らかのオーラを発しているのでしょうか。

こういう状態がまだ当分は続きそうです。モニター画面の学生の顔を精一杯大きくして、クラスごとのカラーの違いを感じ取っていきましょう。

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やさしくない

8月4日(水)

オンライン授業だと、テストや例文や作文や宿題プリントなど、毎日何枚もの文書を学生に提出させます。志望理由書や小論文など、入試では手書きの書類や答案を要求するところが多いですから、学生たちに手書きを忘れさせないようにと、授業関連の提出物も手書きがほとんどです。ノートなどに手書きしたものを写真に撮り、それをメールで送らせるのです。

テストや宿題などを提出させたら、教師はそれをチェックしなければなりません。学生は自分の分だけで終わりですが、教師はクラスの人数分だけ目を通し、時には添削しなければなりません。紙ならばボールペンを走らせてどんどんチェックしたり採点したりできますが、写真で送られてきた答案などを採点したり直したりするとなると、確かに便利なアプリも出ていますが、大いに苦労させられます。老眼をしょぼつかせながら学生からの提出物に朱を入れるのは、かなりの重労働です。去年はそこまで技術が進歩していなかったので、デジタルなやり取りが大半で、こういう苦労はあまり感じていませんでした。

その重労働に拍車をかけるのが、学生が送ってくるファイルの名前です。スマホでノートの写真を撮って、それをそのまま送ってくる学生が大半です。すると、数字とアルファベットが組み合わせられた無機質ななまえのファイルが続々と届きます。若手の先生がシステムを組んでくれて、学生ごとの振り分けはできるようになっています。しかし、各学生のフォルダには同じようなファイル名がずらっと並びます。

オンラインの初日に、「作文0804」のように、中身がわかるファイル名を付けるように指導したのに、それを守っているのはほんの一握りの学生です。そういう学生は、概して優秀です。さらに、ファイルが細切れになっている例も目立ちます。1つのテストの答案を、ご丁寧に3つに分けて送ってきた学生もいます。3つ組であることがわかるようなファイル名ならまだしも、例の意味不明なファイル名ですから、見つけ出すだけでけっこうな労力が必要です。そういうのに限り、順番がばらばらだったり、ノートがあさっての方を向いていてそれを直すのにひと手間かかったりするのです。

こんなところにも学生の人間性が現れると言ったら言い過ぎかもしれません。でも、オンラインが始まってたった3日で、学生のやさしさのなさを痛感させられています。

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冷たい視線に見守られて

7月30日(金)

「昨日の宿題の答え合わせをします。プリントを出してください。じゃあ、1番、Qさん、読んでください」「…」「どうしたんですか」「プリントを持って来ませんでした」

クラスの他の学生たちは、またかという顔をしていました。Qさんは、自分のしたいことしかしません。宿題プリントを持って来るのを忘れたのではなく、端から宿題などやる気がなかったのです。深く突っ込んでもよかったのですが、そうすると真面目に勉強しようとしている学生たちの時間を奪うことになりますから、「あ、そう」と冷たく突き放して、答えられそうな学生を指名しました。

答え合わせの最中、Cさんの右手は机の中、視線もそこに向かっていました。スマホをいじっていることは明らかでした。Cさんは誰にも気づかれずにうまくスマホを操作しているつもりなのでしょうが、みんな気付いています。私が注意しないのは、スマホが見えていないからではなく、Cさんに関してはさじを投げているからです。

その後、学生に文法の例文を発表してもらったら、スマホ中毒という言葉が出てきました。学生の視線はせっせとスマホで何かしているCさんへ。当のCさんはその視線を感じることなく、右手の先に集中しています。ここまで来ると、生きた教材になりますから、むしろありがたくさえなります。

東京は3日連続で3000人超えです。学生ぐらいの年代の若者へのワクチン接種がなかなか進んでいないという現状にも鑑み、来週月曜日からオンライン授業にすることに決定しました。自分の部屋でとなったら、Cさんは勉強しないだろうな。そして、年末ぐらいに「どこにも合格していないんですが、どうしたらいいでしょう」って、顔を引きつらせて相談に来る姿が、次第に鮮やかになってきました。

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自分本位

7月20日(火)

Sさんは、スピーチコンテストのクラス予選での発表を拒否し続けています。これも授業の一環であり、発表は学生の義務だと言っても、興味がないからやりたくないと言い張ります。入学以来、自分がやりたくない課題はやろうとせず、他人がどう思っていようが一切お構いなしの学生だったようです。

ところが、Sさんは、J大学の志望理由書を見てほしいと、担任のH先生に頼んでいます。志望理由書はSさんにとって最大関心事ですからまっ先に手掛け、不義理の先であるH先生にチェックを依頼することにも、何の不思議も感じていないに違いありません。自分はKCPの学生なのだから、KCPの教師が自分の進学に協力するのは当然だという発想なのでしょう。

私たちは可能な限り学生のために働こうと思っています。また、それが私たちに課せられた使命だとも認識しています。しかし、ここは学校であり、みんなと一緒に学ぶ場です。学校行事を大切にするのが校風だと、学生募集の際に伝えています。それを承知の上で入学したのですから、個人のわがままを押し通すような行為は控えてもらいたいです。私たちは個々の学生の家庭教師ではありません。いや、家庭教師であっても、やるべきことをやろうとしない生徒に対しては、きちんとやっている生徒に比べて情熱の度合いが下がるのではないでしょうか。

現に、H先生はSさんのほかに数人の学生から志望理由書のチェックを頼まれています。Sさんの優先順位が最下位になったとしても、無理はないでしょう。

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香車

7月14日(水)

私が担当している中級クラスで、あるテーマについて3~4名のグループに分かれて話し合い、その結論を発表してもらうというタスクをしました。グループ活動をしている最中は各グループともお互いに自分の意見を主張し合い、議論が白熱しているようでした。

あまりの盛り上がりようを見て若干時間を延長しましたが、発表の時間が来ました。しかし、グループのうちのいくつかは、両論併記みたいな発表でした。意見の異なる2人が発表したグループすらありました。学生たちの発表は堂々としたもので、ほめてあげられます。しかし、意見を1つにまとめろという私の指示は、あまり守られませんでした。

このクラスの学生は、自分の意見を述べ立てることはできても、他人の意見を聞いたり、異なる意見の人を説得したり、お互いの意見を認め合ってグループとして1つの意見にまとめたりすることはできないようです。中級の入り口だと、こういうところまで求めるのは酷かもしれません。

自分の意見を引っ込めるとか譲るとか妥協するとかというのが苦手なのかなあ。そういうのは決して負けではないんですがね。意見の違いを乗り越えて1つの統一見解にまとめることこそ、コミュニケーションの神髄でもあります。そういうレベルに至るには、まだまだ長い道のりがあるようです。

中級会話の初回としては、心行くまで意見を主張できたことで良しとしなければならないかもしれません。今回できなかったことは、これから9月までの間に少しずつ伸ばしていくことにしましょう。

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再起動

7月10日(土)

今学期は久しぶりに数学の受験講座を担当します。以前使ったプリント類を引っ張り出して、頭の中を数学モードに動かしていきました。

目的地が11月のEJUですから、4か月ほどしかありません。その間に文系も理系もその範囲を一通り触れなければなりません。少なくとも、理系なら微分積分に関しては、しかるべきレベルにまで持って行く必要があります。文系も、図形や整数論など、問題としてよく出るところは押さえておかないと、学生たちに志望校が狙える点数を取らせることができません。

4か月と言っても、本番直前は80分という試験時間内に過去問を解く訓練も必要ですから、いわゆる「勉強」に充てられる時間は、決して長くはありません。学生たちに自宅学習をする癖を付けさせることも、今学期の私の仕事です。理系だと、毎日2時間ぐらいは数学の勉強に使ってほしいですね。理科の勉強も2時間、日本語の勉強も2時間となると、これだけで6時間。TOEFLなど英語の試験も受けるなら、そのための勉強も欠かせません。受験生は時間がいくらあっても足りません。

私が担当している養成講座の講義の試験問題も作りました。こちらも、他の先生の講義や実技系の授業の準備もありますから、睡眠時間を削って取り組んでいます。ですから、教壇実習にどうしても必要な項目とか、日本語教師的な発想をするのに不可欠な内容とか、焦点を絞って問題を作りました。

来週からレベル4のクラスです。去年もおととしも、代講でちょいと入ったくらいじゃなかったかな。私の頭の中も、改造していかなければなりません。

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