Category Archives: 授業

寂しいオリエンテーション

12月21日(火)

学期末が近づくと、次の学期の準備をし始めます。特に10月期は学期後にお正月休みが挟まりますから、早め早めに動くことが必要です。今学期も、すでに先週から教材の印刷が始まっています。

私の今朝一番の仕事は、来学期の各レベルの学生数を予測し、市販の教科書の必要冊数を算出し、それを発注することでした。年内に納めていただけるそうで、一安心です。

また、昨日から、来学期から新たに受験講座を受ける学生へのオリエンテーションをしています。いろいろな条件の学生がいる関係上、何回かに分けて実施しています。おととしまでは、毎回教室の机がさらっと埋まるくらいの学生が集まったものですが、今学期はzoomの画面にぽつぽつという程度です。

先学期の説明の頃は新規患者数がどんどん減りつつある時期でしたから、このままいけばという希望も抱いていました。しかし、今は、患者の絶対数は3か月前よりずっと少ないですが、東京なんかは底を打ったような打たないような、不気味な挙動を示しています。外国人の新規入国に関しても見通しが利かないままです。そんなこんなで、先学期より重苦しい雰囲気の中でのオリエンテーションでした。

緊急事態宣言が解除されて入国規制が緩和された時期に入国できた留学生は、わずかに3人だったそうです。KCPでも、首を長くして待っていた学生たちが結局入国できませんでした。入国規制を決めた岸田内閣は支持を集めているようですから、この状況はまだまだ続くことでしょう。オリエンテーションを受けた学生たちと対面できるのは、いつのことやら…。

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まとめと次の目標

12月20日(月)

あさってが期末テストですから、今週は今学期のまとめの授業みたいなものです。この3か月間に勉強したことのおさらいとともに、来学期以降に目指すべき到達点も示します。

私のクラスは、文法が大乱戦でした。以前のテストを持ち出して、「君たちはここがよくできなかったから…」という話をしたら、あちこちから質問が出てきました。そのどれもが、授業で触れているはずのことなのですが、わからないと言われたら、解説するほかありません。私たちの最初の説明が悪かったか、授業や宿題などでの練習が不十分だったかなのですから。

でも、ただ同じ話を繰り返すようなまねはしません。その文法を勉強してから関連表現を勉強していますから、それと絡めて説明を再構築します。類似表現を勉強したとあれば、それとの異同を比較検討します。こういうことを通して、単なる暗記では得られない力を付けさせていきます。

以上を踏まえて、来学期以降どんな勉強をしていけばいいかという話になります。中級レベルだと、語彙なんですよね。中級と上級を分かつ最大のものは、語彙力です。上級の学生は、知っている単語、使える単語の数が違います。そういう力をもとにして、見聞きした日本語に、中級の学生よりずっと素早くかつ的確に反応できるようになるのです。「ここで笑えるかどうかが、中級と上級の差なんだよ」なんてことまで言っちゃいます。

そんなこんなで予定の授業が消化できず、一部を明日の先生に回してしまいました。まあ、明日はそんなにぎっしり予定が詰まっていませんでしたから、あんまり心は痛まないのですが…。

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今年の漢字

12月16日(木)

朝一番で文法のテストをしました。このクラスは、前回の文法テストは過半数が不合格という悲惨な成績でしたから、問題用紙を配る前に「問題文をよく読んで、接続の形に十分注意して答えること」と注意を与えました。採点してみると、前回よりはかなり改善が見られましたが、まだキーワードというか、文法項目のかけらしか見ないで書いたと思われる答えが散見されました。

それから、助詞はやっぱり学生たちの大敵なんですね。既習の助詞の用法にも間違いがあり、1点ずつちまちまと引かれ、塵も積もれば山となるで、結局無視できないほどのマイナスとなっていました。大技を決めようと思っても、小技でミスを重ねて足をすくわれたような感じです。

授業の最後に、年末恒例シリーズとして、今年の漢字を取り上げました。先日発表された今年の漢字「金」を紹介し、2分時間を与えて各自の今年の漢字を考えてもらいました。

Pさんは、親元を離れて一人暮らしを始めたのでお金の大切さがわかったから「金」。Sさんは、日本へ来て、日本語や進学に必要なことばかりでなく、国にいたら学べなかったことをいっぱい学んだので「学」。Bさんは、いろいろな制限の中で暮らさなければならなかったので「限」。Tさんは、志望校に出願もしたし、願いを何とかかなえたいので「願」。みんなそれぞれの思いを込めて発表してくれました。

まだ来日できず、オンラインで授業に参加しているHさんは「待」。Hさんの待ち続けたこの1年を思うと、涙が出そうになりました。「ようやく」と思った直後にまた待ち続けなければならなくなったのです。万感の気持ちが込められた「待」です。教室の学生もそれを感じ取り、一瞬シーンとなりました。文法テストでも教室の学生に負けない成績を取っているHさんの「待」が、1日も早く解消されることを願わずにはいられませんでした。

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ゆとりの時間

12月11日(土)

今学期私が担当しているレベルの読解の教科書で使われている文章のうち、2つは私が書いたものです。理科系的な内容を、専門性も損なわず、中級の学生でも理解できる日本語で表すというのは、決して楽な仕事ではありませんでした。

同じ内容を理科系の受験講座を受けている学生に話すのなら、ある程度のところまでは暗黙の了解みたいな共通認識に基づいて進められます。むしろ、多少の専門用語を織り込んだり、数式で表現したりした方が、聞き手の学生の勉強になります。しかし、文科系や芸術系の学生も相手だとなると、いや、そちらの方が主力だとなると、専門用語や数式を振り回すのは慎まなければなりません。それでいて、専門的技術的な事柄を、可能な限りはしょらずに、中級の日本語で伝えていくのです。私自身、ずいぶん勉強し直しました。

最近、「文系のためのめっちゃやさしい○○」というシリーズの本を読んでいます。“○○”には、化学、物理、微分積分、人体などの項目が入ります。新しい知識を得るというよりは、知識の表現のしかたを勉強しています。その“表現”は文章に限らず、視覚への訴え方も含まれます。つまり、どんな図を見せればこちらの思いが伝わりやすいかも勉強させてもらっています。

このシリーズであれこれ勉強したら、次は何を書きましょうかねえ。受験講座の資料もいくらか見直したくなりました。かみ砕いて説明するという点においては、日本語教師養成講座にも通底するものがあります。先月EJUが終わってから、私が担当する受験講座が激減しました。その時間的余裕を、こういう面に振り向けています。

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しょうどうたくん

11月25日(木)

先月末に続き、今学期2回目の課外授業に出かけました。先月は池袋まで行きましたが、今回は、先月とは違うレベルの学生を引き連れて、近場の博物館を2か所見学しました。

1つ目は消防博物館。無料ですが、見ごたえたっぷりでした。学生たちはかなり興味を引かれたようです。美術系のTさんは、蒔絵に見入っていました。Hさんが展示物について質問してきたので、学芸員に聞けと指示しました。すると、すぐにそばにいた学芸員を、疑問に思った展示物の前まで連れて行って、しばらくの間、疑問点に答えてもらっていました。日本語を、日本語教師ではない普通の日本人に向かって使わせるのも、引率教師の役目です。博物館の方は、「説明板や私たちの話す日本語がわかりますかねえ」と心配してくださいました。「ご安心ください。この学生たちは日本の大学や大学院で勉強しようと思っているんですから、これぐらいの日本語がわからなかったらどうにもなりません」と答えておきました。ちょっと背伸びしちゃったかな。

次は新宿歴史博物館。ここは、入る前に宿題を与えました。「ここのマスコットキャラクターは、『しょうどうたくん』と言います。どうしてそういう名前なのか、調べて来てください」と言って、学生たちを館内に放ちました。ここはフロアに学芸員らしき方がいませんでしたが、半分ぐらいの展示は私が解説できそうでした。しかし、学生を集めて説明するのは、まだ好ましい見学方法とは言えませんから、やめておきました。

学生たちは『しょうどうたくん』の正体を探したようですが、見つけられなかったようです。『しょうどうたくん』は、新宿区内で発掘された小銅鐸をもとにしています。近畿地方が中心の銅鐸が新宿で発見されたことに意義があり、もしかすると、この博物館で最も重要な所蔵物かもしれません。

どちらの博物館とも、学生が知的好奇心を持って見学していたことが印象的でした。久しぶりの課外授業だったからでしょう。新宿歴史博物館からKCPまで歩いて帰ってきたら、うっすら汗をかきました。博物館見学とはいえ、課外授業は、やっぱりお天気ですよ。

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終わりは始まり

11月13日(土)

明日が11月のEJU本番ですから、私が担当している受験講座の大半は今週までです。来週から暇になるかと言えば、決してそんなことはありません。今年は先学期から超過密スケジュールでしたから、仕事の積み残しや先送りがたくさんあります。まず、それをどうにかしなければなりません。そして、気が付けば11月中旬、受験シーズンたけなわですから、面接練習などが待ち構えています。

来週は、受験講座の資料の補修をします。不都合な箇所は見つけ次第直してきましたが、そろそろ全体調整をしなければなりません。科目によっては、資料そのもののリバイスも必要です。受講生にわかりやすい資料をと心掛けていますが、盛りだくさんになり過ぎている面もあります。また、EJUの模範解答も、スマートな解き方を見つけた問題がありますから、手を入れていきます。

進学資料の改訂も、今年は遅れてしまいました。必要最低限の資料やデータは揃えてありますが、学生を志望校に押し込むには、もうひと頑張り必要です。

日本語教師養成講座の教材作成も急がなければなりません。私が担当する諸々の科目間の調整を進めて、有機的に関連付けていきます。私は、養成講座の最大の役割は、日本語教師としての思考回路を形成することだと思っています。受講生の脳みその中に、普通の日本人とは違う、日本語教師特有の語彙や文法や発音などのネットワークを構築するお手伝いをするのが養成講座なのだという考えで講義をしています。そういうポリシーに照らし合わせて、講義や資料を見直します。

要するに、年末まで暇にならないということです。

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もうすぐです

11月11日(木)

私のクラスのHさんは、4月から国でオンライン授業を受けています。先学期のように全員がオンラインの時期もあれば、今学期のように対面授業にオンラインで加わることもありました。私たち教師は対面の学生とオンラインの学生の間に差が生じないように気を使っているつもりですが、完璧とは言い難いと思います。ネットの状態が悪い日もありましたし、教師の操作ミスで“???”となってしまったこともあったでしょう。カメラの切り替えを忘れて、教室の学生の顔を映したまま、ホワイトボードを使って説明を始めてしまうなどというのが代表例でしょうか。

そんな悪条件をものともせず、Hさんは、画面いっぱいに顔を映して、毎日授業に参加します。テストの際に顔をゆがめて問題に取り組んでいる様子が大写しになると、思わずヒントを出してあげたくなります。必死にノートを取り、大きく口を開けてコーラスし、チャンスを捕らえて発言し、誰よりも前向きに授業に参加しています。

そんなHさんに、ようやく入国のチャンスが巡ってきました。年内に入国できる線が見えてみたのです。それに関する校内の説明会が明日開かれます。もう通知は届いているはずですが、授業終了間際に画面を通してHさんに確認を取りました。「もうすぐ日本へ来られるね」と声をかけると、今まで見せたことのない笑顔でこっくりとうなずきました。本当に待ち焦がれていたのだなあと思いました。

東京の新規感染者は、先週より17名増えたとか。このまま、また急カーブで増加するなんてことはないでしょうね。国の方針が変わって鎖国に逆戻りしたら、Hさんだって心が折れてしまうかもしれません。明日は減少傾向に復帰することを祈っています。

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聞き覚えのある声

11月9日(火)

朝、仕事をしていたら、特徴のある声が聞こえてきました。今までずっとオンラインで授業を受けてきたJさんが初めて登校してきたのです。私も受験講座で接点があり、少し高めの声は耳に残っていました。顔を見ると、マスクで半分ぐらい隠れていますが、確かにZOOMの画面で見た面影があります。Jさんは、ご両親の仕事の関係で、普通の留学生とは違ってコースで入国してきました。待機期間が明けて、今朝、晴れて初登校となったのです。授業後は、1人きりのオリエンテーションを受けていました。

KCPでも、これから入国してきそうな留学生の受け入れ準備が始まっています。事務担当のNさんは、役所には何回電話をかけてもつながらないとぼやいていました。どこの学校も、来日する留学生への対応に追われているのでしょう。受け入れ側が遺漏なきよう万全を尽くしているのですから、健康な学生の入国はどんどん認めてもらいたいです。

今度の日曜日、14日は、EJUです。4月期以前から勉強してきた学生たちの受験講座は、今週が最終回です。ずっと国で受けてきたDさんもそんな学生の1人です。しかし、Dさんの来日はもう少し先になる見込みです。どうやら、今回のEJU受験は無理そうです。授業の最後に「今週で終わり」と告げたら、少し寂しそうな表情がうかがえました。今度は対面でみっちり鍛えたいです。

4月期にレベル1で、オンラインで教えた学生たちが、今学期レベル3で勉強しています。今学期は間に合わないかもしれませんが、来学期は会えることでしょう。その時はレベル4、中級です。そこは私のテリトリーですから、今度は生の学生たちに教えられることを、今から楽しみにしています。

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違いがわかる?

11月1日(月)

月曜日に私が担当している中級クラスには、初級文法の復習の時間があります。初級の教科書から取ってきた例文や、語彙だけ少し中級っぽくした文から作った問題を宿題にして、その答え合わせをしています。

初級クラスでこの問題をしたら、習った文法はできる、未習はできない、難しい語彙はわからないとなるでしょう。中級となると、その文法を習った後にいろいろな文法を習っています。その中には似たような形や意味のものも含まれています。すると、初級の学生は間違えないような問題を間違えたり、初級とは違った間違え方をするようになったりします。知恵熱みないなもんでしょうかね。

そうなることは織り込み済みというか、それを整理するのがこの授業の意義です。たとえば、「て形+あります、います、おきます」などの補助動詞の意味や使い方とか、「と、ば、たら、なら」の違いとか、あるいは初級の学生は思いつかないような場面で使えるかとか、1ランク上の質問が出てきます。それも、週を追って高度になりつつあります。学生たちも、この授業の活用法が見えてきたのでしょう。

この授業は、ドリルや会話といった練習が主眼ではなく、学生に文法項目の再確認・再認識をしてもらうことが目的です。ですから、「東京(  )暮らしています」に「で」を入れるか「に」を入れるかで生じる微妙な意味の違いを通して、助詞の「で」と「に」の意味・用法を見つめ直すなどということもします。

上級になったら、この授業で扱っているような小技をピシッと決めて、引き締まった日本語を書いたり話したりしてほしいです。それが、進学してから役に立つ日本語なのです。

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メトロポリタン口

10月29日(金)

課外授業で、池袋の防災館へ行きました。感染状況が落ち着いてきたので、本当に久しぶりに学校の外へ出ようということになったのです。読解の時間で地震に関する教材を扱い、実際に災害に見舞われた際にどう行動するべきか、それを学びに行きました。

まず、学生が集まりませんでした。中級の学生ならたやすく見つけられるだろうと思って、集合は池袋駅メトロポリタン口としました。しかし、集合時刻までに姿を現したのは半数以下でした。多くの学生が朝から池袋探検をしたようです。新宿から池袋まで、スマホに言われたからでしょう、湘南新宿ラインに乗ろうとした学生がいました。ところが、今朝は運転見合わせとなってしまいました。「どうしましょう」という電話が入りました。山手線で行くという知恵が回らなかったのです。東京で暮らしていけるか、不安になりました。

ゆとりを持って予定が組んでありましたから、防災館の約束の時間には間に合いました。グループに分かれて体験+見学です。私のグループは、最初に地震のVRを見ました。作り物だってわかっちゃいるけど、迫力は感じました。今から玄関につながるドアが開かないとき、どうしようって思いました。

震度7の体験は、それ以上でした。緊急地震速報の、あの不吉な電子音とともにテーブルの下に身を隠しました。しかし、震度7の揺れだとテーブルの天板に頭がぶつかるんですねえ。ヘルメットや防災頭巾の意味がよくわかりました。

学生たちはみんな、消火器の使い方などの訓練に真剣に取り組んでいました。不幸にして地震や火事などが襲ってきたときの対処法は、身につけたとは言えないまでも、考えるきっかけにはなったはずです。学生たちにとって、苦労してメトロポリタン口までたどり着いた甲斐はあったと思います。担当のA先生、お疲れさまでした。

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