Category Archives: 授業

難問?

6月3日(金)

午前の授業後、Cさんが数学の質問に来ました。ある式の誘導がわからないというものでした。別の仕事をしている最中でしたから、問題を書き写し、後で答えることにしました。その仕事が終わり、時間に余裕ができたのでその問題に取り組むと、あっという間に答えが出てしまいました。

問題が簡単に解けたのはいいのですが、今度が逆に、Cさんはどこまで真剣にこの問題に取り組んだのだろうという疑念が浮かんできました。式の変形の際に、ほんのひと工夫しただけで結論の式が得られました。私に聞く前にどのくらい時間をかけてこの問題に取り組んだかわかりませんが、Cさんならできて当然のレベルの問題だと思いました。

根を詰めて一つのことを考えていると、問題のとらえ方が固定されてしまうことがあります。もしかすると、Cさんもそんな無限ループみたいな状況に陥っていたのかもしれません。そういう時はしばらく時間を空けて再挑戦してみると、あっさり解決することがよくあります。Cさんはそれができなかったのかな。

と考えた時、大きな疑惑が湧き上がってきました。Cさんが来たのは、授業の直後でした。ということは、もしかすると、Cさんは授業中ずっとこの数学の問題を考えていたのでしょうか。問題の数式がスマホの中だったことも、教師の目を盗んでやっていたことを表しているのかもしれません。学生が信じられないとは情ない限りですが、Cさんは去年の受験シーズンにそういうことをやらかした“実績”がありますから、疑いを完全にぬぐい去ることはできません。

Cさんには、式の誘導のしかたをメールで送りました。疑心を抱いたことはおくびにも出さずに…。

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卒業前に同級会?

4月18日(月)

午前クラスの授業が終わった時間に、Wさんが受付に姿を現しました。Wさんも去年のこの学期にレベル1で教えた学生です。その後順調に進級して、今学期はレベル6です。先週まで隔離期間でオンライン授業でしたが、今週から登校できるようになったのです。

オンラインの画面からは小柄な印象でしたが、実物のWさんはそれより一回り大きかったです。物理的に大きいことも確かですが、自分に自信を持っているのでしょうね。胸を張っている分、大きく見えるのかもしれません。Wさんには今週末の新規来日生のウェルカムパーティーで代表あいさつをお願いしています。私以降、レベル2・3・4の先生方も、Wさんの人柄と日本語力の伸び具合を評価しているからこそ、代表に推挙されたのです。

先週末のウェルカムパーティーで代表を務めたMさんも、1年前私のクラスでした。そして、演台に立ったMさんは、やはり大きく見えました。日本の空に向かってはばたく感じがしました。苦労してつかんだ留学のチャンスを絶対にものにしてみせようという意欲が感じられました。

こうしてみると、1年前のクラスは粒ぞろいだったと思います。2人のほかにも、Kさん、Cさん、Lさんなど、他の先生の信頼を勝ち得ている学生ばかりです。Tさんも独特のキャラクターで、すでに新KCPには欠かせない人材となっています。ご家庭の事情で勉強をあきらめざるを得なかったXさんも、この場にいればきっと多くの先生方に愛されたでしょう。

まだ国にいる学生がみんな来日したら、1年前のクラスの同級会を開きたいですね。

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新しい顔も加えて

4月13日(水)

室内にいても汗ばむ陽気でした。教室との行き来で外階段を使うと、スーツの上着が鬱陶しくなりました。最高気温26.4度の夏日ですから、当然ですね。

理科系の受験講座が始まりました。今学期は新しいメンバーが加わりました。先学期までのメンバーでも、Kさんはずっとオンラインでしたから、対面では新メンバーです。対面授業での初めての質問は「今学期はオンラインの学生はいないんですか」でした。Kさん自身も苦労が多かったんでしょうね。今学期初めての学生も、6月19日のEJUには申し込んでいますから、それまでは本番に向けての特別メニューでいきます。基礎部分は省略で、数学は微分積分を中心に進めていきます。

対面だと、問題をさせた時にどのくらい手が動いているか一目瞭然ですから、学生の理解度を見積もりやすいです。前半手が止まっていたPさん、後半はプリントの余白やノートにせかせかと計算式を書いていました。表情にも余裕が出てきて、どうやら理解が進んだようです。Gさんはコンスタントに手を動かしていました。高校卒業間もないですから、私の話が高校の授業にすぐつながったのでしょう。

一方、Yさんは欠席でした。先学期、いくつかの大学を受験しましたが、桜は咲きませんでした。日本語学校在籍期間1年延長の特例を使って4月以降も残ったものの、この調子では見通しは明るくなさそうです。去年のEJUの成績だって、胸を張れたものではありません。6月に気合を入れてすばらしい成績を取れば、早々に合格を決められるんですがね。そういうポジションにいることを自覚していないのでしょうか。

欠席者もいましたが、教室には外とは違った熱気がこもっていました。

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動き始める

3月23日(水)

学期が終わりに近づいたこの時期は、新学期から受験講座を受けたいという学生への説明会をする時期でもあります。先週から、学生のレベルやコースに応じて、何回か説明してきました。

Sさんも4月から受験講座を始めようと思っている学生です。大学で何を勉強したいかと聞くと、経営学か社会学とすぐに答えが返ってきました。これでも結構幅が広いのですが、漠然と数学はできないから文系に進みたいなどというのよりはずっとしっかりしています。即答に近かったということは、ある程度大学や学部について研究もしているということでしょう。具体的な志望校は挙がってきませんでしたが、現在上級ということは、名の通った大学を狙っているに違いありません。数学は苦手だとのことですから、私立大学です。とすると、範囲はかなり絞られてきます。そうそう、TOEFLの相場も聞いてきましたから、あのあたりの大学でしょうね。

去年のEJUの点数を聞くと、そういう大学を狙うには、日本語で60点ぐらい、総合科目は40点ほど、点数の上積みが必要です。これは、同時に、Sさんの6月のEJUにおける目標点でもあります。この目標がクリアできたら、受験講座の次の段階、出願準備に進むことになります。募集要項を取り寄せ、願書を作成したり、出願校によっては志望理由書を書いたりしていきます。

Sさんは半年前に受け持ちました。半分オンラインでしたから明確な印象はないのですが、真面目な学生だったという記憶はあります。今学期の担当の先生方も、Sさんは真面目な学生だから力になってあげたいと言っています。どうやら、鍛えがいのある学生を1人発掘したようです。

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もうすぐです

3月18日(金)

学期末が近づくと、次の学期の受験講座の準備が始まります。まず、新学期のレベル3になる進学コースの学生に対し、EJU各科目の対策講座のオリエンテーションをします。それから、進学コース以外の学生で受験講座を受講したい学生への説明会を開きます。最近は対象者のほとんどが海外でオンライン授業を受けている学生たちなので、こうしたオリエンテーション・説明会もオンラインです。

対面でもパワーポイントを使って話しますから、それをZOOMに乗せるだけなので、私にとっては大きな違いはありません。ただ、質問は対面の方が多いですね。対象が初級の学生ですから、やさしくゆっくりしゃべっても通じなかったのかなあと心配にもなります。

通じる通じない以前に、聞き取れていないおそれも感じます。パワーポイントのスライドにも明記したし、ゆっくり繰り返し話したのに、「○○について説明してください」という質問を受けることもあります。聴解力が伸びていないのでしょうかねえ。目と耳とを複合的に使って話し手の言わんとしていることを把握する力が、3年前より落ちている気がします。ある程度まとまった話を聞いて、内容を理解して、何かリアクションを起こすというのは、どこに進学しても求められる力です。KCPに受験講座は、これも自然に養えます。

夕方からの説明会に参加したHさんは、昨日来日したばかりの学生です。「受講料は日本へ来てから払ってください」と言ったら、Hさんの鼻が少し膨らんだような気がしました。画面に出ていた他の学生たちも、「そうだよね、もうすぐだよね」という顔をしていました。

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小さな窓を通して

2月25日(金)

午前中、T先生と話していたら、学生との意思疎通の話になりました。「どこですか」と聞いているのに言葉の意味を答えたり、「それで」と「それに」と「そして」があやふやだったり、上級でも助詞がボロボロだったりなどということをぼやき合いました。

一つには、オンライン授業における学生の集中力は、やっぱり、対面授業には及ばないということがあるでしょう。W大学の学生のように、複数の授業を一度に聞く学生はいませんが、別のことをしながら授業を聞いている学生は結構いる感じがします。別のことをするまでに至らなくても、ボーっとしている時間は、対面よりも長いでしょう。私が学生だとしても、90分間パソコンの画面と音声に集中し続けるのは、教室で授業に集中するより難しいと思います。意識が飛んだ瞬間に指名されたら、的外れなことを言ってしまうかもしれません。

教師は、自分がしゃべり続けなくても、授業を仕切るのは自分だという意識が強いですから、90分ぐらいどうにかなってしまいます。画面に現れる小さな顔から学生の様子を推し量らねばと思い続けると、対面授業より緊張度は高まっているかもしれません。指名してから答えが返ってくるまでの微妙な間も、意思疎通の敵です。WiFiの加減によっては、さらに状況が悪化します。

教師も自宅から授業を送信すれば、多少はおおらかな気持ちになれるのでしょうかねえ。でも、3月で卒業する学生の大半が、卒業式ぐらいは対面でしたいと言っているそうです。学生も、間に何も介在しないリアルなコミュニケーションを通して語学をものにしたいと思っていると信じたいです。

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体育会的数学

1月19日(水)

今まで、理科系の数学の受験講座は、90分の授業を週に2日行っていました。それを、今学期は、180分で1日にしてみました。日本語のクラス授業同様、前半と後半の間に15分の休憩をはさみます。この方式の方が、練習問題をする時間が取れるのではないかと思って始めてみたというわけです。

やってみると、確かにそういう感じがしました。週当たりの授業時間は変わらないのに、なんだか余裕があるように感じられるのです。初回は一応予定したところまで到達しましたから、練習問題をやった分だけ進度が遅くなったというわけではありません。

その点はよかったのですが、練習問題をさせてみると、計算力が足りないという問題が浮かび上がってきました。前々から薄々感じていたことですが、KCPの学生は計算問題をおろそかにするきらいがあります。やれと言ってもそんなのちょろいとばかりに無視します。そのくせ、EJU本番で何かやらかして、思ったように点数を伸ばせないのです。EJUの数学は計算力が命なのに、それを直視しようとしません。

練習問題、計算問題をすることによって、数学的な勘が養われます。反射神経が鋭くなると言ってもいいでしょう。式を見ただけでこんな感じに因数分解にできるんじゃないかとかグラフの概形が見えてきたりとか、図形問題で補助線が浮かび上がってきたりとか、そういう域にまで達してもらいたいものです。

6月までの受験講座はこの計算力を重視して、体育会的に体で覚える数学にしていきたいです。

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何も書かない

1月13日(木)

私は、仕事柄、人前で話す機会が多いのですが、きっちりした原稿はあまり書きません。おとといこの稿に書いた修了式にしても、Aさんの人となりを思い浮かべつつ、こんなことを話そうといくつかのポイントを頭の中に入れておいただけでした。卒業式をはじめ、学校行事での挨拶も、まあこんなもんです。時事問題も織り込みつつ、持ち時間にも合わせて、話の内容を決めていきます。唯一、原稿をしっかり書くのが入学式での挨拶です。こちらは各国語に翻訳されて画面に映し出されますから、書かないわけにはいかないのです。

今、日本語教師養成講座の講義資料を作り直しています。こちらは、話そうと思ったことをワープロベタ打ちにしたメモがパソコンのそこかしこに散らばっています。そういうのを結集し、再編し、受講生の理解の助けになるようなパワーポイントなんかも作ろうという魂胆です。几帳面な方なら、パワーポイントのノートの欄に、せめて話の要点ぐらいは書き込むのでしょうが、私はしません。受講生の興味対象や、その時々の話題なども織り込んで、オーダーメイド感たっぷりの講義にしたいのです。

だから、出来上がったパワーポイントを使って講義のシミュレーションをすると、さっきと今とでセリフがかなり違うということが起きます。もちろん、根幹をなす部分は同じですよ。でも、そこまで持って行く部分とか、そこから派生した話とか、そんなあたりがやるたびに違ってくるんですねえ。講義の品質を管理するという意味においては困った現象かもしれませんが、そういうしゃべりが楽しくてこの仕事を引き受けている面も見逃せません。入学式は原稿通りに話さなくてはという意識が強く、セレモニーを楽しむ境地には至っていないのです。

資料を作りながら、私の講義って与太話が半分だなって思いました。入学式のようにきちんと原稿を書いて無駄を省いたら、講義の時間が半分になるかもしれません。短期集中で、受講生からは歓迎されるかな。でも、パワーポイントの真っ白なノート欄が、私の個性なんだと思っています。

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みんな、知らないの?

1月11日(火)

午後、Aさんの修了式がありました。Aさんはアルファベットの国から来た学生です。1年前に来日し、昨年12月に予定していたKCPのプログラムが終了しました。他の学生とは違うコースなので、3月の卒業式などとは別に修了式を行いました。

Aさんは日本で就職しました。英語ができることは就活において武器になりましたが、日本語でのコミュニケーションが全く支障なくできることもまた、大きな決め手となりました。KCPの上級まで勉強したのですから、当然と言えば当然なのですが…。

昨年4月に就職したPさんも、同じように日本語のコミュニケーションがよくできました。あっという間に職場に溶け込み、みんなに愛される存在になっているようです。どこの国のどんな職場でもそうでしょうが、やはり心を通わせ合うことが、そこに根付く第一歩なのです。

Aさんが在学中に一番つらかったことはオンライン授業だったそうです。授業の時は、画面を通じてクラスのみんなと会えるけれども、授業が終わったらあっという間に一人ぼっちになってしまうのが寂しかったと言っていました。通学授業では、授業後に友達とおしゃべりをし、一緒に食事に行っていたAさんならではの悩みです。

また、Aさんは、世界の人が自分の国をいかに知らないかを知らされたとも言っていました。日本も、かつては「フジヤマ、ゲイシャ」でしたが、今もそれに「ゲンパツ」が加わったくらいでしょうか。でも、Aさんは、そういう事実を、世界が広がったと前向きにとらえていました。

午前中、専門学校の方がいらっしゃって、卒業生の状況を教えてくださいました。日本での就職が成功したという学生は、KCP時代からコミュニケーション力に富んでいて、前向きな性格でした。もちろん、専門学校での成績も優秀です。

明日から新学期です。在校生をこういう方向に引っ張っていきたいです。

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デジタルネイティブの本能

1月5日(水)

私の世代は、社会人になりたての頃は新人類などと呼ばれましたが、今や完全に旧人類です。コンピューターを本格的に使うようになったのは就職してからで、卒論や修論のデータは紙で管理が中心でした。それに比べると、今の学生たちはデジタルネイティブで、コンピューターを母語のように扱います。

そういう学生たちに、コンピューター経由で進学に関するアンケートを取りました。年末にフォームを送ったのですが、回収率が芳しくありません。催促のメールを送っても、なかなか反応してくれません。オンライン授業での提出物の様子を見ていると、すぐに100%近く回答が来ると思っていましたが、そうはありませんでした。

宿題やテストは提出しないとすぐに痛い目に遭わされますが、このアンケートはそんなことがないからかもしれません。しかし、アンケートを紙で配っていた時は、欠席者を除いてほぼ全員が提出していました。紙に書かれたデータを手入力するのは確かに手間でしたが、回収率の高さには代えられません。

紙のように課題が現物として存在すると、早く片付けなければという意識が働くのでしょう。パソコンかスマホの中の電子的な存在となると、緊急を要しないと見るや、後回しにしてしまうのです。デジタルネイティブのはずの学生たちも、根っこの部分にアナログな思考回路が垣間見えます。

嫌なこと、見えないものはなかったことにという、人間の本能とも言える発想が、デジタルネイティブの行動様式を変えてしまったとも考えられます。とすると、人間って意外と進歩しないものなんですね。真のデジタルネイティブは、今の学生の次の世代なのかもしれません。

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