Category Archives: 授業

スマホを見る

1月30日(月)

Pさんがまたスマホを見ています。読解問題のプリントを配ると、普通の学生はわからない単語を調べるためにスマホを取り出します。スマホに頼りっきりでテキストを読むのはあまりほめられたことではありませんが、それでもまだ理解の範囲内です。しかし、Pさんはプリントそっちのけでスマホに集中します。スマホ依存症と言って差し支えないでしょう。

Pさんは漢字の読み書きが極端に弱いです。上級の読解となると、漢字で書かれた単語がわからなかったら、手も足も出ません。単語を調べると言っても、ほとんどすべての漢字の言葉を調べなければなりませんから、いくらスマホの使い方に習熟していると言っても、それにかかる時間は半端じゃありません。だから、最初からあきらめてしまっているのです。

じゃあ、そんなPさんはどうして上級クラスにいるのでしょう。ひとえに、聴解力と話す力のおかげです。日本語を聞いて理解する力は他の学生よりも強いですから、教師の話を理解するのはクラスメートよりも速いです。理解したことや自分の意見を話す力も標準以上ですから、一見するとできる学生なのです。読んで書くテストは下手をすると初級以下かもしれませんが、理解力はどう考えても上級です。

現に、読解試験のない大学に合格しています。その大学の合否判定基準がどうなっているかわかりませんが、面接時の受け答えが高く評価されたに違いありません。最近KCPから進学者がいなかった大学に入ってくれたことはうれしいですが、入ってからどうなるか非常に心配です。

Pさんみたいな学習者は、日本語スタンダードのどこのレベルに入れればいいんでしょうかね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

今学期は忙しい

1月28日(土)

今学期は受験講座のほかに、上級の1レベルと選択授業1クラスの授業を全面的に作り上げていかなければなりません。卒業・進学の学期ですから、JLPTのN1の問題集なんかやったところで、学生にとってはありがたくも何ともありません。「進学してから役に立つ授業」を目標に、無い知恵を絞っています。

読解は、市販の教科書も使っていますが、“今”の日本を感じてもらうために、新聞やら動画やらにも触手を伸ばしています。学生たちの興味を引きそうな話題で、少し気合を入れれば読める難しさで、読んだ後で意見交換ができそうな内容で、などと注文を付けていくと、そうそうたやすく手に入るものではありません。

選択授業は、先週この稿で取り上げたとおり、学生に日本の観光ガイドを作ってもらいます。どこかのサイトの丸写しでないものを作らせるには、ターゲットとした観光地に興味を持ち、多角的に調査し、その結果をまとめ上げるという活動が必要です。これには、まず、きっかけを与えなければならないと思い、そのための資料作りをしました。日本国内の地理に関しては、私は1都1道2府43県すべてに足を踏み入れたことがありますから、ある程度のネタは持っているつもりです。いかにしてそのネタに学生を食いつかせるかが主戦場です。

授業に加えて、進路が決まっていない学生を志望校に送り込むという仕事もあります。むしろ、こちらのほうが重要かもしれません。週が明けたらこちらのテコ入れもしていかねばなりません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

テスト結果

1月24日(火)

受験講座理科の新規受講生がじわじわと加わってきたので、授業を先学期からの継続生にばかり合わせるわけにもいかなくなってきました。そこで、受講生全員にテストをしました。新しい学生だって、国の高校で理科を勉強してきています。忘れている部分はあったにしても、まるっきり何もわからないとは考えられません。継続生だって、今まで勉強したことをすべて身に付けているとは思えません。これから先、どこを重点的に教えていけばいいか、それを知るためのテストです。

手っ取り早いので、EJUの化学の過去問を拝借しました。私が作った模範解答もありますから、試験後に解説するにしても容易に対応できます。授業では、化学は1セット(20問)30分以内に解けと言っています。しかし、今回はEJUの問題に向かうのが初めての学生もいますから、EJU本番の理科の試験時間・80分の半分、40分を与えました。

継続生は、先学期のうちに化学の範囲の半分ほどを勉強していますから、40分では時間が余るかなと思いました。しかし、余りませんでした。新規の学生は、何もわからずあっさりギブアップしてしまうのではないかと心配していました。しかし、杞憂でした。

授業後、学生たちの答えをチェックしてみると、新しい学生はまぐれ当たりとしか思えないような点の取り方でした。継続生は、それよりはましでしたが、年末に教えたところの問題は、ほぼ全滅でした。新規受講生に対して、思ったより差が付きませんでした。私の教え方がまずかったのでしょうか。

どうやら、継続生も1から出直しのようです。レベルが合ってよかったとも言えますが、どんぐりの背比べでは困るんですよね…。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

人口減少

1月23日(月)

先週発表された、中国の人口が減少に転じたというニュースの新聞記事をもとに、読解兼日本事情的な授業をしました。中国の学生が多いクラスなので、日本での報道ではうかがい知れない実情がわかるのではないかと期待もしていました。

このニュースについて解説している動画も見せました。学生たちは思ったより真剣に見ていて、意見や感想を述べてくれました。こういう報道は多少センセーショナルな方向に傾きがちなのですが、学生たちの話を聞くと、必ずしもそうではないようです。結婚にお金がかかりすぎるなどというあたりには、盛んにうなずいていました。

中国以外の学生も含めて、将来子供を持つことについて聞いてみると、子供をたくさん作りたいという声は聞こえてきませんでした。子育てにはお金がかかることは承知しており、子育てのために自分の生活レベルを切り下げるのは嫌なようです。

では、少子高齢化にはどのように対処すればいいかと、グループで考えてもらいました。中には、打つ手なしという結論に至ったグループもありました。大半のグループは経済的な支援を挙げていました。これなら各国がすでに何らかの形で取り組んでいます。しかし、華々しい成果は現れていません。

学生たちは、自分の国ではごく平均的な若者でしょう。とすると、学生たちの国々も日本も、人口減少、少子高齢化に歯止めがかかりそうもありません。そういった中での留学というのは、自分の価値を高めるためなのでしょうか、自己実現を考えているのでしょうか。学生たちは、50年後の世界をどう描いているのでしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

例文の間違い

1月19日(木)

他の学校のことはよくわかりませんが、KCPは授業中に割とよく例文を書かせます。授業時間が足りなくなってしまったら、宿題とすることもあります。「学生に習った文法や語彙、表現を使うチャンスを与える」などと言ったら恩着せがましいですが、教わった言葉は使ってみないと定着しないものです。また、教師側としては、自分の教え方の反省材料にもなります。

「水と学生は低きに就く」とは、孟子の言葉をもじった格言(?)で、私も学生の頃よく先生に言われました。どうやらKCPの学生もこれのようです。提出された例文の中に似たようなものが何人かから出てくることがあります。私が目を離したすきに、習ったばかりの文法表現や語彙をスマホで検索して、見つかった例文を書き写すか名詞をちょこっと替えて書いているのでしょう。だから、濁点が抜けていたり、スマホのフォントっぽい漢字が書かれていたり、いじって個性を出そうとしたのが裏目に出て変な例文になったりすることがよくあります。

MさんとNさんとLさんが、よく似た例文を出してきました。「机の上にゴミやら教科書やらがごちゃごちゃ置いている」といった文です。「机の上はゴミやら教科書やらが散らかっている」ぐらいでしょうかね、自然な表現にすると。日本人が作った例文ではないと思います。“ごちゃごちゃ置いている”なんて、初級か中級の学習者の犯しやすい間違いです。ということは、3人の母語で書かれたサイトでこの例文を見つけたのでしょう。つまり、全く日本語の勉強になっていないというわけです。

さて、こいつらをどうやっていじめてやろうかな。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

どこへ行きたい?

1月17日(火)

今学期は上級の選択授業も担当します。私がやるのは、留学生目線の日本の観光ガイドを作ろうというプロジェクトです。日本の観光ガイドを作るには、まず、日本を知らなければならないということで、初回は日本の紹介をしました。

日本は島国ですが、これをお読みの皆さんはいくつぐらいの島があると思いますか。学生に聞いたら、30とか50とか、よほど思い切った学生で200などという答えでした。島の定義のしかたにもよりますが、間違ってもそんな少数ではありません。だいたい7000だと言ったら、全員が驚いていました。30なんて、佐渡島、淡路島など、有名な島だけでもそれぐらいになっちゃいますよ。

次は地方の名前、都道府県名です。地方の名前は、中部地方と中国地方で考え込んでいる学生が目立ちました。都道府県名は、関東地方と京都大阪あたりはできましたが、それ以外は北海道沖縄を除いて出来が悪かったですね。

都道府県名が全部出そろったところで、行ったことがある都道府県を聞いてみました。南関東と京都大阪奈良が多く、それに北海道が続く感じでした。他は1人か2人でした。遠出を控えろと言われ続けてきましたからしかたない面はありますが、学生の行動範囲はあまり広くありません。がっかりだったのは、行ったことがある県として埼玉を挙げた学生が約半数だったことです。先学期、川越であんなに盛り上がったのに…。あの日は、ちょっと遠いところまで行ったけど、そこが埼玉県だったとは思わなかったというところでしょう。

最後に、行ってみたい都道府県を挙げてもらいました。すると、沖縄北海道が票を伸ばしました。近畿地方も人気がありましたが、兵庫県はパッとしませんでした。どうやら、神戸と兵庫県が結びつかなかったようです。中国四国九州中部東北も、ごく少数の学生が支持しただけでした。

要するに、知らないから行きたいとも思わないのです。「進学先として地方の大学も考えろ」と指導しますが、地方がどんなところか知らなかったら、学問する場として選ぶはずがありません。この辺を是正していくのも、この授業の役目だと思って、今学期取り組んでいきます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

どの科目を取りますか

1月11日(水)

Cさんは今学期から受験講座を受ける学生です。どの講座を取るか決めてもらうため、授業後に説明をしました。

「Cさんは大学で何を勉強しようと思っていますか」。これは文系か理系か確認する質問であると同時に、日本語力チェックもしています。これがわからないようだと、受験講座についていくのは厳しいかもしれません。Cさんは難なく「文学か経済を勉強しようと思っています」と答えました。

「文学か経済…。ずいぶん離れていますねえ。文科系の人は、総合科目は絶対取ってください」「はい、わかりました。経済を勉強するときに数学が必要ですが、受験講座の数学は何を勉強しますか」と聞かれたので、EJUの数学コース1の範囲である数学Ⅰと数学Aの教科書を見せました。2次関数のあたりでCさんの顔が青ざめてきました。志望校を聞くと、A大学、M大学、N大学の名が挙がりました。いずれも国立大学ではありませんから、少なくとも文学部ならEJUの数学が要求されることはないでしょう。

Cさんは自分が置かれている状況もよく理解しているし、きちんと理解できるまで質問も繰り返すし、話の内容も筋が通っているし、このまま順調に伸びてくれれば上述の志望校も夢ではありません。何より、こちらの言ったことをきちんと聞き取っているところが心強いです。でも、数学をあきらめてしまったのは、理系人間としては寂しいですね。

数学は、図形の問題が解けたり順列組み合わせの計算ができたりするのが到達目標ではありません。図形の問題や順列組み合わせの計算に使う論理性こそ、その根本です。それは、文学の研究にも必要とされます。

数学嫌いを生まない教育をしている国って、あるのでしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

大差

12月20日(火)

K先生がお休みだったので、最上級クラスの代講をしました。最上級クラスともなれば、長期間在籍している学生も多いですし、学校内のイベントでもけっこう活躍していますから、有名人が多いです。私の場合は、それに加えて受験講座で接点がある学生もいます。そんなわけで、コンスタントに授業に入っていたわけではありませんが、ほとんど何となく顔と名前が一致する学生たちでした。

さすがに最上級クラスで、誰を指名しても読解のテキストなどがスラスラ読めます。「声高」とか「喧騒」とか、特殊な読み方をする単語や見慣れない漢語は読み間違えたり立ち止まったりしましたが、それ以外はつっかえることはありませんでした。そうそう、意外に「種明かし」が読めず、意味もわかりませんでした。

私が担当している、上級でも下の方のクラス(の下の方の学生)は、うっかりするとカタカナ語でも間違えて読みますから、それとは大違いです。おそらく、文章を見ている範囲が違うのでしょう。私のクラスの学生は、極論すれば、テキストの文字を1つずつ拾い読みしています。だから、どこが単語の切れ目、意味の切れ目なのかわからずに読んでいます。それに対し、最上級クラスの学生は、少なくとも内容把握をしながら読んでいます。だから、次にどんな単語が現れるかある程度は予測がつき、その予測範囲内の単語が出てきたら、スムーズに読めるというわけです。

この両方のクラスの学生は何が違うのかと言えば、理解語彙の数です。読んでわかる、聞いてわかる単語の数の差が、読み方のスムーズさの差になって現れ、同時に読解力の差にもなっています。文章も、2~3行まとめて目を走らせていることでしょう。こうなると、私なんかの読み方とあまり変わりません。

どうやって鍛えれば、私のクラスの学生たちは、最上級クラスの学生たちに近づくのでしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

雑談の中に

12月15日(木)

学期末になると、次の学期から受験講座を受ける学生に向けて、説明会を行います。対象者の大部分が初級ですから、普段顔を合わせる機会がない学生が多いです。

Aさんは、東京の冬はとても寒いと言います。広東から来たそうですから当然ですね。今朝の東京の最低気温は3℃、練馬は0.8℃でした。広東は、どう考えてもそこまで下がらないでしょう。それに、東京の家の造りは、広東同様、夏の暑さをどうにかしのぐことを第一に考えられています。ですから、エアコンで冷暖房完備となっても、冬は寒いのです。少なくとも、北海道の家の中のように、冬は半袖などということはありません。

そんな雑談をすると、へーえという顔をします。初級の教室だと、教科書の範囲から大きく踏み出した日本語を使うことはあまりありません。クラス全体をついてこさせるとなると、東京の家の造りはあまりいい話題ではありません。しかし、受験講座となると、教科書や教室の日本語を応用して、広範な話題について吸収したり自ら発信したりする必要に迫られます。東京の家の造りは、その第一歩でしょう。

Bさんは実によくしゃべります。初級なら、クラスで一番かもしれません。そうなると、ちょっと込み入ったことを話させてみたくなります。また、普通の日本人の話し方の、文法だけやさしいバージョンで話しかけて、ほんの少し、上級会話を味わわせてみたくもなります。Bさんは、ちゃんとついてきました。受験講座の先生の話を理解するんだったら、これくらいこなしてもらわないとね。

進学しても困らない日本語力というと、こんな実戦日本語力とでもいうような、聞いたり話したりする力も必要です。EJUなどでいい点数を取らせるだけが受験講座ではありません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

しりとり脳

12月9日(金)

宿題として出す漢字パズルの解き方を説明する都合上、しりとりを知っているかという流れになりました。クラス全員がきょとんとしていましたから、しりとりを教えました。ねこ―こども―もり―りんご―ごご…などと学生からあがった言葉をホワイトボードに書いていくと、「ごご」のように同じひらがなが2つ続くなど、次の人も同じ音から始まる言葉を探さなければならないパターンがウケました。笑いのツボは意外なところにあるようです。

しりとりのルールがわかり、宿題のやり方がわかったところで、今度はクラス全体にしりとりの次の言葉を聞くのではなく、学生ひとりひとりに言わせました。前の学生がどんな言葉を出すかわかりませんから、普通の授業以上の緊張していたようでした。

すると、意外なことに、授業中は何を聞いても答えられず、中間テストは散々な成績だったRさんがすぐに反応するんですねえ。他の学生の分もボソッと答えているのです。Rさんよりずっと優秀な成績のJさんは、「うんてん」なんて「ん」で終わる言葉をつい口走っていました。読解や文法の時間には頼りになるNさんも、「こっかい」と聞いて「かいぎ」と、漢字しりとり的な続け方をしてしまいました。Rさんはそんな時にも「いま」などと冷静に単語を選んでいました。

成績的にはRさんといい勝負のEさん、Tさんあたりは、やっぱりさっぱりでした。それを思うと、Rさんにはしりとり脳が備わっているのかもしれません。ここをつついてRさんの成績を伸ばせないものかと思いながら授業を終えました。Rさん、にこにこしながら、元気よく「先生、さようなら」とあいさつして帰っていきました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ