Category Archives: 授業

教師の勉強

5月25日(木)

1時間の授業をするためには3時間の準備が必要だ――20年以上も前、私が日本語教師養成講座の受講生だった時、講師の先生がおっしゃっていました。駆け出しのころは、そのぐらい準備に時間をかけていたと思います。しかし、今はそこまで時間をかけません。いや、“かけません”と“かけられません”の中間ぐらいでしょうか。仕事が立て込んでいて、即興に近い形で授業をすることさえあります。そんなことでは学生に対して失礼だろうと思いながら、若干の罪悪感を抱きつつ、でも平気な顔をして、教壇に立つこともあります。

準備が嫌いなわけではありません。本棚に並んでいる10冊以上の辞書を駆使して語句の意味を調べたり、読解テキストの参考になりそうな資料を探したり、数学や物理の問題のオーソドックスではない解法を考え出したりなどということは、何時間やっても飽きません。しかし、次から次と仕事が飛び込んできますから、そういう方面にばかり時間を割り振るわけにはいきません。

午後、読解の勉強会がありました。上級では、今学期から新しい読解の教科書を使い始めました。読解の授業のコンセプトも見直しました。そのため、授業で新しい課に入る前に、上級担当の教師が集まって、その課の取り扱い方を研究しています。

毎回、教師間で読解テキストの捉え方、視点の位置が違うものだなと感心しています。たびたび目からうろこが落ちます。そうすると、授業で新しいことに取り組んでみようかというチャレンジ精神が湧き上がってきます。年寄りには刺激が必要なのです。

この勉強会も授業準備だとしたら、いくらかは3時間に近づいたでしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

自宅勉強時間

5月23日(火)

火曜日のクラスは、今週もディベートに挑戦しました。「予習と復習ではどちらが大事か」という、先週に引き続きしょうもないテーマですが、主張や反論はいくらでも思い浮かべられるでしょうから、ディベートのネタとしました。作戦立案中の学生たちを見ると、予習が大事にしても復習が大事にしても、予想通りいろいろな意見を出し合っていました。

さて、本番になると、その主張を訴えてはいるのですが、どうも迫力がありません。チームで考えた通りに主張を読み上げるチームもあり、相手の目を見て話すという基本ができていませんでした。逆に、相手の目を見て主張を述べたチームは、審査員の受けが良かったですね。

相手チームの話を聞くことに関しては、先週よりもメモを取っている学生が多かったですが、それでも相手の主張に応じてとなると、できる学生は限られていました。相手の主張もすぐに想像がつくテーマを選んだつもりなんですがね。私から見ると不満な点は多々ありましたが、主張や反論はどうにかこうにか形になっていました。

授業後、学生面接をしました。Cさんは自宅学習が毎日1時間と言います。さらに話を聞くと、日本語の動画を視聴した時間も含めての1時間でした。さっきのディベートでは、予習の重要性をあんなに語っていたのに…。今年はN1を取ると言っていましたが、そのための勉強はしているのでしょうか。

Aさんも事情は似たようなものです。美術系大学院進学希望ですから、今は作品制作に忙しいです。毎日4時間ぐらいそれに時間をかけています。でも、勉強時間ゼロはひどすぎますよ。Aさんの熱弁した復習の大切さが今一つ心に響かなかったのは、こんな事情があったからなんですね。

2人とも、中間テストはどの科目も合格点前後でした。予習復習、せめてどちらか1つはしっかりやっておかないと、日本語力が伸びませんよ。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

ディベート第一歩

5月16日(火)

私のクラスでディベートに挑戦しました。上級の入口のクラスですから、本格的なディベートにはならないだろうと思っていましたが、私の想像よりはよくできました。敢闘賞はあげていいと思います。

自分の意見の主張は、まあまあできていました。チームで相談して内容をまとめますから、当然と言えば当然でしょう。テーマも、「中間・期末テストを廃止することに賛成/反対」という、昨日受けたばかりの中間テストがかかわっていましたから、自分事としてとらえられたのではないかと思います。でも、チームで話し合って決めた主張をそのままぼそっと言っただけというのは、いただけませんでした。

相手チームの主張に対する質問・反論は、各チームのエース級が登場してきましたから、結構厳しい意見も出てきました。ただし、エース級の学生だからこそできたという面は見逃せません。自分の担当ではないと思っていた学生の中には、ボーッとして相手の主張を聞いていたやつもいました。また、その反論に対する反論、質問への解答が貧弱だった点が残念でした。

要するに、相手の話をよく聞いたうえで、それに対応して自分が何か発言するというところがまだまだなのです。話すことはできても、相手の意見をしっかりと受け止める聞き方ができていません。これが、このクラスの学生の課題だということが非常に明瞭になりました。確かに、上級だからこのくらいの日本語は通じるだろうと思って話しても、うなずく割にはさっぱりわかっていないということがよくあります。

来週も、また挑戦してみます。どうやったら、「聴く」ことができるようになるか、私にとっても大きな課題です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

かぶととこいのぼり

5月2日(火)

毎年のことですが、5月5日は祝日なので、連休直前の5月2日に端午の節句の行事をします。今年の特色は、教室で兜を折ったことです。端午の節句のリーダーが兜の折り方のpptを用意してくれましたが、やはり実演するに限ると思い、今朝は出勤して最初の仕事として、兜の折り方を復習しました。

兜なんて、何十年も折っていませんから、果たしてうまく折れるだろうかと心配していました。しかし、折ってみると指先が自然に動きました。自転車に乗るのと同じで、体が覚えているものなんですね。少し自信を持って授業に臨みました。

さて、本番です。学生に折り紙を配って、実演を始めました。その直前の授業までやる気があまり感じられなかったJさんやYさんも、pptと私の実演とを見比べながら、けっこう本気になって折っているではありませんか。学生たちにとって難しかったのは、兜の前立てを折り出すところでした。三角をきっちり半分に折ってしまって、前立てが目立たなくなってしまった学生が何名かいました。先っぽが外に出るように折るんだよと、目の前で折って見せて、学生にやらせました。どうにか、全員兜らしく折れました。

6階の講堂には、毎年のごとく、5月人形が飾り付けられていました。教師の役目は、その人形の解説です。弁慶がいましたから、弁慶の泣き所なんていうのまで教えちゃいました。学生たちと同年代の日本の若者は、そんな言葉は使わないかもしれませんが…。

最後は、校庭に飾られたこいのぼりを見上げました。ビルに囲まれて、いかにも池の中の鯉という感じですが、首を直角に曲げれば青空を泳ぐ鯉に見えないこともありません。

今年は柏餅なしでしたが、学生の心に何か残せたでしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

弱いまなざし

4月25日(火)

今学期に入ってから、火曜日のクラスでは毎週最近のニュースの映像を見せています。近頃の学生たちはテレビを見ません。ニュースも文字情報として取り入れていますから、日本で暮らしていながらも、耳を鍛えるチャンスは意外なほど少ないです。

映像を見せる直前に、ニュースの見出しのディクテーションをしていますから、多少はどんなニュースか見当がつきます。しかし、ニュースの映像となると、単にニュース原稿を読み上げるだけではなく、各局独自の切り口による分析や解説も加わります。上級クラスですから、そういうところも聞き取ってほしいと思っています。

映像は、それ自体が内容理解の助けになりますし、要点は字幕で表示されますから、聴解力を養うという点から言うと、効果のほどは怪しいかもしれません。でも、モニターを真剣に見入っている学生たちを見ていると、いせ続けていきたいなあと思います。

ところが、YさんやHさんは、毎週映像が流れ始めるとスマホに視線を移します。普段の授業中の様子からすると、ニュースの音声がつかめていないのではないかと疑っています。何とか食らいつこうという向上心や、何でも知ってやろうという好奇心みたいなものは、持ち合わせていないのでしょうか。

入試に合格すれば留学成功だと思っているのだとしたら、大きな間違いです。向上心や好奇心こそ、進学してからの学問成就を支えます。物価上昇が続く日本でどんな社会的変化が起こりつつあるか、これって、Yさん、あなたの研究テーマにかかわりがあるんじゃないんですか。

多くの学生の強いまなざしよりも、うつむきがちの視線のほうが気になりました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

12時間寝たい

4月24日(月)

変化の表現の勉強で、「(可能動詞辞書形)ようになります」「(動作動詞辞書形)ようになります」という文型を取り上げました。「速く走れるようになりました」とか「毎朝散歩するようになりました」とかという文の勉強です。前者は“できない”から“できる”への、能力の変化、後者は“しない”から“する”への、習慣の変化を表します。そんな解説と練習をし、授業の最後に、「~ようになりたいです」という文で、こんなふうに変わりたいということを学生に言ってもらおうと思いました。「進学するまでに日本語が上手に話せるようになりたいです」なんていう答えが出てくればよしとするつもりでした。

いくつか答えが出てきましたが、Aさんのは「毎日12時間寝るようになりたいです」というものでした。若干違和感がありますが、文法的にどうのこうのと議論する前に、毎日12時間寝ることを習慣化したい、1日の半分を寝て過ごす生活を送りたいという感覚に驚かされました。さらに、Aさんの文(意見)にうなずく学生が非常に多く、唖然とするほかありませんでした。

学生たちは受験勉強などで寝不足感が強いのかもしれません。そうだとしても、12時間は寝すぎでしょう。しかも毎日ですよ。20歳代の輝かしい若い時間を、惰眠をむさぼって過ごそうというのです。年寄りの私に、その若い時間を分けてほしいです。柔軟な頭脳と、あふれる体力と、焦点がピシッと合う目と、あなたたちが使わないのなら、私にくださいよ。

40年前の私は、そんなに寝たいと思ったかなあ。記憶が薄れてしまっていますが、徹夜マージャンした翌日も、そこまで寝ようとは思わなかったでしょう。

あ、もしかすると、彼らはスマホから逃避したいのかな。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

さわやかな半袖

4月20日(木)

お昼過ぎにいらっしゃった数学のS先生は、いかにも夏という涼しげなスーツをお召しでした。「いや~あ、これでも汗かいてるんですよ」と、暑がりのS先生。日中の最高気温は26.0度で、今年最高でした。春になったと思ったら、もう初夏ですね。

日本語プラス・物理にやってきたLさんは、半袖のTシャツでした。その姿が全然寒々しくなく、さわやかでした。その隣でセーターを着ているPさんが暑苦しく見えました。でも、Pさん自身は汗をかいているわけでもなく、平然と授業を聞き、練習問題を解いていました。

私も冬物のスーツにネクタイですから、Lさんの目には重たい感じに映ったかもしれません。でも、最低気温16.5度を記録したのは、私が学校に着いた頃です。この気温だと、裏地のついているスーツでもおかしくないと思います。この時期は、気温の日較差が大きいのです。

物理では、電気抵抗を取り上げました。オームの法則やキルヒホッフの法則に勉強しました。半袖のLさんは、私の方を見ていないなと思っても、あとで回ると、私の配ったプリントに要点がきれいに書き込まれています。家へ帰ってから見てもよくわかるようにまとめられているのでしょう。いっぽう、Pさんは、腕を組んだまま微動だにせず私の話に耳を傾けています。後から書き込みのないプリントを見て、何か得るものがあるのでしょうか。聞いただけでわかったつもりになってしまうのが、一番怖いです。

明日の予想最高気温も26度です。明日は上着を脱いで教室に入ろうかな…。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

精進料理とは

4月19日(水)

中級クラスの読解のテキストに、“精進料理”という言葉が出てきました。ふりがながついていたので読み方はわかります。「精進料理はどんな料理か知っていますか」と聞くと、「肉がない料理」とか「お坊さんが食べる料理」とか、テキストに書かれている内容や辞書的な意味が返ってきました。

その答えでで「うん、そうだね」と言ってしまってもいいでしょう。でも、学生は「肉がない料理」と言えばサラダという反応をしているおそれがあります。そこは否定しておかなければなりません。

こういう時に便利なのは、やっぱりgoogle先生ですね。精進料理の画像検索をして、その結果をモニターに映し出します。検索結果の最初に出てきたのは、料理が美しく盛り付けられたお椀やお皿が数えきれないほど並んだ超豪華精進料理です。見た感じ、一人前1万円は下らないでしょう。教室内に小さなどよめきが沸き上がりました。でも、これは「お坊さんが食べる料理」じゃありません。

そこで、“永平寺”という検索語を付け加えると、永平寺の修行僧の朝食がモニターに大写しになりました。おかゆと漬物と塩とお菜が少し。「これが、お坊さんが食べる料理だよ」と紹介すると、超豪華精進料理以上の、何とも形容しがたい声が学生から漏れてきました。「それで満腹になりますか」「はい。毎日こういう食事を続けて、仏教のトレーニングをしていれば、空腹は感じなくなるそうです」(“満腹”“空腹”は先週覚えたばかりの単語)なんていうやり取りも通して、学生たちの頭に精進料理が強くインプットされたことでしょう。

このテキストのテーマは精進料理じゃありませんから、ちょっとした脱線なんですがね。1日に1回ぐらい、こんな驚きを味わう時間があってもいいんじゃないかな。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

ナトリウム?

4月18日(火)

今学期は6月にEJUがあるので、日本語プラスの受験科目は、それに合わせて授業を進めています。私が火曜日に担当している化学もそうです。

3時15分になり授業を始めましたが、学生たちが今一つすっきりした顔をしません。化学の受講生は直前まで数学の授業を受けていますから、疲れているのでしょう。…と思ったのですが、大事なことを忘れていたのに気が付きました。今、目の前にいる学生たちは今学期から受講を始めたのです。それなのに、元素の日本語名をまとめたプリントを配っていなかったのです。いきなり水素とかナトリウムとかと言われたって、何がなだかわかりませんよね。すぐに職員室に戻って、プリントを持ってきました。

水素をはじめ気体の元素は、中国語では「气」にいろいろなパーツを入れて表します。「羊」を入れれば酸素、「炎」なら窒素です。水素は、「圣」です。ついでに、元素ではありませんが、「安」だとアンモニアになります。それぞれ何と発音するかわかりませんが、日本語と同じだとは到底思えません。

ナトリウムは、もともとはドイツ語です。英語では「sodium」(ソディウム)です。ですから、英語が話せても、「ナトリウム」からすぐに「Na」を思い浮かべることはないでしょう。

元素名のプリントを配ったら、学生たちはだいぶ線がつながったようです。文法的にやさしい日本語でしゃべっても、水素やナトリウムは言い換えられない場合も多いです。「エイチ原子」なんて言うと、かえってわかりにくいみたいです。

大学の授業は日本語で元素名を言うはずですから、今から覚えてもらいます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

人は第一印象?

4月10日(月)

やっぱり、学期の最初の授業、しかも顔見知りの少ないクラスとなると、緊張するものです。4月期は、顔見知りの大半が卒業してしまっているので、毎年緊張もひとしおです。

月曜日のクラスには、先学期数学や理科を教えた学生が3人います。もう1人、2か月ほど前に説教をした学生もいます。それから、卒業式の演劇部の発表で一緒に練習した仲の学生が1人。顔を知っている学生は5人いましたが、親しく話をしたことがあるのは2人だけです。他の学生たちは、ほぼ初顔合わせです。また、顔を知っているとか、話をしたことがあるとか言っても、日本語力まではわかりません。授業の時に戦力になるかどうかは、全くの未知数です。ですから、全員に対してお手並み拝見というのが、最初の授業です。

学期はじめは自己紹介タイムがありますから、これが各学生の日本語力を推し量るのに役に立ちます。全員のを聞いて、これはと思えたのは、Tさん、Nさん、Cさん、Sさんなど、クラスの半分弱。ちょっとひどいなと思ったのは、Jさん、Zさん、Pさんあたりでしょうか。授業中に書いてもらった例文を見ても、Tさんたちは、間違っているにしても意欲的ですが、Jさんたちは教科書の例文をちょっといじってお茶を濁したという感じです。

初回の授業で、つまりは第一印象でクラスの学生を判断してはいけません。でも、クラスの授業を形作っていくうえでは、そういう情報も必要です。もちろん、この第一印象が学期の最後まで変わらないというわけではありません。「第一印象は悪かったけど…」という学生もいれば、竜頭蛇尾的な学生もいます。

教師の方だってそうですよね。第一印象が「いい先生」でも、だんだん評価が下がっていったのでは、信頼関係は築けません。このクラス、3か月後はどうなっているでしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ