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コートがいっぱい

10月26日(月)

24日(土)の深夜、東京に木枯らし1号が吹きました。土曜日、帰宅するころは風がちょっと強いという程度でしたが、夜中にかけて次第に風が強まり、寝る頃には音を立てて吹いていました。日曜日の朝はきれいに晴れ上がりましたが、ベランダには隣の家から飛んできたと思われるサンダルが、片足ずつ2種類。私はサンダルを室内にしまっておきましたが、飛んできたのは私のと同じくらい安物の軽いやつでしたから、出しておいたら行方不明になったでしょう。

昨日の日中は陽もあったのでそんなに寒いと思いませんでしたが、家の目の前にあるショッピングモール内のユニクロで冬物のジャケットを買ってしまいました。今朝は、先週よりも厚手のスーツを着たのですが、少々寒さを感じました。気象庁によると、最低気温は11.7度、コートを着るほうが当然の気温でした。そのため、遅くお見えの先生はコートをかけるハンガーを見つけるのが大変そうでした。

でも、学生の中には半袖で平気な顔をしているのがいます。風邪を引きさえしなければ薄着は結構なことですが、半袖を着ていたJさんは受験生ですから、健康管理には十分気を使ってもらいたいものです。

10月は季節がグンと進む月です。新学期の準備をしていた頃は腕まくりをするくらいの陽気でしたが、今朝なんかはとひざ掛けがほしいと思いました。暖房は入れませんでしたが、私がアサイチでする仕事が増えるまでに、そんなに長い時間はかかりそうもありません。

最後の粘り? 悪あがき?

10月12日(月)

Kさんは入学から先学期末までの出席率が50%で、退学勧告を受けています。学校としては、出席率があまりにも悪すぎるので、在籍の継続を認めず自主退学してもらおうと思い、先学期末からずっとそういう話をしています。しかし、Kさんは何とかして10月からも学校に残ろうとして、学期休み中も毎日のように学校へ来ては頭を下げ続けています。そんなことをしてもらっても、こちらは継続を認める気はまったくありません。

そもそも、Kさんは6月末の時点で出席率が悪いことで警告を受けています。にもかかわらず7月の出席率はそれ以下に悪化し、そこでまた叱られました。そのときに遅刻欠席したら帰国すると誓ったくせに、いつの間にかまた元の木阿弥となり、今に至っています。誓いの言葉を書いた紙を見せても、最後のチャンスをくれと粘っています。それだけの粘りを、なぜ学期中に出席することに発揮できなかったのかと問い詰めたいです。

情にほだされてKさんの在籍を認めると、結局Kさんのためにはなりません。頭を下げて殊勝な態度を示せば、過去のことは水に流してもらえて、どうにかなると思っているのでしょう。これ以上世の中をなめてかかるようになっては、いずれ大ケガをします。退学させることが、我々のできる最後の教育です。退学勧告を無視し続けるようだと、除籍処分にせざるを得ません。そうなるとKさんの経歴にきずがつきますから、そうなる前に退学届けを出してもらわねばなりません。

今もKさんはロビーのカウンター前で2時間以上泣き続けています。でも、優しい言葉をかけてやる気は、爪の垢ほどもありません。

三陸から北陸へ

10月10日(土)

三陸鉄道が観光客を大幅に減らし、赤字幅が拡大してしまうそうです。原因は多々ありますが、その中で北陸新幹線開業によって、三陸を訪れていた観光客が金沢などに流れてしまったというのが目を引きました。

金沢を始め、北陸各地が観光客を大幅に増やしたというニュースは、新幹線開業直後から何度も目にしています。しかし、この三陸鉄道のような、北陸新幹線開業の負の影響が表に出ることはあまりなかったように思います。考えてみれば、日本は人口が減り始めていますから、がんばってもゼロサムゲームなのです。北陸の観光客が増えれば増えるほど、どこかの観光地が訪問客を減らすのです。北陸へ行く分だけ旅行の回数を増やすなんてできる人は、今の日本の経済状況では天然記念物的存在でしょう。残念ながら、三陸は北陸に観光の魅力の点で負けてしまい、選んでもらえなかったのです。

おそらく、全国各地に北陸との観光客争奪戦に敗れ、経済的ダメージを受けたところがたくさんあると思われます。だから、訪日観光客に目を向けているところも多いのですが、これまたどこでもうまくいっているわけではありません。東海道新幹線沿線など、ごく一部に集中しているのが現状です。

観光に限らず、すべての産業においてゼロサムゲームが展開されています。新しいお店がオープンすれば、既存店のどこかが客を減らします。新しいサービスが始まれば、既存のサービスから客が移り、サービス休止に追い込まれるところが出てきます。観光なら外国から需要を呼び込む目もありますが、その他の産業ではそうはいかない場合のほうが多いです。

日本がこんな調子だと、そういう日本に魅力を感じる留学生も減り、日本語教育業界にも影響が及ぶかもしれません。いつまでもアニメだサブカルだとばかり言っていられません。

入学式挨拶

皆さん、ご入学おめでとうございます。世界中からこのように多くの学生がKCPに入学してくれたことをうれしく思います。

今日は私のクラスにいた2人の学生―仮にAさんとBさんとしますーについてお話しします。

Aさんは、国で日本語をある程度勉強してきて、入学したばかりの頃は、無遅刻無欠席で、授業にも積極的に参加するすばらしい学生でした。しかし、日本の生活に慣れた頃から遅刻・欠席が目立ってきました。学校から注意されるたびに持ち直すのですが、気がついたらまた元に戻っているということの連続でした。Aさんに事情を聞くと、これではいけないということはよくわかっていると答えましたが、本当はわかっていなかったのだと思います。ついつい楽なほうへ流れてしまったのでしょう。先学期が始まるときも背水の陣で臨むと言っていましたが、その決意の通りに体が動いたのは1か月だけで、学期末にとうとう退学を決意しました。

Bさんは、日本語がほとんどゼロで入学しました。文法のテストでは合格点は取れるのですが、勉強が進むにつれてそれを会話に応用できない自分に気付きました。アルバイトを始めましたが、そこで使う日本語は単純なものばかりで、Bさんの会話力向上にはあまり役に立ちません。そこで、Bさんは、毎日学校へ早く来て、その日の担当の先生と会話練習することを思い立ちました。そして、それをすぐに実行に移しました。まだ始めてから1か月ほどですが、期末テストが終わってからも、毎日きちんと約束をして、その時間通りに登校し、練習していきます。

AさんもBさんも、根はいい学生です。しかし、これではいけないと思ってから、自分自身を変えていくことができたかどうかが、2人の明暗を分けたのです。Aさんは生活態度を根本から改めることができず、Bさんは自分の弱点に正面から向き合い、それを克服しつつあります。Aさんの心には、留学に失敗したという気持ちが残るでしょう。会話の練習に限らず、Bさんのように授業前に勉強するといってきた学生は今までにもたくさんいましたが、ほとんどが半月もしないうちに挫折しています。このような勉強や練習は、1週間や2週間では目に見えた効果は表れません。だからと言ってやめてしまうのではなく、その苦しい時期を乗り越え続けられ学生が、成果を手にするのです。

もちろん、私が皆さんに望んでいるのは、Bさんのような留学生活です。自分の目標をしっかりと見据え、それを達成するには何をすればよいかを真剣に考え、一見遠回りに思えても最善と信じる道を歩み続けることが肝心です。皆さんがそういう道を歩むのであれば、私たち教職員は、喜んでそのお手伝いをしましょう。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

暗黒の1年半

10月8日(木)

進学コースの新入生へのオリエンテーションをしました。「普通に勉強しているだけでは、今皆さんが考えている大学や大学院には絶対には入れません」というように、今回は厳しい話ばかりしました。

昨日のレベルテストでレベル1(一番下のレベル)に判定された学生は、レベル3で来年6月のEJU、レベル5で11月のEJUを迎えます。入試の早い大学に入りたかったらレベル3でのEJUが、国立大学を狙うならレベル5でのEJUが、勝負となります。また、大学院志望なら、レベル3か4の時に大学院の先生方と自分の専門について議論しなければなりません。いずれにしても、生易しいことではありません。

有名校とか国立大学とかって考えているなら、他人の3倍も5倍も勉強しなければ目標に到達できません。美術系の人も、自分の作品や美に対する考えなどが説明できるだけの日本語力が、面接試験のときまでに必要です。入学するのは1年半後ですが、入試はそのずっと前にあります。今日本語力がゼロに近い人が、そのときにしかるべき力をつけているには、並大抵の勉強では間に合いません。

だから、KCPにおいては楽しい留学生活など望むべくもありません。勉強に追われる毎日で、真っ暗闇になるに違いありません。人生で最も勉強する1年半になることでしょう。

…そういう話を一方的にしました。甘っちょろい考えで勉強を始めたら、卒業時にこんなはずじゃなかったと後悔するのは学生自身です。だから、そういう芽を徹底的に摘み取りました。もちろん、こちらも本気で全力を傾けて指導していきます。本気で全力だからこそ、生半可な覚悟では困るのです。オリエンテーションに参加した新入生たちには、この辛く苦しい1年半の先に夢の楽園があると信じて、この厳しさに耐え抜いてもらいたいです。

いててて

10月7日(水)

どうも腰痛がひどくなってきてたまりません。おとといあたりからちょっとおかしいなと感じていたのですが、今は椅子に腰掛けていてもうずくような痛みを感じます。というか、痛みに関しては、立っているほうが楽なくらいです。午前中、新入生のレベルテストの試験監督をしましたが、ずっと立って歩き回っていました。動いていればそうでもないのですが、立ち止まったり座ったりとなると、痛みがじわーんと神経を刺激してくるのです。

「病院で診てもらえば?」って言われそうですが、慢性の腰痛ですから治療を続けたところで治癒に至る見込みはありません。どんな名医でも、当面の痛みを和らげて目先の不快感を取り除くぐらいのことしかできません。ただ、今は新学期の準備でパソコン仕事が多い時期ですから、座っているだけで痛いというのは辛い症状です。超級クラスの教材を見つけ出したり作ったりしなければならないのですが、読解教材の候補をじっくり読み込んだり、文法教材のアイデアを形にしたりする気力も湧かず、新入生オリエンテーションの会場設営なんていう、動いていられる仕事ばっかりしています。EJUの数学の問題の解答作りもしなければならないんですがね…。

学生からは志望理由書の添削の依頼が2通来ました。プリントアウトして、試験監督で教室を歩き回りながら赤を入れ、パソコンの前に座る時間は最短にして、送り返しました。頼りにされているとあれば、それに応えなければなりませんからね。

さて、これから帰宅ですが、地下鉄で座れないのが、腰にはちょうどいいくらいです。

うすら寒い

9月17日(木)

1日中雨で、気温もついに20度を上回ることはありませんでした。家の中が暖かかったのでいつもどおり半袖で外に出たら、肌寒いのを通り越して、震えが来ちゃいました。電車内には私と同じ、夏の勢いで半袖のままの人もいましたが、セーターやカーディガンはいうまでもなく、コートを羽織っている人さえいました。コートの人は防寒具というよりは雨具のつもりだったかもしれませんが、でも、季節がずいぶん進んだなと感じさせられました。

雨の日はとかく出席が悪くなりがちですが、私のクラスは、遅刻はいたものの、最終的には全員出席。傘立てがハリネズミのようになっていました。授業が終わると、こんなに雨が降っているのに傘を教室に忘れて行出て行き、気恥ずかしそうに取りに戻ってくるが学生が何人もいました。学生たちは、授業が終わると開放感に浸ってしまい、一目散に1階に下りて、いざ外に出ようという時になって、「雨」という現実に戻されて、教室まで傘を取りに駆け上がってくるのです。

この雨は、今日まででプログラムが終わって帰国する学士たちの涙雨です。修了証を受け取った後のスピーチで「またKCPで勉強したい」という学生は何人もいますが、それが実現する学生は本当にごくわずかです。年を重ねるにつれて、何か月も自由な時間を作るのが難しくなります。いろんなしがらみに縛られていくことが大人になることですから、しようがないのです。

だから、今日の別れが今生の別れになるかもしれません。それで涙雨が降るのです。通信技術がどんなに発展しても、人と人とが顔を合わせることに勝る感激はありません。だからこそ、涙雨なのです。

会話の相手

9月14日(月)

私のクラスでは、日本人ゲストとの会話がありました。そのためかどうかわかりませんが、先週は毎日誰かが休んでいたのに、今日は全員出席でした。

金曜日に会話の内容に関する宿題が出ていたものの、文法のテストの直後に会話でしたから準備の時間がなく、それが心配でしたが、学生たちはみんな盛んにゲストと話していました。普段は自分からあまりしゃべらないSさん、Jさん、Qさん、Cさんなども、自分が調べてきたことやゲストが話したことについて、一生懸命話していました。もちろん、いつもよくしゃべっているHさん、Kさんなどは、今日も飛ばしていました。Pさん、Lさんなどは、ただしゃべるのではなく、自分の意見や考えなどを順序だてて話そうとしている様子がうかがえました。自分なりの課題を設けて話しているようで、やっぱりできる学生は違うなと思わせられました。

学生はこういうイベントがあると張り切るものであり、こちらもそれを利用しているところがあります。日本人ゲストが帰った後からは通常の授業だったのですが、いつもよりもコーラスの声が明らかに大きかったです。たくさん話すと自然に大きな声が出るようになるのでしょう。

今日いらしたゲストは、いろいろな職業体験をさせてくれる会社のコースに参加した方々です。私のクラスに入る以前に日本語教師とはどんな仕事かというレクチャーを受け、そして、実際に授業の様子を見てみようということで、学生の会話の相手をしていただいたというわけです。

これに限らず、KCPではいろいろな形で授業に参加できます。これをお読みの日本人の皆さん、是非一度、KCPの中に入ってくださいませ。

床ドン

9月12日(土)

朝、学校に着いて職員室内をうろうろしていると、突然床から突き上げるような刺激が。地震だとわかるまでに1、2秒かかりました。玄関のドアの外では、駐車場の柵の鎖が揺れていました。エレベーターも大きく揺れたようで、1階に止まっていたエレベーター内から緊急放送が聞こえてきました。しかし、揺れはすぐに収まり、余震を身構えていましたが、それもありませんでした。電車は多少遅れたようですが、授業は通常通りに行われました。

今週半ばまでは台風やら台風崩れの定期やつによる大雨やらに見舞われ、それが去ってやっと秋晴れに恵まれたかと思ったら、この地震です。日本は自然災害の多い国です。

KCPの先生方の中にも、今回の水害の被災地に近いところ出身の方がいらっしゃいます。新宿は「秋晴れ」なんてのんきなことを言っていられますが、水浸しになってしまった地域では、生活建て直しの第一歩を踏み出したばかりです。一日も早い復旧を祈らずにはいられません。私の住んでいる所も隅田川のすぐそばですから、積乱雲の通り道がちょっとずれていたら、洪水になっていなかったとも限りません。報道された大氾濫の映像は、他人事とは思えません。

KCPのある場所は標高が比較的高く、ビルそのものも地震に強いつくりですから、浸水したり津波に見舞われたりということも考えにくいですし、今朝の地震程度(新宿区役所で震度4)ではびくともしません。そうはいっても、1日に何百ミリっていう雨に襲われたら、その雨が地下の駐輪場に流れ込むんじゃないかって心配しています。

いずれにしても、備えあれば憂いなし。気を引き締めていきたいです。

両手を出せ

9月7日(月)

漢字テストが終わって、連絡事項を伝え、ディクテーションを始めたら、Sが怪しい動きを始めました。足音を忍ばせて近づくと、やはり、スマホをいじっていました。「Sさん、何をしているんですか」「すみません」「両手を机の上に出してください」というようなやり取りをし、授業を続けました。

休憩時間のあとで教室に入ると、Lさんが口の開いた缶ジュースを持ち込もうとしていました。「その缶ジュース、ダメです。廊下で飲んできてください」とLさんを追い出したら、廊下で飲んできたようです。

Kさんは弁護士になりたいと言っています。しかし、読解の宿題を忘れました。「宿題は決められた日に出すというのは初級から上級まで全部のレベルのルールです。弁護士になりたいという人がどうしてみんなが知っている決まりが守れないんですか」と叱ると、少ししょんぼりしていました。

この学校には多くのルールがありますが、そのルールの一つ一つには意味があります。たとえば口の開いた缶ジュースを教室に持ち込むなというのは、どこかに置いてこぼすおそれがあるからです。そして、そういうルールはみんなが守って初めて意味があるのです。ルールを破る人を見逃していては、あっという間にルールは有名無実となり、学校全体が無法地帯に陥るでしょう。

また、授業中に電話をいじるなというのは、要するに集中すべきときは電話を忘れて集中しろということであり、これぐらいは社会の常識でしょう。公共の場はきれいに使うのも、納期をきちんと守るのも、みーんな社会常識です。いや、常識以前のことかもしれません。

日本語学校は日本社会へのゲートウェイであり、チェックポイントだと言われます。その役目を果たすために、学生にしっかり常識を植え付けるのも、私たちの大きな仕事です。