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入学式挨拶

皆さん、ご入学、おめでとうございます。このように多くの国から多くの学生がこのKCPに集まってきてくれたことをうれしく思います。

私は上級クラスを受け持っていますから、毎年この時期は進学指導に忙しいです。今年も、新年の仕事始めの日から、大学入試の面接練習をしました。この大学入試での面接で最も大切な力は、何だと思いますか。それは、コミュニケーション力です。面接官が何を知ろうとしているかを察知してそれに応える、これがコミュニケーション力です。

コミュニケーション力は、大学入試にとどまらず、就職試験やアルバイトの面接でも重視されますし、そもそも円滑な日常生活を成り立たせる上で必要不可欠なものです。日本語という皆さんにとっては外国語によって、皆さん自身の心や頭の中身を目の前の人に伝え、日本語で思考回路を働かせ、それを日本語によって訴えようとしている日本人の考えや気持ちを感じ取ることは、たやすいことではないでしょう。たとえ面接試験なしで進学や就職ができたとしても、その後その進学先や職場で暮らしていく際にはコミュニケーション力なしでは済みませんから、この力を伸ばしていくことはこの国で生きていく上で何より優先すべきことです。ペーパーテストの点数が高いだけでは、勉強も仕事もはかどりませんし、日本での生活自体が楽しいものにはならないでしょう。

日本の文化を知ろうと思ってこの留学を思い立った皆さんは、なおのことコミュニケーション力が物を言います。どこまで日本文化の深い部分に触れられるかは、ひとえにコミュニケーション力にかかっています。日本文化を表面的になでるだけなら、翻訳や通訳を通せば十分できます。でも、それならインターネットによって国でもできるでしょう。日本でしかできない経験を求めるなら、それが日本文化の真髄に近いものいであればあるほど、日本語によるコミュニケーション力を身に付けなければならないことは疑いようがありません。

KCPは、日本語によるコミュニケーション力を付けることに主眼を置いています。初級の教室で、国籍の違う学生が、まだまだ不十分ではあるけれども、お互いの共通言語である日本語によって意志の疎通を図っている姿を見かけると、“ああ、やってるな”と、思わずニンマリしてしまいます。そうやってコミュニケーション力を伸ばそうとしている学生は、実に生き生きとした表情をしています。皆さんにもその輝く笑顔を振りまいてほしいのです。こういうコミュニケーション力を手にすることができたなら、必ずや皆さんの留学は実りの多いものになることでしょう。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

迷い

1月5日(火)

Cさんは昨年中にM大学に合格し、1月から3月は日本を旅行したり一時帰国したりしようと思っていました。そこでまず考えたことは、退学して日本にい続けようということです。授業料も払わなくていいし、自由な時間も好きなだけ確保できるし、Cさんにとっては最高の方法です。確かにCさんのビザはM大学への入学まで日本に滞在できるものですが、それはKCPに通うという前提ですから、学校にも通わずに日本で遊んでいるなどということは許されません。そんなことをしたら除籍処分となり、除籍されたらM大学に通うビザは絶望的です。

次に考えたことは、授業料を払って登録して、KCPでの学籍を確保した上で旅行に行くという手です。これもまた実質的に学校に通わないのですから、認められるものではありません。百歩譲って認めたとしても、CさんはM大学に入るために出席率上多大な犠牲を払っており、すなわち先学期は欠席しまくっているため、1月期もろくに出席しないとなると、ビザが危うくなります。

その次は、退学していったん完全に帰国するというものです。ビザの上ではKCPと縁が切れますから、出席率が下がることも除籍されることも心配しなくていいです。しかし、M大学進学のためのビザを取り直すことは、そう簡単なことではありません。CさんはM大学や入管に確認や問い合わせをしましたが、Cさんが安心できる回答は得られませんでした。

迷いに迷ったCさんは、国のご両親に電話をかけ、どうしたらいいか相談しました。ご両親からは、「お前のしたいようにすればいい」と言われ、Cさんは頭を抱えてしまいました。

これが昨日から今日にかけてのCさんの思考遍歴です。担任の私を始め、H先生、T先生、事務のLさん、Sさん、Nさんなど、各方面の教職員に相談を持ちかけ、何とか自分の思い通りの答えを引き出そうとしました。学校関係者は、もちろん、「自由に日本中を旅行してもいいですよ」なんて言うわけがありません。誰に聞いても完全帰国か卒業式まできちんと学校に通うかの二択を迫りました。

日もとっぷり暮れた頃、M大学に進学して勉強していくには、KCPをきちんと卒業することが最善の道だと悟って、ようやく1月期の登録をしました。「登録する限りはきちんと出席しないとCさん自身が痛い目に遭うんだからね」と5本ぐらい釘を刺しておきました。

方針を決めたCさんはすっきりした顔をして帰っていきましたから、ちょうど1週間後に始まる新学期に期待することにしましょう。

新年に向けて

12月25日(金)

仕事納めの日ですが、もう新学期に向かっての胎動が始まっています。初級のF先生は、来学期は中級を担当することになり、中級の授業内容を聞きに来ていました。初級で教えた学生に中級でまた顔を合わせるのは楽しいものですよって伝えようと思っていたら、いつの間にかお帰りになってしまいました。新学期直前の打ち合わせの時にでも、お伝えしましょう。でも、初級で教えた学生の出来が悪かったら、責任取れっても言われますからね。F先生、心してくださいよ。

同じ頃、ZさんはH大学の願書をインターネットで作成していました。順調に入力していき、最後が寮に入りたいかどうかの希望調査でした。Zさんは入寮希望し、ネットで示されたいくつかの寮の中から気に入ったところを3つ選んで入力しました。願書の内容を確定してから、願書をプリントアウトすると、申し込んだ寮の1つが「女性用」と記されていました。「先生、これで不合格になりますか」と、本当に心配そうな顔で私に聞いてきました。

Zさんは性別を「男」と入力していますから、女性用の寮を申し込んだら選択が正しくないってはじき返せばいいんです。寮にたどり着くまでにZさんの名前や出身校名の漢字を受け付けられないとダメ出ししてたんですから、「男」と入力した人が女性用を選んだ時もダメ出ししてくれてもよさそうなのに。そうすれば、Zさんもいたずらな心配をしなくても済んだのです。

午後からは大掃除。職員室のあらゆるところをひっくり返すと、思わぬものが出てきます。今回最大の発見は、ティーバッグにお湯を注いだ状態で放置してあった急須です。ティーバッグはカビで真っ白になり、そのカビの一部が(元)お湯の表面にも浮かび、とてもこの世のものとは思えませんでした。また、1年分の学生の落し物も処分しました。電子辞書を始め、私がネコババしたくなるようなものもかなりありました。

そんなこんなが終わり、これから1月3日までお正月休みです。私は明日の朝から早速遠征に出ます。

皆様、よいお年をお迎えください。

来学期の心配

12月21日(月)

今学期最後の授業でした。私が受け持った超級クラスからは、去年の1月に入学した3名が明日の期末テストで卒業します。卒業式は、他の学生と一緒に3月にするんですけどね。

それ以外の学生は3月まで勉強するのですが、来学期は今学期のようにはいかないかもしれません。今学期は、クラス全員が「受験」という共通の目標を持っていました。各自が受験に挑み、何名かは合格して、もう受験終了という学生もいます。その一方で、国立大学志望の学生を中心に、これからも受験を続ける学生もいます。前者は、いわば余生を送るみたいな感じで卒業式までを気楽に過ごすことになるでしょうが、後者はのるかそるかの戦いが続きますから、ピリピリしながら学校に通うことでしょう。

となると、このクラスは解体したほうがいいとも言えますが、物事、そうは簡単には運びません。ピリピリ組を集めたクラスは、一生懸命勉強するでしょうけれども、結果が出ないとなるとどんどん追い込まれていきます。クラス全体のムードを明るく保つことが何より肝心です。余生組は、そもそも、勉強しようというムードを作るところから始めねばなりません。学生の気持ちを学校に引き付け、何とか卒業式まで引っ張ることを考えます。

実際にどうなるかは、他のクラスの状況ともかかわりますから、まだ何とも言えません。でも、いかに超級とはいえ、まだまだ日本語に関しては勉強すべきことがたくさんあるんだよ、その勉強をすることで最後の仕上げをするのが卒業の学期だよっていうことを、毎年訴えています。

でも、まずは、明日のテストで学生たちが合格点を取ることです…。

何もしていない

12月18日(金)

期末テストが来週の火曜日に迫っていますが、まだ1問も作っていません。こんなに問題作成が遅れたのは、初めてです。私が担当している超級は、毎学期授業内容が違うため、以前のテストの使い回しができません。だから、読解も文法も漢字も新たに作らねばならないのですが、それが全然進んでいないのです。

端的に言って、忙しすぎるというのがあります。通常のクラス授業のほかに、受験講座を抱えているのが大きいです。学期の最初は、日本語教師養成講座の授業も受け持っていました。志望理由書や想定面接問答の添削を求める学生がいつになく多かったです。志望校の過去問をやってきて、採点してくれという学生も何名かいます。また、今学期は土曜日が1日中会議になるパターンが多く、土曜日に仕事をやりためておくこともできませんでした。トドメは代講の多さです。

明日の土曜日こそは試験問題作成と思っていますが、朝から面接練習や進学相談などがあり、どうなることやら心配なことこの上もありません。土曜日出勤制度が始まったころは、土曜日にまとまった仕事ができましたが、最近は平日とあまり変わらないくらい諸事多端で、思うように能率が上がりません。学生が熱心に勉強するのは喜ばしいことなのですが、このままでは、うれしい悲鳴が本物の悲鳴に変わりかねません。

でも、試験当日になっても問題ができていなかったら、学生は喜ぶでしょうね、「テストを作っておくから、明日もう一度来い」なんて言わない限りは。まあ、最悪、こうすればいいという心積もりはありますから、そんなことにはしませんけど。

そうそう、私は年賀状もはがきを買っただけで、まだなんにもしていません。出すのは10通ちょっとなので毎年手書きですが、数年前に旅先のホテルで書いて投函したということもありました。来週の金曜日は仕事納め、土曜日は朝一番で東京を離れる予定を立てています。あと1週間ですから、期末テストの問題も、馬力で乗り切っちゃいたいです。

鼻水鼻づまり

11月13日(金)

おととい、選択授業の「身近な科学」で風邪を取り上げ、風邪の予防法なんかを偉そうにしゃべったら、昨日からくしゃみが出て鼻水が垂れてなんとなく熱っぽくて、完全に風邪を引いてしまったようです。ゆうべは必要最低限の仕事だけして早めに帰宅したんですが、症状は改善されるどころかひどくなりました。身近な科学では、風邪を引いたら何より休息と訴えたのですが、私は授業だ面接練習だと、今日も仕事がびっちりでした。明日は会議もあるし、中間テストの問題も作らなければならないし、出てくるほかありません。

今回の風邪は、とにかく鼻水がひどいです。昨日は水っぽい鼻水がたれてきて始末に負えなかったのですが、今日は鼻づまりがいかんともしがたい状況です。鼻が詰まると思考能力が落ちてかないません。受験講座が特に辛いですね。理論をわかりやすく伝え、練習問題ぐらい解けるところまでもっていかなければなりません。そういう、頭の運動神経を要する部分が苦しいのです。しかも昨日早く帰っちゃって、準備が十分ではありませんでしたから。

それにしても、どうして風邪を引いてしまったのでしょう。このところ急に疲れがたまるような仕事をしたわけでも、精神的にきつくなったわけでも、寒い思いをしたわけでもありません。風を引いている人が周りにいなかったわけではありませんが、これまた今に始まったことではありません。一番恐ろしいのは、老化により体力が衰えたため、今までと同じ悪条件をもはや受け入れられなくなったということです。

来週の金曜日は課外授業で、バーベキューをしに立川の昭和記念公園まで行きます。それまでにはこの風邪を何とか片付けておかないと…。

通う価値のある学校

11月5日(木)

授業後、職員室に向かう途中、階段でFさんに会いました。最近、受験講座で顔を合わせることもなく、また、噂によると家に引きこもっているとのことでした。「よう、久しぶり」なんて声を掛けたら、ちょっと決まり悪そうに頭を下げました。

Fさんの引きこもりは、言うまでもなくEJU対策です。6月の試験で納得がいかなかったFさんにとって、今度の日曜日のEJUはのるかそるかの大勝負です。だから、おちおち学校へなんか行ってられないっていうわけで、家でシコシコと勉強に励んでいるのです。ことにFさんは理系ですから、ほぼすべての大学で理科2科目と数学の成績のチェックを受けるので、プレッシャーもひとしおです。

それはわかるんですが、引きこもって成功する確率って、学生が思うほど高くないんですよね。もちろん、成功した学生もいますが、私たち教師の脳裏には、失敗した学生の顔のほうが多く浮かんできます。こういうのって厳密に統計が取れませんから、定量的な説得力のある話ができません。だから、教師は自分の頭にある失敗例などを引き合いに出して「出てこい」と叱りつけますが、学生は話半分で教師の言葉を聞き流します。

周りが見えなくなっている学生に鳥瞰図を見せて自分の位置をはっきり示してやるのが教師の仕事ですが、これがなかなか難しいのです。学生と教師の間に真の信頼関係が醸成されていないと、学生はこの期に及んで話を聞いてはくれません。Fさんとはそういう関係が築けていたと思っていたのですが、私の勘違いだったようです。

ラッシュの混雑を乗り越えてでも通う価値のある学校――今年もまた、ここまでたどり着けなかったようです。

コートがいっぱい

10月26日(月)

24日(土)の深夜、東京に木枯らし1号が吹きました。土曜日、帰宅するころは風がちょっと強いという程度でしたが、夜中にかけて次第に風が強まり、寝る頃には音を立てて吹いていました。日曜日の朝はきれいに晴れ上がりましたが、ベランダには隣の家から飛んできたと思われるサンダルが、片足ずつ2種類。私はサンダルを室内にしまっておきましたが、飛んできたのは私のと同じくらい安物の軽いやつでしたから、出しておいたら行方不明になったでしょう。

昨日の日中は陽もあったのでそんなに寒いと思いませんでしたが、家の目の前にあるショッピングモール内のユニクロで冬物のジャケットを買ってしまいました。今朝は、先週よりも厚手のスーツを着たのですが、少々寒さを感じました。気象庁によると、最低気温は11.7度、コートを着るほうが当然の気温でした。そのため、遅くお見えの先生はコートをかけるハンガーを見つけるのが大変そうでした。

でも、学生の中には半袖で平気な顔をしているのがいます。風邪を引きさえしなければ薄着は結構なことですが、半袖を着ていたJさんは受験生ですから、健康管理には十分気を使ってもらいたいものです。

10月は季節がグンと進む月です。新学期の準備をしていた頃は腕まくりをするくらいの陽気でしたが、今朝なんかはとひざ掛けがほしいと思いました。暖房は入れませんでしたが、私がアサイチでする仕事が増えるまでに、そんなに長い時間はかかりそうもありません。

最後の粘り? 悪あがき?

10月12日(月)

Kさんは入学から先学期末までの出席率が50%で、退学勧告を受けています。学校としては、出席率があまりにも悪すぎるので、在籍の継続を認めず自主退学してもらおうと思い、先学期末からずっとそういう話をしています。しかし、Kさんは何とかして10月からも学校に残ろうとして、学期休み中も毎日のように学校へ来ては頭を下げ続けています。そんなことをしてもらっても、こちらは継続を認める気はまったくありません。

そもそも、Kさんは6月末の時点で出席率が悪いことで警告を受けています。にもかかわらず7月の出席率はそれ以下に悪化し、そこでまた叱られました。そのときに遅刻欠席したら帰国すると誓ったくせに、いつの間にかまた元の木阿弥となり、今に至っています。誓いの言葉を書いた紙を見せても、最後のチャンスをくれと粘っています。それだけの粘りを、なぜ学期中に出席することに発揮できなかったのかと問い詰めたいです。

情にほだされてKさんの在籍を認めると、結局Kさんのためにはなりません。頭を下げて殊勝な態度を示せば、過去のことは水に流してもらえて、どうにかなると思っているのでしょう。これ以上世の中をなめてかかるようになっては、いずれ大ケガをします。退学させることが、我々のできる最後の教育です。退学勧告を無視し続けるようだと、除籍処分にせざるを得ません。そうなるとKさんの経歴にきずがつきますから、そうなる前に退学届けを出してもらわねばなりません。

今もKさんはロビーのカウンター前で2時間以上泣き続けています。でも、優しい言葉をかけてやる気は、爪の垢ほどもありません。

三陸から北陸へ

10月10日(土)

三陸鉄道が観光客を大幅に減らし、赤字幅が拡大してしまうそうです。原因は多々ありますが、その中で北陸新幹線開業によって、三陸を訪れていた観光客が金沢などに流れてしまったというのが目を引きました。

金沢を始め、北陸各地が観光客を大幅に増やしたというニュースは、新幹線開業直後から何度も目にしています。しかし、この三陸鉄道のような、北陸新幹線開業の負の影響が表に出ることはあまりなかったように思います。考えてみれば、日本は人口が減り始めていますから、がんばってもゼロサムゲームなのです。北陸の観光客が増えれば増えるほど、どこかの観光地が訪問客を減らすのです。北陸へ行く分だけ旅行の回数を増やすなんてできる人は、今の日本の経済状況では天然記念物的存在でしょう。残念ながら、三陸は北陸に観光の魅力の点で負けてしまい、選んでもらえなかったのです。

おそらく、全国各地に北陸との観光客争奪戦に敗れ、経済的ダメージを受けたところがたくさんあると思われます。だから、訪日観光客に目を向けているところも多いのですが、これまたどこでもうまくいっているわけではありません。東海道新幹線沿線など、ごく一部に集中しているのが現状です。

観光に限らず、すべての産業においてゼロサムゲームが展開されています。新しいお店がオープンすれば、既存店のどこかが客を減らします。新しいサービスが始まれば、既存のサービスから客が移り、サービス休止に追い込まれるところが出てきます。観光なら外国から需要を呼び込む目もありますが、その他の産業ではそうはいかない場合のほうが多いです。

日本がこんな調子だと、そういう日本に魅力を感じる留学生も減り、日本語教育業界にも影響が及ぶかもしれません。いつまでもアニメだサブカルだとばかり言っていられません。