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古風な日本語

2月7日(水)

昨日の夜、夜っぴて眠れなかったので、学校へ行くのはちょいと無理です――今朝メールを開いたA先生が笑い転げていました。言いたいことはわかりますが、“よっぴ”とか“ちょいと”とか、いったいどこで覚えたのでしょう。たぶん、国の言葉の辞書で“一晩中”を引いたら“夜っぴて”という言葉が出ていたのではないかと思います。いまどき、こんな言葉を使う人はほとんどいません。少なくとも、KCPの学生が付き合いそうな年代の日本人は、使わないと思います。

もし、本当に辞書の中にこの言葉があったとしたら、その辞書の編者にお会いして、語感をじっくり観察したいです。どこでこの言葉と出会い、普段どのような感覚で使うのか、お話をお聞きしたいです。久しくお目にかかれなかった、とても懐かしい言葉と出会わせていただいたので、お礼も申し上げたいです。

“夜っぴて”は、私が持っている6冊の国語辞書系の辞書には載っていましたから、死語ではないようです。しかし、「古風な和語表現」と注釈を入れている辞書もあり、現代人の使用語彙ではありません。私も、伯母がよく使っていたので耳に残っていたに過ぎず、自分から進んで使う言葉ではありません。

同じ頃、初級の学生のルームメイトと称する人から電話がかかってきました。その学生がおなかを壊して休むということを伝えてくれたのですが、たとえ初級でも、どんなに拙い日本語でも、本人が連絡するのがKCPのルールです。そんなこともありましたから、“学校へ行くのはちょいと無理です”も温かく見てあげたくなったのです。

強行出席

1月30日(火)

先週インフルエンザにかかって昨日まで休んでいたLさんが、朝7時半頃学校へ来ました。医者に5日間休めと言われ、もう5日休んだから出てきたと言います。職員室で休んでいた間のテストを受けましたが、明らかに調子が悪そうな顔つきであり、全身から病気のオーラが出ていました。このまま無理して学校にいたら病気がぶり返さないとも限りませんから、N先生、H先生たちと一緒にもう1日休むことを勧めました。しかし、どうしても帰ろうとしないので、最後はみんな命令口調でLさんを諭しました。Lさんのクラスを担当したN先生によると、授業中にもまた姿を現したので、クラスメートに移るからと追い返したそうです。

すきあらば学校を休もうとする学生が多い中、Lさんは休んだことがないため、先週末から家にいても不安でならなかったのでしょう。学校を生活の中心に置いていることは、さすが奨学金受給生と言うべきです。しかし、病気をこじらせてしまっては、元も子もありません。休むべきときには徹底的に休むという姿勢もほしいものです。

Lさんを見ていたら、稀勢の里を思い出しました。稀勢の里も、けがを徹底的に治さず、本場所に出ては負けて休場を繰り返しています。責任感が強いことはわかりますが、現状では横綱としての責務を果たしているとは到底言えません。もっと大所高所に立つべきなのです。自分を俯瞰する位置に視点を置き、全体の中の自分をきっちり把握し、その上で何をなすべきか考えてほしいです。

Lさんは、未練たらたらながらも、最終的には帰りました。元気を取り戻すまでゆっくり寝て、この際ですから休み方も覚えましょうね。

雪の朝

1月23日(火)

朝(多くの皆さんにとっては夜中でしょうが)3時に目を覚ますと、まだ始発前なのに電車が走っている音が聞こえました。1番電車から正常に動けるように線路の状態を保つための運転です。運転士や保線係員や駅員のみなさんが夜通し働いて、私たちの足を確保してくれていたのです。ゆうべも、どこからこんなにたくさんの駅員を集めてきたのかと思うほど多くの駅員が、各駅のホームで安全確認をしていました。こういう鉄道会社の方々のご尽力に、手を合わせたくなりました。軽やかな電車の走行音を耳にして、正常運転を確信しました。

吹きだまりに踏み込んでも構わない靴をはき、予備の靴下と汚れたら捨ててもいいタオルをかばんにしのばせ、家を出ました。駅までの道は雪に覆われていましたが、アイスバーンにはなっておらず、いつもより多少時間はかかったものの、難なく駅に着きました。いつもはメトロの車両の1番電車が東武の車両だったくらいで、新宿御苑前駅までもいつもどおり。駅から学校までも、つるんつるんではなく、慎重に歩けば問題なし。

朝、トイレ掃除をしてもらっているKさんも時間通りにやってきました。その後30分ほどかけて校舎前を除雪したのが、いつもとの最大の相違点でしょうか。雪かきをしてみると、雪がとても軽くて驚きました。東京に降る雪は湿った雪が多く、雪の重さをどっしりと感じるものですが、今回の雪は乾いた雪だったようです。上空に北国並みの冷たい気団が入ってきていたのでしょう。

「東京で23cmも雪が積もるのはめったにないことだから、皆さんはラッキーなんですよ」というと、学生たちは苦笑い。今回生まれて初めて雪を見たという学生も、移動の大変さが身にしみて、無邪気に喜んでばかりもいられなかったようです。

天気予報が言っていたほど気温は上がりませんでしたが、雪解けはかなり進んだようです。でも、地球規模の大気の流れやラニーニャ現象、黒潮の蛇行などを考えると、本格的な春の前にもう1回ぐらい大雪が降ってもおかしくはありません。果たして、どうなるでしょう。

白い世界

1月22日(月)

初雪が大変なことになってしまいました。東京は久しぶりのまとまった積雪で、午後の授業は早めに切り上げ、学生たちをすぐに帰しました。東京は、雪の翌日は冬型となり、きれいに晴れ上がるのが通常ですから、これ以上の雪はあまり心配していません。しかし、電車がどうなるかは全く予想がつかず、明日の朝の授業が普通に始められるかは予断を許しません。

天気予報では雪と言っていましたが、私は低気圧がこれほどドンピシャリ東京に雪を降らすコースを取るとは予想できませんでした。雪の影響を受けずに逃げ切れるのではないかと踏んでいたのですが、大はずれでした。でも、選択授業の「身近な科学」の絶好なネタが得られました。今週か来週か、学生たちにじっくり解説しましょう。

この雪の中、卒業生のAさんが来ました。ビザがもらえずに来週帰国することになったそうです。R大学に進学したものの、成績が悪くて退学になり、T専門学校に入りました。1年勉強して、もう1年ビザをもらおうとしたところ、R大学を不成績で退学になったことを理由に、延長を認めてもらえなかったとのことです。T専門学校ではまじめな学生で、しかるべき成績を収めていたとのことでしたから、理不尽な感じが否めません。Aさんの話しか聞かずに一方的に決め付けてはいけませんが…。

Aさんは、専門学校と話をつけて、一旦帰国しますが、また来日してT専門学校での勉強を続けるとのことです。違った意味での勉強の厳しさを知ったAさんは、この次はきっと身になる勉強をすることでしょう。

雪で電車が止まるかもしれませんから早く帰るようにと言っていますが、KCPの先生方は帰る気配がありません。仕事熱心なのはいいのですが、明日以降のことも考えてくださいよね。

成人式がありました

1月15日(月)

私の席から、見るともなく窓越しにロビーに目をやっていると、いつになく着飾った学生が教室へ向かって行くのが見えました。私の教室にも、スーツを着た学生がちらほら。

午前の授業後、講堂で成人式がありました。この場に集まった学生の多くが生まれた1997年は、私が日本語教師養成講座に通っていた年です。その頃に生まれた赤ちゃんが私の目の前に成人として居並んでいるのかと思うと、感慨深いものがありました。

20年前は、北海道拓殖銀行や山一證券などの金融機関がつぶれ、バブル後の日本経済が混迷のどを深めた年でもありました。でも、根が楽天家だからなのでしょうか、日本語教師として生きていくことに大きな不安を感じてはいませんでした。文法や言語学や音声学や日本語の成り立ちなど、理系の教育を受けてきた私が、興味は持っていたけれどもじっくり学ぶことができなかった方面の勉強ができて、かなり幸せを感じていました。

当時の私と今の私とを比べるとずいぶん変わったものだという思いがしますが、成人式の学生たちは、ゼロから親元を離れて外国で1人暮らしをするまでに至っているのですから、ただただ頭が下がります。成人式を機に、さらに大きく伸びていってもらいたいと思いました。

成人式の直後、その成人式に参加していたSさんの面接練習。4月にもう一段の高みに上ろうとしています。力強く進んで行ってほしいものです。

20年後、学生たちはどんなふうにこの成人式を思い出すのかな…。

入学式挨拶

入学式挨拶(2018年1月10日)

皆さん、本日はご入学おめでとうございます。このように多くの学生が世界の各地からKCPに集まってきてくださったことを大変うれしく思います。

さて、一昨年ごろからAIの実力が目に見える形でわれわれの前で発揮されるようになり、人間の仕事をどんどん奪っていくのではないかと危惧する声が強まってきています。昨年あたりは、AIに取って代わられる仕事は単純労働よりも頭脳労働だということが声高に叫ばれるようになりました。皆さんが幸せな未来を切り開いていくには、人間のライバルのほかに、AIにも競り勝っていくことが求められているのです。

AIに勝つには、勝たなくてもいいですから、せめて、共存していくためには、どうしたらいいでしょうか。ただ単に知識を増やすだけではAIにかなうはずがありません。知識の蓄積こそ、AIの最も得意とするところなのですから。皆さんにとっての外国語である日本語ができるだけでも、AIによる翻訳通訳技術は日進月歩ですから、皆さんに安寧をもたらすことにはなりません。

現在のところ、この答えを知る人は、世界中に誰もいないでしょう。七十数億の全世界の人々が、この答えを求めて右往左往しているのが今日であり、これからしばらくの世界のありようです。そういう中で、皆さんは日本へ留学に来ました。皆さん自身の中で留学の意義が明確でないと、この留学自体が皆さんの人生において無意味なものになり、青春の無駄遣いになってしまいかねません。

皆さんが持っている時間は、私などに比べればはるかに長いです。今まではそれをうらやましく思うだけですんでいましたが、AIという強力な競争相手と戦い続けなければならないとなると、同情を禁じえない面もあります。もちろん、同情しているだけでは私たちは役目を果たしたとは言えません。少しでも皆さんの未来を切り開く力になろうと思っています。これこそが、私たちの責務だとも思っています。

新年早々非常に厳しい話になってしまいましたが、AIを使いこなし次世代を築いていけるのは、皆さんのような優秀な若者だけです。その力を養い、どの方向に進めば明るい未来が見えてくるのかを、このKCPで探してください。そのためなら、私たち教職員一同、喜んで力をお貸しします。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

無計画

1月6日(土)

新入生のプレースメントテストの採点をしていると、Zさんが来ました。「この大学、10日が出願締め切りなんです。今、申し込めば月曜日に出席証明書がもらえますか」「書類の申し込みは時間に余裕を持ってって、何回も注意したよねえ。聞いてなかったんですか。あ、そうか。Zさんは欠席が多かったから、休んでてこの話、聞いてなかったんだ」「すみません。でも、どうしても必要なんです」…と、皮肉も交えて油を絞ってから、結局、書類を作ることにしました。

しばらく経って、昼ごはんを食べに行こうとしていると、今度はLさんが来ました。「この大学、9日が出願締め切りなんです。今からすぐ書類を作っていただけませんか」「大学に提出する書類はKCPの正式書類ですから、わたしがちょこちょこっと書いて、はい、できあがりってわけにはいかないんです。事務的な手続きが必要ですから、今すぐというのは無理です。しかも、もう新入生が来ていますから、事務の先生たちはとっても忙しいんです。あなた一人の都合に合わせることはできません。そもそも、どうして提出書類の申し込みが出願締め切りの直前なんですか。募集要項を見れば何が必要かわかるでしょ」「前に出願した大学はKCPの書類が要らなかったから…」「大学によって必要書類が違うって話、したよねえ」…。Zさんよりさらにねちこちと説教を垂れてから、私も事務のKさんに頭を下げて、何とか作ってもらうことに。

私以外の先生も、連休明け早々が締め切りの大学に出す書類を申し込まれて怒りを爆発させていました。どうして学生たちはこうも計画性がないんでしょうかねえ。最終的には書類を作ってくれると、甘く見られているんでしょうかね。社会の厳しさを教えるのも日本語学校の役目だとしたら、ZさんやLさんの書類は受け付けるべきではなかったのかもしれません。

新学期が始まったら、しばらくはこういう日々の連続です。連休が、嵐の前の静けさです。

大掃除の最中に

12月28日(木)

2017年最後の営業日なので、校舎内外の大掃除をしました。私は外回りを担当しました。枯葉がたくさん舞い込んでいるのは先刻承知でしたが、砂ぼこりも結構たまっていました。また、植え込みの陰や隣の敷地とのすき間に空き缶やポリ袋が落ちていました。いや、見えないだろうと思って誰かが意図的に捨てたのでしょう。電車など乗り物のシートも全く同じで、クッションの隙間のような目立たないところに小さなごみが無理やり突っ込まれていることが多いのだそうです。でも、それは、掃除する人に手間をかけさせるに過ぎません。空き缶(正確には、そこに何か月分もの雨水がたまっていたので七分どおり入っていましたが)を取り出すのも大変だったんですよ。

そんなことをしていたら、京都の大学に進学したGさんがやって来ました。「やせた?」「はい。キャンパスが山の上なんで、よく歩くんですよ」。去年の今頃は受験の真っ最中で、運動不足もあったのでしょうか、まん丸でしたが、今はお腹が一回りか二回りへこんだような気がします。単位も順調に取っているようですから、脳で消費するエネルギーが増えた分だけやせたのかもしれません。

そうなんですよね、Gさんは、KCP史上おそらく最多の大学を受験し、おそらく最多の大学に合格しました。年末年始は面接練習やら何やかやで、毎日大騒ぎでした。期末テスト後も始業日眼も特訓でしたものね。あれから1年、早いものです。

そのあと、在校生のDさんが、大学出願にKCPの書類が必要だけど、1月6日必着だからどうしようと、青い顔をして飛び込んできました。来年の年末は、遠くに進学したDさんがひょっこり現れて、こんなことを思い出させてくれるのでしょうか。

よい新年を迎えたいものです。

特権階級

12月19日(火)

1年に計は元旦にありと言いますが、KCPではちょっと先走って、年内に来年の目標を書いてもらうことになりました。来学期の初日でもいいのですが、1年の反省をしたこの時期に、その反省を踏まえて次の年の目標を定めてしまおうという考えです。

私のクラスの学生たちは、最初はブーブー言っていたのですが、主旨を説明して書かせると、全員結構真面目に取り組み始めました。そして、一人ひとりの目標を見ると、1年後の自分のあるべき姿を言葉に表していました。このクラスの学生は大半が3月で卒業しますが、ここで書いた目標は進学先にまで持って行って、その実現に向けて努力を続けてもらいたいです。

学生たちが真剣に目標を考えた1つの原因は、この目標を書きっぱなしにしなかったことです。学生証に挟める大きさ(小ささ)の用紙にきれいな字で書かせて、学生証と一緒に肌身離さず持ち続けてもらうことにしたのです。目に付くところに目標が書かれていればそれを再認識することも多く、いい加減なことを書いたら自分自身が恥ずかしくなります。

目標を書くことに集中している学生たちを見ているうちに、彼らがうらやましくなりました。学生たちには今年と違う1年が待っています。大きく進歩する可能性を秘めた1年がもうすぐ始まります。私にも今年と違う来年が待っているかもしれませんが、学生たちに比べたら変化に乏しいものになるでしょう。自分の人生の新局面を切り開くような、胸が躍るような1年を迎えることってあるのかなあって考えると、否定的な答えになってしまいます。

こういうのが、若さの特権なのですが、当の若者は往々にして気付いていないようで、もどかしい限りです。

級風

12月13日(水)

各家庭に家風が、各学校に校風があるように、各クラスにも級風とでもいうものが感じられます。今学期私は3つのクラスを担当していますが、それぞれ色が違います。

Aクラスは、朝、どんなに寒くても、だれもエアコンのスイッチを入れません。コートやジャケットを着込んだまま、手をこすりながら教師が来るのを待っています。Bクラスはしっかり暖房が入っており、教師が指示を出さなくても机をコの字型に並べて授業を受けます。Cクラスは黙々と勉強するのが得意ですが、声がさっぱり出てきません。

それぞれのクラスの色は違いますが、例えばAクラスの学生がBクラスに入ったらやっていけないかといったら、そんなことはないでしょう。きっとBクラスの級風に染まり、違和感なく溶け込むことと思います。級風になじめず、クラスを変えてくれと訴えてくる学生もいますが、ごく稀なことです。

いい級風が生まれるかどうかは、学期初めの数日間、極論すれば始業日にかかっているとも言えますが、学期途中の行事を境にガラッと変わることもよくあります。Cクラスは欠席が目立って心配だったのですが、グループタスクが始まってからグッと改善されてきました。でも、Aクラスはグループ活動では空気は変わりませんでした。

授業中静かでも、寒中我慢大会でもかまいませんが、勉強しようという気風はクラスに漂っていてほしいです。みんなで上を向いて進もうと思う学生が1人でも多いクラスを作りたいです。でも、これは教師1人の力でどうにかなる問題ではありません。学生にもクラスに思い入れを持ってもらいたいです。