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しまっていこうぜ

8月29日(水)

超級クラスで漢字のテストがありました。9時に出席を取ってテスト用紙を配ろうとすると、Mさんが「あれっ?」とも「しまった!」ともつかない顔で周りの友達に何か聞いていました。Cさんはテスト用紙が配られても問題に取り掛かろうとしません。2人とも、テストがあることをすっかり忘れていたのです。Mさんは無理して受けましたが結局不合格、Cさんは棄権扱いで0点。後日再試験を受けてもらうことになります。

テストは学生の仕事みたいなものです。予定は学期の最初に発表されています。それにもかかわらず忘れたとは、学生にあるまじき姿勢です。夏休みで緊張感が失われてしまったのでしょうか。2人とも自分が悪いと思っているようですから、追い討ちをかけるようなことはしませんでしたが、十分に反省してほしいです。

Yさんは来年進学の予定です。もう間もなく志望校の出願が始まります。国の高校の書類も取り寄せているようですし、併願校の出願期間や試験日なども予定表に記されています。しかし、夏休みはうちでごろごろしていたそうです。1日ぐらいはのんびりしたいという気持ちはわかりますが、それがだらだらと1週間も続いてしまったに違いありません。こちらも、切迫感のなさがにじみ出ています。

最近Kさんに会っていません。今月初めに夏風邪で休んでから、すっかり休み癖がついてしまったようで、心配しています。授業後、ちょっときつめの警告メールを送りました。このままでは冗談抜きで、ビザの要件に合わないということで、帰国してもらわねばなりません。優秀な学生だけに、こんな形で挫折させたくはありません。

灰色の学生生活を強要するつもりはありませんが、なんだか緩んじゃってるなあ…。

整理整頓

8月14日(火)

中間テスト。定期テストの日は、いつもとは違うクラスの試験監督をしますから、いつもとは違う教室のパソコンを使います。こういうときに私がすることは、デスクトップの整理です。私は、デスクトップ上にいろいろなアイコンが散らばっていると、気持ち悪くてなりません。自分が入るクラスの教室のパソコンは、週に1~2回チェックしますからデスクトップが満天の星状態になることはありません。しかし、中間テストや期末テストで入るクラスは、そうはいきません。好き勝手なところにショートカットやパワーポイントや動画や音声やワードなどが置かれ、このクラスの先生方はこれで平気なのだろうかと思わずにはいられません。

デスクトップにアイコンがたくさんあると、どれが本当に必要なものかわからなくなると思います。職員室の私のパソコンは、一目で把握できる程度の数のものしかデスクトップに置いてありません。画面左端から3行以内と自己規制しています。それよりも多くなったら、あまり使わないのをどこかにしまいます。たまに早々としまいすぎて、引っ張り出すのに時間を食ったり、またデスクトップに戻したりということもありますが、長期間の平均を取れば、片付けてしまったほうが効率的だと信じています。

じゃあ、ほかは何でも片付いているのかというと、決してそんなことはありません。パソコンの中の仮想的な机の上ではなく、リアルな机の上は書類が積み上がり、パソコンのモニターの横にはファイルが立ち並んでいます。こういうものを思い切って処分できたら気分がいいのでしょうが、なかなかそうもいかないところが辛いところです。

中間テストが終わり、採点すべき答案用紙や原稿用紙が、積み上がってしまいました。

入学式挨拶

皆さん、本日はご入学おめでとうございます。このように多くの若者が世界中からこのKCPに集まってきてくれたことをとてもうれしく思います。

皆さんの留学の目的は人それぞれでしょうが、皆さんの周りにいる、あるいはこれから現れるライバルたちに差を付けるというのもその1つではないかと思います。大勢の中に埋没してしまっては、皆さんの存在意義は薄れてしまいます。皆さんが、皆さんを取り巻く人たちにとって唯一無二の存在となるためには、ほかの人にはない何か大きな特徴を持っていることが必要不可欠な条件となるでしょう。それゆえ、留学経験を、自分自身を特徴付ける何物かにしようと思っている人も多いと思います。でも、これは留学さえすれば誰でもそうできるというものではありません。留学の中身が大きく物を言います。漫然と外国で時を過ごしただけでは、留学という経歴は残りますが、実力は伴いません。やがて周りの人々にその経歴は虚仮威しに過ぎないと見抜かれてしまいます。密度の濃い、物の考え方や仕事の進め方や果ては人生観にまで影響を及ぼすような生活を送って初めて、この留学が皆さんの将来に明るい光をもたらす経験となるのです。

では、どうすれば密度の濃い留学生活が送れるでしょうか。勉学に励むことはもちろん、というよりそれは最低条件で、進んで自分とは異質なものを求めていってください。他国の学生と友達になることもそうですし、年代の違う人たちと語り合うこともそうです。日本の文物に触れることも忘れてはなりません。インターネット上での経験ではなく、体を張って五官を通して感じ取ってください。

そして、こういう経験によって、自分自身や自分の国を相対化してください。異質なものとの接触によって得られた新しい視座から、今までの自分を総決算し、これからのあるべき自分像を見出すのです。また、自分の国を愛する心、誇る気持ちは大切です。しかし、それと何でも自分の国が一番だと信じ込んでしまうこととは別です。自分の国の強みも弱みも知っている人が、政治の世界でもビジネスの分野でも科学技術の方面でも、頼れるリーダーとなるのです。KCPにいるうちにここまでしろとまでは言いませんが、いずれはこういうことができるようになってもらいたいです。KCPを卒業し、進学したり就職したり起業したりして社会に根付いている人たちは、みんなこういう目を養っています。その一方で、異質を拒み続けた学生たちは、得る物の少ない留学に終わっています。

KCPでの勉強が終わったら国へ帰る人たちは、これからこのような異質な世界での生活は経験できないかもしれません。ですから、この機会を有意義に活用し、肌身で世界の広さを実感してください。日本で勉強を続けていこうと思っている人は、KCPでの生活は進学後の生活の助走です。より高く遠くへ飛んでいけるように、十分に勢いをつけてください。

今ここにいらっしゃる皆さんは、短い人で2か月、長い人は、日本の大学や大学院での期間も加えると、数年あるいはそれ以上にわたる留学生活が控えています。後で振り返った時、得がたい経験をしたと胸を張って言えるような濃密な人生のひとときを、皆さん自身で創造していってください。私たち教職員一同、喜んでそのためのお手伝いをいたします。

本日は、ご入学本当におめでとうございました。

殺人事件を語る

6月14日(木)

代講で上級のクラスに入りました。このクラスには、先学期までに教えた学生が何名かいるはずなのですが、朝、出席を取ったときには1名を除いていませんでした。2名が遅刻して入室しました。私の顔を見て驚いていましたから、「私が教えた学生ばかり遅刻しているということは、私の教え方が悪かったんですかねえ」と言ってやったら、恐縮していました。こういう皮肉が通じるのが、さすが上級です。でも、他はとうとう姿を現しませんでした。教えた学生が乱脈なことをしていると、気になるものです。

このクラスは、毎週、その週の気になるニュースについて語り合うことになっています。早速学生たちに聞いてみると、米朝会談という声が上がりました。今週はそうですよね。でも、それについてあれこれ語るというレベルには至りませんでした。それは、話す力が足りないというよりも、話題が話題だからめったなことを話せないと自己規制した面も感じました。また、明らかに興味がないという顔つきの学生もいました。

その証拠に、別の学生が新幹線殺人事件について語り始めると、あちこちから意見や感想が出てきました。この手の話題なら身近に感じられ、また、政治がらみじゃありませんから好き勝手なことが話せると思ったのでしょう。先週あたりは、紀州のドンファンの話でもしたのでしょうか。

文法もしました。出てくる質問が中級あたりとは違うと感じた反面、中級までに習ったはずの項目を忘れているとも思いました。同じことを繰り返し勉強していくうちにそれが定着するのですから、その辺は大目に見ましょう。上級に在籍しているということは、語学のセンスもあり、それなりに努力もしてきたからにほかなりません。卒業まで3学期ありますから、さらに自分を伸ばしていってもらいたいと思いました。

好印象

5月22日(火)

授業を終え、教室から外階段を下りて職員室に入ろうとすると、3月に卒業したGさんがいました。Gさんは進学先がなかなか決まらず、卒業式が過ぎて、期末テストの頃にS大学に合格しました。ですから、6月のEJUを申し込んでしまっていたのです。その受験票が先週末に学校に届き、それを受け取りに来たというわけです。

「EJU、受けるの?」「はい。大学の授業を聞いて受験勉強の内容がわかるようになってきたところもあるし、大学の授業を理解するために高校の教科書を勉強しなおしていますから」「大学の勉強はおもしろい?」「出席率100%ですよ」「当たり前だろ、まだ1か月ちょっとなんだから」「でもS大学は思っていたよりいい大学です。大学院進学や就職にも有利みたいだし」「そうだよね。S大学だったら日本だけじゃなくて世界に出ても勝負できるよ」「でも、出席を全然取らない授業もあるし、プリントを持ち込んでもいいテストもあるし、甘い感じもします」「自分で自分をコントロールできないと生きていけないんだよ。変に安心していたら、成績が出てから泣くぞ」

進学先に絶望して仮面浪人しているわけではなさそうなので、安心しました。1か月半で新入生の心を捕らえたのですから、S大学は大したものだと思います。でも、反面、授業の管理は私が学生のころとあまり変わっていないようでもあります。その後、T大学に進学したKさんから、スマホを使った厳密な出席管理の話を聞かされましたから、なおさらS大学のおおらかさが浮かび上がりました。

こういう情報をもとに、在学生の進路指導をしていきます。S大学は、大きなプラスポイントを得ました。

朝から大汗

5月18日(金)

昨日の最低気温は21.4℃、今朝は20.0℃でした。このまま夜中まで最低気温が20℃を下回らなければ、最低気温が2日連続で20℃以上ということになり、これは昨年の9月26・27日以来です。熱帯夜の足音がかすかに聞こえてきたような気がします。

でも、20℃なら寝苦しいなどということはなく、半袖から飛び出した腕に触れる空気にも心地よいものがあります。そんなさわやかな朝、大汗をかきながら登校してきた学生がいます。Lさんは、おととい電車の中で足を踏まれ、踏まれた足が腫れ上がって、昨日は満足に歩けませんでした。見かねた事務職員が病院へ連れて行き、今朝は松葉杖を突いての登校でした。松葉杖の使い方になれているわけなんかなく、御苑の駅から学校まで歩いただけで、シャワーを浴びたような汗となってしまったのです。

Lさんが偉いのは、そんなどん底の状態にもかかわらず、ちゃんと学校へ来たことです。昨日、おとといは痛くて勉強がろくに手につかなかっただろうに、中間テストから逃げることなく受けに来たのです。やらなければならない時は、どんなに辛くてもやるという精神力は見事なものです。

Lさんにひきかえ、午前中試験監督に入ったクラスのMさんは、五体満足なのに8分の遅刻。担任のT先生によると、毎日のように遅刻してくるそうです。また、先学期の新入生でいつのまにか休み癖がついてしまったYさんも当然のごとく欠席で、担任のH先生を嘆かせていました。MさんやYさんがLさんほどのけがをしたら、休むのが当然の権利とばかりに、1週間ぐらい休んじゃうんでしょうね。

Lさんは、不器用に松葉杖を突きながら、病院経由で帰っていきました。暑さが本格化する前に治るといいですね。週末はゆっくり休んでくださいね。

縁の下の力持ち

5月16日(水)

教職員側の運動会の反省会をしました。その中で、競技のお手伝いをお願いした学生たちが誇りを持って働いてくれたという意見が出ました。最上級クラスは専ら競技役員で、クラス対抗リレー以外は選手として競技に出ることはありませんでした。学生たちからは競技に出たかったという意見もありましたが、選手として参加していた学生から頼られる存在だったことが、それ以上に誇らしかったようです。担当の先生は、最上級クラスの学生としての自覚が出てきたともおっしゃっていました。

当日、私は審判としてずっと競技場にいましたが、競技役員の学生たちは実にきびきびと動いていました。事前の説明では自分の役割がいまひとつピンと来ていなかった学生も、現場で仕事を説明すると、改めて責任の重さを感じ、目に見えて顔つきが引き締まりました。朝、会場作りを手伝ってくれた学生たちも、こちらの指示をすばやく理解し、てきぱきとラインテープを張ったり競技に必要な物をしかるべき場所に運び出したりしてくれました。

学生たちは、教師に頼りにされることを密かに待ち望んでいるところがあります。通訳をお願いすると、ほとんどの学生が喜んで引き受けてくれます。レベル2の学生にレベル1の学生への通訳を頼んだこともありますが、ちょっと緊張気味にしっかり仕事をしてくれました。こういうことで学生の潜在力を引き出し、その学生を伸ばしていけたらいいなあと思います。

運動会を始め、学校行事で助けてくれた学生たちは、恩返しの意味も込めて、推薦書にはその旨を必ず書いています。日本は、光が当たる舞台を陰でさせる人たちを高く評価する伝統があります。学生たちがそれを理解し、地味な役割にも進んで手をあげる人へと成長していくことを願っています。

笑顔までには

5月15日(火)

毎年、この時期になると、4月に進学した卒業生がビザを更新するための書類を受け取りに学校へ来ます。KCP在学中は出席率がよくないことで教師からさんざん叱られていた学生たちも、「出席率100%ですよ」と偉そうな口をたたきます。そりゃそうですよ。進学先の授業が始まって1か月かそこらですから。

そういう学生は、ほぼ異口同音に、勉強したいことが勉強できるから休もうと思わないと、その理由を述べます。確かにKCPでの日本語の勉強は、最終到達目標地点ではなく、いわばそこに至るための乗り物であり、日本語は道を切り開くためのつるはしでありスコップに過ぎません。しかし、乗り物の性能が悪ければ燃料ばかり食ってさっぱり前に進まず、最悪の場合、故障して全く動かなくなってしまいます。学問に王道なしですから、へたれつるはしではほんのホッとした障害物も取り除くことができないでしょう。

偉そうな口をたたいた卒業生たちは、みんな結構日本語ができるのです。だからこそ、わずか1か月かもしれませんが、進学先の授業について行けているのであり、したがって、勉強したいことを勉強している実感が全身から湧いてくるのです。そうなのです。本当にどうしようもない学生は、私たちが引導を渡しているのです。進学して、にっこり笑って書類を取りに来る卒業生たちは、出席率が悪いといっても、最後の一線は踏み越えませんでした。それ以上向こうへ行ったら二度と戻れないということを自覚し、辛うじて踏みとどまりました。

今年も、CさんとかYさんとかWさんとか、私が知っているだけでも危なっかしい学生が数名います。皆さん、三途の川を渡っちゃいけませんよ。

変わる

5月12日(土)

Lさんは昨日の運動会を欠席しました。ズル休みではありません。国で大学の卒業式があったのです。それを休んでまでも運動会を優先しろとまでは言えませんよね。日本の大学院に進学しようと考えている学生が大勢入学するようになってきましたが、学校行事や、もっと広範囲に学校運営そのものがその変化に追いついていない面が見られます。

日本の国のしくみもそうだと思います。少子化をどうにかして止めなければとみんなが叫んでいますが、具体的に大きな動きがあったかと言えば、残念ながらNOです。働く女性が増えたにもかかわらず、国の制度や働く女性を取り巻く環境は旧態依然です。麻生大臣を始めとするセクハラに対する考え方も、進歩が見られません。

連休中の日経に、平均余命によって票に重みをつけるなど、若者の声を政治の場に反映させる制度を考えてはどうかという記事が載っていました。これを実現するには現場レベルでもかなりの難問があるでしょう。でも、それを乗り越えて新しいことをやり遂げようとする強い意志が、今この国には欠けています。憲法改正というと9条ばかりに議論が集中しますが、例えばこういう投票法が行えるような法律的な裏づけを与え、昭和20年代とはガラッと変わってしまった平成末年の国の姿に合わせていくという議論もあってしかるべきだと思います。

松尾芭蕉は不易流行こそ俳諧の本質だと言っています。KCPにおいても、何が不易で、どのように流行の取り入れるべきなのか、よく考えていかなければなりません。なし崩し的に方向性もなく変わっていくのが、組織にとって最も不幸な歩みです。

熱中

5月9日(水)

あさってに迫った運動会の準備がたけなわです。クラスでは運動会のしおりが配られ、会場までの行き方を教えたり、会場内での諸注意の読み合わせをしたりしました。授業後には、各種目の競技役員を務める学生たちに動きを説明したり、各チームの応援のフォーメーションをあれこれ考えたりという先生方の姿が、職員室のあちこちで見られました。

その運動会で写真や動画を撮ってくれる学生を募集したところ、我も我もと手が挙がり、担当の先生が目を回してしまいました。チームの応援に使う横断幕を学生に描いてもらおうと思ったら、みんな熱中してしまい、下校時刻を過ぎても帰ろうとしません。確かにKCPから美術芸術系の大学などに進学する学生は多いですが、芸術家の卵たちは、自分の腕を試す場を見逃そうとはしないようです。

私は写真を撮ることにも絵を描くことにも、全く興味も才能もありません。絵や写真を見る目も持っていません。ですから、絵や写真に熱くなる学生の気持ちが、本当のところはわかりません。そういうところに自分の居場所を見出しているのでしょうが、その居場所がその学生にとってどれほどかけがえのないものなのかまでは、想像力が及びません。

私もそういう場所を持ちたかったなあと思います。時間を忘れて打ち込める何かを持っている学生たちが、とてもうらやましいです。それが芸術系だったら、人の心を動かすことができます。私のように「趣味読書」では自己完結ですから、上述の横断幕のようにみんなの感動を呼ぶなんてことはあり得ません。

KCPの運動会は、スポーツの祭典だけではないのです。