Category Archives: 学校

90%の壁

8月7日(金)

上級クラスの授業で、最後にちょっと時間が余ったので、今週T大学の先生がいらっしゃったときに聞いた話をしました。T大学は、毎年コンスタントにKCPから学生が進学している大学です。今年もきっと何名かお世話になるでしょう。

T大学は出願書類として日本語学校の出席成績証明書が必要です。そこに記されている入学以来の出席率が90%を下回る場合は、入試の成績から減点するとのことでした。出席率100%でも加点することはないそうですから、T大学は出席率が80%台以下の学生は勉強する資格がないと考えているのです。逆の言い方をすると、まじめに勉強しようという意志のある学生なら、授業を1割以上も休むなんて考えられないということです。

最近、出席率を重視する大学が増えていますが、好ましい傾向だと思います。「自分のペースで勉強している」「枠にとらわれずに目標に向かっている」などと言えば聞こえはいいですが、実態は最低限のルールも守れないわがままな若造に過ぎません。自由奔放に創造力を発揮するのもいいですが、社会の構成員の1人だということを忘れてはいけません。

自分が身に付けた学問を通して社会に何らかの貢献をしようというのなら、周囲の人々から認められなければなりません。我が道を行きすぎると、高度な知識や技術を自分のものとし、すばらしい研究を行ったとしても、誰からも相手にされないでしょう。そうなってしまったら、幸せな人生とは言えないんじゃないでしょうか。まあ、それは大げさな想像ですが、欠席が学生たちの人生を狭めていくことは疑いのない事実です。

学生たちは神妙な顔つきで聞いていました。授業後、受付まで自分の出席率を確認しに来た学生がいたそうです。来週から遅刻欠席の多い学生の行状が改まるといいのですが…。

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ある変更

7月30日(木)

教育制度が国ごとに違うのは十分想像できることです。日本の高校で勉強することがある国では勉強しなかったり、その逆だったりということは時々あります。理系の数学は、そういうことがよく見られます。EJUの理系数学は高校の数学の範囲からまんべんなく出題されます。ですから、国で勉強しなかった(させてもらえなかった)項目も勉強しておかなければなりません。

勉強したのだけれども忘れてしまったというのもよく聞く話です。急に日本に留学しようと思いついて実行に移してしまった学生にありがちなパターンです。また、学校を出てからしばらく働いて、そして来日したなどという学生にも多いです。Yさんもそんな1人です。受験講座の理系数学を取ったものの、授業についていけず、国の教科書で勉強し直すことにしました。受験講座が始まって1か月足らずですが、こういう決断は早ければ早いほど好ましい結果につながります。EJUまで3か月ちょっとですから、けっこうぎりぎりの決心です。

今年は実質的に11月一発勝負ですから、すでに土俵際の状態です。一歩も下がれないと思って踏ん張らなければ、黒星を喫してしまいます。せめて土俵中央にまで押し返す力がないと、桟敷席まで吹っ飛ばされてしまいます。Yさんの志望校は決して生易しいところではありませんから、何となくEJUを受けただけでは勝ち名乗りは得られません。出席率100%で、まじめに勉強していて、理科に関してはセンスを感じさせてくれるYさんですから、何とか上を向いて花道を引き揚げてこられるようになってもらいたいです。

数学を国の教科書で独習するとしても、私たち受験講座担当者はYさんを支えていきます。

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挨拶に感心

7月21日(火)

日本語教師養成講座の修了式がありました。今回修了したみなさんは、すでに日本語教育能力検定試験に合格している方や、実際の教えた経験のある方たちで、理論はわかっているから実際に教える力を身に付けようと受講した方々です。

修了生のみなさんは、今年の2月から今月まで受講なさっていました。ちょうど感染が広がる時期に当たり、授業見学や模擬授業をしようにもオンライン授業ばかりになってしまうなど、苦労が重なっていました。それを乗り越えて、修了の日を迎えたわけです。私は直接指導していませんが、実際に指導なさった先生方は、感慨ひとしおだったのではないでしょうか。

修了式では、私が修了証をお渡しした後、修了生お一人お一人に挨拶をしていただきました。こういう時、ほとんど何も言えずに形式的にごく短く済ませてしまうか、だらだらと長ったらしく話し続けるか、そんな人が多いです。しかし、今回の修了生はみんな内容のある話をピシッとまとめて語ってくれました。この点に感心しました。というか、こういうことができるということは、優秀な教師になる素養があるということだと思います。

教師は、突然話を振られてもそれなりに何か応えなければなりません。周りからは、気の利いたことを言ってくれると期待されています。「とりあえず、先生に何かしゃべっていただこうよ」「〇〇さんは高校の先生だからスピーチお願いしちゃおう」なんていう調子で、何かの式次第が決まっていくことて、よくあるんじゃないでしょうか。授業中に学生から矢が飛んでくることもしょっちゅうです。

今回のみなさんは優秀だと担当の先生方から聞いていましたが、それが実証された修了式でした。現在は、日本語教育界には逆風が吹いていますが、それにめげず立派な先生に育ってもらいたいです。

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距離感

7月15日(水)

肌寒い日が続いています。東北地方には低温注意報が出ているところすらあります。雨もよく降っています。先々週あたりからずっと日本のどこかで川があふれたりがけが崩れたりしているような気がします。「大雨への警戒はもう2、3日必要です」という注意喚起が1週間以上続いているのではないでしょうか。まあ、安倍首相の「瀬戸際」も2月ごろから続いていますが…。

雨が降っていなければ、校庭の日陰を探して昼ご飯を食べたり教科書を広げたりする学生が見られますが、最近は校庭の入り口の扉も閉まったままです。一部の学生はラウンジに流れています。しかし、ラウンジは、3密回避のため、1つのテーブルに椅子は1脚のみにしています。そんなわけで、昼休みにラウンジをのぞくと、1つのテーブルに1人ずつ、入口に背を向けて、黙々と何かをしています。近寄りがたい空気が漂っています。

もちろん、みんなで仲良くおしゃべりされたら困りますから、これが2020年の東京におけるあるべき姿です。いや、学校としては授業が終わったらすぐ帰宅するように指導していますから、たとえ“黙々と”であれ、ラウンジの椅子が埋まるほど学生が残っているのは、理想の姿ではありません。

それはともかく、こういう状況で学生同士、学生と教師の心的距離を詰めるにはどうしたらいいでしょう。休み時間に親しくおしゃべりをしている学生を見かけると、思わずにらんでしまいます。ざっくばらんに話をしたい学生がいても、ちょっと腰が引けてしまいます。私が担当している受験講座理科は受講生が比較的少ないですから、授業を通して関係を深めるという手もあります。でも、それができるのは“比較的少ない”学生たちだけです。

太平洋高気圧が強まって夏になったら、こういうムードが少しは変わるのでしょうか。

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一緒がいい

7月10日(金)

授業後、先学期私が受け持っていたHさんが職員室に呼び出されていました。Hさんは、今学期の担任の先生に恋人と同じクラスにしてほしいと訴えていました。恋人と一緒に勉強できればやる気も湧いてくると言います。

KCPでは、恋人同士は同じクラスにしません。一緒のクラスにすると、ろくな結果を生まないというのが今までの経験からわかっています。学校にいる3時間かそこらの間くらい別々に過ごしたって、恋人は逃げたり消えたりしません。同じ教室で隣に座り、先生よりもお互いの方に目を向けていたら、成績が上がるはずがありません。

YさんとMさんも恋人同士でした。新入生の時、2人とも私のクラスでした。2人の住所が全く同じで、ゲストハウスとかルームシェアとかという形態ではないところでしたから、確かめてみると一緒に暮らしているとのことでした。一緒に暮らすなとまでは言いません。でも、生活を教室まで持ち込んで、いつもくっついているというのはいただけません。座席指定制にして離れた席にしたり、グループワークでは必ず別々にしたりと、こちらも2人が日本語に集中できるようにと工夫しました。もちろん、次の学期からは違うクラスにしました。

でも、2人は休み時間になると、七夕の織姫と彦星よろしく、非常階段やラウンジで会っていました。そんな2人を見ているとほほえましくもありましたが、教室でも同じ調子でやられたらかないません。心がほんの少し痛みましたが、クラスは分けて正解だったなと思いました。YさんとMさんは卒業後も一緒だそうです。

仲がいいのはまだしも、2人が険悪な関係になってしまうと、教室全体に暗雲が立ち込めることもあります。2人は全然違う意味でお互いしか見えませんから、これまた厄介です。教師が下手に口や手を出すと、余計にこじれてしまいます。

Hさんのクラスは変えるつもりはありません。恋路は学校の外で歩んでもらいます。

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塩素のにおい

7月7日(火)

あさってから新学期なので、午後から教室の消毒をしました。教職員が全教室を手分けして、いすや机をはじめ、学生・教師が触れそうなところを、消毒液でよく拭きました。毎日の授業後も消毒液を吹きかけていましたから、どうしようもなく汚れているということはなかったでしょう。しかし、最近、じわじわと感染者数が増えて来ていますから、念を入れておくに越したことはありません。

床とか窓とか、しゃがみこんだり伸び上がったりしないと手が届かない場所まで手掛けたわけではないのですが、うっすら汗をかくほどの仕事量でした。今学期は始業日までに新入生が大挙してやってくることはありませんから、学期前の準備も比較的楽でした。ですから、ちょっと額に汗するくらいで、新学期を迎えるにふさわしい雰囲気になります。お正月を迎えるにあたって大掃除をするようなものでしょうか。

九州の大雨に見舞われた地域に比べれば、教室の消毒なんてゴミみたいなものです。家の中を濁流が通り抜けたんですよ。倒木やら車やら、果ては隣の家まで流れ込んできたんですよ。畳も家具も衣類も家電製品も台所用品も仕事道具もみんな泥水に浸かっちゃったんですよ。消毒液でちょちょいと拭けば終わりじゃありません。

大きな被害を受けた熊本県人吉市へは、5年ほど前の夏休みに行きました。鎌倉時代から続く相良氏の城下町で、街の人たちはその歴史に誇りを持っています。また、熊本県唯一の国宝・青井阿蘇神社は風格を感じさせる拝殿を持っていますが、球磨川のほとりと言ってもいいところにありますから、被害が心配です。

消毒後の教室には、かすかに塩素のにおいが残っていました。人吉のみなさんは塩素まみれになるくらいに消毒をするところから立ち上がるんだろうなと思いました。七夕の夜も、人吉には雨が降っているようです。

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わざわざ来ました

6月3日(水)

3時過ぎ、オンラインの受験講座の前半が終わって、窓際でぼんやり外を眺めていると、「先生、卒業生のWさんが書類の申し込みに来ています」と声をかけられました。数日前、ビザ更新に必要な書類を申し込みたいとメールを送ってきましたから、KCPのホームページから直接申請できると教えました。メールが来たのは緊急事態宣言が解除されたころでしたが、出歩かないに越したことはありませんから、そう答えておきました。

1階の受付まで下りると、Wさんが申請書類に必要事項を記入しているところでした。「KCPは学校で授業が始まったんですか」「うん、今週からね。でも、全部の学生が一緒にならないように、レベルによって来る日を変えてるんだ。Wさんのところは?」「うちの大学は、今学期は学校で授業がありません。オンラインだけです」「Wさんみたいな専門だと、それは困るよねえ」「はい。でも、私はコンピューターグラフィックスですから、まだましです。だけどやっぱり、大きな制作は大学に事前に申し込んで設備を使わせてもらってるんです。彫刻の学生なんかはかわいそうですよ、何にもできませんから」

去年の今頃思い描いていた大学生活とはだいぶ違うようです。1年生ですから、まだ焦ってはいないでしょうが、もどかしさは感じていることと思います。KCPまでわざわざ来たのも、うちから一歩も出られない、出る用事がない、そういう憂さを晴らす意味もあったのではないでしょうか。

今年就活とか大学院進学とかという卒業生はどうしているでしょうか。去年の秋あたりに夢を熱く語っていた何人かの顔が頭をよぎりました。

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復活初日

6月1日(月)

学生が登校しての授業が再開されました。といっても、全校の学生全員が一斉に登校したわけではありません。月曜日は上級、火曜日は中級というふうに、登校する学生の数を絞っています。

登校した学生は、まず、検温です。自宅で測った体温を提出してもらっていますが、学校の入り口で最終チェックです。それを通過したら、次は手の消毒。そして、エレベーターは使わず、階段で各自の教室へ。自宅に閉じこもっていた学生にとっては、いい運動になるでしょう。オンライン授業は9時半開始で、教室での授業は9時開始ですから、遅刻者が大量に出るのではないかと心配していました。でも、学生たちは思ったより早く登校し、9時過ぎに駆け込む学生がわんさかという事態には陥りませんでした。また、いつもの半分のクラスしか登校させなかったので、どこかで学生が滞留するようなこともありませんでした。

授業開始直前の教室を見て回りました。廊下のベンチでパンをほおばる学生もいましたが、概して幾分緊張気味に、教室におとなしく座ってスマホをいじったり教科書を見たりしていました。

休み時間になると、何名かの学生は近くのコンビニまで買い物に行きました。でも、オンライン授業になる前まで見られた、飲み食いしながら学校まで戻ってくるという姿はありませんでした。そういう意味では、以前よりお行儀がよくなりました。

下校時は登校時に比べて緊張が解けた様子がうかがえました。数名で談笑するグループもありましたが、「密」になることなく解散していきました。時折小雨が降る肌寒い天気だったので、校庭には誰も入らず、テーブルといすとベンチが寂しく濡れていました。

私は授業に出ませんでしたが、教室で学生に接した先生方によると、みんな神妙に授業を受けていたようです。学生たちは「学校で」勉強することの意義を感じ取ったでしょうか。逆に言うと、私たちはそれを感じさせられたでしょうか。これからそういう点を検証していきたいです。

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これから始まる

5月30日(土)

今学期の私は、日本語教師養成講座と受験講座にかかりっきりで、通常クラスにはほとんど関わってきませんでした。オンラインだと1人の教師が大勢の学生を相手にできますから、私がいなくてもどうにかなっていました。

来週の月曜日から、教室で授業を行うようになります。それで、クラス数が増えますから、私も駆り出されて授業をすることになりました。教える内容そのものは、以前に扱ったことがありますから、教室で戸惑うということもないでしょう。心配なのは、今までとは授業の進め方を大幅に変えなければならないことです。

まず、こちらはマスク+フェイスシールドで教壇に立ちます。やっぱりしゃべりにくいし鬱陶しいし、声も通りにくいですから、言葉を厳選して授業を組み立てなければならないでしょう。無駄話をしていると、フェイスシールドの内側が曇ってしまうかもしれません。要領よくしゃべらないと、こちらの意図が学生に伝わらないかもしれません。

それから、ペアや少人数のグループになって活動することも、「密接」につながりますから、避ける必要があります。教室の机の配置も、学生同士が面と向かい合わないようにしています。安易に、「じゃあ隣の人と…」などということができません。それに代わる何かを開発し、教師が一方的に講義する形ではなく、学生が受身にならないようにしていきます。これが結構難しいんじゃないかな。

さらに、授業後に机などを除菌したり、教室の窓を開けて換気したりという、授業の周辺事項が増えます。学生指導にも、感染拡大防止という観点が加わります。期末テストまで1か月足らずですが、新しい挑戦に富んだ毎日になりそうです。

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文化の違いを乗り越えろ

5月27日(水)

6月から週に何日かは学校での授業を始めようと準備を進めています。3密を避けるために常に学生がたむろしていたラウンジをどうするか、授業後の除菌・消毒をだれがどのように行うか、そういった問題をひとつひとつつぶしています。登校した学生の体温測定をどうするかも大きな問題です。職員が非接触型体温計で測るところまではいいのですが、計測のために行列ができてしまっては意味がありません。学生全員が定刻までに来てくれれば話は単純なのですが、遅刻されると問題が複雑になります。

そんな問題よりはるかに大きな、おそらく解決不能な難題があります。手洗いの励行が感染防止に有効なことは論を待ちません。また、学生たちも手を洗いはします。しかし、洗った手をどうするかというと、自然乾燥か服や髪で拭くというのが一般的です。そんなことでは、せっかく洗った手が、服や髪についていた雑菌・ウィルスで汚れてしまいます。ちょっと考えればそのくらいわかるはずなのですが、ハンカチやタオルを持っている学生は、皆無に近いです。長年にわたって口を酸っぱくして注意しても、まったく効き目がありません。

ハンカチを持つことを厳しくしけるのは、日本の文化のようです。学生たちはそんな教育を受けて来ていませんから、突然持てと言われても、その意義が理解できません。教師が意義を説いたところで、心から納得するには至りません。学生の食習慣や勉強のしかたなどに違いを感じることはよくあります。でも、そのあたりは学生の方から日本流に歩み寄ることが多いです。ところが、このハンカチを持たない文化だけは、微動だにしませんね。

刻一刻と学生の登校日が迫っています。うまい対策がないものですかね。

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