Category Archives: 学校

この差は何?

12月22日(水)

今学期もどうにか期末テストの日を迎えました。私が試験監督をしたクラスには、今学期でKCPをやめる学生が2人いました。Sさんは帰国して進学し、Bさんは就職するとか。2人にとっては、1年余りのKCPでの生活の最後の日です。そして、締めくくり、総決算のテストのはずでした。

Sさんは朝一番の作文からお昼を少し回った聴解まで、問題用紙に線を引き、解答用紙や原稿用紙にカリカリとシャープペンシルを走らせていました。試験監督官としてそばを通る時も、私の影が机の上にかからないように気を使いたくなるほどでした。最後まで全力を振り絞っている様子が手に取るようにわかりました。

一方のBさんは、教室に存在するだけでした。解答用紙に名前を書くと、すぐに机に伏せてしまいました。寝心地が悪いらしく、すぐに起き上がっては体勢を立て直すのですが、ペンを手にする気配すらありませんでした。出席率を稼ぐために来たことは明らかでした。どういうところに就職するか知りませんが、こっそり写真を撮って社長さんに送ってあげたくなりました。

でも、Bさんは形の上だけでも期末テストを受けたのですから、まだ偉いです。別のクラスには、昨日行われた期末タスクをすっぽかすかのように退学届けを出した学生がいたと聞いています。期末タスクはグループワークですから、発表当日にメンバーがいなくなると、同じグループの他の学生は大きな迷惑を被ります。後は野となれ山となれと言わんばかりに敵前逃亡するなんて、たやすく許せることではありません。

そんな学生どもには、この先不幸あれと呪わずにはいられません。そして、Sさんには、学業成就を陰ながらお祈りしております。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

日本語力+感性

12月17日(金)

最上級のクラスに呼ばれました。学生たちがKCPのキャッチコピーを考え、その発表会が行われました。審査員というか、コメンテーターというか、要するに、授業担当ではない教師に講評してもらいたいということで、私が入ったというわけです。

キャッチコピーは、印象に残る短い言葉で対象物を端的に表現することが求められます。作り手には、単なる語彙力ではなく、感性も必要です。対象物を知っていればいいというわけではなく、ありきたりではない観点から見据える頭脳的機動力を発揮しなければなりません。今回の例で言えば、KCPで過ごした日々を振り返ってそれを一言にまとめるだけではなく、それをフレッシュな切り口でとらえ直さなければなりません。

どんな作品が出てくるかとワクワクしながら教室に入ると、程なく発表が始まりました。期待以上の作品が続きました。寸鉄人を刺すようなコピーが次々と出てきて、感心するやら驚くやら、パワーポイントを見ながらうなずくばかりでした。

学生たちは学校のことをよく観察してもいますし、それを効果的な言葉に落とし込むだけの力も持ち合わせていました。欲を言えば、プレゼンテーションをもう少し堂々とやってほしかったですね。マスクをしているせいか、消え入るような声の発表が多かったのが惜しかったなあ。

さて、私がこの学校のキャッチコピーを頼まれたら、どんなのを作ったでしょう。20年余りも同じところにいると、外の人に訴える価値のある物が、かえって見えなくなってしまいます。学生たちの発表をまぶしい思いで聞いていました。

そして、何より、今私が受け持っている中級クラスの学生との実力差を強く感じました。最上級クラスですから、中級クラスとなんか比較してはいけないのですが、私のクラスの学生が半年後にこの高みまで登れるだろうかと思ってしまいました。この学生たちが卒業していったら、誰がKCPの屋台骨を支えるのでしょう。作品が素晴らしかっただけに、危機感も深まりました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

Doppler効果

11月8日(月)

理科系の大学の口頭試問では、大学で勉強する専門に関連した理科や数学の事柄が聞かれたり、優しい問題を解かせられたりします。もちろん、出題も日本語だし、回答も日本語です。

中級のCさんは、そんな入試がある大学を狙っています。受験講座の後で、その口頭試問の練習をしました。残念ながら、合格には程遠い回答内容でした。正確に言うと、専門知識はしかるべきレベルのものを持っています。しかし、それを日本語で表現できないのです。

“エチレン”という私の言葉に反応して、膝の上に置いた手の指を2本立てて何事か表そうとしています。しかし、Cさんの口から“二重結合”という、有機化学のごく基礎的な用語は発せられませんでした。“ドップラー効果”と聞いても全然わかりませんでした。「“ドップラー”は英語ですか」と聞いてきました。「はい」と答えると、「英語で言ってください」ときました。“Doppler”と英語の発音をすると、「ああ、わかりました」と腑に落ちた様子でした。でも、口頭試問では、日本語の“ドップラー”がわからないと、どうしようもありません。

Cさんは、日本へ来てからも、ずっと国の言葉で理科や数学を勉強してきました。EJUでは目標としていた点数が取れましたが、口頭試問の練習でこのざまですから、先は決して明るくありません。口頭試問がない大学に合格し進学したとしても、こんな程度の専門日本語力では、授業についていけないでしょう。少なくとも、1年生の最初の学期は大いに苦労するに違いありません。

だから、受験講座を受けてほしいのです。中級では、まだ、日本語で物理や化学や数学を勉強するのはかなりの負担です。しかし、それに耐える訓練をしておけば、口頭試問にも進学後の授業にも対応できるようになります。受験講座は、EJUの先を見越した勉強をしているのです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

カッコつけない

10月26日(火)

私が火曜と金曜に受け持っているクラスに、今週から大学の日本語学科の実習生が2名入っています。授業を見てもらうのですが、果たして私の授業の進め方が役に立つのやら。

大学や養成講座の方に授業をお見せするのは今までに何回もあり、特別なことではありません。初めの頃は多少なりともお手本にある授業をしようなどと思ってもいましたが、今はそんなことは全く意識しません。反面教師も教師のうちと、開き直っています。

でも、見てもらいたい、気付いてほしいポイントはあります。“ここだよ”と心の中で叫びながら授業をすることもまれではありません。実習生の書いた実習ノートにこちらの伝えたかった思いが記されていると、思わずニンマリしてしまいます。それについて何も書かれていないと少し寂しくなりますが、だからと言ってその方の評価を落とすわけでもありません。教師だって十人十色です。私のカラーに近い人もいれば、対照的な人もいます。

さて、今回の実習生は大学生。若いうえに、理論を学んだばかりですから、教科書をいかに教え切るかが発想の中心ではないでしょうか。私のスタイルは、特に中級以上では、教科書をガイドブック代わりにそぞろ歩くように授業を進めていきます。授業が終わった時に帳尻が合っていればいいという発想です。実習ノートを見ると、戸惑っていた様子が感じられました。学生に文法の例文を読ませた後に、突然発音指導が始まっちゃうんだもんね。漢字の時間に「ワシントン条約って何?」とか聞いちゃうんだもんね。

実習は来週まで続きます。今度、このクラスに入るときは、この2名、どのくらい成長しているでしょうか。目の付け所を観察したいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

面接に弱い

10月4日(月)

先週末から、奨学金の面接をしています。もう少し正確に言うと、文部科学省学習奨励費受給者として学校が推薦する学生を決定するための面接です。申請した学生は、みな出席率が100%に近く、成績もクラスやレベルの中で上位を占めています。

そう聞かされていたのですが、それにしては学生たちの受け答えがパッとしません。声が小さかったり、語彙や文法が間違っていたり、態度に落ち着きがなかったりと、奨学金をもらうような模範生には程遠い惨状が繰り広げられています。

申請者の多くを受け持っていたT先生によると、ほぼ全員が極度の緊張状態に陥っていて、クラスの授業での様子とは全然違っていたそうです。確かに、今までの奨学金の面接では、私も半分かそれ以上の学生と顔見知りでした。ところが今回は、名前ぐらいしか知らないか、せいぜいオンラインで何回か触れた程度です。

だから、初対面に近い私に対して学生が緊張するのは、わからないではありません。しかし、それにしても限度というものがあります。この面接の場で、授業中の発話力の1/10も発揮できなかったとしたら、この先に控えている志望校の面接試験など、受かろうはずがありません。

面接練習だったらかなり厳しい質問もしますが、奨学金の面接では学生の生活の様子を尋ねるのが中心です。初級の学生でも答えられるような内容ばかりでしたから、中級以上の、しかも成績優秀な申請者たちには、楽勝のはずです。

オンライン授業だと気楽に発言できると言われています。それが、誰の視線も感じることがないという理由だとすると、面接のような知らない人からの視線にさらされるというのは、学生に大きな緊張を強いるものかもしれません。ここまで枕を並べて討ち死にというのであれば、そういうことがあるのでしょう。

これは、学生たちばかりを責めるわけにはいきません。内弁慶を作らない授業の工夫が必要です。岸田新首相の誕生を祝うかのように、東京の新規感染者数が11か月ぶりに2桁になりました。学生が入国できる日が近づいたなどと喜んでばかりではいけません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

気分一新

9月30日(木)

午後から校舎内の整備をしました。昨日の期末テストで授業がすべて終わったので、オンライン授業で使った教室内の小道具を回収したり備品の点検をしたりしました。私は、各階の掲示板から期限切れのポスターなどをはがしました。

毎日学生が来ていれば、無関心なように見えて、意外なほど学生たちは掲示板を見ています。掲示物の内容について問い合わせが来ることも珍しくありません。ですから、教師の掲示物には気を配っていて、大学などからポスターやチラシが届いたら、最新情報として掲示しています。教室の掲示板に貼った方がいいものは、時にはコピーを取って、学生の目に触れるようにしています。どの階の掲示板に貼るかにも、気を配っています。大まかに大学院の階、大学院の階、専門学校の階と決まっていますが、オープンキャンパスの案内などは大学に階に貼るか大学院の階に貼るか悩むところです。

その掲示板、今学期は8月から学生が登校しなくなりましたから、ほったらかし状態でした。1つずつ見ていくと、高校の夏休みに時期に行われたオープンキャンパスのチラシなど、過去のものとなった掲示物が至る所に貼られていました。期限切れだらけと言ってもいいくらいでした。土砂崩れか何かで不通になって、さびて赤茶けてしまったレールを見ているようでした。そういうのを全部取り去ったら、掲示板がすかすかになってしまいました。

さて、明日から緊急事態宣言が解除され、新学期からは学生も登校します。最新の情報で飾った掲示板で学生たちを迎えます。ピカピカの新品のレールで、学生を志望校に送り込みたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

最後の御奉公を

9月4日(土)

お昼に入ったお店のテレビで、パラリンピックが放送されていました。私はオリもパラも興味を失っていましたから、7月のオリ開会式はじめ、今まで全然見ていません。だから、料理が来るまで、中継には目もくれずに本を読んでいました(小野不由美は読み始めると止められません)。

そのオリパラを強引に開催した菅さん、辞めちゃうんですね。Go to トラブルと言いたくなるような政策を出し続けたあげく、1年でクビという図式です。この稿でも何回か登場していただきましたが、優しい言葉をおかけした記憶はありません。

登場の時点からして怪しかったですからね。なんだか知らないけど、一番なってほしくない人が首相になっちゃったというのが、1年前の印象でした。6割とか7割とかという支持率を不思議な思いで見ていました。でもというか、やはりというか、竜頭蛇尾でした。日本語学校に関わりのあるところで言えば、去年の秋に一瞬だけ鎖国が解かれて新入生が入国してきましたが、その後は今に至るまでさっぱりです。現在、11月のEJUや12月のJLPTを日本で受けるつもりの学生が大勢海外で待っています。菅さん、最後のひと花で何とかしてくれませんか。

菅さんが首相に就任した日、全国の新規感染者数は541人、累積感染者数は約7万7千人でした。それが、今や、新規は日々2万人近く、累積は150万人以上となっています。感染の抑制は完全に失敗ですね。ワクチン接種はだいぶ進みましたが、予定通りとは言い難いのではないでしょうか。「経済優先のつけが…」などとも言われていますが、優先したわりには景況は思わしくありません。一見プラス成長ですが、去年の指標が悪すぎただけで、「ましだ」というに過ぎません。

菅さんは今年の誕生日で73歳です。あと数年したら、首相経験者ですから、旭日大綬章をもらっちゃうんですよね、きっと。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

声が出ない

8月11日(水)

朝、出席を取ると、JさんはZOOMに顔を出すや否や、チャットで「扁桃腺炎で声が出ません」と訴えてきました。自室内で授業を受けていることは明らかだったので、「はい」という声の返事はなくても出席としました。声が出ないと言っているのですから指名するわけにもいかず、かと言って野放しにもできませんから、いつもよりJさんの画面を頻繁にのぞき込むことで、ずっと出席していることの確認を取りました。

Jさんは最後まで画面から消え去ることなく、課題もきちんとこなしましたから、授業態度に関しては問題ありませんでした。しかし、担任のO先生に届いたメールによると、ゆうべエアコンをつけっぱなしで寝たため、のどを傷めたとのことでした。確かに、昨日は今年最高の暑さでした。その熱気が残り、当然のごとく熱帯夜でした。だからエアコンをつけて寝たというのは理解できますが、こういう時期にのどを傷めてはいけませんよ。今、世界を震撼させているのは呼吸器系の伝染病なのですから。

毎年、この時期になるとエアコンが原因で風邪をひく学生が目立ちます。しかし、今は「ああ、またか」で済ませられる状況ではありません。医者にかかるのも一苦労だし、余計な病気で体力を消耗したところに真打が襲い掛かってくることだって十分考えられます。そういうことも考えて健康管理をしてもらいたいなあ。

でも、Jさんはオンラインだから授業に参加できたのです。対面授業だったら、きっと欠席したことでしょう。熱はなかったそうですが、声も満足に出せないような体調で、外には出たくないでしょう。こういう学生も救える点が、オンラインの真骨頂だとも言えます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

特徴をつかむ

8月10日(火)

全面オンラインになり、1週間が過ぎました。学生たちのマスクの顔にいくらか慣れてきて、多少は顔の区別がつくようになったころにオンラインが始まりましたから、当初は、マスクを着けていない学生たちの顔がとても新鮮でした。マスクの顔から想像がつく顔もあれば、「えっ、あんた、こんな顔してたの?」って言いたくなるような顔もありました。学生たち同士はどうだったんでしょうね。

今学期は2つの同じレベルのクラスを受け持っています。オンライン授業になってから、どちらのクラスで何を教えたか、ごちゃごちゃになっています。作文と読解は教えるクラスが決まっていますから問題ないのですが、文法や漢字や聴解は両方のクラスで教えますから、混乱がはなはだしいです。対面授業の時は、マスクの顔は特徴がないとはいえ、この聴解はこちらのクラスでやったとか、文法でこの練習をしたのはあっちのクラスだとか、どうにか区分けができました。しかし、オンラインになって、学生の顔の特徴がよりはっきりしたにもかかわらず、わけが分からなくなってきているのです。

こうしてみると、実際に会うということのインパクトを改めて感じずにはいられません。オンラインで何でも仕事が進むようになっても、最後の決め手は対面だと言っている人が結構いるのもよくわかります。私たちは知らず知らずのうちに、何らかのオーラを発しているのでしょうか。

こういう状態がまだ当分は続きそうです。モニター画面の学生の顔を精一杯大きくして、クラスごとのカラーの違いを感じ取っていきましょう。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

不思議な物体

8月6日(金)

朝、学校に着いたら、地下駐輪場の入り口付近の路上にオレンジ色の何物かがぶちまけられていました。「やられた。ゲロだ」と背筋に寒気が走りましたが、近寄るとゲロにしてはオレンジ色が鮮やかで、ドロドロ具合が足りないように見えました。においも、ゲロ特有の、それこそ吐き気を催すようなものではなく、それよりは刺激が強いように感じました。断言はできませんが、キムチじゃないかとも思いました。

少なくとも、昨夜9:30少し前、私が学校を出たころには、“キムチ”はありませんでした。とすると、夜中に学校の前の道を通り、キムチを落っことしたのでしょうか。ゲロだとしたら、大酒を飲んで足元をふらつかせながらここまで来て、オエッとやらかしたのでしょう。いずれにしても、学校の前の、表通りとは言い難い道を真夜中に歩いていた人がいたということです。

確かに、夜遅い時間帯の地下鉄は、おととしあたりと比べたら、明らかに乗客が減っています。ロングシートに1人か2人ぐらいしか座っていないことだって珍しくありません。それを見ると、人出が減っているのだなと思います。しかし、本当に夜中に外を徘徊する人が減ったかと言ったら、そうでもないのかもしれません。飲む人は何があってもしっかり飲んでいるのです。日本選手の金メダル獲得なんか、格好の肴ではありませんか。

オリンピック期間中に、累計感染者数が約15万人増えました。開会式の頃の全国の新規感染者数が、今や東京都の1日分です。専門家の懸念が、そのまま現実化しています。それでも菅さんの頭の中では、オリンピック大成功なのでしょうね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ