Category Archives: 自然

三線の音

11月18日(木)

授業の休み時間に職員室に下りると、ちょうどO先生がいらっしゃったところでした。わずかな時間しかありませんでしたから、軽く会釈して教室に戻りました。O先生はつい先日まで、数か月沖縄にいました。授業が終わってから、その話をたっぷり聞かせてもらいました。

沖縄と言っても、O先生がいたのは、本島ではなく、西表島でした。沖縄本島でも十分に東京とは違う空気を吸えますが、西表島ともなると、完全に文化の違いを感じるそうです。東京から直線距離で2000キロ、本島からでも500キロ近くあります。気候風土が大幅に違いますから、そこから紡ぎ出される文化も違って当然です。

マングローブや海に沈む夕日は、もう見飽きたと言っていました。街灯がないため、満月の明るさが存分に感じられるそうです。月明かりだけを頼りに歩くって、小説の中でしか知りません。前世紀末、まだこの仕事を始める前、中国の砂漠の端っこで満点の星を見上げましたが、それとはまたひと味違うのでしょうね。

O先生は持ち前のコミュ力を生かして、島の人と自然と社会から多くのことを吸収しました。島は人口が少ないため誰もが顔見知りなこと、よそ者のO先生にも気安く声をかけてくること、島外から運ばれるものは非常に高いこと、イリオモテヤマネコがヒトを含めた生態系の頂点に立っていることなど、興味深い話をたくさんしてくださいました。そして、島で覚えた三線を披露してくれました。「まだまだ」とのことでしたが、素人の私は、たっぷり沖縄情緒に浸れました。

話を聞いているうちに、うらやましくなりました。私は、旅行者として西表島を訪れることはあるかもしれませんが、O先生のように長期間滞在してこんなにも多くの得難い経験を手にすることはないでしょう。年齢とバイタリティーの差は、いかんともしがたいものがあります。せめて来年の夏休みこそは、3年ぶりに有意義に過ごしたいものです。これも感染状況次第ですが…。

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上がったり下がったり

2月22日(月)

土曜日ぐらいから暖かい日が続いていますね。最高気温が21~22度というと、桜の季節の先です。そんなわけで、お昼(と言っても3時半ごろですが)は、花園小学校の校庭の隅で過ごしました。

私の“お昼”は、食事もそうですが、読書の時間でもあります。ですから、陽気がよければ外でもいっこうにかまいません。いや、温かな風に吹かれてページを繰ると、建物や電車の中で読むよりも気分がいいです。

ここ2、3日ほど暖かいとはいえ、花園小学校の桜はまだつぼみすら定かではありません。これであと1か月もすれば本当に桜は咲くんだろうかという感じでした。でも、週末にうちの近くの隅田川の土手に植えられている桜並木の枝をしげしげと見た時には、つぼみがもう少し膨らんでいました。花園小学校の桜は日当たりがあまりよくないですから、花の生育が遅れているのかもしれません。

20度を超えると、アメリカやマレーシアの学生は半袖で登校してきます。確かに真冬の装備は要りませんが、夏装束はやり過ぎだろうとツッコミを入れるのが、この時期の恒例行事です。しかし、今年はオンライン授業ですから、そんな軽口もたたけません。zoomの画面では顔を確かめるのが精いっぱいで、服装の変化までは観察できません。まあ、暖房が効いていたら真冬でも半袖で過ごせちゃいますがね。

週の半ばからは、また、気温が下がるそうです。週末は季節が逆戻りするくらいの寒さになるという予報が出ています。三寒四温、春になりかけのこの時期は、気温もジェットコースターです。

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春の気配

2月13日(土)

私が春を感じるのは、出勤した時に、学校の前の道から見える東の空がわずかに明るくなり始めるころです。今週の初めぐらいから、東の空の色が頭上の空の色よりわずかに薄くなり始めました。空がオレンジ色に染まるよりはるかに手前で、まだ白黒の世界です。ビルのすき間(谷間にも満たない狭さです)が白んだかなという程度に過ぎません。それでも、なんだか心が浮き立ちます。

職員室で受験講座の資料作りに励んでいると、O先生が「咲きました。いい香りですよ」と、梅の小枝を持って来てくれました。7階のお茶室の庭に咲いていたそうです。オンライン授業が続き、茶道部も活動ができません。久しぶりにお茶室に足を運んだO先生が、白梅のほころんでいるのを見つけたというわけです。梅の小枝は、O先生が一輪挿しに生けて、受付に飾ってくださいました。

お昼過ぎにZさんが来ました。去年の新入生ですが、W大学の大学院に受かったので、今学期いっぱいで退学します。その手続きを聞きに来たのかと思ったら、T大学の大学院も受けているけれども、そっちも合格したらどちらに進学した方がいいかという相談も受けました。「日本人だったら90%以上T大学だろうね」と答えると、退学手続きはT大学の発表の後まで待つということになりました。表情からすると自信ありげでしたから、期待してもいいかもしれません。

私がZさんの相談を受けている隣で、Kさんが志望理由書を書いていました。来週早々出願ですから、担任のO先生のチェックを受けてすぐに清書しているという次第です。O先生の顔をのぞき込むと、梅を生けていた時とは打って変わって、渋い表情をしていました。KCP全体の春は、もう少し先のようです。

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朝日が沈む

11月12日(木)

この時期、私の出勤時間帯には、東の空がわずかに明るんでいます。御苑の駅から靖国通り方面に向かって進み、靖国通りの直前でKCPの方へ曲がると、ちょうど朝日の昇る方角になるのです。

2月の末ごろ、同じように出勤時の空にほの明るさを認めると、春が近づいてきたなと感じます。まさに光明を見出したわけであり、厳しい冬を乗り切った自分をほめてやりたくなります。気が付くと口元が緩んでいます。

しかし、今どきの同じような空の光景には、もう二度と光の世界に戻れないのではないかという恐怖心すら感じます。体を丸めて寒風に耐える自分が見えてきます。

いつの間にか、東京の最低気温が10度を割るようになりました。今朝は、あまりの風邪の冷たさに、マフラーを用意しました。でも、コートはまだです。それは、スーツの上着の下にカーディガンを着込んでいるからです。このカーディガンが意外に暖かく、コートなしでも苦になりません。

では、なぜカーディガンを着ているのでしょうか。それは、校舎内全体が寒いからです。換気のために窓とドアを開けっ払って授業をしていますから、校庭で授業するのと大して変わりありません。まさかコートを着て授業を行うわけにもいかず、夏の初めごろ在庫処分セールで買ったカーディガンが登場したというわけです。好判断をした半年前の自分をほめてやりたいです。

でも、まだ冬の入り口です。しかも、この先気温は平年を下回りそうだという長期予報も発表されています。ずっと換気優先の教室で授業していけるでしょうか。教室の暖房の設定温度を25度ぐらいにしないと、暖かい感じがしません。電気代がかさみそうです。

今年は、出勤時に朝日が見えなくなるのが一層寂しいです。

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コロナよりも恐ろしい現実

3月31日(火)

世界中がコロナで大騒ぎしていますが、実は日本でとんでもないことが起こっているのです。

今年の東京の桜は、3月14日に日本でいちばん早く開花しました。満開も3月22日と、やはり日本でいちばん早かったです。桜前線は北上を続け、現在、仙台まで開花が確認されています。ところが、南国九州鹿児島では、まだ桜が咲いていないのです。鹿児島県内に咲いている桜が1本もないとまでは言いませんが、鹿児島市内のソメイヨシノの標準木は、いまだつぼみのままです。とうとう3月中に桜は咲きませんでした。いまだに咲いていないのは、北海道と、仙台・福島を除いた東北、それに長野・新潟です。いずれも北国・雪国です。

鹿児島がそんな地方と同じくらい寒かったのかというと、もちろん違います。むしろ、冬が暖かすぎたからなのです。桜の花が咲くには、暖かくなる前に、ある程度の寒さが必要です。低温の期間がないと、花の芽が形成されず、したがって花も咲きません。今年は全国的に暖冬でしたが、鹿児島では暖冬過ぎて花芽が形成されるだけの寒さに達せず、桜が咲かなくなってしまったのです。

鹿児島から約370km南にある奄美大島の名瀬では、桜の標準木がソメイヨシノではありません。ヒカンザクラです。名瀬以南はもともと暖かいですから、ソメイヨシノは咲かないため、ヒカンザクラを桜の標準木としています。鹿児島も、沖縄や奄美大島と同じように、ソメイヨシノが咲かない(咲けない)地域になってしまったのかもしれません。

コロナは、いずれ近い将来、ワクチンが開発されるでしょう。そうなれば、今のインフルエンザと同じように、ときどき大きな流行はあるものの、今年のように世界中の人々を恐怖のどん底に陥れるようなことはなくなると考えられます。しかし、地球温暖化にはワクチンはありません。そう遠くない将来、東京が今年の鹿児島のようにならない保証はどこにもありません。

コロナという目の前の災厄に対峙することも大切ですが、鹿児島の桜が仙台よりも遅くなったという現実も絶対に忘れてはいけません。

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どこでお花見?

3月24日(火)

東京の桜はすでに満開ですが、今年は私の定点観察ポイント、毎朝のお楽しみ花見スポットが、具合が悪いことになっています。丸ノ内線四ツ谷駅の荻窪方面行きホームの屋根を延長する工事をしているため、満開の桜の前に鉄パイプの足場が組まれているのです。ですから、電車の窓越しのお花見が台無しになっています。花が見えないことはありませんが、去年までのように目を奪われるような美しさは感じられません。朝のささやかな目の保養ができない状態です。

午前中、証書をもらいに来る卒業生が少なそうなでしたから、パンでも買って、花園小学校の校庭の桜を愛でながら、少し早めのお昼にしようと思って外に出ました。ところが、青空なのに風は冷たく、あっさり計画を中止して、うどん屋に入ってしまいました。きのうの朝は日曜日の暖かさが残っていましたから、今シーズン初めて、コートを着ないで家を出ました。しかし、今朝はコート+マフラー+手袋と、真冬モードに逆戻りです。日中になっても気温はあまり上がっていないようでした。

気象庁のページで調べてみると、私が出歩いていた頃の気温は10度をどうにか超えていましたが、北西の風が6~7mぐらい吹いていたようです。体感気温は真冬の寒さだったと言っていいでしょう。うどんで温まったのは正解でした。桜は盛りですが、春はまだ浅いといったところでしょうか。

四ツ谷駅の工事が今すぐ終わるとは思えませんから、今年は横着しないでどこかへ足を運ぶことにしましょう。ただ、心配なのは、屋根のほかに壁もできて、来年から桜が見られなくなることです。東京メトロさん、私のささやかな楽しみを奪うような無粋なまねはしないでくださいね。

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鬼は外はしないけど

2月3日(月)

節分ということで、いつもなら豆まきを見学にどこかの神社まで出るのですが、今年は好んで人ごみに出ていくのもいかがなものかということで、教室で節分特別メニューをすることにしました。私が受け持っている超級の学生なら、本当に節分の豆まきを味わいたかったら、自分で調べて自分で行けますから。

節分の意味や鬼や豆まきのいわれを一通り勉強した後、明日は暦の上では春ですから、何に春の訪れを感じるかについて話してもらいました。暖冬とはいえ春は名のみであり、そういう雰囲気ではないでしょうが、季節の変化をどんなことで感じ取るのか聞いてみました。

いちばん多い答えは、花粉症関連でした。花粉症の人がマスクをしたりゴーグルをかけたりするというものです。花粉症グッズがドラッグストアに現れるという答えもありました。確かに、花粉症は早春の風物詩になってしまったといっていいでしょう。だけど、なんだか味気ないですね。

その次が花関係でした。サクラ、レンギョウなどとともに、柳絮を挙げた学生がいました。柳絮は中国の春を彩る美しい景色です。国の春を思い出しながら答えたのでしょう。ウメ、モモが出ないあたりが、日本人の感覚と違うなと思いました。菜の花は出てもいいかと思っていましたが、そういう声はありませんでした。

私は、空の色です。春霞の空といいましょうか、秋から冬にかけての刃のような青空が、水蒸気を多分に含んだ柔らかい色に変わるのが、春の第一歩だと思います。同時に、東京では観察するのが難しいですが、地面がわずかずつ青くなり始めます。土の中から草の新芽がわずかに顔を出しているのでしょう。

お昼を食べに出たら、とても暖かでした。コンビニでパンを買って公園で食べようかと思ったほどでした。最高気温15.2度、南寄りの風の穏やかな1日でした。

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28日を有効に

1月6日(月)

今回のお正月休みは、12月28日から始まりました。この“28日”というのが大きいのです。多くの博物館は29日から年末年始休館に入るからです。28日にどこを見学するか3つほどアイデアがあったのですが、私が選んだのは根尾谷地震断層観察館でした。

根尾谷断層は、1891年(明治24年)の濃尾地震の際にできました。というか、この断層が生じたエネルギーによってマグニチュード8.0の濃尾地震が引き起こされたというべきでしょう。すでに130年近くたっていますから、断層でできたがけには草が生い茂り、一部は崩されて県道が走っています。しかし、観察館に保存されている地下の地層は、6mの断層の存在を明確に示しています。さすが、「根尾谷断層を研究しない地震学者はもぐりだ」と言われるだけのことはあります。断層トレンチの前にしばらく立ち尽くしました。

…という書き方では、この感激は伝わらないでしょうね。日本語教師の方々なら、そうですねえ、て形が一発で完璧に入ってしまった学習者を教えた時のようなものだと言えば、多少はわかっていただけるでしょうか。“28日”を有効に使うことができたと思いました。

翌日は岐阜城へ。岐阜はよく通るんだけどもじっくり見たことのない町でした。今回は年中無休で営業している岐阜城を目指しました。岐阜城は金華山の頂上にあるので初日の出スポットなのです。

普通は麓からロープウェイで3分ほどですが、2019年最後の大汗をかこうということで、歩いて登りました。私が選んだ登山道は健脚者向けだけあって、険しい道が続き、岩場のようなところまでありました。駅から金華山麓までは厳寒装備でしたが、頂上に着いたときは半袖短パンになりたいくらいでした。

岐阜城の復元天守閣最上層からは、抜けるような青空の下、絶景が拝めました。屏風を立てたような伊吹山、神様がつまんで持ち上げたら本州ごと持ち上がってしまうんじゃないかというような木曽の御嶽山をはじめ、乗鞍岳、恵那山、北アルプス、中央アルプスの山々が見渡せました。もちろん、名古屋の高層ビル群なんか楽勝です。「今年1年のご褒美かな」と思いました。

さて、2020年も年末にこんな感激が味わえるように、仕事に精を出しましょう。

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汗を流して

5月7日(火)

10連休はいかがお過ごしでしたか。私は予定通り関西を歩き回ってきました。五月山公園、小林一三記念館、小谷城址、佐和山城址、丹波亀山城址、長岡京古跡、神戸海洋博物館、青山高原、犬鳴山、…どうです、一緒に付き合いたくないでしょう。関西出身のH先生も、さすがにすべてはいらっしゃったことがないんじゃないでしょうか。

世界遺産クラスの名所旧跡寺社などは、大昔も含めて一度は訪れていますから、そういうところは避けて計画を立てました。しかし、往復で1120円の電車賃を節約するために、どうしても嵐山を突っ切る必要が生じました。行きは8時台だったので、お寺などの開門前でしたから、サクサク歩けました。しかし、帰りは昼下がりでしたから、インバウンド+10連休の観光客で、とんでもない人込みでした。ソフトクリームやらクレープやらコロッケやら、食べながら歩く人が多く、沿道の店は観光客を捕まえんと手ぐすね引いており、歩道は思うように前に進めません。ホコテンでもないのに歩行者が車道にあふれ、道路交通法上は無法地帯と化していました。観光人力車が車と人に進路をさえ着られ、車夫が苦笑いという始末でした。

やはり、自然を愛で、歴史に思いをはせ、美に浸るには、静かであるに越したことはありません。日々の東京の暮らしでできないことといえば、まさにこういうことです。ホテルの朝食バイキングでがっつり食べて、日中はコンビニもないような山野を駆け巡り、夕方疲れ果ててホテルへ帰りつき、大浴場で手足を伸ばし、早寝をするという毎日を送りました。山城をよじ登るとき、汗が噴き出ると、浮世の穢れも流れ出ていくような気がします。そして、頂上から下界を見下ろすと、身も心も清められた爽快さが味わえます。

これだけ遊びまくったのだから、さぞかし仕事への意欲が湧くだろうと思いきや、心は早くも夏休みです…。

五分咲き? 満開? 八分咲き?

3月27日(水)

気象庁から、東京の桜が満開になったと宣言が出されました。ソメイヨシノでは、今年全国で一番早い満開宣言です(奄美沖縄地方の「ひかんざくら」は2月に満開)。21日の開花から、けっこう暖かい日がありましたからね。でも、朝の四ッ谷駅の桜は、まだ五分咲きぐらいに見えました。

そんなニュースを聞いていたので、お昼に出たついでに、花園小学校の桜を見に行きました。私と同じ考えをした人が多かったみたいで、花見に具合がいいベンチは満席でした。だから立って枝をしげしげと見ると、花はかなり開いているものの、つぼみもまだだいぶ残っていて、七分咲きから八分咲きといったところだと思いました。ここの桜は日陰になる時間帯が案外長いですから、靖国神社の気象庁標準木より咲くのが遅れているのでしょう。

午前中から風が強かったので、花びらに分解する前に、花そのままの形で吹き飛ばされているのもあり、なんだかもったいない感じがしました。拾って洗ってお茶か和菓子の上にでもそっと載せれば風流なのでしょうが、私にはそんな趣味はなく、砂ぼこりと一緒に舞う落ち花を見ているだけでした。いずれにせよ、今週末が東京のお花見ハイシーズンでしょう。お天気はパッとしなさそうな予報が出ていますが…。

桜といえば、数日前の新聞に、さいたま市に20キロにわたる桜並木があるという記事が出ていました。地図を見ると、さいたま市の南北を貫く形で数千本もの桜の木が、見沼田んぼを縁取るように植えられています。端から端まで歩いてみたい気にもなりますが、そんなことをしたら、3年ぐらいもう桜は結構ですなんてなるのでしょうか。