Category Archives: 会話

説明する

9月19日(木)

WさんとZさんは、理科系志望の良きライバルです。もうすぐ入試本番を迎えます。その入試に、口頭試問があります。理科系大学の口頭試問は、「どうして本学を志望したんですか」などという一般的な面接の質問に加え、理科や数学に関する質問もなされます。例えば、数年前のある卒業生は、「ニュートンの法則を説明してください」と聞かれたそうです。

ニュートンの法則といえば物理の基礎の基礎ですから、理科系の受験生なら誰でも知っています。しかし、それを改まって説明しろと言われると、言葉に詰まってしまいます。頭でわかっていること、国の言葉で理解していることを日本語わかりやすく説明するというのは、留学生にとってはかなり高度な口頭発表です。

大学によっては、それほど難しくない問題をその場で解かせて、答えを導くまでの過程を説明させることもあります。口頭試問の時間は1人当たり20分ぐらいですから、長考に沈まなければならないような難問は出されません。数分以内で解ける問題ですが、答えに至るまでにどんな道筋をたどったかわかりやすく説明するとなると、話は別です。

物理の時間に、EJUの過去問を使って、WさんとZさんに口頭試問の練習をしてみました。2人とも、EJUの過去問ぐらいは解けます。しかし、予想通り、説明する段になると、しどろもどろの支離滅裂、ホワイトボードには前衛芸術並みの絵と国籍不明の文字、一緒に説明を聞いた学生も“???”でした。

WさんとZさんも、もどかしく悔しいに違いありません。合格はその悔しさ、もどかしさを越えた先にあります。まだまだ鍛えなければなりません。

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口を大きく

9月7日(土)

今年は、昨年あたりと比べると、指定校推薦の枠を利用する学生が多いです。先週から今週にかけて、指定校推薦を希望する学生の面接をしました。推薦してもらおうというくらいですから、基本的には“いい学生”です。また、H大学やK大学など、上位校への推薦を狙っている学生は、KCPでの成績もそれなり以上です。

しかし、面接の場では、Sさんを除いて話す力に不安を感じました。何も考えていないわけではありませんが、頭の中身がスムーズに口から出てこないのです。非常に堅苦しい表現になったり、直接言えば一言か二言で済むのに山手線を逆回りするかのような遠回りの言い方をしたりして、テンポよく面接が進むことはほとんどありませんでした。しかも発音が悪いと来ていますから、私のような、日々KCPの学生の超下手な日本語を聞いて訓練されている者なら聞き取れますが、そうでない方は理解不能に陥ってしまいます。

Fさんはその最たる例で、私と一緒に面接官を務めたG先生は何を言ってるかさっぱりわからなかったとおっしゃっていました。言っている内容は、志望理由も将来の計画も、実にすばらしかったです。しかし、それが面接官に伝わらなかったら、何も言わないのと同じです、

そんなわけで、今週は授業後にあちこちで面接練習が行われていました。Fさんなどは、発声練習が必要でしょう。口を大きく開けて1音1音はっきり発音するところから始める必要があるでしょう。ほかの学生も、頭と口を結ぶ神経を太くして、考えたことが口から流れ出るような感じにまで訓練しておいてもらいたいです。

Fさんたちの本番の面接試験は、今月末から来月初めにかけてです。大いに期待していますから、しっかり練習してくださいね。

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時間オーバー

8月9日(金)

中間テスト前の授業日としては最終日なので、私のクラスでは会話タスクを行いました。この1か月半ほど、授業で時間があればたとえ3分でも会話をしてきました。その成果を発表してもらおうというものです。

このクラスの学生たちは、授業中に疑問点をどんどん質問してきます。3分の会話でもおろそかにはしません。まじめに取り組んできたと言っていいでしょう。ですから、こちらも課題に対してどんな会話を繰り広げてくれるか、楽しみにしていました。

課題と採点基準を発表し、ペアで30分かけて会話を組み立ててもらいました。時間が来て、「じゃ、最初にやりたい人」と聞くと、即座に手を挙げたのがLさんとYさんのペアでした。一番よくできるだろうと思っていたペアでしたから、他のペアのお手本になるかもしれません。

やってもらうと、予想通り、他の学生たちにもまねしてもらいたい出来でした。今学期習った表現や語彙を上手に取り込んで、聞き手を引き込むストーリーを形作っていました。

これに刺激されてか、次から次と手が挙がり、あっという間に発表が終わりました…となるかと思ったら、1つの発表が長いんですね。3~4分という設定でしたから、中には2分台のところもあるだろうと踏んでいたところ、3分代後半から4分台が大半で、授業時間を10分もオーバーしてしまいました。こんなに長い会話を作り上げる力が付いていたのかと、ただただ驚くばかりでした。

学生たちは明日から3連休で、連休明けが読解などの筆記試験です。会話テストの前にやった総復習にも真剣に取り組んでいたし、授業後に残って質問してきた学生もいたし、大いに期待できそうです。

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ちょっと意地悪

7月9日(火)

今学期の火曜日のクラスは、週1回だけの担当です。こういうクラスは、学生の顔と名前がなかなか覚えられないものです。年寄りは、覚えるそばからガンガン忘れていきますから。

でも、クラスの学生の顔ぶれをよく見てみると、1/3ぐらいが先々学期初級で受け持った学生たちで、もう1/3ぐらいが日本語プラスなどで教えたことのある学生たちでした。ということは、数名の顔と名前を覚えれば、このクラスは征服できることになります。

だから、最初のうちは、顔と名前が一致しない学生ばかりを指名しました。ごめんなさいね、散々指された学生のみなさん。以前教えた学生は実力がだいたいわかりますから、ここぞという場面で指名します。応用的な問題はよくできるGさんやJさんに答えてもらい。私はそれに一言二言付け加えて、他の学生を納得させるという計算です。努力家のYさんも指名して、努力の成果を確かめました。

このクラス、中級の入口です。初級では、板書も可能な限り丁寧な字で書きました。でも、中級ともなれば、私がごく普通に書く字を読んでもらわなければなりません。どこの国でもそうですが、手書きの文字は読みにくいものです。普通の日本人の手書きが読めなければ、日本語が読めるとは言えません。そんなことを言うと、学生たちはちょっとビビっていました。

会話の時間もありました。友達をイベントに誘うというシチュエーションだったのですが、みんな丁寧体の堅苦しい会話をしていました。「友達同士だから普通体だよ」と声をかけて、普通体に導きました。ところが、「参加費はいくらだ」「300円必要だ」なんていうやり取りが、できるはずの学生の口から出てくると、うーん、がっかりですね。「集合時間は何時だ?」「午前9時に大学正門前に集合だ」も、ロールカードを読み上げただけの、日本人離れしたやりとりですね。「集合時間は?」「朝9時に大学の正門前」ぐらい、言えるようになってもらいたいところです。

9月末には、私の汚い字をものともせず、また、流れるような普通体の会話ができるように育てていきたいです。

新学期初日から、恐ろしいことになってきました。

日本人客?

6月21日(金)

養成講座の授業の休憩時間に1階に下りると、ロビーでL先生、F先生と親しげにしゃべっている人がいました。学生と同じくらいの年頃ですが、見かけぬ顔です。7月期の新入生にしては、話が弾みすぎています。L先生とF先生を相手に談笑しているのですから、怪しい人ではないのでしょう。そんなに時間の余裕もありませんから通り過ぎようとしたところ、「先生、Mさんですよ」とF先生に呼び止められました。改めてしげしげと顔を見ると、確かに卒業生のMさんでした。

Mさんはもうだいぶ前の学生で、W大学の大学院に進学しました。大学院修了後、F先生の地元の近くの会社に就職したそうです。昨日の夜行バスに乗り、今朝早く新宿に着いたとのことでした。

在学中のMさんは、午前クラスなのに夕方まで学校にいる学生でした。今目の前でしゃべっているみたいに、いろんな先生を捕まえては話をしていました。本当は違うかもしれませんが、私にはそんな印象が残っています。よっぽど学校が好きだったんでしょうね。

話し好きでしたから、会話力は高かったと思います。大学院でも就職してからも、周りの日本人にどんどん話しかけているのでしょうね。その会話力にさらに磨きがかかっていました。相槌の打ち方やちょっとした言葉の返し方が、日本人そのものでした。発音・イントネーションもタイミングも、違和感がみじんもありませんでした。いや、外国人だと思って聞くと、逆方向の違和感が湧き起こってくるくらいです。

学校の友達は同国人ばかり、授業後は国の言葉で教えてくれる塾へ、買い物は自動販売機か無言でセルフレジ、食事は国の言葉が通じる店、アルバイトはせずにまっすく帰宅…という毎日を送っている学生は、話す力が付くわけがありません。期末テスト前なら、Mさんにお説教をしてもらうところなんですがね。

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はじめまして

6月18日(火)

朝一番の仕事は、新入生へのインタビューでした。先週実施した7月期の新入生のプレースメントテストの結果中級以上と判定された学生に、改めてインタビューして、レベルを決定しようというわけです。

Yさんは今アメリカにいます。時差の関係で、日本の早朝が向こうでは昨日の昼下がりです。プレースメントテストは夜に頑張ってもらいましたから、インタビューはYさんの頭が一番活発に動いている時間帯に設定しました。

オンラインがつながると「こんにちは」とYさん。「日本はおはようございますの時間です」「あ、そうですね」「今、東京は雨が降っていますが、そちらはどうですか」「いい天気ですよ」といった調子で緊張をほぐしながらインタビューを進めました。

Yさんはずっと国で勉強していましたからでしょうか、日本語を話し慣れていない感じがしました。現に、KCPでは会話の勉強がしたいと言っていました。

午後もインタビューでした。RさんはJLPTを5回受けました。だいぶ前にN1に合格したのですが、去年はN2を受けました。N2はN1に比べて実用的な日本語が出てくるので、その勉強をしたうえで受験したそうです。結果は満点。数年前の在校生Nさんが、同じようにN1に受かった後でN2を受けて満点を取りました。Nさんは話す、聞く、書く、読む、すべてに秀でていて、どんな日本語にも対応できました。そんな学生が入ってくるのでしょうか。

最後はLさん。雑談の時に日本でどこへ行ってみたいかと聞いたら、熱海という答えが返ってきました。関西とか北海道とか富士山とか広島とかというのは聞いたことがありますが、熱海は初めてでした。レベル判定そっちのけで、興味本位で「どうして?」と聞いてしまいました。熱海の花火大会の映像を見てきれいだと思ったので、ぜひ実際に見てみたいのだそうです。今年はKCPの夏休み期間中の8月18日にあるようですから、ぜひ見に行ってほしいです。

入学式までまだ間がありますが、Yさん、Rさん、Lさんに会うのが楽しみです。

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初面接練習

6月13日(木)

初級の学生対象の進学準備授業が最終回だったので、思い切って模擬面接をしてみました。先週自己紹介文を考えさせていますから、それを入試の面接の場という想定で発表してもらおうと考えました。学生にとっては初めてのことですから、いきなりうまくいくとは思っていませんでした。

Kさんは左手で右手の手首をつかみ、放そうとしません。Jさんはしゃべり出すたびに右手をひらひらさせます。緊張していることが丸見えでした。模擬面接が終わった後で見ていた学生に「どうでしたか」と聞くと、「Kさんは緊張でした」という感想が即座に返ってきました。でも、そういう感想を漏らした当の本人が、同じように異常な行動を示しました。みんな緊張するものなんだと悟ってくれれば、次回以降、多少はリラックスして話せるのではないかと期待しています。

それから、初級ですから語彙がないのでやむを得ないのですが、自己紹介の内容が浅いですね。自分をアピールする、面接官の印象に残る言葉がありませんでした。「趣味は○○です」で終わりにするのではなく、一言何か付け加えてほしいところです。今回は私から質問を繰り返すことでその“一言”を引き出しましたが、これは次学期の課題です。上級にも「趣味は○○です」でお茶を濁してしまう省エネ学生がいますが、そんなふうに成長しないように鍛えていかねばなりません。

来学期は本番の面接を迎えるかもしれません。その面接練習の時に、この面接練習を思い出してもらえれば、何にもなしの学生よりは上手にできるでしょう。

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話し好き

4月11日(木)

先学期私のクラスだったPさんは、会社に授業料を出してもらってKCPで勉強している社会人です。通常の日本語授業のほかに、プライベートレッスンも受けています。午後、そのプライベートレッスンを受け持ちました。

7月のJLPTを受けますから、第一はそれに合格するためのプライベートレッスンなのですが、授業で習った文法や語彙を使った会話の練習もします。やってみると、どうやらPさんは会話の練習の方が好きなようです。仕事でいろいろな経験をしているだけあって、話の内容がおもしろかったです。カメムシには臭くない種類もあるとか、黄砂やPM2.5が飛んでくるので最近は洗濯機と乾燥機が一体化した機種が売れるようになったとか、国は不動産価格が高くて70歳までローン返済があるとか、岸田さんより安倍さんの方がオーラがあったとか、JLPTの問題そっちのけで盛り上がってしまいました。

そんなとりとめのない話をしていましたが、Pさんの偉いところは、授業で習った文法や語彙を使うという会話練習の趣旨を忘れなかったことです。自分から使おうとしていたこともそうですが、私がここでこういう形で使うんだよと指摘すると、次に同じようなパターンが出てきたときに使ってみようと挑戦していました。夏に社長さんが来日した時は通訳しなければならないそうですから、普通の学生とは必死さが違います。

普通の学生だって、6月のEJU、7月のJLPTが運命の分かれ目になりかねません。それなのに、切迫感が見えないんですよね。1年後の進学の可否が2か月後の試験で決まると言われてもピンとこないんでしょう。煽り立てるのが、教師の仕事です。

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成長

3月13日(水)

初級のCさんはまじめな学生です。毎日の宿題をきちんとしてくることはもちろん、予習もしてくるし、授業も真剣に聞いています。しかし、成績は今一つ伸びていません。テストはどうにか合格点というレベルですし、例文などの提出物にも誤りがいくつもあります。

学期の最初の頃は、指名されると「えっ、私ですか」と言わんばかりにこちらを見返してきました。音声がうまく聞き取れていなかったのかもしれません。また、易しい問題を当てても的外れな答えを言ってしまうこともありました。残念ながら来学期は進級できないだろうなあと思っていました。

「建築家って?」と、漢字の時間に出てきた単語の意味をクラス全体に聞いたところ、「ビルを建設する人です」「家を建築する人です」などという声があちこちから上がりました。すると、教卓の真ん前に座っていたCさんがやおら口を開きました。「建築家はビルをデザインして、絵(設計図)を描いて、みんなにお願いして(関係者に指示を出して?)、ビルを建てる人です」と、つたないながらも立派な説明をしてくれました。

私は驚きました。学期の初めには単語レベルの話しかできなかったCさんが、こんなにまで話せるようになったのです。相撲の世界には「3年先の稽古をしろ」という戒めの言葉がありますが、Cさんは今学期の最初から2か月先の勉強をし、その努力が実を結び、学期末近くになって花開いたのです。そうそう、授業の最初にやった漢字テストも、今学期最高点でした。

1月下旬ぐらいだったでしょうか、新聞部に所属しているCさんが私の所へ取材に来ました。持てる想像力をフルに働かせてCさんの質問の意味を感じ取り、Cさんにわかるようにかみ砕いて答えました。今なら、そんな苦労をすることなく、話が弾むことでしょう。

今学期も多くの学生に触れあってきましたが、日本語力が一番成長したのは、疑いなくCさんです。

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地鳴り

2月14日(水)

中間テストを明日に控え、私が入っている初級クラスは会話の中間テストがありました。2人ペアになり、それぞれのペアに与えられた場面における登場人物として会話を作り上げていきます。ペアと場面は昨日のT先生が割り振っておいてくださったので、私はそれに従ってテストを実施し、採点評価するという役割でした。

会話の発表はクラスメートが見ている前で行います。どの発表にも、みんな儀礼として拍手はしますが、本当に素晴らしいと感じた発表には、終わった瞬間に拍手より一瞬早く「ウォーッ」という地鳴りのような驚嘆のうめき声があがりました。「ウォーッ」が出てきた発表は確かに構成がよく、発音も初級とは思えないレベルでした。学生たちも、見るべきところは見ているんですね。

とはいえ、日本語教師としては、会話の中で使われた文法や語彙にも目が向きます。今学期習った文法が使いやすいような場面を設定していますが、こちらの想定通りにはいかないのが常です。特に「んです」は過不足が激しく、使ってほしいところで使わず、要らないところにくっつけてしまう例が目立ちました。習ったばかりですからしかたない面もありますし、上級になってもうまく使えない学生も大勢います。そういうところを講評できっちり指摘し、明日以降学生自身に話す際の目標としてもらうことにしました。

昼休みに、Kさんが入学手続きに関して進学先の大学に電話をかけていました。ごく自然に「んです」を使っていました。録音して初級の学生に聞かせたいくらいでした。私のクラスの学生も、1年後にはこのくらいにまで成長してほしいものです。

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