Category Archives: 会話

狭いなあ

2月10日(土)

昨日からオリンピックなので、クラスの学生たちにオリンピックについて自由に語ってもらおうと思いました。3人1組で話を始めてもらったのですが、あるグループは30秒もたたないうちに静かになってしまいました。「どうしたの?」「私たち、だれもオリンピックに興味がないんです」「冬のオリンピックじゃなくてもいいんだよ」「夏も冬も全然知らないんです」…ということで、そのグループは盛り上がることなく制限時間になってしまいました。

私もオリンピックに特別強い興味を持っているわけではありません。それでも笠谷幸生から浅田真央まで、それなりに語れますし、よほどオタクっぽいトリビアでない限り相手の話題にもついていけます。マイナーなスポーツならいざしらず、オリンピックですよ。全く語れないというのは、常識に欠けているとされても文句は言えないでしょう。

最近、こういう、興味の範囲の狭い学生が増えているような気がします。読解にしても、読解力以前の、興味関心のレベルが低すぎてテキストの読み込みができない学生がいます。昨日の3人にしても、勉強ができないわけではありませんが、このまんまだと面接試験に耐えられるかどうかわかりません。進学できたとしても、学問を進めるなら今のうちから視野を広げておく必要があります。

Cさん、Hさん、Tさん、Sさん、Lさん、Dさん、みんな4月から進学ですが、私の目には危なく映ります。手を拱いていたわけではありませんが、この学生たちの目を外に向けるには、私は力不足だったようです。卒業式までちょうどあと1か月ですが、どうにかできないものかと思っています。

独自路線

2月9日(金)

来週G大学を受験するFさんが、受験準備ということで欠席しました。Fさんは、この1年、G大学を目指して努力を重ねてきましたから、最後の仕上げにもう一頑張りという気持ちはわからないでもありません。でも、この期に及んで学校を休んだところで、どんな準備ができるでしょう。この期に及んでも準備が足りないと思っているようでは、見込みが薄いと思います。何より、Fさんの最大の弱点は話すことです。面接試験できちんと受け答えできるかどうか、私は心配でなりません。これは、学校を休んでも改善されることはなく、学校で何回も練習して初めてどうにかなるものです。

その点、同じく受験を間近に控えたWさんは、毎日職員室で先生方に痛めつけられています。でも、そのおかげで、最近目に見えて受け答えが安定してきて、落ち着きすら感じられるようになりました。ただし、立ち居振る舞いは日本人の基準に照らすと美しくなく、つい先ほどまで厳しく指導されていました。

Fさんも、Wさんのように毎日しごかれるべきでした。でも、練習せずに本番を迎えることになりそうです。日本語教師の自動翻訳機能を駆使してようやくコミュニケーションが成り立つ低度ですから、それをお持ちでないG大学の先生方には話が通じないのではないかと危惧しています。

LさんもG大学に挑戦します。Fさん同様会話力に問題ありですが、こちらは想定問答を丸暗記しようという魂胆のようです。夕方、質問に対する答えを書いて、私のところへ持って来ました。文章を読めば、漢字を頼りにLさんの気持ちは理解できますが、それをそのまま話されたら、聞かされるほうは理解不能だろうなと思いました。朱を入れて返しましたが、これを丸暗記してG大学に受かったところで、入学後に地獄が待っているだろうと思いました。

Fさん、Wさん、Lさん、しばらくはオリンピックどころではありませんよね。

最高

2月5日(月)

毎日、ウォーミングアップ代わりに、学生たちにあるテーマについて3分間ペアで話させます。今朝のテーマは「今度国へ帰るときのお土産」。具体的なモノのお土産でも、「私の笑顔」みたいなものでも、何でも構わないから、国のだれかにあげるお土産を語ってくれというタスクです。

3分後に何人かの学生に何を持って行くか聞いたところ、日本のお菓子という答えが多数を占めました。日本のお菓子はおいしいかときくと、教室全体がうなずいていました。

私はビジネスのお付き合いでのお土産を渡した経験しかありませんから、家族にあげる日本のお土産って何だろうと興味がありました。アメリカの大学から来ている学生は、和風の小物をよく買うようです。また、原宿あたりで買ったTシャツなんかも人気があります。でも、お菓子というのは、いても少数派でしたね。

上級はアジアの学生がほとんどですから、好みが多少は変わるでしょうが、お菓子がここまで支持されるとはねえ。中には「白い恋人」などと商品名まで挙げる学生も。商品名はともかくとして、おそらく全員が何らかのお菓子を頭の中に具体的に描いていたここと思います。

お菓子の勉強に日本へ来る学生が毎年何人かいますから、日本はお菓子に先進国なのだと思っていました。ここまで学生たちの国々での支持が強いとなると、お菓子を武器にして日本を再興できないかと考えたくなります。学生たちが持って帰ろうとしているのは、和菓子よりは洋菓子でしょう。洋菓子と言っても換骨奪胎されて、ヨーロッパなど発祥の国へ持って行ってもその地の人々の舌を魅了するに違いありません。

卒業式が終わったら帰国する学生も多いです。その学生たちのスーツケースにはどんなお菓子が入っているのでしょうか。

直前なのに

1月18日(木)

授業後、今度の日曜日に面接があるというBさんの面接練習をしました。本番3日前ですから仕上げの練習と思いきや、久しぶりに聞く行き当たりばったりの受け答えでした。「どうして本学で勉強したいんですか」「貴校は2年生の時、海外に行きます」「ああ、海外プログラムですね。海外で何をしたいですか」「会社を見たいです。それからスポーツサークルに入ります」「会社を見たい? スポーツサークル?」「国でバスケットボールをしました」…。夏ごろの、まだ面接慣れしていない学生でも、もう少しましな答えをします。

中身もないし、ストーリー性もないし、志望校についても知らないし、しかも早口で発音も悪いし、どうしてこんな学生が野放しになっていたのでしょう。Bさんは同級生よりも口数が多いですから、自分は話すのが上手だと勘違いしています。友達と単語だけで話したり、教室で教師がクラス全体に聞いたときに真っ先に答えたりするのと分けが違うのです、面接は。ある程度の長さの話を、論理的にしなければなりません。面接官という聞き手を意識して、その人の心に訴える話し方が求められます。

途中から面接練習ではなく進学相談っぽくなってしまいましたが、わかったのは、Bさんが入試をなめてかかっていたということだけ。Bさんは、だいたいこんなことを話せばいいと思って、志望理由や将来の計画などを突き詰めて考えたことがないのです。ダメ出しをし続け、どうにかこうにか土壇場に追い込まれていることに気づかせました。普通、Bさんのレベルの学生にはさせないのですが、進学についてきちんと最後まで考えさえるために、想定問答をノートに書いてくることを命じました。

Bさんは、この宿題をやってくるでしょうか。

原石発見

12月15日(金)

先学期の始めから、かれこれ半年間、上級の大学進学希望の学生たちには、志望理由書、小論文、面接など、出願から入試にいたるまでの進学指導をしてきました。私以外にも上級担当の先生方があれこれと手を尽くしてくださっていますから、漏れや抜け落ちはないと思っていました。ところが、細かい網の目をどうかいくぐったか知りませんが、天然のダイヤ原石が発見されました。

Lさんは新年早々C大学の入試が控えています。それで、初めての面接練習に臨みました。「Lさんはどうして本学を志望したのですか」「はい。C大学は結構有名だし、先輩が推薦してくださったし、いいと思いました」「はあ、そうですか。では、本学で何を勉強しようと思っていますか」「精密機械工学科です」「精密機械工学科で何を勉強するつもりですか」「機械について勉強します」「じゃあ、卒業したらどうしたいですか」「エンジニアみたいな仕事がしたいです」…。

絶句したい気持ちをどうにか抑えて質問を続けましたが、どこから指導したらいいかわからないほどの受け答えばかりでした。しかも、日ごろのLさんの癖で、口をあまり大きく開けずに早口で話すものですから、Lさんのこういう話し方を知っている私だからこそかろうじて理解できたものの、初対面のC大学の面接官には、絶対にわかってもらえないでしょうね。

Lさんは、根は悪い学生ではなく、学習意欲も専門に対するセンスもありますが、こんな答え方ではそういった美質が大学側に伝わりません。今週末の宿題をいっぱい抱えて帰りました。来週、また練習すると言っていますが、どこまで軌道修正してきてくれるでしょうか。

未発見の原石は、もうないですよね。

沈黙は錆

11月1日(水)

水曜日のクラスはおとなしいクラスです。テストの成績が悪いわけではありませんが、教師がクラス全体に問いかけても、反応があまりないのです。誰かが答えるのを待っている、教師が説明してくれるのを待っている、指名されたら答えるけれども指名されなかったら黙っている、そういう学生が集まってしまったようです。

口を開かせるにはプレッシャーをかけるしかありません。指名した学生がたまたま間違った答えを言った時、「問1はアでいいですか」「…」「特に意見がなければアということで、次にいきます」「(蚊の鳴くような声で)あ、先生、イ……」「いそいでください? じゃ、急ぎましょう」「いいえ、問1はイだと思います」なんていう感じで、無理やりしゃべらざるをえない状況を作ります。それでもこんな程度ですから、ほうっておいたら教師の独演会になってしまいます。

このクラスの学生は全然しゃべれないのかというと決してそんなことはありません。1対1だと単語ではなく、複文で論理的にきちんと答えられる学生もたくさんいます。性格的に引っ込み思案、恥ずかしがりやなだけなのかもしれません。また、国での勉強の方法が、教師の話を聞くだけで、学生は一言も口を利かなくてもよかったという話も聞いたことがあります。

いずれにしても、語学の習得において、受身の姿勢というか、棚ぼたを待っているようでは、実践的な力はつかないでしょう。N1には受かってもさっぱり話せないというのは、こういう人たちです。進学したら、プレゼンが山ほどあるんですよ。入試はどうにかごまかしきって合格できたとしても、話せなかったら卒業できません。

大学・大学院は、日本語「で」勉強するところです。日本語「を」じっくり勉強できるのは、KCPにいるうちだけです。このチャンスを逃さず、実りある留学の基礎を築いてほしいです。

台風前夜の心理学

9月16日(土)

台風18号が西日本に接近中です。愛媛県の天気予報を見ると、明日は大荒れのようです。これが2週間前、夏休みの最終日だったら、松山から東京までの飛行機が飛ぶかどうかわからず、私はまんじりともせずにニュースや天気予報を凝視していたことでしょう。

2年前の夏休みは、台風が九州を直撃した日に博多にいて、動いている交通機関が地下鉄だけという経験をしました。博多駅前のホテルに泊まっていたので、地下街を通って博多駅付近のビルへは行けましたが、ビル内のお店はほとんどが臨時休業で、全く時間つぶしになりませんでした。動いていた地下鉄で福岡空港へ行くと、飛行機は欠航でしたが、空港ビルのお店は大半が開店していて、思わずマッサージ屋さんに入って、半日マッサージで過ごしました。

今回の台風で東京はそんなことにはならないでしょうが、連休中に台風が通過することになりますから、外回りを点検しました。校庭に置いてあるベンチはかなり重いので飛ばされることはないでしょうが、テーブルといすは1人で楽々持ててしまいますから、強風にあおられるとどうなるかわかりません。ですから、屋内にしまうことにしました。

教師数名がよろよろしながら校庭の片づけをしていると、2年前の卒業生のAさんが自転車で学校の前を通りがかりました。Aさんはわざわざ自転車を降りて、テーブルを運ぶのを手伝ってくれました。八王子の大学に進学したのですが、週末のアルバイトはKCP時代から変えていないそうで、ちょうど移動しているところだったそうです。

運び終わってから大学生活を聞くと、毎週1万字ぐらいのレポートを書いているとか。文献も大量に読み込まなければならず、日々日本語が鍛えられているようでした。心理学は大学に入ってからが大変だとよく聞きますが、でも、そのおかげで日本語が見違えるように上手になっていました。思わぬ余禄に与れました。

明日は約束があって出かけますので、台風さん、お手柔らかにお願いします。

禁断症状

7月27日(木)

上級クラスのTさんは、例文を作らせれば気の利いたものを書くし、文法や漢字のテストでも平均点以上の成績を挙げる力があります。ところが、ディクテーションのテストとなると、合格点がやっとという体たらくです。私にはその原因が見えています。

Tさんは授業中本当によくスマホを見ているのです。本人は教師に気づかれていないつもりなのでしょうが、教壇から見ると、不自然に机の中に隠された右手といい、その右手に重なる視線といい、いじっていることが丸見えです。なまじ頭がいいゆえに、授業はちょっと聞けばわかってしまい、そうすると暇つぶしといわんばかりにスマホいじりに精を出すのです。

おそらく、これは今学期に限ったことではないと思います。読んだり書いたりする力はついきいたにしても、生の日本語の最大供給源である教師の日本語を聞こうとしないのですから、聞く力が伸びるわけがありません。先学期までの教師たちも注意はしてきたでしょうが、Tさんはテストでいい点を取りさえすれば進級も進学もどうにでもあると思っていますから、馬耳東風状態です。それゆえ、聴解力は上級とは思えません。だって、授業中の私の指示にぽかんとしていることさえあったんですよ。

話すほうも、たどたどしさが残っています。進学希望ですが、入試の面接はどうするつもりなのでしょうか。そういうことも、頭のいいTさんならわかっているのかもしれません。でも、右手がいうことを聞かないのでしょう。まさに中毒です。Tさん自身は、スマホを握ると心の落ち着きが得られるのかなあ…。

でも、これじゃあ社会に出られませんよ。KCPにいるうちにたたきなおしてやらねばなりません。

聞く耳持たず

7月15日(土)

WさんがS先生に叱られています。「あなたは私の話を聞いていませんね。私が話しているとき、自分が話したいことをずっと考えています。そして、私の話が終わると自分が言いたいことを言います。私の質問には答えてくれません。あなたは日本語を話していますが、会話はしていません」

S先生の言い方はかなりきついですが、こういう学生がいつの学期も必ずいることは事実です。ちょうど去年のこの学期に上級クラスで受け持ったYさんもそんな学生でした。Yさんが進学相談に来た時、私はYさんの話を一言も聞き漏らすまいと集中して耳を傾け、Yさんの疑問点や悩みが少しでも解決するようにと情報を伝えたりアドバイスしたりしました。しかし、Yさんの反応は私の話を受けてはね返ってくるものではなく、あさっての方から新たな球が飛び込んでくるようなものでした。ですから、議論がさっぱり深まらず、私の回答がYさんのためになったのかどうかさっぱりつかめず、それこそのれんに腕押しのような無力感脱力感徒労感に襲われました。

学生たちは会話が上手になりたいと言います。だから話す練習をしたいと言います。しかし、会話の50%は相手の話に耳を傾ける役です。聞き役を務められない人は会話をする資格がないと言えましょう。ですから、S先生のお怒りはごもっともなことであり、Wさんには大いに反省してもらいたいところです。

会話が成り立たない人って、性格なのかなと思うこともあります。上級のYさんだってそうなのですから、単に日本語力の問題ではなさそうです。KCPでは一番下のレベルから「話を聞く」教育をしてきています。それでもWさんやYさんのような学生が出てきてしまいます。S先生のように、粘り強く叱り続けるのが一番なのでしょう。

早朝のお客さん

7月11日(火)

朝7時前、何気なく玄関の外に目をやると、学生と思しき見慣れぬ男の人が立っていました。玄関を開けると、何も言わずにぬっと校舎の中に入ってきました。新入生だろうと思い、2階のラウンジへ連れて行き、ドアの鍵を開けて「ここでしばらく待っていてください」と招じ入れると、これまた無言でラウンジに入っていきました。

在校生なら、玄関を開けるか開けないかのうちに「先生、おはようございます」か「どうもありがとうございます」でしょう。来日間もない新入生は、頭ではそういう日本語を知っていたとしても、それが適切な場面ですぐに口から出てこないものです。午前クラスだということは、全然日本語が話せないレベルではないはずですが、彼は国で話す訓練をほとんどしてこなかったのでしょう。

9時になって、今学期初めての授業の教室に入りました。「おはようございます」とクラス全体に声をかけると、少し恥ずかしそうな小声の「おはようございます」がたくさん返ってきました。これもまた、いつもの始業日の風景。そして、よく見ると、教卓のまん前に今朝の彼が座っているではありませんか。

教師の板書は几帳面に書き写しているようだし、提出してもらった書類の文字も丁寧で読みやすいものでした。日本語をきちんと勉強していることがうかがわれました。でも、話す力はどうなのだろうと、ちょっと怖い気もしましたが、何回か彼を指名して答えさせました。すると、まあまあきれいな発音をするではありませんか。

彼は潜在的には力を持っていることは確かなようです。しかし、しゃべらなかったらその力は認められることはありません。この彼の力をどうやって引き出し、進学につなげていけばいいでしょうか。早くも大きな宿題を抱えてしまいました。