Category Archives: 会話

声が若い

7月14日(土)

「はい…」「N先生のお宅でしょうか」「はい、いつもお世話になっております」「こちらこそお世話になっております。KCPの金原と申しますが、先生はご在宅でしょうか」「はい、少々お待ちくださいませ」…という電話のやり取りをした翌日、N先生から「家内が金原先生ってずいぶん声がお若いって言うんですよ」と言われました。自分では、最近声がかすれることもあり、年相応の声じゃないかと思っています。

N先生の奥様以外の方が聞いても声が若いとしたら、それは、ひとえに、毎日教室で発声特訓をしている(させられている?)からにほかなりません。20人を向こうに回して3時間クラスを仕切りまくるとなると、ただ単に大きな声を出せばいいというわけではありません。よく通る声、響く声を出さなければなりません。意識しなくてもそういう声が自然に湧いてくるくらいでなければ、日本語学校の教師は務まりませんね。

午前中、受験講座のEJU読解を担当しました。通常クラスよりも若干多めの学生を若干広めの教室に入れて、試験問題の解説をしました。その後、今年の大学入試の傾向などについて話しました。無意識のうちにいつもよりも声を張っていて、でもまだ出力に余裕がある自分に気が付き、だからやっぱり本当に声が若いのかなあなんて、うなずいている学生を見渡しながら、そんなことを考えていました。

私は普段はそもそもあまりしゃべらないし、しゃべっても大きな声は出しません。携帯電話の声も必要最小限です。だから、もし、この仕事をしていなかったら、元気なくぼそぼそとしゃべるおじいさんだったかもしれません。

火曜日から受験講座の理科が始まり、のど全開の日々が続きます。明日とあさってはぼそぼそと省エネで過ごしましょう。

さすが大学院

6月20日(水)

期末テストを2日後に控え、中級クラスでは発表会がありました。4~5名のグループで調べたことを、パワーポイントも使って、クラスのみんなの前で発表するというタスクです。私のクラスは、調べ物や原稿書きなど準備はまじめにしていましたが、その成果を、聞き手の心を動かす形で発表できるかとなると、一抹の不安を抱かざるを得ませんでした。しかも、朝9時で4名欠席。グループ発表は、欠席者がいるとしらけるんですよね。

その後、電車の遅延などの理由で遅刻した学生も加わり、後半の授業開始時で欠席1名。最後の1名も、体調が思わしくなく、幾分青ざめた顔をしていましたが、自グループの発表前にどうにか来ました。

さて、本番。第一の感想は、スライドの作り方がよかったということです。学生が作るスライドは、とかく字が多くなりがちですが、今回は写真や絵など視覚に訴えるものが中心で、口頭発表の内容理解の助けになりました。次に、普段あまり口を開かない学生も大きな声を出していました。そして、発表者が一方的にしゃべるのではなく、聞いている学生に問いかけて、話し手と聞き手が一体になった発表が目立ちました。

原稿を見ながら発表している学生もいましたが、棒読みする学生はいませんでした。原稿が立派過ぎて、話し方が負けてしまっている学生はいませんでした。手を変え品を変え、授業中に口を開かせてきた成果がこういう形で現れてきて、採点しながら聞いていた私もうれしくなりました。

個々の学生を見ていくと、大学院志望の学生たちは場慣れしている感じがしました。やはり、国の大学で4年間訓練され、中には卒業研究の発表もしている学生もいるからでしょう。高校を卒業してすぐ入学した学生や大学を休学して来ている学生は、良くも悪くも朴訥とした感じがしました。こういったことからも、KCP卒業まで口頭発表のしかたを毎学期ビシバシ鍛えていく必要があると改めて感じました。

しばらくのお別れ

6月15日(金)

私が受け持っている初級クラスは、みんなの日本語20課の普通体での会話でした。まず、毎度おなじみですが、「うん」と「ううん」がうまく言えず、疑問文の尻上がりイントネーションが不自然極まりなく、お互いにずっこけ合って大混乱。しばらく練習して、ようやくイントネーションがまともになり、リズムが取れるようになってきました。積極的に口を開いていたIさんやLさんは自然な話し方になりましたが、口頭練習をごまかしていたSさんやZさんは、いかにもガイジンというたどたどしさのままでした。

文法の期末テストは筆答式ですから、「休みに国へ帰る?」「ううん、帰らない」などと書ければ点がもらえます。しかし、オーラルコミュニケーションをおろそかにしてはいけません。話せないことを放置しているということは、自分の周りに自ら垣根を築いているようなものです。それでいて日本人の友達がほしいなんて、虫が良すぎます。

こういう学生は上級にも山ほどいます。普通体の会話だけが身について、いくら注意してもフォーマルな話し方をしようとしない学生もいます。自分の頭の中の文法や語彙を組み合わせて、日本語教師ですらすぐには理解できない難解な日本語を駆使する学生も後を絶ちません。その難解な日本語を生産するように思考回路が固まってしまっていますから、初級の学生よりもたちが悪いです。しかも、上級の学生たちには、入試の面接が迫りつつあります。修正するにしても、時間との戦いになります。

来週の金曜日は期末テストですから、金曜日の初級クラスの授業は今週で最後です。次にこのクラスの学生たちに会うのは、中級か上級の教室ででしょう。そのときまでに、どんなふうに成長しているでしょうか。滑らかに久闊を叙することができるでしょうか。

殺人事件を語る

6月14日(木)

代講で上級のクラスに入りました。このクラスには、先学期までに教えた学生が何名かいるはずなのですが、朝、出席を取ったときには1名を除いていませんでした。2名が遅刻して入室しました。私の顔を見て驚いていましたから、「私が教えた学生ばかり遅刻しているということは、私の教え方が悪かったんですかねえ」と言ってやったら、恐縮していました。こういう皮肉が通じるのが、さすが上級です。でも、他はとうとう姿を現しませんでした。教えた学生が乱脈なことをしていると、気になるものです。

このクラスは、毎週、その週の気になるニュースについて語り合うことになっています。早速学生たちに聞いてみると、米朝会談という声が上がりました。今週はそうですよね。でも、それについてあれこれ語るというレベルには至りませんでした。それは、話す力が足りないというよりも、話題が話題だからめったなことを話せないと自己規制した面も感じました。また、明らかに興味がないという顔つきの学生もいました。

その証拠に、別の学生が新幹線殺人事件について語り始めると、あちこちから意見や感想が出てきました。この手の話題なら身近に感じられ、また、政治がらみじゃありませんから好き勝手なことが話せると思ったのでしょう。先週あたりは、紀州のドンファンの話でもしたのでしょうか。

文法もしました。出てくる質問が中級あたりとは違うと感じた反面、中級までに習ったはずの項目を忘れているとも思いました。同じことを繰り返し勉強していくうちにそれが定着するのですから、その辺は大目に見ましょう。上級に在籍しているということは、語学のセンスもあり、それなりに努力もしてきたからにほかなりません。卒業まで3学期ありますから、さらに自分を伸ばしていってもらいたいと思いました。

伸び盛り

5月17日(木)

朝、まだ先生方の姿も少ない職員室で仕事をしていると、Oさんが受付のカウンターから私に向かってお辞儀をしていました。呼んでいるのだろうと思って行ってみると、「すみません。2階のラウンジを開けてください」と言います。普通の学生ならそのまま鍵を持って2階へ行くところですが、頼んできたのがOさんですから、ちょっとばかり驚いてしまいました。そんな程度の日本語なら、初級の学生でも話せるとお思いになるかもしれませんが、何と言っても声の主はOさんなのです。

Oさんは4月の新入生で、レベルテストの結果、中級と判定されました。しかし、ペーパーテスト以外の日本語力はゼロに等しかったのです。こちらの話が聞き取れない、自分から話そうとしないなど、コミュニケーションが成り立ちませんでした。Oさんよりも下のレベルに判定された学生に通訳してもらっていたくらいですからね。話す力を付けるために初級クラスにしようかという意見すら出てきました。

そのOさんが、自ら口を開いて自分の意思を私に伝えてきたのです。これが驚かずにいられましょうか。しかも、「毎日、朝早くから学校へ来ているんですか」と話しかけると、「明日、中間テストですから」ときちんと応答してくるではありませんか。1か月ちょっとの間に、長足の進歩と言っていいでしょう。

毎日のように顔を合わせている先生はなかなか気づかないものですが、きちんと努力している学生は確実に力を伸ばしているのです。その積み重ねが1か月とかという単位になると、はっとさせられるほどの高みに上っているのです。

そういう意味で、来週は1つ楽しみがあります。週1回、金曜日だけに担当しているレベル1のクラスに、4週間ぶりに入るのです。金曜日の授業は、みどりの日、運動会、中間テストと3週連続でつぶれています。伸びが一番大きいレベル1ですから、どこまで話せるようになっているか、今からワクワクしています。でも、不安もあります。顔と名前が全く一致しないんじゃないでしょうか。そもそも、学生たちは私を覚えているでしょうか…。

雪に思う

3月22日(木)

それにしても、昨日は寒かったですね。雪もちらつくほどでしたから。でも、夕方の予報では「明日は19度」とか言っていましたから、コートはうるさくなるだろうと思い、今朝、スーツ姿でマンションの外へ。思わずブルッと震えてしまいました。その後も天気の回復が遅れ、結局、最高気温は14.5℃。平年並みでした。

そんな気温でも、アラスカ出身のBさんには暖かく感じるらしく、半袖のTシャツでした。1月の雪の日も、薄手のジャケットを羽織るだけで済ませたとか。国の家のそばにはクマが出現するらしく、クマの写真をたくさん撮ったとも言っていました。そのBさん、日本で一番驚いたのが朝のラッシュだそうです。2m近い身長のBさんにとっては、つり革をぶら下げるバーが邪魔くさく、天井が頭上すぐそばまで迫って気になるとか。

テキサス出身のAさんは、東京で生まれて初めての雪体験。ホームステイの家が駅から20分ぐらい歩くので、あの雪の日はかなり難渋しましたが、それもまた楽しい思い出になったようです。寒いのは大嫌いだけど雪は大好きという、わがまま極まりない好みを述べていました。日本留学で、思いも寄らぬ得がたい経験をしたようです。こちらは、Bさんとは違って、厚手のコートを着込んで厳重装備でした。

期末テストが近いこの時期、初級の学生の会話テストを担当することがあります。世間話をしながら会話力を見るのですが、その過程でこんなおもしろい話が聞けます。それが楽しみで、テストを引き受けている面もあるんですがね。

センサー

2月22日(木)

卒業認定試験が来週の月曜日にありますから、超級クラスでそれに向けた練習問題をしました。今学期勉強した文法項目に関する問題ですが、出来はあまりよくありませんでした。学生たちに実力がないからではなく、問題が難しかったからです。

どうすれば問題を難しくできるかというと、動詞の形を変える問題にすればいいのです。超級ですからて形とかた形とかは、さすがにめったに間違えません。弱点は受身、使役、使役受身です。さらに、「~て/おく/しまう/みる/もらう/くれる」などの補助動詞を使うパターンも、思ったとおりに引っかかってくれます。そんな文法は初級で勉強するじゃないかと思うかもしれませんが、

隣にビルを「建てて」からというもの、日が全く当たらなくなった。

なんていう答えになってしまうんですねえ。

初級文法が臨機応変に使えるようになるには、長い時間がかかります。卒業間近になっても、上述の文法を理想的に使ってくれる学生などめったにいません。特に、“暗記の日本語”に頼っている学生は、「読んでわかる」止まりで、話すときは“ガイジンの日本語”を使い続けることでしょう。

この壁を突破するには、日本人の日本語から栄養を摂取することが必要です。“なるほど、「~てしまう」ってこういうときに使うんだ”“ここで使役が出てくるなんてシブイなあ”とかって感じ取れるだけの触覚がどうしてもほしいところです。それには、まず手始めに、教師の日本語に耳を傾けることです。

今週末が国公立大学入試の最後の山場です。それが過ぎたら心にゆとりもできるでしょうから、こんなことにも是非挑戦してもらいたいです。

自信を持つ

2月20日(火)

今週末に受験を控えるGさんが初めての面接練習に臨みました。「どうして本学で勉強しようと思ったのですか」「日本へ来た前、先輩に薦められました。生物工学科は日本初に設立しましたから、有名です」「はあ、そうですか。では、本学で何を勉強しようと思っていますか」「生物の基礎の勉強をして、大学院で分子生物学を勉強をして、将来は研究員になりたいです」「どうして分子生物学を勉強しようと思ったのですか」「ノーベル賞をもらったトウヨウヨウさんは植物からある物質を分離して薬にしました。それはすばらしいです」「そういう勉強なら薬学部のほうがいいんじゃないですか」「薬学部は薬を作りますが、私は物理を分子生物学に応用します」…

なんとなく話がかみ合わないまま、話が終わってしまいました。予想外の質問に出くわすと白目をむいてしまうので、心の動きが手に取るようにわかりました。最大級のダメ出しをして、受験日直前に再度練習することにしました。

Gさん自身も答えの内容には自信が持てなかったようでした。どんな考え方で答えをまとめたらいいか、どういう話の進め方をすればいいカなど、自分の答えを改善していこうと言う姿勢が見られました。一方、発音や話し方は完璧のつもりだったようです。しかし、どうひいき目に見ても、日本語教師ならわかるけれども、大学の先生はついていけないだろうなという話しっぷりでした。どうしてここまで自信が持てるのか、不思議でした。

はっきりいって、Gさんの答えや話し方には、半年前にはクリアしていなければならない課題が手付かずで残っていました。今まで何をしていたのかと説教したくなりました。あと数日で半年分の遅れを取り戻すのは絶望的ですが、これだけは押さえてほしいというポイントを伝えて、次回までの宿題としました。

要するに、自分の頭の中でシミュレーションすると面接がうまく進むのですが、生身の人間を相手に練習すると思ったとおりに答えられないのです。本番5日前でそれに気づいたGさんは、どのように軌道修正するのでしょう。

狭いなあ

2月10日(土)

昨日からオリンピックなので、クラスの学生たちにオリンピックについて自由に語ってもらおうと思いました。3人1組で話を始めてもらったのですが、あるグループは30秒もたたないうちに静かになってしまいました。「どうしたの?」「私たち、だれもオリンピックに興味がないんです」「冬のオリンピックじゃなくてもいいんだよ」「夏も冬も全然知らないんです」…ということで、そのグループは盛り上がることなく制限時間になってしまいました。

私もオリンピックに特別強い興味を持っているわけではありません。それでも笠谷幸生から浅田真央まで、それなりに語れますし、よほどオタクっぽいトリビアでない限り相手の話題にもついていけます。マイナーなスポーツならいざしらず、オリンピックですよ。全く語れないというのは、常識に欠けているとされても文句は言えないでしょう。

最近、こういう、興味の範囲の狭い学生が増えているような気がします。読解にしても、読解力以前の、興味関心のレベルが低すぎてテキストの読み込みができない学生がいます。昨日の3人にしても、勉強ができないわけではありませんが、このまんまだと面接試験に耐えられるかどうかわかりません。進学できたとしても、学問を進めるなら今のうちから視野を広げておく必要があります。

Cさん、Hさん、Tさん、Sさん、Lさん、Dさん、みんな4月から進学ですが、私の目には危なく映ります。手を拱いていたわけではありませんが、この学生たちの目を外に向けるには、私は力不足だったようです。卒業式までちょうどあと1か月ですが、どうにかできないものかと思っています。

独自路線

2月9日(金)

来週G大学を受験するFさんが、受験準備ということで欠席しました。Fさんは、この1年、G大学を目指して努力を重ねてきましたから、最後の仕上げにもう一頑張りという気持ちはわからないでもありません。でも、この期に及んで学校を休んだところで、どんな準備ができるでしょう。この期に及んでも準備が足りないと思っているようでは、見込みが薄いと思います。何より、Fさんの最大の弱点は話すことです。面接試験できちんと受け答えできるかどうか、私は心配でなりません。これは、学校を休んでも改善されることはなく、学校で何回も練習して初めてどうにかなるものです。

その点、同じく受験を間近に控えたWさんは、毎日職員室で先生方に痛めつけられています。でも、そのおかげで、最近目に見えて受け答えが安定してきて、落ち着きすら感じられるようになりました。ただし、立ち居振る舞いは日本人の基準に照らすと美しくなく、つい先ほどまで厳しく指導されていました。

Fさんも、Wさんのように毎日しごかれるべきでした。でも、練習せずに本番を迎えることになりそうです。日本語教師の自動翻訳機能を駆使してようやくコミュニケーションが成り立つ低度ですから、それをお持ちでないG大学の先生方には話が通じないのではないかと危惧しています。

LさんもG大学に挑戦します。Fさん同様会話力に問題ありですが、こちらは想定問答を丸暗記しようという魂胆のようです。夕方、質問に対する答えを書いて、私のところへ持って来ました。文章を読めば、漢字を頼りにLさんの気持ちは理解できますが、それをそのまま話されたら、聞かされるほうは理解不能だろうなと思いました。朱を入れて返しましたが、これを丸暗記してG大学に受かったところで、入学後に地獄が待っているだろうと思いました。

Fさん、Wさん、Lさん、しばらくはオリンピックどころではありませんよね。