Category Archives: 会話

流れるように

12月4日(水)

Yさんは今週末が入試の初めての面接です。今まで何校か出願しましたが、どこも書類選考ではねられ、面接まで進めなかったのです。

だから授業後に面接練習となったわけですが、入試の面接については今まで耳学問しかしてこなかったので、部屋の入り方からしてめちゃくちゃでした。やはり、動作は聞くだけでは身に付かないのです。

どうにか着席までこぎつけたので、「Yさんですね。簡単に自己紹介してください」と最初の質問を発すると、いきなり「???」となってしまいました。私も黙っていると、「Yです。〇〇国の××から来ました」。これはちょっと簡単すぎますね。初級じゃないんだから、もう一言何かアピールしたほうがいいです。

「どうして本学を志望したのですか」と聞くと、ここからは立て板に水なんてもんじゃありませんでした。急に早口になり、一方的にまくしたてます。暗記してきたことがもろ見えです。後で聞いたら、志望理由書を丸暗記したとか。それじゃ意味がありません。だって、面接官は志望理由書を見ながら質問するんですから。

約15分将来の計画などを聞き、練習を終えました。感想を聞くと思ったより優しかったと言います。しかし、私に言わせると、Yさんの特徴が感じられる答えがほとんどありませんでした。基本的な質問に対する答えはそれなりに準備されていることはわかりました。でも、Yさんじゃなくても答えられる内容の答えばかり目立ち、私が面接官だったら×ですね。Yさんにフィードバックすると、驚きながらも納得してくれました。

面接は自分を面接官に売り込む場です。セールスポイントのないセールストークじゃ意味がありません。面接はうまくいったと言いながらも落ちてしまった学生は、きっとこれなんでしょう。学生たちに上滑りさせないように指導していかなければなりません。

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自分を見つめる

11月28日(木)

Jさんは、自分のアピールポイントがないと言います。また、短所ばかりで長所はないとも。受験講座の後に面接練習を始めようとしたら、いきなりそんな話になってしまいました。

確かに、大学入試の面接でそんなことを聞かれることもよくあります。これは、面接官の興味の対象というよりは、受験生が自己分析できているかどうか、受験生のコミュニケーション能力を試す質問と言ってもいいでしょう。ですから、どう答えてもいいのですが、「ありません」という答えだけはいただけません。自分のことがわかっていないとか、コミュニケーションを拒否しているとか受け取られてしまうかもしれません。

そんな話をすると、「じゃあ、うそを言ってもいいですか」と聞かれました。それは、自分と向き合おうとせずに一時逃れをするにすぎません。ちょっと突っ込んだ質問をされたら、簡単に見破られてしまいます。嘘を信じ込んで最後までつき通せば面接官をだますこともできるでしょうが、20歳になるかならないかのJさんに、そんな年寄りのよからぬ人生経験に基づいた悪知恵を授けるわけにはいきません。真正面から自分自身を見つめ直してもらうほかありません。

入試直前の面接練習で完膚なきまでにやっつけたSさんが、第一志望校に合格しました。本番の面接では、私の質問よりはるかに易しく友好的な質問だったそうで、Sさん自身も合格の手ごたえがあったようです。Jさんの試験日は2週間ほど先なので、これからビシバシ鍛えてSさんのレベルのまで引き上げなければなりません。次の約束は、来週の火曜日です。どこまでやってくるでしょうか。

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期待しています

11月26日(火)

XさんがE大学の指定校推薦に応募したいと相談してきました。今まで名だたる大学を受けては落ちを繰り返し、それらの大学に比べると偏差値的に一段落ちるE大学に目を付けたという次第です。

「もっと簡単に大学に入れると思っていました」と本人弁。実は去年もいろいろな大学を受験したのですが全てダメで、今年は捲土重来を期したものの、良い結果にはつながっていません。受験をなめていたと反省もしています。謙虚に自分自身を見つめ直し、E大学を選んだという面もあります。

Xさんの話をじっくり聞いてみると、やはり、甘い面が多々ありました。今までに口が酸っぱくなるほど、東京の大学は難化していると言い続けてきたのに、それへの対策は全く取られていませんでした。滑り止めという発想がなく、ネームバリュー的には1ランク下の大学の2期に出願するという、後手に回ってしまいました。1期なら本命校との難易度の差もありましたが、2期なら差がないと言ってもいいんじゃないかな。

それでも、どうにかE大学の推薦基準は満たしていますから、指定校推薦の申込用紙を出すように言いました。自分の言葉で書いた志望理由を読んでから判断します。

その後、Lさんの面接練習をしました。Lさんは、Xさんに比べると日本語が拙く、面接が入試の最難関と思われていました。ところが、面接の受け答えは面接官の心をつかむに十分なもので、声が小さい点をどうにかすれば合格してもおかしくない話っぷりでした。何より、大学で勉強することがLさんの本当に好きなこととぴったり合っていますから、何ら飾らずともLさんの学問に対する意欲と大学生活への期待が伝わってくるのです。

Lさんの受験校は、Xさんの志望校と比べたら全然有名じゃありません。でも、Lさんはそんなことは全く気に留めていません。好きな勉強ができる大学こそ、自分にとっての“いい大学”という発想です。今週末の試験に、大いに期待が持てそうです。

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成果

11月22日(金)

授業後、Yさんの面接練習をしました。明日、第一志望校のJ大学の面接試験があります。面接前日だというのに、面接室の入り方からやってくれと言います。Yさんにはそういう野生児っぽいところがあります。これを上手にアピールすると、J大学はそういう学生が好きですから、うれしい結果につながる芽も見えてきそうです。

Yさんは、授業でもかなりしっかりした話し方をしていますから、語る内容さえあれば、話すことそのものは心配していませんでした。予想通り、考えがきちんと伝わる受け答えをしてくれました。もちろん、文法や語彙のミスが皆無とまでは言えません。でも、面接官に誤解を与えたり、日本語が下手に聞こえたりするような間違え方ではありませんから、直しませんでした。角を矯めて牛を殺したのでは、意味がありませんからね。

どうやら余裕がありそうなので、ちょっぴり高等戦術を教えました。これをうまく使ってくれると、面接官の気持ちを引き付けられるのですが、果たしてどうでしょう。Yさんが出願した学科は、J大学の中でも競争率の激しいところのようですから、普通に答えていては面接官にアピールできないかもしれません。

1時間ほどで面接練習を終えましたが、一番気になったのは、Yさんの姿勢です。やや前かがみで、一見すると自信なさそうな印象です。しかも足をしょっちゅう組み替えますから、落ち着きのないこと甚だしいです。言っていることは威勢がいいので、面接官はそのギャップに違和感を抱くんじゃないかな。

面接練習終了後、受験講座をして教室の後片付けをしていると、Tさんが教室に顔を出し、N大学に受かったと報告してくれました。今学期が始まったばかりのころ、面接練習を繰り返した甲斐がありました。

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不明確な日本語

11月13日(水)

10日にEJUが終わり、今週から受験講座の授業時間数が少し減ったかと思ったら、面接練習がバンバン入ってきました。午前の授業が終わり、お昼を食べる間もあらばこそ、Sさんの面接練習でした。

Sさんは、進学後に勉強しようと思っていることも将来就きたい仕事も明確なのですが、日本語が不明確です。単語レベルで日本語を重ねていくので、助詞や、動詞・形容詞の活用がいい加減です。普通、パンフレットやネットに書いてあることを丸暗記したら、そこの部分だけは間違えないものなのですが、Sさんの場合、誤用の海の中に立派な単語が浮かんでいるような状態です。

「あなたが言いたいことはこのように言います」と、模範解答を口移しで教えても、「じゃあ、もう1回」とやり直すと、数分も経っていないのに、さっきよりちょっとましかなというレベルに落ちてしまいます。ここまで単語以外の部分に無頓着でいられるのも珍しいです。

でも、上級クラスに在籍しているということは、中間テストや期末テストでは合格点を取っているということです。それはすなわち、読んだり書いたりする時には、完璧とはいえないまでも、正しい文法が意識できるのです。どうして話す時は文法が壊滅してしまうのでしょう。私にはわかりません。いや、話の内容の高さと、その話を聞いた時の下手さ加減がこれほど開いている学生は、前代未聞に近いんじゃないかな。

日本人の英会話って、ネイティブが聞いたらきっとSさんの日本語みたいなのでしょう。日本人の英語力は世界で53位、「低い」にランク付けされているそうです。だとしたら…。

 

 

 

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上級レベルの聞かせる発表

11月11日(月)

毎週月曜日に最上級レベルを一緒に担当しているY先生がお休みだったため、2クラス合同の授業をしました。普通の授業はやりにくいので、流行語大賞にノミネートされた言葉を1つ選んで、それを調べてみんなにわかるように発表してもらいました。1人1つだと時間の問題もありますから、2人で1つを調べ、2人で分担して発表するということにしました。

だから、スマホで調べてもいいのですが、サイトに載っている説明文をそのまま読み上げてはいけません。それを自分なりに理解して、かみ砕いて、聞き手である他の学生たちに伝えるのです。教室の都合でパワーポイントが使えないという制約も加わりました。作業が始まると、2人組ですから、黙々とというよりはお互い意見を出し合って内容をまとめているようでした。

制限時間が来て、発表です。いつもより広い教室でしたが、どの学生も、教室の一番後ろに構えた私まで声が届きました。私が知らなかったノミネート語を取り上げたグループもありましたが、発表を聞いたら言葉の意味も背景もよくわかりました。何より、棒読み禁止というルールをきちんと守り、調べた内容を再構成して発表してくれたことに感心しました。さすが最上級レベルの面々ですね。

私は、今学期、この1つ下のレベルも、もう1つ下のレベルも教えていますが、そのクラスの学生たちは、これだけの発表は無理でしょうね。うちで調べた内容をまとめる時間が必要です。その時間を与えても、難解な言葉をそのまま口走っちゃう学生が続出するような気がします。

最上級レベルともなれば、毎日文法だ読解だという授業じゃもちません。こういうちょっとひねったことをする日も、たまには設けるべきですね。

 

 

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腕利きの日本語教師

10月29日(火)

読む、書く、聞く、話すは、語学の四技能と言われます。この四技能をバランスよく伸ばすのが、学習者にとっても教師にとっても理想の姿です。しかし、実際には四技能がバランスよく伸びて上級の力を持っている学生は少ないです。口は達者なのに文法の例文を読むのにすら苦労している学生がいる一方で、黙々と勉強してテストではすばらしい成績を挙げるのに話は意味不明という学生もいます。

Gさんは後者の典型で、大学で専門に勉強しようと考えている生物や化学の知識は、学校の中でも一二を争うと思います。でも、その知識を表現することができません。EJUでは好成績が取れるでしょうが、大学入試につきものの面接・口頭試問となったら、Gさんの日本語は面接官には通じないでしょうね。

それではあまりにももったいないですから、話す特訓をしています。Gさんの受験は来年ですから、今から訓練を始めれば、十分間に合います。とはいえ、話す力がなさすぎます。ご両親のお仕事を聞き出すだけでも、並大抵の苦労ではありませんでした。ご両親の働く後姿を見て同じ仕事をしようと思ったということですから(これも理解するまで二苦労ぐらいでした)、面接のときに語らなければならないかもしれません。

鍛えがいがあると言えば実にその通りですが、どんなメニューで力を引き出せばいいか悩ましいこともまた事実です。Gさんは決して怠けものではありません。入学以来今まで、それなり以上に努力してきているに違いありません。そういう学生ならKCPの初級の先生方は献身的に指導しているはずです。それでもまだまだなのですから、この先も険しい道が続くことは疑いありません。

Gさんのような学生を志望校に入れてこそ、力のある教師だと思います。さて、私はどうでしょう。

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新幹線がどうしたの?

10月18日(金)

今学期は、金曜日にその週のニュースをネタに授業を組み立てる上級のレベルが多いです。私のレベルでは、東京オリンピックのマラソンが札幌で行われそうなこと、台風で堤防が決壊して新幹線車両が水浸しになったこと、娘を虐待死させた父親に懲役13年の判決が下されたことの3つを取り上げました。

最近のなじみのあるニュースから選んだので、ディクテーションができるだろうと思いました。しかし、やってみると、学生たちが水没してしまいました。IOCに無理やり漢字を当てはめようとしたり、「冷房の結果」なんて書いたり、「落第死させ」ちゃったりと、悲惨を極めました。答え合わせの後で話を聞いてみると、3つのニュースすべて知らないという学生が大半でした。初めてだったら、「堤防決壊」も「冷房の結果」と聞こえてしまうかもしれません。

それにしても、学生たちがここまでニュースに疎いとは思いませんでした。北陸新幹線の車両が泳いでいるみたいな写真は、テレビも新聞も取り上げていたんですがねえ。時事問題は、入試の面接の材料でもあります。ニュースを知らない代わりに、予習復習試験勉強に打ち込んでくれるのなら、しかたがないなあと思ってもあげられます。でも、朝一番でやった漢字テストに苦しみまくっていた学生もいたし、これに引き続いて行った読解でも、きれいな教科書の学生が多かったですね。なんだか不安になってきました。

学生の興味の範囲が狭いことは今に始まったことではありません。スマホを使って世界を広げるのではなく、より一層狭く縮こまったような気がしてなりません。上級なら、ニュースを、100%とは言わないまでも、概要をつかむぐらいまでなら、十分できるはずです。国のメディア経由で日本を知るようでは、留学の意義がないじゃありませんか。

10時半、ニュースを発展させて会話をしようと思っていた授業が思い切り滑って週末の疲れが倍加したところで、チャイムが鳴りました。

「話せる」とは

10月17日(木)

受験講座終了後、TさんとLさんの面接練習をしました。2人とも、先週も面接練習をしましたが、台風の影響で試験が延期になり、今週末に面接試験を控えています。ですから、実質的にこれが最後の練習です。

TさんもLさんも、しゃべりすぎです。面接官からの質問にあれもこれも何でも話そうとして、自分でも言わんとするところがわからなくなり、自滅していました。「どうして〇〇学部で勉強したいんですか」という質問に、放っておくと3分も演説しちゃうんです。Tさんなんか生い立ちから話が始まり、志望理由にたどり着くころには、こちらはメモを取る気もなくしていました。これでは、肝心のことが面接官に伝わりません。Lさんも例として挙げた事柄を事細かに説明し始め、そちらに熱中してしまい、「あなたがやりたいことは人まねですか」となってしまいました。

日本人だって、原稿なしで3分間理路整然と話すことは難しいです。ましてや、日本語が外国語の留学生たちが3分間も話し続けたら、本筋が見えなくなることぐらい、想像に難くありません。教師が書いた原稿を丸暗記すれば、“3分間理路整然”も可能かもしれません。でも、入試の面接でそれをやったら、一発アウトでしょう。

また、3分もしゃべっていれば、ねじれ文が続出し、文法や語彙の間違いも増え、日本語力もかえって低く評価されてしまうかもしれません。。コミュニケーションは双方向的なものなのに、一方的に話し続けれたらコミュニケーション能力や協調性も怪しまれかねません。

ですから、2人には、「最長30秒」と指示しました。そうなると、生い立ちも例もばっさりカットです。2人とも不満そうでしたが、30秒の答えは結論が明確になり、論旨が伝わってきました。この勢いで、合格をつかみ取ってもらいたいです。

初練習

10月2日(水)

午後から、来週末K大学を受けるEさんの面接練習をしました。理科系の学生で、ずっと受験講座を受けてきましたから、担任でも何でもありませんが、私が見ることにしました。

まず、姿勢が悪いです。膝から下を、ブランコをこぐときのように椅子の奥に引いてしまい、しかも背中を丸め、目は正面の私ではなく左前方の窓の方を向いてしまっていました。手が落ち着きなく動き、緊張していることがありありとうかがえました。この1年間しょっちゅう顔を合わせてきた私に対してこんなに緊張していたら、本番は絶望的です。

答えの中身もパッとしません。的外れなことを話しているわけではありませんが、メモを取っても何のことだかわからなくなるほど印象が薄いのです。受験講座の際にも“自分のウリな何か”とさんざん問いかけてきたのですが、その効果が全くありませんでした。

EさんはK大学のオープンキャンパスに行っているのですが、その話に全然触れませんでした。大きなアドバンテージがあるのに全く活用しようとしないのです。K大学は東京ではなく京都の大学ですから、そのオープンキャンパスに足を運んだとなれば、面接官の心証はぐっと良くなるはずなのです。どうしてこんなに自分を売り込むのが下手なのでしょう。

このままにしておくわけにはいきませんから、一通りの練習が終わってから、私なりの模範解答を示しました。このぐらいの作戦は自分で立てられなきゃダメじゃないかと心の中で毒づきながら、Eさんの感心したような顔を見ていました。初めての面接練習ですから、緊張するのも答え方のポイントがつかめないのも、しかたがないのでしょうか。

次の練習は、来週の火曜日です。仕上げて来てもらいたいです。