Category Archives: 会話

通じない

8月20日(金)

今週面接をした指定校推薦入試の推薦者を発表しました。順当に上級の学生が選ばれました。受け答えもしっかりしていたし、自分を語るだけの日本語力も備わっていました。選ばれなかった学生は、コミュニケーションが成り立っていないという感じが強かったです。

推薦することにした学生たちに出願手続きや入試の内容とそのための準備に関する話をしていると、推薦されなかったJさんが、その結果に不満を持っているという話が聞こえてきました。Jさんは、面接開始1分後に×を付けた学生です。まず、Jさんの日本語がよくわかりませんでした。それから、私の質問の意図がまるっきり伝わっていませんでした。コミュニケーションが成り立たない典型例です。

また、先生方の話を総合すると、指定校推薦の制度そのものを誤解しているようです。推薦に値する学生がいたら推薦するということを、各クラスで学生にわかるように説明してもらったのですが、Jさんは募集人員は必ず満たすと受け取っていたようです。また、KCPでの面接に通れば自動的に入学が決まるとも思っていた節があります。致命的なのは、自分の日本語が通じていると信じ込んでいるところです。

しかたがないので、Jさんが受けている受験講座の後で職員室に寄ってもらい、選ばれなかった理由をきちんと説明することにしました。ところが、受験講座を終えたJさん、職員室の前を通り過ぎて帰宅するではありませんか。私も、その後受験講座が控えていましたから、呼び戻すまではしませんでした。

こんなにまで日本語が通じないのなら、どう考えて指定校推薦は無理です。それどころか、面接のある大学はほぼ合格不可能でしょう。Jさんはペーパーテストの成績鵜は優秀ですが、このままではその優秀さが生かせないでしょう。

明日、説明を試みますが、果たして納得させられるでしょうか。

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新しい課題

7月20日(月)

校内進学フェアが開催されました。去年までとは違って、今年はオンライン参加の大学が大半となりました。ですから、準備も去年までとは勝手が違い、何かと戸惑うことが多かったです。オンライン参加の大学の会場に充てた教室のパソコンでZoomを立ち上げ、先方が開催したミーティングに入るのですが、いつもこちらがミーティングの主催者となっている身には、なんだか不安な感覚でした。

さて、午前の授業が終わって各会場に学生が集まりだしました。大人気が、担当者がいらっしゃって対面で相談を受けてくださった大学でした。これを見る限り、学生って案外アナログ人間です。生まれて時からデジタル環境にあるはずなのに、オンラインを避けている感じすらしました。

オンラインの方が緊張するんでしょうかね。対面式の方が、顔色をはじめ何から何まで見透かされてしまって、学生には不利になりそうな気がするのですが、そうは感じないのでしょうか。日本人の大学生も、オンラインの就職面接というと通常の面接とは違うテクニックが必要なようで、また、異質な精神的緊張にも見舞われるということです。学生たちはそういうのを敬遠しているのでしょうか。

そんなわけで、フェアの最中の主たる仕事は、学生の尻をたたいたり背中を押したりして、オンライン相談をしているパソコンの前に座らせることでした。パソコンの前に学生があふれて交通整理をしなければならないかと思っていましたが、教室にいる学生3人ぐらいが、お互いに譲り合って、誰もパソコンの前に進もうとしないなどという場面がちょくちょく見られました。

私もオンラインというと腰が引けてしまう面がありますが、若い学生たちがそれでは困ります。これからの学生指導の課題が見つかった進学フェアでもありました。

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話す力

7月17日(金)

A先生の代講で上級クラスに入りました。このクラスは大学受験の学生を集めたクラスですから、EJUを意識した授業内容になっています。読解や、その基礎となる語彙の勉強をしました。でも、私は可能な限り学生の話をさせようとしてみました。感染防止の観点から、ディスカッションの形はとれません。「どうしてその答えを選んだんですか」というように、単語ではなく文で答える質問を次々としていきました。

このクラスに限らず、オンライン授業の影響で、学生は口が重くなりがちです。必要最小限の単語で済まそうとする傾向が見られます。しかし、そういう答え方では入試の面接は突破できません。他の学生に差をつけるには、文で答えられるようになっていなければなりません。面接官に、この受験生とはコミュニケーションが取れたと思ってもらうには、こういうやり取りを重ねていくことが必要です。

学生たちは、ビビりながらもどうにかこうにか自分の考えを発表していました。日本語の間違いがないわけではありませんでしたが、日本語教師が相手でなくても誤解が生じるような間違い方ではありませんでした。まあ、大した長さの発話ではありませんから、いやしくも上級の学生なら当然と言えば当然です。

いつもの年ならこれから面接の受け答えを練習していくところですが、今年はちょっとやりにくいです。いや、そもそも、入試がきちんと行われるのでしょうか。前期のみならず、後期も全面的にオンライン授業をすることにした大学も出てきています。そういう大学も、入試だけは予定通り実施するのでしょうか。

そろそろ留学生入試の足音が聞こえてくる時期になりました。でも、入試の要項が発表されていない大学が目立ちます。何となく不安を感じます。

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会話が弾む

6月19日(金)

午前の授業が終わった後、アメリカの大学のプログラムできている学生の面接テストをしました。月曜日に行われる文法や読解などのペーパーテストのほかに、このプログラムでは会話力も測定します。

私が担当した2名はどちらも上級の学生でした。マスク越しというハンデがあるにもかかわらず、発音が不明瞭になることもなく、あっという間に規定の時間が過ぎました。さすがに上級ですね。手加減せずに話しかけてもこちらの言っていることをきちんと理解し、適切な応答をしました。自分で会話を膨らませていくすべも身に付けていて、話がどんどん広がっていきました。

もちろん、ミスが皆無だったわけではありません。しかし、聞き手である私に誤解を与えるような間違え方ではなく、コミュニケーションを取る上では何の支障にもなりませんでした。陰険な日本語教師が相手だから重箱の隅をほじくり回して小骨の先っぽのような異物を摘出しますが、普通の日本人だったら気づかなかったかもしれません。私が今学期教えた中級の学生たちも、あと1学期か2学期のうちにこのくらいまで話せるようになってくれたらと思いました。でも、たぶん無理だろうなあ…。

Sさんは、納豆以外の和食はすべて食べられると豪語しました。自分以外はみんな日本人という会社への就職が決まっています。Sさんの会話力なら十分務まるでしょう。

Cさんは明治大正時代の日本史・日本文化、特に建築に興味があると言いました。具体的にどんな建築かと聞くと、きちんと答えが返ってきました。大学でその方面の勉強をするそうです。

しっかりした目標と興味を持っているからこそ、日本語の勉強にも身が入り、力がどんどん伸びたのでしょう。漢字の国ではないところから来て、初級で入学し、順調に進級してきているのです。立派なものです。

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5月23日(土)

文部科学省の学習奨励費受給者を決める面接をしました。来週早々に締切がありますから、オンラインで候補にあがった学生たちと話をしました。

いつもなら、実物の学生が目の前にいて、受け答えしている最中の様子をすべて観察できます。落ち着きがないとか、表情に余裕が感じられるとか、貧乏ゆすりが気になるとか、背筋がしゃんとしているとか、視覚情報もたっぷりいただきます。学生がこちらの質問に答えた内容も重要ですが、こういった非言語情報も最終決定の際の重要な要素になります。

オンラインでも顔は見えます。しかし、目を合わせることは難しいです。あっているような気もするけれども、学生側にこちらの支線が届いているか、手ごたえがありません。しかも、ネット環境が不安定になると、画面や音声が乱れたり途切れたりします。こんな状態で得た言葉以外の情報をもとに決定するのは公平さを欠く気がしました。

それでも、どうにか、受給者として推薦する学生を決定しました。ここ何年か、奨学生に選んだ学生が思ったように伸びない例がちょくちょくあります。だから、こういう不安な要素のない形で選考したかったのですが、学生を学校に呼ぶわけにもいかず、コンピューターの画面越しに面接せざるを得ませんでした。

大卒予定者の就職面談もオンラインだそうですが、人材確保は、企業にとっては命運がかかっています。担当者は私以上にもどかしさを感じているのではないかと推察しています。学生の側も自分の人生がかかっています。お互いにストレスと悔いを感じない出会いができる日が来るのは、もうすぐなのかな。

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光っていますか

1月28日(火)

今週末に面接試験を控えたSさんとTさんが面接練習に来ました。いや、面接練習というよりは面接相談でしたね。2人とも去年のうちに何校か受けていますから、面接試験の経験がないわけではありません。しかし、自己流で受けて痛い目に遭ったり言いたいことが言えずにもどかしい思いをしたりしてきました。

SさんもTさんも、セールスポイント、アピールポイントは持っています。しかし、それは私が根掘り葉掘り聞かないと姿を現しません。逆に言うと、面接官が志望動機や将来の計画など型通りに聞くだけだったら、何の変哲もない、特徴が見えない、だから面接官の記憶に残らない面接になってしまいます。そうなったら、疑いなく落ちるでしょう。

面接は、10分か15分の面接官とのやり取りの間に、いかに自分を売り込むか、面接官の心に訴えかけるかが勝負です。そういうことを繰り返し繰り返し言ってきたつもりですが、直前の面接練習でもそれができていないというのが実情です。私たちの方も、面接の受け答えのしかたを、学生の心に響くように伝えられなかったのです。

何年か前は、授業時間の中で、入試の模擬面接をし、印象に残る面接というのがいかに難しいか実体験させたものです。しかし、最近は、そういう形で血まみれになるのを嫌う学生が増え、SさんやTさんのように、この期に及んで迷える子羊状態の学生が増えました。

東京およびその近郊の大学の留学生入試が厳しさを増している中、合格を勝ち取るには要領のよさも必要です。純朴なだけでは自分の望む道には進めません。磨けば光る素材を拾い上げるゆとりが、大学側から失われつつあるような気がします。ですから、自分で磨くか先生に磨いてもらうかして、きらりと光る部分を面接官に見せつけなければなりません。SさんとTさんは、そこが足りないのです。

明日は、私は1日中忙しいので、明後日最終チェックをすることにしました。

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私は誰ですか

1月23日(木)

初級のクラスだと、学期が始まって1週間もすると、どの学生もクラスメートの名前を覚えるものです。自己紹介そのものが教材になっていて、何回もしているうちにお互いの顔と名前が頭に入ってしまうという面もあります。それ以外にも、発話練習でペアになった学生の名前を呼ぶ場面が多いので、いわば反復練習をしているようなものなのです。

しかし、中級、上級、超級と進むにつれて、そういう友達の名前を呼ぶチャンスが減ってきます。発話内容は抽象的かつ高度なものになりますが、それに反比例して、クラスメートの名前を意識することがなくなってきます。また、進路の方向が違う学生とはあまり話さなくなります。ことに最近の学生は第一の親友がスマホですから、なおのことその傾向が強いです。今学期木曜日に受け持っているクラスの学生たちにもこの傾きが多分に感じられ、ちょっとおせっかいを焼くことにしました。

まず、席が隣同士でない(≒友達付き合いをしていない)学生を強制的に2~3人組にし、お互いの顔と名前を覚えさせます。次にそのグループを2つずつまとめ、規模を倍にして同じことをさせます。2人組だったらたまたま旧知の仲という例もありますが、4人となると1人ぐらいは話したことのない学生が混じるものです。これを繰り返し、最後にクラス全員の顔と名前を一致させます。

Wさんはクラスの学生の名前を完璧に覚えました。しかし、Pさんは人の名前を覚えるのが苦手だと言い、半分あきらめ気味。自信ありげなCさんをテストしてみると、実はボロボロ。口数が少ないSさんが、意外によく知っていました。

卒業式まであっという間ですが、だからこそ、仲良く密度濃くやってもらいたいです。

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短く

1月16日(木)

授業後、もうすぐ入試のNさんが面接の受け方を聞きに来ました。“いまさら”なのですが、中級のNさんはもう1年KCPで勉強するつもりでいますから、今回は練習だと言います。まあ、それでもいいですが、受かると信じて受けなければ、本当に受かりませんよ。

それはともかく、練習というだけあって、Nさんの面接の受け答えは、とにかく要領が悪いです。一生懸命しゃべっているのですが、一生懸命すぎて話がやたらに長いのです。放っておくと、3分ぐらいだらだらと平気に話し続けます。中級ぐらいの実力でそんなに長い時間しゃべっていると、話の筋がどんどんずれていきます。そのため、いつの間にか質問の主旨が忘れ去られ、あさっての答えになってしまうものです。Nさんはその典型と言っていいでしょう。

こちらもまた面接初心者によくあるパターンですが、「雰囲気がいいですからこの大学にしました」的な、漠然とした抽象的な、私でも答えられちゃうような答えを連発していました。しかもしまりなく長々とですから、面接官は絶対に途中で答えを切るでしょうね。答えを切られたら、Nさんは焦ってしまい、さらにもっと答えが長くなり、負のスパイラルを描きながらドツボに陥っていくでしょう。

Nさんには、答えは30秒以内と厳命しました。本当は15秒と言いたいところですが、そんなことを言ったら、Nさんは気絶してしまうでしょう。それから、面接はコミュニケーションだとも言い聞かせました。論文発表会じゃありませんから、一方的に何分もしゃべり続けてはいけません。また、自己アピールの場でもありますから、寸鉄人を刺すような表現が理想です。

次に会う時、Nさんはどんな顔つきをしているでしょうか。

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自己紹介

1月9日(木)

「Tさんですね。では、まず、簡単で結構ですから、自己紹介をしてください」「あ、はい。Tと申します」「…」「…、あの、まだ何か言いますか。誕生日も言いますか」「面接は何のためにするんだと思いますか。面接で大切なことは何ですか」「自己アピールをします」「そうですね。名前や誕生日を言うことは自己アピールになりますか」「いいえ」「じゃあ、何を言えばいいと思いますか。よく考えてください」

毎度おなじみの面接練習の一場面です。突然自己紹介をしろと言われると、上級の学生でも困ってしまうことが多いです。Tさんだってしゃべれないわけではありません。EJUではまあまあ以上の成績を取っています。それでも冒頭のようになってしまうものなのです。

Tさんには自己アピールのネタがないどころか、野球チームのピッチャーとして海外遠征までしています。これを訴えれば、絶対面接官の記憶に残ります。KCPの学生は、どうしてこうも奥ゆかしいのでしょう。面接は自己アピールの場だと頭ではわかっていても、そういうふうに教えられていても、具体的に考えたことがないのだと思います。それじゃあ、コミュニケーション力重視の昨今の面接には勝ち残れません。

Tさんのように語る材料を持っている学生は、その材料をどうまとめ上げるか、進学先での勉強や将来設計とどうつなげるかを考えれば、面接官の心をつかむことができるでしょう。語る材料がない学生は、まず、自分自身を徹底的に振り返らなければなりません。棚卸と言いましょうか、自分を特徴づけるものは何か見つけ出す必要があります。でも、そうやって自分について深く知ることを通して、改めて大学で何を学ぶべきか見つめ直すことにつながると思います。

Tさんはあさってが本番です。ストーリーを組み立て直して面接を乗り切ってくれるものと信じています。

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タッシーとやっそく

12月9日(月)

月曜日の選択授業は大学入試の過去問です。今週は、難関とされているG大学、その中でも特に難しい文学部の問題を取り上げました。

その最後に、「自分は正しいと思っていた日本語が間違っていたことに気づいた経験」について述べる問題がありました。この問題には「正解」はありません。自分の日本語をどれだけ見つめているか、その見つめた結果を文章で表現するだけの力があるかを見ようとしているのでしょう。

Zさんは、“タクシー”“やくそく”は、“タッシー”“やっそく”だと思っていたそうです。これは、日本語の特徴の1つである母音の無声化にもかかわることで、非常に興味深い答えです。kやsやtの子音に挟まれた母音uやiは、非常に弱く発音されます。“タクシー”“やくそく”はまさにその例で、“taksii”“yaksoku”に近い発音となり、“タッシー”“やっそく”と聞こえても不思議はありません。

“三角形”“洗濯機”はを几帳面に“さんかくけい”“せんたくき”と発音する人は少ないのではないでしょうか。“さんかっけい”“せんたっき”と発音する人の方が多いと思います。少なくとも東京の人はそれに近い発音をしていると思います。

かつて、タモリが笑福亭鶴瓶をからかうとき、“タクシー”“ネクタイ”を、ことさら“ク”を強調していました。関西ことばを使う人たちは、そういう発音をすることが多いです。学生は文字に書かれた通りに発音しようとしますから、“タクシー”や“やくそく”だけ妙に関西ことばっぽく聞こえてしまいます。教師も、ディクテーションの時など、学生に“く”を確実に聞き取らせようと、東京人としては不自然なほど強く発音することが多いようです。

いずれにしても、“タッシー”と“タクシー”をきちんと聞き分けて、こういう場で述べるという点はZさんの日本語力の高さを示していると言ってもいいでしょう。

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