Category Archives: 会話

3か月ぶり

9月22日(水)

KCPではレベル3から受験講座が受講できます。先週から今週にかけて、主にレベル2の学生を対象に、進学コースの学生とそれ以外の学生に分けて説明会を開いています。いつもの学期は、レベル2というと知らない顔ばかりで、面白味も何もありません。しかし、今学期は、先学期レベル1のクラスを受け持ったおかげで、知っている顔が結構多いのです。ズーム越しとはいえ、久しぶりに目にする元気そうな顔に、懐かしさを覚えます。学生の方も、クラス授業の時のように盛んにうなずいたりにっこり笑ったりしてくれます。話の内容が内容ですから、みんなの日本語レベルでは追い付かないような難しい言葉遣いもしますが、それを理解しているような顔つきに、学生たちの成長を感じます。

初級を教える楽しみの1つがこれです。何か月か置いて会った時に、進歩とそれに伴う自信とが学生たちからほとばしり出てくるのを目の当たりにすることができるのです。それを全身で受け止められるのは、初級を教えた教師の特権です。その学生の初級時代を知らなかったら、学生が発するオーラにさえ気が付くことはありません。

そういう学生を中級で教えると、伸びがより一層実感できます。さらに上級でも教えると、よくぞここまで育ってくれたと涙したくなります。先学期教えた面々は順調に力を付けているようですから、レベル4あたりで相まみえたいものです。できることならば、国からオンラインでというのではなく、KCPの教室で、読解のテキストでもネタにして、議論してみたいですね。

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初対戦

9月17日(金)

画面には、いつになく緊張した表情のGさんが映っていました。10月早々に面接試験を控えているので、その面接練習をしました。Gさんはこれが初めての面接練習で、入試の面接とはどういうものかということも知りません。本番は対面ですが、手始めはオンラインで。

「簡単でけっこうですから、自己紹介をしてください」というと、名前と出身地だけという、本当に簡単極まる答えが返ってきました。自分を印象付ける言葉を、ほんの一言でいいですから、付け加えてほしいところです。

Gさんが予想していると思われる順番とは違う順番、違う言葉で質問すると、もうあたふたしてしまいます。その様子が、画面越しに手に取るようにわかりました。私のような根性にねじ曲がった面接官は、そういう受験生を見ると、ちょっといじめてやりたくなります。Gさんの答えの矛盾点を衝いて、窮地に追い込んでしまいました。

そういう影響があったせいでしょうか、Gさんは致命的なミスを犯してしまいました。大学でヒューマノイドロボットについて勉強したいというので、どんなヒューマノイドを作りたいか聞きました。すると、危険な場所で作業するヒューマノイドだと言います。さらに、なぜそういうヒューマノイドを作りたいのかと聞くと、「危険な場所で事故が起きて人間が死んだら、命は1つですから大変なことです。しかし、ロボットは事故で壊れても大丈夫です。代わりがいますから」。前半はともかく、後半は1発アウトでしょう。ロボとの使い捨て、ましてやヒューマノイドが壊れても“大丈夫”という発想は、大学の先生には受け入れがたいでしょう。

Gさんは本番までもう1回か2回面接練習をするチャンスがありますから、これから鍛えていこうと思います。暑い頃に出願した学生たちの勝負の時期が近づいてきました。

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なんとなく

9月1日(水)

授業後は、昨日に引き続き学生面接。Rさんは、中間テストの成績はまあまあ以上です。この調子で勉強を続けてくれれば、進級はできるでしょう。しかし、やはり、進路に問題があります。

国の大学で情報学を勉強してきたので、日本でも大学院で情報学を続けたいと言います。それはいいです。でも、情報学のどのような研究をしたいのか、どこの大学院に進学したいのかとなると、「わかりません」を連発します。2023年の進学を考えていると言いますが、たとえそれが認められたとしても、現時点で何も考えていないとなると、それだって危ういです。

今まで受け持った先生方の話によると、Rさんは機械工学、電子工学、心理学、宗教学など、勉強したいことがころころ変わってきました。その変遷の記録を見ると、勉強したいことがたくさんあるというよりは、何を勉強したいかわからない、本当に勉強したいことがわからない、日本へ来たまではいいけど将来展望が何もないというのが実情のようです。

そもそも、本当に大学院に進学したいかも怪しいものです。高卒の学部進学希望の学生より何も考えていないかもしれません。9月に入ってここまで白紙の大学院進学希望生も珍しいです。2023年進学だって、こんな調子ではうまくいくかどうかわかりません。

Rさんも、成績のわりにしゃべれません。昨日に引き続き、日本語教師の超能力を遺憾なく発揮してしまいました。一昔前までは日本にい続けたいから必死に会話の練習をするという学生もいました。しかし、今はスマホさえあれば日本語が話せなくても日本を楽しめちゃうみたいですね。

来週も、難問を抱えた学生の面接が待ち受けています。

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千仭の谷

7月29日(木)

午前の授業が終わると、Cさんが1階に下りてきました。昨日発表された6月のEJUの成績をもとに、どこに出願するかの相談です。

日本語は私の予想を上回る成績でした。でも、「いい大学」をねらうには物足りない数字です。理科はいい成績と言っていいでしょう。しかし、数学はどこかで失敗した形跡がある点数でした。全体として、ぜいたくを言わなければどこかのまあまあレベルの大学に入れそうな成績でした。

しかし、Cさんの最大の弱点は、話せないことです。本人は上手なつもりで話しているのですが、それがさっぱりわからないのです。授業で発言してくれるのはありがたいのですが、非常に聞き取りにくく、3回ぐらい聞き返さないと趣旨がつかめません。教師はそうやってCさんの言わんとするところを理解するために努力しますが、入試の面接官は違うでしょう。わからなかったらそれで終わりです。

Cさんの場合、マスク越しであることを差し引いても発音が悪いです。おそらく、口をあまり動かさずに話しているのでしょう。それに加えて、語彙や文法の間違いもあります。「リーミクをでます。いいですか」って、どういう意味だと思いますか。私が翻訳して差し上げましょう。「立命館大学に出願したいのですが、私の成績で合格できそうですか」。

これがわかってしまう自分が怖いですが、立命館大学の先生は絶対に理解してくださらないでしょうね。もうそろそろ、Cさんをボコボコにして鍛え直さなければなりません。それがCさんの未来を切り開く道なのですから。

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不自然

7月26日(月)

4連休直前に書かせた作文を読みました。今回のテーマが「日本へ来た理由」です。それぞれの学生が各自の思いを込めて書いてくれました。さすがに中級ともなれば、意味不明の理由を書き連ねる学生はいません。

しかし、「日本のアニメやゲームに趣味がすごくある」「自分の趣味あるいは大学の研究テーマを自由に考えられるので…」などという文が出てきました。このクラスは中国人が多く、中国語の「興味」には日本語の「興味」に当たる意味もあるので、こういう文を書いてしまうのです。そういう指摘はすでに受けてきているはずなんですがねえ。現に、「日本の文化に関して、興味を持っている」と正しく使っている中国の学生もいます。

「趣味」と「興味」は中国語では意味の重なる部分が大きいのでしょうが、日本語ではむしろ違いの方が際立ちます。そういう言語感覚をいかに身につけるかが、日本語らしい文章が書けるか、聞いていて違和感のない発話ができるかにつながっていきます。このクラスの学生たちは、この点がまだまだ甘いようです。

中国と日本は近いという文脈で、「中国から日本まで3時間だけかかる」という文も見られました。「しか~ない」は、既習の文法なのですが、なかなか使えるようになりません。上級超級の学生ですら、こう書いたり言ったりする例は枚挙にいとまがありません。これなんかも、日本語らしさという点からすると、頭を抱えてしまいます。

「日本へ来た理由」などというのは、入試の面接でもよく話題にされます。そこで変な日本語を使うと、やっぱり印象悪いですよね。

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香車

7月14日(水)

私が担当している中級クラスで、あるテーマについて3~4名のグループに分かれて話し合い、その結論を発表してもらうというタスクをしました。グループ活動をしている最中は各グループともお互いに自分の意見を主張し合い、議論が白熱しているようでした。

あまりの盛り上がりようを見て若干時間を延長しましたが、発表の時間が来ました。しかし、グループのうちのいくつかは、両論併記みたいな発表でした。意見の異なる2人が発表したグループすらありました。学生たちの発表は堂々としたもので、ほめてあげられます。しかし、意見を1つにまとめろという私の指示は、あまり守られませんでした。

このクラスの学生は、自分の意見を述べ立てることはできても、他人の意見を聞いたり、異なる意見の人を説得したり、お互いの意見を認め合ってグループとして1つの意見にまとめたりすることはできないようです。中級の入り口だと、こういうところまで求めるのは酷かもしれません。

自分の意見を引っ込めるとか譲るとか妥協するとかというのが苦手なのかなあ。そういうのは決して負けではないんですがね。意見の違いを乗り越えて1つの統一見解にまとめることこそ、コミュニケーションの神髄でもあります。そういうレベルに至るには、まだまだ長い道のりがあるようです。

中級会話の初回としては、心行くまで意見を主張できたことで良しとしなければならないかもしれません。今回できなかったことは、これから9月までの間に少しずつ伸ばしていくことにしましょう。

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拍手はするけど

7月12日(月)

新学期2日目ですが、自己紹介をしました。学生たちは金曜日に自己紹介の要領を教わっており、土日でしっかり考えて、週明けに発表してもらったわけです。

1人1分ぐらいということになっていましたが、平均すると1分半ぐらいだったでしょうか。でも、だらだらとした30秒オーバーではなく、聞く価値のある話が続きました。しかし、「〇〇さんに質問、ありますか」と聞いても、ほとんど反応がなかった点が気になりました。マスクをしているので声がこもり、窓とドアを開けていたので教室外の音が容赦なく入ってきて、聞き取りにくかった点は否めませんが、それにしても、質問がなさすぎます。

このクラスに限らず、最近はおとなしいクラスが増えているようです。緊急事態が常態と化している現状がありますから、しゃべり合って盛り上がるのも危険です。でも、クラスのみんなが指名されるまで待っているとなると、学生たちの積極性を疑いたくなります。受け身の姿勢が標準となってしまったら、教師にとって授業がやりにくいのみならず、学生もコミュニケーション能力が養えません。

指名すれば何か応える学生たちばかりですから、バカだから答えられないのではありません。新学期にクラス替えがありましたが、各学生とも、かなりの学生は顔見知りです。授業中何も話さないのがデフォルトとなっているとしたら、それは心得違いです。1分半ぐらいの、実のある自己紹介ができる能力があるのですから、それを当意即妙に質疑応答する方面にも回してほしいです。

担当初日にして、今学期の課題が見つかりました。

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最後の1つ前のテスト

6月21日(月)

期末テストの前日、授業の最終日。私のレベル1のオンラインクラスは、会話テストをしました。レベル1で勉強した文法や単語を使って、こちらが与えた場面での会話を作り発表するというタスクです。レベル1では毎学期やっていますから、対面授業では私も経験があります。でも、オンラインでの会話テストは初めてでした。

ごく短い会話の発表なら、授業中にもしてきましたが、ある程度まとまった会話の発表となると、果たしてうまくいくのだろうかという不安もありました。学生たちだって、ZOOMの画面越しに話し合って会話を作るのです。母語が同じなら私の目を盗んでこっそり相談することもできるでしょう。しかし、母語が違ったら、共通言語はお互いに自信が持てない日本語ですから、隔靴搔痒などというものでは済まないでしょう。

会話作成中のブレークアウトルームをのぞきに行くと、どのグループも日本語で話し合っていました。教室だと、私が見ていない隙に母語で話を進めようとするグループが必ずあるのですが、このクラスは不意打ちで訪れても日本語以外を使っているところはありませんでした。

その点は褒められるのですが、会話の発表となると、顔と顔を突き合わせていない弱点があらわになってしまいました。セリフが平板というか、感情がこもらないんですね。教室で教卓の前に仮ステージを作って発表させると、授業で習ったイントネーションをそのまま応用するグループが必ずいくつか現れるものですが、それがなかったのです。これは、オンラインの限界なのでしょうか。

それから、学生に定着した文法とまだまだの文法が、如実にわかりました。こちらはちょっと怖いなと思いました。学生の印象に残った文法とそうでない文法との差が、対面授業より激しいようです。思わぬところで反省材料を突きつけられました。

何はともあれ、明日は期末テスト。みんな、いい点とれよ。

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コミュニケーション

6月18日(金)

「Tさんは大学で何を勉強しますか」「私は国では理科系の勉強をしましたが、日本では文科系を勉強しようと思っています。Cさんは何を勉強しますか」「私は日本で理科系の勉強をしようと思っています」「じゃあ、受験講座で何を勉強する予定ですか」「化学と生物を勉強したいです。Tさんは何を勉強するつもりですか」「文科系の大学に行きたいですから、総合科目を勉強します。数学はわかりますから、受験講座で勉強しなくてもいいです」

レベル2の学生に受験講座の説明をしようと思ってZOOMを開いたら、CさんとTさんがこんな会話をしていました。多少不細工なところはありますが、授業で習った文法を使って、十分会話が成立しています。お互いに情報を与えたり受け取ったりして、コミュニケーションを取っていました。会話のテストだったら、満点をあげてもいいでしょう。

今学期、私が教えてきたクラスは、レベル1です。学期の初めのころに比べたら、ずっといろいろなことが話せるようになりました。でも、3か月後にCさんやTさん並みになっているだろうかというと、心もとないものがあります。CさんもTさんも特別高度な文法を使っているわけではありません。ただ、習った文法がよどみなく出てきています。つまり、勉強したことがきちんと定着しているのです。これが難しいのです。それができているから、満点をあげたくなってしまうわけです。

私のクラスは、来週の月曜日、期末の前日に、会話のテストがあります。私たちが精魂込めて教えた文法や語彙が、自然な形で使えるようになっているでしょうか。

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あたたかかったです

5月20日(木)

昨日よりは暖かかったですが、今一つスカッとしない一日でした。朝のうちは多少日も差しましたが、私が授業に入るころは重苦しい空模様になっていました。関東甲信地方の梅雨入りはまだですが、曇り具合や湿度の高さは十分に梅雨空の貫録を備えています。日曜日ぐらいから晴れる予報を出している手前、梅雨入りは発表できないのだろうかと勘繰ってしまいます。

さて、この稿に最初に出てきた形容詞は“暖かかったです”です。この単語(過去形)は、初級の学生にとって鬼門です。“暖かかったです”は、国籍を問わずみんな滑らかに発音できません。途中でつっかえたり、“あたたかったです”“あたかかったです”“あたたたかったです”など微妙に違う発音をしたりなど、苦労を重ねます。

“暖かかったです”と書ける学生はたくさんいても、きれいに発音できる学生はほとんどいません。私のクラスでも、案の定、みんなうまく言えませんでした。「明日の授業でテストします。今晩、たくさん練習してください。“書きます”じゃありません。“言います”の練習です」ということになりました。

伸びる学生は、ここで自分の現状を謙虚に見つめ直し、“あたたかかったです”と口が回るまで練習します。上級になっても話す力の弱い学生は、読めればいいと思ってろくに練習しません。そういう学生は単語を正確に覚えていませんから、書く方も怪しくなっていきます。自分はできると思い込んでいる学生をへこますには格好の材料なのですが、そういう学生に限って自分の弱点を正視しません。となると、いつまでたっても下手なまんまです。

さて、私のクラスの学生たちはどうでしょう。夢に出てくるぐらいまで練習してくれるでしょうか。

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