Category Archives: 会話

思い出

11月15日(金)

教科書に中学・高校の思い出を語る場面が出てきました。それに関連して、数人のグループで自分の中学・高校の思い出を語ってもらいました。すると、どのグループもスマホの写真を見せあったりしながら、話を打ち切るのがかわいそうなくらい盛り上がっていました。

中国の学生は、ほぼ全員が、朝7時頃から夜は9時か10時まで勉強させられたそうです。昼休みが2時間あったので、うちに帰って食べていたという学生もいました。韓国の学生は、学校は3時か4時に終わるものの、毎日やはり9時か10時頃まで塾に通っていたと言っていました。

そんな彼らにとって、午前中で終わってしまうKCPは楽勝みたいです。何の縛りもないと不安だから、塾に通ったり家庭教師を頼んだりしている面もあるように感じました。3.11の前あたりまでは、学生は授業後アルバイトに励むのが常識でしたが、今は塾に通うのが当然のようです。

かつてのアルバイト疲れが、塾疲れ、勉強疲れに置き換わっただけで、朝から辛そうにしている学生、ぎりぎりまで寝ていて遅刻寸前に教室に飛び込んでくる学生が多いことは変わりありません。学生にはのびのびとした留学生活を送ってほしいですが、その結果進学できなくなってしまっては困ります。

授業の最後に、私の中学時代の思い出を言いました。Jさんよりも少し長い坊主頭だったと言ったら、学生たちは「えーっ」なんて言っていました。半世紀も昔のことですから、今もその学校の男子生徒が坊主頭かどうかはわかりませんが…。

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ガイシツ

11月13日(水)

「…外出しないでゆっくり休んでください」という教科書付属の会話スキットの音声を流した直後、Lさんが質問しました。「先生、ガイシツでもいいですか」。一瞬何のことかわかりませんでした。音声をもう一度流してみると、確かに「…ガイシツしないで…」とも聞こえます。いや、ガイシュツよりもガイシツ寄りでした。

私たち日本人は、「シュ」を「シ」と発音してしまうことがよくあります。「胃のシジツを受けた」「けが人をキュウシツした」などというような、厳密にいえば発音ミスを耳にしたり口にしたりしています。これを「胃の史実を受けた」「けが人を吸湿した」などと受け取る人はいません。

だから、冒頭のスキットの声優さんも、日常的に「ガイシツ」と言っていて、それで誤解を生じさせたことは一度もなく、だからこそ、無意識に「ガイシツ」と言ってしまったに違いありません。同時に、教科書の編集者も、この発音に全く違和感を持たなかったのでしょう。

そんな事情を知らないLさんは、発音が間違っていると受け取ってしまったのです。上述のような事情をごくかいつまんで説明すると、「漢字テストの時は?」と更なる質問が出てきました。これは学生としては当然ですね。もちろん、「ガイシュツと書いてください」と答えました。「会話テストは?」「ガイシュツと発音してください」。

答えながら、私はLさんの耳に感心しました。ガイシュツ/ガイシツを聞き分けられたのですから。明らかに違う発音だと感じたので、自信を持って質問できたのです。学期の最初は自信なさげだったのですが、中間テストの前日、学期の半分で力をつけたものです。

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寒かったですね

11月8日(金)

最低気温8度という予報が出ていましたから覚悟して目を覚ましたら、窓がうっすら結露していました。クローゼットからコートを引っ張り出し、ポケットに手を突っ込むと、防虫剤の包み紙だけ出てきました。夏の間に全部飛んでしまったのでしょう。でも、虫に食われた形跡はありませんでした。

今シーズン初登板のコートを着込んで外に出ると、その威力はすさまじく、コートに包まれた肩から下は全く寒さを感じませんでした。しかし、首はひんやりとしていて、マフラーもしてくればよかったかなと、少し後悔しました。これで下着がヒートテックになったら、もう真冬装束です。秋の“気温”はつるべ落としですね。

9時5分前ぐらいに教室に入りましたが、スカスカでした。寒さでベッドから出られない学生が現れ始めたのでしょうか。その一方で、Sさんは半袖Tシャツ姿でした。ジャケットは着て来たみたいですが、授業中はずっとジャケットを脱いだままでした。

そのSさんはニュースの発表の当番でした。よく通る声で、語りかける口調で発表してくれました。クラスの学生たちの評価も最高点に近く、「とてもわかりやすかったです」とか、「話すスピードがちょうどよかったです」とか、コメントもすばらしい系ばかりでした。私は辛口ですから、時々母音が脱落した点を減点しました。

これに対してRさんはスマホをチラ見しながらの発表でした。この発表は、アナウンサーのようにとまではいいませんが、ニュースを「話す」ことを目標としています。ですから、スマホの画面を「読む」のは大減点です。学生もよく見ていて、「覚えたほうがよかったです」などというコメントが目立ちました。声も小さかったですから、厳しい評価が大半でした。

Rさん自身もあまり上手な発表ではなかったことは自覚しているでしょう。今年一番の寒さがより一層身に染みたのではないかと思います。

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会話と作文

10月29日(火)

このところ仕事が滞っていて、今頃になって先週の水曜日にやった初級クラスの会話テストの動画を見たり、木曜日にやった中級クラスの作文の採点をしたりしています。

さて、その会話テストですが、2組の学生にやってもらいました。学生の受けがよかったのは、GさんとTさんのペアでした。しかし、私の目で見る(耳で聞く?)と、もう1つのCさんとRさんのペアの方に高評価をつけました。GTペアは動きがあって見た目は面白かったのですが、会話の内容が伴っていませんでした。一方、CRペアは、アクションは乏しかったものの、勉強した表現を使って会話を進めていました。

素人好みと玄人好みとの違いだとしてしまったら言い過ぎかもしれませんが、本当に上手な会話とは何かということぐらいは伝えていきたいものです。そして、その玄人好みを理解してもらえるように育てていきたいものです。私が作文の採点をしている中級クラスの学生がこの2組の会話の動画を見たら、どう判定するでしょうか。CRペアの方が、日本語会話が上手だと言ってくれそうな気がします。学生たちも、そのぐらいの実戦経験は積んでいるはずです。

そして、作文の方です。こちらも、言いたいことは伝わってきますが間違いが多い作文と、ミスは少ないものの薄味な作文のせめぎ合いがあります。後者は、今回の作文のテーマに対して明確な意見・考えを持っていなかったのかもしれません。あるいは、そもそも考えることが嫌いなのではないでしょうか。だとしたら、この先、進学した後で苦労するでしょう。そうならないように、鍛えていくのも、日本語学校の役割の1つです。

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前日の面接練習

10月11日(金)

Sさんは明日が入試の面接です。慎重な性格のSさんは、すでに何回も面接練習を重ねてきました。本番前日も、先学期の担任のA先生に面接練習をお願いしていました。

午後から11月のEJUに備えた授業があったのですが、午前中のクラス授業の終了後、「先生、明日、入試の面接なので、5時からA先生と面接練習をしますから、1時半からのEJUの授業は欠席します」と言ってきました。要するに、面接練習の準備をしたいからEJUの授業を休むということです。上述の「慎重」は、これぐらいなのです。普通じゃありません。

外はすっかり暗くなった6時近くになって、A先生に伴われたスーツ姿のSさんが職員室に現れました。明日の服装で面接練習をしたそうです。ここまで来ると、もう「頑張れ」というほかありません。技術的なアドバイスではなく、精神的なエールです。

最後の面接練習も、だいぶ熱が上がったようです。A先生によると、質問によっては話が止まらなくなって、A先生が止めに入ったそうです。最初の頃は、言葉が全然出て来なくて、こちらがSさんに言いたいことを話させて、それを面接の答えになるように作り上げたりしました。それを思えば、話が止まらなくなるなんて夢のような話です。大きく進歩したものです。

Sさんは、自分は日本語ができないと思って、志望校を決める前の4月期あたりから入試の面接を意識して、自分の考えを話す練習をしてきました。確かに私たちも手を貸しましたが、自分で上り詰めたようなものです。明日は今までの練習の成果を出し切って、ぜひとも合格をつかんでもらいたいです。

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お金持ちになりたい

10月9日(水)

今学期の水曜日は、初級・レベル2のクラスです。このレベルは知っている顔が全くなく、予備知識もありません。しかも、私が入るクラスは新入生が6人とか7人とかとのことですから、先学期の受け持ちの先生からの情報もすべてを覆うには程遠いです。自分の目で学生の性格や実力を確かめながら、自分の手でクラスの雰囲気を作り上げていくほかありません。

先学期同じクラスだった学生もいるはずでしたが、どうやら新入生が最大派閥のようで、あまり目立ちませんでした。そんなわけで、学生側もけん制し合っているような感じがしました。そのため、最初のうちは教室のムードが硬かったです。

そのムードがやわらいだのは、今学期の行事としてバーベキューを紹介した時です。クラスの中では年上のCさんがおいしそう、おもしろそうと声を上げたおかげで、クラス全体がなんとなくべーべキューは楽しい行事だという空気に包まれました。バーベキューでどんな料理を作るかなど、これからクラスの話し合いが持たれますが、案外スムーズに進むかもしれません。

最終的にクラスが盛り上がったのは、最後の自己紹介の時間でした。私も意識的に突っ込みを入れましたが、明るい笑い声が出てきました。このクラスにはラーメンが好きな学生が多く、お金持ちにもなりたく、なぜか小説家志望が2人、お好み焼きは広島風が支持され、…などということがわかりました。

最後に私が自己紹介をし、山口県に住んでいたことがあると言ったら、山口弁をせがまれました。「もう4:42か。45分になったらみんなすぐ帰るつもりでしょ。でも新入生はオリエンテーションがあるから帰っちゃだめだよ」と山口弁で言ったら、誰も全然わからず、これもまた最後の盛り上がりに貢献しました。

このクラスは週1回ですが、来週が楽しみです。

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点数は正直

10月4日(金)

先学期の担当クラスのデータチェックをしていたら、会話の中間タスクと期末タスクの成績が未入力でした。これでは学生に成績表を渡せませんから、急いで入力しました。

中間タスクはペアでのロールプレイ、期末タスクはグループで調べたことの発表でした。中間タスクは普通体でのくだけた会話、期末タスクは丁寧体でのわかりやすい説明を見たことになります。どちらもコミュニケーション力を構成する太い柱です。だから両方ともできてほしいのですが、そういう学生はなかなかいません。唯一、Lさんが中間も期末も高得点でした。Lさんは授業中の発言も多く、同国人にも母語を使って話すことはありませんでした。やっぱりねという感じでした。

次はHさんとPさんでしょうか。Lさんよりは発言が少なかったですが、普段から話すときは単語や単文止まりではなく、勉強した表現も織り込んで、考えたことを伝えていました。CさんやGさんは、会話よりも発表が高得点でした。この2人はおとなしいので、会話のキャッチボールよりは自分のペースで調べたことを語る方が性に合っていたのでしょう。逆に、ZさんやJさんは、会話の方が振るっていました。調べたことを原稿にしたまではよかったのですが、それを棒読みしてしまったことが響きました。

Wさんは、どちらもお情けで合格という点数でした。指名されたとき以外はしゃべらないし、しゃべっても単語を並べるだけでした。おそらく、学校外では日本語を使っていないのでしょう。KCPを出た後、日本社会でうまくやっていけるのか、心もとない限りです。

学生の特徴を意識して採点したわけではありませんが、成績には学生の特徴が現れるものだと、妙に感心してしまいました。

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メール送信

10月2日(水)

今学期の新入生のプレースメントテストはもうだいぶ前に終わり、先週はプレースメントテストの結果で中級以上に判定された学生の面接をしました。面接でのやり取りも加味して、レベルを最終的に決定します。

私が担当した学生たちは、みんな話す力がもう一歩でした。まだ国にいますからオンラインの面接でした。だから、回線の状況によっては聞き取りにくかったこともあるかもしれません。そのハンデを差し引いても、普段日本語の勉強はしていても、会話はしていないんだろうなと感じました。

学生たちは異口同音に、KCPではコミュニケーション力を付けたいと言いました。そうだろうなと思いました。漢字の読み書きや文法、もしかしたら読解問題の解法のテクニックまで練習しているかもしれませんが、会話はテキストを「読む」くらいしかしていないのでしょう。それでいきなり、「KCPで勉強以外にどんなこと、してみたい?」なんて聞かれたら、オンラインの向こう側で目を白黒させていたとしても無理はありません。

Aさんは、「こんにちは。KCPの金原です。よろしくお願いします」と私が話しかけるや、「Aと申します。これからお世話になります。私は日本で大学院に進学したいです。どうぞよろしくお願いいたします」と、いかにも何かを読み上げている口調で言いました。あいさつ文を作り上げた努力は認めますが、どうせなら自然な話し方ができるまで練習しておいてほしかったですね。

9月にレベル4だった私のクラスの、できない学生といい勝負の話し方でした。Aさんが3か月練習すれば、同じクラスのできる学生並みになれるかな、なってほしいなと思いながら、レベル判定をしました。

午後、Aさんたちに判定結果をメールで送りました。コミュニケーション力を付けるには、今までとは質の違った練習をしなければなりません。覚悟はできていますか。

ほどなく、Aさんからは返信のメールが来ました。文面からは覚悟のほどはわかりませんが、ガンガン鍛えていきますからね。

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たかのやま

9月25日(水)

期末タスクの発表会をしました。この日のためにここ1週間、毎日調べ物をしたり発表原稿を作ったりそれを発表する練習をしたりしてきました。その成果をクラスメートの前で発表するのです。

タスクの内容は、数名のグループに分かれて、ある県について調べ、それを発表するというものです。私のクラスは、愛知県、鳥取県、和歌山県、熊本県、青森県が取り上げられました。この中で、愛知県は知らなくても名古屋走っている学生は多いでしょうが、他の県は初めて知ったという学生が大半だったのではないかと思います。

それでいいのです。知ったら、興味を持ったら、さらに調べて、できれば現地に赴いて直接見て聞いて触ってくることをしてもらいたいのです。東京以外は北海道と大阪と京都と沖縄しか知らないのでは、日本に留学している意味がありません。友達の発表を聞いて、日本の多様性に気付いてほしいのです。

学生の聞いている態度を見る限り、自分の担当以外は無関心ということはなさそうでした。何か引っかかるものを見つけたようです。“高野山”を“たかのやま”と読んでしまうなど、不正確な情報もありましたが、津軽弁の動画に笑いこけたり、太平燕の写真に目を輝かせたり、印象に残る情報もあったと思います。

今回は1グループ10分ということだったのですが、どのグループも制限時間を大幅に超えてしまい、発表が終わったのは授業終了時刻を15分もオーバーしていました。でも、誰一人として時計を気にすることなく、最後まで発表に耳を傾けていました。話す方も聞く方も、成長したなと思いました。

さあ、明日は期末テストです。進級がかかります。

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不合格

9月20日(金)

授業後、Sさんが先週のテストの再試を受けました。先週は残念ながら合格点には届きませんでしたから、もう一度よく勉強して再挑戦したというわけです。

このテストには、友達同士の会話のスクリプトを作るという問題がありました。この問題には、勉強した表現や語彙を使うことはもちろん、“友達同士の会話”らしい文末表現で答えてもらおうという出題意図がありました。授業でも練習したのですが、この問題で点が取れたか取れなかったかで、成績に大差がつきました。

この問題をほぼノーミスで答えられたJさんは、満点に近い成績で、クラスで一番でした。しかし、Jさんは例外で、多くの学生がこの問題で沈みました。配点が大きかったこともあり、少なからぬ学生がこの問題で失点を重ねたせいで不合格になりました。Sさんもその1人でした。

Sさんの答案は、先週よりはいい点でしたが、合格点にはわずかに届きませんでした。先週と同じく、会話のスクリプトを作る問題ができませんでした。Sさんはまじめな学生ですから、教科書に載っている事柄は確実に覚えます。しかし、会話の文末表現は今学期だけでなく、先学期も先々学期も、会話の時間に練習しているのですが、教科書に出ているわけではありませんから、Sさんはスルーしてしまったのでしょう。

そして、Sさんがテストの答えとして書いた会話スクリプトは、Sさんのしゃべり方そのものなのです。まるでSさんが答案用紙に乗り移って私に話しかけてきたかのようでした。今は、ろくな会話をしなくても生活できてしまいます。ですから、Sさんのように非常にぎこちない会話しかできなくても生活に不便を覚えないのです。

Sさん、あなたは努力を惜しまない学生ですから、進級させてあげたいです。でも、その努力の方向を考え直さないと、ごく近い将来、身動きが取れなくなってしまいますよ。

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