Category Archives: 社会

早口言葉?

4月18日(金)

金曜日の最上級クラスには、「社会を知る」という授業があります。現代の社会問題に関して、動画を見たり新聞記事を読んだりなどして理解を深め、議論もするという内容です。たとえ理科系の学部や大学院に進学するにしても、現代社会に対して無知ではいけません。文科系なら面接や口頭試問、あるいは小論文において問われることだって考えられます。

授業の最初に、米の値段は高いかと聞いたら、全員が高いと感じているようでした。値段を聞くと4000円から5000円くらいで、現時点においては相場です。毎日ではないにせよ、自炊しているとのことですから、そのぐらいの出費はこたえるのでしょう。

その後、動画を見せ、それだけではわからない点を補足説明し、備蓄米放出までの背景や米不足に陥った原因などについて知ってもらいました。減反政策は、不思議な政策に映ったようでした。農家の高齢化も、学生にとっては気づきにくい点でした。

こういうように「社会を知る」ことがこの授業の主たる目標ですが、日本語の授業の一環ですから、普通の日本人と同じレベルの日本語理解力を着けていくこともまた、授業の太い柱です。学生たちに見せた動画の中に、2人の出演者のうちの1人がやたらと早口なのがありました。学生の様子を観察すると、途中からスマホをいじり始める学生が何人かいました。見終わった後で聞くと、やはり、早すぎてわからなかったと言っていました。

このクラスの学生が束になってもわからないとなると、少なからぬ日本人もわからないのではないでしょうか。それでは何かを訴えたことにはならないと思います。その方面では結構なのある方のようでしたが、本当に理解してもらえているのでしょうか。心配になりました。

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始まったの?

4月12日(土)

大坂・関西万博の開会式が行われたようです。ネットのニュースの見出ししか見ていませんから、“ようです”などという頼りない文末表現を用いています。見出ししか見ていないのは、あまり興味がないからです。

毎年、春の連休は関西方面へ出かけます。今年も行きますが、今のところ、大阪には足を踏み入れる予定はありません。去年のまだ暑いころ、5月の連休の宿を予約しようとしたら、定宿にしているホテルの値段があまりに上がっていたので、大阪泊はあきらめました。行きたいところ(万博ではありません)があったのですが、それはまたの機会にすることにしました。大阪以外にも関西は見所がたくさんありますから、そちらを優先します。

1970年の万博は、自分で主体的にというよりは父に連れられて、夏休みに千里まで見に行きました。入場者数の記録を更新した日にぶち当たってしまい、月の石など人気の展示物を見ることはできませんでしたが、子供心に世界にはいろいろな人がいて、いろいろな文物があるんだなあと感心しました。

今回の万博も、詳しく調べれば目玉の展示もあるのでしょうが、何が何でも見たいと思えるような展示物のうわさは聞こえてきません。私だけではなく、世間一般にそんな人が多いのではないでしょうか。70年は国中が一丸となって盛り上がっていた印象がありますが、今回はずいぶん冷めています。

4年前の東京オリンピックもそうでしたね。無観客という大きすぎるハンデを背負っての開催でしたが、そうまでして開催する意義があったのかなと今でも思っています。何かのイベントで国中が盛り上がったのは、ぎりぎり98年の長野オリンピックと02年のワールドカップまでだったような気がします。

盛り上がらなくなったのは、国中が老いたからでしょうか。豊かではなくなったからでしょうか。個人主義が進展したからでしょうか。全国民が熱狂するイベントをもう一度見たいとも思いますが、国も半端じゃない財政赤字だし、民間にも活力がなさそうだし、もう無理かなっていう気がします。

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背中

4月8日(火)

お昼少し前、先日この稿で取り上げたYさんが帰国の挨拶に来ました。明日、帰国するそうです。国で就職先が見つかったとのことですから、こちらもホッと一息というところです。ずっとYさんを見てきたK先生は、学生を引き連れて、4月期の始業日恒例ともいえる御苑の花見に出ていました。Yさんに初級の学生への通訳などでさんざん助けてもらったM先生も、午前中は授業でした。30分ばかり待ってもらい、2人の先生が職員室に戻ってくる頃合にまた来てもらいました。

K先生とは、長い時間話していました。いろいろと積もる話があったのでしょう。努力は、日本での進学という当初の夢をかなえるという形では実を結びませんでしたが、Yさんは、表情を見る限り、別の形で実を結ばせたのかもしれません。K先生にそんな話をしているようにも見えました。そして、午後の授業が始まる少し前に、笑顔で手を振りながらKCPを後にしました。

吹っ切れたと思っちゃっていいのかなという気はしましたが、Yさん、あなたにとってKCPで勉強した月日は、決して黒歴史じゃないですよね。お土産の紙袋を差し出したその手で何かをつかみ、そしてそれを握りしめていますよね。今年もあなたのようなすばらしい学生にめぐりあい、立派に育て上げたいと思っています。

Yさんの姿を目にするのも、おそらくこれが最後でしょう。でも、明るい色合いのスプリングコートをまとって新たな道に第一歩を踏み出そうとしているYさんの背中を、そっと押してあげたくなりました。

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フェンスの向こうに

4月5日(土)

お昼に外に出て学校の近くを歩いていたら、花園公園がけっこうなにぎわいでした。園内では、地元の方かこの近くにお勤めの方たちが、ベンチに腰掛けて桜を見上げながら、談笑したりお弁当を食べたりコーヒーを飲んだりしていました。風が少し冷たく感じましたが、そんなに長い時間花見に興じていることはないでしょうから、花に動きが出てちょうどよかったかもしれません。

さて、この花園公園ですが、年度末に工事をして、公園の周りをぐるりとフェンスで囲みました。併設されている小学校と保育園に変な人が侵入しないようにということなのでしょう。夜間は扉が閉められて、だれも出入りできなくしています。1本1本の針金は細くても、それがフェンスの形となると、やはりいくらか物々しさが醸し出されます。桜の美しさを打ち消すほどではありませんが、フェンスの内側に入っても、ちょっと気になるかな。

花園公園の桜はソメイヨシノでしょうが、このまま温暖化が進むと、そう遠くない将来、ソメイヨシノが咲かなくなるかもしれません。ソメイヨシノが咲くには、真冬の厳しい寒さが必要です。寒さがないと、冬が来たと認識できず、冬に備える態勢がずっと続き、気温が高くなっても花芽が育ちません。現に、沖縄の桜はソメイヨシノではなく、ヒカンザクラ(緋寒桜)という別品種です。

「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」と詠んだ在原業平の時代は、まだソメイヨシノは生まれていませんでした。でも、超暖冬でソメイヨシノが咲かない春を迎えたとしたら、誰の心ものどかではないでしょう。フェンス越しの桜ぐらい、どうってことありませんよ。

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早い!

3月14日(金)

数年前の卒業生のSさんが来ました。SさんはR大学に入り、そのまま大学院に進学しました。「就職が決まりました」と報告してくれたのですが、実はまだ修士の1年生で、入社は来年の4月です。なのに、もう内定をもらったのだそうです。何という早さでしょう。…と言って驚いているのは、私ぐらいなのでしょうかねえ。

この時期に内定をもらったということは、大学院入学早々から就職活動を始めて、去年の秋ぐらいから面接を受けまくっていたのでしょう。そう思って聞いてみたら、実際にその通りでした。面接はオンラインがほとんどで、東京の外の会社も受けました。Sさんが就職するのは、その東京から離れたところの会社です。勤めることになる土地へは、まだ1度も行ったことがないそうです。

私が就職した時は、修士2年になってから動き始め、内定したのは6月か7月ごろだったでしょうか。それでも早く決まったと友人に自慢したものです。1年生の頃は、企業研究なんか、まともにしていなかったんじゃないかな。今、こんなことをしていたら、就職戦線に出遅れてしまい、不戦敗になってしまうかもしれません。

Sさんにはこれから修論が待っています。修論が通らなかったら、内定は取り消しでしょう。日本人なら「バカなやつだ」と笑われるぐらいで終わりでしょうが、外国人であるSさんはビザの問題が絡んできますから、話は複雑です。むしろ、これからが大学院生活の正念場です。本当に笑えるのは、来年の今頃でしょう。

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進学相談

3月7日(金)

授業が終わると、Rさんが「先生、相談したいことがあるんですが、お時間ありますか」と聞いてきました。「3時頃まで予定が入っているから、その後ならいいよ」と答えると、「じゃ、それまで図書室で勉強してます」とRさん。

3時過ぎに1階に戻ると、ほどなくRさんも来ました。「で、どんな相談?」「S大学とA大学で迷ってるんですが、どちらがいいですか」「S大学のどこに進むの?」「工業化学です」「A大学は?」「応用生物です」専門性が微妙に違います。話を詳しく聞いて行くと、勉強したいことが勉強できそうなのはA大学ですが、一般に有名なのはS大学で、そこがRさんにとっては引っ掛かるところのようです。

大学のレベルは、S大学もR大学も同じくらいです。Rさんは大学院に進学するつもりですが、大学院進学率も大差ないはずです。どちらの大学も、きちんと勉強していれば、どこの大学院へも進学できるでしょう。海外の大学院だって、十分可能性があります。ただし、大学院で勉強したいことに近いのは、応用生物です。

Rさんの口っぷりからすると、名が通っているS大学に若干傾いている感じです。でも、それ以外の面を勘案すると、また、10年後のRさんの姿を想像すると、A大学の方が望ましい結果をもたらすような気がします。

Rさんは、来週、E大学を受験します。受かったら、そちらに進学するつもりです。でも、そこはかなり狭き門ですから、入学手続きの締め切りも迫っていることもあり、悩んでいるわけです。

それにしても、A大学は商売が下手だなあと思います。いい研究をされている先生方が大勢いらっしゃるのに、合格者の心をつかむに至っていません。K大学もそんな感じがします。私は毎年学生にすすめているのですが、受験する学生すらなかなか現れません。進学した学生は、「先生、いい大学を教えてくださって、ありがとうございました」と言っているんですがね。

“通好みの大学”じゃ、これからは通用しないと思いますよ。

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絶妙のタイミング

3月6日(木)

またこのタイミングか…。9時の始業のチャイムが鳴り終わるとすぐ出席を取り始め、クラスの半分強の学生の名前を呼び上げた頃、Yさんが教室に入ってきました。全員の名前を呼び終わる前に入室したら遅刻扱いにしないというルールがありますから、「出席」です。おとといこのクラスに入った時も、先週も、先々週も、計ったようにこのタイミングです。もしかすると、どこかで時間調整しているのかもしれません。Yさんはたばこを吸いますから、あり得ない話ではありません。

Yさんの名前を呼んでも、「はい」という返事は返ってきません。こちらを見て、小さく手を挙げているだけです。「私に気づいて」と訴えかけているかのようです。でも、授業中は、ずっと“指名するな”オーラを出し続けています。「私を無視して」と言わんばかりです。指名しても、蚊だってもっと大きな声で鳴くだろうという程度の声しか出しません。「えっ?」と聞き返しても、声は大きくなりません。グループワークでは発言が全くないのでいつの間にか仲間外れになり、ペアワークでは声をかけられても反応せず、相手を困らせてしまいます。

勉強ができないのかというと、決してそんなことはありません。漢字は、音読みでも訓読みでも、スラスラ読めます。いや、さらさらとふりがなを振ります。文の書き換えも、実に要領よくこなします。自信を持って振る舞えば、クラスのだれもが一目置く存在になれるのに。

Yさんは、日本で言う高卒認定試験を受けて、合格して、日本に留学に来ました。Yさんの話を組み合わせると、どうやらクラス授業に慣れていないようです。周囲とのコミュニケーションの取り方がわからないのでしょう。上述のように、朝、時間調整をして登校しているのだとしたら、教室でクラスメートと交わりたくないからなのかもしれません。日本の大学に進学したいと言っていますが、これでは絶対に面接で落とされます。

最近、Yさんのような学生が増えています。日本語力と同時に、コミュニケーション力もつけさせなければ、学生の希望はかなえてあげられません。純粋な日本語教育以外の人格形成みたいなところで苦労しています。

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まだ週末じゃないよ

2月26日(水)

今週は月曜日が振り替え休日で、金曜日がバス旅行ですから、1週間が早いです。午前中の授業で学生にバス旅行の予定を説明し、その後に、同じバスに乗り合わせる先生方と打ち合わせをしたら、今週の仕事の大半が終わってしまったような錯覚にとらわれてしまいました。もちろん、バス旅行が今週の最大の仕事ですから、実際には半分どころか半分の半分も終わっていません。

仕事が終わってしまったように感じる1つの原因は、選択授業がないからだと思います。昨日の火曜日は卒業認定試験、金曜日はバス旅行ですから、今週は週に2日の選択授業がどちらもつぶれてしまうのです。選択授業の授業内容はすべて自分で考えなければなりませんから、それがないというのは私にとって結構大きな意味を持つのです。でも、来週は両方ともありますから、バス旅行の帰りは居眠りなんかせずに選択授業で何をするか考えなければならないかもしれません。

選択授業の代わりに、バスの中で学生たちに出す箱根クイズを考えました。私の趣味で問題を作ってしまうと、箱根の火山を形成している岩石の主なものは何かなどということになり、だれも興味を示さないことでしょう。ですから、学生が食いつきそうな事柄を見つけ出し、問題にしました。

バス旅行で立ち寄る大涌谷の名物「黒たまご」はなぜ黒いのかというのを加えようとしました。温泉中に含まれる鉄や硫化水素が反応して黒い化合物をつくると言われていました。一応ウラを取ろうとネットで調べてみると、そうではないということが、つい最近わかったそうです。勉強になりました。高校生が定説に疑問を抱き、実験を繰り返し、答えにたどり着いたとのことです。立派なものです。

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ご利用いただけます

2月15日(土)

「当店では、各種QRコード決済がご利用いただけます」という表示を見かけたら、あるいは店員さんからこのように言われたら、みなさんはどうお感じになりますか。私は苦笑いしながらスマホの操作を始めるでしょう。

国文法の問題です。“いただきます”は、尊敬語ですか、謙譲語ですか。高校までの国語の時間に、謙譲語だと習ってきたはずです。謙譲語の主語(動作主)は誰ですか。“私(たち)”ですね。

ここで、もう一度「当店では、各種QRコード決済がご利用いただけます」を見てください。誰が“ご利用いただけ”るのですか。素直に解釈すれば、来店したお客さんですよね。つまり、この文は謙譲語の動作主がお客さんになっているのです。何と失礼なことでしょう。これが、私の苦笑いの原因です。

もちろん、店の側にそんな気持ちなどみじんもないことは百も承知しています。だから苦笑いしつつもスマホを操作し、支払おうとするのです。でも、文法の誤りは見逃すわけにはいきません。

この手の誤りは、至る所にあります。「こちらから富士山がご覧いただけます」「こちらにキーを差し込んでいただくと、部屋の電気がつきます」「特急券のないお客様は、ご乗車いただけません」…。なぜ、みんな平然と同じ誤りを犯しているのでしょう。

文化庁は、2007年に謙譲語を2つに分けました。謙譲語Ⅰは、申し上げる、伺うなど、謙譲語Ⅱは、参る、申すなどです。謙譲語Ⅱは丁重語とも呼ばれ、物事を相手(多くの場合、目上)に向かって丁重に伝える時に用います。「社長、お時間です。会議室に参りましょう」「社長、お時間です。会議室に行きましょう」の2つを比較すると、前者の方が丁寧な感じがしますね。参るのは、私だけではなく、社長もです。会議室にいるのがお客様ではなく、社長にとっては部下ばかりでも、“参る”という謙譲語Ⅱが使えるのです。物事を丁重に伝えるのですから、同僚に対して“おい、佐藤、時間だから会議室に参ろうぜ”などとは使えません。“おい、佐藤、時間だから会議室に行こうぜ”なら問題ありません。“参ろう“は、丁寧さのない普通体の1つであり、終助詞“ぜ”は、丁重さとは正反対の雰囲気をもたらします。

“いただく”は、本来、謙譲語Ⅰですが、これを謙譲語Ⅱと勘違いして使っているのが“ご利用いただけます”だと考えられます。“ご利用いただけるよ”は丁寧さのバランスが悪いですよね。

でも、全国津々浦々にこのような誤用が浸透しているとなると、もはや誤用ではなく、“いただく”に丁重語としての機能が加わったと考えるべきでしょう。とはいえ、学生には“ご利用になれません”と教えるでしょうね。JLPTなどで間違えられちゃったら困りますから。

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カワキ教授

2月10日(月)

「先生、私はこのカワキ教授の研究に興味があります」と言いながらYさんが見せてくれたB大学のページには、“乾教授”と出ていました。確かに、“カワキ教授”と読めないこともありません。でも、大学の面接試験で“カワキ教授”などと言ったら、一発アウトでしょうね。

日本人の名字は10万種類を超えるとも言われています。人口が10倍以上の中国の名字よりもはるかに数が多いのだそうです。ですから、常識では読めない苗字が出てきたとしても不思議ではありません。というか、一筋縄では読めない名字の子がクラスに1人や2人いて当たり前でした。

私も、90%以上の確率で、初対面の人から“カネハラさん”と呼ばれます。“キンバラ”は重箱読みですから、訓読みの組み合わせの“カネハラ”と読みたくなるのもわかります。ですから、病院などでは2つの名前に聞き耳を立てていたものです。最近は個人情報保護からなのでしょうか、受付番号で呼ばれることが多いですから、そこまで気を張る必要もなくなりました。

それはともかく、たとえ読みにくい名字であっても、読み間違いはいけません。今シーズンも、“カワキ教授”以外にも何人かの先生の読み方を学生に注意してきました。でも、ちょっと注意して大学のページを見れば、先生の名前の読み方はどこかに書いてあるものです。研究論文一覧を見れば、“…Inui”などと著者名が書いてありますから。

さて、Yさんは12日がE大学の合格発表です。ここに受かっていれば、余裕を持ってB大学に臨めますが、果たしてどうでしょう。

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