Category Archives: 社会

幸せの分け前

5月7日(木)

朝一番にもかかわらず、河内長野駅発のバスは座席がさらっと埋まるほどの乗客がありました。その大半が30分の乗車、金剛登山口バス停で降り、私以外の人たちはみんな登山口へ。私は千早城跡へと向かう急な階段へ。楠木正成が立てこもり、自軍の数十倍になる北条の大軍を引き付け、鎌倉幕府滅亡のきっかけを作りました。城跡にはそんな生々しい戦いのあとを示すものはありませんでしたが、そこに至るまでの急峻ながけを登っていると、楠木正成の知略のかけらが見えるような気がしました。

千早城跡は標高が600mあまりで、そこからさらに500m登ったところが金剛山の山頂です。お天気は下り坂という予報でしたから大急ぎで登った甲斐があり、山頂からは大阪平野はもちろん、関西空港や淡路島、明石海峡大橋まで望めました。キンキンに冷やしやお茶がおいしかったです。

ロープウェイで下山すると、上りのロープウェイは定員いっぱい、麓の駅は乗車待ちの人たちであふれていました。駐車場は満車になりつつあり、バスも立ち客が出る満員でした。しかも、小雨がぽつぽつと。まさに早起きは三文の得です。

春日大社は式年造替で、御神霊が仮殿に移っているので、ふだんは近づけない御本殿が間近で拝観できます。また、神が宿っているともされる磐座(いわくら)も見られました。日本の神は実体が明らかになっているわけではなく、気配(神気)を感じてその存在を悟るものです。御本殿や磐座は視覚的には印象が強いものではありませんでしたが、私のような凡人でも“何か”を感じました。

ここで、ちょっとした事件が。ある参拝者が撮影禁止領域でカメラを構えたのです。それを見つけた神職は烈火のごとく怒り、データを消せと厳しく命じました。その参拝者は撮影はしていないと言い訳していましたが、神職はなぜ疑われるような行動をしたのかと怒りを納めませんでした。神職の怒りは当然だと思います。デジカメになってからは気軽にとって気安く消すという、写真の無駄遣いというか真剣みのない撮影が横行しています。怒られた参拝者は無意識にカメラを向け、起こられてもおそらく反省はしておらず、今後もまたどこかで同じことをするでしょう。こういう何でも見境なく撮ろうとする人を見かけると、無関係なこちらまで不愉快になってきます。

その後、若草山に登りました。若草山は標高342mですが、山頂からは奈良盆地や大和三山が一望でき、前々日に登った金剛山もかすかに見えました。西方面は生駒山、信貴山、二上山、葛城山が連なり大阪平野までは見えませんでしたが、その穏やかな山並みもまた心を和ませてくれます。

大阪には、こういうふうに気軽に登れる山がたくさんあります。そしてその頂上からは絶景が望めます。大阪から金剛山まで直線距離で35kmほど。新宿ー筑波山はその倍の約70km。高尾山は40km強。大阪―生駒山はわずかに20km弱。大阪の人たちは幸せだと思います。今年の連休は、大阪の人たちの幸せを少し分けてもらいました。

国際貢献

5月1日(月)

ネパールの地震の犠牲者が時とともに増え、6300人を超えたと報じられています。この勢いでいくと、阪神淡路大震災の死亡者数6434人(ほかに行方不明が3人)を上回ってしまうかもしれません。地震発生域の人口密度を考えると、現時点ですでに阪神淡路大震災以上だと言ってもいいでしょう。

ネパール地震の写真を見ると、レンガ造りのいかにももろそうな家がつぶれています。ネパールは日本と同様にプレート境界上にあります。インドが南からユーラシア大陸にぶつかってできたのがヒマラヤだと言われていますから、地表面下の地殻のせめぎあいは激しいものがあるはずです。そういう国に、こういう大災害が起きる前に、震災先進国と言っていい日本が何かできなかったものでしょうか。災害救助隊をいち早く送ることも大切ですが、災害を予防する観点から何かできなかったのだろうか思わずにはいられません。

安倍さんはアメリカの議会で演説して非常に得意げですが、世界的規模で考えると、上述のような形のほうがより日本らしい、日本ならではの国際貢献だと思います。他国ができない貢献をしていくことこそ、日本の世界における地位を向上させるのです。

昨日、初級の読解の授業で地震に関する文章を読みました。阪神淡路大震災で横倒しになった高速道路の写真や、東日本大震災での津波の映像を見せました。学生に対しては、こういう地震の多い国で暮らしているのだから、日頃からその対策を怠らないようにというまとめをしました。

上級の授業なら、ここからさらに発展させ、日本がすべき国際貢献っていうあたりに話を持っていくんですがね。このクラスの学生に上級でまた会うことがあったら、そんなことも考えてもらいましょう。

半袖がさわやかですね

4月30日(木)

昨日は、お天気もまあまあだったので、たんすの中身を完全に夏物にしました。部屋着も半袖短パンにし、冬物は衣装箱の底にしまいました。来月半ばにはクールビズにしますから、それ用の半袖のワイシャツを衣装箱の上のいつでもすぐ取り出せるところに移しました。コートはこの前の日曜日に開店したクリーニング屋の半額オープンセールに出していますから、これで冬のかけらがなくなりました。

学生は私なんかまだマフラーをしているころから半袖を着ていますからあまりあてになりませんが、ここのところ通勤電車の中でも半袖が目立つようになりましたから、季節は初夏になりつつあるようです。日の出はいつの間にか4時台に。朝が早い私は、日没よりも朝日の早さで季節の進み具合を感じます。私は半袖の着始めのころに腕に感じる心地よい空気の冷たさがとても好きです。秋口に感じる半袖の腕のひんやり感は、気を引き締めていかなきゃっていう感じにさせられますが、この時期の半袖の腕には開放感を覚えます。

学校へ出てくると、いつもより早めに出勤したO先生たちが鯉のぼりを飾り付けてくれました。校舎の正面はビルの谷間で若干青空が狭いのですが、それでも風になびく姿には優美かつ雄大なものがあります。半袖の学生が鯉のぼりにカメラを向ける姿は、とても伸びやかですがすがしいです。明日は、学校の中で端午の節句の催しをします。

そして、あさってからは5連休。私は半袖を着て恒例の関西旅行に出かけます。天気がいい日を見て、金剛山に登ってこようかなと思っています。

クルマより人

4月15日(水)

京都市が市内随一のメインストリートである四条通の車道幅を半減するそうです。その分、歩道を広げます。今の歩道幅は狭くて、車いすも満足に通れなければ、バス待ちの人がいると歩行者のすれ違いにすら苦労します。これでは日本を代表する観光都市として恥ずかしいということで、車道をつぶして歩道を広げようというわけです。

1980年代ぐらいから、日本は目に見えてクルマに優しい国になっていきました。クルマに乗ることを前提に国づくりが進められたと言ってもいいでしょう。中心街がさびれ、郊外の幹線道路沿いに広い駐車場つきの大規模なショッピングモールが造られ、数十キロも離れたショッピングモールどうしがクルマで来る客を奪い合うようになりました。安房トンネルを始め、峠道を貫くトンネルがどんどんできています。高速道路は国の隅々まで通じているように思われますが、それでもまだ建設されつつあります。街中でも、自転車は車道から歩道に追いやられ、歩行者はその自転車と歩道を貫く電柱を避けながら細々と歩く始末です。クルマなら1回の信号待ちで入れる道に、歩行者は2回の信号待ちが必要なことはよくあります。

そうではなく、歩行者や自転車に優しい街づくりが必要だと思っていました。京都市の方針は、まさにわが意を得たりと言ったところです。減ったとはいえ、去年も4000人以上もの命が交通事故によって奪われています。クルマを全面否定するつもりはありませんが、現状はクルマに甘い国になりすぎていると思います。道って本来は歩く人が主役なんじゃないでしょうか。

KCPの前の道は、学生たちがわがもの顔で振舞うせいか、ほかよりはだいぶ歩く人のための道になっていると思います。でも、クルマが来ると学生たちはあわてて道端によけます。この界隈、無理にクルマが通らなくても生活や業務に支障ないんじゃないかな。ですから、生活道路とかっていうのにして、指定車両以外通行禁止にできないものでしょうか。これは、クルマを持たない人間の発想かな。

花見ができる?

4月14日(火)

新学期が始まって以来、お天気があまりよろしくなく、各レベルともお花見に行けなくて困っています。4月期は初級から上級まで1回ぐらいは新宿御苑へ出かけるのが毎年の恒例なんですが、今年はどうも具合が悪いようです。天気予報によると木曜日あたりがベストで、それを逃すと今年はお花見なしになりそうです。

お花見と言っても、もちろんソメイヨシノは散っていて、今は八重桜が盛りだそうです。八重桜もソメイヨシノに負けず劣らず美しいです。私も御苑で何回か見たことがありますが、ソメイヨシノが内蔵しているはかなさみたいな、華やかさの裏側に隠された陰影がありません。こちらのほうが春の明るさを素直に表しているように思えます。

新宿御苑は、今週の土曜日、安倍さんたちのお花見があります。お天気はパッとしなさそうですが、おとといの統一地方選前半戦の結果から、きっとわが世の春を謳歌するのでしょう。東京は知事選も都議選もなく、どこで選挙をやってるのっていう感じでしたが、投票率からすると全国的にも盛り上がりに欠いていたようです。安倍さんは自分が推した候補者がどんどん当選を決めたといっても、40%か50%ぐらいの投票率の中で支持されたということについてはどう考えているのでしょう。私だったら不安でならないでしょうね。肝の太さの違いかな。

学生たち、特に来年は日本にいないかもしれない人たちには、桜を存分に堪能しておいてもらいたいです。先生方はぎりぎりまでお花見の可能性を探っています。

電王戦で勝った

4月11日(土)

プロ棋士とコンピューターの将棋ソフトが戦う電王戦で、プロ棋士チームが3勝2敗で団体戦を制しました。去年までは負け越していたのですが、今年初めて勝ち越すことができました。

プロ棋士3勝のうち2勝は、プロ棋士がコンピューターのプログラムの穴を突く形で勝ちました。プロ棋士側は事前にソフトを借りて研究しました。そこで見つけたプログラムの欠陥を攻め立てるように本戦で指し、勝利を得たのです。今日行われた最終戦は、わずか21手でコンピューター側が投了しました。

なんだか正々堂々としていないような感じもしますが、相手の弱点を攻めるのは戦いの基本です。負けに直結するような弱点があるということは、コンピューターはまだ人間の域に達していないということなのです。

また、そういう弱点があることが満天下にさらされたのですから、ソフトの制作者はその穴をふさぐべく努力するに違いありません。今回の敗戦は、ソフトの更なる発展につながるのです。そういう意味では、弱点を突いたプロ棋士は、自ら強敵を作る手助けをしたことにもなります。真の勝負師なら、戦い甲斐のある敵を求めるものです。

プロ棋士を負かすほどの力量を持ったソフトが意外なもろさを見せるあたりは、なんだか人間くさくて親しみが持てます。弁慶の泣き所みたいなところがあるんだなあと思うと、プログラムという抽象物が実体を伴ってまぶたに浮かんできます。電王戦はとりあえず今回で最後だそうですが、コンピューターがプロ棋士を完全に抜き去る日までは、どこかで何らかの形で、プロ棋士対コンピューターソフトの戦いは続けられていくでしょう。

桜のシーズン

3月23日(月)

週末は暖かかったと思ったら、西日本は東京以上に暖かく、鹿児島や名古屋から桜の開花のニュースが届きました。今朝、私の定点観測木である地下鉄四ッ谷駅ホーム脇の桜を見ると、まだつぼみが膨らみきっていないかなという感じで、東京の開花はもうちょっと先かなと思っていました。新宿御苑前駅で降りると、ホームには桜の花びらの地に書かれた新宿御苑の大木戸門と新宿門への案内の張り紙が出されていました。これが出ると花見シーズンが近いんですよね。

そんな表示を見て気分が少しばかり浮き立っていたところ、午前中に開花宣言が出されるではありませんか。そういうつもりで花園小学校校庭の桜を見てみましたが、四ツ谷の桜と同じでもう一息というところでした。今年は靖国神社の桜が特別早かったのかなあ。

今日は最高気温が17度まで上がりましたが、明日から木曜日ぐらいまではそんなに上がらないそうです。暖かい日が続くと一気に満開になり散ってしまいますから、多少ひんやりするぐらいがちょうどいいのです。でも、週末からは20度を上回る日が続くとも言っていますから、今度の週末が最初で最後のお花見のチャンスかもしれません。学生たちのフェイスブックにもたくさんの桜が咲くことでしょう。

東京は桜の開花宣言ですが、CさんやSさんやWさんが進学した北海道や東北地方の街には、まだ数十センチの積雪があります。春まだ浅いどころか冬真っ只中です。3人の入学式のころには、多少春らしくなるのでしょうか。

開業

3月14日(土)

世の中は北陸新幹線の開業で沸いています。北陸は、ストロー効果で“らしさ”が失われるという話もあれば、首都圏から気軽に訪れることができるようになって景気がよくなりそうだとも言われています。

北陸新幹線が通る金沢も富山も高岡も行ったことがありますが、どこも落ち着きのあるいい町だと思います。お城やお寺を中心として、独特の街を形作っています。そういう自分の街に誇りを持っていますね、北陸の人たちは。だから、幸福度が高いという統計結果も出てくるのでしょう。「住めば都」という言葉がありますが、北陸は太平洋側の人間が感じるよりずっと都であり雅なのかもしれません。

そんな空気に包まれた街だっていう情報が新幹線開業により全国に広がると、地方を再発見しようという流れができるんじゃないかと期待しています。2011年に東北新幹線と九州新幹線が全通しましたが、今回の北陸新幹線の開業は、それ以上のインパクトを与えるのではないかと思っています。

さて、KCPでは、アルク・凡人社主催の日本語教師塾が開かれました。私は偉そうに基調講演なんてものをやってしまいました。6階の講堂全体に置かれた机といすがさらっと埋まるほどの盛況で、その参加者の皆さんが真剣に私の話に耳を傾けてくださればくださるほど、本当に私ごときが…と思わずにはいられませんでした。いろんな仕事の都合で「塾」そのものには参加できなかったのも残念でした。「忙しさにかまけていては成長できない」なんて言っておきながら、仕事に追われて自己研鑽しないんですからね。講演の内容も薄まってしまいますよ。

北陸新幹線はこれから日本列島の動脈の1本になっていくことでしょう。開業ブームが落ち着いたら、仕事の合間を縫って、ちょいと様子を探りに行ってみたいなと思っています。それが授業のネタになれば、「世間は教材の宝庫」と申し上げた講演内容とも合致しますしね。