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ひねた子どもたち

1月15日(金)

国民の祝日としての成人の日は1月の第2月曜日に移動したものの、私たちの世代にとっては成人の日は1月15日のほうがしっくりきます。

大人になるとは、周りの人や状況など、自分以外のものに合わせて行動できる人、誰かのために、何かのために動ける人だと思います。逆に言うと、どんなに年齢を重ねていても、自分のことしか考えられない人は、まだ子どもなのです。こういう目で見ると、世の中にはひねた子どもが大勢います。

まず、吸殻のポイ捨てをする人。毎朝校舎の正面を見て回ると、たいてい吸殻が落ちています。多くは校舎前の道路ですが、敷地内に投げ込まれたと思える吸殻も珍しくはありません。一服の快楽が得られれば、後は野となれ山となれなのです。

それから、電車のシートに中途半端に座る人。詰めればもう一人座れるのに、込んでいても詰めようとしない人は毎日のように見かけます。ちゃんと規定の人数が座れるようにシートがくぼんでいても、そのくぼみを無視してまでゆったり座ろうっていうのは、どういう神経なのでしょう。

電車ついでに、駆け込み乗車してドアに挟まれ、車掌にドアの開閉をやり直させる乗客は、その電車1本の全乗客の時間を奪っていることに気付いていないんでしょうね。乗客1000人の電車で再開閉に10秒かかったとすると、10000秒=2時間46分40秒が無駄になります。新幹線に乗れば新神戸か八戸まで行けます。北陸新幹線なら終点の金沢で降りて、タクシーで香林坊まで行けちゃうかもしれません。

昼の時間にKCPの成人式がありました。大勢の新成人が集まりましたが、この中には上のような“子ども”はいないですよね。

多国籍

1月4日(月)

そのラーメン屋さんに入ると、明らかにベトナム人の名札を付けた店員さんが働いていました。その人が大学生なのか専門学校生なのか日本語学校生なのかまではわかりませんでしたが、なんとなく応援したくなりました。電車に乗っても、スーパーへ行っても、ベトナム語っぽい言葉が飛び交っていることがよくありました。

私が毎年泊まるホテルは、部屋の掃除担当者が名前の入ったカードを置いていきます。その名前に、フィリピン人と思われる名前が書かれていた日がありました。年末年始の名古屋は、今まで以上に多国籍でした。

スペイン語かポルトガル語かよくわかりませんが、その系統の言葉もいたるところで耳にしました。名古屋を中心とする中京地方は、自動車産業を始め、製造業が活発です。そこで働く外国人が大勢住んでいますから、そういう人々の言葉が街にあふれているのも当然です。地下鉄のアナウンスにも、取り入れられていました。

もう一つ、街に外国人の子どもが多いように感じました。もう少し正確に言うと、外国人の親に連れられた子どもが目立ちました。日本人は少子化がどんどん進んでいるのに、日本に定住している外国人は、自国にいるのと同じように子どもを作っているんじゃないでしょうか。言葉の壁もあるだろうし、日本人が嫌がる3K職場で給料も決して高くないかもしれませんが、いや、だからこそ、子どもが宝に思えるのでしょう。

名古屋は毎年年末にしか行きませんから、博物館などがいつも休館中です。名古屋城ぐらいはだいぶ前に行ったことがありますが、主だった博物館は鉄柵の外から眺めるだけです。今回も、東山動物園・植物園を外からのぞき、その周りの「東山1万歩コース」なる6.2キロの散策コースを歩きました。好天に恵まれ、高台の上から名古屋市街が見下ろせて気分はよかったのですが…。今年こそは、どこかの休みで腰を据えて名古屋市博物館や徳川美術館あたりを見学したいものです。

お正月は、エルニーニョの影響か、日本中がぽかぽか陽気で、重装備がまさに重く感じられました。仕事始めの日から面接練習やらわがままな学生の対応やら、正月休みのリフレッシュをすべて帳消しにするような仕事ばかりで…。今年も忙しいんでしょうね。

Pさんの机の上の時計

12月22日(火)

気がついたら、期末テスト。午前中の試験監督のクラスで、Pさんは教室に入るなりかばんから小さなデジタル時計を出しました。小指の第2関節ぐらいまでの長さと太さの時計で、それを机の端っこに置いてテストに取り掛かりました。

この時計を見て、京大が今年から入試会場に時計類の持ち込みを一切禁止すると決定したことを思い出しました。腕時計型の端末によるカンニングを未然に防ぐためです。京大は何年か前に、携帯電話を使ってネット掲示板に入試問題を投稿するというカンニング事件を引き起こされていますから、その手の機器の持ち込みに関しては敏感なのでしょう。

Pさんの時計は明らかに計時機能しかありませんでしたから、そのまま受けさせました。よしんばその時計が漢字かなんかを記憶していて、Pさんに好成績をもたらしたとしても、Pさんが得る利益はKCPで次のレベルに進級するということだけです。それが見つかって私にたっぷり説教されるリスクを冒してでも手にしたくなるような利益ではありません。

とはいえ、腕時計型端末が誰もが持つほど普及したら、KCPも規制を考えなければならないでしょう。私がKCPに勤め始めたころは、紙の辞書が主力でした。それがあっという間に電子辞書になり、今では電子辞書すら持たず、もっぱらスマホを辞書に使う学生のほうが多数派です。作文の時間に辞書使用可とすると、ネットのどこぞのページを丸写ししたような文章が出てくるようになりました。

技術の発展に伴う悪用を見ていると、性悪説を信じたくなります。腕時計型端末どころか、ウェアラブルコンピューターが進んだら、試験会場でめがねの着用が禁止されるようになるのでしょうか…。

終夜運転

12月19日(土)

今朝、新宿御苑前駅で降りると、ホームの壁に大晦日の終夜運転の時刻表が張ってありました。ゆうべの帰宅時は張られていなかったように思いますから、終電後にでも張り出したのでしょう。毎年、これが現れると、ずいぶん押し詰まってきたなと感じさせられます。既に、学校の近くには、お正月の笹のお飾りが出ています。

学校と家との往復に終始する生活だと、クリスマスやお正月が近いことを実感するチャンスがありません。確かに、カレンダーを見ればあと1週間足らずでクリスマス、2週間足らずで新年です。でも、日々の生活にそういう雰囲気があるかといえば、授業をして、面接練習をして、教材を作って、進学相談に乗って、…という調子で、何の変化も季節感もありません。強いて言えば、おととい、卒業生のYさんがアイスクリームでサンタクロースを作って届けにきてくれたことぐらいでしょうか。だから、今朝、大晦日の終夜運転の時刻表を見つけたときに感動したのです。まあ、残念ながら、丸の内線の終夜運転には乗りませんがね。

Aさんが退学の挨拶に来ました。いったん国へ帰って、1月からは関西に居を構えて、関西の大学を集中的に受験するそうです。関西へ行っちゃうと面接練習が簡単にはできなくなるから、あれやこれやいろんな場合を想定した面接練習をしていきました。また、今までは同じ志の友人が身近にいましたが、1月からはそうはいきませんから、1人で勉強するに当たってのアドバイスも求めていきました。

退学してもKCPとの絆が切れてしまうわけではありません。メールでやり取りできますし、陰ながら応援していきます。松飾が取れる頃、Aさんは初陣を迎えます。

末は博士か‥‥

12月10日(木)

Sさんは2017年に理科系の大学進学を目指す初級の学生です。授業後、理科系の大学・大学院で勉強したらどんな将来が待ち構えているかを聞きに来ました。

Sさんは理学部の物理か化学を考えています。そこで博士課程まで進んで、研究者になりたいというのが現時点での希望であり夢です。そして、大学に残ったらどんな将来像が描けるかという質問ですが、残念ながら、あまり明るい道筋を示せませんでした。

日本の場合、理科系で一番就職がいいのは修士です。博士になると企業への就職は修士より難しくなり、かといって研究職のポストが豊富にあるわけではありません。博士の学位を取ったのにそれに見合ったポジションに恵まれていない研究者がたくさんいます。たとえ研究職を得ても、そこに安住できるわけではありません。今は有期雇用がほとんどで、3年とか5年とかでしかるべき成果が出せないと、契約打ち切りになってしまいます。

万難を排して研究を続けていくにしても、基礎研究の場合、自分の研究がどのように発展・展開していくのか見えずに悩むことがよくあります。芽が出なくても頑張り続けることは、想像以上に精神的な負荷がかかるものです。いまどきの研究者とは、経済的にも精神的にもきついのです。

そもそも、物理や化学の研究がどんなところにつながっているのかという質問もありました。触媒や超伝導や熱電変換素子や、思いついたことをいくつか話しました。こちらは多少夢のある話ができたかもしれません。

なんかわけがわからないけどとにかくEJUでいい点数を、という学生が多い中、Sさんはきちんと足が地に着いた将来設計をしようとしています。いたずらに有名大学といわないところも立派です。あとはただ、日本語の力が伸びてくれれば…。

不安

12月3日(木)

今週は学生たちにマイナンバーについてのお知らせをし続けています。留学ビザで日本に滞在する学生も、マイナンバーの対象者だからです。私のクラスの学生はみんな進学希望なので、専門学校に入ったとしても、あと2年は日本にいますから、マイナンバーのお世話になることがきっとあるでしょう。

各方面で報じられているように、マイナンバーの配布は遅れているようですが、私のところには先月半ばに配達が来ました。あいにく留守で直接受け取ることはできませんでした。郵便受けには不在通知が入っていて、それに従って受け取りに行きました。いつもの不在通知と同じように所轄の郵便局の窓口へ行ったら、マイナンバーに関しては隣の建物だと言われ、そちらへ移動。そこで簡単な書類を記入し、免許証で本人確認し、受け取りのハンコを押して、ようやくマイナンバー通知書が受け取れました。

学生は、留守中に不在通知が届いていたら、それをきちんと処理して、マイナンバー通知書を受け取ることができるでしょうか。漢字の密度が高く、しかも見慣れぬ単語に満ちている不在通知を読みこなすことは、至難の業に違いありません。案の定、超級クラスでも、よくわからないから捨てたとか、何週間もそのままほうってあるとかいう学生が続出しました。初級の学生の実情がどうであるかは想像に難くありません。いや、想像を絶するものがあるかもしれません。

外国人である学生に限らず、日本人を80年以上も続けている私の母も、マイナンバーをもらったはいいけれども、何をどうしていいやらわからず、非常に不安がっていました。マイナンバーに数々の利点があることは認めますが、私を含めてこの国に住む人々にそれが何物であるかが十分に伝わっていないように思えます。なんか、物事の進め方が雑なような気がしてなりません。

2人のJさん

11月25日(水)

授業後、2人のJさんを呼び出しました。学校で団体申し込みをしたJLPTの受験票が届いたのですが、アルファベット表記が全く同一のこの2人のJさんは、区別がつきません。団体申し込みは受験者が手書きする部分がどこにもないため、筆跡鑑定もできません。そこで、2人を呼び出して、受験票を同時に開けて、中の写真を見比べて、決着をつけようと考えたのです。

日本の苗字は10万種とも30万種とも言われています。それに対し、人口が10倍以上の中国は、少数民族の苗字を加えても、2万種をちょっと出る程度、韓国はわずかに250種程度だそうです。日本では最多の苗字とされる佐藤さんでも200万人ほどで、全人口の1%強ですが、中国最多の李さんは7%強で、1億人近くいます。韓国では5人に1人が金さんだと言われています。

名前のほうも、「幸子」が“さちこ”にも“ゆきこ”にもなるように、日本は漢字の読み方が多様ですから、なおのこと同姓同名の頻度を下げています。これに対して中国・韓国では伝統的な名づけ方があるようで、それに従うと、必然的に同姓同名が日本よりもずっと高い確率で出現します。

現在、JさんのほかにDさんペアも在籍しています。Aさんも今年3月の卒業生に同姓同名がいました。…というふうに、今までにも同姓同名が少なからず存在していたのですが、今回のようにはがきの表面からは全く区別が付かずに困ってしまったのは初めてです。

授業後、1人のJさんは時間通りに職員室に現れたのですが、もう一人のJさんは、欠席だったのか、来ませんでした。まじめに来てくれたJさんを待たせるわけにもいかず、何とかならないものかともう一度JLPTの団体申し込みのページを見てみたら、受験番号が出ているではありませんか。受験票が届いた時には載っていなかったのに。それと受験票が封じ込まれているはがきの受験番号とを照合して、来てくれたJさんに無事受験票を渡すことができました。

クラスのみんなが受験票をもらったのに自分だけもらえずに心配していたJさん、ようやく受験票を手にして、改めて受験への意欲が湧いてきたようです。

やっぱりわからない

11月16日(月)

日本時間の13日に発生したパリの同時多発テロは、ISの犯行ということで、フランスはISの本拠地を空爆したそうです。宗教上の考えがからんでくると、私なんかはどうも理解が追いつかなくなります。

日本もかつては“宗教戦争”と呼んでもいい国内戦がありました。島原の乱や信長対本願寺の戦い、古くは大化の改新だってそういう面が見られます。でも最近はそこまで激しい戦いはありません。オウム真理教のテロが成功していたら、日本の宗教戦戦争に新たな1ページが加わるところでしたが、幸いにもそこまでの傷痕を残すことなく鎮静化しています。

日本人は無宗教ではありませんが、敬虔な信者は少ないです。だから宗教の違いが元で深刻な争いが起こることもあまりありません。でも、それは同時に、こういう事件に対する理解が深まらない、いまひとつ自分のこととは思えず他人事どまりになってしまうということでもあります。私なんか、その典型でしょう。今回の新聞記事を読んでも、亡くなった方々への同情や哀悼の気持ちは湧いてきますが、この人たちが犠牲にならなければならなかった原因については、思考が及びません。

ISがフランスを狙った理由についてもあれこれ言われていますが、どうもよくわからないというのが、私の本音です。イスラム教やキリスト教そのものでなくても、仏教に帰依する心がもっと深ければ、それを通してこういった事件の本質に近づけるのではないかと思います。モスクで祈りをささげる人々を見ればその信仰心に美しさを覚えます。もう30年も昔になりますが、ヨーロッパで見た巨大な宗教画には、その絵を完成させようとしたエネルギーのすさまじさに心を打たれました。しかし、そういった感動を与えるものとその宗教の対立の激しさが、どうしても結びつきません。

宗教心が全体に希薄だから何も起きないことを幸せに思えばいいのでしょうか。最後の最後に心のよりどころがないことに寂しさを感じればいいのでしょうか。私は、仏像にも神殿にもステンドグラスにも素直に感動できるこの曖昧さが、とても好きです。

食費はいくら

10月16日(金)

朝刊に日本の大学生の生活費に関する調査の記事が出ていたので、上級クラスでその記事を取り上げました。記事によると、親元を離れて暮らす大学生の場合、全支出の約4割を住居費に使い、食費は2割だそうです。食費を削ってでも、住環境を整えたいようです。

記事を読ませる前に学生に聞いてみたところ、食費は2~3万円ぐらいが相場で、家賃はもうちょっと高いという学生が多かったです。つまり、日本人の大学生と同じ傾向です。学生たちが家賃に振り向けるお金は、食費よりも低いんじゃないかと思っていましたから、学生たちの答えはちょっと意外でした。でも、確かに、学生たちの住所にはマンションっぽい名前が目立ち、ストリートビューで見てみても、こじゃれた建物が多いです。

30年以上も昔の、私の学生時代と比べること自体がナンセンスかもしれませんが、この間に食はさほど変わっていないのに対し、住は大きく変わりました。イタリア料理が流行ったり、韓国料理が広まったり、マクドナルドのメニューもいくらか変わったりってことはありますが、食の基本ラインは同じです。ところが、私が住んでいたバストイレなしの4畳半なんて、もうどんなに探しても見つからないでしょう。

学生たちに家賃にお金をかける理由を聞いてみると、これまた日本人大学生と同じように、いいところに住みたいからという答えです。学生たちの家庭が豊になったのですね。快適な部屋で勉強に集中してもらおうというのが、学生たちの親の考えなのだと思います。

ただ、安くておなかが膨れる食事というと、おにぎり、パン、カップラーメンなど、炭水化物を挙げて来ましたので、太りすぎに注意してもらわなければなりません。そして、ビタミン豊富な果物を、是非、積極的に取って、健康維持に努めてもらいたいです。

4枚の切符

10月15日(木)

お昼を食べて帰ってきたら、1階の受付にKさんが立っていました。Kさんは大学受験のため、明日の授業後、新幹線で京都に向かいます。京都までののぞみの指定席を取ったのはいいのですが、乗り方がわからないと言います。乗車券と特急券とで片道2枚、往復で4枚の切符を目の前にして、戸惑っている様子でした。

.Kさんは超級クラスの学生で、日本に2年近く住んでいます。もちろん、Kさんの国にも鉄道はあります。それでも新宿駅で切符を4枚も渡されると、不安でたまらなくなってしまうのです。自分の人生を左右しかねない旅行だっていうプレッシャーがそうさせている面もあるでしょう。また、新宿駅の窓口で切符の使い方を聞こうと思ったけど、後ろに並んでる人がいたから遠慮したとも言ってました。そういう優しさはKさんの美点ではありますが、時にはずうずうしさ、ふてぶてしさも必要です。

私は旅行が好きで、まとまった休みのたびに旅行していますから、どんな切符でもビビることはありません。でも、旅慣れない人にとっては、乗車券と特急券の2枚だけでも怖気づいてしまうのでしょう。それが往復で2組あるとなると、間違ってしまうのではないか、そのためせっかく取った指定席に乗り損ねるのではないかって心配になるほうが普通の神経かもしれません。

乗車券と特急券を1枚にできないものでしょうか。いろいろと複雑な事情があって2枚としているのでしょうが、お客のほうに顔が向いていないと言われてもしかたがないシステムだと思います。まあ、常連さんはケータイをかざすだけで、通常料金より安く新幹線に乗れちゃうんですから、お得意様には優しいんですね。

いずれにしても、Kさんには、新幹線の切符ごときに振り回されることなく、あさっての入試で全力を出し切り、来月初旬に朗報を聞かせてもらいたいです。