Category Archives: 社会

喜びと焦り

1月18日(金)

BさんがK大学に合格しました。本人としてはいけるだろうと思っていたM大学がダメだった後だけに、喜びもひとしおのようでした。これから国立大学の試験が控えていますが、のびのびと戦えそうです。

Bさんは先学期の中ごろからノイローゼ気味で、引きこもり状態に陥ってしまった時期もありました。入学したばかりのころは明るく社交的だったのに、いったいどうしてしまったのだろうと心配もしました。各方面からかなりのプレッシャーを感じていたのでしょう。友だちがどこかの大学に受かったというニュースも、Bさんを追い込むことになったのではないかと思います。家族の応援も教師の期待も、Bさんにとっては重荷だったのかもしれません。

最近、親の意見に縛られて身動きが取れなくなってしまった学生が増えてきたように思えます。もう1年KCPで勉強して日本で進学しようと思っていても、親から3月までと厳命されて、進路変更を余儀なくされている学生も、私が知っているだけで複数名います。かつては、親と大喧嘩をしてまでも自分の意志を通そうとした学生もいましたが、今はそういう話を耳にしません。

Oさんは、親に期限を切られた上に帰国の道を閉ざされ、焦っています。中級の段階でKCPを出ざるを得ず、「志望校」ではなく「受験可能校」を手当たり次第に受けています。ご両親がどういう考えでOさんを留学させたかはわかりませんが、これでは子どもの将来をつぶしてしまうのではないでしょうか。これでは日本留学が青春の無駄遣いになりかねないと危惧しています。

その他、合格発表があったはずなのに結果報告に来ない学生多数。泣きつくのだったら、今のうちです。手遅れになったら、どうしようもありません。

引退

1月16日(水)

横綱稀勢の里が引退してしまいました。先場所も今場所も1勝もできなかったのですから、また、左腕のけがが完治する見込みも薄いのですから、やむをえない選択だと思います。横綱昇進の場所に負傷して以来、満足な相撲が取れなかったのが残念だったのは、誰よりも稀勢の里自身です。不完全燃焼の引退じゃないかと思います。

もう1つ不完全燃焼の原因を言わせてもらうと、師匠に恵まれなかったことではないでしょうか。稀勢の里は元横綱隆の里が起こした鳴戸部屋に入門しました。現在の稀勢の里の師匠である田子の浦親方(現役時は「隆ノ鶴」)は、鳴門部屋では先輩後輩の関係でした。いや、稀勢の里は番付面では隆ノ鶴を追い越してしまったので、隆ノ鶴のほうが稀勢の里を上位者として一歩下がった形で対していたかもしれません。いくら10歳年長とはいえ、同じ釜の飯を食っていた、番付上では下位者を心の底から師匠と思えたのかなあと思っています。

隆ノ鶴が稀勢の里の師匠になったのは、元横綱隆の里の鳴戸親方が急逝したからです。しかも鳴戸親方が亡くなったのは、稀勢の里が大関に昇進する直前です。精神的な支えを必要としたときに、最も頼りとなるはずだった人が消えてしまったのです。稀勢の里は、大関になってから伸び悩みます。もし、隆の里の鳴戸親方が生きていればと思うことが幾度もありました。そして、ワンチャンスでつかんだ横綱昇進。そこまではよかったのですが、その後苦境に立たされた稀勢の里を支えるには、前頭8枚目が最高位の田子の浦親方では役者不足だったことは否めません。隆の里の鳴戸親方だったらここまでボロボロになる前に、稀勢の里に何かしてあげられたんじゃないかと思わずにはいられません。

私も「稀勢の里」を生んでいないか、とても気になります。

モク拾い

1月4日(金)

2019年の最初の仕事は、タバコの吸殻7本とフィルター1個を拾ったことでした。年末年始の休み中に、1日1本ずつぐらい校舎前の道路に吸殻のポイ捨てがなされたことになります。ここは酔っ払いが歩く道ではありませんから、歩きタバコをした人が何気なく道路の端に捨てたのでしょう。しかし、この「何気なく」が問題なのです。本人には犯意も悪意も何もなく、無意識に近い動作ですから、タバコをやめない限りポイ捨ても止まないでしょう。吸殻が落ちていると道や街が汚く見えること、捨てられた吸殻を見ながら踏み越えて建物に入る人の心、新年早々誰が吸ったかわからない吸殻を拾う人の気持ち、そんなことなど寸毫も考えることなく捨てているに違いありません。

セブンイレブンが店の前に置いてある灰皿を全面的に撤去するという記事が休み中の新聞に載っていました。受動喫煙防止のためだそうで、結構なことだと思ってその記事を読みました。しかし、その代わりにポイ捨てが増えたら意味がありません。全てのとは言いませんが、どうして喫煙者は街の美化に無関心、自分の行いに無自覚、他人の気持ちに無頓着、社会に対して無責任なのでしょう。チコちゃんじゃありませんが、“ボーッと生きてんじゃねーよ!”と言ってやりたくなります。

…というような事件もありましたが、いよいよ2019年が始まりました。本当の意味での初仕事は、入学式で在校生代表として挨拶することになっているBさんの原稿チェックでした。さすがBさん、ほんのちょっといじっただけで立派な原稿になってしまいました。その後、担任クラスの学生へのコメント書きもしました。

寝正月に近かった体が、だんだん戦闘モードになってきました。

2年前の宿題

12月22日(土)

12月の卒業式は対象者が少なく、入学の学期がみんな同じなので、毎年暖かい雰囲気になります。多くの学生が初級から上級まで経験していますから、多くの先生の手を経ており、先生の顔とそのレベルでの思い出が直結しています。同じ行事や経験を共有していますから、不思議な連帯感も流れています。

今年もそういう感覚が色濃く現れた卒業式となりました。私にとっては、2年前の入学式での校長挨拶の内容を覚えていてくれたことがうれしくもあり、驚きでもありました。2年前、私は入学生に宿題を出し、その答えは卒業するときに教えると挨拶の中で述べました。その宿題について聞いたら、何名かが2年間ずっと気に留めていてくれたのです。

その宿題とは、日本人は映画のエンドロールを最後まで見る人が多いが、それはどうしてかというものでした。まあ、留学生は日本で映画を見る機会はそんなにありませんから、答えにたどり着けなかったのはやむをえないところがあります。でも、それを考え続けることで日本人の心のひだの一端にでも触れることができたとしたら、宿題を出した側としては大満足です。

さて、その答えですが、日本人は物作りに携わる人に敬意を払う文化が根付いているというのが、私の意見です。映画ならカメラを回した人やタイムキーパーや衣装さんや、監督や俳優以外の映画作りに携わった人にもしっかり拍手を送ります。これ以外にも、物事を陰で支えている人にも注目する人は多いです。これは、日本の美風だと思います。近頃、その美風が損なわれてきているのではないかと、少々心配しています。

卒業生たちは、明日からそれぞれの道を歩き始めます。

勝ち抜くために

12月17日(月)

授業後、Sさんが面接練習を申し込んできました。Sさんはすでに何校か受けていますから、何を勉強するかとか将来どんな仕事をするかとか自分のアピールポイントなどは、心配する必要がありません。残るは、多くの大学の中からその大学を選んだ理由です。

パンフレットやインターネットのページなどから大学が考えたキャッチフレーズを利用してもいいですが、それでは他の受験生と差が付きません。ですから、Sさんのように同じような系統の学部学科を多数の大学で受験する場合、その大学の裏情報というか、ネットのページなどに記されていない特徴を教えます。比較的新しい学部学科ならそれが生まれた経緯を、新しいキャンパスならその大学とそのキャンパスがある地域とのつながりなどということを、学生の頭に注ぎ込みます。

東京以外の大学ならその地方の特色なども教えて、大学やその地域を見る目に新しい視点を加えます。もう10年近く昔になりますが、私のクラスの学生がある県の国立大学を受験しました。その県には全国的に有名な、その県の名前を聞いたら誰もが真っ先に連想する特産物があります。それを面接で口にしてもあまり意味がありませんから、もう1つ、知る人は少ないけれども私たちの生活に欠かせない特産物を教えました。その学生は、面接でその特産物に触れたとたん、面接官の目つきが変わったと報告してくれました。もちろん、合格しました。

要するに、その大学やその大学がある地方にどれだけほれ込んでいるかをアピールすることが肝心なのです。通り一遍の知識ではなく、きちんと調べて面接に臨んでいるのだと、前向きの姿勢を示すことができれば、面接官に認めてもらえます。

Sさんにも志望校のマル秘情報を教えました。本番は年明けです。正月休み中にその情報を膨らませられれば、合格が見えてきます。

大学の嘆き

12月15日(土)

東京からは飛行機が一番便利なくらいの距離にあるA大学の先生が、こんなことをおっしゃっていました。「東京の日本語学校の学生さんは、なかなかウチへは来てくれません。だから、最近は海外の高校に直接学生募集をかけてるんです。海外までの旅費を考えても、そっちの方が効率がいいくらいなんですよ」。

A大学は、少なくとも日本人にとっては“いい大学”です。A大学ですら、東京での学生募集に苦労しているのかと驚いたくらいです。でも、それが現実のようです。

KCPの学生も、なかなか東京を離れようとしません。Jさんも、B大学とC大学の大学院に受かりましたが、日本人なら考えるまでもなく選ぶであろう国立B大学を捨てて、東京の私立のC大学にしようと考えています。いろいろと理由を言い立てていますが、東京から離れたくないという本心は見え見えです。

でも、留学生ばかりを責めるわけにもいきません。東京一極集中の結果が、A大学の嘆きであり、B大学を捨てようとするJさんの気持ちなのです。多様な人材を育てるとか、個性を重視するとかいっていますが、東京一極集中が改まらない限り、本当の意味でそういったことが実現する見込みは薄いでしょう。

まず、日本人の心が東京至上主義から変わることが必要です(そういう意味で、「東京」オリンピックじゃないほうが良かったんですがね)。私は、来年からの新しい天皇のお住まいを京都御所にすべきだと思っています。建前上、天皇は今も東京まで行幸なさっているのですから、京都にお戻りになることが本来の姿なのです。国会の開会のときは東京までお出ましになり、内閣が代わった時は大臣どもが雁首そろえて京都まで出向くのです。新任の大使は、京都駅から京都御所まで馬車で赴くのです。国賓の晩餐会も、京料理でいかがでしょう。

陛下の御動座はともかくとして、日本人の目が東京の外に向くようにしないと、少子化・人口減も相まって、日本の将来は明るくないと思います。

面接30分

12月3日(月)

週末、Mさんは第一志望のS大学を受験しました。面接試験だけなので、志望理由を始めとする想定問答の練習を集中的にして臨みました。他の受験生は10分ほどで終わったのに対して、Mさんの面接は30分以上にも及びました。それも、Mさんにとっては答えづらい政治がらみの事柄に関する質問が中心で、志望理由や将来の計画などは答えてもろくに取り合ってもらえませんでした。志望理由にいたっては、「そんなの信じられないね」と一刀の下に切り捨てられてしまいました。また、Mさんが一次試験で書いた小論文を、面接官は読んでいなかったようでした。そこに書いた内容について話したら、慌ててMさんの原稿を取り出して、内容を確認していました。

圧迫面接と言ってもいいような面接に精根尽き果て、Mさんは帰りにS大学最寄りの駅で泣きました。それまであこがれていたS大学に、今は失望の気持ちしかありません。S大学は留学生にも日本人にも評価の高い大学です。だからMさんも第一志望にしました。しかし、今は最低の評価に落ちてしまいました。

S大学の先生方は、こういう実情をご存知なのでしょうか。MさんはこういったことをSNSに訴えるようなことはしませんでしたが、そういうことをし慣れている人なら、国の言葉でそういう話を拡散させるでしょう。一受験生の言葉だけなら影響は皆無に等しいかもしれませんが、こういう目にあった受験生があちこちで声をあげたら、S大学の評判も地に落ちかねません。

私たちだって、学生に厳しい言葉で指導することはあります。でも、学生との距離感を正確に測って、この学生はここまでだったら素直に受け止めてくれるだろうという見通しを立てています。少なくとも、初対面の学生にその人格を否定する勢いで何かを押し付けるようなことはしません。でも、今回の事例は他山の石として、心に深く刻んで起きます。

Mさんは、さばさばした顔でS大学に落ちた時の身の振り方を相談に来ました。これをばねに、きっとどこかに受かってくれることと信じています。

55年ぶり

11月24日(土)

大阪で2025年に再び万博が開かれることになりました。前回が1970年でしたから、55年ぶりの開催となります。東京オリンピックの56年ぶりとちょうど同じくらいの間隔となります。

70年の万博は、当時京都に住んでいた親戚のうちに泊まって見に行きました。夏休みの真っ最中で60万人以上も入場した日だったので、米国館の月の石をはじめ“目玉”はすべて長蛇の列で、数時間待ちと聞き、見るのをあっさりあきらめました。だから、本当に会場に入ったというだけで、人ごみを見て帰ってきたというに等しく、万博に対する思い出はこれといってありません。でも、国全体が万博の熱気で盛り上がっていたことははっきり覚えています。幼心にとにかく万博を見なければと思い、また、親戚も是非見に来いと言ってくれたので、夏休みの京都行きとなったのです。まだ若かった両親も、好奇心満杯で見に行きました。

さて、25年の万博は何が目玉になるのでしょう。AIが何かするのでしょうか。そうだとしても、ちょっとやそこらのことでは、私たちは驚きません。見学者の耳目を引くには、相当なことができなければなりません。私なら、そうですねえ、AI搭載ロボットが頭のてっぺんから足の裏まで、文字通りツボを押さえたマッサージをして快感に浸らせてくれたら、驚いてあげてもいいでしょう。

日本語学校の教師としては、2025年に向けて日本語学習者が増えるかどうかが気になるところです。世界中で日本に興味を持つ人が増え、その一部でもこちらに回ってきてくれたらありがたいところです。通訳は機械がするようになっているでしょうから、外国人を引き付けるだけの魅力がこの国にあるかどうかが問われます。7年後、どんな答えが返ってきているのでしょうか。

寒い朝

11月21日(水)

今朝は寒かったですねえ。最低気温が5.8度だったそうです。今シーズン最低ですが、平年より1.3度低いだけです。ごく普通の変動範囲内です。それでも、結露でぐっしょりぬれている窓を見て、思わずワードローブからコートを引っ張り出し、あわてて洗濯タグを取り外し、がっちり着込んで家を出ました。マフラーを巻いていない首筋がスースーしました。

札幌は、平年よりだいぶ遅れて、今シーズン初積雪・3cmを記録したそうです。それも、記録上はお昼にはゼロに戻ってしまいました。やはり全国的に冬の歩みが遅いようです。気象庁のページで全国の積雪状況を見ると、どこも雪は少ないです。積雪の最大値が青森県の酸ヶ湯で15cmです。平年の1/4ぐらいにとどまっています。日本で一番雪の積もるところですから、さすがといえばさすがです。

この冷え込みを一番厳しく感じているのは、きっとゴーンさんでしょう。留置場とはいえ暖房なしということはないでしょうが、一夜にして世界一の辣腕敏腕経営者から容疑者に転落ですから、心の中は寒々しいものがあるに違いありません。

それにしても、毎年数億円から十億円以上も報酬をもらっているのに、さらに世界中に自宅を持つとは、いったいどこまで財産を築けば気が済むのでしょう。私だったら、1年だけ数億円の収入があったら、あとは遊んで暮らしちゃいますがねえ。死ぬまで働かずともよいお金を手にしたら、それ以上の財産は求めません。だから、一攫千金を求めて、もうすぐ発売開始の年末ジャンボを今年も買います。

手紙はいくら?

11月15日(木)

中間・期末テストの日は、学生の登校時間は早まり、教師の出勤時間は遅くなります。学生はラウンジで教科書を開いて最終チェックをしようと思い、いつもより早く学校へ来ます。教師は前日までに準備した試験問題を粛々とさせるだけで、授業準備が不要なので、のんびりとお出ましになります。定期試験日は、普段とはちょっと違う空気が流れる朝のKCPです。

試験監督は、いつもと違うクラス・レベルの教室に入るので、何かと刺激になります。私はレベル1のクラスの監督でした。監督中に学生が取り組んでいる試験問題をのぞいてみると、“80円の切手を5枚ください”という文を書かせる問題がありました。あれ、今、手紙って80円じゃなかったよねえ…と思いましたが、ちょっと自信がありません。消費税率が8%に上がった時に端数がついたはずだけど、最近郵便料金がまた上がったような話も聞いたし…。つい先日、年賀状を買った時、62円になっていましたからねえ、はがきが。

はがきと封書の郵便料金は、昔は常識でしたが、今はどのくらいの人が知っているのでしょう。先週あたりかなあ、クラスで「電話とメールとどちらが好きか」という話題になり、今はメールよりもLINEだとか、スカイプは電話なのかとかと話が広がりました。そのとき、「先生は手紙を書きますか」と聞かれました。振り返れば、ここ何年も、年賀状以外の手紙は書いていないような気がして、「年賀状だけですね」答えました。学生たちは笑っていました。

その学生たちにしても、出願書類を送る時になって初めて郵便局のお世話になったという例が多いと思います。郵便局という単語はレベル1で勉強しますが、実は学生にとっては縁の薄い存在のようです。そういえば、私も郵便貯金の口座があるはずですが、どうなっているのでしょう。

ネットで調べたら、封書は82円でした。