Category Archives: 社会

前がすっきり

12月26日(土)

仕事納めの日ですから、年末恒例・大掃除をしました。私は1階の給湯室を中心に、磨いたり掃いたり吸ったりしました。自分のはたらきで身の回りがきれいになっていくと、気持ちがいいものです。特に、流しの排水口まわりは、わけのわからない汚れがこびりついていますから、化学の力や腕力でそれを落としていって地肌が現れると、感激もひとしおです。

私は化学の世界にいましたから、アルコールや塩素などの消毒液のにおいに慣れてもいますし、むしろ好きです。だから、水で薄めた消毒液から発するかすかなにおいに囲まれて掃除をするのは、ちょっとした快楽です。体には悪いでしょうね、きっと。

幸いにも、私が取り組んだ範囲からは歴史を感じさせるような、いつの時代か定かでない骨とう品は出てきませんでした。そういうものが出てくると、そちらに気を取られ、昔を懐かしんでいるうちに時間がいくらでも過ぎ去ってしまうんですよね。給湯室は、汚れを落として、今年はそれに消毒が加わっただけです。干からびた食べ物か何かがひょっこり出てこなくてよかったです。A先生みたいに、数年前の学生が書いた反省文かなんか出てきたら、新年を迎える気分もしぼんでしまいます。

掃除が終わったころ、新しいパーテションが届きました。今まで、職員室内のパーテションは、手作りの、実用本位、見てくれ後回でしたが、新年からあるのかないのかわからないくらいのパーテションで、視界が広がります。そうですね、2021年は見通しのいい年にしたいですね。

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静かなイブ

12月24日(木)

八八八。末広がりが3つ並んで縁起がよさそうですが、都内の新規感染者数となると、困った数です。曜日別過去最高を10日連続で記録しているとか。こういう状況に恐れをなしたのでしょうか、退学・帰国を決めた学生が予想より多くなりました。

私は家と学校の間を行き来するだけで、帰りも寄り道はしません。朝は始発に近い時間帯ですいているし、夜も1年前に比べればずっと車内に余裕があります。昼ご飯だって、12時ごろから1時半ごろまでの混んでいる盛りは避けます。店をのぞいてみて席がある程度以上埋まっていたら、そこには入りません。密になるおそれがありますから、自宅マンション以外ではエレベーターに乗りません。

ところが、昨日タクシーで帰ったというK先生が運転手さんから聞いた情報によると、新宿の繁華街はとんでもないことになっているようです。マスクをしている人が珍しく、そういう酔客に対して乗車拒否をすると、写真を撮ってばらまくぞと脅されるそうです。そういう人たちが感染し、家族にうつして数を稼いでいるのではないでしょうか。

大規模な忘年会は自粛されていますが、仲間内の飲み会はそうでもないのかもしれません。大人数で会食した菅さんもかからなかったんだから、俺たちはそれより少ない人数だからへっちゃらだい…ってところでしょう。ウィルスが変異して感染力が強まったという話も聞きます。そういった諸々の要因が相まって、おめでたい数になってしまったのだと思います。

今夜はクリスマスイブですが、もちろん、何もしません。夢の中でサンタさんに会って、プレゼントをいただきましょう。

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密、マスク

12月14日(月)

今年の漢字は「密」になりました。私もたぶんそうじゃないかなあと思っていました。この字の活躍ぶりを思えば当然ですね。「三密」も、最初の頃は「山蜜」などと、とんでもない変換がなされましたが、今では“さんみ”打ち込んだだけで候補に挙がってきます。

午後からCさんの面接練習がありました。教室に2人だけですから、全然密ではありません。しかし、マスクをしているため、Cさんの声がとても聞き取りにくかったです。Cさんの声は、もともと遠くまで響く質ではありません。声の大きさも、さほどではありません。それにマスクが加わったものですから、2メートルぐらいの距離でしたが、かろうじて話の内容が理解できる程度でした。面接官が私よりも年寄りで耳が遠かったら、聞こえないということになりかねません。そして、往々にして、そういう年寄りが合否決定の場で大きな力を持っていることが多いのです。

でも、Cさんの声が確実に聞き取れる距離となると、3人ぐらいの面接官Cさんが顔を突き合わせるような、まさに密そのものの状態になってしまいます。ですから、Cさんには、マスクの中で口を精一杯動かして、可能な限り声をこもらせないようにと指示しました。どんなに素晴らしいことを語っても、相手の耳に届かなければ何も言わないのと同じです。

Cさんは、対面ではなくオンライン面接なら、マスクをしなくてもいいですから、力が発揮できるのではないでしょうか。オンラインなら密の心配もありませんしね。そういえば、今年は集団面接って行われているんでしょうか。あれも、考えてみれば、けっこうな密ですよね。

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新機種導入

11月26日(木)

KCPにもようやくサーモグラフィーが導入され、今朝から使用開始しました。設置のしかたが悪いのか、微調整が足りないのか、すぐに反応しないこともあり、学生も教職員の、顔を近づけたり離したりしていました。私も3回ぐらい体を前後に揺らし、どうにか35.8度と測定され、めでたく入館を許されました。

今まではおでこに向けて赤外線を発射して体温を測っていました。この手の体温計で測定されることもよくありましたが、ほとんどの場合、測定後に「はい、どうぞ」とか言われて検問を通過させてもらうだけでした。でも、体温って非常にプライベートな数値ですよね。測定者はその数値が見られるのに、その体温の持ち主(?)であるこちらには知らされることなく処理されてしまいます。そんなとき、秘密を勝手に暴かれたような、プライバシーをのぞき見されたような、違和感というありふれた言葉で片付けてほしくない感情が残りました。

朝早く校内に入ってくる人に対しては、出勤しているのが私だけですから、私が体温を測っていました。私は上述の輸な感覚を抱いていましたから、おでこに向けてピッとやった後、体温計を180度回転させて、測定値を本人に見せていました。そのうえで「異常ありません。どうぞ」と言って、入ってもらいました。

街にサーモグラフィーが普及した結果、こんな違和感を覚えることはなくなりました。その代わり、サーモグラフィーが反応しないことで立ち止まらねばならないケースが出てきました。連休中、ある建物に入ろうとしたところ、サーモグラフィーの許可がもらえず、今朝の私のように体を揺らしたりかがんだりしなければなりませんでした。衆人環視というほどではありませんでしたが、何となく気恥ずかしかったです。

受付前の学生たちを見ていると、やはりサーモグラフィーでの検温がなかなか一発では決まらないようです。しばらくは、おでこにピッも併用していくことになるでしょう。

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社長になりました

11月24日(火)

昼食に出ようと支度をしていると、職員室の入り口付近から明るい叫び声が聞こえました。ちょっといいなりをした見慣れぬ人が入ってきました。「先生、Gさんですよ」と声をかけられましたが、私の頭の中で線がつながるまでしばらく時間を要しました。それもそのはずです。Gさんは13年前の卒業生です。顔つきも変わり、しかもマスクもしていますから、わからない方が普通です。

Gさんは15年前にレベル1に入学しました。その時のクラスの担任が私でした。努力家で、アルバイトをしながらでしたが、成績は常にクラスでトップを争っていました。レベル3課4の時には、新入生に勉強のしかたを手ほどきする先輩役を立派に務めました。その後も順調に進級を続け、KCP卒業後はA大学に進学しました。

A大学卒業後日本で就職したという消息を風の便りに聞きましたが、その後どうなったか全然わかりませんでした。そのGさんが、突然姿を現したのです。今は起業し、社長として多くの従業員の上に立っています。Gさん自身が波乱万丈と語っているように、言い知れぬ苦労はあったでしょうが、それを乗り越えて学校に錦を飾るかのように訪れてくれました。

私は学生の顔や名前をすぐに忘れてしまう方ですが、Gさんのことは明確に覚えていました。それは、やはり、公私ともに全力で留学生活に取り組み、苦しさに押しつぶされることなく夢をかなえたからです。進学後もそこがゴールだと思わず、新たな目標を掲げ、それに向かって突き進み、世間の荒波を乗り切り、今の地位を築いたのです。在校生たちに講演してもらいたいくらいです。

苦労を成長の糧にできる人って、違いますね。

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もう卒業?

11月20日(金)

ZさんがR大学の志望理由書をメールで送ると言っていたので、来週の教材を作りながらそれを待っていたら、職員室の入り口にあやしい影が。どうやら私を呼んでいるようです。行ってみると、卒業生のSさんとYさんとHさんでした。やはりマスク顔だとわかりにくく、声を聞いたりしぐさを見たりして、やっとわかりました。みんな大学4年生です。ついこの前卒業したばかりだと思っていたんですけどね。

Sさんは今通っているA大学の大学院のほかに、B大学の大学院にも受かったそうです。B大学の方が有名だからそちらにするとのことです。「将来はノーベル賞だね」などと、YさんやHさんにからかわれていました。

Hさんは、今通っているC大学の大学院にそのまま進学します。チューターとして、国の後輩に指導したり相談に乗ったりすることもあるそうです。

Yさんは留年です。人生に迷っていると明るい顔で言っていました。自分と向き合い、将来の道を見つめ直したいから、敢えてモラトリアムの道を選んだと、雄弁に語っていました。悩むのも、若者の特権です。

3人とも4年生ですから、授業がたくさんあるわけではありません。その数少ない授業もオンラインですから、暇でしょうがなく、だからKCPへ来たと言っていました。3人そろったのだから食事でもするのかと思ったら、それはしないのだとか。外食よりもコンビニ弁当だそうです。

Sさんは「Go To」を使って地方から東京へ出てきました。Go Toの地域限定チケットを見せてもらいました。菅さんは何をやっているんだとか言いながら、恩恵にあずかっているようです。伊勢丹で靴下でも買って帰りななどと言われていました。

進学指導を受けに来た学生を見て、懐かしがっていました。そう言えば3人とも、何回も面接練習したっけ。志望理由書をめぐって、議論も重ねました。そういう日々を思い出しました。

それはそうと、Zさんからの志望理由書のメール、まだ届きません…。

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やっと始まります

11月17日(火)

昼に中間テストの採点をしていると、M先生が私を呼びます。悪い学生に説教をしろというのでしょうか。出席率が悪いのか、成績が悪いのか、素行が悪いのか、いずれにせよ気が重い話です。

行ってみると、マスクで顔が半分以上隠れた青年が立っています。???という顔をしていると、「先生お久しぶりです」と言いながら、マスクを外して顔全体を見せてくれました。卒業生のNさんでした。「今度、姉がお世話になります。よろしくお願いします」と、隣に立っているNさんよりやや小ぶりな、少し緊張気味な顔をした女性を紹介しました。2週間余り前に来日し、待機期間を終えてようやく登校したという次第です。

先月から少しずつ新入生が入国し、先週あたりからぱらぱらとクラスに入り始めています。Nさんのお姉さんもその1人で、おそらく明日からKCPの授業を受けることになるのでしょう。去年までのように、一斉に固まって入ってきてくれませんから、受け入れ担当者は連日大忙しです。今までも遅れて来日した学生はいましたが、ごく少数でしたからどうにかなっていました。しかし今回は全員がそうですから、大変さは桁違いです。まだ始まったばかりで、これからどんどん入ってきます。学期末にはどうなっているのでしょうか。

ところが、このところ新規感染者数が増え続けています。このまま入国を進められるのか、若干暗雲が漂ってきました。1月期は通常に近い受け入れができるかなあと期待していましたが、見通しは明るくありません。まさか4月期に影響が及ぶのではと、不安は拡大する一方です。

でも、それはさておき、Nさんのお姉さんをはじめ、この厳しい時期に、それこそ万難を排して入学してくれた学生たちを大切に育てていきたいです。

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トランプさんはおいといて

11月6日(金)

今、“潔い”の対極にいるのがトランプさんです。往生際が悪いと言いましょうか、相撲なら死に体なのに、米国のみならず、世界を混乱に陥れかねない法廷闘争に突き進みつつあります。裁判で主張が認められず、大統領の座をバイデンさんに明け渡すにしても、ただではホワイトハウスを去りそうにありません。一切の引継ぎをせず、大統領執務室を廃墟にして出ていくんじゃないかなあ。

こういうのを“いさぎ悪い”というそうです。“いさぎよい”を“いさぎ+よい”と分解し、後半の“よい”を“悪い”にすれば“いさぎよい”の反対語ができると考えたのです。では、“いさぎ”とは何でしょう。どこをつついても“いさぎ”などという言葉は出てきません。その証拠に、“いさぎよい”は“潔い”であって、“潔よい”“潔いい”ではありません。また、“いさぎがよい”でもありません。

“いさぎよい”は、“いさ+きよい”なのだそうです。後半は“清い”につながることは容易に想像できます。“いさ”は、“いと”“いた”など、強調のはたらきをすると言われています。つまり、“潔い”とは“非常に清い”ということなのです。

“いさぎよい”から、語源などを無視して“いさぎ悪い”という新語を創り出すことを異分析と言います。1億円以上のマンションを“億ション”と呼ぶのもその一例です。ダジャレの発想による新しい単語の創造法などと言ったら大げさすぎるでしょうか。

よく見ると、街にもテレビにもネットにも、異分析で生まれた言葉がそこここにあります。いさぎ悪いトランプさんは、私たちにはどうすることもできませんから、放っておくほかありません。ここは一発、異分析探しでもして、知的訓練をしてみてはいかがでしょうか。

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バレルとジュール

11月4日(水)

日本語学習者向け教科書の著者は、多くの場合、文科系出身の方です。そのため、理系人間の目で見るとおかし気な記述が見られることもあります。でも、ほとんど、普通に日本で暮らしていくには支障がない程度の怪しさですから、スルーしてしまっても構わないでしょう。マニアが気付いてニヤッと笑う程度です。

しかし、中には見逃すわけにはいかない間違いもあります。ある教科書の単位を紹介するコラムの、「エネルギー・熱量」というくくりの中に“バレル(石油)”とありました。石油とわざわざ注釈をつけている以上、間違いなく石油の取引に使われる“barrel”でしょう。1バレル=159リットルという、エネルギーではなく体積の単位です。同じくくりにあるジュール、カロリーとは明らかに違います。1カロリー=4.2ジュールという換算はできますが、1バレル=××ジュールなどと変換することは、物理学的に不可能です。石油はエネルギー資源だから「エネルギー・熱量」グループに入れてしまったのでしょうか。

この教科書の同じセクションには、「消費税の比率が上がる」という例文があります。この例文を素直に受け取ると、「国の税収に占める消費税の割合が上がる」という意味になると思います。しかし、英訳は“tax rate”となっていますから、比率ではなく税率でしょう。比率は、「縦横の比率」のように“A:B”の形で表せるもの、「外国人留学生の比率」のように全体に対する割合、英語で言えば“ratio”です。去年の10月に上がったのは、消費税の比率ではなく税率です。その結果、家計支出に占める消費税の比率は上がったでしょうが。

ここに挙げた間違いは、いずれも大勢に影響がないものです。この教科書の価値を損なうほどのものではありません。でも、だからこそ、違う角度から見てもらって、間違いをなくしておいてもらいたかったです。

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カビとオンライン

10月30日(金)

日本への入国規制が緩和され、KCPに入学する予定だった学生も少しずつ来日することになっています。入国しても自由に歩き回れるわけではありませんが、かと言って待機しているホテルなどに何もせずにいさせるわけにもいきません。学校に通えるようになったらすぐに授業ですから、少しでも準備をしておいてもらいたいところです。現在、学校を挙げてその対応に当たっています。

午後、卒業生のLさんが来ました。卒業後、わりと頻繁に顔を出してくれていましたから、また暇つぶしにでも来たのだろうと思っていました。ところが、涙なくしては聞けない事情が隠されていました。

Lさんは、現在、M大学の3年生です。昨年度の後期の授業や試験が終わったころ、一時帰国しました。世界的に見ても、新型肺炎の患者数が少ないことでした。ところが、新学期が始まるので日本に戻ろうとしたその日に、Lさんの国は出国禁止令をだしたのです。以後半年、鎖国状態の日本に戻れず、ずっと国で過ごしていました。そして、今月、入国規制緩和の恩恵にあずかって、やっとの思いで日本への再入国を果たし、規定の自宅待機期間を何事もなく過ごし、自由の身になって初めて訪れたのがKCPということでした。

半年間家賃だけ払って空き家だったLさんの部屋は、上の階からの水漏れのせいでカビだらけだったそうです。カビの胞子なんか吸い込んだら、肺炎よりもひどい病気にかかりそうな気もしますよね。

踏んだり蹴ったりみたいなLさんでしたが、大学の授業は完全オンラインだったので、国で何の支障もなく受けられたそうです。世界中どこからでも受けられるんですね。そういう話は耳にしていましたが、実際にその恩恵にあずかった人を目の当たりにして、非常に腑に落ちました。

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