Category Archives: 社会

今? もう?

5月21日(金)

初級のXさんが、A大学の英語プログラムを受けたいと言い出しました。Xさんは英語で高校の教育を受けてきましたから、大学の講義の英語ぐらい理解できる自信があるようです。でも、だったらどうしてわざわざ日本へ来ちゃったんですかということになります。本人が言うには、日本の文化にも触れたいからだということですが…。

いろいろと聞いていくと、Xさんの友達の影響でした。その人は、去年、T大学に入りました。しかし、入学以来ずっとオンライン授業で、そのオンライン授業がさっぱりわからないそうです。だから、T大学をやめて、A大学の英語プログラムに入り直すと言い始めました。それを聞いたXさんも、日本の大学への進学が心配になり、一緒にA大学へと考え始めたのです。

Xさんはまだ初級ですが、今が伸び盛りです。EJUも受けていない時点で、日本語で勉強するのをあきらめてしまうのは、明らかに早計です。A大学以外にも英語プログラムを設けている大学はありますが、勉強できることは限られています。Xさんの友達がどんな人か知りませんが、1人の友達の話だけで自分の可能性を狭めてしまうような選択は、するべきではありません。

もう1つ。T大学だって、このくらいの力があればウチの大学の授業についていけると踏んで、Xさんの友達を合格させたのでしょう。しかし、1年間のオンライン授業の結果がこれです。去年は教師の側がオンラインに不慣れだったということもあるでしょう。登校できない(させない)留学生へのサポート体制も整っていなかったのでしょう。学生も、行ったこともない大学への愛着はあまり深くないに違いありません。そんなことが複雑に絡み合って、Xさんの進路変更発言へとつながったのではないかと思います。

進路指導に新たな要素が加わりました。今までの“いい大学”が緊急事態下でも“いい大学”とは限りません。こちらもしぶとく材料を集めていかなければなりません。

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安くてもろい

5月15日(土)

JR各社をはじめ、鉄道会社が軒並み赤字決算です。JRは大都市で稼いで地方路線が出す欠損を補うという内部補助を行ってきましたから、大都市路線や新幹線など今まで高収益だった部門が調子悪くなると全体として赤字なのは、まだわかります。しかし、大都市内やその近郊しか走っていない大手私鉄までもが赤字というのはどうしてでしょう。盤石に見えても、その経営基盤は意外にもろいのです。私たちの足は、やじろべえのような、微妙なバランスの上に乗っかっているのです。

巨額の赤字を出していても、こういった鉄道会社は事業をやめるわけにはいきません。そんなことをしたら、日本中の交通が大混乱を起こします。道路が大渋滞となりますから、人が自由に行き来できなくなるばかりか、物流も止まってしまいます。電気自動車はまだ普及していませんから、CO排出量削減目標など、一瞬で吹き飛んでしまいます。

日本の鉄道会社は私企業ですが、担っている仕事は、上述のように、公的性格が非常に強いです。国民、県民、市民の足の確保をしてもらっているのですから、国や地方自治体はお金を出してもおかしくはありません。上下分離をして、固定資産は国や自治体が引き受け、鉄道会社は列車運行に集中するというのも一つの手です。これは実際に一部の地方では実施されていますし、ヨーロッパではこちらの方が普通です。

最近、「安いニッポン」という本を読みました。日本は物価がほとんど上がらない代わりに賃金も上がらないので、諸外国に比べるとなんでも安い国だというお話です。ディズニーランドの入園料も、世界一安いそうです。一見好ましく見えますが、これが日本停滞の主原因だと言われると、考えてしまいます。JR本州3社は、1987年の創立以来、消費税増税以外で運賃を値上げしていません。企業努力のたまものだと思いますが、それが日本の国力伸長の足を引っ張る結果になっていたとしたら、皮肉なものです。

この本を読んで、日本は国を挙げてお金の使い方を考え直さなければならないと思いました。鉄道など公共交通機関をどうするかもそうですし、いわゆるエッセンシャルワーカーに、私たちの生活を支えてくれているだけの報いができるしくみを築いていくべきです。

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次々宿題

5月14日(金)

私が担当しているクラスはオンライン授業ですから、テストや宿題もオンラインです。答案用紙や作文などが、何らかの方法で電子的に送られてきます。テストはほぼ一斉に届きますが、宿題となると、授業の直後から翌日の授業の直前まで、だらだらと入ってきます。“〇時まで”と締め切りを伝えますが、だからといってそれ以降着のを無視するわけにもいきません。初級ですから、変な癖がついてしまったら困ります。

そういうわけで、時間がちょっとでも空いたら、学生から宿題が来ているんじゃないかと、メールチェックをしています。宿題メールを見つけたら、採点したり添削したりしています。ついさっきもメールボックスを見てみたら、昨日の宿題が出されていましたから、急いでチェックして返信しました。対面授業だったら授業中に集めてそれで終わり、授業後にチェックして翌日の授業で返すっていうパターンなんですがね。

この宿題チェック、世の中に流通しているいろいろなツールやアプリを比較検討して、私たちにとって一番使いやすいのを選んだらだいぶ合理化できると思います。しかし、走りながら考えている状態なので、現状で最適化されているかと言えば、程遠いというのが正直なところです。

緊急事態宣言が、さらに3道県に出されました。新入生の自由な来日は、また一歩遠のいたようです。国で授業を受け宿題に取り組んでいる私のクラスの学生たちも、そんな不安を抱えているに違いありません。その不安を少しでも和らげるために、日本語を勉強する気持ちを切らさないために、せめて宿題の添削ぐらい、丁寧にやろうと思っています。

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明るくて考えすぎました

5月11日(火)

私のうちの前に、小ぶりのショッピングモールがあります。そこの駐車場を斜めに突っ切っていくと、駅からうちまでの時間がちょっと短くなります。しかし、早朝・深夜のショッピングモールが閉まっている時間帯は、通路にシャッターが下りていて、このショートカットが使えません。

昨日は会議などで遅くなり、そのショッピングモールまで来たのが10時半ごろでした。4月の緊急事態宣言以来、ショッピングモールの中核店舗であるスーパーが閉まるのが9時になり、10時ごろにはシャッターが下りてしまうようになりました。「あーあ、遠回りか…」と足取りが重くなりかけたところ、なんだか明るいのです。なんと、スーパーがやっているではありませんか。昨日から、夜11時までの平常営業に戻ったのです。確かに、営業短縮は5月8日までと言っていました。店の入り口の掲示を見る限り、9時閉店を続ける気はなさそうです。

緊急事態宣言の効き目が薄れていると、各方面から言われています。1年前の初めての緊急事態宣言は、うろたえ過ぎという面もありました。また、態勢が全く整っていないところへ急に始められてしまったという感じもしました。1年でずいぶん図太くなったものです。10時半にスーパーが開いているだけで、普通の生活に戻ったような気がしてきました。9時15分ごろに明かりの消えたスーパーの前を通ると、いかにも緊急事態という感じだったんですけどね。

私の街だけじゃなくて、東京中、日本中がこうなのでしょうか。これもオリンピック開催に向けた布石だとするのは、考えすぎかな。

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変わった?

5月8日(土)

朝、パソコンを立ち上げると、だいぶ前にKCPをおやめになったW先生からメールが届いていました。大学院に進学しようと思っている留学生の面倒を見ているそうです。KCPでの経験が、多少は役に立っているのでしょうか。文面からはお元気なご様子がうかがえ、いつもにこやかでやる気満々だったW先生のお姿が頭の中に浮かび上がってきました。同じ釜の飯を食った仲というよりは、同じ学生に悩まされた仲とでもいうべきW先生です。ずいぶんとお会いしていませんが、太い絆の連帯感がよみがえってきました。

W先生は、現校舎ができてからまだいらっしゃったことがないとのことですから、おやめになったのは震災の直後ぐらいだったのでしょうか。そのころと比べると、確かに教師の顔ぶれは変わりました。でも、毎日学校へ来ていると、その変化に気づかないんですよね。私自身はどれくらい変わったでしょうか。毎朝一番に出勤し、日本語を教え、理科を教え、養成講座を担当し、行事のたびに天気予報をし、…というあたりは、W先生がいらっしゃった頃と変わりありません。オンライン授業をするようになった点が変化といえば変化ですが、いろんな機材を使いこなしているわけではありませんから、進歩とは言えませんね。

緊急事態宣言が解除されたら旧交を温め合いたいと思いますが、いつのことになるやら。ついに1000人を超えてしまいましたからね。他県でも過去最多が目立っています。まずはこれからさらに大きくなりそうな波を乗り越えなければなりません。

ということで、W先生にお会いしていない間に一番大きく変わったのは、世の中そのものですね。

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朝のご同業

4月26日(月)

最近は私が家を出る時間帯でも東の空が明るくなっています。街灯が消えるほどではありませんが、朝らしさが感じられます。今朝はちょっと冷え込んだようですが、駅までシャカシャカ歩いているうちに寒さは感じなくなりました。私が乗る一番電車は、いつもと変わらぬ顔ぶれが普段と同じ席を占め、何事もないかのような1日の始まりでした。

3度目の緊急事態宣言が発せられましたが、早朝の電車は先週までと変わることがありませんでした。私もごく当たり前に電車に乗っていたのですから、他のみなさんもリモートではどうにもならない仕事を抱えているのでしょう。ネットのニュースなどによると、緊急事態宣言が出た街は、どこも大して人出が減っていないようです。

KCPも去年の4月と今年の年初の緊急事態宣言の際はオンラインにしましたか、今回は、少なくとも今週は、このままいきます。登校しだすと、学生たちの方がオンラインじゃない方がいいという意見が強いのです。それは私たちのオンライン授業が拙いからかもしれませんが、やっぱり言葉の授業はオンラインより対面の方が、実感が伴うのでしょう。

そうは言っても、外出する人を7割減らさないと感染拡大は抑えられないとされています。それに背を向けるようで非常に心苦しいのですが、仕事の性格上やむを得ません。学生たちにしたって、万難を排して日本まで来たのですから、オンラインでは得られない手ごたえをつかみたいことでしょう。

朝の電車で乗り合わせている皆さんも、同様なのでしょうか。

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iPS細胞の次

4月23日(金)

ただいま、中級の読解で使う文章を書いています。中級なら市販の読解の教科書もたくさんあるのですが、あれこれ自由に手を加えるとなると、著作権がこちらにある自作の文章が一番です。自分が書いた原稿だったら、学生の反応を見て手直しもすぐにできます。

文章の中に、それを使うまでに勉強した語彙や文法を練り込むこともできます。もちろん、無理に使おうとして不自然な文章になってしまったら逆効果です、使えるところには積極的に使うという気持ちで書き進めています。また、語彙も、これはぜひ覚えてほしいとか、初級で勉強した単語だけどこういう意味用法もあるんだとか、慣用句やコロケーションとか、そういうことを考えながら選んでいます。

肝心の内容は、理科系の話題でというリクエストがありますから、それに応えています。京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を取って間もないころ、iPS細胞について書きました。論理的な文章を読んで理解できるようになるという目的で、書き進めました。好評なようで、最近はその後のiPS細胞ということで、授業中に講演もしています。大学や大学院に進学したら、文献を読んだり話を聞いたりして理解を深めていくことの連続です。これはその練習です。

今回も、科学技術関係の論理的な文章を書くことになっています。iPS細胞は現在の技術の解説が中心でしたから、今度は技術の発展を時系列で見たお話にしようと思っています。そこに学生が「へー」と思えるような何かを加味して、学生を引き付けるような読解教材に仕上げたいです。

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懐かしい顔

4月20日(火)

午後の授業の準備をしていたら、A先生がいらっしゃいました。A先生は、去年の春先に出された最初の緊急事態宣言直前まで、上級クラスを教えていました。2月末に全面オンライン授業になってから、ずっと休んでいました。お年を召していますから、授業をお願いして無理に外出させてはいけません。そういうわけで、1年余りのご無沙汰でした。

A先生ご自身もあまり家の外には出ず、新宿も本当に久しぶりだとおっしゃっていました。でも、何より、声の張りも1年前とまったく変わらず、お元気そうなご様子でした。感染状況が改善すれば、今すぐにでも教壇に立てそうな雰囲気を放っていました。

東京は711人。先週の火曜日より201人増えたそうです。3度目の緊急事態宣言が現実味を帯びてきつつありますが、オオカミ少年みたいになってきています。まん延防止などという中途半端な規制のおかげで、国民側の緊張感が薄れています。今晩は日中の暖かさが残っていることでしょうから、お酒とおつまみを買って外で盛り上がる人たちが大勢出るんじゃないかと思います。

もはや悠長に聖火リレーなどしている暇ではありません。せっかく走者に選ばれた方々には申し訳ありませんが、オリンピック自体、もう死に体です。選手だって、ワクチン未接種者が大半の国になんか、足を踏み入れたくないんじゃないかな。

A先生は、事態がさらに悪化しないうちにご挨拶したいという義理堅い理由でお越しくださいました。やっぱり、オリンピック中止で、1日も早くA先生に復活していただきたいです。

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変な人…じゃなかった

4月17日(土)

昨日の夜、見慣れぬ顔の人が学校に入ってきました。花束を手にしてこちらに微笑みかけていますから敵意悪意はなさそうですが、明らかに教職員ではなく、また、学生ではない年恰好でした。H先生が名前を聞くと、「Bです」と言います。さらに聞くと、ちょうど現校舎ができた時に卒業したとのことでした。確かに、以前、Bという学生がいました。

Bさんは今年大学院を修了して就職したそうです。その配属先がKCPの近くなので、会社の仕事が終わってから来てくれたというわけです。Bさんの就職先は一般人には有名じゃありませんが、その業界では知らない人がない会社です。「いいところに入ったじゃん」と、思わず肩をたたいてしまいました。

在学中のBさんは、こんなことを言っては失礼ですが、どこかあか抜けない感じの、線が細く印象の薄い学生でした。でも、今、目の前にいるBさんは、落ち着いた雰囲気を醸し出す優秀な若手会社員です。進学したS大学でがっちり鍛えられたのでしょう。私の心の中で、S大学の株がまた上がりました。

日本で就職するという夢を抱いてKCPに入学する学生もたくさんいます。もちろん、有名会社、大企業にと思っている学生が大半です。しかし、夢破れる学生も大半です。そういう厳しい競争を勝ち抜いて、立派な会社に就職したBさんには、ぜひ、その経験を後輩に語ってもらいたいです。私たちがあれこれアドバイスや注意をするより、実際に成功を手にした先輩からの言葉の方が100倍も効き目があることでしょう。

Bさんはまだ研修中でわからないことばかりだと言っていました。今度来るときには、有能なビジネスマンになっているでしょうか。

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祝就職だけど

4月10日(土)

来週から始まる受験講座の準備をしていると、卒業生のFさんが来ました。卒業生と言っても、つい先月までKCPにいた学生じゃありません。現校舎が完成したころに入学した学生です。卒業してR大学に進学し、H大学の大学院に進学しました。今年M2で就活のはずですが、もう内定をもらったそうです。

Fさんは、入学したころは日本語力がゼロに近かったですが、ぐんぐん力を付けていった覚えがあります。受験科目の力も伸びて、難関と言われるR大学に合格しました。R大学でも努力を怠らなかったようで、大学院は国立大学でした。そこでもきっと優秀だったのでしょう。だから早々に就職が決まったのに違いありません。

そのように優秀なFさん、博士課程進学は考えなかったそうです。「先輩を見ていても、修士で就職するのが一番みたいだったし、博士で就職しても給料は修士と変わりませんし…」と、進学しない理由を語ってくれました。その言葉に日本社会の現状が如実に表れていました。

Fさんはこの先も日本に貢献してくれそうですが、Fさんのように考えて優秀な留学生が日本で就職しなくなっています。日本は博士にとって生きづらい社会だというのが定説になっているのではないでしょうか。

これからはオンラインによる高等教育が幅を利かせていくことでしょう。そうした時、日本の大学や大学院は世界に伍していけるのでしょうか。さらに、日本社会に優秀な留学生を引き留める力があるでしょうか。Fさんの話はおもしろいのですが、同時に日本に対する先行きの不安感が増してきました。

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