Category Archives: 社会

親切な説明

8月22日(月)

夏休みは名古屋近辺を歩き回りました。名古屋へ行くのは毎年年末でしたから、博物館などが年末年始休館のため、あまり見学していませんでした。今年のKCPの夏休みは世間一般のお盆と重なり、遠くへ行く足が確保できそうにないと踏んで、この際名古屋をじっくり見てみようじゃないかということになったのです。

最初は名古屋市内をくまなく歩くつもりでしたが、計画を練っているうちにだんだん欲が出てきて、結局名古屋を見たのは1日半ほどでした。その代わり、以前行ったときは駅しか開いていなかった関ヶ原や、ずっと気になっていた刃物の町関や、地理マニアとしては見逃せない木曽三川合流部など、雨の予報を巧みにかわしながら思う存分歩いてきました。

今回は結構多くの博物館に入りました。その中で、展示品の説明がいちばんしっかりしていたのが、カミソリのフェザーのPR施設も兼ねていて無料で入れたフェザーミュージアムでした。私のくだらない質問に、受付の方が工場の方まで呼んできて答えてくれました。おかげで、長年の疑問が氷解しました。

その一方で、展示物の説明がよくわからないので聞こうと思っても誰もいなかったり、いてもろくに答えられなかったりといった博物館が多かったです。説明板の漢字にフリガナを付ければ誰でも理解できると思っているのでしょうか。説明板の文章を読む人などほとんどいないと思って、専門家向けの説明文をそのまま載せているんじゃないかと思えるのもありました。名古屋城の本丸御殿は、説明板ではさっぱりわからず、音声ガイドを聞いてようやく装飾や造りの立派さ、その立派さの背景などが理解できました。割引券の割引額と音声ガイドの使用料とがぴったり同じというのは、計算ずくなのかな。

旅行そのものはとても満足のいくもので、収穫も多かったです。でも、小牧山城とか、志段味古墳とか、まわり切れなかったところに再挑戦したいですね。来年の夏休みもお盆と重なるのなら、また名古屋かな。

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灯台

8月10日(水)

漢字の読みの教材に「灯台」という言葉がありました。上級クラスなのでこれくらいは読めて当然です。だから、「灯台がどこにありますか」と聞きました。学生たちが知らないであろう「岬」を導入しようという伏線です。「港」ぐらいは当然出てきてほしいところでしたが、「海」と言われるくらいは覚悟していました。最初に出てきた答えは何だと思いますか。「机の上」です。

「えっ、机の上に灯台がありますか」「はい、本を読むときに使います」。私が渋い顔をしていると、「夜、部屋を明るくします」と追い討ちがかかりました。時代劇などで見かける、油をしみこませた燈心に火をつけてうすぼんやりと明るくする照明器具を差していることは明らかです。中国語の「灯台」は、日本語では「燭台」です。日本語の「灯台」は、中国語では「灯塔」です。

でも、「灯台下暗し」の「灯台」は、学生たちが言っていたこの灯台です。油と燈心が載っているお皿の真下は、灯台から離れたところよりもかえって暗いということから来ています。したがって、学生たちの答えも決して間違いとは言えません。そうは言っても、2022年現在、「灯台」から油を燃やす明かりを思い浮かべる日本人はいないでしょう。「灯台」と言えば犬吠埼や潮岬、宗谷岬でしょう。

予定通り、「灯台」の関連語彙として「岬」を導入し、「みなさんが考えていた『灯台』は、せいぜい明治時代までですよ」として、次の問題に移りました。学生たちは、少し不思議そうな顔をしながら、ノートを取っていました。

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勉強しました

8月6日(土)

午後から教師の勉強会がありました。外部の講演会の参加したO先生の報告会も兼ねて、教師一同、世の中の最新の動きを知ろうというものです。GIGAスクール構想とか、ICTの活用とか、断片的な情報は見聞きしていたものの、系統立てた話をしてもらい、勉強になりました。

確かに、教育界のDXが進み、学校が新しい学びを提供する場へと変われば、日本も停滞状況を打破できるかもしれません。日本語学校も留学生に対して各人の目標に応じた教育や指導ができるようになれば、学生のみならず教師もやりがい生き甲斐が感じられるようになるに違いありません。そういう日が来ることを思うと、やる気も湧いてくるというものです。

しかし、入試制度はどうなるのでしょう。そこが旧態依然たる姿だったら、個々の学校がいくら改革のために汗をかいても、徒労に終わりかねません。自律的な学習が入試の結果に結びつかなかったら、それが真に根付くことはないでしょう。ことに留学生入試が怪しいです。

面接重視は好ましいことですが、つぶさに見ると、おざなりとしか思えなかったり、どんな基準で選抜しているのだろうかと疑いの目を向けたくなったりする大学もあります。EJUの問題は、学校側の新しい動きから見ると周回遅れどころではありません。世界的に留学生の引っ張り合いが激しくなったら、EJUを軸とする留学生入試制度のせいでこの争いに負けてしまうかもしれません。受験テクニックで解けてしまったり、記憶力テストに陥っていたり、解くことに喜びが感じられなかったりするような問題ばかりだったら、EJUに頼っている留学先としての日本は、遠からずそっぽを向かれるでしょう。

何かと深く考えさせられる勉強会でした。

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あなたがすべきことは

8月2日(火)

現在、世界で最も新規感染者の多いのが日本だそうで、累計感染者数で言えば、愛知は9人に1人、大阪や東京は6人に1人、沖縄に至っては4人に1人の割合になっています。ですから、学生が「感染するのが怖い」と言うのはわかります。Xさんもそんな1人で、だからオンライン授業にしたいと訴えてきました。

ところが、話をよくよく聞いてみると、名古屋の大学院の教授に会いに行ったり、その後そこの試験を受けにまた名古屋まで行ったり、KCPの夏休み中は別の大学院の入試準備とかで、けっこう活発に出歩くみたいです。名古屋からオンライン授業に参加すると言い出す始末です。要するに、大学院入試のために自由な時間がほしいからオンラインにしたいのです。感染うんぬんは、表向きの理由に過ぎません。

感染防止のためなら、自室から出るのは必要最小限にしなければなりません。名古屋遠征などもってのほかです。名古屋も、東京よりはましとはいえ、9人に1人ですからね。それに、Xさんは、春の連休の谷間を、学校を休んで名古屋で過ごしたという“前科”があります。甘い顔をしたら、自由に飛び回ったあげく、どこかでウィルスを拾ってきかねません。

オンライン授業の利点は場所を選ばないことです。しかし、現時点において、日本語学校ではオンライン授業は例外です。国もそういうスタンスだし、私たちも教育効果を上げるにはオンライン授業よりも対面授業だと思っています。少なくとも、日本にいるなら対面授業を受けるべきでしょう。

そもそも、Xさんの場合、大学院入試の合格発表日を「きゅうがつむつか」と言った時点でアウトです。今のあなたに最も必要なのは、絶対に逃げ隠れできない環境で口頭練習することです。それには毎日学校に通って先生に絞られること以外に道はありません。

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いまだに

7月28日(木)

昨日のこの稿で取り上げたEさんが、授業後に進学相談に来ました。志望校のリストを送ってもらっていたので、朝のうちに、Eさんの成績でそれらの大学に合格できる可能性をはじいておきました。

Eさんが第1志望だと言った大学は、かなり厳しいです。面接でよほど上手に自分自身を売り込まない限り、逆転はできないでしょう。Eさんは、自分と同じくらいの学力の友人が合格したと言っていますが、あてにはなりません。合格した人の実力を低く見積もって、この程度なら自分も…と思おうとするのは、受験生に共通した心理です。そこを目標に努力し続けるなら有益ですが、“あいつさえ合格したのだから、私は楽勝”という心理になってしまったら、百害あって一利なしです。

その大学の独自試験には、口頭試問があります。これは、発話力に自信のない発話力に自信のないEさんにとっては悩みの種です。私が例題を出すと、Eさんはもどかしそうな顔をしました。母語では答えられますが、日本語は一言も出てきません。このもどかしさをどうにかするために、明日から授業の会話の課題に真剣に取り組んでもらいたいものです。

第2志望の大学は、出願時に1200字の志望理由書を提出します。EさんはEJUの記述問題ぐらいの長さまでの文章しか書いたことがありません。1200字と言えばその2倍以上ですから、とても心配しています。何から手を付けていいかわからないと言いますから、搾理由書のネタのありかを教えてあげました。

もう1校、Eさんは日本大学工学部を志望校にしていました。Eさんは、純粋に自分の勉強したいことが勉強できそうなので選んだのですが、日本大学工学部が東京や千葉ではなく、福島県にあることには全く気付いていませんでした。私がそれを指摘すると、「福島? この大学は原発のそばにありますか。そこに住んでも病気になりませんか」と聞いてきました。日本大学工学部がある町は、原発から60キロほど離れていて、原発のそばに住んでいた人たちが避難してきたところだから放射線に関する心配はないと教えてやりました。志望校リストから抹殺しなかったところを見ると、多少は安心したようです。

Eさんを笑うことはたやすいですが、Eさんの発想の方が世界標準に近いのです。原発再開派のみなさん、この点を忘れないでくださいね。

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資料を見て

7月25日(月)

上級クラスの教材に、約40年前と現在の、日本人の食料消費量を比較した資料がありました。1日あたり、ご飯が茶わん4杯から3杯に減ったとか、植物油が年に7本から9本に増えたとかというデータです。それに加えて、同じ期間に日本人の家族構成がどう変化したかというデータも載っていました。40年前は夫婦+子供という世帯が多かったですが、今は単身世帯が最も多いなどというデータです。そういったデータを見て、どんなことが言えるか、どんな社会的背景があるかなどについて考えて発表するというわけです。

学生は、野菜や果物や魚が減って肉や油が増えたから、日本人の食生活は不健康な方向に変化したなどと気が付いたことを言ってくれました。上級ですから、この程度のことは難なく言えます。しかし、家族構成の変化と組み合わせてもう一歩踏み込んだ解説をするとなると、できる学生は限られます。大学院進学希望の学生も多いクラスですから、もう少し何か言ってくれるかと思ったら、そうでもありませんでした。

「1人きりだと、ご飯、炊く?」と聞くと、外食とかコンビニ弁当とかという答えが返ってきました。そういうヒントを与えると、「コンビニ弁当は揚げ物が多いから油が増えたんだ」などという方向に話が進みました。補助線を引いてあげると想像が膨らませられ、また、その結果を発表できるあたり、さすが上級と言えましょう。

しかし、中には全然想像が広げられない学生もいます。与えられた2つのデータを見ても何も思い浮かばないと言います。選択式のテストに対応する勉強ばかりしてきたのでしょうか。詰め込み教育ばかりだと、自分なりの答えを生み出すことが難しいんでしょうね。

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理系志望増殖中

7月21日(木)

Jさんは理科系の受験講座を受けています。しかし、どうも成績が伸びません。数学のS先生も、Jさんの数学の力を心配しています。学生が理科系を志してくれることは、理系人間としてはうれしい限りです。しかし、無理をして理科系学部に進学しても、良いことは1つもありません。

ここ数年、国では文系の勉強をしてきたけれども、日本では理科系への進学を目指す学生が増えてきたような気がします。以前は、理科系を志望していたものの、理系科目の成績が伸びず、文科系に進路変更するというパターンがほとんどでした。今でもそういう“文転”の学生もいますが、“理転”的な学生が出てきています。

これには、学生たちの国の就職状況が影響しているようです。聞くところによると、文科系の学部学科の場合、大卒に見合う職業に就けないようです。東大並みの大学を出ても、名のある企業に入れるのはごくわずかで、零細企業に入る(本人的には「甘んじる」でしょうね)学生も少なくないとか。こういう状況から逃れるために日本へ来て、多少なりとも就職のいい理科系学部を狙おうという考えなのです。

しかし、数学ができなかったら、理科系学部ではろくな勉強ができません。間違って入試に通って進学できたとしても、進級はできません。留年を繰り返せば、いずれは退学させられます。貴重な若い時期の数年を浪費することになります。

そもそも、好きでもない勉強は続けられません。これからは一生勉強し続けないと、AIにこき使われるようになってしまいます。ですから、“文転”にせよ“理転”にせよ、安易な進路の決定は考えものです。

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あいえんけんに思う

7月20日(水)

府県名に使われる漢字が常用漢字に追加されたのは、12年前です。そして、それが小学校で教わるようになったのは2年前からです。岡とか熊とかは、県名以外にも人名として使ったり、普通名詞としても読んだり書いたりすることもあるでしょう。茨となると、茨城県、茨木市(大阪府)以外には「茨の道」ぐらいでしょうか。

何はともあれ、小学校で習うとなると、当然漢字テストにも出てきます。上級の教材の参考にしている漢字問題集にも、熊本県とか愛媛県とかという問題がありました。授業で教えた上で、そういった県名をテストに出してみました。そうしたら、愛媛県を「あいえんけん」と読む誤答が目立ちました。“愛”は普通に読んだら“あい”であり、学生たちにはなじみ深いですから、これはそう読む方が当たり前です。“媛”は、“援”からの類推で、“えん”と読んだに違いありません。

“媛”も、「才媛」などというときには“えん”と読みますから、この読み方を頭ごなしに否定することはできません。むしろ、“媛”を形成文字と踏んで“えん”と読んだことは、ほめるべきことかもしれません。また、東京で暮らしている外国人留学生にとって、愛媛県は見聞きするチャンスが非常に少ない地名です。だから、たとえ授業で取り上げたとしても、それをテストに出すのはいかがなものかという議論も成り立ちます。

そうは言っても、授業で取り上げてからせめて1週間ぐらいは、覚えておいてほしかったなあ。宇和海や石鎚山や松山城やしまなみ海道やタルトや坊つちゃんや、これを機会に触れてみると、東京でない日本の良さを知る機会にもなったのにと思います。

この稿にすでに何回も書いているように、日本に留学して東京しか知らないなんて、寂しすぎますよ。

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本当にするの?

7月14日(木)

安倍さんが亡くなって(ご本人の無念さを思うと、“暗殺された”と表現すべきかもしれません)1週間になろうとしていますが、政府は国葬にする方針を固めたと報じられています。安倍派の下っ端議員が「国葬、国葬」と騒いでいたのに乗せられたのでしょうか。

私は、国葬はふさわしくないと思います。だって、戦後は吉田茂元首相だけですよ、国葬は。安倍さんは、首相の在任期間は史上最長でしたが、業績は吉田さんに比べたら3段落ちぐらいじゃないかな。ノーベル平和賞の佐藤栄作元首相ですら、国葬じゃありませんでした。リオでマリオになったくらいじゃ追いつきませんよ。

モリカケ桜は不問に付すとしても、安倍さんの仕事の評価はまだ定まっていません。せめてあと10年長生きしてくれれば、国葬に値するという声が自然発生的に湧き上がったかもしれません。誰かが変な忖度をした結果だとしたら、泉下の安倍さんも苦笑いじゃないでしょうか。いずれにしても、早すぎる死です。

安倍さん自身は、10年と言わずもっと長生きして、中曾根さんみたいになりたかったのではないかと思います。中曾根さんは、衆議院議員を引退してから自由な立場でのびのびと言いたいことを言っていたような気がします。中曾根さん自身、けっこう気分がよかったと思いますよ。亡くなる直前まで血色もよかったし。毎日何時間もかけて、新聞を隅から隅まで熟読していたと言います。安倍さんがそういう立場から歯に衣着せずに政治を斬りまくる激辛評論を聞いてみたかったですね。

当時の小泉首相(自民党総裁)に言われて、中曾根さんに国会議員引退の話を持って行ったのは、幹事長だった安倍さんです。

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思い出しました

7月5日(火)

午前中、あるお役所の報告書が回覧されてきました。目を通しておくようにとのことでしたが、そのあまりのページ数に読もうという意欲が失せてしまいました。勇を鼓して読んでみても、同じような図表が何枚も続き、どこがどう違うのか、間違い探しをしているような気分になってきました。

40年近くも昔の話ですが、ある化学会社の新入社員の時、その会社が請け負ったナショナルプロジェクトに携わりました。年度末に報告書を書いてプロジェクトマネージャーに提出したところ、社内の報告書ならこれくらい簡潔に書いてほしいが、ナショプロの報告書は厚さが勝負だから、もっと長くしろと命じられました。枝葉末節だからと切り捨てたデータも載せ、書くまでもない考察も書き、丸々と太らせた報告書を再提出しました。

その後しばらくたってナショプロ全体の報告書が完成し、私の所にも回ってきました。読んでみると、私が太らせた報告書を、マネージャーがさらに手を加え、のばしていました。その見事な手腕に感心させられました。次の年度はその手腕をまねて、長い長い報告書を書き上げました。マネージャーからの書き直し命令はなく、ほぼそのまま報告書に載りました。

私が読んだ報告書も、若手の係官が必死になって枚数を増やしたのでしょう。先輩にダメ出しを食らい、毎晩遅くまでかけて、コピペした図表に微妙に手を加えている姿が思い浮かびます。ブラック職場の面目躍如じゃありませんか。

学生にはそんないかがわしい日本語は教えません。簡にして要を得た文章を書くことこそ、進学してから求められる技術、日本語力なのです。

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