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うれしさも中くらい

11月26日(月)

授業で、漫画家になりたいという息子と、普通に就職しろという父親の会話を取り上げました。それについて話し合わせましたが、なんとなく盛り上がりませんでした。グループで意見交換させたものの、こちらの予定した時間よりも早く静かになってしまい、グループを組み換えても同様でした。

本当はペアで話し合わせることになっていましたが、Aさんが「ペアの相手の話す力が低いと、相手が何を言っているかよくわからないことがあります。また、自分の発言が相手に伝わったか手ごたえがなくて困ります」と、先週の面接の時に言っていましたから、2人ではなく3人にしました。それでもなんだか話が弾まないようなので、さらに組み替えました。前より少しは良くなりましたが、盛り上がった話題での話しっぷりに比べるとおとなしいものでした。

そこで、やむを得ず、自分の意見を書かせてみました。すると、みんな黙々と取り組み、声をかけるのもはばかられるほどでした。何人かに書いた意見を読んでもらいましたが、なかなか立派なものでした。息子に味方する学生も、父親を支持する学生も、論旨が明確でよくわかりました。こういうことを、会話の時に言い合ってもらいたかったんですがね。

回収して読んでみると、他の学生もよく書けていました。作文の時間ほど身構えなかったのがよかったのかもしれません。原稿用紙を前にすると緊張して書けなくなってしまうのだとすると、白衣高血圧みたいなものなのでしょうか。添削は楽に終わったものの、複雑な気持ちでした。

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心配性?

11月22日(金)

Sさんは、昨日のJさん同様、進学先が決まっています。そして、これまたJさん同様、オンラインの事前教育が始まっています。5分の動画に2時間というJさんほどではありませんが、20分の動画にたっぷり1時間はかかるそうです。動画の視聴が義務付けられているかどうかわからないけれども、心配だから見ないではいられないと言っていました。そういうまじめな学生だからこそ、指定校推薦で受かったのでしょう。

年内に合格が決まる大学や専門学校は、入試が行われた時点での日本語力で合否を決めるわけではありません。入試時には“まだまだ”という感じの日本語力でも、3月の日本語学校卒業まで日本語の勉強と練習を続ければ、進学先の授業について行けるだけの日本語力を身に付けるだろうという見込みに基づいて合格を出します。ですから、合格したからと言って喜びすぎて遊んでばかりいると、進学してからひどいしっぺ返しに遭います。毎年、その辺のことが理解できない学生がいて困っています。

Sさんは決して成績がいい学生ではありませんが、自分自身でそれをよく自覚しています。だから、どんなに時間がかかっても事前教育の動画をすべて見ようとしているのです。それだけではなく、話す力も伸ばさなくてはと、授業中も一生懸命話そうとしています。3、4人のグループで議論するのが一番面白いと言っています。

その一方で、Wさんはダメ元で受けた有名校に合格してタガが外れかかっています。今はSさんよりも日本語力が上ですが、この調子だと先行き心配でなりません。

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勉強法

11月21日(木)

中間テスト後の学生面接が始まりました。

Jさんはすでに専門学校の合格が決まっています。驚いたことに、オンラインの事前教育が始まっているそうです。さらに驚いたことに、5分の動画を見終わるのに2時間かかるときもあるとのことです。日本語の講義にも慣れていないし、専門用語もわからないし、大変すぎると言いつつも、Jさんは笑顔たっぷりの表情でした。

Jさんは完ぺきを目指す性格です。細かいところまでがっちり予習して、わからなかったことは教師にどんどん質問します。どれもが的を射た質問で、答える側にとっても意外な気付きが得られることが稀ではありません。そのJさんの質問数が、最近減ったのが気になっていましたが、裏にこんな事情があったんですね。Jさんが2時間かけて見る動画も、他の新入生は1回通しで見て終わりにしてしまうんじゃないでしょうか。

でも、そういうJさんの勉強に対する姿勢が、今のJさんの日本語力を形作っているのです。そして、入学前からこんなに準備(予習?)に余念がないのですから、専門学校に進学してからも、知識や技術をどんどん身に付けていくことでしょう。

Jさんはまだ中級ですが、会話力だけなら上級の学生と比べても決して見劣りしません。だから、アルバイトで鍛えられているのかと思ったら、全然したことがないとのことでした。Jさんは、教科書や聴解教材にあった語彙や表現を、例文や会話の中で積極的に使おうとします。もちろん使い方が間違っている時もありますが、そうやって間違えながら身に付けていくというのが、Jさんの流儀なのでしょう。初級の頃からの積み重ねが、“上手”につながっているのです。

来年の3月の卒業まで、Jさんはこの勉強法を変えずにいくでしょう。そして、さらに大きな成果を手にして進学していくに違いありません。4月からの専門学校では、日本人学生以上の成績をあげるのではないかと期待しています。

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自分の文章を読む

11月20日(水)

初級クラスのKさんが、昨日の宿題となっていた今学期の目標訂正版を提出しました。中間テストが過ぎ、学期初めに書いた目標を見直して、改めてスタートを切ってもらおうという発想です。

Kさんは目標そのものを変えたというより、目標の文言を直しました。私たちは学生からもらった今学期の目標を、一字一句直さずそのまま保管しておきました。それを、学期の半ばで読み直してもらい、変更すべきところは変更してもらおうというわけです。だから、Kさんのように、目標の軌道修正はせずに、その表現方法を変える場合もありうるのです。

学期初めのKさんの目標は、日本語になっていませんでした。Kさんは、昨日一時的に返却された今学期の目標を見て、愕然としたのかもしれません。“つい1か月半ほど前の私って、こんなに日本語が下手だったの?”なんて思ったかもしれません。再提出された目標は、だいぶまともになりました。Kさんは翻訳ソフトの手を借りるようなことはしませんから、自分で間違いに気づき、自分で直したのだと思います。

自分で書いた文章の誤文訂正は、できそうでできません。例えば、作文の時間に、自分で書いた文章を読み返して変なところは直して提出しろと言っても、そんなことをする学生はまずいません。読んでも間違いに気がつかないのです。思い込みが激しいので、誤用も正しく見えてしまうのです。

ところが、数週間時間が経つと、自分の文章でも自分の文章も相対化して見られるようになります。そうすると、目を曇らせていた思い込みもありませんから、間違いが見えてきます。これに加え、Kさんは、自身の日本語力の向上も、“あ、変な文を書いていたもんだ”という気付きにつながっているに違いありません。この進歩の実感が大切なのです。

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寒!

11月19日(火)

寒かったですねえ、今朝は。都心の最低気温は7.9度で、昨日より2度余り低かったです。今季の最低気温は9日(土)の7.8度ですが、それに迫る気温でした。でも、これで平年並みです。今までが暖かすぎたのです。これからしばらく、最低気温が一ケタ台の日が続くそうですから、ようやく気温が季節に追い付いたようです。

もちろん、コートにマフラーで出勤しました。手袋はしませんでしたが、してもおかしくない風の冷たさでした。コートは重かったですが、その威力は絶大で、そんな風に吹かれても寒さは感じませんでした。ヒートテックなしでも、もう少し頑張れそうです。

職員室の鍵を開けて中に入ると、少しひやんとしました。思わず、暖房のスイッチを入れました。朝一番で表玄関のドアを開け放つのが毎朝の私の仕事ですが、今朝は他の先生がいらっしゃる直前まで開けませんでした。でも、もう保温のためにドアを閉めておいてもおかしくない時期ですよね。

教室に入ると、欠席4名。うち2名が遅刻で来ました。その2名に理由を聞くと、異口同音に「寒くて起きられませんでした」と答えました。毎年そんな学生が現れますが、今年もそういうシーズンになったのだなあと思いました。そういう答えに対して「バカ者!」と言ってやるのが冬の風物詩です。

日本語プラスが終わると外は真っ暗です。受講生のSさんは、フード付きの暖かそうなオーバーを着込みました。「先生、さようなら」と言って、帰っていきました。その後を追って、私も外階段を下りました。スーツの上着を突き通して肌に刺さる外気は、10度を割り込んでいるかもしれません。一気に冬ですね。

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昨日の試験

11月18日(月)

昨日は汗ばむほどの日和で、日中は腕まくりをしていました。そんな中、第1回の日本語教員試験が実施されました。私は経験とか今までに取得した資格とかの関係で昨日の試験は免除でしたが、KCPの先生の中でも何名かの方が受験されました。

O先生の試験会場は、私が学生時代に住んでいたアパートの近くのビルでした。すなわち、築半世紀近い建物です。しかも、元地元民からすると、そのビルはどう考えても試験会場向きではありません。倉庫とか大安売りの会場とかという印象しかありません。取り壊して建て替えるという噂も耳にしていたのですが、ネットで調べたら、とりあえずその計画はなくなり、リニューアルされたそうです。でも、そう遠くない将来、そういう方向に進むとも報じられています。

要するに、老朽化した、試験会場向きとは言いかねるビルで試験が行われたのです。それに加え、長机に詰めて座らされ、その気になればカンニングし放題だったというではありませんか。また、O先生の試験室は、音響設備が不十分で、聴解問題がよく聞こえなかったそうです。同じ部屋の他の受験生は、全然聞き取れなかったと嘆いていたとか。そりゃあそうですよ、体育館みたいなところなんですから。

トイレの数も不足していて、休憩時間内に用を足すことができなかった人もいたそうです。休憩時間は15分でしたが、回収した答案用紙と問題用紙の数の点検に時間を要し、実質的には数分だったようです。大安売りの会場なら、多少お客さんが多くてもトイレ利用は分散しますから、トイレの数はさほど多くなくてもどうにかなるでしょう。しかし、試験会場となると、休憩時間にトイレ利用が集中します。そんな計算もせずに、単に面積だけで会場を借りたのでしょうか。尿意をこらえながら試験を受けた人が実力を発揮できなかったことは、想像に難くありません。そういう方の心中は、いかばかりでしょう。

“日本語教師の質を担保する国家資格”という触れ込みだったはずですが、そんなご立派な試験が、こんなひどい環境で行われたのです。看板倒れもいいところです。国が日本語教育をいかに軽視しているかがよくわかる試験でした。

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メモ魔歓迎

11月16日(土)

中間テストの聴解を採点しました。すべて記号(番号)で答える形式でしたから、採点そのものは楽でした。できると思っていた学生は高得点を取り、授業中からダメっぽかった学生はせいぜいぎりぎり合格点で、結果はおおむね予想通りでした。

高得点の学生とできない赤点の答案用紙を比べると、メモの量が全然違いました。100点だったSさんも95点だったCさんも90点だったGさんも、みんな細かい字で聞き取った情報をメモしていました。80点以上だった学生は、ほとんどが、母国語であったとしても、メモ欄を大いに活用していました。

一方、最低点だったLさんをはじめ、不合格になった学生は、メモ欄がほぼ白紙でした。何も聞き取れなかったのかもしれません。Jさんは、授業中の様子を見る限り、満点に近い成績だろうと思っていたのですが、80点に届きませんでした。メモ欄は真っ白でした。Jさんもきちんとメモを取っていれば、高得点組に名を連ねたのではないでしょうか。

授業で聴解をするときは、メモを取るようにと口を酸っぱくして注意しています。しかし、ボーッと聞いているだけの学生は、どのクラスにも必ずいます。聴解問題には何を聞き取るのかという指示がありますが、それすら理解できず、だから何をメモすればいいかわからないという可能性もあります。そうなると、どこから指導していけばいいかわからなくなります。

とはいえ、中には聴解の天才がいます。数年前の学生Kさんは、ずっと集中して問題を聞き、決してメモを取りませんでした。そして、問題が終わるや否や、自分の答えの番号をマークしました。最後に採点すると、正答率は、悪くて9割でした。爪の垢をもらっておくべきでした。いや、聴解ですから、煎じて飲むなら耳の垢の方が効き目があるでしょうか。

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思い出

11月15日(金)

教科書に中学・高校の思い出を語る場面が出てきました。それに関連して、数人のグループで自分の中学・高校の思い出を語ってもらいました。すると、どのグループもスマホの写真を見せあったりしながら、話を打ち切るのがかわいそうなくらい盛り上がっていました。

中国の学生は、ほぼ全員が、朝7時頃から夜は9時か10時まで勉強させられたそうです。昼休みが2時間あったので、うちに帰って食べていたという学生もいました。韓国の学生は、学校は3時か4時に終わるものの、毎日やはり9時か10時頃まで塾に通っていたと言っていました。

そんな彼らにとって、午前中で終わってしまうKCPは楽勝みたいです。何の縛りもないと不安だから、塾に通ったり家庭教師を頼んだりしている面もあるように感じました。3.11の前あたりまでは、学生は授業後アルバイトに励むのが常識でしたが、今は塾に通うのが当然のようです。

かつてのアルバイト疲れが、塾疲れ、勉強疲れに置き換わっただけで、朝から辛そうにしている学生、ぎりぎりまで寝ていて遅刻寸前に教室に飛び込んでくる学生が多いことは変わりありません。学生にはのびのびとした留学生活を送ってほしいですが、その結果進学できなくなってしまっては困ります。

授業の最後に、私の中学時代の思い出を言いました。Jさんよりも少し長い坊主頭だったと言ったら、学生たちは「えーっ」なんて言っていました。半世紀も昔のことですから、今もその学校の男子生徒が坊主頭かどうかはわかりませんが…。

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漢字難しい?

11月14日(木)

中級間テストの試験監督に入った上級クラスの最初の科目は作文でした。といっても、今学期の上級の作文は選択授業ですから、学生によって試験内容が異なります。20人のクラスに3種類の試験問題が混在していたため、最初はあわただしかったです。

そのあわただしさが落ち着いた後も、昨今はスマホ中毒の学生が増えていますから、試験時間が終わるまで教室中を油断なく見回らなければなりません。悪気がなくても、手が無意識のうちにスマホに伸びているということがあるのです。机の上に右手しか出していない怪しい学生が1人いましたが、近づいてみると、左手は太ももと椅子の間に挟み込んでいました。指先が冷たかったのでしょうか。

Kさんの横を通過した時、Kさんに呼び止められました。「先生、消しゴムを貸してください」とねだられました。「消しゴムも持ってこないで試験を受けるとは何事だ」と説教したいところですが、試験中ですから、「揚げます」と言って、黙って消しゴムを手渡しました。こういうことも予期して、試験監督に入るときは、消しゴムを数個持って行きます。それが役に立ちました。“備えあれば憂いなし”というのとはちょっと違う感じがしますが、ペンケースに忍ばせておいた消しゴムがKさんの元へと巣立っていきました。

せっかく消しゴムをあげたのに、その後のKさんの答案は空欄が目立ちました。最後の科目、漢字・語彙に至っては、試験用紙の裏側が真っ白でした。帰ろうとするKさんを呼び止めて「裏側は?」と聞くと、「全然わかりません」と言い残して、結局帰ってしまいました。

Kさんの、漢字・語彙以外の中間テストの答案用紙を見ると、気の利いたことを書いているではありませんか、ひらがなで。また、Kさんはこなれた日本語を話します。でも、漢字がここまで書けない読めないとなると、進学にかなり分厚い暗雲が垂れ込めていると言わざるを得ません。

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ガイシツ

11月13日(水)

「…外出しないでゆっくり休んでください」という教科書付属の会話スキットの音声を流した直後、Lさんが質問しました。「先生、ガイシツでもいいですか」。一瞬何のことかわかりませんでした。音声をもう一度流してみると、確かに「…ガイシツしないで…」とも聞こえます。いや、ガイシュツよりもガイシツ寄りでした。

私たち日本人は、「シュ」を「シ」と発音してしまうことがよくあります。「胃のシジツを受けた」「けが人をキュウシツした」などというような、厳密にいえば発音ミスを耳にしたり口にしたりしています。これを「胃の史実を受けた」「けが人を吸湿した」などと受け取る人はいません。

だから、冒頭のスキットの声優さんも、日常的に「ガイシツ」と言っていて、それで誤解を生じさせたことは一度もなく、だからこそ、無意識に「ガイシツ」と言ってしまったに違いありません。同時に、教科書の編集者も、この発音に全く違和感を持たなかったのでしょう。

そんな事情を知らないLさんは、発音が間違っていると受け取ってしまったのです。上述のような事情をごくかいつまんで説明すると、「漢字テストの時は?」と更なる質問が出てきました。これは学生としては当然ですね。もちろん、「ガイシュツと書いてください」と答えました。「会話テストは?」「ガイシュツと発音してください」。

答えながら、私はLさんの耳に感心しました。ガイシュツ/ガイシツを聞き分けられたのですから。明らかに違う発音だと感じたので、自信を持って質問できたのです。学期の最初は自信なさげだったのですが、中間テストの前日、学期の半分で力をつけたものです。

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