国立対策の前に

12月21日(土)

午前中、Aさんが進学の相談に来ました。昨日発表されたEJUの結果を基に、国立大学をどうすればいいかという話です。Aさんは、6月に比べて、日本語の点数はあまり伸びませんでしたが、数学と理科は少しよくなりました。とはいえ、強気になれるほどの成績ではありませんでしたから、相談に来たというわけです。

国立大学の留学生入試は、2月25日付近に集中する傾向があります。この集中日にどこを受けるかが1つのポイントになります。それ以外の入試日にも何校か受けて、どこかに受かるような組み合わせを考えます。Aさんは東京近辺にこだわりませんから、これから出願できる国立大学をいくつか紹介し、本人に選ばせました。

そのAさんからの情報によると、WさんはG大学に行くと決めたそうです。Wさんも理科系で、国立大学と言っていたのですが、力試しに受けたH大学とG大学に受かり、国立大学を受験する気持ちは失せてしまったようです。理系科目はAさんより良かったですから、十分チャンスはあるのですが…。G大学は超有名大学だということもあり、本人は、もう受験勉強をする気は全くないようです。

でも、G大学は、文科系では名のある大学ですが、理科系は“?”がついてしまいます。Wさんの将来を明るくする勉強ができるか、今一つはっきり見えません。でも、受験勉強や面接練習はもう嫌だという気持ちも、わからないではありません。

Aさんに「今から国立対策だな」と声をかけたら、この休みは北海道へ遊びに行くそうです。成田発のLCCだと4000円で行けるそうです。風邪をひかずに帰ってきてくれれば、それでいいか…。

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大躍進

12月20日(金)

昨日の期末テストの採点をしました。まず、聴解。Nさんの解答用紙には、最初の2問しか答えがありませんでした。その2問は正解だったのですが、あとが白紙では点数をあげようにもあげられず、あっさり不合格。日頃のNさんの様子を見る限り、2問しかできないなどということは絶対にありませんから、テスト中に寝込んでしまったのに違いありません。ほかは、よくできる学生が満点近くを取り、怪しい学生は合格点に届かず…という感じで、大きな番狂わせはありませんでした。

次は作文。Nさんの作文は2行で終わっていました。ここでも寝たのでしょうか。こんなに寝てばかりだとすると、どこか具合が悪かったのでしょうか。それとも、進級をあきらめたのでしょうか。受験で頭がいっぱいで、期末テストになんか、構っていられなかったのかもしれません。そうだとしたら、年明け早々の入試にぜひとも合格してもらいたいものです。

作文で驚かされたのは、Kさんです。今学期勉強した論理構成に則って、持論を堂々と展開していました。クラスの学生にこういう作文を書いてほしかったのですが、なかなか書いてくれませんでした。Kさんも書いてくれない1人でしたが、最後に立派な文章を書いてくれました。どんな授業も真剣に聞いているKさん、ついに華が開いたと言ったところでしょうか。

そのKさん、EJUでもやってくれました。今朝ほど公表された11月のEJUの結果によると、Kさんは6月のEJUに比べて、日本語の成績を60点以上も伸ばしました。地道に努力を続けてきたKさんの面目躍如です。そして、この時の記述の成績が40点。でも、昨日の期末の作文なら、50点取ってもおかしくないです。1か月前のEJUではできなかったことが、昨日はできたのです。大躍進じゃありませんか。

惜しむらくは、Kさんはすでに指定校推薦で進学先が決まっていますから、このEJUの好成績を活用する場がありません。でも、自信だけは持ってもらいたいですね。

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退学届

12月19日(木)

3時頃、Qさんが退学手続きに来ました。配偶者のDさんの就職が決まったので、家族滞在ビザにするそうです。今学期何回か「次の学期も勉強すれば卒業だよ」と誘ってみましたが、最終的に退学の道を選びました。

QさんもDさんも初級クラスで受け持ちました。Qさんはともかく、Dさんはいつも日本語より英語が先に出てきてしまい、なかなか上達しませんでした。今では初級レベルの主みたいな学生です。Dさんの場合、日本で就職することが来日の主目的であり、できることなら日本語の勉強はしたくなかったのです。そのため、授業も上の空で、仕事のことばかり考えていました。

「日本語ができると早く就職できるよ」と気持ちを勉強に向かわせようとしましたが、決して揺らぐことはありませんでした。Dさんにとって、KCPは就職活動の足場でしかありませんでした。どうやら仕事が決まったようですが、Dさんの日本語力からすると、仕事で使うのは国の言葉なのでしょう。

QさんはDさんに比べればずっと日本語の勉強に力を入れていました。曲がりなりにも中級まで上がってきたのですから。そのQさんにしても、授業料を払わずに日本にいられるのならそっちにしようという考え方なのです。もう少し勉強を続ければ、日本語で仕事ができるくらいにはなると思うんですがねえ。

日本で暮らすなら日本語ができなければならない――とまでは思いませんが、同国人のコミュニティーの中に閉じこもって生きていくというのは、どうなのでしょう。Qさんたちはそんな生活をしていくのではないかという気がしてなりません。狭くて息苦しいような気がしますが、そうでもないんですかね。

夕方、Dさんも退学の手続きに来ました。2人に幸あれと祈るばかりです。

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意外な、差の感じ方

12月18日(水)

T先生の代講でレベル8のクラスに入りました。今学期授業をしてきたレベル5のクラスに比べると、やはり数段上という気がしました。授業は、期末の前日でもあり、発話力テストとしてのプレゼンテーションでした。ですから、私が感じた差は、話す力の差です。

プレゼンテーションで使われたスライドは、レベル5でも8でも大差ありませんでした。むしろ、映し出された字が大きい分だけ、レベル5の方が優れているとも言えます。しかし、そのスライドで語られる日本語は、8の勝ちです。

どこが違うのかというと、まず流暢さでしょう。Kさんなど、全くよどみなく話を進めていました。レベル5で最も話す力があると思われるJさんをもってしても、足元にも及びません。訥弁という印象が強いFさんも、原稿を持たずにすらすらと10分弱の発表をこなしていました。しばらく見ないうちに話す力がずいぶん伸びたものだと感心させられました。

最近は、こういう発表をさせると、原稿づくりの際にこっそり翻訳アプリを用いる学生がいます。レベル5だと、翻訳アプリの日本語レベルに話す力が追いついておらず、その翻訳文が妙に浮き上がってしまいます。レベル8にも翻訳アプリを使った学生がきっといたことでしょうが、その日本語が浮き上がって来ないのです。難しい言葉遣いに負けない発話力が備わっているのです。

こういう人たちが翻訳アプリを使うなら、それは実に有力な武器になります。人間がコンピューターを使っている図になります。しかし、レベル5あたりの学生だと、コンピューターに負けてしまっていますから、アプリ翻訳の文をそのまま使うと、もれなく違和感がついてくるのです。

こういうところにも、中級と上級の差が横たわっているのだなと思い知らされました。

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納税期

12月17日(火)

期末テストが近づくと、年貢の納め時の学生があちこちに現れます。中間テストの時は、まだ学期が半分残っている、期末テストで逆転して見せると、多少の余裕も見られます。追試再試の先送りもよくある話です。しかし、期末テストとなると、そんな余裕もなくなり、受けるべきテストの先送りも許されなくなります。未受験のテストは0点だったものとみなして平均点を算出しますから、そのせいでその科目が不合格になることだって十分あり得ます。

Gさんはその年貢を一生懸命納めようとしています。不合格だったテストを次々と受け、なんとか合格点にまでこぎつけようとしています。直前まで2階のラウンジで勉強し、1階に下りて来てテストを受けるという繰り返しです。覚え込んだことを忘れないうちにテスト用紙に書き込もうという魂胆です。瞬間最大風速みたいな点数を出して、ぎりぎりでも合格しようというつもりです。

その作戦が功を奏してか、このところ受けた漢字や表現のテストは、どれも合格点を取っています。平均点も合格点を確保しました。あさってが期末テストですから、そうやって無理やりにでも詰め込んだものが、多少は残ってることでしょう。図らずも期末テストの勉強にもなっているのです。

Gさんはそうやってどうにか年貢を納め切って、期末テストでひどいことにならなければ進級できそうです。その一方で、LさんやZさんは置かれた状況はGさん以上に厳しいものがあるのですが、動いてもいませんし、動く気配すら見せていません。進級をあきらめてしまったのでしょうか。Kさんも当落線上にいるはずなのですが、自覚が感じられません。私が買い物に出た時、恋人と腕を組んで歩いていました。

ここに登場したみなさん、果たしてメリークリスマスになるのでしょうか。よい新年を迎えられるのでしょうか。

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息つく間もなく

12月16日(月)

午前の授業の後は、まず、アメリカの大学プログラムの学生Mさんのオーラルテストをしました。先週金曜の日本の高校訪問がとてもよかったと言っていました。そこでは自分の地元の紹介など、大活躍をしたようです。来年、JETプログラムを利用して、東北地方の学校で働いてみたいと夢を語ってくれました。

その次は日本語プラス生物の授業をしました。今学期最終回は、ホルモンと神経の話です。バソプレシンとか糖質コルチコイドとかランビエ絞輪とか、学生たちが大嫌いなカタカナ専門用語がたくさん出てきました。しかし、確認テストはよくできていましたから、必要最低限の概念は学生たちに届いたというところでしょうか。

それが終わったら、Rさんの面接練習でした。Rさんは私のクラスの学生ではありませんが、いろいろな成り行きで面接練習を引き受けました。T大学の面接試験が今週金曜日に迫っています。

T大学に入りたいという気持ちが強すぎるのか、前のめりの姿勢で受け答えをしていました。今まで、自信なさげに前かがみで面接練習に臨む学生は大勢いましたが、Rさんのように、見ようによっては今にも飛びかからんばかりに受け答えをする学生は初めてでした。気持ちはよくわかりますが、ちょっと表に出し過ぎかな。でも、答えの内容は素晴らしく、どれ一つ取っても他の受験生の口からは出てきそうもない、オリジナリティーあふれる言葉の連続でした。本番もこの勢いなら、合格の可能性は十分にあります。

面接練習が終わって1階に戻ってくると、Gさんが待っていました。漢字テストの再試です。Gさんはどうしても進級したいと思っていますが、不合格の漢字テストがあります。それを受けておかないと、漢字が不合格で進級できないということもあり得ます。それでは困ると、受けに来たという次第です。再試ではどうにか合格点が取れましたが、これは期末テストの範囲でもあります。不安が全面解消したわけではありません。

諸々が終わったら、外は真っ暗。明日も同じような1日になりそうです。年末、最後の力を振り絞って、仕事をどんどん片付けていきます。

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Tシャツにジーンズ

12月13日(金)

Eさんはアメリカの大学のプログラムで留学してる学生です。このプログラムには、毎学期、オーラルテストがあります。授業後、Eさんにそのオーラルテストをしました。

私のオーラルテストのやり方は、自然なやり取りをしながらその学生の話す力を見極めていくというものです。Eさんは最初緊張していたようでしたから、クラスの先生の名前や、その先生方の中でだれが一番面白いかとか厳しいか、気楽に答えられて、でもその答えの中に文法力や語彙力が垣間見られるような質問をしました。

はじめは言葉を探しながら答えていたEさんでしたが、次第に即答に近くなってきました。口に潤滑油が回ってきたのでしょう。じゃあちょっと込み入った質問をということで、KCPでの勉強が終わったらどうするか聞いてみました。ファッション系の専門学校に行きたいそうです。続いて、アメリカではなく日本でファッションの勉強をするのはどうしてかと問うと、アメリカのファッションは簡単すぎるのだそうです。

アメリカ人は1年中Tシャツにジーンズ、寒かったらパーカーを着るだけだけど、日本にはきれいなファッションがたくさんあるのだそうです。確かに、私の周りのアメリカ人学生、特に男性は、冬でもTシャツにジーンズです。今年の3月に卒業したJさんは、まさにEさんの言う通りでした。薄っぺらいパーカーしか着ていないくせに風邪で休むとは何事かと激怒したこともありました。アメリカ人の修正だったんですね。

Eさんは日本人と変わらない服を着ていましたが、これは友達の誕生パーティーに着ていくくらいの服なのだそうです。おしゃれな服をいっぱい着たいから日本へ来たのであり、将来は自分でそういう服を作って、原宿あたりで売りたいと夢を語ってくれました。

気が付いたら、Eさん、最初のたどたどしい話し方が嘘のように、よくしゃべっていました。オーラルテスト、十二分に合格点です。

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久しぶりのお茶

12月12日(木)

久しぶりにお茶室に呼ばれました。このところ、お茶会に来てくださいと声をかけていただいてもお断りせざるを得ない学期が続いていました。たぶん、今年初めてではないかと思います。

誘ってくれたのは、私の初級クラスの学生Jさん。午後クラスの授業が終わった5時半ごろからでしたから、こちらも日本語プラスが終わっており、時間の都合がついたというわけです。Jさんは今学期で帰国します。3か月間茶道部で稽古を積んだ成果を披露してくれることになっていました。

呼ばれた時間の直前に、急に会議が入ってしまい、だいぶ遅刻してしまいました。それでも、待っていてくれました。足の運び方はお師匠のO先生に注意されていましたが、お茶を点てている姿は堂に入ったものでした。茶筅の動かし方など、素人の私の目には、時代劇に出てくる千利休と変わるところがありませんでした。点てていただいたお茶も、午後は意識してあまり水分を取っていなかったので、スーッとのどにしみこんでいきました。

Jさんは、クラスではにぎやかな学生ですから、寡黙に茶筅と茶碗を凝視してひたすらお茶を泡立てる姿など、想像もつきませんでした。知られざるJさんの秘密を見てしまったような、不思議な気持ちになりました。Jさん自身はどうなのでしょう。新しい自分の一面に気づいたのだとしたら、それだけで留学の成果があったというものです。帰国した後でさらに脱皮して、周りの人たちを驚かすかもしれません。

期末テストまで、ちょうど1週間。Jさんは、クリスマスはご家族と過ごすのでしょう。クリスマスケーキに抹茶はつり合いませんが…。

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新教科書

12月11日(水)

初級クラスで使役を教えました。昨日のN先生が「明日は使役ですよ。難しいですよ」と前振りをしておいてくださったので、「はい、じゃあ、使役を勉強します」と、いきなり使役動詞の作り方から入りました。今、KCPで使っている教科書は会話を中心にして構成されていますから、こういう入り方は邪道です。教科書の作者も、真っ先に使役動詞の作り方を教えるなどという授業進行は想定していないでしょう。

新しい教科書になってから発話力、コミュニケーション力は伸びたものの、文法の正確性が落ちたのではないかという反省が出ています。それで、今回は、まず、文法から入って、使役動詞の作り方をきちんと覚えてもらおうと思ったのです。N先生の前振りのおかげで、使役とは何かについては予習してきてくれましたから、そこはわかっているという前提で進んでいけました。

前の教科書の時でも、1回の授業で使役が完璧に使えるようにはなりませんでしたから、新しい教科書でもそこまでは求めませんでした。誤変換がだんだん減っていけばいいだろうというくらいの気持ちで取り組みました。作り方を説明し、全体で練習し、次は、「勉強します」⇒「勉強させます」、「本を読みます」⇒「本を読ませます」というように、個々の学生にキューを与えて使役動詞を答えてもらいました(答えさせました?)。これは、ほぼできました。とりあえず、作り方は理解したようです。

そして、短いやり取りの中で使役動詞を使ってみようとなったのですが、これがイマイチでした。微妙なところで間違いが発生するんですねえ。詰めの甘さを感じました。どうやら、勢いでコミュニケーションを進めることが身についてしまい、正確性を追い求める気持ちが薄くなっているようなのです。これが他の文法項目でも同様だったとしたら、JLPTやEJUのような試験で点が取れなくなってしまいます。

私たちの側が新しい教科書を使いこなせていないからなのでしょうが、軌道修正が必要みたいです。年末年始休みは、これが宿題かもしれません。

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まじめです

12月10日(火)

今学期の日本語プラス理科系の学生たちはとてもまじめで、最後まで休まずに授業を受けそうな勢いです。授業中に指名したときの答え方を聞く限り、日本語を話す力はまだまだです。しかし、板書や私が話した言葉をノートに取ったり、日本人の高校生向け参考書の図表や写真などを参考にしたりしている姿は、今後に期待が持てます。練習問題をさせると、だいぶ正解するようになってきました。

11月のEJUから翌年の6月のEJUまでは7か月ありますから、基礎から鍛えるにはちょうどいい時期です。受講する学生も、翌々年進学という気持ちで固まっていますから、焦る気持ちがありません。したがって、こちらも長期戦が展開できます。しかも今回は根がまじめな学生と来ていますから、毎回の理科の授業が楽しみでした。準備をする段階から心が掻き立てられるものを感じています。資料のコピーにも力が入ります。

その一方で、Dさんが退学しました。Dさんは去年の夏学期から日本語プラスを受けてきましたが、学校をすぐ休んでしまう癖がどうしても直らず、帰国することになりました。勘がいい学生でしたから、きちんと勉強を続ければどんどん伸びたことと思います。それだけに残念でなりません。私に会うといつもにこにこしていたのですが、その裏側には大きな闇を抱えていたのでしょうか。

今までの様子を見る限り、今学期の理科系の学生たちには欠席病の予兆は見られません。上手に育てて、学生たちの夢をかなえさせてあげたいです。

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