KCP地球市民日本語学校校長・金原宏のブログです。
12月20日(火)
MさんとYさんが、クリスマスケーキを持って遊びに来てくれました。2人ともおととしの4月にKCPに入学し、Mさんは去年の4月から、Yさんは今年の4月から、それぞれ自分の目標としてきた進学先で勉強しています。2人が来た時は、2人を教えた先生方がけっこういらっしゃったので、話も弾んでいました。アルバイトをしながらの学業もすっかり板につき、しっかりと日本に根を下ろしている様子が感じられました。今日持ってきてくれたケーキも、Mさんがアルバイト先の店長に交渉して、品薄の中から手に入れたそうです。立派なもんじゃありませんか。
MさんとYさんが来るちょっと前に、Sさんも顔を見せてくれました。KCPに入ったころのSさんは、まだ本当に子供でした。本人は大人だと思っていたようですが、Sさんのご両親と同世代の私などから見ると、この子、日本でやっていけるんだろうかと心配になるほどでした。私はSさんの新入生の学期の担任でしたから、ひときわそういう思いが強いのです。そのSさんがR大学に入り、来年3月で卒業し、4月からは日本学生も憧れる大手企業への就職が決まっています。
日本で生き残る留学生は、順応性とたくましさがある人たちです。Mさんはどのクラスでもリーダー格だったし、Yさんにはクラスメートを引き付けてやまないキャラクターがありました。Sさんは見かけによらず根性がありました。今の在校生も、この3人の覚悟とその実践を見習ってほしいなあと、Mさん・Yさんからの差し入れをいただきながら思いました。
12月19日(月)
北朝鮮の金正日総書記が亡くなりました。前々から重病説が流れていましたが、17日の朝に心臓発作を起こして亡くなってしまいました。69歳といえば、日本ではまだまだ若いという年齢ですが、北朝鮮ではどうなのでしょう。後継者として三男の金正恩氏が指名されていますが、かの国をきちんとまとめていけるかどうか、未知数の部分が多いというのも事実です。金正日総書記も、本当はもっとしっかり権力委譲を済ませておきたかったのではないかと思います。
金正日総書記と同列に論じてはいけないかもしれませんが、今上天皇も今週の金曜日、23日で78歳におなりです。一般庶民ならとうに悠々自適の生活をしている御年であるにもかかわらず、天皇としての儀式も数多く、国内のみならず海外にまで足を伸ばさねばならないことも間々あります。今年は入院・手術をされて、肉体的なご負担を減らすべきではという議論も今まで以上になされました。その陛下よりも9つも若い金総書記が亡くなったのですから、不謹慎を承知の上で、陛下のご健康に考えを及ぼさずにはいられません。
明治以降、天皇は「生涯現役」が大原則です。しかし、これは老人に劇務を強要することにもなりかねません。政治家のような脂ぎった人種なら、劇務もどうということはないかもしれません。老害をまき散らすだけだから、一刻も早く引退願いたい人も多数います。しかし、天皇という平和の象徴のような地位の人を80歳に手が届かんとする年になっても劇務にあたらせるというのは、根本的な考え方に矛盾があるように思えてなりません。量的にも質的にも御年にふさわしい職務を厳選し、それだけをなさるという、真の意味での国家の象徴になっていただくのが一番よいように思います。
何はともあれ、海外留学の経験もあるという金正恩氏が、国際的な視野でかの国を引っ張っていくことを祈ってやみません。
12月16日(金)
今日は大陸方面から強力な寒波が南下してきて、京都、広島、福岡、熊本などで初雪が観測されました。日本海側の山間部は、かなりの積雪になっています。北海道だけにとどまらず、本州の雪国も本格的な雪景色になったことでしょう。雪が降っていないところも湿度が高くなっていて、雪雲に覆われた空模様が想像できます。東京は当然のごとく冬晴れで、昨日よりは下がったとは言うものの、気温も13℃まで上がりました。年末が近づき、日本列島全体が冬の体制になったようです。
お正月のお飾りも、ぽつぽつ現れ始めました。昨日の夜、学校から帰る時に見かけて、今年ももういくらでもないんだなと思いました。期末テストまで1週間を切り、今日あたりから今年最後の授業という先生もいらっしゃいます。T先生も今日が今年最後でした。クラスに欠席者が多く、少し残念そうでした。噂によると、その中には、ゆうべバッティングセンターで遊びすぎて休んだ学生もいるとか。親の心子知らずじゃありませんが、教師の気持ちが片思いになることはよくありますからね。
職員室には年貢の納め時を悟った学生が何人か、追試やら再試やらを受けに来ています。すっきりした形で学期を、この1年を終えようというのは、殊勝な心がけです。年末年始に国へ帰る学生が一時帰国届けを出しに来たりもします。日本から見ると、寒波の源へ向かっていく学生もいます。そういう学生のふるさとは、どんなところなのでしょう。外は寒くても、温かい家庭が待っているんでしょうね。
12月15日(木)
午後、2人の学生の面接練習をしました。2人とも、4月期に私が初級で教えた学生で、その後順調に進級して今学期は中級になっています。当たり前の話ですが、2学期前に比べればずいぶん日本語が上手になっていました。でも、話し方の癖は変わりませんね。半年前の教室が懐かしく思い出されました。
初級を教えるのは、いわば、種をまくようなものです。そして、教えた学生が中級や上級になって、その学生の成長を感じた時が収穫期といえます。今日の私がその典型です。上級を教えていると、ほかの先生方がまいた種から伸びた果実を刈り取るばかりで、心苦しいものがあります。うっかりすると、クラスの学生たちは最初から上手だったような勘違いに陥ってしまいます。日本語ができなかったときを知っていると、よくぞここまでがんばったという感激も生まれてきます。が、上級の姿しか知らないと、できて当たり前と思い込んでしまいます。そして、ちょっとでも間違えると、何だこいつ、こんなこともできないのか、と思ってしまいがちです。これじゃあ、学生がかわいそうですよね。
今日の2人については、志望動機やら将来設計やら、こんな難しいことも話せるようになったのかと、上達度合いを肌で感じ、フィードバックで厳しいことを言いながらも、ちょっぴり感激に浸っていました。今学期毎週水曜日に教えていた超級クラスの学生たちにも初級時代があったことは頭ではわかっていても、それを自分の目で見ていないため、フラッシュカードを見ながらて形をリピートしている姿など、何だか不自然な気がしてなりません。私は初級から超級まですべてのレベルを教えますが、それでもこんな感覚を抱くのですから、ある特定のレベルしか教えない先生はどうなのでしょうか。
初級の先生には収穫の喜びを、上級の先生には成長の暁を想像する楽しみを、それぞれ味わってもらいたいと思っています。
12月14日(水)
午前の授業の後、アメリカの大学からKCPに留学に来ている学生の会話力テストをしました。アメリカの大学からの学生は、普通の学生とは別のプログラムなので、期末テストにはペーパーテストのほかに会話のテストもあります。
今日は、初級の終わりから中級にかけての3名の学生にテストをしました。一番感心したのは、どの学生も最初から最後まで丁寧な言葉づかいで話していたことです。私がわざと友達言葉で話しかけても、今日の3名は全く引っかかりませんでした。だからといって、妙にかしこまった話し方だったかといえば、決してそんなことはありませんでした。ごく自然に、です・ます調の話し方をしていました。
KCPに限らず、どこの日本語学校でも、最初は丁寧体での話し方を教えます。しかし、学習が進んで普通体を勉強すると、とたんに丁寧体での話し方が崩れてしまいます。今までのアメリカの学生も、多くの場合、会話テストでも、ついうっかり、友達言葉が出てきちゃったものです。それなのに、今日の3名は終始丁寧な話し方だったので、こうしてわざわざブログに載せているのです。
もちろん、友達と話すときには普通体でもかまいませんが、一応私は学生たちから見ると目上ですから、学生たちは丁寧体で話すのが礼儀というものです。今日の3名は、言葉の使い方や文法に間違いがないわけではありませんでしたが、話していて好印象が抱けました。こういうことが、日本語を使って日本の社会で生きていく上で重要なことなのです。はっきり言って、上級の学生の一部に、この3名の爪の垢をせんじて飲ませてやりたいくらいです。
今日の会話テスト、3名には合格点をあげました。でも、満点はあげませんでした。勉強した文法がきちんと使えていなかったら、減点しなければなりません。ただ、会話の相手に好感を抱かせたという点では、3名のコミュニケーション力は評点以上だと自信を持って言えます。
12月13日(火)
F大学の方がいらっしゃいました。募集要項を持って来て、大学の入学案内をなさっていきました。そのついでに、今年の4月にKCPから入学したSさんとKさんの近況を知らせてくださいました。
Sさんは非常に優秀な成績で、GPAもかなりの上位だそうです。ちょっと鼻が高くなりました。Kさんも決して悪い成績ではなく、日本人の学生とも打ち解け合って、すっかり大学になじんでいるそうです。2人とも順調な学生生活を送っていることがわかり、一安心しました。
こういうふうに、卒業生の情報を入れてくれる大学や専門学校は、こちらとしても安心できるものがあります。送り出した学生をきちんと育ててくれていると思うと、その学校を学生たちに勧めたくなるのが人情です。出席不良に陥っていても、それをそのまま報告してくれる学校は信頼できます。
SさんとKさんの場合も、Sさんは在学中から優秀で、皆勤賞を取るくらい真面目な学生でした。ですから、SさんがF大学を受けると言ったときもあまり心配はしませんでした。Kさんはときどき再試を受けなければならない学生で、スランプに陥るときもあり、ちょっと心配していました。ですから、Sさんが成績優秀なのは予定通りでした。Kさんが前期の試験をうまく乗り越えてくれただろうかというのが、気がかりになっていたところです。それゆえ、Kさんが日本人学生の友達を作っていることを聞いて、大いに胸をなでおろしたのです。
でも、これは私たちにも言えることで、学生をお預かりしている立場からは、学生の報告をきちんとしてこそ学校としての信頼が得られるのです。今までそういうことを全然してこなかったわけではありませんが、F大学並みのことをしてきたかといえば、大いに疑問です。学生の出席率が悪くなった時だけ国許に連絡して何とかしてくれと泣き付くんじゃあ、信頼度が高まりませんよね。
SさんとKさんにはフェイスブックでF大学の方から聞いた話を伝えました。2人とも喜んでいました。
12月12日(月)
毎年日本漢字検定協会が公募する今年の漢字が発表されました。「絆」です。東日本大震災以来、いろいろな場面でこの漢字が使われました。私たちも、学生たちとの絆を深めることがいかに大切かを強く強く認識させられました。絆を強くする一環で、このブログを毎日書いているわけですが。
毎日、数百字の文章を書くことは、決して難しいことではありませんが、赤子の手をひねるがごとくできることでもありません。朝から晩まで、自分の身の回りに注意を向け、話題を探し、その中から世界に発信してもおかしくないものを選び抜きます。それを、日本語のできる外国人も読むのだということを念頭に置いて、文章化していきます。
先月から、このブログが各国語に翻訳できるようになりました。ツールバーで言語を選べば、googleの自動翻訳によるものですが、各国語になります。ただし、自動翻訳ですからおのずと限界があります。英語は想像力をたくましくすれば、何とか理解できるかなというところでしょうか。中国語も、漢字を追いかけている限り、相当な訳になっていることが想像できます。韓国語を始め、その他の言語は私は全くわかりませんが、推して知るべしではないかと思います。
どうやら、直訳の逐語訳をしているみたいで、各国語と日本語の語順は無視に近く、慣用句はほとんど考慮されていません。英語の場合、日本語では省略されている主語を補わなければなりませんが、補われた主語がはずれの場合がかなり見受けられます。
言葉は人と人の心をつなぐ大事な絆です。コンピューターが発達したとはいえ、その絆を正確に理解するには遠く至っていません。こう考えると、語学とは人間を人間たらしめる勉強です。外国語が理解できるということは、機械を上回る知性の持ち主であることの証明です。その知性を用いて、自分の国と日本との間に本当に絆を作っていくことができるかどうか、これが、今、KCPで日本語を勉強している学生たちに課せられている課題だと思います。
12月9日(金)
今日は寒い1日でした。午後になって日が差してきましたが、気温は7℃止まりでした。明日も、天気はいいものの、気温は低いままのようです。先日のニュースで、このところ週末のたびに温かくなるため冬物衣料が売れなくて、スーパーやデパート、衣料品店が困っていると言っていましたが、今週末はみんなこぞって暖かい服を買いに行くでしょう。
午前の授業の後半、外国からのお客様を案内して、2つのクラスにおじゃましました。1つは先週私が代講で入ったクラスで、相変わらずクラスみんなが活発に発言していました。今日の担当のI先生との丁々発止のやり取りを、お客様は感心した顔つきでご覧になっていました。
もう1つは中級のクラスで、グループ活動の真っ最中におじゃましました。3~4人のグループに分かれて、決められたテーマについて議論していました。お客様は各グループを見て回り、学生に直接話しかけ、議論の進み具合をご覧になっていました。メンバーの国籍がばらばらなので、話し合いの言葉は、必然的にみんなの共通語の日本語になります。
どちらのクラスでも、学生たちが存分に日本語を使っているところを見ていただけたと思います。教えている教師も、そういう学生の表情を見ていると、うれしくなってきます。
夕方、Bさんから電話がありました。「先生、N大学に合格しました」と知らせてくれました。BさんはN大学の学校推薦を狙いましたが、選ばれませんでした。どうしてもN大学に入りたかったBさんは、一般入試に挑戦し、見事合格したわけです。推薦がだめだだったときはずいぶん落ち込んでいましたが、新しい目標に切り替えて前進したことが今日の結果につながりました。
明日はC大学、S大学などの入試があります。Jさん、Yさんが授業後残って最終チェックをしています。真冬の寒さを押し返すくらいのパワーを発揮すれば、夢が叶うことでしょう。2人からもいい結果を聞きたいものです。
12月8日(木)
今日のクラスでは、ビジネス日本語の基礎をほんの少しやりました。読解のテキストが日本経済新聞からの引用でちょっと難しいので、飽和状態の頭を休めてもらおうと思って、ビジネスの場でよく使われる言い回しをいくつか練習しました。
さすが上級だけあって、社長室に入る時に何と言いますか、上司におごってもらった時に何と言いますか、などは、常識以前だとばかりに楽勝でした。でも、上司のお父さんが亡くなった時に何と言いますか、となるとさすがの上級の学生も答えられませんでした。
年末に、年内はもう会いそうもない取引先の人に言うことば――これも学生たちは知りませんでした。「明けましておめでとうございます」という答えが大半でした。これでは困るので、12月だからすぐ使えて、ビジネスといわず日常生活でもよく使う言葉として、ちょっと練習しました。
もう1つ、ビジネスでも日常生活でも1年中よく使う言葉として、「おかげさまで」を取り上げました。「おかげさまで大学に合格しました」「おかげさまで仕事が予定より早く終わりそうです」「おかげさまで部屋がすっかり明るくなりました」などなど、いくらでも応用が利きます。これを「ありがとうございます」「お世話になりました」といったの感謝の言葉と一緒に使うと、本当に日本語が上手に聞こえます。
「おかげさまで」は、学生たちも聞いたことはあるはずですが、意識したことはないでしょう。今日の授業をきっかけに、「おかげさまで」に反応するようになり、どんな場面で使われるのか実地に見聞きすることで、使い方が見えてきます。そして、自分も使ってみて、使うタイミングを体得していくのです。
授業が終わって教室を出ようとしたSさんが、私に向かって「先生、よいお年をお迎えください」。思わずこけてしまいました。
12月7日(水)
昼休みの特別講座の時間帯に、お楽しみ会を開きました。特別講座の発表・展示会と、個人参加の学生の演奏会です。8階講堂にステージを作り、授業が終わったばかりの午前クラスの学生、授業が始まる前の午後の学生を呼び込んで始めました。
講堂の壁には新聞部が作ったKCP新聞、ジャニーズクラブが作ったジャニーズ新聞、書道とペン習字の作品が飾られていました。いつも思うのですが、書道とペン習字の学生の字のうまさは、私など足元にも及びません。う~ん…。
まず、リコーダークラブは今学期練習した3曲を披露してくれました。トップバッターで緊張もしたでしょうが、息のあった演奏で練習の成果を遺憾なく見せてくれました。サンタの帽子をかぶり、「きよしこの夜」も演奏して、ムードを盛り上げてくれました。
次に、個人参加の学生が、ギター、マンドリン、二胡の演奏をしてくれました。どの演奏もプロはだしで、大きな拍手が沸きあがりました。ギターのLさんは私も教えたことがありますが、教室での姿とは全く違う一面を見せてくれました。マンドリンのJさんは、演奏の直前まで青白く神経質な面持ちでしたが、立派に演奏して拍手をもらうや、満面に笑みをたたえ、とてもいい顔になりました。この2人の演奏に刺激されたのでしょうか、Zさんはまさに芸術家そのものという感じで、髪を振り乱して演奏に集中し、学生たちの目と耳を引き付けました。
最後は歌の特別講座でした。いかにも楽しげに歌っている様子が印象的でした。こちらも各国語でジングルベルをうたってくれて、見に来た学生たちの気持ちが最高峰に達しました。「アンコール」などという声もありましたが、午後の授業が始まりますから、そこでお開きになりました。
いつの間にか会場は満員になり、私は最初から最後まで立ち見でしたが、立ち見であることを忘れてしまうくらいの演奏と歌でした。できることなら、すべての学生に見せたかったです。
12月6日(火)
Kさんは国立大学の薬学部志望です。語学センスはあるのか、日本語はどんなテストでもそこそこ以上の成績を挙げます。しかし、今年に入ってから今まで、まともに勉強してきませんでしたから、肝心の理科の実力は「?」です。いよいよ国立大学の出願が迫るにいたって、ようやく尻に火がついたようです。
Kさんは高校を出たばかりですから、まだ若いです。いや、幼いといったほうが正解かもしれません。昨シーズンもC大学を受けて惨敗していますが、その反省をするどころか、受験まで時間的に余裕があると思うと遊んでしまいました。学校もよくサボり、アルバイトに精を出し、国では親の手前で着なかったことを何でもし、日本で羽を伸ばしまくるという、キリギリスを地でいくようなこの1年でした。
そのKさんがやっと勉強する気になったのですが、ちょっと遅かったかもしれません。春からきちんと勉強してきてくれれば、かなりのレベルまで上れたと思います。先日のEJUの結果はまだわかりませんが、現実は厳しいものとなりそうです。私たち教師もKさんを勉強に引き戻そうと努力しましたが、努力が足りませんでした。幼いからこそ、ガツンと叱ってグイッと強制的に引っ張れば、正しい方向に向けることができたのでは、という悔いがないでもありません。
今シーズンはS大学を狙うそうです。S大学にはKさんが苦手とする物理の試験がありますが、今日から死ぬ気で勉強し、3か月後の試験に間に合わせるという予定を立てました。物理は基礎から勉強しなければなりませんから間に合う保証はありませんが、まだ若いKさんなら伸び代も大きいでしょうから、やってくれると信じています。
12月5日(月)
いろいろと仕事が立て込んでいて、先週の火曜日の作文を、ようやく、今日、採点しました。金曜日に原稿用紙を自宅に持ち帰り、週末採点しようと思ったのですが、結局週末は何もせず、今日になってしまいました。
最近、家に仕事を持ち帰っても、何もせずにそのまま学校にまた持ってくるというパターンが増えました。家の中の仕事をしていると、けっこうあっという間に時間が過ぎてしまうもので、作文の採点などにはなかなか手が回りません。それと、週末は寝だめもしなければなりません。睡眠不足を解消するのは週末しかありませんから。
それだけならいいのですが、どうも週末は仕事をやる気が湧かないのです。2年ぐらい前までは、作文の採点はもちろん、週末にテスト問題や教材を作ったり、課外授業の下見に行ったりといったこともしました。年齢的な気力の衰えだとすると、由々しき問題です。
しかし、そもそも、休日に仕事をしていたほうがおかしいとも言えます。学校の仕事は学校で片付けて帰るべきもので、家に持ち帰ること自体が異常なのです。そう考えると、今、やっと正常な状態に戻ったわけです。気力の衰えではなく、昔がハイテンション過ぎたと考えることもできます。
休日に仕事をしなくなったのは、こんな結論付けもできますが、本当に困っていることは、集中力がなくなってきたことです。近ごろ、周りで誰かがしゃべっていると、自分自身の仕事ができなくなりました。聞き耳を立てているというわけではありません。聞き耳を立てて話の内容を聞き取ろうとすることは、かなりの集中力を要します。私の場合、周りのおしゃべりを雑音として処理できず、それが思考回路を切断してしまいます。そのため、誰かが誰かと話していると考えをまとめることができず、仕事がさっぱり進まなくなってしまいます。まさか私の周りでは一切話をするなとも言えませんから、頭脳労働は早朝・深夜といったほかに誰もいない職員室でするのが一番能率的だということになります。
電車の中で本を読むのは、以前と全く変わらずできますから、聞き覚えのある声が集中力の妨げになっているようです。年を取ると思わぬところにガタが来るものだと思います。
12月2日(金)
今日は、代講で上級のクラスに入りました。このクラスは上級を何期も続けている学生たちのクラスですから、超級と言ってもよいでしょう。
このクラスでは、毎日、決められた人がスピーチをしています。そして、スピーチの内容に関してディスカッションが行われます。今日は、スピーチの内容もさることながら、質疑応答のレベルの高さに驚かされました。質疑応答が活発にできるということは、スピーチの内容がしっかりしたものであり、それがきちんと聞き手に伝わり、聞き手はそれに反応して的を射た質問をする、スピーカーはその質問をきちんと受け止めて答える、こういう一連の流れがよどむことなくできているということです。国会ははぐらかしなどというよからぬ戦術を使いますから論外だとしても、日本人が日本語で議論するときでもこの流れがスムーズに行かないことのほうが多いのではないでしょうか。
宗教などという抽象概念ばかりの難しい内容だったにもかかわらず、多くの学生が議論に参加し、意見を正面からぶつけ合っていました。また、意見を出し合うことでより高度な意見が生まれてくる様子もうかがえました。議論が次々と展開していくので、教師である私はほとんど何もすることなく、はたで議論を楽しむだけという、実に楽な授業でした。
このクラスは、大学に受験には関係がない学生が集まったクラスなので、カリカリ勉強するよりこういうディスカッションを好みます。私は受験講座を担当していることもあり、受験生クラスを受け持つことが多いのですが、今日のクラスの授業はとても刺激になりました。本来、語学学習のゴールとは、こういうように相手の意見を聞き、自分の意見を述べ、その過程で成長していくことではないでしょうか。受験生には何より知識が必要だというのは、悪しき固定観念かもしれません。
今日はディスカッションが白熱して、授業は予定したところまで進めませんでした。でも、私はとても満たされた感じで教室を後にしました。
12月1日(木)
さて、今日から12月。まるで計ったかのように、寒い1日となりました。最高気温は日付が変わった直後の11.3℃。日中は1ケタ台に下がり、この原稿を書いている時点での最低気温は、午後1:43の7.0℃です。
上級の選択授業は今日が最後でした。EJUが終わり、今度の日曜日がJLPTですから、それらの試験に備える授業を行うという目的は、今日で果たされたわけです。私が担当してきた「日本の文化」のクラスも、今日が最終回でした。最終回は、ちょっと外に出て、学校の近くの学生たちが行きそうもない「文化」を感じさせられるところを回ろうと思っていました。
学校から歩いて5分ほどの太宗寺(たいそうじ)には、地蔵菩薩坐像をはじめ新宿区の文化財や、塩かけ地蔵という庶民の風習を伝えるものがあります。そこから10分ほどの花園神社は、このあたりの総鎮守です。そのすぐそばの「四季の路」は、かつての都電大久保車庫への回送線です。新宿駅東口広場にある「みんなの泉」は、ロンドンから贈られた馬水槽(馬の水飲み場)で、下のほうには犬・猫の水飲み場がついています。そんなものを見ながら、新宿駅で解散という行程を考えていました。若干地味ですが、話の膨らませ方次第で学生の興味をひきつけられたんじゃないかと思っています。
でも、今日は冷たい雨がときどき降って、あまりにも寒いので、教室でいつものような授業をしました。文化に興味がある学生たちと歴史や文化を感じるスポットを回るのを楽しみにしていましたので、ちょっと残念です。また、いつか、チャンスがあれば、トライしてみたいです。
いずれにせよ、今年もあとひと月。有終の美を飾りたいですね。
11月30日(水)
今日はクラスの学生の面接を4人しました。進学希望の学生ばかりですから、話題はおのずと進学についてになりました。
今年は、全国から集められた昨年の留学試験結果の個人データを加工して、学生が志望校を決める際の参考にできるような資料を作りました。
1つは、大学学部学科ごとの合格者と不合格者の平均点を算出し、それを比較したものです。その平均点と学生の持ち点とを見比べながら、出願する大学を絞っていきました。学生たちはとかく楽観的に考えがちですが、それほど甘くはないということを知らせるには十分でした。
次は、それぞれの学生がどんなところを併願し、合否はどうなったかをまとめたものです。自分の持ち点に近い学生の併願パターンとその結果を見て、学生自身の出願のヒントにできればと思っています。これまた、学生にとっては厳しい現実が突きつけられた形になりました。私自身も、実際のなされた併願パターンを見て、指導の参考になりました。
もう1つは、ある大学のある学部学科を詳細に分析し、確度の高い合格ラインや合否判定の方法を予測したものです。これは分析に時間を要するため、すべての学部学科というわけにはいきませんが、分析してみると思った以上にいろいろなことがわかるので、1つでも多くの学部学科についてやっていきたいと思っています。
私はもともとが理系ですから、数字を扱うのが苦になりませんし、ほかの先生より扱いにも慣れていると思います。時間が許せばデータの解析に注力したいのですが、なかなかそうもいきません。でも、私の分析に学生の将来がかかっていると思えば、使命感と責任感が湧いてきます。
11月29日(火)
C専門学校の方がおいでになり、学校の入学願書とともに、来年の卓上カレンダーを置いていってくれました。今年も今日を含めてあと33日、来年のカレンダーが来てもおかしくはありません。そうは言っても、新しい暦を手にすると年の瀬を感じずにはいられません。
そのC専門学校、来年から大学院進学コースを始めるそうです。KCPでも大学院進学希望の学生が増えています。大学を卒業している人が入学することが多くなりましたから、当然の流れだと思います。この流れに合わせて、KCPでも大学院進学希望者に対して手厚い指導をしていくようにしています。大学院進学はなかなか一筋縄ではいきませんから、学生たちも私たちの力を必要とすることも多いのです。大学院入試は専門性が問われますから、確かに私たちの手に負えない部分もあります。しかし、それ以外の、学生が持っていない大学院に関する情報を補ったり、日本の常識に照らし合わせて判断したりといったところに、私たちの活躍の場があります。「かゆいところに手が届く」とは使い古された表現ですが、まさにそういうサービスを目指しています。
「人は教える間に教えられる」と言いますが、大学院入試の指導はまさにこれです。私たちも、今までの指導でかなりのノウハウを持っているつもりですが、その経験を活かしつつも経験にあぐらをかくことなく、学生の希望を実現すべく謙虚に学んでいくことが必要です。それが私たち自身の技術力を伸ばしていくことにつながります。
来年のカレンダーを見てみると、来年は休日が土曜になることが多く、実質的に休日が減ってしまいます。たくさん仕事ができて幸せだととらえるべきでしょうか。
11月28日(月)
今日は午前中は授業がなく、1人で職員室にいました。月曜日はそうでなくても土曜日曜と2日間無人で部屋が冷え切っているところに加えて、今日は日が全く照らず、暖かさのかけらもありませんでした。ついに、今シーズン初めて暖房を入れました。今まで、省エネのためと思って多少の寒さは我慢してきましたが、今日の寒さは「多少」ではありませでした。
今年の夏はみんなが冷房を控えたため、かなりの節電になりましたが、これから冬の電力ハイシーズンが本格化します。石油ストーブから電気を使うエアコンへと暖房の主力が移り変わっていくにつれて、冬の電力消費量も夏と肩を並べるほどになってきました。夏の電力のピークが供給量を上回りそうだということは、冬のピークもそれに近い状態だということです。
夏は暑いから服を脱ぐといっても限度がありますが、冬は寒ければどんどん厚着をすればいいのです。ユニクロのヒートテックを始め、保温性の高い下着も売られています。セーターを着たり、ひざ掛けをかけたりして防寒に努めれば、かなりの節電はできるはずです。
でも、暑いのと寒いのとどちらが貧乏くさいかといったら、寒いほうではないでしょうか。心も体も冷え切るとよく言いますが、体が冷えると気持ちまで落ち込んでしまいがちです。だから、厚着で防寒は可能かもしれませんが、暖房は心の豊かさを保つための必要経費だと思います。
学生にも暖房を上手に使って勉強に励んでもらいたいところですが、毎年暖房のかけつぎで風邪を引く学生が後を絶ちません。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」を地で行くような行為です。暖房すれば室内の空気が乾燥し、乾燥した空気は風邪のばい菌にとって絶好のコンディションなのです。受験生の皆さんには特に気をつけてもらいたいです。
11月25日(金)
「学期が始まって2か月になろうとしているのに、まだクラスのKさんの顔を見たことがないんですよ」と、今日もT先生がぼやいていました。Kさんは先学期からあまり学校に出てきていません。私は以前中級で受け持ったことがありますが、明るく闊達だったそのときとは違って、今学期のKさんはどこかうつむき加減です。自分でも欠席がちなのは悪いことだとわかっているのでしょう。出てきたときに休んだ理由を聞いても、はっきりした答えは返ってきません。そりゃあそうでしょうね、なんとなく休んでるだけなんですから。
おそらく、最初は風邪で休んだとかというような、ほんのちょっとしたことだったのです。でも、一度楽をしてしまうと朝早くおきて学校へ行くことが億劫になり、抜けた授業の分がわからなくなり、受けなければならない小テストがたまり、進級をあきらめざるをえなくなり、進級できなくなると友達と別れなければならなくなり、新クラスで孤立して余計に行きたくなくなり、…というような経過をたどったのではないでしょうか。もはや、Kさん自身では身動きできないというのが実際のところだと思います。
たまに出てきたときはきちんと勉強するし、指名すれば答えるし、グループ活動にも参加するし、クラスになじんでくれたかなと思わせてくれます。しかし、長続きしません。Kさんの中でも、煮詰まってしまっているのかもしれません。そういう学生を救えない自分が、非力なものに感じられます。
さて、来週の月曜日は、Kさんは来てくれるでしょうか。
11月24日(木)
中間テストの結果が出たので、その結果を見ながら各クラスで面接が始まっています。私のクラスはおととい成績表を配り、すぐに面接に取り掛かりました。成績表には中間テストの結果だけではなく、授業中に行う小テストの平均点も記しましたから、小テストをサボっていた学生は大慌てです。受けなかったテストは0点で計算しましたからね。早速効果が表れて、前日の漢字テストを受けていなかった学生が3名、受けて帰りました。
Sさんは、先週末、S大学のオープンキャンパスに行ってきたことを報告してくれました。M大学に落ちたSさんに、次の出願先としてS大学を紹介し、オープンキャンパスに参加するようにと言っておいたのです。幸いにも気に入ってくれたようで、次は出願です。
Pさんは、面接のついでに専門学校の願書の書き方を聞いてきました。見本がついているのですが、確かにちょっとわかりにくいですね。年をすべて元号で書かなければならないというのは、留学生に対して親切とはいえません。毎年留学生を受け入れている学校なのに…と思ってしまいました。
HさんとKさんは、中間テストの成績は平均95点ぐらいで、全く問題ありません。Hさんは日本で就職を考えているようですが、希望業種など、具体的なことはまだ何も決めていません。日本で働くということが本人の中でもう少し熟成してきたら、多少は手助けしていけるかもしれません。真面目な学生なので、何とか力になりたいものです。
Kさんは、入試の小論文の練習問題を書いて持って来ました。事実を書き連ねるだけではなくて、それに対する考察や意見こそが試験官の読みたい内容だということを話しました。書き直して明日また持って来ますと元気に返事をしてくれました。Kさんのいいところは、こういうふうに素直なところです。面接ウケはすると思いますから、小論文でいいものが書けたら、鬼に金棒です。
上級のこの時期は、進路指導の山場です。こちらも知恵と体力の限り、学生たちを支えていきます。
11月22日(火)
今朝は今シーズン一番の冷え込みで、都心は7.2℃まで下がり、郊外では2℃ぐらいまで下がりました。2℃といえば地表では氷が張る気温であり、吐く息も真っ白になることでしょう。
2℃どころか、マイナス20℃のカザフスタンの雪原に、半年近く宇宙ステーションに滞在していた古川聡宇宙飛行士が無事帰還しました。そんなに長期間無重力状態の世界にいると、筋肉が衰えてしまい、足腰が立たなくなるそうです。そのため、これからまず、そのリハビリをしなければなりません。
数年前に、宇宙飛行士の向井千秋さんが地球に戻ってきたときの話を読解の教材として取り扱ったことがあります。その教材にも、重力のない世界から重力のある世界に入って来た人が感じる不思議な感覚が載っていました。新聞やコーヒーカップみたいなごく軽いもの持っても重力を感じたそうです。そういう話を読むと、私たちは重力があることを当たり前のように思っていますが、無重力状態に慣らされた人にとっては、全く当たり前ではないことがわかります。向井さんは1週間ほどでしたが、古川さんは半年近く無重力の世界で暮らしていたのですから、もっといろんなことを語ってくれるのではないかと期待しています。
私も無重力の世界の住人になってみたいです。でも、無理でしょう。宇宙飛行士になることは当然無理です。確かに、古川さんは私よりほんの少し若いだけですが、彼は若いころから訓練したから今があるのです。老眼で腰痛・肩こり持ちの私が、宇宙飛行士の訓練に耐えられるわけがありません。また、旅行者としていくことも、相当なお金が必要ですから、これまた無理でしょう。
しかし、私が毎日相手をしている学生たちは、それこそ死ぬ気で勉強すれば、宇宙飛行士になれるかもしれません。それが若さの特権です。そういう学生たちがとても羨ましいです。ところが、学生たちは、自分たちがまばゆいばかりの可能性を持っていることに気づいていません。だらだらした生活を続け、目の前の享楽に走り、可能性を食いつぶしています。歯がゆい限りです。
これから先、気温が下がれば下がるほど、布団から出られずに遅刻などという不届き者が出てきます。今以上にじりじりしながら指導する日々が続くことでしょう。