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KCP校長ブログ

  KCP地球市民日本語学校校長・金原宏のブログです。

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納めの仕事

12月27日(金)
 今日は、朝一番でCさんの面接練習をしました。Cさんは年明け早々にK大学を受験します。Cさんの言っていることはわからないことはありませんが、わかりにくいです。「Cさん、作文の先生に文が長過ぎるって言われたことない?」ときくと、「はい、よくあります」とのこと。要するに、しゃべっているうちに話の焦点がずれてしまい、聞くほうは何を言わんとしているのかわかりにくいという図式です。Cさんはいろいろなことを言わなければと思って、1つの文にてんこ盛りしてしまったのでしょう。しかし、それは逆効果です。1つの文には1つの内容というのが大原則です。特に話し言葉では、文字として見直すことができませんから、なおのこと短く歯切れよくすることが肝心です。何回もやり直しさせて、少しずつよくなりました。
 Cさんが終わったら、次はPさんです。H大学の出願書類の最終チェックです。昨日、オンライン出願を済ませ、国の高校の書類などを郵送するのです。封筒に入れて、宛名に「御中」をつけて、封をしたら「〆」を書いてと、日本流の封書の作り方を教えました。こういうことは進学指導の時間に1度は教えているはずなのですが、やっぱり本番を迎えないと身に付かないんでしょうね。今日発送すれば、どう考えても出願締め切りまでには間に合います。とりあえず一安心ですが、PさんはさらにT大学にも出願するつもりで、お正月休みの宿題はその志望理由をまとめることです。年明け早々、志望理由のチェックが待っています。
 …というわけで、あっという間に仕事納めの日が過ぎていきました。今年は仮校舎での1年で、何かと窮屈でしたが、来春新校舎が完成したら羽も足も伸ばせることでしょう。それは同時に、「窮屈」を言い訳にできなくなるということで、私たちにも大きな覚悟が求められるということです。明日からの休暇に英気を養い、その覚悟を確かなものにしようと思います。

  • 2013年12月27日(金)14時12分

料理を語る

12月26日(木)
 今日のお昼は豪勢でした。ベトナムの学生がベトナム料理を作ってくれたのです。フォーを始めとして、テーブルに載り切らないほどのごちそうが出てきました。余りのおいしさに、3食分ぐらいお腹に詰め込み、さすがにベルトがきつくなりました。マレーシアの学生がマレーシア料理を食べさせてくれたときも、中国の学生が中華料理を振舞ってくれたときも、口から料理が出てきそうなくらい食が進みました。どうしてKCPの学生はこんなにも料理が上手なのでしょう。
 いつもはおとなしいCさんやらLさんやらが活発に動いていて、食事のときに教師にも積極的に話しかけてきたのが印象的でした。教室では押され気味のDさんやFさんも、生き生きと準備や後片付けに精を出していました。卒業生のRさんやHさんも駆けつけてくれました。Rさんからは大学院に合格したといううれしい報告も。
 ベトナム料理がおいしかったのはいいのですが、私が留学生として外国へ行って日本の料理を作ってくれと言われたら何を作るだろうかと考えてみました。日本料理の代表はすしですが、私はおいしくは握れませんし、懐石料理なんかはもちろんダメだし。カレーは作れますが日本料理と言えるかどうか…。肉じゃがと親子丼ぐらいかな、何とかできそうなのは。それプラス味噌汁じゃあ、今日のベトナム料理には全然かないません。
 ベトナムに限らず、どこの学生も、自分の国の料理を作るとなると、真剣になるとともに饒舌になります。今日も、Cさんが春巻きの皮がベトナムのものだったらもっとおいしかったのにって言っていました。日本の皮でも十分すぎるくらいおいしかったですけどね。私が肉じゃがを作ったら、日本の白滝を使えばもっとおいしくなるなんて語り出すんでしょうか。
 何はともあれ、ベトナムの皆さん、本当においしゅうございました。

  • 2013年12月26日(木)18時49分

お母さんと一緒

12月25日(水)
 Sさんがお母さんを連れて学校に顔を出してくれました。大学院に合格したSさん、ちょっと誇らしげにお母さんを紹介してくれました。そっくりな顔が2つ並んでいました。学期中のちょっと目が釣り上がった硬い表情ではなく、Sさんってこんな穏やかな顔をするのって言いたくなるくらい、ほんわかした顔つきでした。
 お母さんが来ていますから、教師どもは盛んにSさんをほめます。しかし、Sさんは恥ずかしがってそれを通訳しようとしません。「○○先生が言ったって言えばいいじゃない」とせかされても、顔を赤くしたまま。心地よいはき恥ずかしさだったんじゃないでしょうかね。
 親に自分の学校や先生を紹介するのって、どんな気持ちなんでしょう。私の場合、高校まではPTAがあったので紹介するまでもなく、大学は親元を離れましたが親が訪れることもなくというわけで、Sさんのような経験はありませんでした。親元を離れたといっても、しょせん国内ですから、たとえ親が訪れたとしても、Sさんのような誇らしげな気持ちになったかどうかはわかりません。
 Sさんのお母さんも、子供が日本の大学院に受かったことがうれしかったんでしょうね。終始にこやかな表情でした。担任の先生や進学担当の先生と写真に納まったりして、喜びをかみしめているようでした。学生自身が喜ぶ姿もそうですが、親御さんに喜んでもらえると、より一層指導してきた甲斐があったという気になります。初めての来日がこういう形で、Sさんは大きな親孝行をしたと思います。
 さて、今年もあと1週間。来週の水曜日は元日です…。

  • 2013年12月25日(水)17時23分

のどが…

12月20日(金)
 東京に初雪が降ったそうです。と言っても、雨に雪がわずかに混じった程度で、積もるには程遠いものです。気温は10度に届かず、コートなしには外に出られませんでした。教室の窓は曇ってしまって、外が見えないほどでした。
 おとといあたりからのどの調子がおかしく、龍角散を飲んでいます。このところ寒い日が続き、咳をする学生がいても教室の換気が進まず、変なばい菌をもらいたくないなと思っていたら、案の定のどをやられてしまいました。今日は声も少しおかしくなり、大きな声が出せませんでした。家へ帰ったら必ずうがいをしていますが、それだけじゃ足りなかったようです。昨夜、期末テストの問題作成のため、遅くまで残って仕事したのがいけなかったのかもしれません。
 私は、昔から風邪を引くと、まずのどが痛くなります。それから、熱が出たり下痢をしたりという症状に進みます。だから、今回もこれからひどくなるのではないかと心配しています。風邪予防にと、みかんを毎日2個ぐらい食べています。風呂で十分体を温めてからすぐ寝るようにしています。年末にかけて、ひどくならないように、どうにかこのあたりで踏ん張りたいです。
 今日が期末テストで、来週から授業がなくなりますから多少仕事が楽になるでしょう。あまり無理をせずに、来学期に備えたいです。来学期は、2015年進学の学生向けの受験講座が始まります。また大忙しになることは確かですから、今のうちに体調を万全にしておきたいです。

  • 2013年12月20日(金)19時12分

Sさんからの質問

12月19日(木)
 Sさんは京都のI大学を受けます。しかし、京都へは行ったことがありません。I大学についても詳しいことは知りません。受験日まで1か月ありますが、年末年始の休みを挟みますから準備にかけられる時間があまりなく、今日、期末テストの前日であるにもかかわらず、私のところへ相談に来たというわけです。
 百聞は一見にしかずとは言うものの、受験校が遠隔地にある場合、学生に気安く行って見て来いとは言えません。ネットのおかげで、いながらにして現地の情報が見られるようになりました。でも、学生にしてみれば実物を目にできない不安は消せません。外国の見ず知らずの町へ一人で赴く心細さはいかほどでしょう。
 今日、Sさんがまず聞いてきたことは、私が抱いているI大学へのイメージでした。それから、ネットを普通に読んだだけではわからない何がしかの情報です。そして、京都の町そのものについてです。京都は日本を代表する観光地であり、多くの情報が流れているように思えます。しかし、Sさんが知りたがったのは、Sさん自身が京都をイメージできるような情報です。ネットの情報を立体化するのに必要な、生活のにおいです。
 I大学に限らず、大学のホームページは真にその大学をイメージさせるに十分な情報が足りないように思えます。建学の精神も大切ですが、キャンパスの空気が伝わってくるようなページがほしいです。それは単に写真や動画をふんだんに取り入れればいいという問題ではありません。I大学のサイトだってそういうのがありますが、それでもSさんは私に聞いてきたのです。
 KCPのホームページにしても同じでしょう。日本での生活に期待と不安を抱いている学生が外国で見たら、期待を膨らませ、不安を打ち消すような内容になっているでしょうか。ちょっと自信がありません。来年の課題ですね。

  • 2013年12月19日(木)20時07分

「~について」について考える

12月18日(水)
 昨日、今日と初級の代講に入りました。一番下のレベルのクラスですが、もうすぐ期末テストということで、日本語がだいぶ通じるようになっています。今日は「~について」を導入しなければなりませんでした。もう少し正確に言うと、そういうことに全く気づかずにクラスに入り、学生に「わかりません」と言われて、押っ取り刀で導入を始めました。
 「~について」なんて、上級の学生にとっても教師にとっても当たり前すぎる言葉なので、改めて「~について」を説明しろ、しかも初級に学生にと言われても困ってしまいます。何の教材もなく、自分の口と体で何とかしなければなりません。上級の学生と違って、初級の学生はみんな教師を見つめています。熱演(?)とへたくそな絵で笑いを取りながら、何とか理解にこぎつけました。最後は、「レベル2でも3でも毎日使います。レベル4の学生はみんなわかります。大丈夫ですよ」と逃げを打ってしまいました。
 でも、これは一面の真実です。「~について」に接し続けているうちに自然に身に付く面が多分にあります。逆に、昨日別のクラスで導入した「~と思います」は、上級になっても「おいしいだと思います」「雨が降るだと思います」の類の誤用がなくなりません。ですから、ついつい青筋を立てて、そういう間違いがいかにみっともないかを熱弁してしまうのです。
 このように、初級の学生がどのように育っていくかを知っているのが、上級の教師の特権です。初級の先生方にもぜひ上級を教えてみて、ご自身の“作品”がどのように変化していくかを実感していただきたいし、上級の先生方にもぜひ初級のクラスに入って、将来の誤用の芽をつぶす教え方をしていただきたいです。
 「気をつけます」も初めての言葉で、やはり当たり前すぎて教えるのが大変でした。でも、こういう体験をすると、自分自身の言葉の体系に反省を加えるいいきっかけになります。

  • 2013年12月18日(水)18時22分

京の昼寝?

12月17日(火)
 Gさんが進路担当のM先生に怒られまくっています。Gさんは芸術系の大学への進学を考えているのですが、来日以来2年近く、なんにもしてこなかったのです。美術館や博物館を見に行くわけでもなく、ミッドタウンなどへおしゃれな店を見に行くわけでもなく、ただひたすらアパートと学校とアルバイト先という“魔のトライアングル”をめぐるだけの生活をしてきたようです。だから、ちょっと偉そうなことを言ってもその裏づけが全くないのですから、信用度ゼロです。
 「田舎の学問より京の昼寝」といいます。Gさんの故郷を田舎と言ってしまっては失礼かもしれませんが、日本で何かを得ようと思って来日したのに、文字通り昼寝をしてしまっては田舎の学問より劣ります。「京の昼寝」には、昼寝の合間に京の名所旧跡を訪れたり、学問の同志と語らったりという、自分を磨く要素が含まれているのです。Gさんはそういうことを全然せずに受験期を迎えてしまったのです。M先生が激怒なさるのも当然です。
 かつて、日本の高卒生のアメリカ留学がはやった時期がありました。このとき、多くの留学生が語学すらものにできずに戻ってきて、青春の無駄遣いだなどと言われたものです。日本の受験戦争に敗れてアメリカに転進したところで成功するわけがない、などという非難の声も上がりました。Gさんを見ていたら、そんなことを思い出しました。Gさんがどういう流れで日本留学しているのかはわかりませんが、魔のトライアングルをさまようGさんの姿を想像すると、学問に対する思いが強いようには思えません。また、何が何でもアルバイトで稼ぐという、かつていたような学生の持っていた悪い意味の意志の強さも感じられません。
 Gさんのほかにも「何のために?」と問いかけたくなる学生を何名か知っています。彼らの母国が豊かになり、日本まで来てわざわざ稼ぐ必要もなくなり、かといって日本は学問的に魅力的かというとそれほどでもない、そういう今の日本のポジションが、Gさんのような学生を生んでいるのかもしれません。

  • 2013年12月17日(火)20時50分

目の色が変わる

12月16日(月)
 EさんがN大学に合格しました。担任のA先生や厳しく指導なさっていたF先生によると、受験が近づくにしたがって目の色が変わってきたといいます。理系の学生だったので私も受験講座で面倒を見ましたが、受験講座では線がつながっているのかいないのかよくわからず、なんとなく手ごたえがない学生でした。問題をやらせると時折すばらしい答えを出すのですが、それがまさに「時折」であり、担当教師としてはもどかしい限りでした。日本語の授業でも同様だったようで、受け持った先生方にとってEさんはどこか伸び悩み感のある学生だったようです。
 先生方がこのまま大学受験に臨んだら大変なことになりそうだと思っていたところ、本人にその思いが伝わったのか、尻に火がついたからなのか、厳しい指導にも耐え、合格を手にしたわけです。Eさんに限らず、第一志望校やチャレンジ校に受かった学生は、多かれ少なかれ何がしかの脱皮をするものです。脱皮の最中に泣きが入ることもよくあります。Eさんにとってはそれが面接練習だったかもしれません。本番の面接でも面接官に鋭く突っ込まれ、ダメかもしれないと思ったようです。でもF先生を始めとする先生方の特訓が最後に効いて、目標に到達しました。
 Jさんはこれから目の色を変えなければなりません。目指す国立大学の受験日まであと73日というスマホの画面を見せてくれましたが、それまでひたすら数学と物理と化学の勉強をしなければなりません。EJUと違って、すべて記述式ですから、答案を書く力をつけなければならないのです。早速物理が弱いと泣きが入りましたが、それを克服するための勉強なのです。問題集をたっぷり貸しました。
 昨日、NHKの大河ドラマ・八重の桜が終わりました。主人公の新島八重のように、全力で問題にぶつからないと道は開けません。八重の戊辰戦争のように、全力を出し尽くしても敗北を味わうこともあるでしょう。しかし、そこでつかんだものは後半生にきっと生かされます。Eさんも受験で何かをつかんだでしょうし、Jさんに限らずこれから受験の学生も、余力を残してなどと考えずに、目標に向かってもらいたいです。

  • 2013年12月16日(月)18時56分

留学の意義

12月13日(金)
 来週の金曜日は期末テストで、今日、その範囲を発表しました。アメリカの大学のプログラムできている学生は、今週から来週にかけて面接試験があります。今日は、私はAさんのテストをしました。
 Aさんは中級クラスにいて、私も作文の選択授業で受け持っています。Aさんの作文は、致命的な間違いはないのですが、全体に文章が硬いです。今日の面接試験も、Aさんの文章そのままの硬い感じがする話し方でした。その点はAさんも気になっているようで、どうすれば自然な話し方ができるかと聞いてきました。
 Aさんは中級の授業で習った文法や表現を一生懸命使おうとします。その点はほめてあげられます。そういう学生はなかなかいませんから、奇特な心がけです。しかし、書き言葉まで会話で使われてしまうと、聞くほうが肩が凝ってきます。その辺のさじ加減が、Aさんには難しいようです。
 だから、スマホで音楽を聞きながら街を歩くのではなく、象耳にして周りの日本人の何気ない会話を聞くことを勧めました。そして、その中で、「学校で習ったこの表現はこういうときに使うんだ」と感じるものがあったら、次に同じような場面で使ってみるのです。時に失敗するかもしれませんが、何事も挑戦です。これは日本で日本語を勉強するからこそできることです。国へ帰ったら、こんなチャンスはめったに巡り会えません。
 学生は、日本で日本語を勉強している利点を活かしきっていないように思います。周りに日本語があふれているのに、その中を泳ごうとしません。国ではできない勉強をするところに、留学の意義があるのです。そうでなければ高い費用をかけて日本へ来た甲斐がないじゃありませんか。
 暗い顔をしていたAさんは、笑顔になって帰っていきました。Aさんはどんな言葉をつかんでくるでしょうか。

  • 2013年12月13日(金)19時09分

今年の漢字

12月12日(木)
 今年の漢字に「輪」が選ばれました。2020年東京五「輪」開催決定が大きな要素になったとのことです。日本漢字能力検定協会が毎年、全国からその年を代表する漢字を募集し、その最多得票の漢字を今年の漢字としています。今年の「輪」は、170,290票のうち9,518票を集めて1位になりました。
 私はなんだかピンとこないなと思いました。日本漢字能力検定協会の発表を詳しく見ると、今年は去年に比べて全投票数が9万票近く減っています。おととし2011年は50万票近くありましたから、約1/3になってしまいました。そのおととしは「絆」が6万票余り、得票率で12%以上を集めてぶっちぎりの1位でした。このときは私もなるほどと納得しました。しかし、今年の「輪」の得票率は5.6%、2位の「楽」は5.0%で、僅差の首位でした。つまり、今年は国民全体の関心も薄く、国民の印象に強く残った漢字もなかったということです。だから、私がピンと来ないのも無理はないところなのです。
 過去の今年の漢字を見ると、阪神淡路大震災があった1995年の「震」、同時多発テロのあった2001年の「戦」、政権交代があった2009年の「新」あたりは納得のいくところでしょうか。あとは、その年はなるほどと思えても、時がたつと何だっけという漢字が多いです。この3つの出来事は、30年後、50年後の年表に載っていることでしょうから、印象が強くて当然ですね。
 KCPにとっての今年の漢字は、新校舎建設中ということで「建」でしょうか。春まだ浅い3月、震えながら地鎮祭に臨んだことが思い出されます。おかげさまでだいぶ工事が進み、もうすぐ隣のビルを追い越しそうです。完成まであと3か月、待ち遠しい限りです。

  • 2013年12月12日(木)18時00分

予定戦場はどこ?

12月11日(水)
 今日も面接練習がありました。Kさんは、話している内容はすばらしいのですが、どこが本当に言いたいことなのかがわかりにくかったです。だから、Kさんにとっては枝葉末節のことばかり質問されてしまって、Kさんもさぞかしもどかしかったことと思います。
 面接は、どこでするかが重要です。自分の一番得意なフィールドを質問してもらえば、自信を持って答えられ、また、内容のある話ができます。しかし、そうでないところに面接官の目がいってしまうと、自分の実力が発揮できないまま面接が終わってしまいかねません。今日のKさんはそういうきらいがありました。
 昨日M先生と面接練習をしていたRさんもそんな様子でした。Rさんは自分が受ける大学の先生の研究が紹介されている雑誌の記事をネタにしようとしましたが、Rさんが答えられない方面に質問が向かってしまい、しどろもどろになっていました。志望校の先生についての雑誌記事を持ち出すことは、面接官の興味を引くことでしょう。しかし、それへの質問に答えられないとなると、全くの逆効果になってしまいます。
 Kさんの場合、結論に至る道のりが長かったため、本質に至らぬところの質問が多くなり、苦しくなってしまいました。結論をずばりと答えるようにすればそこが質疑応答の戦場となり、それについてならいくらでも答えられますから、有利に戦えます。つまり、予定戦場をどこにするかという戦略が必要なのです。
 これは、入試の面接に限らず、私たちもよくすることです。自分が本質と考えるところに議論を誘導し、そこで相手に立ち向かうというのは、プレゼンの基本中の基本です。大学に進学してからも、社会に出てからも使える話し方を教えているのです。
 KさんもRさんも今週末が勝負です。秘密兵器をたくさん隠してある戦場で戦ってくださいね。

  • 2013年12月11日(水)17時51分

脱線を呼ぶ質問

12月10日(火)
 今日は上級の入り口のクラスです。発言が活発なクラスで、質問も多いです。今学期の初めの頃は、質問は教科書の内容についてがほとんどでした。しかし、最近はそこから一歩外に出た、派生的・応用的な質問が増えてきました。つまり、教科書についていくのが精一杯で、教科書の内容を把握するために必死だったのが、教科書の内容は把握できるようになり、それに刺激されて関連事項を質問するようになったのだと思います。
 これは、日本語を使って何かをするという、日本語学習の目的の一つに達したことを意味します。進学したら日本語を学ぶことは目的ではなく、自分の人生を形作る何物かを学ぶための手段を得る方法になります。仕事をするならなおのことです。そういう、日本語を使う方向に学生たちが向かいつつあると受け止めました。
 今日のクラスの学生たちと、最上級クラスの学生たちとで何が違うかといえば、まさにこの点です。最上級クラスでは、教科書は話のきっかけに過ぎません。そこを起点に各方面に話が発展し、議論したりさらに情報を得たりしながら、より高いところに上っていくのです。読解のテクニックや文法の解説などを超えた次元で授業が進んでいきます。今日は幾分それに近い授業になったかなと感じました。
 学生たちは皆「日本」に対して並々ならぬ関心を持っています。その関心を日本語によって満たせるようになれば、真に上級の実力があると認めてもいいでしょう。今日のような質問が次々出ると授業はどんどん脱線していきますが、学生の力が付いたがゆえの脱線だと思えば喜ばしいことではありませんか。

  • 2013年12月10日(火)16時52分

口を大きく開けて

12月9日(月)
 Tさんはこれから何校か受験します。このところ毎日のように、担任のM先生と面接の練習をしています。Tさんの場合、最大の問題は話し方です。話す内容は標準以上ですが、発音がよくなく、その上「あー」とか「うー」とか「ちょっと」とか「それで」とか余計な言葉が挟まるため、わかりにくいことこの上ありません。
 初級のときからTさんは、発音に関して注意されてきました。授業でコーラスするときもまじめにしていませんでした。口をあまり動かさずに話そうとする癖がありました。文で話さず、単語で済ませようという傾向がありました。Tさんを受け持った先生はみんなそういうことを注意しましたし、強制的に練習させたこともありました。しかし、Tさんは筆記試験で点が取れてしまうので順調に進級し、発話力が伴わないまま上級になり、受験シーズンを迎えています。
 志望理由などは、立派なことを「書いて」来ます。しかし、それを話させようとすると、その立派なことの輝きがとたんに失せてしまいます。「口を大きく開けて」などと注意しても、発音はすでに固まってしまっていますから、すぐに直るはずもありません。Tさんの合否は、志望校の面接官がどれだけ気長に好意的に聞いてくれるかにかかっています。
 留学生入試の面接には、コミュニケーションが取れるかどうかを見るという一面もあります。もちろん、Tさんもあいさつや、単語か短文で終わる程度の短いやり取りはできます。しかし、志望理由や将来の方向性など、ある程度まとまった高度な内容の話をしようとすると、上手に話せません。妙なところで頑固なばかりに、今、苦労しなければなりません。
 年末から来年早々にかけてがTさんの勝負の時期です…。

  • 2013年12月09日(月)17時07分

種まき

12月6日(金)
 2014年度入試たけなわですが、2015年度入試にむけての動きがもう始まっています。先月のEJUの後から、来年1月から受験講座を受ける学生向けに、プレ受験講座みたいなことをしています。私が担当している数学では、日本語での数式の読み方や数字のカンを鍛える問題をしています。日本語で書かれた数学の問題の内容を理解し、何を答えればいいかを把握し、その上で答えを導き出さねばなりません。後半は各学生が持っている数学力にかかっているといえますが、前半は日本語力の勝負です。各人の持てる数学力を生かすためには、数学の問題を理解するだけの日本語力が必須となる図式です。
 方程式を解くだけなら、xとかyとかを追いかけていくだけですから、さほどの日本語力を要しません。数式は万国共通ですから。しかし、文章で表された条件を読み取ったり、条件文を図やグラフにしたりするのには、それなり以上の文章力を必要とします。このレベルになると、初級の学生はちょっと苦しくなってきます。
 先週は問題文から条件式を導き出す練習、今日は、問題文から図を描く練習をしました。図を描くほうが難しいかなと思っていましたが、そうでもないようでした。条件を結構きちんと読み取って、きれいな図を描いていました。図は描けても答えがすぐに出てこなかった点が少々気になりましたが…。来週は、もっと日本語の理解力が問われる問題に挑戦しようと思っています。
 学生たちにすれば、国で勉強してきたことに比べて簡単な内容で、あるいは不満に思うところもあるかもしれません。しかし、ここが基礎なのです。これをおろそかにしたら、絶対に禍根を残します。自分が目を向けるべき方向を示して、力を伸ばしていきたいです。今から種をまいて肥料を与えていけば、来年の今頃は大きな花が咲いているんじゃないかと期待しています。

  • 2013年12月06日(金)19時19分

得意分野で勝負

12月5日(水)
 Sさんは私のクラスの学生ですが、話すのがあまり上手ではありません。授業中積極的に質問してくるのは立派だと思いますが、その要点がつかみにくいのが難点です。遅刻や欠席の理由を聞いても、要領を得ません。コミュニケーションの取りにくい学生だなという印象を持っていました。
 そのSさんが、K専門学校に入るための面接練習をしました。相当ひどいことになりそうだと気合を入れて臨みましたが、案に相違して、結構いけるんですね、これが。アニメーションの勉強をするためにK専門学校に入ろうとしているのですが、アニメやマンガについて語らせると、普段のSさんとは別人になるのです。雄弁とまでは言えませんが、次から次と言葉が湧いてくる感じでした。今学期習った文法を上手に使うあたりなんか、本当に驚かされてしまいました。最初はおどおどした顔つきでしたが、話すことにだんだん自信が付いてきたのでしょうか、表情まで明るくなってきました。
 話すべき何物かを持っていると、話したくなるものです。話したいこと、伝えたいこと、訴えたいことがあると、話せるようになるものです。同じことが作文にも言えます。先週は、それまでとは違って創作風の文章に挑戦してもらいました。何人かは見違えるような文章を書き、逆に精彩を欠く文章になった学生もいました。いつも意味不明の文を書くAさんが立派なストーリーを創り出したのに対して、論客Gさんは全くお手上げ状態でした。毎週C評価ばかりだったAさんは、書きたいことがあるのに書かせてもらえないストレスを感じ続けていたことでしょう。
 SさんはKCPで文法や読解などの勉強をするよりも、K専門学校でマンガアニメオタクの羽を伸ばすほうが幸せを感じるに違いありません。今週末の面接本番、手塚治虫やエヴァンゲリオン、スラムダンクの話で盛り上がって、合格をつかんでもらいたいです。

  • 2013年12月05日(木)18時06分

雨に降られた?

12月4日(水)
 「雨が降って濡れちゃった」といったら、どんな場面を思い浮かべますか。私は、夕立かなんかで外に干しておいた洗濯物が濡れてしまったというような図を考えます。少なくとも、話している本人が濡れ鼠になっているとは思いません。
 しかし、これは正誤訂正の問題文の一部で、前後の関係から濡れたのは本人だということがわかります。そういう場合、どういう言い方が正しい表現かというのが問題です。上級、それも精鋭を集めたはずのクラスでしたが、誰からも「雨に降られて…」という答えが出てきませんでした。
 このクラスの学生たちが学校外で日本語を使っていないとは思えません。アルバイトで日本語を使っている学生もいます。でも、おそらく、とりあえず通じる易しい日本語で済ませてしまっているのでしょう。勢いで通じてしまえば、コミュニケーションは取れます。でも、それはサバイバルの世界で、学生たちが目指している日本語ではありません。
 今日の問題では授受表現はさすがによくできましたが、これには練習問題だ、どこかに誤りがあるという目で文を見ているからという面があります。そういうのがないフリーの状況で「~てあげます/もらいます/くれます」がスムーズにかつ適切に出てくるかというと、疑問符をつけざるを得ません。
 私たちは授業を通して多くの表現を教えています。教えた学期のペーパーテストに通れば、その表現をまた問われることはほとんどありません。しかし、その表現を使う場をふんだんに与えているかというと、残念ながらNoです。それゆえ、上級になっても初級の表現を使うべき場面に使っていないのが現実です。
 今日の学生たちには、冗談めかして、「お前ら全員初級やり直しだ。午後クラスに入れ」なんて言いましたが、本当にやり直さなきゃならないのは、私たちのほうかもしれません。

  • 2013年12月04日(水)18時31分

まだまだこれから

12月3日(火)
 Yさんは最近神経過敏です。周りの学生が次々と合格し、自分だけ取り残されたような感じがしているのです。別に怠けていたわけではありません。6月のEJUが惨敗だったわけではありません。きちんと受験までの計画を立て、勉強し、面接の練習もしましたが、第一志望の大学には手が届きませんでした。ある程度手ごたえを感じていただけに、より一層ショックが大きかったのだと思います。眠れなくなったり、授業中の教師の些細な一言で深く落ち込んだりしています。いや、教師にとっては些細でも、Yさんにとっては重大な一言なのです。ですからこれは、「教師の不注意な一言」と表現すべきでしょう。
 残念なことですが、毎年こういう学生が出てきてしまいます。焦るばかりで成果が出せない、持てる力を発揮することなく落ちてしまう…昨シーズンはEさんやIさんがそんな学生でした。Iさんは高望みしたところが見られましたが、Eさんは手堅いところを狙ったはずだったのですが、なかなか結果が出せませんでした。普段は温厚なEさんがブチ切れたことがありました。落ちまくって年が明けてから相談に来たIさんの暗い顔を忘れることはできません。
 Yさんはいくつかの大学に出願したりしようとしたりしています。これからまだ苦難の道が続くのかもしれません。しかし、挫折は若いうちに味わっておいたほうがいいのです。順調な人生を歩み、年を重ねてから大きな挫折に陥ると、それが深手になります。時には致命傷になりかねません。Yさんだって、敗北が決定したわけではありません。3年前のBさんやHさんだって、第一志望にふられて入った大学にとっても満足しています。その大学を勧めた私が感謝されているくらいです。
 さあ、勝負が始まりますよ、Yさん。

  • 2013年12月03日(火)19時17分

受かった人と気がない人

12月2日(月)
 午前の授業のまとめをしていると、Sさんが職員室へ来て、N大学の合格証を見せてくれました。その直前に受けたK大学では、面接で受験生は誰も答えられないようなかなり専門的な質問をされた挙句落とされていましたから、それよりも難関とされているN大学に受かった喜びもひとしおのようです。これからO大学にも挑戦するそうですが、余裕を持って受験に臨めそうです。
 Sさんは夏休み明けぐらいからぐんぐん力をつけてきましたから、私からするとN大学合格は当然の結果です。K大学に落ちたのが交通事故みたいなものです。受験講座を軸に勉強し続けた成果が「合格」という形で表に出てきたのです。O大学はさすがに難しいですから、すんなり合格させてはくれないでしょうが、これからの心がけ次第で、十分に合格に手が届くと思っています。
 それにひきかえ、A大学に合格したYさんやCさんは精彩がありません。眠そうな顔で授業を受けていたり、そもそも学校に出てこなかったりというありさまです。国立大学を狙う力も受かる力も持ち合わせているのに、A大学合格で安心して、それ以上の挑戦をしようとしません。だから目標がなくなり、自分の力をさらに伸ばそうという気力もなくなってしまったのでしょう。
 若いということは、何でも勉強できる、吸収できるということです。この時期に自分の脳を鍛えておかないと、将来きっと後悔します。年を取って頭の働きが鈍ってくると、勉強しようという気持ちはあってもなかなか身に付きません。実のある勉強をしようと思ったら、今しかないのです。私も、理科系であるにもかかわらず受験科目に世界史を選んでよかったと思っています。世界に目を広げる基礎作りができたし、それが今の仕事につづいていることは否定できません。
 Sさんの受験は年が明けてからも続きます。O大学に受かったら、大金星です。何とか射止めてもらいたいです。

  • 2013年12月02日(月)18時41分

地震発生???

11月29日(金)
 「地震が発生しました。机の下に隠れてください」というO先生の声とともに、避難訓練が始まりました。文法の例文に避難訓練を取り入れたり、授業時間に余裕があったので多少レクチャーしたりしたためか、体格のいい学生も体を上手に折り曲げて机で頭を保護していました。
 その後、ガス漏れが発生したという想定で、新宿御苑の入口まで歩いて避難しました。ハンカチで鼻と口を押さえ、2列縦隊で粛々と行進しました。いつもふざけたりコンビニに立ち寄ろうとしたりする不届きな学生がいるものなのですが、今日はおしゃべりもあまりなく目的地まで行きました。
 帰り道、HさんやWさんが「日本は30年以内に必ず地震が起きるんですよね」なんて、政府が発表している地震予測をネタに話しかけてきました。今日のクラスは、だいぶ意識が高いようです。
 もちろん、何も起こらずこんな避難訓練など役に立たずに終わるにこしたことはありませんが、昨夜も夜中に少々揺れたように、日本で暮らすということは地震と共存するということを意味します。起きたときのダメージを最小限に押さえ込むためには、日ごろから地震を意識しておくことが欠かせません。ハンカチで鼻と口を覆うことにしたって、きちんと意味を理解させれば、学生たちはそのとおりにするものです。
 今、KCPに在籍している学生は、3.11を知りません。今後も3.11をニュースとしてしか知らない学生しか入ってきません。ですから、3.11の経験を学生たちに伝え、油断もさせずにかつ必要以上に怖がらせずに、学生たちの防災意識を高めていくことが、私たち教師に課せられた役割です。これもまた、日本留学のゲートウェーである日本語学校の責務だと思います。

  • 2013年11月29日(金)20時45分

N1に挑戦?

11月28日(木)
 Jさんは今度の日曜日にJLPTのN1を受ける中級の学生です。JさんのレベルでN1を受ける学生は少なく、そういう意味ではJさんはとても挑戦的な学生です。しかし、こういう学生によくありがちな、基礎がいい加減なまま難しいことをしようとするきらいがあります。
 私はJさんの作文を担当していますが、JさんがN1を受けることを知ったのは作文に書いてあったからです。同時に、ちょっと無理だろうなと思いました。作文の間違え方がN1レベルではないからです。文構造を理解していなかったり、助詞や活用を間違えたりといった初歩的なミスが多く、N1という上級者のイメージからは程遠いです。
  Jさんの作文は毎回真っ赤になるほど直します。直されたところをきちんと研究すれば上達につながると思いながら、直し方にも工夫をして、赤を入れます。しかし、Jさんは私からのメッセージを受け止めている気配がありません。同じようなミスを繰り返していますから。そもそも、中級クラスの作文の授業なんてN1を受験する私が受けるべき授業じゃないって、なめてかかっているところが見受けられます。でも、私の目から見ると、中級の授業を聞く前に初級の文法をきちんと復習してもらいたいくらいです。
 まず間違いなく、日曜日のJLPTは受からないでしょう。試験の日に自分の真の実力に気づいてくれればいいのですが、おそらく結果が届くまでそれに気づかないでしょう。それどころか、不合格の通知が来ても、その事実を認めようとしないかもしれません。もし、本当にそうなら、Jさんの日本語力は一生伸びることはないでしょう。
 今日も何名かの学生の合格の知らせが入ってきました。中には面接練習でボコボコにした学生もいます。でもそういう学生たちは自分の現状を謙虚に受け止め、それを乗り越えて合格をつかむために努力をしています。Jさんにそういう日が訪れるのでしょうか。

  • 2013年11月28日(木)21時09分
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