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KCP校長ブログ

  KCP地球市民日本語学校校長・金原宏のブログです。

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募金箱

11月27日(水)
 今日から、台風被害にあったフィリピンに向けての募金活動を始めました。ゆうべ遅くまでかかって、M先生が募金箱を作っていました。その募金箱を抱えたK先生が、募金の趣旨説明に私の教室に入ってくると、学生たちはかなりの興味を示していました。クラスによっては、小銭どころかお札をその場で募金箱に入れた学生もいたそうです。
 午後は私も趣旨説明に回りましたが、その時点で既に募金箱はかなりの重さになっていました。私が回ったのは初級クラスでしたが、「フィリピン」と大きく書かれた募金箱を見せると、学生たちは「台風」「死にました」「壊れました」というように、自分が知っている言葉でフィリピンの惨状を語ろうとしていました。そして、やはり、あるクラスでは数名の学生がその場でお金を入れてくれました。
 募金箱を見て強く反応した学生は、他人の痛みがわかる心を持っています。他人の痛みがわかる人は、他人に痛みを与えることはありません。自分さえよければではなく、自分にとってベストではなくても周りを含めてベストならそれでいいと考えることができます。他人のために一歩譲ることを知っています。損して得取れっていうことばもある通り、先を見通し大所高所に立って判断できる人です。
 あるいは、日本へ来て以来、自分が受けた好意を別の人に贈ろうとしているのかもしれません。雨の日に傘を差しかけてきてくれたありがたさを、今度は自分が愛の手を差し伸べることで伝えていこうとしているのでしょう。
 こういう素養を持った学生が少なからずいることはうれしいことです。私たちはその素養を伸ばし、堂々と地球市民と名乗れる人材を育てていきたいです。

  • 2013年11月27日(水)16時36分

決断

11月26日(火)
 中間テスト後の個人面談が盛りです。今日の私はYさん、Sさんという大物が続きました。
 Yさんは理系の大学進学を目指してきました。結局、私大は1校も受けず、11月のEJUの結果を見て国立大学だけで勝負するといいます。ダメだったら、日本で就職できそうなことが勉強できる専門学校に進学すると言い始めました。まあ、それも1つの考え方でしょう。しかし、専門学校の何たるかがまるでわかっておらず、どんな分野に進むと日本での就職につながるかという、3か月ぐらい前までに調べておくべき基本的なことを質問してきました。おそらく、EJUの手ごたえがなかったんでしょうね。それで慌てて専門学校も考え始めたっていうのが実情じゃないでしょうか。最近になってやっと力が伸びてきた感じがします。もうちょっと早く勉強に目覚めてくれたなあと思わずにはいられません。Yさんについては、いくつかの専門学校の候補を挙げて、どの方面に進むか自分で考えてもらいましょう。
 Sさんは、“日本語学校は2年まで”という時間制限規定により、来年3月に卒業しなければなりません。しかし、卒業まで4か月弱となった今に及んでも、自分の目標が定まりません。何か月か前にも一度面接して、やはり目標がないことを指摘しています。進路に関して、その後全く進んでいないのです。アルバイトに励んでさえもおらず、私に言わせれば、この数か月ただうすらぼんやりと日本にいただけに過ぎません。
 Sさんは、自分に正直な人だとも言えます。目標を定められなくても無理やり決めて、その目標が自分の元からの目標だと信じ込むということをしてきた学生はたくさんいます。いや、多くの学生が多かれ少なかれこういうことをして受験に望んでいると言ってもいいでしょう。しかし、Sさんは、こういう自分をだますようなことができないのです。大人の割り切りというか、妥協というか、世間を泳ぎまわる術をしようとしません。Yさんが、国立がダメなら専門学校経由で就職って方向転換しようというのと対照的です。
 Sさんに残された時間は短いです。そのわずかな時間で人生を左右する決断をしなければならないのは非常に厳しいことです。でも、今ここでせずに帰国したとしても、帰国後そういう決断をしなければなりません。一生をうすらぼんやりというわけにはいきませんから。

  • 2013年11月26日(火)18時02分

活躍してます

11月25日(月)
 U大学に進学したJさんからメールが来ました。だいぶ頑張って勉強しているようで、百数十名いる同じ学部の同じ学年で、余裕でベスト10に入る成績を挙げていると、誇らしげに報告してきてくれました。これまでも、Jさんの特技を学生に披露したり、スピーチコンテストに出たりと、かなり活発に動いてきたようですが、本業の学業も怠りなくやっているようで何よりです。
 JさんにとってU大学は第一志望の大学ではありませでした。だから、入学を決心するまでに葛藤も紆余曲折もありました。しかし、一度心を決めて入学してからは、U大学になじもう、U大学で全力を尽くそうという姿勢が感じられました。それゆえ、冒頭のような好成績が挙げられたのだと思います。
 U大学は東京の大学ではありませんが、東京の大学でないからこそできることって、その気になって探せばいくらでも見つかると思います。東京の大学でできることは、東京が情報の発信地であるから、かえって逆に、他の地方でもできることが多いのです。U大学ならではの勉強や経験をたくさん積んでいけば、それがJさんを特徴付けるものとなり、Jさんの人生を豊かなものにすることでしょう。
 もちろん、自分の国でネームバリューのある大学に進学したいというのなら、石にかじりついてでもそういう大学に入らなければなりません。そういう進学を否定するつもりはありませんが、心して大学生活を送らないと、本当に卒業証書のためだけの4年間になってしまいかねません。また、東京の外に大学に進めば誰もがハッピーになれるのかといえば、人生そんな生易しくはありません。その土地を愛することができなければ、満たされない思いを抱えたままの4年間になるでしょう。
 もうすぐ12月です。今は受験戦争に勝つだけで精一杯かもしれませんが、その先の4年間も見通してもらいたいと思っています。

  • 2013年11月25日(月)17時31分

さわやかな印象

11月22日(金)
 Rさんは今日付けで退学し、国へ帰って仕事を始めます。授業が終わると職員室へ顔を見せに来て、その場にいた先生方全員に挨拶をしていきました。帰国・就職という学生はちょくちょくいるのですが、残念ながら、フェードアウトするかのようにいつの間にか消えてしまう学生が多いのが現状です。Rさんのように最後まできちんと出席して、丁寧に挨拶をしてくれる学生は、非常に少ないです。
 終わりよければすべてよしといいます。立つ鳥後を濁さずといいます。最後をきちんと締めくくることが、日本ではとても重要視されます。Rさんはまさにこれを実行してくれました。こちらも気持ちよく送り出すことができるし、Rさんの今後を陰ながら応援していこうと思えます。逆に、後足で砂をかけるようなことをしていった学生には、呪ってやりたい気持ちになります。
 Rさんが帰ってまもなく、ガシャンという大きな音がしたので窓の外を見ると、自転車で荷物を配達していた人のカートが点字ブロックにつまずいて倒れてしまっていました。配達の人がカートを引き起こそうとしましたが、なかなか起こせません。そこに、午後のクラスのAさんが通りかかり、引き起こすのを手伝ってあげました。
 学生は、よく、日本人は親切だと言います。道に迷っていたら目的地まで案内してもらったなんていう話をよくしてくれます。Aさんも、そんな経験があったのでしょうか。自分がしてもらった親切を他の人にしてあげようという気持ちだったのでしょうか。それなら、伝統的な意味での「情けは人のためならず」の情けの連鎖の一端を担ったと言えます。Rさんに続いて、とてもさわやかな気持ちになりました。
 日本の文化や伝統がすべて正しいとは思いませんが、RさんやAさんの行いは、世界中どこへ行っても通用し、高く評価されると思います。これこそ、正真正銘の地球市民です。

  • 2013年11月22日(金)18時44分

作文の評価

11月21日(木)
 先週実施した中級クラスの選択授業・作文の中間テストを返却しました。社会的な話題に挑戦してもらったのですが、予想したより深い内容の作文が多かったです。辞書を使わせなかったので表現が未熟なところはありましたが、社会問題に対して一言物申したい気持ち、そしてその物言いは十分理解できました。
 しかし、文法の間違いには見逃せないものがありました。今学期使っている文法の教科書を参考にしながら書いていいことにしていましたから、中級の文法には決定的な間違いはありませんでした。たとえ間違いを犯したとしても、積極的に使ったことのほうを評価します。そうではなくて、初級文法を平気な顔をして間違えているのが許せないのです。さすがに「いいだと思う」の類は根絶しましたが、「元気で遊んでいる」とか「家を壊れた」といったのがぞろぞろ出てきました。ですから、内容的にはすばらしくても、全体の評価をAにすることができなかった学生が多かったです。
 もちろん、こういう間違いがあっても言いたいことはわかりますが、文章のレベルが低く感じられちゃうんですよね。もしかすると、これは日本語教師特有の感覚かもしれません。普通の日本人はこの程度のことは見逃して、「上手な作文」という評価を下したとしても、不思議ではありません。また、このクラスの学生は大学や大学院に進学する学生ではありませんから、あんまり細かいところまで突っ込む必要もありません。しかし、たとえそうだとしても、文法を含めた評価をAにしてしまっては、学生たちにこれで十分なのかという意識を植え付けてしまいそうです。
 私も、文法を考慮しない内容だけに関する評価はAにした学生が少なからずいました。だから、これだけの読み応えのある作文を書いた学生を認めないわけではありません。ただ、語学の勉強、しかも「書く」という自分の使った言葉が文字として可視的に記録される活動において、基礎的な文法の間違いを犯した学生に最高の評価を与えることには躊躇します。厳しいことは承知のうえですが、ついてきてほしいです。
 今日も、社会問題についての題材で書いてもらいました。中間テストのフィードバックに時間をかけましたから、学生たちが初級文法にも気を配ってくれたと信じています。

  • 2013年11月21日(木)20時51分

初級以下の受験生

11月20日(水)
 久しぶりに初級の授業をしました。初級クラスに入るときは、いつも、「私は上級の先生ですから、話すのが速過ぎたり難しい言葉を使ったりするかもしれません。もしわからなかったら、わからないと言ってください」と宣言しておきます。そうすると、学生たちは意地でもわかろうとして、わかった自分は上級って気分になって、「わかりません」という声は上がりません。でも、今日のクラスは初級といってももうすぐ中級のクラスですから、日本語はだいぶ通じます。余談冗談雑談ができますから、私にとってはかなり楽です。
 このぐらいのレベルになると、現在習っていることに、これまでに習ったことを加味して何かをするということも大事です。そんなことを考慮して質問すると、やっぱりできませんでした。でも、今学期彼らが習った文法が本当に定着して使えるようになるのは、中級後半でしょうか。下手をすると上級になっても怪しい学生がいますからねえ。
 そういう授業をして職員室に戻ってくると、SさんがR大学に出す志望理由書を書いて持って来ていました。直してくれというので読んでみましたが、「ひどい」の一言でした。日本語教師として、留学生の下手くそな文章を毎日のように見てきている私が意味不明なのですから、R大学の先生にわかるわけがありません。2行読んで不合格にするでしょうね。Sさんに文の意味を聞いても、Sさんの答える日本語が文に輪をかけて意味不明であり、結局何がなにやらわかりません。Sさんは、ちょうど今日私が授業したあたりのレベルの日本語が全く定着していないのです。頭で理解しただけで、使えるレベルになっていません。テストではそれなりの点数を取りましたから昇級しましたが、使える日本語の実力は初級のままです。いいや、日本語の文構造が理解できていないのです。
 おそらく、Sさんはここまで何とかなってきたから、大学進学もどうにかなると思っているのでしょう。でも、R大学はおろか、その5段階ぐらい下の大学でも、面接や小論文の試験があったらSさんは合格できないでしょう。そうはいっても、そういう学生を育ててしまった責任はこちらにありますから、何とか進学させなければなりません。これから、Sさんと苦しい戦いを戦い抜いていかなければなりません。

  • 2013年11月20日(水)19時50分

腰痛

11月19日(火)
 先週あたりから、腰痛がぶり返しています。私の場合、一番痛くなるのが職員室の自分の席に座っているときで、なんだか仕事がしたくないから腰が痛くなるようですが、教室で立って授業をする分には全く差し支えありませんから、体がサボりたいとわめいているわけではありません。いずれにしても、今のいすと机が仕事をするには全体的に低過ぎることは確かです。でも、これも新校舎が完成するまで、あと4か月かそこらの我慢です。
 私がぎっくり腰になったのは、今から20年以上も前のことです。横になっても立っても、痛くてどうしようもなく、結局正座しているのが一番楽でした。それ以来、同じ姿勢を長時間続けるのが苦痛になりました。昔は1日に14時間も車を運転するなんていう、ほとんどマシンと言っていいようなことまでしましたが、今は到底無理です。それどころか、寝るのだって連続6時間が限度でしょうかね。腰が痛くなって、自動的に目が覚めます。さらに寝ようとするなら、軽く運動して、腰の痛みを和らげてからでないといけません。遅刻した学生に電話をかけると、12時間も寝てしまったなんていう答えが返ってくることがあります。それだけ長い時間眠れるっていうことが、若さの象徴なのでしょう。
 2、3年ほど前から、板の間にそのまま寝るのが気持ちいいです。硬いですから寝心地がいいとは言えませんが、背中から腰までが強制的に伸ばされるのが快感につながっているようです。夏なんか、そのまま寝込んでしまったこともあります。5月ごろにひいた今年唯一の風邪は、これが原因です。
 この腰痛は、要するに老化現象ですから、病院に通ったところで治りません。マッサージしてもらえば、その場は気持ちいいですが、翌日にはまたもとの木阿弥です。今週はまだ2日。授業で腰の息抜きをしながら、頑張りましょう。

  • 2013年11月19日(火)18時53分

何が必要?

11月18日(月)
 続々と合格が決まっていく一方で、入試に至るまででつまずいている学生も少なからずいます。
 Sさんは、出願先が国の高校の書類を要求しているのに、国の大学の書類を送ってしまいました。3日以内に正規の書類を届けなければならないのですが電話が通じないと、大学側から連絡がありました。電話が無理ならと、メールでその旨を伝えましたが、メールを見てもらえたでしょうか。教師のチェックを受けてから出願したのなら、その教師の目は節穴だったのでしょうか。学生の人生がかかっていると言う意識が弱かったんじゃないでしょうか。Sさんが、独りでできると思って誰のチェックも受けずに出願したのなら、それは思い上がりというものです。人生の分かれ目なのですから、石橋を叩いて渡るほどの慎重さが求められます。
 学生にとっての外国語である日本語で書かれた募集要項を読み解いて、出願書類を完成させ、必要書類をそろえることは、学生にとって容易なことではありません。でも、これを乗り越えないと来日した本来の目的は遂げられません。こういう学生を支えるためにわれわれ教師がいるのですから、積極的に頼ってほしいです。同時に、頼られた側は、その信頼に応える義務があります。
 頼ってほしいとは言っても、頼りっきりになられるのも困りものです。最初の出願はおんぶに抱っこになるのもやむをえないところですが、2校目からは多少は自立してもらいたいです。いつまでたっても封筒の表書きができないんじゃ、日本で暮らしていけないと思います。準備した書類と募集要項で求めている書類との突き合わせも、まず自分でして、最終チェックで持ってきてもらいたいです。志望理由書だって、自分で骨格を書かないと、手助けのしようがありません。
 今週も、面接練習の学生がたくさん待ち構えています。朗報をガソリンにして、バリバリこなしていきましょう。

  • 2013年11月18日(月)16時39分

今日も面接練習

11月15日(金)
 今日は中間テストでしたが、週末に入試を控えた学生たちはそれどころではありません。Qさんもその1人で、午後面接練習をしました。既にクラスの先生などと練習してきましたから、練習した質問に対してはまあまあ以上の受け答えはできます。しかし、そのラインから外れた質問には、しどろもどろになってしまいます。このままでは危ないですから、Qさんの考えを聞きながら答え方のポイントを教えました。
 Qさんの志望校は面接だ大勢が決まりますから、面接練習は必須です。しかし、面接練習をすればするほど、作られたQさんになります。背伸びしたQさんを作り上げていくことになります。でも、そうしないと、バカ正直にありのままの自分を面接官に見せると、合格は覚束なくなるでしょう。
 面接は志願者の人となりを知るために行います。少なくとも建前はそうです。しかし、実際には、ほぼ全受験生が、多かれ少なかれ、よそ行きの人物像を表に出して、それによって合否が判定されます。初対面の面接官が、面接練習によってよろわれた人物像の裏側を正確に察知するのは難しいと思います。
 そうすると、面接って何のためにするのでしょうか。志願者が面接と向き合うことは、同時に志願者のこれからの人生とも向き合うことになるからかもしれません。志望校のことを本気で考え、“行きたい”という気持ちを盛り上げるという役割も果たしているように思えます。とすると、自分の将来について真剣に考え、志望校への忠誠心を高めた学生が、面接で高得点を取ることになるでしょう。
 この推論が正しいとすると、今日のQさんの面接練習は結構有意義だったと言えます。大学で何を勉強し、卒業後どんな仕事に就き、何をなそうと思っているのか、これらの事柄がかなり明確になったと思います。こういうのもキャリアデザインというのかどうか、私にはよくわかりません。ただ、漠然とした目標を持って来日した留学生が、自分の人生像を描く手がかりぐらいにはなっていると思います。

  • 2013年11月15日(金)18時35分

合格発表と1年後

11月14日(木)
 いくつかの大学で合格発表がありました。Zさんは授業中から落ち着きがありませんでした。明日の中間テストに出る内容をやっているのに、上の空でした。周りも、「あと2時間44分で運命が決まる」なんてはやし立てるため、余計に落ち着きをなくします。同じ大学の発表を待つクラスのSさんが落ち着き払って授業を聞いていたのと対照的でした。Zさんは高校を卒業してすぐに来日したのに対し、Sさんはいくらか社会経験もありますから、その差が出たのでしょう。
 私の大学受験は30年以上も昔のことですから記憶もあいまいですが、わりと淡々と発表の日を迎えたように思います。当時はインターネットがないため、受験した大学まで行くほかは合否を発表当日に知る術はありませんでした。見に行って自分の受験番号を見つけたときも、「あ、あった」といった程度で、そこでにやっと笑ったり、ましてや跳び上がって喜んだりはしませんでした。合格を報告した後の周りの喜びようを、不思議な気持ちで見ていたのだけは覚えています。
 さて今日の発表ですが、Zさんは合格、Sさんは残念な結果でした。Zさんはわれを忘れて喜びまくり、Sさんは、少なくとも表面上は、冷静に事態を受け止めていました。2人とも、明日の中間テストに悪い形で尾を引かないようにしてもらいたいです。
 夕方、今年N大学に進んだLさんがひょっこり顔を出してくれました。去年の今頃は眉間にしわを寄せながら会話の練習や受験勉強に励んでいました。かなりの難関のN大学には手が届かないだろうという予想が支配的でした。N大学への憧れをとつとつと語るLさんの表情は輝いていましたが、その夢をかなえるためのお手伝いの難しさに恐れおののいていたことも事実です。
 そのLさんが、チューターの日本人先輩を連れて学校へ来たのです。他に留学生がいないのでみんなに顔と名前が知れ渡っているなんて話を、ちょっぴり自慢げに話してくれました。日本語が上達したこともそうですが、驚くほど社交的になりました。卒業させたはいいけれども、N大学の授業についていけるか心配でしたが、かなり充実したキャンパスライフを送っているようで、安心しました。同時に、N大学はいい教育をしているなと感心しました。
 来年の今頃、ZさんやSさんは、どんな顔をしてどんな大学に通っているのでしょうか…。

  • 2013年11月14日(木)22時02分

住民票の写し

11月13日(水)
 T大学から、KCPから出願した学生の提出書類に不備があったという電話がありました。「住民票の写し」を提出することが求められているのに、Cさんは「住民票の写し」のコピーを提出してしまったということです。早速Cさんに連絡すると、区役所から取った「住民票の写し」は手元にあり、それをコピーしたものを大学に送ったと言っていました。
 「住民票」とは住民基本台帳記載事項を指します。ですから、「住民票」そのものを住民がもらうことはできません。私たちは、あくまでもそれを地方自治体が定めた専用用紙に複写したものしか手に入れることはできません。だから、私たちが手にするのは、あくまでも「住民票の写し」です。でも、その書類は「写し」とは思えないくらい立派な紙に印刷されています。偽造防止のために、地には細かな印刷が施され、透かしが入っていることも珍しくありません。外国人のCさんが、自分の取った「住民票の写し」を住民票そのものと思い、それをわざわざコピーして「写し」を作ろうとした発想も、わからないものでもありません。
 また、私たちも、「住民票の写し」と言うのが長ったらしくて面倒くさいので、「住民票を取る」と言いますし、「○○には住民票が必要だ」とも言います。一般庶民が見たり触ったりできるのは「写し」だと意識している人って、案外少ないんじゃないでしょうか。
 Cさんに電話して、「『本物の住民票の写し』をT大学に送ってください」と言いつつ、ずいぶん変な日本語をしゃべってるなと思いました。もっと気の利いたわかりやすい表現ってないんでしょうかね。外国人が暮らしやすい環境作りって、こんなところにもあるのです。

  • 2013年11月13日(水)20時51分

コート出動

11月12日(火)
 今朝は冷え込みました。最低気温は7.9度で、今シーズン初めて10度を割り込みました。コートにマフラー、手袋と、フル装備で家を出ました。ちょうど1か月前の10月12日は最高気温31.3度、8月中旬並みで、もっとも遅い真夏日の記録を更新した日でした。今日の最高気温は12.5度で、12月中旬並み。1か月で季節が4か月も進んだ計算になります。
 北海道の道央地方、東北地方の日本海側は、所によっては50cm以上の積雪になっています。いよいよ冬ごもりの季節です。豪雪地帯ですからこの程度の雪ではびくともしないでしょうが、ただ気温が低くなるだけでなく雪が積もると、思わず襟を正したくなるんじゃないかと勝手に想像しています。
 さて、初冬といえば酉の市です。今年は3日、15日、27日が酉の日で、三の酉まであります。昨日面接練習したSさんは、日本で一番印象に残っていることに酉の市を挙げていました。やはり、露店とそこで売られていた熊手に目が行ったようでした。写真はたくさん撮りましたが、酉の市の意味はわかっていないようでしたから、ちょいと説明してあげました。こんなようなことからでも話が広がれば、合格につながらないとも限りません。
 私も福をかき集めるなんていわれると、熊手を買ってみたくなります。でも、こういうものは古くなってもまさかごみとして捨てるわけにもいかず、それを考えると買うのを思いとどまってしまいます。来年また酉の市に来て、古い熊手を神社に納めればいいんですが、それを面倒くさいと思ってしまうんですね。不信心さが表れていて、よくないですね。
 冬本番を迎えましたが、受験もしばらくピークが続きます。Sさんをはじめ、健康をキープして、勝利をもぎ取ってもらいたいです。

  • 2013年11月12日(火)21時26分

敵前逃亡

11月11日(月)
 昨日はEJUがありました。どんな具合だったのだろうとクラスに入って聞いてみると、何と1人しか受けていませんでした。出願した学生が軒並み受けていないのです。確かに受けなかった学生は6月でまあまあ以上の成績を収めています。だから、その成績で今後の受験を戦っていこうという気持ちもわかります。しかし、6月から今までの5か月で伸びた力はどのように評価してもらうつもりなのでしょう。6月以上の成績は望めないと踏んだのでしょうか。何と欲のない人たちなのでしょう。いずれにしても、歯がゆい限りです。
 6月の日本語ですばらしい成績を残したKさん、Pさん、Hさん、あなたたちのベストは6月の成績ですか。Kさん、あなたは日本語しか受けていませんね。他の科目を受けなくても受験できる大学しか受けないんですね。Pさん、確かに日本語はすばらしいです。しかし、数学はどうですか。あなたが本当に行きたいと思っている大学は、その数学の点数では手が届かないでしょう。だから11月にもっと高い点を狙うんじゃなかったんですか。Hさんも、日本語以外の点数は6月ので満足なんですか。あなたの志って、そんな程度だったんですか。
 みんな優秀な学生であることは認めます。しかし、現状ではその優秀さを存分に発揮しているとはとても言えません。私にしても、付き合いが長いから「優秀だ」といっているに過ぎず、大学入試の場でも「優秀だ」と認められるかは大きな疑問です。いいか悪いかは別として、現在の入試制度では試験の成績によってしか優秀さを示すことはできません。6月の成績で入れるところに入るというのも1つの戦略ですが、それでは全力を尽くしたとは言えません。このことが将来の後悔につながらなければいいのですが。
 過ぎ去ったことをどうこう言っても始まりませんが、昨日1日中ゲームをしていたというKさん、Hさん、敵前逃亡した君たちに明るい未来はない、と断言しておきましょう。

  • 2013年11月11日(月)18時04分

あと2日

11月8日(金)
 EJUがあさってに迫っています。受験講座も最終盤で、私が担当している理科や数学の講座は、今日で予定がすべて終わりました。今週は、過去問のほかに、直前に押さえておくべきポイントを伝えました。この期に及んで知識を詰め込んでも始まりません。いかに落ち着いて試験に臨めるかが、運命を分かちます。精神論的になってしまいますが、自分自身をコントロールして平常心を保つことが、力を発揮することに直結します。
 私の場合、大学受験は学生たちが生まれるはるか以前の、何年前かすぐには計算できないくらい昔です。最後に受けた公的試験は、もしかすると、日本語教育能力検定試験かもしれません。だとしても、ウーン、何年前かわかりません。私は文法と語彙の問題には絶対の自信を持っていました。また、言語学も過去問や練習問題のレベルでは大きなミスを犯しませんでしたから、これらで点数を稼ぎ、他の分野での失点をカバーするという戦略を立てました。この戦略にのっとれば絶対合格できると信じていました(ウソでもいいから信じることが重要)から、本番でもあんまり緊張しませんでした。まあ、今の学生たちよりだいぶ年を食っていましたから、それに起因する落ち着きもあったと思います。
 そういう経験がありますから、学生たちには、どこでもいいから、1つの分野に絶対の自信を持ってもらおうと思いました。だから、受験講座では、この種の問題はこうすれば必ず解けるから、そして毎回出るから、ここで確実に点を取りなさいということを盛んに言いました。学生が、私の指示した問題を見て心を落ち着かせれば、洗脳し続けた甲斐があったというものです。
 泣いても笑っても、試験は2日後です。

  • 2013年11月08日(金)19時33分

立冬と受験

11月7日(木)
 今日は立冬でしたが、あまり寒くなかったです。雨も降りましたが、冷たい雨ではなく、まだ秋が土俵際で踏ん張っていました。そろそろコートを着始めようかなと思いつつも、今日もスーツだけで出勤しました。早春、1番にコートを脱ぐのはかっこいい感じがしますが、晩秋、1番にコートを羽織るのは軟弱な感じがして、電車内がもう少しコートに彩られてからにしようと思ってしまうのです。寒さに震えながらやせ我慢しているわけではありませんが、来週は朝の気温が10度を割るという予報が出ていますから、いきなりコート・マフラー・手袋の3点セットになるかもしれません。
 マスクをしている学生、湿った咳をしている学生が目立ちます。日曜日のEJUにベストコンディションで臨めるか心配な学生もいます。国立狙いの学生はこれに命がかかっているのにこんな調子で、心配になってしまいます。EJUだけでなく、大学独自の試験も目白押しです。栄養のあるものを食べて、体調を整えてほしいです。
 Cさんは土曜日にA大学の面接を控え、今日はなぜかスーツ姿で登校してきました。スーツに合った靴を買うためだそうです。先週はずっと風邪で寝込んでいましたが、だいぶ復活したようです。ネクタイの柄が入試には不向きだとか突っ込まれていましたが、どこか晴れがましい表情をしていました。昨日は同じ大学を受けるIさんがスーツ姿で来ていました。ハイヒールは歩きにくいとこぼしていました。スーツを着なくてもいいかと聞いてきたので、着なくてもいいけど、他の受験生全員がスーツでIさんだけラフな格好だったら平常心でいられるか、と聞き返したら、はいわかりましたと一言。
 今日面接練習したGさんも、来週の受験本番に備えてスーツを用意したようです。日本のサラリーマンみたいだと言っていました。それは自分自身が大人に見えたということなのでしょう。でも、Gさんが受験の頃は、もはや晩秋ではなく初冬でしょう。スーツだけじゃ寒いんじゃないかな。

  • 2013年11月07日(木)20時16分

こと、もの、の

11月6日(水)
 今日の上級のクラスでは、「こと」と「もの」の違い、「こと」と「の」の違いをやりました。初級で習う項目も含まれていますが、学生たちは真剣にノートを取っていました。これらは初級で出会って以来、次から次とさまざまな使い方を勉強してきました。だから、頭の中の整理ができず、使おうとすると迷ってしまったり間違えてしまったりするのです。もちろん、「こと」「もの」「の」を取り違えても、前後の文脈から言わんとすることは想像できることが多いですが、このレベルの学生になると、自分の言葉に完璧を目指したがるものなのです。
 勉強した内容は、何度も繰り返し勉強し直すことで、使える知識として定着します。そう考えて、私は、中級の作文の授業では、文法の教科書を見ながら作文を書けと指示しています。習ったばかりの文法項目を使うチャンスを与えています。学生たちは、授業のときにも例文を書いて添削してもらいますが、生きた形でその文法項目を使うのは、作文が初めてになります。不自然な使い方をして、使うなと直されることもあります。そういうネガティブデータもまた、学生にとっては貴重な情報源なのです。
 今日のクラスの学生たちは、正しく使うことに加えて、効果的に使うことも狙っています。ある場面にどんぴしゃりの表現を求めています。だから、ニュアンスレベルでの違いの説明を求めてきます。今日も初級の復習もありましたが、初級の表現をベースにして、その後教わった表現は何がどう違うかが関心事なのです。
 学習者は、勉強が進むと到達目標レベルを上げてしまいます。だから、勉強には終わりがありません。これでいいやと自己満足してしまう学習者は、中途半端なものしか身につきません。初級の文法項目を見つめなおした学生たちは、また1歩日本語の達人に域に近づいたのではないでしょうか。

  • 2013年11月06日(水)20時59分

偽装表示、偽クール便

11月5日(火)
 最近、日本中いたるところで食品偽装表示が見つかっています。産地の偽装、原材料の偽装、要は安物を高級品に見せかけていたわけです。偽装表示が発覚した会社の中には、これはご表示だと強弁するところもありますが、盗人猛々しいもいいところです。うそはつかないというのは、商道徳のイロハのイです。
 それともう一つ、クール宅急便が全然クールではなかったというニュースも出てきました。こちらは配達員や配送拠点があまりにも多くの荷物を抱えてしまい、保冷設備内で処理しきれなくなったのが主たる原因のようです。これもまた、「クール」という看板に偽りありという点では、食品偽装表示と同類項です。KCPの学生は日本人は誠実だとよく言ってくれますが、こんなことが繰り返されるようじゃあ、近い将来、そんな評価が消えてしまうかもしれません。
 なんだか、日本人の質が落ちてきているようで、悲しいです。商品やサービスの品質を維持するために全力を尽くすという行動様式が、日本の国を支え、発展させる原動力だったのではないでしょうか。国際的な信用の源泉は、ここにあったはずです。これが失われてしまったら、日本は先進国の地位からずり落ちていくほかありません。
 私たちも、サービス業に携わる一員として、顧客である学生に対して最善のサービスを提供しているつもりです。最善のサービスが、時には学生にとって厳しい指導になることもあります。今日、私はクラスで遅刻欠席に関して説教をしました。授業時間を削ってまでもこれをしたのは、遅刻欠席がなくなれば、今日の授業時間のロスなど簡単に元が取れるからです。昨日も今日も、面接練習で学生に半べそをかかせました。面接練習で流した涙は、きっと報われると信じています。

  • 2013年11月05日(火)21時02分

粋なお金の使い方

11月4日(月)
 今日は全国的には文化の日の振り替え休日ですが、KCPは運動会の翌日(11月1日)に休んでしまっているため、通常通り授業をしました。
 また、今日は全国的には、昨日の楽天の日本一に沸いています。2005年球団創設年は、38勝97敗、勝率2割8分1厘という驚異的な負けっぷりでした。それから苦節8年、初のリーグ優勝と日本一の座を手にしました。この間、楽天は常に新しい血を入れ続けました。球団創設時のメンバーで現在も楽天に在籍している選手はわずかに4人。エースの田中を始め他のメンバーは、新人として、あるいはトレードで、外国人選手として、入団してきました。よりよいチームを求めて、改造に改造、補強に補強を重ねてきたのです。それが、昨日、日本一という果実をもたらしました。組織を強化し、最善の形を求め、それに向かって突き進むという姿勢は、ぜひとも見習いたいところです。
 さて、日本シリーズ優勝となれば、バーゲンセールです。西武なら西武デパートや西友ストア、中日なら名古屋のお店全部っていうふうに、今までは実際の店舗でセールが行われてきました。しかし、今回は楽天というインターネットで商売する会社が持っている球団が優勝しました。星野監督の背番号にちなんで77%引きがあるとのことでしたが、楽天のサイトを見ると90%以上の値引きもあります。取扱商品も、スーパーやデパートとは違って、ありとあらゆるものに及んでいます。値引きにつられて衝動買いする人も多いのでしょう。
 報道によると、かなりの売り上げになっているようです。楽天だけで十数億円、その他のセールをあわせると数百億円になるとのことです。しかし、私は、楽天の会員になっていますが、おそらく何も買わないでしょう。理由は簡単です。ほしいものがありませんから。ダイヤモンドのネックレスもチタンの実印もカメラもスニーカーも自転車もコートも、興味がないか今もっているもので十分かのどちらかです。日本中が私みたいな人だったら、景気って絶対よくなりませんよね。38勝から今シーズンの82勝へ、よくがんばったとご祝儀を弾むつもりで買い物するっていうのが、粋なお金の使い方なのでしょう。

  • 2013年11月04日(月)20時19分

運動会の競技役員

10月31日(木)
 気持ちよい秋晴れでした。室内で行われるとはいえ、運動会はお天気がいいとそれだけで盛り上がります。
 教師の集合時刻・9時には、競技役員を任せた最上級クラスの面々も集まってきました。体育館が開くと同時に、荷物の搬入や床のライン引きやらに、最上級クラスの学生に活躍してもらいました。理系のGさんはコーナーの曲がり具合に細かい注文を出していました。人当たりのいいOさんは、入り口で学生はがきちんと上履きに履き替えたかどうかをチェック。同時に座席の案内も。学生がそろったところで運動会が始まりました。
 開会式で競技役員が紹介されると、ちょっと晴れがましい顔に。それもつかの間、競技が始まると次から次へと仕事が舞い込み、1人何役もこなさねばならず、「大変」などという生易しい言葉では形容できません。でも、学生たちは自分に割り振られた役目を確実にこなし、なおかつ、その場その場でこうしたほうがいいと改善提案してきました。
 この、自分の仕事を質的により高いレベルのものにしようという姿勢こそ、社会に出てから最も求められる資質です。私たちが学生たちにぜひとも身に付けてもらいたいと思っていることです。こういう観点からすると、今日の最上級クラスの学生たちは合格点どころか満点をあげてもいいくらいでした。
 また、自分たちが運動会を支えている、動かしているという気持ちが非常に高かったです。責任感、使命感と言い換えてもいいでしょう。だから、Sさんは、綱引きのときに、いいと言われる前に綱に触ろうとする学生に、こちらが怖くなるくらい強く注意していたし、Lさんは持ち前の几帳面さを遺憾なく発揮して競技の記録をとっていました。
 競技役員の学生たちの尽力により、無事閉会式を迎えることができました。でも、閉会式で彼らの仕事は終わりませんでした。後片付けと体育館の床の掃除もしてくれました。
 場所を移して焼肉を一緒に食べました。学生たちは異口同音に、役員をやってよかったと言っていました。行事を進める側の苦労がわかった、単に運動会に参加しただけではわからない、裏に秘められた考えがよくわかったなどと感想を述べていました。
 受験間近の学生もいたのに、本当によく動いてくれました。心から感謝しています。

  • 2013年11月02日(土)15時56分

川上元監督

10月30日(水)
 元プロ野球読売巨人軍の監督・川上哲治さんが亡くなりました。93歳といいますから、天寿を全うしたと言っていいでしょう。
 私が物心ついたとき巨人の監督だったのが川上さんでした。当時は総理大臣といえば佐藤栄作さんで、このお二人で世の中の基礎を作っているような気すらしていました。テレビニュースの前半の顔が佐藤首相、後半の主役が川上監督といってもよかったです。国際的に見ると、アメリカとソ連がそれぞれの陣営を率いて世界に君臨していました。川上監督から米ソまで、簡単には揺るがない壁がそびえ立っていたというのが私の子供の頃でした。
 ONを擁しV9の真最中で、川上監督=負けない、優勝、というイメージでした。権威の象徴みたいに感じていましたから、どこか好きにはなれないものがあったことも確かです。だから、長嶋や高田など巨人の選手は好きだったけど、巨人というチームは好きじゃなかったというねじくれた感情を持っていました。
 その川上さんが監督を辞め、巨人が優勝するとは限らなくなると、なぜか優勝チームが軽く見えてなりませんでした。「強いチームが優勝する」のではなく、「たまたま調子のいいチームが優勝する」、「優勝したチームが強いのだ」という気がしてきました。85年に阪神タイガースが日本一になったときも、見ていて気持ちよかったですが、どっか仮の物みたいな気もしていました。
 ソ連邦が解体し、ベルリンの壁が崩壊したとき、川上監督が辞めたときと同じ感情が湧き上がりました。世の中に会わなくなった体制が消え去ったことは喜ぶべきことでしたが、その後の社会に重みが感じられなくなりました。
 90年代以降、都銀が合併しメガバンクがいくつかできましたが、V9時代の巨人のようなどっしりとした安心感がありません。
 こんなことを考えると、川上監督は偉大だったなと思います。野球界の重鎮だけではなく、実は日本社会の通奏低音的な存在だったのです。ご冥福をお祈りいたします。

  • 2013年10月30日(水)22時12分
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