KCP地球市民日本語学校校長・金原宏のブログです。
7月19日(火)
この稿で「梅雨明け10日」という話を2回ほど取り上げましたが、まさに計ったように梅雨明け11日目にして雨が降りました。台風が近づいてきていますから、またしばらくは不安定な天気が続きそうです。
日本時間で昨日の未明の試合で、日本の女子サッカーチーム・なでしこジャパンは、世界ランキング1位のアメリカを破って、ワールドカップ初優勝を遂げました。立派の一言です。キャプテンの沢選手をはじめ、メンバー全員がすばらしい活躍をしました。「これで日本の復興に弾みがつけばいいですね」という感想を述べている人が多かったですが、本当にそう思います。
しかし、女子サッカーというのは、女性がサッカーをすることができる、いってみれば余裕にある国にだけ存在します。また、イスラム教の国々にでは女子がサッカーをするなど、とんでもないことでしょう。つまり、女子サッカーは限られた恵まれた国でしか行われていないスポーツであり、その世界で優勝したからといって、大喜びをしてはいけません。
見方を変えれば、日本の女子サッカーが世界一でいられるのは、今のうちしかないかもしれないのです。男子ランキングの上位国でも女子ランキングには名前さえない国も数多くあります。そういった国が本気で女子サッカーに乗り出してきた時、日本の女子サッカーが今の地位をキープできるかといえば、はなはだ怪しいです。
今回の優勝は、日本女子のきめ細かさ、技術水準の高さが他国のパワーに勝った点が大きいと思います。試合後沢選手と握手したアメリカの選手は、頭1つ大きかったです。そういう選手たちが今以上にパワーアップしたら、あるいは確たる技術を身に付けたら、日本はかなわなくなるでしょう。パワーを上回る技術の正確さをさらに身に付けていくところに、日本女子サッカーの生き残る道があるのではないかと思っています。
サッカーに限らず、日本は物事を工夫して他国を上回ることを身上としてきました。高速鉄道の先鞭をつけたとされている新幹線でも、既存の確立されていた技術の組合せであって、技術革新があったわけではありません。組み合せの妙、それに磨きをかけることにおいては独創性があったかもしれませんが、蒸気機関を発明したスティーブンソンのような根本的な部分の新しさはありません。
留学生に学んでもらいたい点は、ここです。アニメーションの根本の技術を開発したのは日本ではありません。それを応用して、かわいい映像や感動的なストーリーなど、見る人の心を引き付けてやまない作品を作り出したところに、日本の偉さ(?)があるのです。女子サッカーでもアニメでも、上っ面だけではなく、一歩踏み込んだ真相に迫ってもらいたいです。
7月15日(金)
最近、朝、駅前のバス停のベンチで、とても気持ちよさそうに寝ているオジサンを見かけます。連夜の熱帯夜ですから風邪を引く心配もなく、蚊もほとんどいませんからかゆい思いをすることもなく、そよ風に吹かれながら一晩過ごせたら、さぞかしよく眠れるだろうなと思います。確かにベンチは寝るには硬すぎますが、それを補って余りある環境のよさだと思います。
こういうオジサンを見かけるたびに、東京の夏は熱帯だと思います。夏の最低気温の平均は、シンガポールを上回ります。世界中で夜が一番暑い都市の一つと言ってもいいでしょう。でも、今年は、東京の夜が少し涼しくなるのではと期待しています。それは、今年は節電でエアコンを使わない家が増えると予想できるからです。
東京が暑いのは、半分以上、ヒートアイランド現象が原因です。ですから、各家庭が節電に努めて夜エアコンを止めれば、エアコンからの排熱が減り、東京の夜が多少なりとも涼しくなるのではないかと考えられます。みんなが一致団結すれば、ちりも積もれば山となるで、目に見える、いや、肌で感じられるほどに気温が下がるはずです。日中全くエアコンを使わないのは非現実的ですが、日が沈んでからのエアコンは何とか我慢できるのではないでしょうか。
原発事故の後、尻に火がついたように節電街道を突き進んでいますが、夜が涼しくなるという副産物が得られるとなれば、より一層弾みがつくのではないでしょうか。エアコンを止めたことで夜が涼しくなったかどうかを科学的に証明することはかなり難しいでしょう。でも、そう信じて一人一人がエアコンを切り、それによってたとえわずかでも、誤差範囲内であっても、何がしかの成果が出れば、日本人は再び自信が持てるようになると思います。
ベンチで寝ているオジサンにとっては、少し肌寒く感じられ、寝心地が悪くなるかもしれませんが、夜はエアコンをつけないのが当たり前になることを願っています。
7月14日(木)
今日は多くのクラスでスピーチコンテストのクラス内予選が行われました。私のクラス学生は、授業中はおとなしいのですが、予選の時はみんな大きな声で原稿を読んでいました。時節柄(?)、震災や節電に関する話題が多かったですが、先日のクラスと同様に、社会的な話題に果敢に取り組もうとする姿が感じられました。また、居眠りしている学生など一人もおらず、クラスメートの意見を真剣に聞こうとしていました。他人の話をきちんと聞くということも今学期の目標に挙げていましたから、今日のところは学生たちは合格です。
学生たちばかりでなく、教師もスピーチコンテストに向かって突き進んでいます。昨日から、K先生を講師にして、スピーチコンテストのクラス代表の学生を指導する方法をみんなで勉強しています。経験に富んだK先生のお話には啓発されるものが多く、今年は代表学生指導に、より一層、力が入ることでしょう。
それから、今日は、すっかりKCPの夏の定番となった浴衣販売がありました。会場となった講堂は、休み時間には多くの学生でごった返していました。明日は、浴衣の着付け教室が開かれます。今年は節電のために中止となる花火大会も多く、浴衣の出番が少ないかもしれませんが、夏を涼しくすごすファッションの一つとして国へ持ち帰ってもらいたいところです。
また、夏は受験生にとって自分を鍛え上げる季節です。昨日から受験講座も始まっています。大学進学を目指す学生たちは、浴衣はしばらくお預けかもしれません。来年の夏、大学生として浴衣ファッションを楽しんでもらいましょう。
7月13日(水)
最近の私の楽しみは、夜明けです。私の家は西向きのマンションなので、直接朝日を目にすることはありません。でも、朝日を受けて茜色に輝くビルやマンション、家々の窓を見ていると、今日も張り切っていこうという気持ちが湧き上がってきます。日の出は4時半を少し過ぎたくらいなので、まだ街は寝静まっています。気温も低い(といっても熱帯夜ですから26℃か27℃くらいはありますが)ですから、心なしか空気も澄んでいるように感じられます。空を見れば、白い雲が夕焼けとは少し違う、みずみずしさをたたえたオレンジ色に染まっています。今年は、梅雨明け10日のとおり、本当に安定した晴天が続いていますから、なおのこと、朝日が美しく感じられます。
とはいえ、そんなみずみずしさも9時ごろまででしょうか。授業が始まるころには、夏の太陽が混信の力を込めて熱波を送ってきます。皮膚の上2cmくらいに暑い空気の層ができたみたいに、肌にまとわりついてきます。ナイフかなんかでこそげ落としたい暑さです。それでも、東京は猛暑日にまではなりませんが、関東の内陸は連日の猛暑日で、耐え難いほどのことと思います。
気象庁の観測所がある大手町は猛暑日になっていなくても、10kmほど内陸に入った練馬は、猛暑日の常連です。今日も、大手町の最高気温は32.7℃なのに対して、練馬は35.1℃と、2.4℃も高くなっています。大手町はビル街で海に近いという感じはしませんが、練馬と比べると海の影響があることは明らかです。全国的に見ると、京都と大津も10kmくらいしか離れていませんが、琵琶湖畔の大津の最高気温は、盆地の真ん中の京都の最高気温より2℃ぐらい低いです。予報の段階でいつもそれくらいの差がついています。
新宿も、新宿御苑のそばは、御苑の木々が生み出す緑陰の気のおこぼれをちょうだいして、街中よりも1~2℃涼しいのだそうです。そのおこぼれがいただけるのは御苑の端から100mほどだけで、残念ながらKCPにまでは届いていません。緑のカーテンが今年はもてはやされていますが、その効果は絶大なようです。
朝の空気でも緑陰の風でもいいですから、少しでも涼しい環境で仕事したいものです。
7月12日(火)
8月1日のスピーチコンテストに向けて、昨日・今日あたりはスピーチの原稿書きがたけなわです。私が入った中級のクラスも、後半の1時間あまりはクラス全員に原稿を書いてもらいました。書いている最中は話し声が全く聞こえず、学生たちはシーンと静まり返った教室で黙々と原稿を紡ぎ出していました。数人が授業後10分ほど残っただけで、時間内に書き上げた学生が大半でした。
さて、原稿の中身ですが、中級にしては社会的な問題に真正面から取り組み、多少の不自然な背伸びはありますが、評価してあげてもいいと思いました。社会的な問題について自分の意見を述べるとなると、必然的に抽象的な意味の語句を多用しなければなりません。それだけの力があるだろうかと不安に思っていましたが、学生たちはけっこうやってくれました。もちろん、初級文法の間違いを犯している学生もいましたが、それを差し引いても大いにプラスになる原稿ばかりでした。
授業後、急いで添削し、明日清書をさせ、あさってクラス予選をする予定です。クラス予選の時には原稿の読み方も問題になってきます。発音やイントネーション、聞き手に訴えかけるように話す話し方、表情やしぐさ、そういったプレゼンテーションのしかた全体が評価の対象となります。下書きの段階ではイマイチでも、清書で一段脱皮して、予選の時に大化けする例もありますから、予選会が今から楽しみです。あさって、このクラスの担当ではないのが、残念です。でも、その代わり、違うクラスの予選会を担当しますから、そちらに期待しましょう。
7月11日(月)
東北地方も梅雨が明けて、今年の梅雨はあっけなく終わってしまいました。全国的に電力不足のこの夏、暑くて長くなりそうでちょっと恐いです。
昨日は池袋で留学生向けの進学説明会がありました。国立大学の大半が参加する最大規模のもので、私たち教師も会場に赴き、資料を集めたり、学生の世話をしたりしました。それだけではなく、どの大学が人気がありそうか、どの大学が穴場になりそうか、留学生の受け入れに本当に真剣なのはどの大学か、そういうところもじっくり観察しました。その結果、今年の進路指導の切り札の大学の心づもりができました。おすすめはどの大学?――それは、KCPに入ってから聞いてください。
会場に足を運んでいた学生たちは、憧れの大学はもちろんのこと、現実的なレベルの大学の話も聞いていたようでした。去年はこちらがあれこれ指示を出さないと、しかるべき大学へ聞きに行かない学生がけっこういたのですが、今年はわりとしっかりしていると思います。彼らの努力が実を結ぶことを切に願っています。
今日は、進学コースの学生向けて、受験講座のオリエンテーションを開きました。自分の志望校に合わせて、各種科目の受講を申し込んでいました。あさってから講座が始まります。私も理科の3科目の授業を受け持っており、また教材作りに精を出さなければなりません。今学期は演習中心にすることにしていますから、毎日物理やら化学やら生物やらの問題を解いていくことになります。まあ、それはそれで楽しいのですがね、私にしてみれば。
O大学の留学生担当の方がいらして、2年前の進学したPさんの様子を知らせてくださいました。Pさんは入学以来出席率100%を維持していて、今年度から毎月10万円の奨学金がもらえるようになったとのことです。アルバイトと勉強を両立させ、真面目に学問に励んでいる様子は大学全体に広まっていて、ちょっとした有名人になっているようです。
「梅雨明け十日」といって、梅雨明け直後は天候が安定するものです。週末の3連休あたりまではいいお天気が続くことでしょう。いいお天気だと遊びに出かけたくなるものですが(そんなことを考えるのは、私だけかな…)、その気持ちをぐっとこらえて勉強に力を注いで、力を貯えてもらいたいものです。
7月8日(金)
今日は始業日。ゆうべ、U先生が熱を出したため、私がU先生の代わりに授業することになりました。クラスの学生の半分ぐらいは先学期顔を合わせたことがあるので、私のことはなんとなく知っていました。しかし、U先生のことは知らない様子で、「私より若くてきれいな先生ですよ」と言うと、期待を膨らませていました。私より年寄りの先生なんて、この学校にほとんどいないんですが…。
朝の授業前や休み時間に、先学期教えた学生と何人か出会いました。「先生、おはようございます」「Pさん、新しいクラスはどう?」「ちょっと難しいですが、がんばります」こんな典型的な初級の会話を交わしながら、新しい教室へと入っていきました。今日のところは、みんな無事に新しいクラスになじんでくれたようで、とりあえず一安心です。
ただ、今日はJRで事故があったため、気合を入れて新学期を迎えた学生の中には事故に巻き込まれて出鼻をくじかれた形の人もいたようです。特に新入生は、初日から遅刻となると、やっぱりいい気持ちはしませんよね。たとえ出席簿上では出席扱いになったとしても、汚点がついてしまったような気がするのではないでしょうか。
あさっての日曜日は、JASSO主催の留学生向け進学説明会があります。来週の月曜日と火曜日は受験講座のオリエンテーションがあります。11月のEJUの願書締め切りもすぐだし、電車が遅れたくらいでへこたれている暇はありません。そんなこと跳ね飛ばすくらいの馬力でかかっていかないと、受験には勝てません。
また、今日は、四国から東海にかけて梅雨明けしたそうです。関東の夏本番もいよいよ秒読み段階です。今年は暑さとの戦いも待っています。学生たちにも、U先生を始め先生方にも、がんばってもらわなければなりません。
7月7日(木)
世間では七夕ですが、KCPでは始業日前日で、ばたばたと慌しい1日でした。各クラスの資料や教材を整えたり、学生に渡す先学期の成績表を作ったり、教科書販売の準備をしたり、教室の椅子と机の数を調整したり、…。するべき仕事を1つずつ確実にこなしていきました。
会社勤めのころ、ある上司は「段取り八分」と口癖のように言っていました。仕事の労力の80%は手はずを整えることに費やされる、段取りさえ整っていればその仕事は80%成功したようなものだ、といった意味合いでした。要は、本番を迎えるまでの準備にこそ仕事の真髄があるのだ、仕事の準備をおろそかにしていては成功は覚束ない、ということです。確かのその通りだと思います。
例えば、新人の先生の場合、授業の教案を立てるのに授業時間の数倍の時間をかけることがあります。授業の流れを考え、学生とのやり取りを想定し、どこでどの教材を使うか、いつ、どんな板書をするか、どんな順番で指名するかなど、考え始めたらきりがありません。出たとこ勝負だと、1コマももたないでしょう。これなど、まさに、段取り八分です。私は、とても新人とは言えませんが、小心者なので、朝早く学校へ来て、誰もいない静かな職員室でその日の授業の準備に集中します。
学期が始まる前の準備も、少なくともその学期の3か月を見通して何をしていけばいいのか考えながら行っています。準備がきちんとできた学期は、進めるのがわりと楽です。また、受験講座は1年かけていかに学生の力を伸ばすか、そのためにはいつどんな教材を使うかについて検討に検討を重ねます。そのグランドデザインがあれば、軌道修正にも1本軸を通すことができます。
私は、もう一つの“段取り”を進めています。そうです。夏休みの計画…。
皆さん、ご入学おめでとうございます。このように多くの国の多くの学生がKCPに入学してくださったことをうれしく思います。
3月11日の東日本大震災は世界中に広く報道され、皆さんも多少の不安を抱えながら来日なさったのではないでしょうか。実際に日本を見てみてどうですか。節電で少し暑くて暗いかもしれませんが、ごく普通の生活をしていることがわかっていただけたかと思います。
この震災は、私たち日本人の内面にも大きな影響を与えました。まず、今まで、揺るぎないと無意識のうちに信じてきたものが、実はそうではなかったということを学ばされました。電気がこんなにまではかなくそして貴重なものであるということもその一つです。スイッチを入れれば何でもできる、お金さえ払えばいつでもどこでも快適なサービスが受けられると思っていたその裏側には、原子力発電があったのです。私は、原子力発電は、エンジニアリングのレベルがサイエンスのレベルに追いついていない、言い換えれば、人類が完全に征服した技術ではないと思っています。私たちの文明は、そういう基礎部分に危うさを抱えた技術に立脚しているのだということを痛感させられました。
それから、昔の日本人の知恵が復活しつつあることです。熱帯並みに暑い日本の夏を少しでも涼しく過ごそうと、いにしえの日本人は様々な工夫を重ねてきました。第二次大戦後、工業化・近代化が進むとともに、自然と共存して夏を乗り切ろうという考えが廃れてきました。しかし、今年はそういう伝統的な消夏法、例えば、打ち水、へちま、朝顔、風鈴、団扇に扇子、夕涼み、私が子供のころには定番だった夏の小道具が、現代的なセンスも取り入れて再び日の目を見ています。日本の夏を乗り切る涼しいファッションとして、浴衣も今まで以上に注目を集めているそうです。
また、今年は結婚するカップルが増えているそうです。大きな災害の時に限らず、人が生きていく上で本当に力になるのは、人と人とのつながりだと感じた若者が多くなったからだと言われています。被災地では被災者が助け合い、ボランティアの力も借りながら復興に向けて立ち上がっています。これこそ、今年の日本を象徴する姿だと言えます。
2011年は、後世、日本のターニングポイントと呼ばれる年になるでしょう。GDPが中国に抜かれたのとほぼ同時に起きた大震災によって、日本人の思考回路が大きく変わった年だと記憶されることでしょう。今、皆さんは、そういう歴史的な現場に立ち会っているのです。日本語の勉強も大切ですが、KCPの特別講座、ボランティアクラブや風鈴作り、浴衣の着付け教室などに参加すれば、この歴史的転換点をより身近なものとしてとらえられると思います。そうすることで皆さんの留学をより有意義なものとし、人生の糧としていってください。
本日は、ご入学、本当におめでとうございます。
7月5日(火)
今朝は雨音で目が覚めました。このところ、窓を開け放って寝ているので、夜明け前の人間の活動が最も収まっている時間帯の物音が、直接聴覚を刺激するのです。天気予報では曇りときどき晴れ、夕方雷雨と言っていましたが、日中はけっこう青空が広がり、最高気温も32℃を超えました。そして、6時過ぎぐらいから外が暗くなり、ザーッと夕立がきて、遠くで雷も鳴っていました。梅雨の末期は、梅雨前線が南北に微妙に移動することによって、天気がころころ変わります。高気圧が西から東へ規則的に移動する春や秋、あるいは「太平洋側は晴れ」と決まっている冬などに比べて、格段に予報も難しいのです。しかし、今日は予報がよく当たりました。
学校では、金曜日から始まる新学期の教師全体打ち合わせがありました。震災と原発事故の影響を完全に脱したとは言いがたいのですが、先学期よりはだいぶ活気が戻ってきそうな感じです。先学期の始業日直前は、まだ一時帰国中の学生がたくさんいて、クラス編成も仮のものとせざるを得なかったのに比べれば、落ち着いた形で始業日が迎えられます。
ですから、特別講座にも力を振り向ける余裕が生まれてきました。レベルによっては、特別講座のあり方をめぐってかなり活発な議論が交わされたようで、新機軸の特別講座がいくつも生まれてくるのではないかと期待しています。特別講座が盛んになれば、学生たちの学校生活にも彩りが添えられ、より有意義な留学ができるようになります。それがさらに学校に活気をもたらしてくれることでしょう。
また、この時期は、クラス編成の真っ最中でもあります。教師は、どのクラスも同じようになるように頭を捻ってクラスのメンバーを決めます。このクラスはこの学生がリーダーになって、この学生がクラスを盛り上げて、…と想像し、国籍は、男女比は、この学生は成績優秀だけどこっちはちょっと落ちるから…といろいろな要素を考慮しながらクラスを決めていきます。しかし、実際に学期が始まると、同じように作ったつもりクラスの性格が、ばらばらになることがよくあります。こちらもまた、学生同士の微妙な力関係や人間関係、私生活の状況などが複雑に絡み合い、更には新入生というデータの乏しい要素が加わり、予測は難しいのです。
さて、今学期のクラス分けはどうなるのでしょうか。今日の天気予報みたいにピタリと決まればいいのですが…。
7月4日(月)
先週から期末テストの結果がよくなかった学生を呼び出しています。少し悪かった学生には宿題を出して、それをきちんとやってくれば進級させることにしています。とても悪かった学生には、もう一度同じレベルをするように言います。
宿題をすれば進級できるという学生は、一生懸命宿題をしてきます。宿題をしてみると自分がよくわかっていないところが見えてきて、わかるまで質問していきます。それも宿題の目的ですから、休み中に今のレベルの復習をし、次のレベルではいい成績を取ってくれれば言うことはありません。
「もう一度」を宣告された学生は、みんな抵抗します。「もう一度はしたくないです」「上のレベルに行きたいです」と言いますが、その言い方が上のレベルの言い方ではないのです。「これはもう勉強しました」とも言いますが、KCPは「勉強しました」だけでは上のレベルにしません。話したり書いたりなど、使えるようになって初めて進級できるのです。テストで答えられない、話す時に習った文法が出てこないというのでは、本当の意味で理解したとは言えません。
今日、私のところへ来たLさんも、そういう学生でした。Lさんは、6月まで勉強したレベルの最初のところがわかっていませんでした。40分で解かなければならない期末テストの直しを、2時間かかってもできませんでした。それで、ようやく、自分でもできないことがわかって、もう一度同じレベルを勉強し直すことに納得しました。
Lさんがもう一度同じレベルになったということは、教えた私たちにもいくらかの責任があります。期末テストまでにLさんの力を引き上げられなかったことは、教師側の力不足かフォロー不足です。大いに反省しなければなりません。
今週の金曜日から新学期です。3か月後にそういう学生を出さないように全力で取り組みます。
7月1日(金)
Kさんは来年の4月にC大学の薬学部に入ることを目標にKCPで勉強を始めた学生です。入学したときはとても真面目に勉強する学生でしたが、最近はめっきり欠席が増えてしまいました。理由は明らかで、アルバイトを始めたからでした。今日は、そのKさんのおじさんが学校へ来たので、たまたま学校へ来ていたKさんも交えて、いろいろと話をしました。
おじさんはKさんがアルバイトをしていることをご存知ではなく、そのアルバイトによって出席率が下がっていることももちろんご存知ではありませんでした。おじさんはたいそう驚き、ちょっとがっかりしたような顔もしていました。「俺の息子は頭悪いけど、こいつには期待しているんだ」と何回も言っていました。また、「アルバイトなんかしなくても親がお金を出してくれるのに…」とも。
KCPの学生の中には、あえて親の援助を断って留学しようとする学生がいます。いつまでも親のすねをかじっているのは心苦しいと思っているようです。そう思うこと自体は決して悪いことではありません。日本人の若者に見習わせたい精神です。しかし、経済的に独立しようとしたせいで、自分の留学の目的が果たせなくなってしまったら、本末転倒ですし、ご両親も悲しまれることでしょう。これこそまさに親不孝です。
また、Kさんのように家族だけではなく、親戚中から期待を集めて留学して来た学生もいます。その期待に応えるには、今何をすべきなのか、何が最優先事項なのか、それをよく考えてもらいたいです。そして何よりも、自分自身の青春を無駄遣いしないようにしてほしいのです。
私はアルバイトを全面的に否定するつもりはありませんが、Kさんのように目標達成に悪影響を及ぼすようなことはやめてもらいたいです。Kさんの場合、このままいけば、C大学入学はおろか、出席率不良でビザの延長すらできなくなってしまいかねません。おじさんも、そういうことをかなり強く注意してくださいました。
おじさんからのお叱りと励ましの言葉によって、Kさんは新学期から心を新たに目標に向かってくれることになりました。11月のEJUでの高得点を目指し、心機一転まき直しです。Kさんにとってはおじさんはちょっとうるさい存在なのかもしれませんが、私たち教師にとっては、有望なのになかなか前に進んでくれない学生を軌道修正してくれた頼もしい存在でした。Kさんはおいしいお昼ご飯をごちそうになり、吹っ切れた顔をして学校に戻ってきました。来週の金曜日から新学期です。新しいKさんをみっちり鍛えて、Kさんの夢をかなえさせてあげたいです。
6月30日(木)
今年も半年終わりました。「折り返し点」と言いたいところですが、前半は2月が28日までで、後半は大の月が4回ある関係上、1年のちょうど真ん中は7月2日の正午です。計算上はそうなりますが、気分としては明日から後半戦、気分を新たにいこう、といったです。
今年の前半は、震災と原発事故を抜きには語れません。私たちの生活が原子力発電という砂上の楼閣の上に立っていたことを見せ付けられました。なんとなく、いつでもいつまでもある、確かなものだと思っていたものが、こんなにもろくも崩れてしまったことに、非常に戸惑いを覚えました。「絶対」などということはないのだと、改めて思い知らされました。
でも、同時に、本当に久しぶりに多くの人が同じ目標に向かっているという、淡いながらも一体感・連帯感を感じています。オリンピック誘致ですら半数がそっぽを向いていた東京の人々が、節電に向けて自分たちのできることをやろうとしています。私も、微力ながら、生活や仕事の進め方を見直し、効率よく動くことを前にもまして真剣に考えています。こういったことを起点に、日本という国がもう一度上を向いて伸びていけるのではないかという期待もしています。私たちの努力の積み重ねが、今年の後半によい方向への変化となって表れてきたら、日本も捨てたもんじゃないぞといったところでしょうか。明日からの後半戦、気を引き締めてがっちり取り組みます。
私は4月の入学式で新入生に対して、日本が災害の被害から立ち上がる姿を見て、それを皆さんの財産にしてくださいと言いました。その気持ちは今でも変わりませんが、国の対応のもたつきが反面教師としての財産になりそうな点が残念なところです。
6月29日(水)
ただいま学期休み中ですが、私は今日も日本語教師養成講座の講義をしました。理論コース最後の講義で、今までの総まとめとして、日本語教育や留学生をめぐるもろもろのことを話し、受講生と議論もしました。毎期こういう講義をしているのですが、この講義をするたびに悲しくなります。それは、日本の国や社会が日本語教育や留学生に対して決して優しくはないからです。
留学生30万人計画が打ち出されていますが、これが社会にしっかりと認知されているかといえば、そうは言えません。留学生が日本に対して抱くイメージには「親切」もありますが「冷たい」もあります。日本ではいろいろなことが学べますが、そういうことを学んだ外国人を受け入れる企業は、増えつつあるとはいえ、まだまだです。勉強のかたわらアルバイトができますが、アルバイトをするより奨学金がもらえたほうが勉強に集中できるはずです。
また、日本の国が日本語や日本文化を世界に広げていこうという姿勢が、他の国に比べて弱いように思えてなりません。こういうことにかける予算も人員も少なく、アピールのしかたも上手だとは言えません。震災後の対応にしても、日本の95%以上は安全なのに、海外では日本全体が人の住めないところになってしまったかのごとき報道もあります。
そういった中、日本へ来てくれている学生のみなさんは、本当に日本が好きか、あるいは、日本に自分の人生をかけようとしている人たちでしょう。私たち日本語教師だけでなく、日本人全員が、日本のファンである留学生に手を差し伸べると同時に、感謝もしなければならないと思っています。
6月28日(火)
今日と明日は、多くの3月決算の会社で株主総会が開かれる日です。今日は、今話題の的の東京電力の株主総会がありました。総会は6時間にも及び、原発事故を追及する声も上がったようですが、結局は経営者側の意図したとおりに終わりました。株主から出された原発全廃の提案も、賛成少数で否決されました。
これは当然といえば当然の結果であって、東京電力の株主には原発によって潤っている企業が多く、そういう企業がおいそれと原発停止・廃炉に賛成するわけがありません。もちろん100年後に「あのとき勢いに負けて原発やめてしまったのは大失策だった」とか、「株主の反対を押し切って原発の運転を続けたのは大英断だった」とかいうことになるかもしれません。でも、私はそうなる可能性は低いと思います。
そもそも、原発によって生み出された電気の大部分は、私たちのぜいたくのために使われていたのです。例えば、今日は暑い1日でしたが、私が仕事している職員室はエアコンなしで、団扇をあおぎながら何とか切り抜けました。去年までなら確実にエアコンを入れていたでしょうが、それは、我慢できる暑さを我慢せずに快適さを求めるというぜいたくだったのです。東京では日中の電車が間引かれていますが、それによって混乱が起きたという話は聞きません。間引かれた分の電車は、「待たずに乗れる」というぜいたくのために走っていたのです。
そういう必要以上のぜいたくを戒め、LED電球を始めとする省エネ技術を駆使していけば、原発に頼っていた電力のかなりの部分が何とかなるのではないのでしょうか。ここに知恵を絞ることこそ、私たちがまっ先に取り組むべきことだと思います。災い転じて福となすためには何をすべきなのかを考え、よりよい形で日本を次世代に引き継いでいくことが今を生きる我々の義務だと思います。
6月27日(月)
先週末で期末テスト出そろい、今日からテストの結果が悪かった学生を呼び出しています。惜しいところで合格点に届かなかった学生には、間違ったところを直させ、宿題を出し、何とか上のレベルに進級させます。しかし、どうしようもないくらいにひどい間違え方をしている学生には、次の学期も同じレベルをしてもらわねばなりません。上のレベルへ行けそうな学生は、多少大変な宿題が出されても、根性でやってきます。口が裂けてもできないとは言いません。問題は、もう一度同じレベルだという宣告をしなければならない学生です。
今日呼び出した学生では、Sさんがそういう学生でした。文法が合格点の半分にも満たないのでは、宿題をやらせて次のレベルというわけにはいきません。Sさんと一対一で話してみると、Sさんの話し方は一つ下のレベルが終わった学生と全く同じです。今学期勉強した文法がほとんど身についていないのです。Sさんは授業中もよくしゃべりますから、一見できるように感じられてしまうのです。しかし、話の内容をよく確かめてみると、習った文法や単語を使っているわけではありません。短い文や易しい単語を組み合わせて自分の言いたいことを言っているに過ぎません。そうやって自分の考えや気持ちを相手に伝えられるということは、コミュニケーション能力は決して低くはないのです。
しかし、日本での進学を考えているSさんに求められるのは、抽象概念を正確に伝える能力です。今のSさんのレベルはその土台となる文法を学ぶレベルですが、それができていません。このまま無理に上のレベルに進んでも、そこで学んだことを応用できないでしょう。目標に到達したいなら、急がば回れで、もう一度同じレベルをしたほうがいいです。
進級したいという学生を同じレベルに留めるのは教師にとっても辛いことですが、これが担任教師がすべき最後であり最大の仕事です。幸いにも、Sさんは私の言葉を素直に受け止めてくれました。今、何が足りないのかの説明もきちんと聞いてくれました。あなたはコミュニケーション能力があるんだから、文法をきちんと勉強しなおせば必ず上手に話せるようになる、きっと面接もうまくいく――そう言って、ちょっぴり悲しそうなSさんを励ましました。
6月24日(金)
期末テストが終わってから、理科系の学生の面接をしています。留学試験の結果はまだ出ていませんが、中だるみにならないように、勉強の目標をきちんと定めるようにという意味合いで始めています。
面接した学生たちは、異口同音に物理が難しかったと言っています。問題文が長くて意味を取るのに苦労したようです。途中まで読んで題意を理解するのをあきらめ、適当にマークしたなどという学生もいました。本当に実力のある学生ならそれでも解くのでしょうが、多くの普通の学生には難題だったようです。そんな問題を出して一体どうするつもりなんだ、という気持ちもあります。
学生たちが言う長くて難しい問題が具体的にどんな問題なのかはわかりませんが、これも考えようによっては良問かもしれません。マークシート方式の欠点は、選択肢を見ただけで答えがわかってしまうことがある点です。そこまでいかなくても、答えのパターンが見えてしまう問題があります。私もそういう問題には時間をかけずにマークせよと指導してきました。そういう受験のテクニックが使えず、論理的思考を続けていかねばならないところが良問だと言いたいのです。
ただ、EJUは高校物理のすべてを網羅しようとしているため、必然的に問題数が多くなり、解く立場としては良問にじっくり取り組むわけにはいかないのです。答えを出すのに時間のかかる良問を捨てて、すぐに答えの見当がつく問題を数多くこなすほうが点が稼げる仕組みになっています。
あなたができなかった問題は、きっとほかの学生もできなかったから心配しなくていいよ――そう言って学生を慰める一方で、本当にこれでいいのだろうかと心の隅には割り切れないものが残りました。
6月23日(木)
ゆうべは気温が25度以下に下がらず、今年初めての熱帯夜でした。私も今年初めて窓を開けっ放しで寝ました。外の音がちょっとうるさかったですが、いつの間にか寝入ってしまいました。
私の部屋は窓を開ければ風が通るので、エアコンをかける必要がありません。去年のあのとんでもない夏も、エアコンなしで過ごしました。今年は去年に比べてどのくらいエネルギー消費量が減らせるかが問題になっていますが、私の場合は既に減らしようがないくらいのレベルになっています。あとは冷蔵庫の扉を開ける回数を減らしたり、待機電力を削ったりするくらいしか思いつきません。政府が言っている15%などという節電をするには、明かりを一切つけないとかテレビを全く見ないとかということをしなければなりません。それでも15%には及ばないでしょう。
エアコンなしでも、別に爪に火を点すような生活をしているという感じはしていません。必要ないから使わないんだという感覚です。エアコンをつけて多少の快適さを享受するよりは、その分を別のところに使いたいと思っています。
私は、暇さえあれば、次の休みにどこへ行くかを考えています。もちろん、毎週末遊びに出ては散財しているわけではありませんが、普段の生活で節約に努め、休みに遊びに行った先でパッと使うというのが私の消費パターンです。今は夏休みの秘密プロジェクトを進めています。
節約生活は、どこか気持ちが萎縮するものです。夏休みは、資源の浪費につながらない程度に羽目をはずして、節約疲れにならないようにしたいと思っています。
6月22日(水)
今日は夏至。梅雨のさなかなのに朝から好天で、12時ごろにちょっと外に出て、一年で最も日の高い日差しを浴びてみました。東京での太陽の高度は78.3°になり、この高度では私の影の長さは35cmほどになる計算です。もちろん測りはしませんでしたが、短い影が路面にくっきり映っているのをしっかり確認しました。今日のような日は、太陽光発電は効率的なのでしょうね。
気温もどんどん上がり、最高気温は31.9℃と、今年初めての真夏日となりました。期末テストが終わってひっそりとした学校では、先生方がテストの採点や学生の進路指導や来学期に向けての会議などをしていました。今日までエアコンなしで節電に努めてきましたが、さすがに耐え切れず、お昼過ぎにエアコンを入れました。
東京電力のホームページによると、午後3時から4時は電力供給可能量に対して85%の電力使用量になりました。おそらくこれがピークで、夕方から夜にかけて電力使用量は下がっていくでしょうから、今日は乗り切ったことになります。去年の今日は曇り空で最高気温も3℃ほど低かったのですが、電力使用量は今日のほうが10%ほど少なくなっています。節電もだいぶ板についてきたようです。もちろん、暑さのピークはこれからですから油断はできません。
2012年までに温室効果ガスの排出量を1990年に比べて6%削減するという京都議定書の目標達成が危ぶまれていましたが、この勢いで電気使用量が減らせれば、あるいは何とかなるかもしれません。日本は外圧がないと変わらない国だといわれてきましたが、今回は外国からの圧力ではなく自然災害という圧力で国の体質が変わろうとしています。
6月21日(火)
期末テストのあと、アメリカの大学の留学プログラムでKCPへ来ていた学生たちの修了式がありました。3~9か月のプログラムを終えて、早い学生は明日の昼前の飛行機で帰国します。期末テストの出来はどうだったかわかりませんが、みんな晴れ晴れとした表情で式に参加していました。
AさんとEさんは浴衣を着ていました。特にEさんは自分で着付けまでしたというのですから、立派なものです。帯もきちんと結べていましたから、相当な腕前です。「浴衣は涼しくていいです」と言っていました。今日は30度近くまで気温が上がり、いつもの年なら窓を閉めてエアコンをつけて式を行うところですが、節電のため窓を開けていると、心地よいそよ風が講堂に入ってきました。浴衣にぴったりの風です。Tシャツ短パンよりも浴衣のほうが涼しげに見えるのは、私が日本人だからでしょうか。
先日私と議論を戦わせたCさんも、今日は落ち着いた顔つきで式に出ていました。日本語能力試験(JLPT)のN3の問題集を買い、国へ帰ってからも勉強を続けると言っていました。大学でウェイトリフティングをしていたCさん、日本では練習せずに食べてばかりいたので、今日からダイエットするそうです。式の後の歓談会の時も、飲み物にすら手を出さずにいました。自分で生活のギアチェンジができる学生は、きっと成功すると思います。
今日の修了生たちは、震災後の一番大変なときの日本を見ています。国では相当激しい報道もなされているようですが、学生たちには自分たちの目で見た日本、肌で感じた空気を国に伝えてもらいたいと切に願っています。また、そういう学生を世界に向けて送り出すことが、私たち日本語教師ができる日本復興だと思っています。