KCP地球市民日本語学校校長・金原宏のブログです。
9月27日(金)
Sさんは昨日の期末テストを体調不良で休んだため、今朝追試を受けに来ました。Sさんはできない学生ではありませんが、休み癖が付いてしまっているのが最大の問題点です。学期の後半はその休み癖が遺憾なく(?)発揮され、期末テスト直前は毎日のように未受験のテストを受け、未提出の宿題などを出してきました。それで帳尻を合わせたつもりなのでしょうが、果たしてどうでしょう。昨日の体調不良というのも、テストが受けられないほどのものだったんだろうかっていうのが、Sさんを知る教師の共通の感想です。
朝食から戻ってくると、私の机の上にSさんの答案が置かれていました。早速採点すると、ダメでした。付け焼刃の勉強じゃ本当の力はつかなかったということです。こんなふうに評論するのは簡単ですが、Sさんは進級したいと言うでしょうね。何たって、テストを終えて帰ろうとしているSさんにたまたま会ったら、「先生、次のレベル、よろしく」なんて、すっきりした顔で言ってましたからね。「次のレベルでがんばる人を上げるんじゃない、このレベルでがんばった人を上げるんだ」って、今学期の最初に言ったこと、Sさんは覚えちゃいないでしょうね。
学生は雰囲気でわかればいい、勢いでしゃべっちゃえばいいと思いがちですが、学校としてはそれで全面的にOKというわけにはいきません。どこでも通用する、きちんとした日本語を学生たちに授けるのが私たちの役割だと心得ています。Sさんの日本語だって、コミュニケーションに支障をきたすわけではありません。でも、今のレベルの日本語で満足しては困ります。能力があるだけに、もっと高い目標を持ってもらいたいのです。そのための土台作りをしているのですが、Sさんにはそれが通じていないのかもしれません。
来週はどの教師もそういう学生を相手に悪戦苦闘することでしょう…。
9月26日(木)
梅雨明け直後の猛暑日で始まった今学期ですが、お彼岸過ぎの長袖が似合う気候となり、期末テストを迎えました。気のせいかもしれませんが、今週に入ってから通勤電車内のスーツ姿がぐっと増えたように映ります。今日試験監督に入ったクラスでも、カーディガンや薄手のジャケットを着ている学生が目立ちました。
秋になったということは、受験シーズンになったということでもあります。合格の知らせがちらほら聞こえてくるのと同時に、出願書類不備の連絡も来ます。Tさんもそんな1人で、どうやら教師の最終チェックを受けずに書類を送ってしまったようです。教師が目を通したら絶対見逃さないようなミスを犯しています。
出願書類なんていうものは、普通の人はめったにお目にかかりません。だから、誰もが不慣れで、募集要項などを見ながら不安に駆られつつも勇気を出して記入していきます。しかも、大学によって様式がちょっとずつ違いますから、出願しようと思うたびに緊張を強いられます。しかも、学生たちにとっては異国の言葉で書かれた説明書を参考にしながら書き上げていくのですから、かなりのプレッシャーもあるでしょうし、思い込みや国での常識が思わぬ落とし穴になることもまれではありません。だから出願書類の様式を統一せよ、なんてことは言いません。でも、書きやすい願書っていうのはあるんじゃないかと思います。
ユーザーフレンドリーならぬアプリカントフレンドリーな出願方式を、大学にはぜひ編み出してもらいたいです。日本人教師でさえ一読しただけではわからないような説明じゃ、留学生は呼び込めません。出願のところにおかしな壁をこしらえて、何をしようというのでしょう。
明日から学生は休みですが、私たちは出願のお手伝いや面接練習など、学生をサポートしていく仕事を山ほどこなしていくことになるでしょう。
9月25日(水)
明日が期末テストなので、今日が授業の最終日。上級クラスは発表会。ゲストということで、2クラスを見学させてもらいました。
「幸せ」という非常に大きな題材での発表でしたが、自分たちの意見を上手にまとめていました。こういうテーマには抽象思考が必須であり、発表の際にはその抽象的は思考の結果をわかりやすい言葉に置き換えなければなりません。それが、よくできていました。もちろん、文法や単語の使い方に間違いがありましたが、それを補って余りある発表内容でした。
中級では、日本語でここまでの抽象思考はできません。中級から上級にかけて、抽象思考に耐えうる文法や単語を身に付け、それを駆使するまでになったのです。今学期は中級クラスを担当しているだけに、上級クラスの考えの深さに感心させられました。
質疑応答も厳しいところを突く質問が出てきたり、それに正面から答えたり、スルリとかわしたりと、論戦を聞いているだけで楽しめました。議論がきちんとかみ合っているところが大したものだと思いました。丁々発止というところまではいきませんでしたが、談論風発の萌芽を感じさせるやりとりもありました。学生たちは自分自身で気づかないかもしれませんが、中級から上級へと確実に伸びています。先学期私のクラスだった学生たちもいましたが、こんなことができるようになったのかとうれしくなりました。
KCPでは、各レベルで発話をするタスクがあります。中級あたりからでも積み上げてくれば、上級でかなりの高みに立てます。今日の学生たちも、この勢いでこれからも伸びて行ってくれると、学問でもビジネスでも、一流の仕事が残せるんじゃないかと思います。まさに、日本語を使って何かをするという、私たちが目指すところのものに到達します。
9月24日(火)
JR北海道が大変なことになっています。特急列車が火を噴いたり、貨物列車が脱線したり、機関車の運転士が自分のミスをごまかすためにハンマーで安全装置を壊したりで、国土交通省からも目をつけられています。事故を起こしたことも大変なことですが、事故の原因がいけませんね。
機関車の運転士の行為は、問題外です。だから、あえて論じようとは思いません(論じる気もしません)。特急列車と脱線は、メインテナンスが不十分だったから発生した事故です。鉄道は、地べたに鉄のレールを敷けばそれでいいというものではありません。2本のレールの間隔や高さなど、軌道を厳密に管理し続けなければなりません。ハイテク機器が搭載された車両は、常に最高の状態に保たないと性能を発揮できないばかりか、今回のように事故すら引き起こします。発展途上国には、軌道の管理ができないためにまったく用を成さない鉄道がいたるところに見られます。日本で活躍していた電車などが発展途上国に贈られると、あっという間に廃車同然になってしまうこともよくあるそうです。現状のJR北海道は、こういう鉄道と大差がありません。
高速鉄道を保有するというのは、先進国のしるしです。技術だけでなく、その高レベルの技術を使い続ける環境を整えるという、ソフト面にも高度な水準が求められます。日本の鉄道は疑いなく最先進国のレベルだと思っていましたが、必ずしもそうとは言い切れないということが、JR北海道の事故連発でわかりました。これが目立たぬ形で日本全体に蔓延しているのではないかと、おそれを抱いています。本当にJR北海道固有の事情なのでしょうか。他にも先人が築いてきた高度なシステムの維持が難しくなっているものがないと断言できるでしょうか。
経済規模が中国に抜かれたからといって悲観する必要はないと思いますが、高度なシステムが維持できずに先進国の地位から滑り落ちていくのは、あまりにも悲しいです。ここらで気合を入れないと、日本の将来はお先真っ暗になりかねません。
9月20日(金)
学期末が近づいてくると、次の学期に、余裕で進級できる学生、進級しようと思ってがんばる学生、進級をあきらめて勉強しなくなる学生、進級は何とかなるだろうと考えて何もしない学生というふうに分かれてきます。
余裕で進級できる学生は、油断させないように、進級よりも1ランク高い目標を与えるようにします。こちらが与えなくても自分でそういう目標設定ができる学生も多いです。
進級しようと思ってがんばる学生には、こちらも手を貸し、引っ張り上げようと思います。こういう学生は、多くの場合、進級に結びつきます。ただし、進級してからさらに伸びていけるかどうかは別問題ですが。
進級をあきらめてしまった学生は、ただ漫然と同じレベルを繰り返しても力は付かないということをわからせておく必要があります。何がわからないのか、何を勉強すればいいのか、そういう頭の整理をさせて、次の学期につなげていくよう指導することが肝心です。
一番問題なのが、何とかなるだろう組です。期末テストの結果が無残でも、それを受け入れようとしません。なんだかんだと言い訳したり、「同じレベルだったら学校へ来ません」とすねてみたり、親に合わせる顔がないと泣き落としにかかったり、厄介なことこの上ありません。楽観的見方が当たって合格点が取れても、次の学期が苦しくなります。勉強しなくても力は自然に伸びるっていう変な自信を持ちかねません。
今日の私のクラスでは、Tさんは大丈夫だろうと思っていても油断なく身構えている学生、KさんとVさんは危ないと思って勉強している学生、Yさん、Sさんは白旗を揚げつつある学生、Cさん、Uさんあたりが期末テスト後に一悶着起こしそうな嫌な予感がする学生です。そのCさん、Uさんを指導しようと思っていましたが、2人とも休みやがったからねえ。嫌な予感がますます募ります。
がんばっているKさん、Vさん、Tさんなんかの答案や例文を見て、心の慰めにします。
9月19日(木)
中級のクラスでは、毎日あんまり長くない文章を、声を出して読む練習をしています。文章にはイントネーションの高低記号が付いていますから、学生たちはそれに従って読むのです。今日もいつものように、まず、私の後についてクラス全体で読ませました。今までは、その時点で変なイントネーションで読む学生がたくさんいて、何回も練習させましたが、今日は直すところがほとんどありませんでした。私の後をリピートさせるのではなく、学生たちだけで読ませても、イントネーションが崩れることはありませんでした。1学期の間にずいぶん進歩したなと思いました。
でも、イントネーション記号を見ないでとなると、やっぱり崩れるものです。イントネーション記号の付いていない読解のテキストや文法の例文などを読ませると、外国人っぽいイントネーションになってしまいます。イントネーションに気をつけていることはよくわかりますが、完璧にはまだまだという段階です。耳から入った音を文字に変換して理解しようとしているからでしょうかね。
以前、韓国語を勉強したとき、音からハングルを連想することができず、ひたすら音のみを追いかけ、自分が聞いた音を忠実に再現しようとしました。そのときに覚えた文を韓国人学生に言うと、「先生、韓国語が上手ですね」と言ってくれます(もちろん、半分はお世辞でしょうが)。学生にはこれができるようになってもらいたいのです。まあ、私の場合は、音を再現しているだけですから、自分が言った文の単語を別のに置き換えて新しい文を作り出すことはできませんから、韓国語が話せるうちには全く入りませんが…。
中級ともなると、無心に聞いて無心にそれをそのまま口に出すということをしなくなります。しかし、中級だからこそ、そういう練習によって得るものも大きいと思います。変な発音の癖が付かないようにするには、これが一番いいのです。
9月18日(水)
今朝は最低気温が19.2度と、6月28日以来の20度割れとなりました。半袖で外に出るとちょっとヒヤンとしましたが、肌にまとわり付くような熱気が消えて、私は毛穴が引き締まるような気持ちのよさを感じました。しかし、東京郊外にお住まいのN先生によると、朝は肌寒かったそうです。ジャケットを羽織ろうかというくらいだったとおっしゃっていました。週末にかけて最高気温は30度近くまで上がるようですが、最低気温は20度ぎりぎりのようです。もう、誰がどこから見ても秋ですね。明日は中秋の名月です。
今日は日中の湿度が30%台で推移し、抜けるような青空とあいまって、本当に好日でした。こういう日がバス旅行や運動会だったらよかったのにと思いました。ちなみに運動会は10月31日、新学期が始まったらすぐに準備に取り掛からなければなりません。
Gさんはあさってが面接試験で、こんないいお天気でもひたすら面接の想定問答をあれこれ考えていました。受験講座終了後、私がちょっと相手をしました。実は先週の土曜日に1回目の面接練習をしたときはボロボロでした。今日は、いつの間にか、面接練習というよりはGさんの不安な心境をひたすら聞く時間になってしまいました。無理かなと思っていた1次試験に通り、無欲の戦いではなくなったところに、本人も気づいていないGさんの悩みの根源があります。
開け放たれた教室の窓から秋の夜の冷気が忍び込んでくるまで話をしたら、「小学校から今まで、こんなに長い時間先生と話したのは初めてです」と言われました。これから秋が深まり、冬を迎え、と季節が移ろいゆくにつれて、Gさんのような学生の相手をする機会も増えていきます。
9月17日(火)
今日の中級の作文は、「何でも消せる消しゴムがあったら」という題で書いてもらいました。実は、これは、初級でも書いている題です。一度書いてから半年あまり、自分の書く力がどれだけ進歩したか、あるいはほとんど進歩していないか、それを実感してもらおうと思いました。
死、病気、戦争、といった人類共通の苦難から、元彼女、恥ずかしい記憶、といった個人的なものまで、いろいろな答えが返ってきました。どれもこれも納得させられる内容です。しかるべき論拠に基づいて書かれています。残念ながら文法的な間違いや誤字脱字などはありますが…。
もし、私が何でも消せる消しゴムを手に入れたら、過去の記憶を消そうとは思いませんね。私のような年寄りになると、嫌なことはみんな記憶の彼方に飛び去って、きれいな思い出しか残っていません。いろいろあったけど、あの時はよくがんばったね、懐かしいねってことになってしまいます。思い出が美化されるというやつです。
その代わり、将来の心配を消したいですね。あと5年は持つだろうけど、10年後も今と同じように仕事ができるだろうか、仕事をやめたら年金がきちんともらえるだろうか、日本の国力が衰えてどうしようもない国になってしまうのではないだろうか、心配の種は全く尽きません。そういったものをすべて消し去ってしまえたら、どんなにすっきりするでしょう。
学生たちは、これからの世界を自分の手で作っていけます。自分で自分の将来を切り開くためにKCPに留学しているわけでもあります。それに対して、私はそういう要素が非常に少ないです。ゼロではありませんが、流れに身を任せるしかない部分が日増しに大きくなっていきます。
思い出が美化されるほど熟成していない学生たちは過去を消したがり、先が見えているからこそ必ずしも明るくない将来を消したがる年寄り…という図式が描けると思います。でも、読んでいて心強く感じたのは、そんな消しゴムは要らないという作文です。真っ向から勝負しようという意気込みに拍手を送りたいです。
9月13日(金)
週末から敬老の日にかけて、台風が来そうです。関東地方に近づく頃で980hPa、最大瞬間風速で40m/sぐらいですから、めちゃくちゃ強い台風というわけではありませんが、東京は15・16日は雨の予報が出ています。この2日間、外出を予定していますが、どうなることでしょうか。夏休みの九州旅行でも台風崩れの低気圧の影響を受け、予定変更を余儀なくされました。今年は台風に縁があるみたいです。
九州旅行では、山の中を走る観光列車に乗ろうと予定していた日に雨が強まり、その観光列車が運休になってしまいました。始発駅まで出向いて初めて運休を知らされちょっとムカッとしました。でも、海岸回りの新幹線に乗ればむしろ予定よりも早く目的地に着くことがわかりましたから、これもまた気ままな旅の醍醐味と割り切り、クッションのいい新幹線のシートを楽しみました。また、博多近郊を走っていた電車が博多駅付近が大雨のため止まってしまい、博多駅までの数キロを走るのに2時間近くかかりました。JR九州の電車は普通列車でも結構座り心地がよく、先を急ぐ旅でもなかったので、これまたのんびり本を読んで過ごしました。山手線のシートだったら、腰が痛くなってしまったことでしょう。
でも、考えようによっては、連休のうちに台風に通過してもらえば、授業日に電車が止まったり遅れたりということがありません。また、雨と風で学校へたどり着くまでにびしょぬれということもありません。連休はうちでおとなしくしていろというサインなのでしょう。嵐が過ぎ去るのをじっと待つことにします。
9月12日(木)
Cさんが、S大学の出願に推薦書が必要だから書いてくれと、書類を持ってきました。受け取ってよく見てみると、推薦書というよりは調査書に近いものです。「特技や素質」なんていう項目までありますから、面倒くさいなと思いつつ、Cさんをもう一度呼び出してインタビューしました。
いろいろ話を聞いてみると、Cさんは小さい頃からスポーツに親しみ、今でもスポーツは大好きで、新しいスポーツに取り組むこともあるとか。教室の中のCさんを見ただけでは想像もつきませんでしたが、来学期行われる運動会の有望選手になりそうです。リレーはほぼ決まりでしょう。また、Cさんは授業後に教室の机をきちんと並べ直すのをよく手伝ってくれます。それはスポーツをやってきたおかげで体を動かすことに抵抗を感じないからではないかと思いました。
S大学を選んだ理由も、オーソドックスな経営学よりも、国際関係学にも軸足を置いた勉強ができるからだということがわかりました。EJUの成績だけで決めたのではないということが、よく理解できました。
こういったことは、出願して、入試の面接が近づき、面接練習を始めたあたりで多少わかってくるというのが常でした。しかし、今回は、推薦書のおかげで、志願者本人にじっくり話を聞くチャンスがもらえました。Cさんの意外な一面も知ることができたし、Cさんとの距離が一気に縮まったような気がしました。裏を返せば、クラスの他の学生については、私はCさんほどにはよく知らないということです。学生側から見れば、「先生は何もわかっていない」ということになっているのかもしれません。そこまで考えると、なんだか恐ろしいものがあります。
推薦書は何とか仕上がりました。Cさんについて深く知った上で、自信を持って書けました。もしかすると、S大学の狙いはこういうところにあるのかもしれません。少子化が進み、大学の生き残り戦略はより一層真剣なものとなってきています。きちんと人を選ぼうとしているS大学に、好感が持てました。といっても、すべての大学からここまでの推薦書を要求されたら、気が狂ってしまいそうですが…。
9月11日(水)
朝9:15ごろ、用事があって学校の近くを歩いていたら、OさんとKさんが歩いているのを見かけました。2人はルームメートで、毎日一緒に登校します。仲がいいのはいいのですが、9時に授業が始まっているのに走って学校まで行こうというのではなく、ふざけあいながら道を歩いていました。OさんもKさんも受験生ですが、この気分のたるみようはどうでしょう。私の姿を見つけた2人は慌てて走り出しましたが、数十メートルでやめてしまい、校舎の前で早足の私に追いつかれる始末です。こいつらにはしばらく合格の目はないなと思いました。
今日はW大学の合格発表がありました。Oさん、Kさんと同じクラスのSさんが合格しました。Sさんも遅刻してくることはありますが、やるべきことはそれなりにきちんとやっています。「私のクラスで目標を持って勉強しているのはSさんとGさんだけだ」と、やはり緻密に勉強しているYさんが言っていました。ライバルはライバルを見る目を持っているんですね。
昨日はT大学の指定校推薦の校内面接がありました。通ったのはNさんとHさんですが、面接をなさった先生方のお話によると、KCPの中での面接ならいいことにしてやれるけど、このままではT大学での面接は苦しいだろうとのことでした。書類とともに、そういうコメントも伝えました。本番までの1か月余り、バリバリ鍛えていかねばなりません。でも、NさんとHさんなら厳しい訓練にも耐えられるだろうと思います。だからこそ選ばれたという側面もあります。また、ここで鍛えられて大学レベルの日本語話者に成長するというのも、毎年繰り返されるイベントです。
さて、OさんとKさんはいつになったら目覚めてくれるのでしょう。口では大きなことを言っていますが、中身が全く伴っていません。この2人に自覚を持たせるのは、NさんやHさんを鍛えるよりはるかに難しいです。でも、火事場の馬鹿力でも何でも発揮させて進学させるのが私たちの仕事ですからね、辛いものがあります。
9月10日(火)
専門学校、大学、大学院の進学ガイダンスが行われました。今年は仮校舎なので、学校の近くのビルに会場を設けて、遠くは大阪からも来ていただきました。今まではエレベーターで上がるだけで会場でしたが、今年は外に出て数分歩かなければなりません。だから、参加者が極端に減るのではないかと心配していました。しかし、暑さがさほどではなかったことも幸いして、開場時刻には受付台が埋まるほどの学生が集まりました。
最初に並んでいたのは受験講座を控えていた学生たちで、お目当ての学校の話を聞き終えると、すぐに受験講座の教室へと向かいました。その後、お昼をゆっくり食べたグループが来て、時間をかけていろんな学校の話を聞いているようでした。Gさんなんかは、会場に来ていたすべての学校のブースに顔を出したんじゃないでしょうか。
T先生、M先生なんかは、クラスの学生を引き連れて来てくれました。ちょっとでも進学って考えている学生に、こういうチャンスを利用して、1日でも早く決断してもらおうという考えです。受験は先手必勝ですから、この時期にこういうイベントは欠かせません。中には物見遊山的な気分の学生や、友達に付き合ってなんていう学生もいたでしょう。でも、こうしたイベントに参加することは自分の視野を広げることにもなります。何か天啓が得られるかもしれません。これが人生のターニングポイントにならないとも限りません。せっかく留学しているのですから、国の親元にいたら経験できないようなことにどんどん首を突っ込むのも一興です。
進学ガイダンスは、予定通りに無事終わりました。今日のガイダンスで進学先が明確にできた学生がどれほどいたかわかりませんが、入試とか進学とかがすぐそこまで来てることは、感じ取ってもらえたんじゃないでしょうか。
9月9日(月)
2020年のオリンピック開催地が東京に決まりました。東京は、3つの候補地のうち一番開催支持率が低いと報じられていましたが、昨日のテレビニュースを見ると、みんな大歓迎みたいなはしゃぎようでした。ご祝儀相場なのでしょう、今日の日経平均は350円近く上がりました。こちらはたまたま発表のタイミングが合っただけでしょうが、4~6月期のGDPは年率換算3.8%増となりました。この調子で日本に明るさが戻ってくればいいのですがね。
安倍首相が原発の汚染水について大見得を切ってしまったことは、これからの日本にとって重荷になるかもしれませんが、同時に国際公約をしたことにもなりますから、後から振り返れば大きな前進だったと評価されるかもしれません。いや、そうなることを切に願います。オリンピック誘致のダシに使われただけだったなんて、絶対に許されることではありません。
さて、こんな大ニュースがあったにもかかわらず、今日は新聞休刊日で、一部の駅売りスポーツ紙を除いて、朝刊がありませんでした。各紙とも街中で号外を配ったと聞いたので、もしかすると号外が配達されているかもしれないと思って、今朝、ポストをのぞいてみましたが、残念ながら空っぽでした。浮世のしがらみで、一度決めてしまった休刊日は、ずれすことはできなかったんでしょうね。このことについて、新聞記者さんたちはどう考えているのか、知りたいところです。新聞各社は電子版も発行しているから、記者からするとあんまり変わんないのかもしれません。
7年後のオリンピック、開会式が7月24日で、閉会式は8月9日だそうです。暑い盛りですね。今ぐらいの時期のほうが、残暑も収まっていい時期なんじゃないかと思うんですが、別の思惑があるんでしょうか。
東京がオリンピック開催地に選ばれるのは、これが3度目です。1度目は1940年で、これは第二次世界大戦の影響で中止(返上)となりました。2度目は1964年で、私は代々木のオリンピック体育館の屋根の形が怖いと言って泣き叫んだ記憶が、かすかにあります。そして、今回です。間違っても2度目の返上なんてことのないように、世界平和を守り、原発事故からの復旧を1日でも早く成し遂げてもらいたいです。
9月6日(金)
宮崎駿監督が、正式に引退表明をしました。まだ72歳、早すぎる引退という声が大きいです。夏休み明けにそういう話が報道されて以来、学生たちも引退を惜しんでいます。でも、72歳といえば、司馬遼太郎が亡くなった年です。監督ご自身にとっては、決して早すぎるという年齢ではないのかもしれません。
引退の辞の中で、作品と作品の間隔がだんだん開いてきた、「風立ちぬ」の次の作品までに自分の持ち時間がなくなってしまうかもしれない、だけどやってみたいことはたくさんある、というあたりは、私にもよくわかります。私もいつの間にか、自分の残り時間を計算するようになりました。
もう40年近く前、祖父が亡くなったときに、お寺のお坊さんが「人間、40までは生を生きるものだ。しかし、40を過ぎたら死を生きるようになる」と言っていました。まだ高校生だった私には、その言葉の意味が実感できませんでした。20年ほど前、父が亡くなったときに、まだ30代前半でしたが、「死を生きる」という意味が多少は理解できるようになった気がしました。
宮崎監督は、明らかに死を生きています。死を意識しつつ、自分の生をいかに充実させるか、次世代に何を引き継ぐか、そして、自分のやりたいことにどのように手をつけていくか、そういうことを考えています。そして、それにある程度の道筋をつけ、今日の引退会見に至ったのでしょう。
私も、日本語を教える以外に、体の自由が利くうちにやっておきたいことが山ほどあります。しかし、私の場合は、日本語教師を辞めたらとたんに困窮状態に陥ってしまいかねないという、非常に大きな制約があります。宮崎監督のように、余力を残して引退ということができるかどうか、不安を禁じえません。宮崎監督と私とでは、比べるのもおこがましいくらい人間のスケールが違いますが、引退の辞は妙に私の心に響きました。
9月5日(木)
朝、かなり強い雨が降りました。水煙で外が白く見えるほどでした。中野・杉並あたりもかなりひどかったようで、学生から「雨が強くて外に出られないので遅刻する」という電話が何本かかかってきました。教師も、今は校舎が分かれているため、最悪のタイミングで雨が強まると、わずか数百メートルの間とはいえ、ずぶぬれになるおそれがありました。幸いにも、9時ごろは雨脚が少し弱まり、傘を使えばぬれずにすみました。
しかし、教室のドアを開けると学生が数えるほどしか来ていないではありませんか。「雨だから休む」という電話やメールにブチ切れていた先生もいらっしゃいましたが、本当にそうですよね。竜巻が襲ってきたのならともかく、今朝は風は弱かったですから、多少無理すれば十分学校へこられました。それなのに気安く休んでしまうあたりに、学生の根性のなさを感じてしまいます。
雨の中を出てきて、授業前に面接をしたLさんにしてもそうです。来年3月までKCPで勉強するつもりだといいますが、勉強の目的が明確ではありません。何か目標があって、それに向かって努力していこうという気概が感じられません。なんとなく学校に出て、なんとなくアルバイトして、なんとなく日本にいる――Lさんの話を聞いていると、そんな生活を送っているような気がしてなりませんでした。Lさんは、今週の月曜日はまだ夏休みだと思っていたという理由で欠席しています。腹が立つより、情けなくなってきます。
教師としては、腹を立てるより先にそういう学生のやる気を引き出さなければならないのでしょうが、これは難しい話です。今朝もLさんと30分近く話しましたが、Lさんの心を動かすには至りませんでした。神様じゃあるまいし、天啓を与えるなんてそう簡単にできるもんじゃないよと、もう一人の私がひねくれて嘯いています…。
9月4日(水)
9時過ぎに地震がありました。私は職員室で仕事をしていましたが、だいぶ揺れた感じがしました。交差点の信号機も揺れるほどの地震は、久しぶりです。長く味わっていなかった緊迫感が心を包みました。でも、外に出ていたS先生やO先生は揺れを感じなかったと言っていましたから、そんなに大きな地震ではありませんでした。
その頃、教室では大騒ぎだったようです。「先生、地震」と叫ぶや否や、机の下に隠れた学生がかなりいたとか。上のほうの階では、教師が机の下に身を隠すよう指示したところもあったようです。しかし、地震はすぐに収まり、私は仕事の続きに取り掛かりました。
私が感心したのは、地震と同時に自分から机の下に入った学生がいたことです。今学期は忙しさにかまけてまだ避難訓練を実施していませんが、今までの訓練の成果が、実地に現れたのです。最近が竜巻が耳目を引き付けていますが、地震も油断していてはいけません。
この地震の直後、気象庁のホームページに閲覧者が殺到し、アクセスしにくくなりました。私もアクセスしようとした1人ですが、クリックしてもなかなか反応しなかったため、あきらめてしまいました。地震のほかに、台風が鹿児島県に上陸しましたから、こういう事態に陥ったとのことです。
改めて、日本は災害が多い国だと思いました。先週の九州旅行のとき、特急の車窓から錦江湾越しに桜島がくっきり見えてくると、桜島は浅間山、阿蘇山、三原山とともに日本の四大火山と呼ばれているという観光案内が入りました。この4つの山は、そのまま世界のベスト(ワースト?)10の火山になってもおかしくないと思いました。私がのんびり九州旅行をしている最中に、日本海側の地方は大雨で大変なことになっていました。私が九州を脱してからは、九州全土が水浸しになっているようです。
こうした災害にめげることなく立ち上がり続けてきた私たちの祖先は偉大だと思います。その偉大な知恵を次代に継ぎ、世界に広めていくことも、私たちに課せられた重要な任務です。
9月3日(火)
授業の後、Zさんの進学相談。ZさんはR大学を第一志望にしていましたが、先日のオープンキャンパスに行って、その気持ちをなお一層強くしたそうです。どうしてもR大学に入りたいという気持ちは大事にしてもらいたいですが、Zさんはそれが高じてR大学に入れると思ってしまっているところが問題です。
ZさんにとってR大学はお手軽な目標ではありません。6月のEJUの成績から見ても、見上げるような目標です。しかし、Zさんは楽観主義に陥っていて、11月のEJUでは成績を伸ばして、R大学の合格ラインに手が届くと勝手に思い込んでいます。もう9月ですから、6月の成績ではR大学は無理だという現実をしっかり見つめて、R大学のほかに滑り止めを選ばなければなりません。しかし、Zさんはそれをしようとしません。それどころか、R大学には入れれば学部は問わないと言い出す始末です。
どのように話を持っていってもR大学しか考えようとしないので、R大学の話はせずに、半強制的にR大学以外の大学に目を向けさせ、4つほど大学を紹介しました。勉強したいことが決まっているのではなく、勉強したい大学だけが決まっている状態でしたから、大学を選ぶにしても一苦労でした。しかたがないので、ZさんのEJUの持ち点を頼りにピックアップしました。本当はこういう大学の選び方をしちゃいけないんですがね。
最終的には、しぶしぶですが、その4つの大学を書いたメモを受け取り、自分でも調べてみると約束して帰りました。行きたい大学を明確に持つことは受験をする上でぜひとも必要ですが、それに凝り固まっていては逆効果です。Zさんに紹介した4つの大学の願書をこっそり取り寄せておくことぐらいはしておかなきゃいけないかもしれません。
9月2日(月)
ここ数年、夏休みは四国へ行っていたのですが、今年は九州へ行ってきました。先週の土曜日から昨日まで、夏休みの期間をフルに使って九州中を回りました。長崎や宮崎なんて、就職して以来1回も足を踏み入れていませんでしたからね、本当に久しぶりでした。
旅行中、九州地方は台風やら前線やらの影響で、雨がよく降りました。その雨で徐行運転を余儀なくされ、やや遅れ気味の電車の中でのことです。電車が遅れると車掌がお詫びのアナウンスをすることは、東京でもどこでもあります。しかし、私が乗った電車は異常でした。「本日は大雨による運転規制により、お客様にはご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。電車が遅れましたことをお詫び申し上げます」というアナウンスを、しつこいくらい繰り返すのです。電車がちょっとでも速度を緩めると、必ずこのアナウンスが入りました。少なくとも、後半の「電車が遅れましたことを…」は不要でしょう。そんなに何度も何度もお詫びを申し上げられたって、うれしくもなんともありません。
鉄橋の下には、濁流渦巻き岸が見えなくなっている大河がありました。小さな川は、コンクリートの擁壁が見えなくなるほどの水位です。尋常ではないことは明らかでした。でも、こういうアナウンスを入れるのは、謝らないと苦情を入れる“モンスター・パッセンジャー”がいるからでしょうかね。電車が動いているだけで感謝している私など、大甘のあまちゃんなのでしょう、そういう人から見れば。2回目以降は、このアナウンスを聞くたびに耳をふさぎたくなったことだけは確かです。
場面は変わって、博多駅。構内の旅行会社の店頭で、拡声器を使って社員が呼び込みをしています。ちょっと日本人とは違う発音が耳に入ってきたので、思わず足を止めて聞き入ってしまいました。商売柄、こういうのには敏感ですし、聞かずにはいられません。韓国人っぽいなと見当をつけて胸に目をやると、「実習中」というカードが邪魔して名札は確認できませんでした。そんなことをしていたら、その人、英語で同じ内容をしゃべりだし、さらに韓国語、中国語でもアナウンスしていました。つまり、1人で4つの言葉で呼び込みをしていたのです。実際に窓口に外国人が来れば、この人1人でほとんどすべてのお客さんの対応をするんだろうなと思いました。
博多は東京などからは想像もつかないくらい、韓国や中国が近いところです。博多駅の屋上の展望台に、どちらの方角にどんな都市があるかを示した案内板がありました。そこにはソウル、釜山、平壌、北京、上海、大連という都市は書かれていましたが、日本は大阪までで、琵琶湖すら載っていませんでした。東京は日本の中心ではありますが、アジアに踏み出す都市ではないと思いました。KCPの卒業生が真に力が発揮できる場は、こういう街なのかもしれません。
謝ってばかりのおどおどしている日本人の車掌さんと、4つの言葉を自由に操り堂々と仕事をしている外国人の新入社員。これが国民のバイタリティーの違いだとは思いたくないんですが…。
8月23日(金)
いやあ、やられました。受験講座が終わって、本館に向かおうとすると、黒い雲が空を覆っていました。足早に歩き始めると、ぽつぽつときちゃいました。足をさらに速めて前を歩いていたKさんに追いついたところで、ドバーッと降り始めました。Kさんは傘を持っていましたが、傘なんかぜんぜん役に立ちませんでした。靴も靴下もないも同然で、ズボンはお漏らしなんていうもんじゃありませんでした。Kさんの傘のおかげでかろうじて頭がぬれなかった分だけ、シャワーとは違ったという感じでした。M先生が、バーベキューのときに使ったウェスの余りを出してくださったので、それで全身を拭き、一息つきました。それが、3時5分か10分の頃。しかし、3時半には雨は小止みになり、もう少し経ったら日も差してきました。まさに通り雨でした。
私はいつも通勤かばんの中に折り畳み傘を入れているのですが、受験講座の教室まで行くときにはそれを持ち出しませんでした。傘を持ち歩かず、退勤時に急な雨が降り出してそれを恨めしく眺めている先生方を、心の中で笑っていたのに、今日は見事に敵を取られました。滝行でもしたかのようなぬれねずみで職員室にたどり着いたのですから、他人の不幸を笑っていた罰が当たったのでしょう。
今が大丈夫だからこれからも大丈夫だろうっていう油断がありましたね。大気の状態が不安定と言われていたのですから、用心するに越したことはなかったのです。一瞬のすきが事故(?)を招いたといってもいいでしょう。M先生が出してくださったウェスのおかげで風邪は引かないですみそうですが、ズボンの折り目はすっかり消えてしまいました。
明日から夏休みです。すきを見せないよう、心して過ごしたいです。
8月22日(木)
ニュースによると、ダイエーが27日付でイオンの子会社になるそうです。ダイエーはかつてスーパーどころか日本の小売業界最大手でした。一方のイオンはかつてのニチイでありジャスコです。私の若い頃の感覚では、どうひいき目に見てもニチイやジャスコはダイエーより格下でした。そういう感覚が残っていますから、頭でわかっていても、今回のニュースはカエルがヘビを飲み込んだような気がしてなりません。
盛者必衰といいますが、ダイエーが同業者の傘下に入るなんて、80年代ぐらいには想像もつきませんでした。海外資本に助けてもらったシャープも、亀山モデルなんてもてはやされた頃はついこの前のことです。これとは逆に、楽天なんて私が就活していた頃には影も形もありませんでした(当たり前ですよね、創業者の三木谷さんは私より年下なんですから)。それが今は、楽天に就職したいからという理由でKCPに入学する学生もいるほどです。
その点、大学のランキングって、わりと保守的なような気がします。大学の数は増えましたが、いわゆる一流校のメンバーはあまり変わってはいません。それぞれの大学が、自分のところをレベルアップさせる努力を怠っているわけではありませんが、それが実っているのはほんの一握りだと思います。受験生やその親のブランドイメージがかなり強固なものなのでしょうね。
留学生はもうちょっと柔軟なのかと思えば、これが下手すると日本人より固定的なのです。でも、それだけに掘り出し物の大学にあたったときの喜びは大きいようです。こちらもそういう学生を1人でも増やしたいので、学生とは別の角度からの大学研究は怠るわけにはいきません。
私の家の近くにもダイエー系列のスーパーがありますが、ダイエーがイオンの子会社になっても、最初のうちはトップバリュブランドの商品が増える程度でしょう。でも、そのうちに商品の陳列方法など、店の雰囲気ががラット変わる要素を秘めています。そのスーパーの近くには、最近大学が移転してきました。移転を機に一皮むけるかなと期待していましたが、今のところそんな様子は見られません。今年は2年目ですが、今変わらないとなると、ずっと変わらないんだろうなって思っています。